平成17年6月


6月30日(木)

●あすから全国安全週間が始まる。今年のスローガンは「トップの決意とみんなの創意、リスクを減らして進める安全」。それにしても、この1年重大事故を起こした企業や官庁のトップが、テレビで頭を下げる姿を何度見たことか。交通機関、情報会社、エネルギー会社、果てには命を守るはずの医療機関までも▼かつて世界で最も安全といわれた国が、阪神淡路大震災以来、大きく揺れている。安全対策は費用がかかる上に直接の利益をもたらさない。不況を理由に企業は安全を軽視してはいないか、官庁は指導と監督を適切に進めたのであろうか、そこが問われている▼安全を考慮しない利益優先が大きな損失を招く。いったん事故を起こすと、企業の存亡にかかわる結果になることは多くの実例が示している。日本の企業に欠けているといわれるリスク管理。安全の実現には関与するすべての人の意識が鍵を握る▼規則違反や無謀な運転、手抜きや知識の欠如があっては、いくら安全装置や管理を充実させたところで事故は防げない。確かにリストラや団塊の世代の高齢化で、現場から熟練者の姿が大きく減りつつある。そこに事故多発の原因の一つがあると指摘する声もあるが、そういう時代だからこそ、なおさら技能の継承、安全教育の徹底が求められる▼この全国安全週間はそれを確認する機会。トップから現場の従業員まで一丸となって安全意識の醸成を…。日本の“安全神話”を復活させる道はそれしかない。(K)


6月29日(水)

●川柳人気は上昇中。そんな思いを抱かせるほど、ここ数年、川柳の募集が増えている。その先駆けは誰もが知る第一生命の「サラリーマン川柳」(通称サラ川)。1987(昭和62)年に始まって、この間に寄せられた作品総数は約73万句というから驚く▼川柳とは「俳句と同じ五七五の形式で、人事、風俗、世相などをウイットとユーモアを交えて風刺する短詩」(小学館刊現代国語例解辞典)。伝わってくる楽しさ、おかしさが、ともすると沈みがちな今の世の中の清涼剤となっているのか「○○川柳」は数多い▼インターネットで探すと、あるわあるわ。花粉症川柳(協和発酵)、おそうじ川柳(ジョンソン)、子育て川柳(和光堂)、遺言川柳(UFJ銀行)など。ちなみに昨年のサラ川の第1位作品は「オレオレに 亭主と知りつつ 電話切る」だったが、いずれも納得する作品ばかり▼例えば花粉症の「杉の子の 歌で育って 花粉症」に始まって、子育ては「やっと寝た! あとはこの腕 どう抜くか…」、おそうじは「君とカビ 落ちにくいほど 燃えるんだ」、遺言は「筆不精 初めて知った 父の文字」といった具合。素晴らしいという言葉しかない▼そして今年、道内企業として新たに企画したのがJR北海道。「乗車マナー川柳」と銘打って、迷惑行為ワースト3の携帯電話、座席占有、座り込みからテーマを選んでもらってという趣向で、現在募集中(詳細は同社事務局011―738―8520)。この川柳には社会的な意味合いもある、どんな作品が寄せられるか…。楽しみが広がる。(H)


6月28日(火)

●きょう28日が「貿易記念日」ということは、意外と知られていない。記念行事が行われて不思議でないほど、函館では大きな意味を持つ日なのに。というのも、わが国最初の自由貿易港として徳川幕府から布告を受けた、歴史に残る都市だからである▼アメリカ、ロシアなど5カ国の貿易港として横浜や長崎とともに。今から165年ほど前になる1859(安政6)年のこの日だった。箱館港への最初の入港船はアメリカの「モーレー号」で、残っている記録によると、それから9年間に入港した外国船は640隻…▼外国の出先機関も次々と誕生するなど、幕末の箱館は近代日本の世界への玄関口としての役割を担った。国際色豊かに繁栄の時代をおう歌してきたとも言えるが、次第に小樽港などの勢いに遅れをとり、近年は貿易港としての地位が揺らぐ状況を強いられている▼今から10年ほど前で、貿易実績は苫小牧、室蘭に次いで道内3位。輸出の船舶が鍵を握るものの、ここ4、5年は輸出入合わせて250億円前後のレベル。決定的な理由は近代港への整備の遅れだが、ようやく新岸壁が機能し始め、将来への道が開きつつある▼その期待を担うのが、水深14メートル岸壁を持つ港町ふ頭。今年、韓国の釜山や中国東北部の大連などと国内数港を結ぶコンテナ船の定期航路が開設された。「再び港での繁栄の時代を」。抱える課題は多いが、大事なのは地域の認識醸成であり地道な取り組み。それを考える日に…。「貿易記念日」はそう提案している。(A)


6月27日(月)

●「ごみは持ち帰りましょう」。登山者や観光客にそう求める運動が提唱されて久しい。そして今、当然のマナーとの認識が定着したとは言われるが、現実はどうか、というと、なお啓蒙と後始末が必要な状況。残念な思いにかられる光景は少なくない▼観光地はともかく車も入れない山などは、トイレもさることながら、ごみは大変な問題。過去の負の遺産として象徴的なのが富士山であり、世界的にはヒマラヤ…。来年も清掃登山が計画されている。「今きれいな所は早く手を打っておくこと」。これほどの教訓はない▼世界遺産登録が確実視される知床も、ごみは突きつけられている課題の一つ。過去の例が教えるように、登録されるや訪れる人がどっと増えるのは確実。無造作にごみを捨てられたりしてはかなわない。羅臼町は処理費用の負担を求める考えを打ち出した▼観光客専用の有料ごみ袋(100円)の販売という形で。袋を買ってもらって、帰る時に決められた場所へ、という仕組みである。わずかな袋代が惜しければ持ち帰ればいいこと。その判断は訪れる人に委ねられるが、利用者、訪れる人が応分の負担をする、それは常識の範ちゅう…▼登録されてからでは遅い。羅臼町の立ち上がりの早さに感心するが、問題はもう一方の当事者・斜里町との連携がないままで踏み切ろうとしていること。これでは効果が危ぶまれるばかりか、訪れる人を混乱させかねない。時間はある、登録前に足並みを…。知床はそれだけの価値がある所なのだから。(A)


