平成15年12月


12月31日(水)

●2003年も残すところ、きょう一日。多くのサラリーマンがそうであるように、既に年末年始の休みに入って年越しを迎えるだけという人もいれば、商売が忙しくて、ホッとしたら新しい年という人もいよう。だが、時はそれぞれの事情に関係なく移り過ぎる▼悲喜こもごもの1年が幕を閉じるまで、あと十数時間…。明暗入り乱れ、実に様々なことがあった。道内でも、国内でも、さらには世界でも。先行きの見えないイラク問題や多発する凶悪事件など「混迷の時代を象徴するような年だった」と総括できようか▼その点、函館・道南は比較的平穏に推移した年だったと言えるかもしれない。そんなことはない。反論が返ってきそうだが、確かに景況は相変わらずで、消費も、雇用も悪いまま。西武は閉店し、米は不作など暗い話も少なくなかったが、重大な事件事故がなかっただけでも▼その一方で、陸の玄関口・JR函館駅が生まれ変わり、さらには函館空港の改築も計画通り進行中。春の統一地方選に続いて秋の総選挙、そう選挙の年でもあった。市町村合併への取り組みも幾つか具体化に向かい、四季の杜公園オープン、函館貿易センターの設立も…▼1年の間には良いこともあれば、悪いことも。大晦日は“私の1年”“我が家の1年”を振り返る日でもある。その際、誰しもに共通してこみ上げてくるのは「来年は明るい話題に満ちた年であってほしい」という思い。来年のきょう、「いい年だった」と振り返ることが出来るよう期待して、今年のこの欄を閉じることにする。(A)


12月30日(火)

●『経済』という名のトンネルは実に長い。「もうそろそろ」と思わせ続けて何年になるだろうか。函館・道南も然りだが、北海道は未だ出口の明かりが視界に入ってこない。「今年こそは」の思いは「来年こそは」の言葉に置き換えられて年を越すことに▼こういう時代だからこそ、プラス思考で考えたい。そうは思うが、どうも頭の切り替えが難しい。とはいえ新年早々から暗い話はしたくない、ということで敢えて触れるが、シンクタンクなど道内の専門機関の見るところ、その来年もトンネルの中にいる状況かも…▼相次いで発表された2004年度の経済見通しがそう語りかけている。示された実質成長率をみると、北洋銀行がマイナス0・2%、北海道銀行がプラス0・4%、未来総研がプラス0・7%。確かに3者のうち2者がプラスを予測しているが、その数字は極めて低率▼“プラマイゼロ”と読み取れる。何で、と聞かれても、それなりの裏付けがあってのこと。雇用の改善が実感できない中では個人消費も厳しく見るしかないし、国の予算案に象徴されるように公共事業も削減、民間の設備投資も回復を多く望めないというのだから▼端的にこう言える。「北海道にはまだ好転と見込むいい要素が見当たらない」。確かに、肌に感じてくるものがない。せめてもの救いは輸出関連など全国的には明るい兆しを感じ始めた業種がある、とささやかれること。その流れを北海道に、函館・道南に。そう願うしかないのが辛い。(N)


12月29日(月)

●われは知る、テロリストの/かなしき心を… 言葉とおこなひを分かちがたき/ただひとつの心を、奪われたる言葉のかはりに/おこなひをもて語らむとする心を、われとわがからだを敵に…われは知る、テロリストの/かなしき、かなしき心を(「啄木全集」第二巻)▼今年のキーワードの一つにテロ(テロル・テロリズム=恐怖の意)がある。92年前に書かれた石川啄木の詩。啄木はロシアの革命家、クロポトキンの著作に親しんでいたという。帝政ロシアの圧政下で皇帝の殺害をもくろむ幾多のテロを知って、テロリストと被害者の心根を悲しんだのだろう▼会社員や歯科医師、住職らが捕まった建国義勇軍と名乗った団体は、朝鮮総連の関連施設や田中均外務審議官宅、オウム真理教の道場などに銃弾を撃ち込み、不審物を仕掛け、脅迫文を送りつけた。「国を売る国賊。天誅を加える」と。これは“普通の市民”が起こしたテロの形の一つ▼毎日のように繰り広げられるイラクの自爆テロ。ターゲットは米英軍からイタリア、オランダ、タイなどの駐留軍にも広まった。市民を巻き込んだ残忍な無差別行為。航空自衛隊の先遣隊がイラクに向かった。来春までには自衛隊が派遣される▼宿営地には壕を掘りセンサーをつけ三段構えの警備体制をとるが、国連や赤十字の職員、2人の日本外務官がテロで倒れた地。国際協力と大上段に構えなくてもいい。怨讐(おんしゅう)を超越した「供養」として黙々と働いてほしい。「テロリストの悲しき悲しき心」など決して知ろうとは思わないが…。(M)


12月28日(日)

●「お正月は楽しい?」。「楽しいに決まっているじゃない。ばかな質問をして」は、一昔前の答えかもしれない。どうやら今は必ずしもそうでないようで。UFJ銀行がインターネットを使って行った調査からは、そんな姿が浮かび上がっている▼家を離れていた親兄弟が顔を揃え、食卓には普段食べられない料理が。会話が弾み、家族の団らんが広がる。そして初詣に、親戚などへのあいさつ回り。子どもたちにはお年玉という楽しみも。こんなところが中高年齢者にとっての正月イメージだが、今の時代は…▼生活が大変とは言いながらも、食生活は昔と比べものにならないし、正月に対する格別な思いが薄らいでいるのは確か。調査結果からもその思いがうかがえ、「お正月が普段より楽しい」と答えた人は半数以下の45%。特記すべきは、中高年ほど「気が重い」が増えていること▼それは“年末の仕事”が負担になっていることと無縁ではない。実際、正月を迎えるに当たっての負担を聞いたところ、実に67%が挙げたのが年末の掃除。その点、若い人は、というと、ことさら正月を意識していないようで、年代で正月感が違ってきていることが分かる▼当然といえば当然だが、ただ、正月はのんびりしたい、という思いは年代を問わず、昔も今も同じよう。この調査でも正月休みの予定で最も多かったのは「団らん」であり「テレビ観賞」。もちろん、旅行も増えている。さて、どう過ごす?▼きょうを含め4日で正月を迎える。(H)


