平成19年10月


10月31日(水)

●ミュージカル「エビータ」は、私生児として生まれ、持ち前の美貌を武器にアルゼンチン大統領夫人になったエバ・ペロンの生涯を描いた。ロンドンやニューヨークでロングランを重ね、日本でも劇団四季の公演で人気が高い▼エビータは、大統領を陰で支えただけではなく、自ら財団を設立して福祉活動や貧困対策に乗り出し、婦人参政権も実現した。毀誉褒貶(きよほうへん)はあるにせよ、アルゼンチンではいまも熱狂的な支持者が多い▼同国の次期大統領に決まったクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル上院議員は、敬愛される元大統領夫人にたとえられることを嫌ったという。そうかもしれない。キルチネルさんは、エビータが33歳で亡くなった1952年には生まれてもいなかった▼しかも、貧しい私生児のエビータと違い、キルチネルさんは、弁護士、上院議員であり、ファーストレディーもこなしてきた。選挙で勝ち、夫婦で大統領職を継承することになったのは、政治家としても国民の支持を集めたからだ▼女性のトップリーダーは外国では、もはや驚くことではないのかもしれない。来年の米大統領選は、民主党のヒラリー・クリントン上院議員が最有力候補に躍り出ている。女性議員の割合が高い北欧をはじめ、アジアでも女性首相が誕生した▼さて日本は、となると女性の国会議員の割合が主要8カ国で最下位。女性首相の誕生は、いつのことになるやら。南半球のアルゼンチンはこれから夏に向かう。タンゴの名曲を思い浮かべながら、女性大統領に祝杯を挙げよう。(S)


10月30日(火)

●瑞穂(みずほ)の国の住人の私たちにとって、おコメは究極の味わいのひとつに数えても異論はあるまい。おいしいおコメなら、少々値が高くても売れるのは、新潟県魚沼産コシヒカリがひっぱりだこだったことからも分かる▼ところが、最近は本州産の銘柄米に異変が起き、価格が低迷している。10年ほど前には60キロあたり軒並み2万円を超えていた市場価格は、コシヒカリでも平均で1万6000円を超える程度だ。安くなるのは消費者にはうれしいことだが、生産者には意欲をそがれる事態だ▼その一方で、大口需要家向けの安さで知られた道産米の健闘が目立つ。いつも行く函館市内のスーパーのコメ売り場では、庄内産コシヒカリが10キロ3680円だったのに対し、道南生まれの「ふっくりんこ」は3760円と80円上回っていた▼ふっくりんこは、特においしいと評判だから高いのは理解できるとしても、他の道産米も以前よりずっと高値が付けられていた。なかには「おぼろづき」のように売り切れの新米もあるそうだから、道産米の人気上昇は本物だ▼味はいまいちとされてきた道産米は、品種改良で格段においしくなった。ふっくりんこやおぼろづきは別格だが、全国米穀取引・価格形成センターで取引された「ほしのゆめ」「きらら397」「ななつぼし」の新米価格も本州産米を尻目に高騰した▼味も価格も本州の銘柄米に劣らない道産米の台頭は、道内のコメ農家や農協などの関係者にとって慶賀すべきことだろう。食欲の秋。ふっくら炊けた道産の新米を味わうとしよう。(S)


10月29日(月)