6月26日(日)

●きょう6月26日は6(ろ)・(てん)26(ふろ)と語呂合わせして「露天風呂の日」とされている。岡山県湯原町の観光協会が温泉地の活性化のため、この日に多くの催しを行って町おこしの成功例として注目されたのが始まり。それが全国的に有名になって定着したという(日本記念日協会)▼道内も温泉ブームと騒がれてきたが、最近は一服状態とも言われる。温泉地への観光客の入り込み増もなかなかの様子。愛知万博の影響もあろうが、一部の温泉で発覚した偽装表示の影響や、全国的に似たようなサービス内容に魅力を感じなくなっていることも、その要因の一つに挙げられている▼その中で露天風呂付き客室がちょっとした人気。函館でも増設して新たな需要に対応するホテルが目立つ。大人数による集団の旅行から家族や親しい者同士の旅行に客層が移ってきたことを反映した動き▼温泉の楽しみは、湯につかってゆったりと時を過ごし、リラックスすること。露天風呂では、さらに景色を眺めて外の空気に触れながらという開放感がプラスされる。太古の人類が天然の温泉を見つけ、心や体を癒やした喜びは、今に生きる我々も変わらない▼幸い道南には数多くの名湯がある。もちろん、露天風呂にも恵まれている。何かと忙しく、気ぜわしい現代、時には日ごろの雑事から離れることも大事。心身をリフレッシュさせてくれる露天風呂は手軽な清涼剤。どうだろうか、この夏、気に入る“マイ露天風呂”を探し歩いてみては…。(K)


6月25日(土)

●父親から「おれより頭が悪い」と言われた15歳の少年が、父親を鉄アレイで殴って、母親も包丁で40カ所を刺して殺害(東京)。タイマー付きの電熱器でガス爆発させて証拠隠滅、温泉地に逃げていた。親の仕事を手伝っていた少年が、なぜ…▼「批判ばかりされて育つと人を非難する子どもになる」「敵意の中に育つと争うことの多い子どもになる」。社会人として自立する時になって初めて「苦労」を体験し「我慢」させられた結果、うまく乗り越えられなくて「キレる」しかないのでは…(前田好一編著「心の教育への実践」)▼寮の管理人をやっている父親に頭を押さえつけられ、バカにされたうえ、食事の用意や掃除でこき使われたとして、周囲に「親がむかつく。殺したいと言っていた」という。よく中学生が殺し合う「バトル・ロワイヤル」を読み、インターネットで殺害の映像も見ていた▼「親の意見と茄子(なす)の花は千に一つも無駄はない」の格言も死語になって久しい。「鶴の一声」「露骨に」などの意味が分からない「中3レベル」以下の大学生が増えた昨今、父親は何をもって「お前は頭が悪い」と言ったのか。議論のあるところだろうが、そこは本当に難しい▼金八先生は漢字の「想」を上げて「相手の心、木を見る心とも書きます。心がどんどん優しくなります」と卒業生に贈る言葉とした。「キレる子」の増加で文部科学省は精神の健康を診る「診断テスト」を導入する方針という。その前に親子間の確執をなくし、きずなを深める教育も考えなければならない、この事件はそう提起しているのではないだろうか。(M)


6月24日(金)

●通常国会の会期が8月13日まで延長された。最大の理由は国民の関心度があまり高くない郵政民営化問題、極端な言い方をすると小泉首相のライフワークの実現のため、とも言えるが、延長後の委員会審議を見るにつけ、しらけた気持ちが増してくる▼政党助成金をはじめ議員歳費、秘書や国会職員の給与など議員・国会に関する経費はばく大。会期を延長すると、それだけ経費がかかる。国民が納得する議論でもしてくれるならまだしも、最初に出てきたのが酒気帯び出席問題というのだから、あきれる低レベル▼会期の延長を決める衆院本会議に酒気帯びで出席した議員がいる、として与野党双方合わせて18人の懲罰動議を出したという問題だが、自民も自民なら、民主も民主。まず謙虚に自党の議員について調べ、国民に伝えればいいこと。どっちもどっちである▼そんな非難合戦など見たくもないし、増してくるのは情けない気持ちだけ。これじゃ国会に期待せよという方が無理。各紙の世論調査からも明らかなように国民は年金・福祉の将来、雇用をはじめとする経済問題をなんとかしてほしい、と意思表示しているのだが…▼政治不信、政治家不信が言われて久しい。それを教えているのは政党離れや投票率の低下。永田町はそこに最も敏感でなければならないはずなのだが、こうした動きをみていると、疑問符は膨らむばかり。いつになったら「これぞ国会論議」という姿に出合えるのか、その答えは先延ばしされ続けている。(N)


6月23日(木)