12月27日(土)

●この欄で今年多く取り上げられたテーマの一つが雇用問題。高卒の新規採用も含めて、それだけ深刻な状況ということにほかならない。函館・道南も然りだが、その厳しさは数字に表れ、有効求人倍率や新卒内定を見ても、「氷河期」に超の字が幾つかつくほど▼文部科学省が先日、発表した10月末現在における来春の高卒就職希望者の内定状況も、まさにその世界。全国平均でほぼ2人に1人の48%。これが北海道では11月末現在(道労働局発表)で2・5人に1人の39・7%。函館・道南は多少良いものの、それでも41・4%…▼だからと言って、企業も苦しい。経営に汲々とする中では、採用も慎重になり、正社員は抑制傾向。勢い、契約とかパートなどにシフトすることになり、そのしわ寄せが新卒者に、という構図。厚生労働省が発表した今春卒業者の動向調査でも、現実が浮き彫りに▼驚くなかれ、そのパート労働者の割合は、昨年からでも6%増えて31%という。実に3人に1人が正社員になれないでいる。ちなみに10年あまり前の1991年は6%台でしかなく、97年でも15%ほどだった。年々、その率が高まって、このままいくと、色々な面に歪みが▼数字で示された実態は、国として考えるべき、という大事な問いかけでもある。今まさに政治の焦点となっている年金問題にも影響する。それでなくても若者の未納が増えている。雇用情勢がこのままでは…。これも政治のつけだが、成果を見ることなく、また年を越すことになる。(H)


12月26日(金)

●米国でBSE(牛海綿状脳症)に感染した疑いのある牛が初めて確認された。国内で感染牛が見つかった2年前の不安がよみがえってくる。また、豚の病気を予防する日本では未承認のワクチン製造も発覚した▼BSE感染牛を食べると致死性のヤコブ病の危険性がある。これまでに感染牛が確認されたのは23カ国。5月にはカナダで確認され、現在も輸入が禁止されている。米国で確認されたのはワシントン州の牛4000頭を飼っている大牧場。米国産牛肉は日本国内消費の26%を占めている▼厚労省は食肉は安全で、脳や脊髄などが混入している疑いのある加工品に回収指示を出すようだが、安全第一を考えると長期化の輸入禁止は避けられない。日本は1昨年以来、すべての食肉牛を対象にBSE感染の全頭検査を義務付けており、安全性が確認された牛肉だけを市場に出している▼米国の感染が最終的に確認されれば、国産牛肉への見直しが加速するだろう。約1カ月分の牛肉がストックされており、政府は豪州などからの輸入を増やす方針だが、便乗値上げなどによる価格高騰も懸念される。2年前の感染で子牛の生産が控えられ、品薄状態が続いているから▼その一方で…。八雲の日ハム子会社が豚の病気予防に開発していた未承認の動物用ワクチン。人体に影響がないとはいえ、薬事法に違反するという。道は食品への信頼を取り戻すため、食品製造業者らを対象に独自の管理判定制度を導入し監視しているが、消費者を無視した「食の開発」は勘弁してほしい。(M)


12月25日(木)

●重大(十大)ニュースが発表される時期を迎えた。振り返って総括すると、この1年、実に様々な出来事があった。「あれもそうか」「それもあったな」。挙げられて気づくが、国内的にも、国際的にも、むしろあり過ぎた年だったと思えてくる▼新聞関係の業界紙である「新聞之新聞」が行った「在京新聞・通信社の社会部長が選ぶ今年の十大ニュース」からも、あり過ぎが読み取れる。第1位は国会でも賛否議論が続く話と言えば分かるイラク問題。「邦人外交官が殺害され、緊張高まるなか自衛隊派遣を決定」▼これは来年も尾を引く問題であり、誰の目にも妥当な選定と映るに違いない。そして第2位以下は…。「長崎の12歳少年による男児殺害など少年の重大凶悪事件続発」「H2A失敗と相次ぐ工場事故など揺らぐ技術立国」「マニフェスト(政権公約)総選挙で二大政党化進む」▼ここまで4位だが、さらに拾うと。「SARS(重症急性呼吸器症候群)の世界的流行で国内でも不安が広がる」「お年寄りを狙う『おれおれ詐欺』が続発」「阪神タイガース18年ぶりのリーグ優勝で列島トラブーム」「中国人留学生らによる福岡一家四人殺害事件」…▼ほかに巨額資金を集めたヤミ金融事件や政界のカネを巡る事件などが挙げられているが、気づくのは、この中で明るい話題といえば「阪神リーグ優勝のトラブーム」ぐらい、ということ。社会部長の選考とはいえ、犯罪が一層の社会問題となっている現実をあらためてて思い知らされる。(N)


12月24日(水)

