平成16年8月


8月31日(火)

●108年ぶりにパルテノン神殿の下で開催されたアテネ五輪。日本最初の金メダルに輝いたのは柔道の谷亮子選手、ハンマー投げの室伏広治選手の金メダルで締めくくった。日本のメダルは史上最多の37個だったが、ドーピング違反による「最後の金」は後味が悪い▼ドーピング(禁止薬物使用)には筋肉増強剤や麻薬系などがあり、通常の10倍、50倍の量を使用する選手もおり、後遺症に悩むケースも報告されている。「検体すり替え」疑惑をもたれたアヌシュ選手(ハンガリー)は再検査を拒否した▼ドーピングによるアテネ五輪のメダルはく奪者は7人。他人の尿を自分の尿として提出できる器具もあるというから驚く。室伏選手は「表彰台で受けたかった。仲間がこんな結果になり、悔しいというか、非常に寂しい」と複雑なコメント。水泳のソープ選手(豪州)の「五輪は(薬物に)汚されている」が証明された▼大会最後の男子マラソン。古代ギリシャ戦士のように独走するデリマ選手(ブラジル)は36キロ地点で、コースに入ってきた両手を広げたスカート姿の男によって沿道に引きずり込まれた。「審判の下る時が近づいた」など意味不明なことを叫びながらの妨害。後続に40秒の差をつけていたのに…▼スポーツは、オリンピックは他力ではなく、自力で限界に挑戦するから、世界が感動するのだ。開会式は人間が生まれた「海」、閉会式は黄金色に輝く「麦畑」。4年後は麦を育てるフェアな北京五輪に期待したい。(M)


8月30日(月)

●ロシア極東国立総合大学函館校が開校して10年。施設の問題、学生の確保など厳しい経営環境を強いられてきた10年でもあったが、幾多の模索が花開きつつあるところ。今や函館にとってかけがえのない存在で、各方面から寄せられる期待は大きい▼ロシア国立大学の分校として日本で初めての函館校が、ハリストス正教会などに近い元町に開校したのは1994(平成6)年。函館とユジノサハリンスクを結ぶ定期航空路が開設された年で、「ロシアに関するスペシャリストの養成」を目標に掲げての開校だった▼振り返ってセルゲイ・イリイン校長は、本紙の取材に概略こう語っている。「一番難しかったのは最初の2、3年。日ロでは教育制度も教育に対する学生の態度も違い、学生との間に、いいバランスを見つけなければならなかった。前例も、教科書もなかったから」▼苦悩の中で努力が続いた。そのかいあって、150人の卒業生のほぼ半数がロシア語かロシアにかかわりのある仕事に就いているという。その一方、学外にも目を向け、ロシア語講座の開設、市民を巻き込んだイベントの開催など、身近な存在になるための努力も重ねてきた▼いわば基礎づくりの10年だったとも言えるが、在札幌ロシア総領事館の事務所が開設されたのも函館校の努力が導いた結果。今後についてイリイン校長は「日本におけるロシアセンターのような役割を担っていきたい」と。その思いを確認する記念式典が9月2日に挙行される。(H)


8月29日(日)

●国の機関が実施する世論(アンケート)調査は数多い。ほとんどが全国的に、つまり全国一律の質問が多いのだが、疑問に感じるのは、結果がいつも全体像で発表されること。地域格差のない問題ならまだしも、違和感を覚える発表に出会うことも▼内閣府が先日発表した社会資本の整備に関する世論調査もその一例。全国3000人を対象に行われた調査だが、その中で、高速や国道などの幹線道路に満足しているという答えが55%、不満の多くは渋滞と料金の高さ、などの答えが浮き彫りにされている▼北海道も、道南もそうなのだろうか。社会資本の整備状況は、そもそも地域による格差の大きな問題で、住む人の意識も異なる。道路を例にしても整備を終わった地域の人と、整備が遅れている地域の人では、一緒ではない。置かれている環境、状況が違うのだから当たり前▼全国ばかりか、北海道内に目を向けても言えること。道央との幹線がぜい弱な道南は、高速道路を中心に一層の整備促進を求めている段階。道南だけの分析となれば、こんな率ではなく、まったく違った答えが出てくるはずだが、それも数の上でかき消されてしまう▼もちろん地域別の分析もしているのだろうが、最大公約数で発表されることの怖さは、それが全国の姿として一人歩きして、定着しかねないこと。少なくても国が行う社会資本の整備に関する調査は、発表の仕方も地域別を基本にすべきだ。全体像必ずしもよしではない。(N)


8月28日(土)

●凶悪事件の増加、犯罪の低年齢化などに加え、自殺者、家出人があまりに多い。「この現実は警告に値する」。社会がそう問われて久しい。確かにそうだ。みんなが感じている思いだが、現実はその警告を無視するかのように、逆の動きが続いている▼先月、昨年1年間の自殺者は3万4427人を数えると報じられた。1日あたり94人、1時間あたり4人…。中高年が増加し、経済的理由が増えているなど、驚きを覚える実態だが、家出人も同様の傾向で「そんなにも」と耳を疑うほどに多い▼全国の警察署が受理した捜索願から推定された家出人は、何と10万1855人。これは比較的大きな地方都市の人口に匹敵する人数であり、尋常でない。しかも10万人を超えたのは3年連続。同時に気になるのが、家出人にも低年齢化の一面が見られることだ▼いわゆる少年が22%に当たる2万3000人を数え、中学生が8900人(8%)、高校生6300人(6%)。小学生も1000人以上というのだから。「家や学校が嫌になった」。中高校生や少年の動機として多いが、その裏にあるのは人間関係の希薄化など、今の社会が抱える歪み▼家や学校は本来、最も居心地がいい場所であるはずなのに、そう思えない若年者が少なくともこれだけいる。対策は難しく、時間もかかるが、現実を直視することなしに答えは見えてこない。「社会問題の低年齢化は家出にも顕著」。この統計は社会にそう認識するよう求めている。(N)