●函館市も行政評価制度の本格的な導入に向けて、準備を進めている。開会中の定例市議会で井上博司市長が明らかにしたが、避けられぬ時代の流れ。もっと早く制度化されていて当然、といった声はともかく、ここで大事なのは速やかな取り組み▼総合計画などに沿って毎年、予算を編成し、議会の承認を得て執行するのが行政の流れ。しかし、実施した事業がどんな成果を上げたとか、問題なく終えたかとか、などより、関心が集まるのはむしろ執行段階まで。そんな歴史が続いてきたが、それではいけないと▼議会の監視機能にも限界がある中で、近年、問われているのが既存制度の抜本的な見直しであり、成果重視の行政運営への転換。軽視してきたこと自体に問題があるが、財政環境が厳しさを増すばかりとなって、ようやく「このままではまずい」と気がついたということ▼そこから生まれたのが行政評価制度。「行政の活動それぞれに点検や評価を行い、改善や改革を導く手法」。国語辞典風に表現すると、こうなるが、言葉を換えると「適正に執行し、目的を達しているかの検証」。急速に全国的に導入が進み、2年前の段階で導入率65%とも▼函館市では2000(平成12)年度から2カ年をかけて試験導入。判断の基準をどこに置くかなど課題も見つかったが、約200の事業については効果を確認できたという。透明性ある行政運営という視点からも行政評価制度は有効と言われる。1年でも早く、函館市での制度化が待たれる。(H)


6月22日(水)

●「地上デジタルテレビ放送」。言葉は知っているが、細部までの認識となると…。東京や大阪、名古屋などでは既に現実となって、北海道でも札幌を中心に来年6月から始まるのだが。総務省の全国調査でも、ほぼ把握している人は9・2%だという▼デジタルに対峙する言葉はアナログ。現在のテレビ放送はそのアナログである。いわば画面の「表側」だけ、つまり一つしか見られないが、デジタルは「裏側」に存在する他の情報を取り出すことができる。実際に同じチャンネルで最大三つの番組が可能と…▼ただし、デジタル対応のテレビに買い換えるか、チューナーを装備しなければならない。それでも国家的には空いたアナログ周波帯を公共の通信に充てることができる。いいこと尽くめの次世代への対応として国が打ち出し、2011年7月には全国的に移行を終えさせるとしている▼わが国でテレビ放送が始まったのは、1953(昭和28)年2月1日。厳密には午後2時で、幕開けを告げたのはNHK。その半年後の8月28日には日本テレビが民放のトップを飾って続き、その後、白黒からカラーに、UHFが加わるなどの変遷をたどって今日に▼番組もその時々の時代を映し出してきたが、この際、番組の方の改善も、という声が聞こえてもくる。確かに選択肢は広がるが、数が増えるからいいというだけでは…。その辺りをどう考えているか、デジタルへの移行はそれを占うまたとない機会とも言えるが、今のところ、その答えらしきものは見えてきていない。(N)


6月21日(火)

●本紙はあす22日付で紙齢3000号を迎える。継続発行していけば、いずれ通る道であり、一つの区切りに過ぎないと言えばそれまでだが、地域に支持されてきた証しという点で意義は大。読者の、地域の支えがあってこそ到達できたと言えるから▼「30万都市にふさわしい地域紙を」。そんな声に後押しされて創刊したのは1997(平成9)年1月1日。前の日の大晦日(おおみそか)、熱い気持ちで最初の紙面を制作し、輪転機から刷り上がってくる創刊号を手にした時の喜びは昨日のことのように蘇ってくる。それから8年半…▼うれしかったこと、悲しかったこと、様々あった。「まさか、そんなこと」という思いを抱く経験は、創刊前ばかりか創刊後も。厳しい叱(しっ)責の方が数倍多いが、身に余る励ましもいただいた。そのいずれもが力を与えてくれたことは言うまでもない▼1年目、2年目、3年目…。そして12ページから16ページに、夕刊紙から朝刊紙に…。年数を重ねるに比例して認知度は高まり、おかげさまで反響は創刊時と比べようもないほど。それこそ8年半の重みであり、詳細な記録として残すべきとのアドバイスもいただいている▼「地域のコミュニケーションの広がりに寄与する」「地域のさらなる発展に寄与する」。本紙は創刊に当たって二つの理念を掲げた。その思いを凝縮した言葉が「地域とともに」。地域紙にとって座右の銘とも言える言葉だが、その思いをさらに…。3000号から受け取るメッセージはほかにない。(A)


6月20日(月)

●今から60年前の今ごろ、沖縄はまさに地獄絵と化していた。その年の3月、圧倒的な戦力を有して上陸した米国軍との地上戦は激しく、厳しくて…。大人ばかりか子どもまで巻き込んだ戦いを強いられ、20万人が犠牲になったと伝えられる▼「中学生以上は学徒隊に組織され、男子は鉄血勤皇隊、女子は従軍看護婦隊として部隊に配属され、男子は最前線で食料や弾薬の運搬…」「一応志願という形がとられたが、実際は強制的なものだったと言われる」。聞くに語るに、あまりに悲惨。その傷跡は今なお癒えることはない▼敗戦という形で終結するまで、この地上戦は3カ月続いた。沖縄県では毎年この日、各地で慰霊祭が行われるが、「この事実を後世に語り継ぐのが今に生きる者の務め」として、琉球政府は1965(昭和40)年、6月23日を「沖縄慰霊の日」と定めて今日に▼その後の沖縄がたどった道も、言葉では言い尽くせないほど過酷なものだった。今なお米軍基地が残るが、長年、米国の統治下に置かれた歴史がすべてを物語っている。犠牲の上にさらなる犠牲…。日本に復帰できたのも1972(昭和47)年のこと。まだ30余年でしかない▼沖縄では各地に爪跡が残っている。ひめゆり資料館など伝える役割を担っている施設も多いが、そのいずれもが歴史の証言者であり無言の語り部。あれから60年、沖縄と比べようもないが、函館も空襲を受け、少なくとも79人の死者を出している。7月14、15日。どう伝えていくか、沖縄が教えてくれている。(A)