●「防犯」という言葉を知らない人はいまい。字の解釈通り「犯罪に遭うのを防ぐ」という意味であり、問題はそのための措置をどう講じるかということ。“空き巣対策”一つとっても、かつての時代は鍵で済んでいたのが、残念ながら今の世は…▼驚くほど増え続ける被害が警告を発している。データからもうかがえるが、空き巣に入られた経験を持つ家庭は少なくないはず。5年前の1998年、住宅への浸入盗犯の数は約12万4000件だったが、昨年は何と18万9000件。さらなる自衛策が求められている▼機器類やシステムは格段に進歩している。問われるのはむしろ各家庭でどう講じていくかだが、穴吹工務店(香川県高松市)が募った「空き巣に遭わないために、戸締り以外に工夫していること」の結果によると、「灯りをつけたまま出かける」が12・1%で第一位▼都市部と都市部外では多少違うが、以下、上位に挙げられたのは…。「近所に声をかけて出かける」「ドアを二重ロックする」「テレビ・ラジオをつけたまま出かける」「犬を飼う」「センサーライトを設置する」「外から中の様子を見えやすくする」「防犯ブザーを設置する」などの順▼防犯カメラやセキュリティーシステムはまだ少ないものの、防犯グッズの普及がうかがえるなど、意識の高まりは徐々に。「こんな社会になったか」。そう嘆きたくもなるが、現実は現実。帰省などで何かと家を空けることが多い年末年始は、改めて「防犯」を考えてみる機会かもしれない。(H)


12月23日(火)

●「そこまでしなければ、どうにもならないのだろうか」。そんな思いを抱くことは多々あるが、それにしても…。情けないというか複雑な気持ちにさせられたのは、埼玉県教委が教職員向けに作ったパンフ。ストレートに「損得勘定を考えろ」というのだから▼ここ数年、教職員によるわいせつ行為、セクハラ行為が際立って増えている。全国で1998年あたりまで年間50人ほどだったのが、99年は97人へと急増し、その後も…。教育現場への信頼を著しく欠く行為であり、教育委員会にとっては頭の痛い問題となっている▼それは分かるが、埼玉県教委が考えたのは“警告パンフ”の配布。口頭では済まない、といった危機意識が滲んでくるが、驚くのはその内容。改めて注意をうながすといったレベルを通り越し、児童生徒に示すがごとく「こうなって損するからね」と▼あまりにストレート。処分例を挙げて、その場合の減収はこうなりますよ、に始まり、定年まで勤め終えた場合との所得差など、幾つかのケースで損を説明している。結論は「だからしないように」となるのだが、そう言われているのは教える立場の教職員である▼確かに、パンフを作る経費などを問題にしていられない、何とか抑止しなければ、という管理側の焦りもあろう。もはや理想論は通じない、それが教育現場の現状と言われれば、返す言葉もない。何か変。そんなわだかまりは残るが、文部科学省が疑問を抱いていないことも含めて、そこに悲しい現実を見る思いがする。(H)


12月22日(月)

●先行き不透明な「傾気(景気)怪復」から、いつテロ攻撃が収まるか分からない「苛苦(イラク)復興」まで、今年も悲喜こもごもの世相を映した創作四字熟語の入選作が発表になったが、臥牛子は虐待や連れ去りなどで子供たちが泣いた「子面創苛(四面楚歌)」を追加したい▼「なつかない」とか「しつけのため」とか言って、殴られて子供が犠牲になる虐待。先月、千葉県では母親と祖母が5歳になる女児の腰をけったり、頭を叩いて死なせた。児童虐待防止法ができてから全国で108人が死亡しており、道南でも虐待の相談件数が増えている▼また、子供の連れ去り事件は今年126件。被害者の77%が女子(児)で「だまされるなどして自分からついて行く」と「突然、引き込まれる」が半々。手口は「ぬいぐるみをあげる」「家族が交通事故に遭った」など。犯人は20、30代が大半。今夏、函館でも女子中学生が切られた▼さらに、聖域といわれた学校に不審者が侵入。宇治市の小学校に刃物男が乱入し児童2人が切りつけられた。伊丹市の小学校でも女児が負傷した。玄関先のセンサーの電源を切ったり、正門のカギを掛けなかったり、大阪・池田小惨事の教訓が十分生かされていなかった▼漢の劉邦軍に囲まれて故郷の歌の大合唱に驚き嘆いた項羽(四面楚歌)。今年の子供の世界は虐待、連れ去り、不審者に囲まれた。刀できずついて(創)、むごいこと(苛)されて…。特に子供の連れ去り事件は親の不安を募らせる。いざという時、大声で助けを呼べるよう子供に練習させるしかないか。悲しいけれども…。(M)


12月21日(日)

●「働きたいと願う社員は65歳まで雇用せよ」。国は企業に、こう求めようとしている。今月初め、厚生労働省が労働政策審議会の雇用対策基本問題部会に、企業に制度化を義務づける考えを示したことで明らかになった動きだが、素直に受け取れない▼というのも、高齢者の雇用対策と純粋に受け止められないから。受給開始年齢が65歳に移行し始めた年金問題が、そこに影を落としている。今や年金の行方は国民の最大の関心事。60歳定年では退職後、年金の受給対象になるまで何年か所得なしの空白期間が生まれる▼「何とかしなければ」。国の対策が求められて当然。資金運用や事業の失敗、そもそも年金財政を危機的な状況にした責任は国にある。その結果として3人に1人が未納という年金不信を生み出し、どんな対策を講じるかと思いきや、案の定というか、国民に負担を強いるだけ…▼溜まったものでないと思っていたら、次なる矛先は企業に。確かに、年金を受給出来るまで働けるならば、それは願ってもないこと。切にそう願っている人は多いはずだが、企業の側にしてみると、今の経済情勢下ではおいそれとはいかない▼特に中小零細企業では、思いはあっても経営の現実が許さない。だが、部会に示した動きが物語るように国は奨励でなく義務で、という姿勢。一時的な批判はあろうとも、つけは国民や民間に回すに限るということか。これでは政治や行政への信頼回復は何時になることやら。気持ちが塞いでくる。(N)


12月20日(土)