8月27日(金)

●「かおり風景」という言葉がある。何年か前にこの欄で触れたところだが、言わんとしている意味は、居るだけで心地よく思わせてくれる環境。「かおり環境」という言葉にも置き換えられるが、将来の環境政策を考える時、キーポイントとなる言葉▼かおり環境都市モデル事業なる取り組みが登場して10年近くなる。環境庁は2001(平成13)年に「かおり風景100選」を発表した。暗海の漁火、清々しい夜景なども推薦されるに至らず、函館・道南はなかったものの、道内からは4カ所がランクアップされている▼富良野市などの「ラベンダー」、北見市の「ハッカとハーブ」、登別市の「地獄谷の湯けむり」、釧路市の「海霧(うみぎり)」だが、全国的には水戸市の「偕楽園の梅林」、宮古市の「浄土ケ浜の潮のかおり」、大阪市の「法善寺の線香」、日光市の「霧降高原のニッコウキスゲ」など▼「かおり風景」の意味を考えよう、9月に全国フォーラムが開かれる。開催場所は、かおりの雰囲気が漂う最高の環境ロケーション・和歌山県の高野山。「素晴らしい杉と線香の香りを体験して認識を新たに」という趣旨で、現在、参加者(無料)の募集をしている▼とかく悪臭、排ガスといった公害問題が取りざたされる現代。その対策が急務な一方で、考えていかなければならないのは、この国にある素晴らしい“香り”をどう残し、大事にしていくかの視点。裏返すとそれは基本的な環境対策であることを、響きのいい「かおり風景」という言葉が代弁している。(A)


8月26日(木)

●地域の振興はあらゆる分野が担うが、産業が果たす役割はとりわけ大きい。それは地域経済を活性化し、雇用の創出、といった側面があるからだが、現実問題として新たな技術を生み出し、軌道に乗せる、となると、並大抵のことではない▼鉱産物でも農産物、水産物でもいいが、まず資源が求められる。そして研究開発の機関・体制が必要であり、当然ながら時間がかかるし、金もかかる。もちろん地域の理解も。鍵を握るのはそれらを満たしているか否かだが、少なくとも函館・道南は恵まれた地域…▼北大大学院水産科学研究科、公立はこだて未来大学、函館工業高等専門学校、道立工業技術センターなど、道内他都市から羨まれる機関がある。確かにこれまでは産学官の連携が足りなかった。よく指摘もされたが、時代は新たな認識を求め、流れが変わろうとしている▼その一つの核となっているのが、昨年度から始まった都市エリア産学官連携促進事業。イカとガゴメを2大テーマに新技術の開発研究が行われているが、中でもイカスミからインクを作り出す技術は期待が大きく、生イカの鮮度保持の技術にも関心が集まっている▼函館市は国際水産・海洋都市構想をまちづくりの柱に掲げ、今後さらに産学官の連携に力を入れていく姿勢。研究施設などの整備はもちろん、既に地域企業が大学などと行う研究への補助金制度も打ち出している。こうした取り組みが結実し、どれだけ実用化されていくか。企業はもとより、地域の力も問われている。(N)


8月25日(水)

●「オリンピック発祥の地で一番でゴールできて、最高にうれしい」「日本の3人が(過酷なレースから)生きて帰ってよかった」。アテネ五輪女子マラソンのスタート地点の古戦場・マラトンは、夕方とはいえ、気温35度、強い日差し、足元からの灼熱…▼紀元前、アテネ軍がペルシャ軍を撃退した地。戦士がアテネまで約40キロ走って市民に勝利を伝えて息絶えたというマラソン伝説の地。古代戦士をまつるマラソン塚を周回するルーツ・ロード。近代五輪の第1回大会でも使ったこのコースを、150センチ、40キロの野口みずきら3人娘が激走した▼沿道の市民はオリーブの枝を振って応援。冒頭の喜びは「走思走愛」をモットーに、きつい上り下りを克服してテープを切った勝者・野口の言葉。体は小さいが、子どもの時から、人一倍「負けん気」が強かった。オリーブ冠の下には涙があり、笑顔があり、誇りと輝きがあった▼「あせらず、あわてず、あきらめず」に泳いだ柴田亜衣、「勝っても負けても一本。思い切った柔道をしないと自分である意味はない」とオール一本勝ちの谷本歩実。純白のハナミズキから名付けられた、みずきはマラソンの花になった▼胸の金メダルにはギリシャ神話の勝利の女神・ニケが浮かぶ。恋人に向かって進んでいく美しい娘の姿。女性選手が多い日本選手団。「人に勝つより自分に勝て」(嘉納治五郎)。夏の甲子園では「一つのことに徹底して取り組むことの大切さ」を発揮し、駒大苫小牧が初めて真紅の優勝旗を北海道に持ち帰った。みんな輝いて見える。(M)


8月24日(火)