6月19日(日)

●「函館離れ止まらない。観光客500万人割れ目前」。先日の本紙掲載記事に幾つか、ご意見をいただいた。見出しがきつ過ぎる、に始まって、考えるきっかけになる、といった声まで様々だが、共通していたのは、これまでと違った認識が必要という思い▼函館はかねて道内の他地域から羨(うらや)ましがられる存在。観光客の年間入り込み500万人以上、1998(平成10)年度には539万人を数えた。しかし、その後はこの壁を越えられないばかりか逆に低迷気味。昨年度は506万人にとどまり、一挙に危機感が広がった▼本紙への談話でも「これまでの観光の受け皿が飽きられている」「売りの一つの異国情緒も海外旅行が当たり前になった今、その優位性が失われつつある」など厳しい話ばかり。いずれももっともな意見だが、本年度に入っても4、5月と主要観光施設の利用が前年割れに▼少なくともこの現実を認識すべきだというのが記事の趣旨だが、時あたかも北海道新幹線の新函館開業が決まったところ。それも10年内である。16日の本欄で取り上げた日本政策投資銀行の都市健康診断でも議論の柱になるはずだが、今回いただいた意見はいずれも貴重▼東京の45歳の男性は、今の“低迷”は市の観光政策の問題と指摘した上で「中国とのかかわりを深く持つ都市で中華街がないのは函館だけ」「函館と大沼の間に超大型のアウトレットモールを」と具体的に提言している。これは一例だが、実にありがたいこと。遠く離れた所から、こうして応援してくれる人がいる、それだけでも函館は恵まれている。(H)


6月18日(土)

●山岳地帯を3日間で120`歩く。「後悔するかもしれない。山の天気は変わりやすい。面倒くさがらずにな。愚痴はこぼすな。生水に気をつけて。長く続けていれば友人も知恵も増える」。中国映画「山の郵便配達」の父と息子の強い絆(きずな)に感動した▼引退する父から郵便配達を引き継ぎ、郵便物の入った古いリュックを背負う息子に「1年に1度、息子からの為替を待っているお婆さんがいる。目が不自由なので手紙を読んであげな。公の仕事は平等でやれ」。普段は寡黙な父も強く言い聞かせる。まさに親の背中を見て育つのだ▼日本には父親の典型に「地震、雷、火事、親父(おやじ)」があったが、子どもの行動が親父の尺度に合わないと頭ごなしに怒るという時代は去った。今は学校に「親父の会」ができて、水辺の生物観察や小鳥の巣箱作り、机など備品の修理、グラウンドの清掃などに取り組んでいる▼最近は講師を招いて「子育て支援」や「薬物乱用防止」などを勉強しているグループも。米国のニューヨークでは12歳になるまで法律で子どもの留守番などが禁止さ、違反した場合は保護者が監督不行き届きや幼児虐待の罪で逮捕されるケースもあると聞く▼学校の送り迎えは両親が交代で行い、公園でオムツを取り替えている父親も少なくない。あす19日は「父の日」。クールビズに対応したボタンダウンシャツを贈るのもいいが、みんなで「父親の役割」を再考する、そんな日でもあってほしい。(M)


6月17日(金)

●あす6月18日は「海外移住の日」。わが国が本格的な移住政策をとって100年を超すが、その象徴として語り継がれているのがブラジル移住。移民船「笠戸丸」が第一陣の781人を乗せてブラジルへと航海したのは、1908(明治41)年だった▼横浜市(みなとみらい21)にある海外移住資料館の資料によると、船底の貨物室にもベッドを設けるなど移民用に改造された「笠戸丸」が、暮色迫る4月28日午後5時55分、神戸を出港し、2カ月をかけて無事にブラジルのサントス港に着いたのが実はこの日…▼北海道から渡った人も多いが、今、流行の第二の人生を過ごす先を求めるといった悠長な移住でない。「生活の糧を求めて」であり、苦悩の選択だった。しかも日本とは遠く離れた地球の反対側の国。ほとんどが農業移民であり、待っていたのは過酷なまでの労働だった▼苦しい生活を強いられ、さらに戦時中には言い尽くせぬつらい思いを味わったが、その頑張りは次第にブラジル各地で認められるように。20年ほど前、取材で訪れた際に会った北海道会の人たちもそうだったし、高い評価を得ていた姿を見て、うれしく思った記憶がある▼当時の国際協力事業団(現国際協力機構・JICA)が「海外移住の日」を制定したのは1966(昭和41)年。あと3年で「笠戸丸」の第一陣から100年を迎える。その日本とブラジルは今、国連安保理の常任理事国に立候補しようとしている。よくよく縁の深い国、そんな思いが込み上げてくる。(H)


6月16日(木)