●「江差追分」が授業科目に。新生・江差高校で導入される。小中学校は特にそうだが、高校も含めてわが国の教育システムはほぼ全国一律。地域に、環境に関係なく、格差なく教育を受けられるという平等感だが、その一方で言われてきたのが個性の欠如▼少子化時代を背景に、特色づくり、がにわかに課題として浮上。遅ればせながら近年、様々な試みが始まっている。江差高と江差南高が統合して生まれる新生・江差高校の普通科単位制もその一例。1年は必修科目中心に、2、3年はより多く選択科目を学ばせる▼進路や興味に応じ学びたい科目を自分で選ぶ、押し付けでないから、生徒の自主性を喚起できる。ただ学校側として大変なのは用意する選択科目の数というか幅であり、教える人の確保だが、新生・江差高が打ち出した一つが「江差追分」。早くも全道的な注目を集めている▼「江差追分」は地域の伝統民謡であり、知名度も全国区。江差南高に部活(追分部)があるように、個人的に歌唱指導を受けている生徒も少なくない。「教育的な見地からも意義ある試み」。幸い、地域の理解も得られ、指導者など協力体制にも不安はない▼今の計画では年間を通じて週2時間、ルーツや変遷を学ぶ「演習」と実際に歌唱指導を受ける「実技」の2本立てで、という考え方。実際に導入されるのは2005年4月からだが、あと1年あまりもすれば…。校舎の内外から朗々とした追分節が聴こえてくる、思わずそんな情景が頭に浮かんでくる。(A)


12月19日(金)

●日本映画の名監督・小津安二郎の作品は、黒沢明の「動」に対し「静」の映画。ここ1週間ほど、小津監督の生誕100年を記念した映画特集をNHK衛星放送で観た。父と娘、夫婦など家族を通じて「人生の無常」と「ありがとう」の精神を描いている▼婚期を気にしながら父親との暮らしに満足している娘と手離す決心がつかない父親の心理的葛藤を描写した「晩春」。田舎に住む老夫婦が上京して子供たちに会うことで子供たちが変わってしまったことに戸惑う「東京物語」。原節子、笠智衆ら往年のスターの若かった顔、顔…▼日本のホームドラマの“元祖”だ。「俺は去っていくが、君はこれからだ」。決して激情などしないで淡々と孫に語りかける。無限につながる「無常」を説く。これ滅するがゆえに彼滅す…と。ちゃぶ台ひとつにしても哀愁が漂う。どの作品にも、親にも敬語を使う美しい日本語が凝縮されている▼そして必ず「ありがとう」と感謝する。「ありがとう」は「あなたと私がここに『有る』ことは極めて『難しい』ことで、何千万、いや何万分の一の確率。この素敵な出来事に感謝しよう」という意味だ。ヤングにとってストリーは退屈かもしれないが、ローアングルの手法にじーんとくる▼「晩春」をリメークした「娘の結婚」が製作中。また、台湾の監督が小津精神を受け継いだ「珈琲時光」もお目見えする。北朝鮮がもくろんでいる地村保志さんの長女の縁談話は、小津監督は断じて描かないだろう。越年する拉致被害者たちの家族愛にも心が痛む。(M)


12月18日(木)

●「春うらら」。春の天気がよくて穏やかなさま、の表現だが、そんな長閑(のどか)な名前の馬が今、競馬ファンの間で全国的な人気を集めている。「ハルウララ」。その活躍舞台は地方の高知競馬場。14日の出走がこの馬にとって記念すべきレースとなった▼ちょうど100戦目、それは同時に100連敗を意味した。未だ初勝利なし。日高の三石町生まれの牝7歳。性格が穏やかなのだろう、パドックを回る姿はうつむき加減で、何となく気恥ずかしげな面持ち。競走馬として不向きに映るが、レースでは常に一生懸命▼結果が伴わなくても、ひたむきに走る。そんな姿がファンの心をつかんで離さない。今年7月、テレビ番組の司会者が紹介して脚光を浴び、全国紙に「走り続ける90連敗馬 売り上げに貢献」と掲載されるや、“ハルウララ株”は急上昇。14日の高知競馬場は全国区の様相に…▼東京などからのツアー客を含め、入場者はいつもの休日の2倍以上。「ハルウララ」は当然ながら1番人気。スタート直後は先頭に立ったものの、結果は9着。「ご苦労さま」「次も楽しみにしているよ」。スタンドから送られた温かい拍手には、そんなメッセージが込められていた▼癒されている、だから応援の輪が広がる。地方で良かった。中央では早くに見切りを付けられていたはずだから。ただ、中央であれ、地方であれ、話題は競馬界全体の財産。そのためにも中央と地方がさらなる連携を。「ハルウララ」に関してなら、例えば中央のスーパージョッキーを騎乗させるとか。このぐらいのことを考えなければ…。(A)


12月17日(水)

●今年も残すところ、あと2週間。街中からも年末のあわただしさが伝わってきて、年末のあいさつや1年を振り返る様々な動きがちらほら。流行語などに続き新聞各紙で報じられた「今年を象徴する創作四字熟語」(住友生命)もその一つ▼“あて字”で、その年の世相を言い切る楽しさが受けて今や年末恒例。ちなみに昨年は株価の低迷を嘆いた「凍傷株価」(東証株価)、田中さんのノーベル賞を讃えた「突然権威」(突然変異)や、未許可の食品添加物使用をいさめた「添加御免」(天下御免)など▼そして今年だが…。なお先行き不透明な経済情勢に加え、国内では高速道路問題などが政治議論となり、国際的には混迷するイラク問題が重くのしかかっているなど厳しい局面下。その中で選ばれた優秀作品五作は…▼阪神優勝が一種の清涼剤となったということか、阪神関係が二つあって、「虎姿歓歓」(虎視眈々)と「虎無沙汰」(御無沙汰)。阪神以外ではイラクの今後を心配する「苛苦復興」(イラク復興)、コメ泥棒に遭った被害者の心境を表した「愛米何処」(曖昧模糊)、道路公団議論を懸念する「憂慮道路」(有料道路)▼この5作からもれたものの、評価したい作品が一つ。それは主権在民をもじった「棄権罪民」。10月の総選挙もそうだったが、近年の投票率の低さを皮肉った傑作。総体的に多事多難な現代を映した作品が多かったそうだが、「来年はそうじゃなくて…」。そんな思いがこみ上げてくる。(H)