●「すごい!」「やったよ」。道民を歓喜させた高校野球の駒大苫小牧。22日、日曜日の午後はテレビに釘付けになった人が多かったのではないか。逆転に次ぐ逆転、互いに耐えながら勝利への執念を見せる。試合というより感動と興奮のドラマだった▼どれだけ伝統があろうが、どれだけ有名選手がそろっていようが、甲子園で勝ち続けるのは至難と言われる。「負けられない」という緊張感を維持するだけでも大変だからだが、涙の中で優勝候補が姿を消していく光景を何度も見せられているが、それが甲子園…▼ただ力がなければ勝てないのも事実。駒大苫小牧には力があった、その力を勝利に引き込む精神力もあった。少しもひるむことのない爽やかで、積極的な試合ぶり。初戦から決勝まで、戦いの跡がそれを物語っている。それにしても…。本当に強かった、すごかった▼点をとられたら、即、取り返しに向かう姿勢は見事の一言。打たれもしたが、さらに打ち返して、跳ねのける。しかも守りも完璧。決勝の序盤、4点をリードされた時も、勝負はこれから、と見ていた人が多かったはず。実際、その通りに試合を持っていったのだから立派▼アテネ五輪で感動続きだが、道民にとっては駒大苫小牧の全国制覇は五輪を上回る感動ニュース。勝ち方、戦い方とも圧巻という言葉があるだけ。久々の明るい話。それを高校生がもたらしてくれた。駒大苫小牧に改めて「おめでとう」の祝福と「ごくろうさま」という労いの言葉を贈りたい。(H)


8月23日(月)

●「食料自給率」。食料消費のどの程度が国産で賄われているかを示す指標だが、わが国がその向上という大義を背負わされて久しい。いかに多くの食材が諸外国から輸入されているか、それは店頭などで明らかだが、現実は極めて低いレベルで横ばいという実態▼農林水産省は、この6日、昨年度の自給率を発表した。新聞各紙が報じていたので覚えている人もいようが、この6年間、同じ水準のまま。最も一般的な自給率であるカロリーベースで40%。生産状況も同様で、魚介類をはじめ、ほとんどに大きな動きが出ていない▼「食料安保」という言葉があるが、これだけ低いと何か不測の事態に直面した時への不安がつきまとう。唯一の救いは主食の米が100%ということだが、ちなみに昨年度のデータによると、肉類54%、魚介類50%、野菜82%、果実44%、小麦14%、豆類6%など▼これらを総合的にはじき出した率が40%というわけだが、落ち始めたのは今から30年ほど前の1975(昭和50)年ごろ。ちなみに1960年代は70%レベルだった。実際に1965(昭和40)年は73%であり、1985(昭和60)年でも53%と5割ラインを維持していた▼それが今や、何とか40%を維持するのに汲々としている状況。その背景にあるのは専業農家の減少であり、工業製品の輸出のしわ寄せ…。昨年の国民意識調査で不安の声が多く寄せられたのも記憶に新しい。せめて50%には持っていかなければ。だが、現実は政府が掲げる6年後(平成22年度)の45%すら危うくなっている。(A)


8月22日(日)

●「地球温暖化に対する意識はまだまだ」。函館市が行った意識調査の結果から、こんな姿が浮かび上がった。予想された結果と受け止める向きもあるが、意識がまだなのだから、生活、企業活動における現実の対応となると、今後に委ねられるレベル▼人類が21世紀に解決しなければならない最大の環境課題と言われるのが、この地球の温暖化対策。現実にその影響は世界各地の異常気象などとなって現れ、二酸化炭素やメタンガス、フロンガスの排出量の抑制などが具体的対策として求められている▼わが国は京都議定書を踏まえ、抑制すべき努力目標を設けているが、国民的な取り組み、全国的な成果となると、悩み多いのが実情。したがって函館市民の意識が際立って低いわけではないとも言えるが、それにしてもいま一つ、と教えているのが函館市の調査結果▼市民の53%が「生活を多少変えてでも(対策を)進めるべき」、企業の34%が「事業活動に多少制限を加えても進めるべき」と答えてはいるが…。企業にとっては経費のかかることであり、この調査結果には「おいそれとはいかないよ」という思いも滲(にじ)んでみえる▼個々人、個々の企業に対策を委ねて解決する問題ではない。国をはじめとする行政の誘導策が必要であり、その点からすると、わが国は対策自体がまだ始まったばかり。今、大事なのは「出来ることから始めよう」という意識の醸成。この調査結果もそうアドバイスしている。(N)


8月21日(土)

●カードなど企業が持つ個人情報の流出や紛失が相次いでいる。“カード社会”の落とし穴が現実となっている、ということだが、それにしても…。先日も「DCカード」が48万人分もの情報が流出した恐れを公表したが、こうも多いと穏やかでない▼キャッシュであれ、クレジットであれ、ポイントも同じだが、カードを作るということは自分の情報、少なくとも氏名、住所、電話番号は記載しなければならない。要は個人情報の管理を委ねているということであり、それは他に漏れないことを前提に成り立っている▼だが、その個人情報が金になる。買うところがあるから、売りつける。分かりやすい漏えいの背景だが、流出させない管理こそ、利用者との信頼関係を維持する企業モラル。それが崩れているということだが、表に出ていないだけで、日常的に起きているのかもしれない▼現実問題として発生が多い。今年に入ってからは毎月のように起きており、明らかにされただけで15件。2月のソフトバンクBBの451万人を含め100万人以上が2件、さらに95万人、62万人、30万人などがあり、デジタル時代を反映して1件当たりの流出も大量に▼流出や紛失はもちろん企業の管理責任。ただ、そこに絶対はない。としたら、社会も考えなければならない。持ち出した犯人、許した企業などに対する法整備の強化などを含めて。本来、企業と利用者を信頼で結ぶカードが、このままでは…。「作る時には流出を覚悟して」が前提になりかねない。(N)


8月20日(金)