●外からの方がよく見える、日常的に言われる話だが、それは地域づくりにも通じること。住み慣れてしまうと、居心地が良くなってしまって問題や課題に気づかないでいることが多い。もっと踏み込んで言うと、気づこうとしなくなるとも指摘される▼ここ20年余り、まさに激動の時代を経験している函館も例外でない。観光という産業の柱があるだけいい、確かにそうだが、地域を支えた北洋漁業や青函連絡船が幕を閉じ、今、問われているのは、産業分野を核に将来の活性化策をどう描くかということ▼もっと議論があっていい。というより、今こそ議論の時期と言われるのもそれ故。東部4町村と合併し、道新幹線の新函館までの開業が10年以内など新たな環境変化があるからだが、函館にも事務所を構える日本政策投資銀行が、そこに一石を投じてくれようとしている▼今年から始めた「地域づくり健康診断」の地として函館を取り上げている。専門スタッフが産業分野をはじめさまざまなデータの現状分析、可能性などの検討を行って、その結果をたたき台に地域で議論をしましょう、という提案。7月中にその場が設けられる見通しだ▼まず注目されるのは、議論の場に示される“診断書”の内容。低迷している現実から新たな発見も予想されるが、大事に考えたいのは、それを踏まえて議論がどこまで広がり、議論の流れを今後にどう生み出せるか、ということ。地域の認識や姿勢が問われると言われる理由はそこにある。(N)


6月15日(水)

●「登山者にも少しの負担を」。健康志向などの近年の登山ブームは、人気の山を抱える自治体に財政負担を強いている。多くの人に来てもらえるのはうれしい、その通りだが、一方で登山道の整備や清掃、トイレの問題などを抱え、経費は膨らむばかり▼みんなが注意していても、人が入れば入るほど自然は傷つく。確かに一般論だが、その対策は保全の手を講じることしかない。そのために受益者負担の考えが導入されていい、という論はかねてから。ただ、採用例は道内になかったが、今年から試みられることに▼その山は上川の東川町にある北海道最高峰の旭岳(標高2290メートル)。何度か夏に登ったことがあるが、素晴らしい山。お花畑が広がる姿見池から頂上に向かっては瓦れきと岩場のため、視界のない時は要注意だが、天気のいい日は山の醍醐味を堪能させてくれる▼登山道のほか、姿見池まではロープウエーがあり、登山者にお花畑を回る人たちを加えると、訪れる人は夏場(7月―9月)だけで約15万人とも。そんな実態を踏まえ将来的にどう考えていくか、町が出した結論が自然環境保全のための協力費(寄付)のお願い▼7月初めからの夏山シーズン期間中、金額は定めず100円でも…。素晴らしい自然を堪能する代償として、このぐらいならば負担も少なく常識的。ただ旭岳もたまたま先べんを切るというだけ。「みんなの協力で…」。東川町が問いかけているのは、山の自然を守るため忘れてならない原点である。(A)


6月14日(火)

●結構なことだ、と思って記事を読んでいたら何か変…。実は読み違いだった。「国会議員」と「国会職員」を。それは先日の読売新聞が報じていた「自民が国会職員の削減提案へ」という記事。常々国会議員が多過ぎるという思いを抱いていたものだから▼構造改革は内政の最重要課題。厳しさを通り越した状態の財政事情が、そう提起して久しい。これまで多々「こうあるべき」と目指す姿が示されてきた。取り組みの進度は遅いが、その柱が行財政の見直し。組織のスリム化や職員の削減などが厳しく問われている▼そんな中でも国会の組織や職員は例外的な存在。いわば行革の対象外。二院制の是非議論にまでかかわるからというのが、その理由と言われている。それにしても職員数は想像を超える約4000人。しかも人事院勧告に拘束されない給与体系など優遇されたまま▼何でこんな多く必要なのか、どこに優遇される理由があるのか、素朴な疑問が沸いてくる。おかしい、厳しい目が向けられて当然。そこに手を上げたのが自民で、党の行財政改革推進本部の中に小委員会を設置して“職員問題”の検討方針を打ち出した▼それに横やりを入れるつもりはない。結構なことなのだが、何か違和感を禁じえない。「議員数の削減も同時に検討を」という思いが込み上げてくるから。衆参合わせた議員の定数は727人。職員の約4000人にも驚くが、同じ思いを議員の数に抱いている人は多いはず。その認識があれば素直に拍手を送るのだが、残念ながら…。(N)


6月13日(月)

●休 刊 日


6月12日(日)

●ライラックに続いてフジの花。「あなたを歓迎します」「あなたに夢中」「至福」「恋に酔う」…花言葉もいっぱい。五稜郭公園の二の橋を渡るとフジ棚のトンネルが満開。初夏の風に揺れて、本州の観光客ら訪れる人を感嘆させている▼湖水の音がかすかに聞こえる。花房をつけた松の古木に絡みついた藤。ほのかな香に惹かれてか、藤を手にした娘が塗笠を脱いで恋する乙女の切ない胸の内を語り、舞い、口説く。藤の花の精が藤の小枝を肩に黒塗りの笠をかぶって絵から抜け出したように踊る「藤娘」▼「藤波の咲き行く見れば ほととぎす…」。万葉集ではフジの花が風に揺れる様子を藤波と詠み、源氏物語や古事記などに出てくる「藤娘」は定番演目。五稜郭公園のフジは都市公園に指定された昭和31(1956)年ごろに、公園で食堂を開いていた経営者が「五稜郭に潤いを」と2本植えたのが始まり▼半世紀で11本に増えた。幹の長さは10メートル以上、高さ3・5メートル、長さ30メートルほどの藤棚に成長。古い枝や房が込み合って、トンネルが暗かったため昨秋、せん定・整備し、下部に陽光が届くようにした。このため、今年は新しい枝がたくさん出て、紫と白の花房がいっそう鮮やかに▼フジの蔓(つる)はロープのように強く、子供のころ、ターザンごっこをして遊んだものだ。昇り藤、三つ葉藤、九条藤など紋所の名にもなっている。夏になれば葉は日差しをさえぎって涼をもたらす。函館公園にある2本のフジも食堂経営者が寄贈したもの。1年に1度は“藤棚の恩恵”を受けることをお勧めしたい。(M)