12月16日(火)

●フセイン元大統領の故郷のティクリット郊外。チグリス川のほとりの農家小屋の横に掘られた深さ2メートルくらいの穴。ぼさぼさの髪、長く白い付け髭。自動小銃などを持っていたが、抵抗なく投降。疲れた表情。穴には現金75万ドル(約8000万円)があった▼フセイン政権下でバビロン県だけでも虐殺された人は約1万6000人に上る。湾岸戦争後、フセイン政権に反対し蜂起した人たちだ。今度の戦争でも「米兵を殺し殉教すれば天国にいける」と、無差別テロで多くの血を流した。虐殺や戦争の罪は重い▼米軍はスペードのAとして30億円の報償金をかけ、また「変装」した場合を想定したデジタル写真もつくってウオンテッド。今年最大の逮捕劇となった。DNA鑑定をしたというから、影武者じゃないことは確か。拘束の映像に「これで民主的なイラクが再生される」と銃を乱射して喜ぶ多くの市民の姿が▼バクダッド陥落から8カ月以上。逃避行の虚しさを悟ったのか、最近はうろたえていたという。確かに「フセインが再びイラクの指導者になるよう祈ります」という支持者も少なくないが、フセインを尋問することによって、大量破壊兵器の有無も判明するだろう▼国家リーダーの使命は国民の生命を守ること。こうなったら勇気をもって「ジハードは終わった。むだなテロは終結しよう」と最後の命令を出してほしい。「エデンの園」のモデルになったイラクを取り戻すために。自衛隊ではなく、民間の復興支援隊が安心して活動するためにも。(M)


12月15日(月)

●休 刊 日


12月14日(日)

●映画やテレビドラマなどのロケを誘致する、それは紛れもない観光対策。話題になることで地域の名前が売れる、自然や景観の素晴らしさを伝えてもらえる、放っておく手はない。フイルムコミッション(FC)。道が力を入れ、各地で取り組みが始まっている▼函館はその点、恵まれている。美しい港もあるし、歴史、景観など“舞台”に事欠かない。他地域が羨むのも分かる。実際、特別なことをしなくても“舞台”として選んでもらえているのだから。近年は旅・食番組が多いが、映画やドラマだけでも年10本ほどは▼ただ、この現実が未来永劫に続くという保証はどこにもない。他地域が努力して好印象をもたれることだって容易に創造出来る。北海道にはまだ陽が当たっていない、素晴らしい所がたくさんある。胡坐をかくことなく、地域に理解と支援の輪を広げなければ▼これまで窓口となってきたのは市の観光課。それで十分だったか否か、はともかく、今、求められるのは「さらに充実を」という視点。鍵を握るのは専門の推進組織(はこだてフイルムコミッション)であり、立ち上げは早いに越したことはない。発足が16日に決まった▼一歩前進。真価が問われるのはこれからだが、どれだけ地域にメリットをもたらすか、など市民への啓蒙も大事になってくる。「何か撮影している」ではなく、「また撮影に来てくれたか」という思いを抱くように…。FCの発足はその道のりの序章であり、期待したい。(N)


12月13日(土)

●「大人が自信を失っている」。確かに、そうかもしれない。それが端的に表われているのが子供の教育。「怒らなくなっている、というより、怒れなくなっている」。ある識者が大人全体に当てはまる姿として、こう強調していた話が頭の隅に残っている▼いけないことをしたら怒る、当たり前のことだが、今の時代、それが当たり前でなくなっている。親もさることながら社会も…。その結果として様々な問題が提起されている。しっかりすべきは、改めて言うまでもなく親。同時に鍵を握るのは影響力の大きい学校現場…▼ところが、かなり以前になるが、あ然とする報告を新聞をにぎわせた。覚えている人も少なくなかろうが、それは「指導に自信ある」と言い切った先生が“6%”しかいなかった、という国際基督教大の藤田英典教授のグループが行った調査結果。何と16人に1人である▼この調査でいう指導項目は生徒指導、教科指導、学級作りなどだが、さらに衝撃を覚えたのは、各国と比較して極端に低い実態が浮き彫りにされたこと。ちなみに中国は73%、英国は47%。「やや自信がある」を加えても、わが国の55%に対し中国、英国は90%台▼かつてはこうでなかった。子供の数は多かったのに、教育現場は自信にみなぎり、厳しさの中に子供たちとの、親との信頼があった。遠い過去の話ではない。なのに今や…。異論を唱える人もいようが、この“6%”が語りかけている意味はあまりにも大きい。(N)


12月12日(金)

●歴史がある街だから当然、そうも言われるが、函館には今新たに光を放つ文化財産が少なくない。毎年夏の函館野外劇、先日終えたばかりの市民オペラ…。音楽、絵画、書などの分野でも少なくないが、特筆に価するのは「函館子ども歌舞伎」▼全国的に高い評価を得ている存在だが、再び全国の舞台に。来年1月23日、東京・渋谷のNHKホールで開かれる全国ふるさと歌舞伎フェスティバルへの出演が決まった。選ばれたのはわずか8団体。全国に約180あると言われる中からの選抜だからその価値は大▼地域で歌舞伎を育て、維持していくのは容易なことでない。子どもとなると、なおさら。まず指導者の問題があり、子どもたちの確保、さらには資金面などを含め支える体制作りも鍵を握る。函館は最高の指導者・市川団四郎さんに恵まれ、物心両面での支援の輪も…▼誕生してまだ16年。道外の伝統ある団体に比べると年数は劣るが、実績は逆で、評価もむしろ上。5月の全国子供歌舞伎フェス(石川県小松市)で、最高のほめ言葉をもらったことが、それを裏付けている。晴れの舞台への誘いは、実績、将来への可能性を認められた紛れもない証▼新たなステップであり、さらなる地固めの機会、とも言える。「恋飛脚大和往来『封印切』」が、会場いっぱいの拍手を受けるに違いない。それにしても函館は素晴らしい文化財産を持った。この先、函館子ども歌舞伎に求められるのは地域のさらなる応援。その灯が一段と大きくなるように…。(A)