●「STOP 誘惑に負けるな DON´T 非行」(ある中学生の非行防止の標語)。警察庁のまとめによると、今年上半期の非行少年は少年人口1000人当たり7・8人で、最悪だった80年代前半に迫る勢い。「出会い系」の売春や大麻取引行為などが目立つ▼児童売春事件は昨秋、出会い系サイト規制法が施行されても歯止めがかからない。高校生の2人に1人の少女が金銭目的で性的交渉を持つことは「問題はあるが、本人の自由」と考えており、罪の意識はない。携帯電話のサイトで相手を募り女子生徒に売春をさせるケースが多い▼矯正保護講座を受けていた学生時代、少年院の講師から少年非行化10カ条なるものを聞いた。まず「金こそ人生のすべてだと教えよ」「欲しいものは何でも買ってやれ」「理由を問わず、失敗や間違いは叱り飛ばせ」▼「どこで何をして遊ぼうと気にしない」「兄弟らと比較し、お前はバカだを連発せよ」「小さい時から放りっぱなしにし、家族のふれあいなど無用」など。それは大人がこうした“エゴ行動”をとれば非行が進むという教えであり、そこには「子供のSOSに気付いてあげて」の願いが込められている▼警視庁の研究会は非行対策の新法制定に「保護者の一次的責務を法に明記する」の提言方針をかためた。子供が非行に走り事件を起こした時、親の責任がどこまで問えるのか、が問題だ。携帯もタバコや酒のように法律で20歳以上にすればよいのか。あす21日は「少年を非行から守る日」。(M)


8月19日(木)

●「雇用情勢が悪い、新規就職も狭き門。そう言われてきた中で、新卒就職者の早期離職率は依然として高水準」。そんな悩める姿が厚生労働省の統計から浮き彫りにされている。やり直しは早い方がいい、確かにそうも言えるが、それにしても…▼「7・5・3離職」という言葉がある。中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が、最初に就職した企業を3年以内に辞める、ということを表した言葉だが、誇大な表現でもない。現実はその通りで、雇用情勢が悪いと言われた近年においても変わっていないのだから▼最新の統計をみると、例えば2000年の高卒就職者の場合、1年目に辞めた人は26%、2年目が15%、そして3年目が9%で、合わせて50%。ちなみに中卒者は73%、大卒者は37%。いずれも過去最高というか最悪とであり、中高年の感覚では心配される実態▼率で言われても実感が薄いかもしれないが、ともかく中卒者で4人に3人、高卒者で2人に1人、大卒者でも3人に1人である。それでも説得力ある理由があって、次の職に見通しが立ってのことならまだしも、現実には首を傾げるケースが少なくないのだという▼仕事が自分に合わない、会社に馴染めない、フリーターの方が気楽…。もちろん全員がそうでないが、はっきりしているのは自発的失業が圧倒的に多いということであり、背景に浮かび上がるのは就職に対する価値観の変化。今の社会には即効薬も、妙薬もない。このままでは…。「8・6・4離職」という言葉に置き換えられる時代も来かねない。(A)


8月18日(水)

●アテネオリンピックが開幕して6日。柔道をはじめ水泳、体操など感動の連続。然るべき人の期待通りの活躍が続き、寝不足の人が多いに違いない。テレビや新聞などの報道合戦も過熱気味。テレビは入れ替わり立ち代り流し、新聞は号外の発行ラッシュ▼前半を担ったのは、わが国のお家芸である柔道。初日に野村忠宏、谷亮子がプレッシャーをはねのけてオリンピック3連覇、2連覇を達成。さらに内柴正人が続いた。一方の水泳では北島康介が、体操では男子団体が「金」に。その姿は讃えて余りある▼人間誰しも期待されればされるほど精神的な負担を感じる。苦しい練習を重ねてきたのは皆同じであり、勝負に絶対はない。自信があっても過ぎる不安。それを跳ね除け晴れの舞台で実力を発揮する精神力たるや並大抵でない。弾ける笑顔がそれを如実に物語っている▼国内予選を勝ち抜き射止めた代表の座。重圧の中で戦う緊張感、それだけに終わった後の解き放された爽やか感。贈る拍手は掛け値のない祝福だが、それは同時に勝利に至るまでに重ねたであろう苦労に対するねぎらいでもある。「よく頑張った」。そんな言葉をかけたくなる▼笑顔と涙がつきもの、と言われるように、勝負の世界は厳しい。答えがはっきり出るからだが、それも含めてスポーツの素晴らしさ。だから夜中にもかかわらず観てしまう。寝不足状態はしばらく解消されそうにないが、けっして苦でない。“真剣勝負の人間ドラマ”は、早くも中盤に差し掛かろうとしている。(N)


8月17日(火)

●「ませに咲く花にむつれて飛ぶ蝶のうらやましくもはかなかりれり」(西行)。垣根に咲く花に戯れるように舞う蝶は美しい。蝶を愛する先輩から、いつも自ら撮影の蝶を刷り込んだ暑中見舞いや年賀状が届く。国蝶のオオムラサキなどを見ると、心が洗われる▼本紙によると、チョウの仲間で唯一「渡り蝶」のアサギマダラが今夏、道南地方で大量発生しているという。アサギマダラは不思議なチョウ。日本には6種分布しているが、大半が南西諸島に見られ、本土にいるのはアサギマダラだけ。春は南から北へ、秋には南へと列島を往来する▼幼虫が食べる草がなくなると、1300キロも離れた沖縄や台湾へ飛ぶ。吸蜜する花は春はスイセン、夏はヨツバヒヨドリ、秋はヒヨドリバナで、ミズヒマワリという水草も好物。琵琶湖などから南下したマーキング・チョウは確認されているが、道南からの長距離移動は確認されていない▼北海道と本州には津軽海峡を挟んでブラキストン・ラインという生物境界線が引かれており、生物の生息が異なるといわれているが、今夏は猛暑のせいか、海峡を越えて大量に発生した。調査した「道南虫の会」は、津軽海峡の「渡り蝶」の解明につながると期待している▼荘子が夢で胡蝶になり自分と蝶との区別を忘れたという「胡蝶の夢」。「現実と夢との区別をしっかりつかまえよ」。うらやましくも、美しく飛ぶ「渡り蝶」は、そんなことを諭している。道南の大量発生に女性上位のアテネ五輪選手が重なる。最高の蜜(金メダル)を求めて、美しい舞が見たい。(M)