6月11日(土)

●生きづらい世の中なのか、そう問い掛けられているような思いにとらわれる自殺者の数。今月初めに警察庁が発表した昨年1年間の統計は、依然として3万人台を割ることなく3万2325人。実に毎日、全国で90人ほどが自ら命を絶っているのだ▼自殺は昔からあった。今から50年あまり前の1958(昭和33)年で2万3641人、20年ほど前の1986(昭和61)年で2万5667人などの数字が残っている。それでも多い、社会問題と言われてきたのが、1998(平成10)年からは3万人台に乗ったまま…▼この人数もさることながら、社会が提起されているのがその理由。かつては病気や家庭・人間関係の悩みなどが主だった。確かに今も病苦などの健康問題が最も多い理由だが、近年は倒産や事業不振、負債(借金)の悩み、さらには失業や生活苦が際立っている▼この3年間は毎年7000人を超える実態。しかも直視しなければならないのが、まだ働き盛りであったり、ひと働きを終えた中高年齢層に増えていること。昨年も最も多かった年代が60歳以上で、34%を占める1万994人。40歳以上が実に74%を占めている▼自殺者の数は世情を反映する、とも言われるが、最近はネット集団自殺という新たな問題も抱えている。「健康日本21」(21世紀における国民健康づくり運動・2000年策定)は、2010年までに2万2000人に減らす目標を掲げているが、打つ手はいつになっても見えてこない。(N)


6月10日(金)

●「オンリーワン」という言葉を最近、よく耳にする。激しい価格競争時代の生き残りポイントを表現する言葉。町工場で使われたのが最初と言われる。「ほかに出来ない(技術)」という意味だが、裏返すと、自分たちだから、ここだから出来る、と…▼それは個性の創出ということであり、追随を許さない状態に(身を)置くこと。難しいから価値があるのだが、言わんとしている意味は単に町工場の技術に限らず、まちづくりにも通じる。なぜなら、どこでも、誰でもできることなら支持も、評価も生まれはしない▼そう考えると函館は恵まれた所となる。違いを際立たせる“素材”がうらやましがられるほどあるのだから。函館山に港、そして五稜郭…。函館山のおかげで「夜景の日」を生み出せたし、五稜郭公園があって函館野外劇、港があってクリスマス・ファンタジーといった具合に▼もちろんイベントだけでない。5月中旬の本紙掲載の「函館けいざい学」で、日銀函館支店の山澤光太郎支店長は身近な「オンリーワン」を幾つか挙げていた。「西部地区の町並み」「癒やし系の函館弁」「周辺のハイキングコース」「澄んださわやかな空気」…▼ところが、その「オンリーワン」を大事にしているか、と聞かれると、答えに窮してしまう。夜景の日やバレンタイン愛のメッセージなど、函館だからできたことに区切りつけてしまった例があるから。『「函館にないもの」を追い求めるよりも「函館にしかないもの」を大切に』。山澤支店長がその原稿の最後で語りかけている意味は重い。(A)


6月9日(木)

●今年2月末に打ち上げられた運輸多目的衛星新1号、通称「ひまわり6号」が、近く気象観測の運用を始める見通し。ニューギニアの上空約3万6000`から届けている試験映像は、期待通り鮮明で、気をもんできた気象関係者らを安Gヒさせている▼昔も今も同じだが、気象情報は欠かすことのできない生活情報。新聞でも、テレビでも次第に“存在”を強めているのが、その表れ。実際に仕事の段取りから服装に至るまで気象情報を参考にしていると言っていいほど。予報の精度が求められる理由もそこにある▼この30年ほどの間、予報の精度は格段に上がった。地域別、時間帯別や気温予想、降雨確率なども加わり、今や大きな狂いはないレベル。その背景にあるのは観測データの収集であり、大きな任を担ってきたのが「ひまわり」で知られる気象衛星からの映像▼わが国の観測衛星の歴史は1977(昭和52)年にp★≠奄ウかのぼ)る。米国から打ち上げた「ひまわり」が最初。その後、種子島から5号まで打ち上げられ、それぞれ役割を果たした。しかし、一昨年11月、後継の“6号”の打ち上げに失敗、この2年ほど米国の衛星の世話に▼昨年の過去最多と言われる台風もそうだが、地球環境の温暖化などの影響で近年は異常気象続き。それだけに最新の衛星が機能することの意味は大。運輸多目的衛星ながら気象衛星の「ひまわり」の名をとったところに、それがうかがえる。期待を担った「ひまわり6号」の時代は、近く幕を開ける。(H)


6月8日(水)

●全国で2万7000カ所。道路のガードレールから見つかった奇妙奇態の金属片。何十年も誰も気づかなかったなんて。もし敷設された地雷だったら、もし蓋(ふた)が開いたマンホールだったらゾっとする▼JR福知山線の脱線事故以来、信じられないことが続く。線路に放置された自転車などに列車が衝突する事件も。大きな事故になっていないが、捕まった25歳の男性は「福知山線の事故を見て思いついた」と言い、石では面白くないので大きい自転車にしたと供述。許せない▼ナゾの金属片が見つかったのは全都道府県の国道、地方道、高速道などの2万7615カ所(6日現在)。道内では40市町村で100カ所を超え、道南でも10カ所11枚が見つかっている。いずれも細長い三角形で5―30センチほどの長さ。函館では大きいもので40センチのもあった▼ガードレールやパイプの接合部などに挟まって…。さびて古いものが多く、埼玉県の交通事故の検証から「高速でガードレールと並行して継ぎ目に当たった車体の一部」という見方が有力。臥牛子も30年ほど前、中央高速道を降りる時に曲がりきれずガードレールに接触した覚えがある▼耐震強度を偽造して施工し、約1億本が不明になっている住宅用ビスのケースとは違う。国道でも高速道でも毎日のように道路管理者がガードレールをチェックしているはずだが、もし人為的だとしたら誰が何のために。「面白いからやる」では背筋が寒くなる。安心のためにも原因を徹底して究明することが求められる。(M)