12月11日(木)

●「タバカゼ」はこれからが本番。暮の寒さの中、腹をむき出しにし、腹の上に汁わんをのせて、借金とりにきた番頭を『ハラワン』と追い返した江差の繁次郎も津花、中歌、新地に吹くタバカゼに悩まされたことだろう。実際、顔を打つ吹雪が痛い▼海から元山に向かって吹くタバカゼを利用したのが28基の風力発電「ウインドパワー」。元山の存在が風向きを複雑にしている厄介な風。元山の麓を右から左に回り込む風があって、その通路にある17号基は他の風車より首が右に向かっている。試運転で判明(記録集「風車に魂に入るとき」)▼江差のタバカゼはいろいろな顔を持っており、風車もいろいろな角度からまんべんなく受けられるよう工夫された。それにしても発電量が振るわない。本紙によると、買電実績は目標の45%にとどまっている。風力が6―10メートルとばらつきがあることも影響しているのか▼また、恵山町の風力発電(2基)も、発電量は当初計画を大幅に下回り、保険金を受けたものの、なお高額の赤字が。事前調査で見込んだ平均風速が、実際はかなり弱かったことも原因のようだ▼瀬棚町では全国初の洋上風力発電(2基)が試験運転を始めた。クリーンな風力発電は今後も増えるだろうが、あくまでも地域に根ざしたエネルギー事業を、地元に利益をもたらす風車が目的。江差、恵山両町とも調査委員会を設置して「風力と出力」の関係など徹底的に解明してほしい。(M)


12月10日(水)

●「女性の社会進出が進んだ」。そうも言われるが、実感はあまりない。確かに進んではいる、だからそう言って間違いではないが、実感できないのはお粗末だった時代と比較してだから。現実に身近なところを見渡しても、依然として男社会…▼役所にせよ、企業にせよ、管理職の割合一つとっても、それは歴然。例え力量があっても男が先、女性の管理職がいない企業とて珍しくない。男女同権の時代、欧米に比べるまでもなく恥ずかしい実態だが、いやしくも先進国である、国も対策を講じざるをえない▼「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも3割にする」。まず自らできることとして国家公務員の1種試験。先日、来年の採用内定者が発表されたが、642人のうち女性は124人。率にして過去最高の19・3%というが、ようやく5人に1人である▼この女性の社会進出の鍵を握るのは民度。国民の意識という言葉に置き換えることもできるが、例えば国会議員。一部を除き女性の擁立が少ない政党側にも課題があるが、新たに決まった衆院の女性は480人中わずか34人。率にして7・1%。10人に1人にも満たない▼この率は世界の女性議員ランキングで、何と132位。スウェーデンの45%やデンマークの38%はともかく、174カ国の中で後ろから数えた方が早いとは…。近年よく「能力主義」という言葉が使われるが、こうしたデータをみるにつけ、地についていないことを教えられる。残念ながら…。(A)


12月9日(火)

●地域、自治体が抱える大きな課題の一つが「ごみ」。かつて「ごみ」はひとくくりで扱われ、無料で集めにきてくれるのが当然の時代があった。というより、つい数年前までそうだった。それが環境、減量化などの観点から一挙に見直しが進んで今日に▼函館・道南もそうだが、今や分別、有料がごく一般的な流れ。燃えるごみ、燃えないごみ、資源ごみ等々、住民の理解は確実に醸成されてきたと言われる。願わくはもう一段階上の取り組みが望まれるが、現実に目を移すと、モデル的な自治体が幾つか。北海道にも…▼今年度の「ふるさとづくり賞」に選ばれた富良野市はその代表格。「ごみ」を模索すること20年。「燃やさない、埋めない」を合言葉に、いわゆる資源化に取り組んできた。その結果、生ごみを堆肥化し、有償で農家に販売するなど農業に大事な土づくりに生かすまでに▼“お荷物”を地域の産業に還元する、これこそ究極のリサイクル。取り組みを軌道に乗せるために求められるのは住民の協力だが、見事というしかない。最初は3から5種類だった分別が今や14種類にも…。当然の帰結として富良野市のリサイクル率は9割▼思わず「函館では」と考えてしまうが、教えられるのは住民の「ごみ」に対するさらなる意識改革。確かに排出量を減少させるに越したことはない。だが、それにも限界があるとすれば…。模索すべきは資源化への取り組みだが、富良野市は格好の実践例。学ぶべき点は多い。(H)


12月8日(月)