●「心と思いを紡いできました」。舞台あいさつをする池田千鶴子さんの声が、少し震えた。障がいを持つ生徒たちが通う「ゆうあい養護高等部」の最後の定期演奏会。指導してきたハープ奏者の池田さんにも感慨ひとしおだったろうと想像する▼演奏会は北斗市の「かなで〜る」で行われ、会場のホールは家族などで埋まった。主役の生徒たちは、この日のためにハンドベルとアイリッシュハープの練習を重ねてきた。池田さんは司会とハープ演奏の一人二役を務めた▼プログラムは、よく知られたポピュラー曲を中心に組まれた。生徒のほかに卒業生やアマチュアの演奏グループが友情出演した。生徒が各パートを受け持つハンドベル演奏は4曲を披露した▼「ムーン・リバー」は、映画「ティファニーで朝食を」でオードリー・ヘプバーンが窓に腰掛け、ギターをつま弾きながら歌った曲である。生徒たちの演奏は、澄んだ音色で、あの名場面を思い出させた。「千の風になって」のハープ演奏も心にしみた▼プログラムは、ハンドベル演奏の「今日の日はさようなら」に続き、会場も一体となった「小さな世界」の合唱で幕を閉じた。終演後の会場には、出演者と観客との間に生まれた温かな余韻が漂っていた▼道内唯一の私立養護高等部の同校は再来年3月に閉校する。15回続いた定演は、池田さんらの指導の賜物だったが、今回で終止符を打つ。だが、池田さんと生徒との交流は「今日の日はさようなら」の歌詞のように「いつまでも絶えることなく」続く。温かな思いを伝えてくれた演奏会、ありがとう。(S)


10月28日(日)

●「人生の最後になにかひとつ食べるとしたら、なに食べる」と聞かれて「ごはん」と答えた。日本人として生まれたからには、お米を食べなきゃもったいない。とくに、おむすびが大好きじゃ。心をこめて作ってくれた母親の味を忘れてしまうのはもったいない▼毎日新聞社の読書調査によると、1カ月で読んだ平均冊数は小学生9・4冊、中学生3・4冊、高校生1・6冊で、書籍や雑誌を合わせた読書率と読書時間は昨年を上回っている。また「読みたかったが、読めなかった」理由に「読みたい本がなかった」のが最も多く気がかり▼今年はケータイ小説に人気。横書きで読みやすく、電子メールに慣れている中高生女子に受けている。授業前の「朝の読書」も増えている。この時期、臥牛子は孫に良書を与えているが、今年は毎日新聞に掲載の「もったいないばあさん日記」と「犬と私の10の約束」だ▼冒頭の話は25回の「おむすび」の一節。20回はレジ袋を食べた海亀やクジラが「おなかがイタイよ」と苦しんでいる話。毎週、新聞を切り抜いて冊子にした。子供は本を読んで、自分の世界を広げていく。「読みたい本がない」なんて言わせないよう、本との出会いを作ってやることが大事▼文字離れに待ったをかけようと文字・活字文化振興法ができて3年目。子供たちは「学校図書館や学級文庫に魅力的な本を置いてほしい」と願っている。小学生からは「本をたくさん読んだ人を表彰したら」の声も。人は褒められれば意欲がわくもの。読書週間に“図書環境”を再考してみよう。(M)


10月27日(土)

●辛らつな風刺で知られるビアスの「悪魔の辞典」が辞書について解説している。「一つの言語が自由に成長していくのを妨げ、弾力のない固定したものにしようとして、悪意をもった文人が案出した工夫」(郡司利男訳・こびあん書房)▼まあ、ここまでバッサリ言い切るのは、ビアス以外には出来そうもない。気が引けるけど解釈の一部を使わせてもらえば、広辞苑の10年ぶりの改訂は、若者言葉を辞書の中に「固定」する試みを打ち出したと言ってもいい▼「イケメン」「うざい」「めっちゃ」といった項目が加えられ、来年1月に第6版が発売される。その他にも「自己中」「ニート」「ブログ」「ラブラブ」などが入る。高齢者やおじさん、おばさん世代は、広辞苑のビミョウな進化をどう受け止めるだろう▼だが、新しさの追求だけではない。「ウルトラマン」は、おじさんには懐かしさがこみ上げるヒーローだろうし、「おしん」はおばさんやその上の世代には涙なしには語れないヒロインだ。ラジオドラマを映画化した「君の名は」の「真知子巻」が登場するのは、昭和を記録するためとか▼辞書は引くものではなく読むものである、とよく聞く。確かにひとつの言葉を調べるつもりが、ついつい前後の語や関連する語まで興味がわき、いつのまにか辞書を読んでいることが多い▼ビアスは、辞書の解説の最後を「本辞典は、しかしながら、きわめて有用な著作である」と自信を持って断言している。広辞苑を読んできた世代としては、改訂版が有用な読み物であることを信じたい。(S)