6月7日(火)

●看板やポスターなど街中にあふれる広告物。身近な情報を伝える手段として、見る人に楽しさを与え、街のにぎわいを演出する、と言われる。確かにそうだが、自ずと節度があってのことであり、現実はどうか、と言うと、必ずしもそうはなっていない▼内容もよく指摘されるが、我が物顔に設置されたり、電柱や街路樹に張ったり、目に余る光景は多々。野放しにしていては街の美観が損なわれる、と言われる理由もそこにある。違法な張り紙を除去するなど、残念ながら公的な手が定期的に必要とされる状況…▼道内の現規制は1950(昭和25)年に施行された北海道屋外広告物条例による。それは全道一律であり、都市の性格や実情に即した規制が設けられて当然。ましてや景観の維持が問われる観光都市の函館などはなおさら。それが中核市になることで道が開けることに▼函館市は10日に開会する定例市議会に条例案を提案する予定で、可決されると、10月に施行の見通し。道の現条例を引き継いでいるものの、街路樹や電話ボックスへの掲示の禁止、地区による広告物の大きさの制限などのほか、違反や警告に従わない場合の罰則規定も▼「観光地としてふさわしい景観づくりなどへの追い風になる」。本紙の取材に函館市の担当課は、こう意義を語っている。条例が市民意識の向上につながれば制定の意義は大。その前段として、この機会に、9月とともに6月が“屋外広告物クリーン強調月間”であることも知っておきたい。(A)


6月6日(月)

●「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く」。1973(昭和48)年の交通安全スローガンだが、30年ほどたった今の世の中は、さらに急いでいる。人間社会は時代が変わろうと何時も競争社会だが、そのテンポは上がり、激しさは増すばかり▼今日の発展を享受した背景であることも確かだが、一方でストレスなど様々な問題を生み出しているのも事実。その現代は“疲れる社会”とも表現され、もっと人間らしく、という思いが潜在的に高まっている姿は、ある時計メーカーが数年前に行ったアンケートからも▼人生を乗り物に例え、何に乗りたいかを聞いた調査だが、最も多かったのが「各駅停車(列車)」。そのほか上位に挙げられたのは遅い乗り物ばかり。「少しスローダウンしなければ」と言われて久しいが、そこから伝わってくるのは“スロー”を求めるメッセージ▼精神的、時間的に余裕がなくなっている。子どもから大人まで、好むと好まざるにかかわらず“スロー”とは逆に身を置かされ、知らず知らずのうちに便利や速さを求めている。「焦ることはない。多少時間がかかってもいいじゃないか」。そう思えない感覚になっている▼“余裕”という言葉に置き換えることができるが、“スロー”が世界的に新しい価値観となりつつある。誰もが頭ではそう理解し、共感しているはずだが、ただ現実の流れはそうなっていない。企業責任は当たり前として4月25日に発生したJR福知山線の脱線事故の裏にも“スロー”を許さない現実が透けて見える。(H)


6月5日(日)

●農業王国・北海道の名を確固たるものに…。そのために道や生産団体などが力を入れているのが安全安心な農産物づくりであり、正確で正直な表示。北海道食の安全安心条例(今年3月31日公布)を制定し、さらに本格的な行動に踏み出しつつある▼今の時代、生産の現場から手元に届くまで食(食品)に対する国民が向ける目は厳しい。価格もさることながら鍵は「安心できるか否か」であり、一度、信頼を失うや取り返しがつかないことになる。「安全」「安心」「正直」「正確」が信頼の根底と叫ばれるのもそれ故▼条例制定の趣旨も一言で言えば信頼の確保。具体的な取り組みとして5月末には北海道食の安全安心委員会が立ち上がったが、行政対応として道が打ち出した施策が46都府県での監視員、名づけて「道産食品全国表示ウオッチャー」の委嘱で、現在、募集中…▼道産の食品について原材料や製造・販売者、消費期限などが正しく表示されているかどうか。監視の目は道内もさることながら道外こそ大事という考え方による取り組みだが、チェックしてもらう品目はその都度、道が指定し、年に数回、報告を求めるという▼結果として「問題なし」の回答が集まるに越したことはないが、委嘱の直接的な意図は問題の早期発見。そうだとすると、残念なのが委嘱する監視員が各都府県一人(全46人)なこと。「さすが北海道、そこまでしているか」という姿を見せる、それも大事な視点だと思うから。(A)


6月4日(土)

●「1・289」。厚労省が発表した2004年の人口動態調査の中で明らかにされた出生率だが、容易に予測された実態が数字で明らかにされたというだけ。驚きを覚え、頭を抱えているのは年金問題などで甘い将来見通しに立っていた政府に違いない▼雇用や子育て環境の整備など、少子高齢化時代の対策として様々な施策が展開されている。ただ、必ずしも成果を上げ切れていないのは、政策の良し悪し以前の個人の価値観が絡む問題だから。結婚する、結婚しても子どもを産むか否かは国と言えども踏み込めない領域である▼この調査からもうかがえるように、現実は未婚が増え、晩婚化が進んでいる。今後、どうなるか、そこは予測の域となるが、少なくても政府の政策データに甘い、いわば期待値が使われると、狂いが生じかねない。大事なのは厳しいまでの現実認識と言われるのもそれ故▼2004年は「1・317」、そして2007年には「1・306」で底を打つ。政府が3年前に公表した人口推計(中位推計)だが、早くも狂いが表面化してしまった。期待感を込めた数字の化けの皮がはがれるのは早い、ということだが、そのつけはあまりに大きい▼分かりやすい影響例は年金制度。今の制度は予測した出生数が確保されて給付が成り立つ仕組みだが、その“財源”が狂ってくるのだから、制度の根幹は崩れた状態。狂ったで済まされない理由はそこに。「この出生率は期待値で成り立っている年金制度の再考をうながしている」。この論評に反論の余地はない。(H)