8月16日(月)

●「日本も安全な国でなくなっている」。というより、社会不安が増大しているという思いが強い、ということだろう。そんな現実が7月中旬に発表された内閣府の特別世論調査で明らかに。日本の“安全神話”が崩れている現実を、改めて認識させられる▼「治安がいい」。それは世界に通じる、わが国の一つの誇りだった。ところが、近年は胸を張っていられる国ではなくなっているよう。実際に少年犯罪や凶悪事件、国際犯罪の増加など、過去の経験則にない信じ難い事件・事故が起きている。それも身近なところで…▼特別世論調査は「安全と安心」に絞って初めて行われた調査。その結果、「安全・安心な国だと思う」の39%に対し、そうでないという否定派が半数以上の56%。悪質になり、増える一途の犯罪が脅威となっているようで、治安の悪化を理由に挙げた人は64%▼それはテロなどの脅威増加(51%)なども含め、犯罪の凶悪化に対する懸念が増していることの証し。ただ、その一方で気になるのが、日常生活の中で高まる不安。少年非行・ひきこもり・自殺などの社会問題の多発、雇用や年金などの経済的な不安の増加といった形で表れている▼安全・安心を脅かしているのは、必ずしも凶悪犯罪ばかりでないということだが、その象徴的な答えが30%を超す率で表れた「社会の連帯感が弱くなった」という思い。だから不安も増す。このままでは…。現代が抱える“病巣”が、この特別世論調査からも浮き彫りにされている(H)


8月15日(日)

●一時は廃園の危機をさまよった旭川市の旭山動物園が、見事なまでに蘇った。それを立証したのが7月の入場者数。昨年7月の2倍に当たる18万5461人。動物園の雄・東京の上野動物園より3万6000人上回って、堂々の動物園第1位に▼旭山動物園は規模や展示動物など、決して際立った施設ではない。病気の動物を抱えて休園の事態を経験、1996(平成8)年には年間入場者が26万人にまで落ち込んだ。実際に存廃論議も交わされたとも言われるが、厳しさの中で生み出したのが“旭山流”の展示▼「革新的な動物の見せ方」。こう評論した識者の話を聞いたことがあるが、要はどこにでもある動物園スタイルを打破した、ということ。それは「オランウータンの空中散歩施設」や、6月にオープンした「円柱水槽のアザラシ館」などの斬新な見せ方が象徴している▼個性がいかに大事か、の証だが、こうした施設に大事なのは個性であり、特色づくり。造る時にパターンを踏襲すると、いつまでも規模の大きな施設にはかなわない。旭山動物園は個性を生み出した、言葉を変えると、足かせになっていた既成概念を振り払ったということ▼時あたかも函館では水族館建設構想が最終論議に入っている。水族館も、動物園も同じだが、管理費、維持費が非常にかかる施設。問題は造った後の運営であり、成否の鍵は「どう個性(特色)を持たせるか」の一点が握ると言って過言でない。旭山動物園が実体験を通して教えてくれている。(N)


8月14日(土)

●「観光大使」。いつ頃、登場した言葉か定かでないが、都道府県や市町村の魅力をPRする応援者、とでも言おうか。インターネットをみると分かるが、全国的にかなりの数の自治体が採用している。北海道でも札幌市を除く主要都市の多くは…▼函館市は1995(平成7)年から委嘱を始め、ちょうど10年。「函館にもいる」。漠然とは理解していても、何人ぐらいいるか、まで知っている市民は少ないはず。臥牛子もその一人だったが、聞くところによると、俳優や歌手、作家など著名人を含め150人▼一方、つい最近、その札幌市が踏み切った。第一期として188人ということだが、注目されるのは支社長、支店長といった道外企業などの出先トップらに白羽の矢をたてたこと。というのも出身者やゆかりの著名人など在住者外の人に委嘱するケースが圧倒的だから▼むしろ出張などの多い出先トップの方が効果的という考え方。出先が多い札幌だから出来るとも言えるが、地元にいるから接触もしやすければ、研修会も開ける。要は実を重視したということだが、約2600社に協力を依頼し、快諾してくれた人にお願いしたという▼また、新しい発想を感じさせるのが名刺に付加価値をつけたこと。クーポンの役割を持たせている。受け取った人が札幌を訪れた際、その名刺を提携飲食店などに持参すると、料金の割引があったり、記念品がもらえるように…。まだ未知数なものの可能性を秘めたアイデア。参考に値する。(A)


8月13日(金)

●10日ほど前になるが、函館でパブリックアートが壊された。各地で聞く話で、「函館ではそんな不心得者がいなければいいのだが」と思っていたが、残念ながら現実になってしまった。井上市長も異例の談話を出したようだが、何とも情けない話である▼街中に潤いと安らぎを、そんな思いを凝縮して設けられているのが公共空間の芸術作品・パブリックアート。欧米では公共建造物の場合に建設費の1%をアートに充てるよう義務付けている国もあると言われるが、そこまではともかく近年、わが国でも設置が増えている▼観光都市として函館市が踏み切ったのは1999(平成11)年度。まだ5年ほどしか経っていないが、シーポートプラザや大門、本町など、これまでに18基のブロンズ像が設置されている。壊されたのは「今後も充実させていこう」と新たな議論が始まろうとした矢先だった▼その作品は松風町グリーンプラザBブロックの「函館の妖精 舞い」。複数の人間で行った“犯行”と見られるという。場所がどこであろうと、常時、見張っているわけにはいかない。結局は公徳心に委ねるしかないのだが、続くようだと、設置を止めようか、ともなり兼ねない▼実際、函館の破壊が報じられた同じ日のある新聞に、こんな記事が載っていた。香川県高松市のJR駅前にあった「那須与一像」が撤去された、と。その理由は、この3年ほどの間に7回も被害に遭ったことだった。函館だって…。今回の破壊を、たまたま起こったこと、と片付けてはならない。(H)