10月26日(金)

●ジュール・ベルヌ原作の「八十日間世界一周」は、多くのビデオ店に置いてある映画だ。テレビでも時折放映される。人気の秘密は、世界各国の美しい風景がカラーで紹介されていることだろう。映画には日本も登場していた▼主演のデビッド・ニーブンと執事役のカンティンフラスが、ロンドンを出発して、世界一周を目指す。列車や船、象に乗ったりして旅行は続く。気球を使って危機を逃れる場面もあった。上空からの景色は、映画が作られた1950年代当時、人々の憧れをかき立てた▼仏映画「素晴らしき風船旅行」は、祖父と孫とが気球に乗ってフランスからイタリアまで旅行をする物語だった。この映画でも美しい田園風景やアルプスの山々が印象深かった。空中散歩は、道東の上士幌町など全国で熱気球が盛んなのからも分かるように、人気が高い▼吹きさらしの熱気球は普段着で乗るわけにはいかないが、こちらは軽装でも大丈夫。世界最大の飛行船が、日本で初めて東京上空を遊覧飛行することになった。風流を気取るならば、げた履きに着流しでも空中散歩が出来るというわけだ▼飛行船はジャンボ機より大きい。来月23日から来年1月5日まで運航する予定で、すでに予約販売されている。散歩時間は1時間半ほど。東京都心部をぐるり一周するコースだという▼料金は12万6000円〜16万8000円。ヘリコプターの遊覧より高いが、結婚などの記念日に乗れば思い出作りに役立つ。この飛行船、道南に来てもらい函館山から大沼、駒ケ岳付近を空から散策したい、と夢の翼を広げた。(S)


10月25日(木)

●虚勢を張っても化けの皮は簡単にはがれる。どんなに言葉を駆使して飾ってみても、中味が伴わなければむなしく、実体が垣間見えたときの反発は激しさを増す。それは世の常だ▼過日のWBCフライ級タイトルマッチはその典型。挑戦者の亀田大毅選手の弱さには驚いたし、チャンピオンの内藤大助選手に対する抱え上げや頭突き、ひじ打ちといった反則行為の連続にはあきれ返った。最低の世界戦だった。あれをボクシングとは言えない▼横柄な言動を売りにした父親と兄弟。話題性だけを求めたマスコミの対応が、傍若無人な亀田一家の暴走に拍車を掛けたことは否めない。世界戦前の記者会見で、大毅選手は「負けたら切腹するよ」「おれのパンチは宇宙一や」「(内藤選手は)根性ゼロや」と言いたい放題。テレビはそんな若造のざれ言を楽しんで取りあげた▼結果は手も足も出ない惨敗。出たのは反則技だけという情けなさ。試合前の威勢の良さはどこへやら、ボクシングライセンスの1年間停止処分を受け、切腹どころか丸刈りにしてうつむくだけ。虚像に気づいたファンは離れる▼これはどんな世界でも同じだ。虚勢を張っても仕方がない。社会人として働いているのなら、実直に仕事と向き合い、現場を踏むことだ。それこそが経験に裏打ちされた真の実力になるから▼父親はセコンドライセンスの無期限停止となり、亀田兄弟のボクサー人生は先が見えない。行く末を案じる義理もないが、虚構はいともたやすく崩れるということを、実に分かりやすく示してくれた“功績”だけは認めようか。(H)


10月24日(水)