6月3日(金)

●四字熟語辞典をみていたら「明眸皓歯(めいぼうこうし)」に目が留まった。眸(ひとみ)が澄んだ目もと、白く清らかな歯。唐の杜甫が美女・楊貴妃を詠んだ熟語。太宰治も「月光を浴びて明眸皓歯の麗人がにっこり笑う」と表現。美しい歯は得だ▼「永久歯が生えてこない」と孫が歯科医通い。戦後の食糧難の頃、カルシウムを取るためイワシなど小魚を丸ごと食べた。焼いたサンマも香ばしく、カリカリと頭から骨まで食べさせられた。炒(い)った硬い豆や椎の実も食べ、歯とあごが強くなったのを覚えている。美しい歯は生え替わりで決まる▼乳歯が永久歯に生え替わるのは上の真ん中の歯(7歳)から始まり、下の7番目の歯(12歳5カ月)が最後。1本の乳歯に1本の代生歯が永久歯として生え替わる仕組み。1、2本くらい永久歯に生え替わらないのは珍しくないが、最近は4、5本も生え替わらない子どもが増えている▼胎児の時にできる歯胚(歯の赤ちゃん)がないからだという。ところが生え替わらずに最初から永久歯として生えてくる歯もある。また、正常より歯の数が多いことを過剰歯といい、いわゆる八重歯だ。これが「愛嬌(あいきょう)」としてめでる傾向にある▼「虫歯あり」乳歯が抜けて「虫歯なし」今度はちゃんと磨こうね(昨年の虫歯予防川柳)。80歳で自分の歯を20本残す「8020運動」も乳歯から。4日の虫歯予防デーから「歯の衛生週間」。1日に50匹のサバをたいらげる和歌山県太地町のシャチは虫歯ゼロ。よくGシんで、美しい永久歯にしよう。(M)


6月2日(木)

●「レジ袋を減らす方策として環境省は無料配布を規制する方針を決めた」。5月中旬の読売新聞が報じていたが、確かにレジ袋は使い捨ての最たるものであり、規制を考える理由はごみというより環境対策。しかも石油製品、その数もばかにならない▼かつての時代、食品など日常生活の買い物はカゴ持参で、というのが普通だった。だが、スーパーの登場などで過去の姿となり、今やレジ袋が当たり前に。当然のサービスとして求め、求められ、増え続ける一途。その数、全国で年間280億枚とも300億枚とも言われる▼ところが、ほとんど資源として回収されずに埋め立てや焼却処分されているのが実情。その二酸化炭素の排出量もさることながら、このレジ袋は1枚作るのに20・6ミリリットル「の石油が必要と言われ、これだけの数になると…。環境面、資源面からさまざまな指摘が出てきて当然▼「考え直すべき」。その意識は高まってはいるが、現実の対応となると、なかなか。函館もそうだが、消費者協会などは“マイバッグ運動”を展開、東京都の杉並区のようにレジ袋に課税する条例を設けたところもある。環境省が考える無料配布の規制も趣旨は同じ▼確かに規制なくして実効は上がらない、という論もあろうが、だからと言って規制という名の公権力で店側に下駄を預ける形での実効にも疑問符がつく。その前段として必要なのは国民の理解を広げる取り組み。容易なことではないが、意識改革なくして、この問題の答えは出てこない。今、突きつけられているのはその努力である。(N)


6月1日(水)

●6月は衣替えの季節。今年は襟元が高くて、胸ポケットにハンカチを差したクールビズ・ルックがかっぽする。「地球温暖化防止のため、夏はノーネクタイ、ノー上着で仕事を」という政府の呼びかけに協力する企業やサラリーマンのファッションだ▼季節によって衣替えをするのは平安時代以降。4月1日から袷(あわせ)を着て、5月5日からは帷衣(かたびら)、8月15日から生絹(すずし)、9月9日からは綿入などと替えていた。とかく夏は軽くて薄い生絹の涼しげな衣装で出かけていた。これぞ省エネルックの最たるもの▼1979年に当時の首相がモデルとなった「省エネルック」は半袖背広にネクタイだったせいか定着しなかった。今度の「COOL BIZ」は涼しい、格好いいという意の「クール」にビジネスの「ビズ」を組み合わせた造語。5日には愛知万博でクールビズのファッションショーを開いてPR▼クールビズでは、体感温度が2度も下がるといい、夏場の冷房設定温度を全国で1度上げれば年間36万キロリットル「(東京ドーム約3杯分)の原油が節約できる(省エネルギーセンター試算)。また、全国で1500万人がクールビズを買うと、約6000億円の経済効果もあるという▼デパートなどではクールビズ・コーナーもお目見え。沖縄県では開襟半袖シャツの「かりゆし」が公用着。アロハシャツの自治体もあり「薄らかな衣替え」を満喫している。温暖化防止につながるのなら、議員もサラリーマンも「ノーネクタイ、ノー上着」で働こうではないか。(M)


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