8月12日(木)

●アテネ軍の兵士が約40キロを走って勝利を報じ、マラソンの起源になったとされる「マラトンの戦い」は、太陽暦として計算し直すと8月12日だという。あす13日開幕のアテネ五輪は古代ギリシャ五輪のように最高気温が40度を超す酷暑の中で行われる▼史上最多の日本選手団513人は張り切ってアテネ入り。女子171人、男子141人と初めて女性上位。特に団体競技は男子の野球、サッカー、体操の3競技に対し、女子はソフトボール、サッカー、バレー、バスケット、ホッケーの5競技に出場。道産子選手も14人のうち、男子は2人だけ▼「五輪が(薬物に)汚されていないと考えて泳ぐ選手がいるなら、世間知らずもいいところだ」と言ったイアン・ソープ選手の発言が気にかかる。毎回、ドーピング(禁止薬物使用)で失格する選手が絶えない。古代五輪ではフライングの選手はムチ打ちの刑を受けていたが…▼また、休戦を呼びかけてから開催したのが古代五輪。今回のアテネはテロを警戒し、物騒な空気。選手村に近い空港にパトリオット迎撃ミサイルが配備され、警備には約5万5000人のギリシャ軍が動員される。NATOも上空を警備、核兵器特殊部隊もかけつけ、まるで「軍隊五輪」▼古代五輪は勝利だけが目的。オリーブの冠をかぶり、英雄から神に祭られた。2位、3位などは記録にも残らなかった。五輪発祥の地の炎天下、走り続ける日本選手の活躍が大いに楽しみだ。聖火リレーの目玉となる古代船「オリンピアス」も復元され、出番を待っている。(M)


8月11日(水)

●あれから59年…。今年も終戦記念日が近づいてきた。そんな中、この2日、札幌の道庁赤れんが庁舎に「樺太関係資料館」がオープンした。道内には樺太(サハリン)出身者が多く、当時の樺太を知る場として、懐かしむ場として開館の意義は大▼樺太は宗谷岬から43キロに位置し、国土面積は北海道の43%に当たる約3万6000平方キロ。炭鉱などがあり、1941(昭和16)年の国勢調査人口は40万6000人。だが、戦争は悲しい事態を次々と生み出し、敗戦によって住民は生活の地を追われることに▼引き揚げ第一船「雲仙丸」が、1927人を乗せて函館に入港したのは1946(昭和21)年12月。函館への引揚者数は約31万人と記録されているが、途中、病気などで亡くなった人も少なくない。ご存知のように函館市内にはその人たちを偲ぶ上陸記念碑が建立されている▼「樺太に関する資料を残し、多くの人に見てもらいたい」。10年ほど前から札幌の別の場所に資料展示室が設けられていたが、展示品の充実を図った上で、利便性と知名度の点から資料館の場所として選ばれたのが赤れんが庁舎。部屋全体で当時を伝えている▼臥牛子は樺太生まれではないが、函館に引き揚げてきた家族の一人。子どもの頃、両親から何度も当時の苦労を聞いたのを覚えている。資料館は引揚者の心の拠りどころとなり得る存在であり、そこに立つと、様々な思いが交錯するに違いない。引揚者の願いがようやく実を結んだ。(A)


8月10日(火)

●きょう10日は1986(昭和61)年に建設省(現国土交通省)が制定した「道の日」。国民生活に欠くことのできない基本的な社会資本である道路の重要性を認識してもらいたい、そんな願いを込めた制定で、今年も全国で記念事業が繰り広げられる▼この日が選ばれた理由は、わが国で最初の道路整備についての長期計画である第一次道路改良計画が実施された日が、1920(大正9)年の8日10日だから。道路の計画的な整備が始まって80年余りになるということだが、現実は、特に地方では、なお多くの課題を抱えている▼言うまでもなく日常の生活も、社会の発展も、道路を抜きに語れない。物流はもちろん、レジャーにしても、その足は車であり、走ることを可能にするのは整備された道路。全国的には進んだが、北海道、とりわけ道南は、というと、依然として遅れたまま▼道央と結ぶルート一つとっても、脆弱な国道5号があるだけ。函館港に大型コンテナ船が接岸できるバースは出来たが、港からの交通アクセスが整っていない。駒ケ岳が噴火した際など災害時の心配もある。そう考えていくと、道路問題は大きな地域テーマでもある▼昨年来の高速道路議論は地方にとって厳しい内容だが、それは「言われっぱなしでいいのか」という問いかけでもある。もちろん、必要以上の道路は要らないし、造るべきでない。だが、道南はまだ要るレベルなのだから言わなければ…。「道路から ゆたかな未来が つくられる」。今年の「道路ふれあい月間」の入選標語の一つは、こう語りかけている。(A)


8月8日(日)

●江戸から明治にかけて商船として日本海を行き来した「北前船」。高田屋嘉兵衛の名とともに、道南の経済・文化の発展に寄与したことで知られる身近な存在。以前にその航海が再現されたことがあるが、今、青森でその「北前船」の建造が進んでいる▼踏み切ったのは、みちのく北方漁船博物館財団。地元の金融機関・みちのく銀行が社会貢献事業として1999(平成11)年、JR青森駅に近い沖館地区に開設した木造船博物館の運営団体だが、その名に恥じず国の重要有形民俗文化財67隻を含む130隻を展示中▼船(舟)の歴史は木造から始まっている。その後、材質や形など様々な変遷をたどってきたが、もはや漁船も木造が姿を消してしまって…。同財団、同博物館の誕生は「今のうちに収集保存しておかなければ」という大道寺小三郎会長の思いが具現化したもので、その意義は大▼そして目を向けたのが「北前船」。近代交通史を伝える生きた貴重な資料として復元させておく必要がある、という判断が復元を促した。各地から木造船を手がけた経験豊富な船大工を集めたところに、同財団の熱い思いが読み取れるが、建造費は実に1億5000万円▼「皆様に『海と船』に対して愛着をもっていただきたい、特にお子さんに夢を与えたいと思う」。大道寺会長は同博物館ホームページのあいさつで、こう話している。そこに「地域のために」という思いと姿勢がうかがえるが、「北前船」の復元は、まさしく夢を与える取り組み。来年夏の完成に期待が膨らむ。(H)