●名古屋、薩摩、比内の共通点を問われたら、かなりの人が「地鶏」と答えるだろう。名古屋のコーチン、薩摩のシャモとともに秋田県の比内地鶏は、日本三大地鶏に数えられる。値も高いが、味わいも深いと賞賛されてきた▼その比内地鶏の偽装が明るみに出た。大館市の食肉加工製造会社が、卵を産まなくなった廃鶏を薫製やつみれなどに加工して、比内地鶏と偽り出荷していた。偽装は約20年前から続いていたそうだから、根は深い。賞味期限の改ざんなどの不正もあるという▼偽装の連鎖は、とどまることがない。老舗和菓子「赤福」の製造日偽装が発覚したのは最近のことだ。道内では「ミートホープ」の食肉偽装事件、石屋製菓の「白い恋人」の賞味期限改ざんが尾を引いている。白い恋人は販売再開のめどが立ったが、ミートホープは、強制捜査が近いという▼どのケースにも見られるのは、利益を求めるあまり消費者をないがしろにした経営者の姿勢だ。発覚の経緯には、内部告発が多い。そこには、Cホ(もう)け一辺倒の経営者に対する良識の反乱が作用しているように思う▼近江商人は「三方よし」を商売の理念としていたそうだ。「売り手よし・買い手よし・世間よし」で、みんなが満足できる商売を代々伝えてきた。高い利益を上げればそれでいいという売り手本位の考えは、近江商人の道徳からは外れていた▼食品にかかわる偽装がこうも続くのは、商道徳が死語になったということだろう。きりたんぽ鍋を食べるとき、比内地鶏か疑わなければならないとしたら、なんとも味気ない。(S)


10月23日(火)

●知的障がいを持つ日本の若者2人が、アメリカの家庭に3ヶ月間ホームステイして、学校に通いスポーツに打ち込む。01年の映画「able」は、2人が周囲の励ましと助けに支えられながらスポーツに取り組む姿を描き、感動を呼び起こした▼この映画の制作に協力したのが、スペシャルオリンピックス(SO)日本である。東京都内の試写会場で映画を見たとき、上映が終わっても多くの観客が椅子から立ち上がらず、目を潤ませて余韻をかみしめていたのを思い出す▼SOでは、スポーツに励む知的障がい者をアスリートと呼ぶ。オリンピックスと複数にしているのは、4年に1度の祭典ではなく、世界のどこかで常にアスリートがスポーツをしていることを表す。SOの運動はケネディ元米大統領の妹シュライバー夫人が始めた▼来年の北京オリンピックを前に今月初め中国・上海でSO夏季世界大会が開かれた。世界中から集まった障がい者アスリートに混じり、日本からも120人の選手団が派遣され、水泳、陸上などの競技に持てる力を発揮した。応援に駆けつけ、感動を分かち合った日本の家族もいる▼SOは、身体障がい者のスポーツ大会・パラリンピックほど知られていない。オリンピックと同じ年に同じ会場で開かれ、メディアでも取り上げられるパラリンピックと異なり、SOについての報道は少ない▼日本には約70万人の知的障がい者がいるが、アスリートとしての登録は約6000人だ。「able」の若者のように、笑顔が輝くアスリートの層がもっと広がってほしい。(S)


10月22日(月)

●強い風が終日吹いた翌朝、駐車場にイチョウやプラタナスの枯葉が散り敷いていた。車のワイパーにも、茶色い葉が一枚挟まっていた。街路樹のナナカマドの実は、さえた赤ワイン色がくすみを帯びてきた▼昼間は晴れ間が見えても、夕方からしぐれることが増えた。ストーブの火が恋しくなり、しまっていたコートを出してハンガーに懸ける。小春日和の穏やかな日中が、この先も幾日か来るだろうが、北国の秋は冬への短い助走でしかない▼この季節になるとほかほか湯気を立てる鍋物が食べたくなる。なじみの店に飛び込み、湯豆腐を頼む。湯気で曇るメガネを拭きながら、はふはふと口に運ぶ。豆腐はどの店、コンブはどこ産などの能書きはなくても安くて体が温まれば、それだけでうまい▼鍋物は家族や友人ら多人数で囲むからうまいのだ、と言われる。なるほど鍋物に欠かせない薬味は、家族や仲間同士の楽しい語らいだろう。その効用は認めるとしても、1人用の小鍋仕立ても捨てがたい▼食通で知られた作家池波正太郎が「小鍋だて」と題した随筆で「底の浅い小鍋へ出汁(だし)を張り、浅蜊(アサリ)と白菜をざっと煮ては、小皿へ取り、柚子(ユズ)をかけて食べる」と10代のころに訪れた老人宅の食事風景を描いている▼この老人は、人気シリーズ「剣客商売」の主人公秋山小兵衛のモデルになったという。だからだろうか、年若い妻おはるが用意した小鍋を前に、小兵衛が酒を飲む場面が小説には出てくる。今夜は小説の名場面を思い出しながら、地元の魚介を使った小鍋を楽しもうか。(S)