●年金に入っていなかったので収入を失い、泣いているお年寄りは「大泣きジジイ」。日本の年金の積立金は約150兆円もあって先進諸国の中では最も蓄えがあったはず。なのに勝手にグリーンピア事業などにつぎ込んで失敗。株式や債券への運用でも大損失▼さらに特殊法人に貸し出されている112兆円の大半が焦げ付きで返ってこない…。こんな身勝手な運用をしておいて、少子高齢化による年金人口の逆ピラミット化にすり替えている。今度の年金改革には「負担は年々増え、給付は逆に下がる一方」と不信感を招いている▼だから若者など400万人が保険料の未納付・未加入で抵抗している。そこで岐阜の社会保険局が広告「年金妖怪大辞典」を出した。「年金を納めないとこうなるかも…」として未納者らを妖怪にたとえた6枚の絵。「必ず納めるから」と言いながら未納付の女性は「口だけ女」▼納付した年数が足りないのに無理やり年金をもらおうとする人は「無理かべ」や「いったん免除」も。ゲゲゲの鬼太郎が一反もめんに乗って、砂かけ婆、子なき爺、ぬりかべ…。どこか似ている。当局は「若者に親しまれるように作った。今思えば配慮を欠いた」と言うが▼国民をバカにしている。無神経も甚だしい。江角マキコさんが怖い顔をして「年金がもらえなくなるかもって言ってたの、誰?」と詰め寄るCMも、よけい不安をかり立てる。単なる数字合わせの年金改革では困る。「身体は物を食って大きくなるけど、人の心はなあ…」―のんのん婆が嘆いている。(M)


12月7日(日)

●分かっただけで、ざっと400億円。何のことか、と言うと、会計検査院が指摘した2002年度の税金の無駄遣いと徴収もれ。すべてを調べれば、この何倍になるか、怒りが込み上げてくるが、悲しいかな、これが財政危機に直面しているわが国の姿…▼少子高齢化時代に入り、今まさに財政再建のための税制改革が議論されている最中。その時に、こうもずさんな実態を見せ付けられては…。理解しようとする素直な気持ちは失せ、逆に込み上げてくるのが「その前に国がやるべきことがある」という思い▼11月末に新聞各紙が報じていたが、会計検査院が調査したのは、対象約3万5000カ所のうち1割弱の3300カ所。そこで指摘された無駄遣いは293億円、徴収もれは107億円という。全対象機関に問題があるわけではなかろうが、単純に10倍すると4000億円▼これが10年続けば4兆円、50年だと20兆円、大変な額である。しかも呆れるのは、毎年、指摘されながら少しも減っていないこと。現実に2002年度も過去20年での最多額。せめて説明責任ぐらい果たすべきだと思うが、それすらない。ましてや責任論議など…▼過去にも今にも聞いたことがない。“官の甘さ”が言われなかった時代はない。国はもとより都道府県も、市町村も。そこにある思いは「税金を納める人の様々な思いを分かっているか」の一点。こうした報告をみる限り国の機関は、その認識が欠如していると言われても仕方ない。(A)


12月6日(土)

●今年の“流行語大賞”が決まった。幾つかの候補の中から最終的に選ばれたのは3語。「なんでだろう〜」は登場した時から“当確”と予想され、順当な感じを受けるが、選挙の年ということでのおまけか「毒まんじゅう」と「マニフェスト」も…▼正式には日本新語・流行語大賞(「現代用語の基礎知識」選)というのだが、その年々の世相を物語る一つと位置づけられている。始まったのは1984(昭和59)年から。第10回までは新語と流行語の2部門があり、第1回は新語が「オシンドロウム」、流行語が「」▼そうだった、と思い出す人もいようが、意外と覚えていないもの。ちなみに昨年は「タマちゃん」「W杯」、一昨年はちょっと多く「米百俵/聖域なき改革/恐れず怯まず捉われず/骨太の方針/ワイドショー内閣/改革の『痛み』」。その前年は「IT革命」だった▼そして今年は…。「なんでだろう〜」は外せない。お笑いコンビのテツandトモの歌だが、受けに受けたのは、この混迷した世の中、納得できないこと、不透明なこと、分からないことが多すぎるから。確かに、何時の時代にも言えることだが、ここのところ特にあり過ぎる▼経済の問題一つをとっても庶民は無力。出来るのは自己防衛だけ。我慢にも限界を感じてくると「なんでだろう〜」とぼやきたくもなる。そう考えると、この「なんでだろう〜」は、庶民の気持ちを代弁する言葉と言えなくもない。節回しは軽いが、内面から響いてくる意味は重い。(H)


12月5日(金)

●高校生の約半数が「将来に不安」を訴える。進学、就職にせよ、高校生は将来への夢を広げる年齢なのに、今の時代は…。親の負担を考えると進学も大変だし、現実問題として就職も厳しい。どうなるのか、答えが見えてこない、苦渋の思いがにじむ▼そんな“姿”を浮き彫りにしたのは、全国高校PTA連合会が今年7月に行った調査結果。進路について最も多かったのは「どうなるか不安」で、実に44%。これに対し、圧倒的な率を占めて当然であるはずの「目標があって楽しい」は35%。3人に1人でしかなかった▼先行きの不透明感が高校生にも及んでいる現実が読み取れるが、背景にあるのは就職戦線。ここ数年、大卒もさることながら高卒の就職は氷河期続き。気持ちだけはしっかり、と言われても、現実に込み上げてくるのは「競争がますます激しくなる」という思い▼その一方で、職業の選択に当たって頭をもたげてくるのが安泰路線。「(社会の流れと違って)年功序列や終身雇用への支持が増えるなど安定志向が顕著」。産業能率大学が大卒(新卒)者に行った調査が導き出した結論だが、高校生が対象のこの調査でも同じ意識傾向が▼「景気に左右されない」「給料が安定している」が職業の選択基準の上位で、なりたい職業の上位が教師、公務員…。見事なまでに符合する現実の“姿”だが、そうか、と納得してはいられない。「これでいいのか」。この調査結果は今の政治、社会に、そんな強烈なメッセージを発している。(H)


12月4日(木)