8月7日(土)

●競走馬で今、知名度の高い馬の1頭が、地方の高知競馬で走る8歳牝馬の「ハルウララ」。3日には自らの名が冠になった「ハルウララ・チャレンジカップ」に、妹のミツイシフラワー、弟のオノゾミドオリと出走し、再び話題に。結果は5着で、遂に113連敗▼今年はコスモバルク(ホッカイドウ競馬)がスポットを浴びているが、過去に名を馳せ、今も語り継がれる競走馬は、中央で活躍した馬ばかり。勝負の世界だから、強い馬、勝ち進んでいる馬が人気を集めて当たり前だが、ハルウララはその点でも異質▼知られるように1998(平成10)年11月のデビュー以来、連敗記録を更新中。「負けても一生懸命に走る、その姿が感動を与える」。確かにそうだが、全国的な“人気者”にした背景にあるのは、負け続けに目をつけた情報の発信であり、透けて見えるのが逆転の発想▼何事にも大なり小なり負の部分がある。その負の前では「どうしようもない」との思いが先に立つが、現実には負の部分を逆手にとって成功した事例は少なくない。「負けもこれだけ続けば『売り』になる」。高知競馬の“ハルウララ作戦”は、紛れもない逆手の成功例…▼そのしわ寄せを受け、困惑しているのは当のハルウララ。「もう静かに余生を送らせてほしいよ」と願っていたかもしれない。話題にされ、競馬人気に貢献することほぼ1年。人間社会の逆転の発想にほんろうされて可哀相と思っていたら、先日、来年3月の引退が発表された。せめて花道を飾らせてあげなければ…。(A)


8月6日(金)

●広島に原爆を落としたポール・テイベッツ機長は「広島はパーフェクトだったが、長崎原爆はもっと破壊力があったのに、目標地点が山側にはずれた」と言った。被爆者は戦争という名の実験モルモットだったのか▼広島の「原爆の子の像」のモデルで、被爆10年後に亡くなった佐々木禎子さんの遺影が、先ほど平和祈念館に登録された。黒い雨を浴びて、闘病中に回復を祈って鶴を折り続けた「禎子さんと折り鶴」の物語は、世界に平和の大切さを訴えた。遺影は入院前に走った秋の運動会の写真…▼5月には「原爆の火」を灯し続けた山本達雄さんが88歳で亡くなった。福岡から広島に入り、爆心地の近くにあった叔父宅の焼け跡にくすぶっていた火を懐炉に入れて持ち帰り、23年後に平和の塔に移された。反戦のシンボルとして、北広島市など全国に分火されている▼「核は使い方によっては平和のために使える」という米のノーベル賞作家の発言に「ぼくはそうは思わない。もし間違えたらどうするの。悲劇を繰り返すことはない。これは人類にとって悲劇というより、人類の終焉につながっちゃう話だ」と言った黒澤明監督の5年前の言葉が脳裏を離れない▼「原爆の子の像」には、今も世界から年間1000万羽の折り鶴が寄せられている。函館からも中学生6人が約10万羽の折り鶴を持って訪れ「戦争の悲惨さ」を学んでくる。広島(6日)、長崎(9日)の原爆忌、終戦記念日(15日)と続く追悼の夏、心こめて平和をかみしめよう。(M)


8月5日(木)

●今年の野外劇も残すところ、6日と7日の2日間。7月9日の初日こそ悩まされたものの、雨天中止もなく、順調な日程消化の中でいよいよ最終盤。「多くの人に(函館野外劇の)素晴らしさを感じ取ってもらいたい」。関係者は声を大に呼び掛けている▼野外劇については、過去、本欄でも数多く取り上げてきた。「函館にとってかけがえのない文化財産。揺るぎないものに育て、全国に発信する役割を担うのは自分たち。そのために一度は観ようよ」。そんな思いからだが、残念ながら未だその域には達していない▼開幕前に毎年思うのは「今年こそ観客1万人を超してほしい」ということ。10回公演だから、1回1000人なのだが、この壁がなかなか厚い。それでも今年は前半、昨年を上回る実績だったようで、6回終了時点で4214人。8000人台までは読めるが…▼何度も書いてきたが、国内で函館に肩を並べる野外劇はない。追随するレベルの所もないということは、それだけ価値があるという証。遂に今年は1回丸ごと買い取りする旅行代理店が現れた。特集を組んだ雑誌も多く、野外劇に合わせて来函する人も増えている▼「一度は観たい」。外部の評価が高まる一方、不思議なことに地元の認識はいま一つ。「どんなに金をかけた宣伝も、地元の人の口コミには叶わない」。ある講演で聞いた話だが、野外劇は紛れもなく口コミに値する地域財産。その理解さえあれば、観客1万人など、少しも難しいことではないのだが…。(A)


8月4日(水)