●先週末、函館大学の弁論大会を聞かせてもらった。毎年、足を運んでいるが、そうさせる理由の一つは、この弁論大会が「函館を考える」という視点に立っているから。今年のテーマ「函館浪漫紀行」が物語るように、一貫して観光に焦点を当てている▼今年、演壇に上がった弁士は社会人3人を含め11人。それぞれの考えや思いを熱っぽく語った。その中でハッとさせられたのが、ある学生が語った「『函館とは何ぞや』ということを考える機会になった」との一言。実はこの言葉には大事な意味が隠されている▼この『何ぞや』こそ、考えることの出発点であり、そこから浮かび上がるのは「このままでは…」という思い。「(自分たちは)函館の良さを本当に理解し、伝え切っているだろうか」に置き換えることも出来るが、発せられたのは「まだまだ足りないよ」というメッセージ▼訪れた人は何かを感じ取ったはずだが、強いて言えば、もっと多くの人に聞いてほしかった。せめて行政や関係機関の担当者には。そう思うのは的外れなのか、会場を見回したところ観光協会幹部は確認出来たが、あとは…。事前に開催の案内はされていたはずだが▼と言うのも、この弁論大会が学内にとどまらず、社会的な意義を持っていると位置づけられるから。「函館を考えよう」。この学生の思いを地域がどう受け止めるか、そこに求められるのは聞こうとする姿勢。来年は第5回。多くの人が会場を埋めるよう期待したい。(A)


12月3日(水)

●ベトナムのストリートチルドレンが描いた「ベトナムの子どもの家絵画展」を観てきた。飛ぶハト、灯いっぱいの家、子どもたちが万歳をしている「平和が好き」や「ふるさとの美しい風景」などが心をうつ。テレビで「おしん」も観ているという▼イラクの戦闘はまだ続いており、ベトナム戦争のように泥沼化しつつある。ブッシュ米大統領がバグダッドへ電撃訪問。兵士を激励、わずか2時間半でとんぼ返り。ロケット攻撃、自爆テロを恐れた。“戦勝国”の大統領がなぜこそこそと隠密行動をとるのか。治安は悪くなるばかり▼イラクの反米勢力は旧フセイン政権を支持するバース党の約7万人、北部のイスラム原理主義者の約2000人、国際テロ組織のアル・カーイダなど外国人勢力の約7000人。自爆テロのほか、ホテルへのロケット弾襲撃にはロバが、米軍車両には爆弾をイヌの腹部に仕掛けていた▼国連は「イラクはアル・カーイダの拠点になった。生物化学兵器を使うかもしれない」と警告(2日)。テロは許さぬ、復興支援も大事…。自衛隊員の道民を派遣するのか。憲法で海外での武力行使が禁止されているから、丸腰。函館でもピースウオークで「イラク派遣反対」▼ベトナムの子どもの家は日本の元小学校教師が退職金などをはたいて建てた。現在、65人が勉強している。安全な地域がなくなった今のイラクでは、国連主導の純粋な人道的支援にしぼるべきではないか。志半ばで犠牲となった奥参事官が放映にこぎつけた「おしん」はイラクでも観られている。(M)


12月2日(火)

●「えっ、未だに現金支給? まさか」。聞いてすぐ、そんな思いを抱いたのが中央省庁の国家公務員の給与の支払い。構造改革が叫ばれ、行政の事務の簡素化が求められている時代に、民間ではとっくの昔に終えていることなのに…。呆れるしかない▼給与の振り込みに賛成でない人は少なくない。「現金で持って帰り、受け取った家族は神棚に挙げて感謝の気持ちを表す」。こんな光景が見られた時代もあった。昨今の夫権の崩壊は振り込みと無関係でないと論評した識者もいたが、それはともかく時代は様々な要求をする▼給料の振り込みもその一つ。現金で手渡しするには大変な作業が伴う。金融機関に小銭の数まで求めて、明細に合わせて袋詰め。支給者が数人ならいいが、何千人、何万人ともなれば、その作業量たるや膨大。何とも非効率だが、中央省庁などは意識が別格のようで▼最も遅れている実態が公になった。今も現金支給、一部振り込み、全額振り込みの中から本人が希望できる、とのこと。その結果、9月現在、4万8531人中、実に41・8%が現金支給を継続中。警察庁(2・0%)、農水省(3・5%)、経産省(8・1%)がワースト省庁▼こんな簡単なことが実行出来ない。というより実行する気がなかったということだが、これでは…。今、突きつけられている行政の簡素化、効率化など期待する方が無理と思えてくる。「範を示せ」とまで言わないが、甘えた感覚はそう簡単に直らないということなのだろうか。(N)


12月1日(月)

●「本当に早いね」「もう12月だよ」。今年もそんな会話が交わされる時期を迎えた。1年を締めくくる月ということもあるが、気ぜわしく、急きたてられる。12月にはそんな思いがつきまとうが、それは陰暦での「師走」のイメージと重なり合う▼商売をしている人はもとより誰しも忙しい。師が走らなければならないほど多忙な月、簡単にそう解釈されもするが、当たらずとも遠からずで、一つの説は「僧が東西に『はせはしる』から」。そのほか「年の終わりで万事『仕果つ月』から転じて」などの説もある▼そして時候の言葉としては「歳末」「年末」「年の暮」「年の瀬」「師走の風」などが。そのいずれからも“せわしなさ”が伝わってくる。そろそろ1年を振り返ろうか、と言いたいところだが、「この忙しい時に」と言われるのが関の山。そうは言えど、今年も大変な1年だった▼国際的にはイラクや北朝鮮問題など、国内的には経済問題を抱え、凶悪犯罪が後を絶たないなど、頭に浮かんでくるのは暗い話ばかり。函館・道南は被害を避けられたものの、北海道は大雨、地震とダブルで災害に見舞われた。さらに追い打ちをかけたのが冷夏▼道南も含め米などは収量減、品質劣化を余儀なくされている。「これ以上、暗い話が加わらないように」。そんな思いが込み上げてくる。2003(平成15)年も、きょうを含めて残すところ31日。寒さも厳しくなってきた。風邪をひかず、交通事故に気をつけて。(A)


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