●世界で今、5人に1人が安全な水を利用できないといわれる。水質汚染と水の浪費が原因で、21世紀半ばには最悪の場合、全人口の7割以上にあたる70億人が水不足に直面する(国連)。また、今後20年間で、途上国の7600万人が不衛生な水が原因の病気で死亡するという▼人間が使える地球上の水は全体のわずか0・01%。気温44度を超える炎暑のインドで、枯れ果てた1本の井戸に100人超の住民が群がる映像を見た。太古から水の恐ろしさとありがたさはよく知られており、治水が政治の基本。大河の多くは国境をまたいで流れ、国家間の紛争も絶えない▼「水は無限に存在するのだろうか。水に関する様々な問題が世界的に深刻化していることを知りました。実際に起こりうる命にかかわる危機が、すぐそこまで来ています。有害物資が排水溝から流出します。人間の体に悪いものは自然にも悪いのです」▼戸井町の中学生、川村理子さんの作文(昨年の「水の作文」北海道優秀作)。「水から命をもらい、生かされている私たち人間が水を壊しているのです。水に感謝し、考え直す時が来たのです。川や海のゴミを拾う、そんな、ささやかな行動から始め、水や地球を守りましょう」と訴える▼自衛隊はイラクで水を作っている。道内の今夏は7年ぶりの「暑い夏」。かけがえのない恵みの水を湯水のように使っている。蛇口を流しっ放しにしないなど、大人が水再考の姿勢をみせれば、子供たちの節水意識も高まるはず。7日まで「水の週間」。(M)


8月3日(火)

●社長夫妻の死から数日後…。「網走新聞」が事実上の廃刊に陥った。予期せぬ事態とはいえ、同じ地域紙として他人事とは思えない。今はただただ復刊させてほしいと願うばかり。「北網に地域紙の灯を消すな」。改めてそんな思いがこみ上げてくる▼道内には各地で発行する地域紙が大小20紙ほどあろうか。そのうち北海道地方新聞協会の加盟社が15社。「網走新聞」は本紙の先輩であり、その仲間だった。創刊は戦後の1947(昭和22)年。4ページの紙面を通して56年にわたり、網走地域の発展に貢献してきた▼経営者として、記者として「網走新聞」を支えてきたのが亡くなった社長。同協会の会合で何度かお会いしたが、地域を愛する姿勢が伝わってくる人だった。それは創刊50周年を記念し出版した自らのコラム集「きょうの話題 あすへの話題」(1997年11月)からもうかがえる▼道内での新聞廃刊は、この10年で3紙目。1998(平成10)年9月に「北海タイムス」、2001(平成13)年に「北見新聞」が歴史を閉じている。その2紙と事情は違う。幸い、買い取りを打診している企業があるとの情報もあるが、無くしてはもったいない▼新聞は「創刊するのも難しいが、復刊はさらに難しい」と言われる。負の部分を背負うからで、時間が経てば経つほど難しくなるだけに、譲渡話がうまく運ぶかどうか、その動きが注目される。「一日も早い復刊を…」。亡くなった社長夫婦はそう願っているに違いない。(H)


8月2日(月)

●わが国の「雇用」は今、まさに変革期。回復の流れにあるものの、経済の長期低迷は企業に雇用対策を強いたのは事実。賃金の抑制や、従業員の削減に象徴されるが、そこで生まれたのが非正社員の増加という現実▼先日、厚生労働省が発表した就業形態に関する総合実態調査からも、はっきりとうかがえる。昨日の本欄では社員の処遇として登場した成果主義の諸問題を取り上げたが、定年制と正社員制こそ、わが国における雇用の特徴だった▼その構図が崩れてきた。実態調査の結果によると、2003年の非正社員(契約、嘱託、派遣、パート)は、実に全労働者の3人に1人に当たる34・6%という。ちなみに4年前の調査では27・5%だった。企業の対応に目を移しても、20%がこの間に「非正社員の比率を高めた」と答えている▼増えているとはいえ、契約と派遣はそれぞれ2%台。非正社員で圧倒的に多いのがパートで、全労働者の4人に1人に当たる23%。「パートが支える時代」が色濃く滲む。人件費が抑制できる、繁閑の対応がしやすい、などが理由だが、それにしても…▼だが、この就業形態が今後大きく変わるとする見方は少ない。実態調査で20%の企業が非正社員率は上昇すると答えているのも一つの証しだが、その一方で非正社員の8割が正社員を希望しているという現実もある。年金などの社会福祉問題を頭に描くと、非正社員34・6%を「そうなんだ」と聞き流すわけにはいかない。(N)


8月1日(日)

●今の時代に合った人事管理として登場した成果主義が、厳しい現実に直面している。「やる気を促し業績を上げるはずが、肝心の社員の評価が芳しくない」。独立行政法人の労働政策研究研修機構の調査から、そんな一面が浮き彫りにされている▼わが国は長きにわたって学歴優遇の年功序列社会だった。今もなお残るが、新しい制度として1990年代に入って脚光を浴びるようになったのが、この成果主義。「実績を挙げれば、それに応じた処遇をする」という考え方が受けて急速に広がった▼函館はともかく、全国的には中規模以上の企業の半数以上が導入している、とも言われる。いかにも合理的な制度に映ったということだろうが、いざ踏み切ってみると…。導入企業の8割が問題ありと答えた調査結果もあれば、見直したという企業の話も報じられている▼そうなるのも、成果主義は社員が上司と決めた目標の達成度合に応じて報酬と処遇が決まる制度だから。短期的に業績を求め、目標の辻褄(つじつま)合わせに走る、などはよく指摘されるが、往々にして多いケースが管理職の能力など制度に対応できる社内体制にあるか否かの認識不足▼成果主義には評価が介在するからだが、社員の不満は制度そのものへの不信に。同機構の調査でも約3割が「納得感が低下した」と答えている。個々の能力を上げれば業績も上がる、確かに理屈だが、それも対応し得る環境が築かれていて言えること。その前提が揺らいだり、欠けていては…。成果主義の落とし穴はそこにある。(N)


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