10月21日(日)

●函館市出身の評論家、亀井勝一郎は元町で生まれ育った。実家の宗教は真宗で、家のすぐ近くに東本願寺函館別院があった。さらにフランスのカトリック教会やロシアのハリストス正教会などもあり、『東海の小島の思い出』の中で「世界中の宗教が私の家を中心に集まっていた」と述べている▼函館大谷短大の福島憲成学長からうかがった話。福島学長は松前町の真宗大谷派専念寺住職。専念寺の末寺、箱館浄玄寺が現在の東別院になったというから、非常に深い縁がある▼別院は、本山と末寺の中間に立つ拠点寺院。東別院の梨谷哲栄輪番によると、東本願寺の別院は全国に52あり、宗祖親鸞の血脈を受け継ぐ大谷家が住職を務めているのは函館と姫路の2別院だけという▼宗祖や宗門が掲げる「平等」の精神に反するかもしれないが、大谷家の連枝(れんし=門首の血族)が住職を務める函館別院は、やはり格がある。現在の住職は大谷演慧(えんねい)さん(93)で、かつて東本願寺の門首代行も務めた▼10年ほど前、大谷住職を取材する機会があった。若いころ、別院の全門徒にお参りしようと考えたら、別院の職員に「年に何度かの函館入りでは何十年もかかります」と言われたという▼世界では宗教やイデオロギーの対立がもたらす争いが絶えない。亀井勝一郎が語った仏教や神社、キリスト教各派が仲良く暮らす函館の街は、世界でも特異。その一つの東本願寺函館別院の本堂などが国の重要文化財に指定されることが決まった。函館から世界へ「宗教間の対立がない街」をアピールしてほしい。(P)


10月20日(土)

●子供に対する悪意や危険がどこに潜んでいるか、油断できない時代になった。子供の安全を守るのは社会の責務であるはずなのに、子供を巻き込んだ事件や事故がこのところ目立つ▼兵庫県で小学2年の女の子が、自宅前の路上で腹や胸を刺され死亡した。なくなる前、女の子は男に刺されたと話したという。同じ日には、神奈川県で小学3年の男の子が、エスカレーターの手すりと衝突防止用の板との間に首を挟まれた▼ネットを悪用した犯罪も多発している。中学2年の少女を10日間、連れまわした神奈川県の男が逮捕された。長崎県の小学6年の女の子を家出させ、自宅に連れ込んだとして大阪市の男が逮捕された事件もつい最近あった。どちらもネット社会の危険なワナが生んだ犯罪だ▼「きょうはイカのおすし」という言葉がある。晩ご飯をイカのおすしにしようと母親が子供たちに話しかけているのではない。「身近な危険から子どもを守る本」(横矢真理著・大和書房)が紹介している▼きょサ(不審者や車と)距離を取る うサ(自分の)後ろに気をつける はサ(家に)早めに帰る イカサ(知らない人にはついて)いかない のサ(車に)乗らない おサ(助けてと)大声を上げる すサすぐ逃げる しサ(どんな人に何をされたかを大人に)知らせる▼子供たちに身を守る術(すべ)を繰り返し教えなければならないのは、安心できない社会の現実だ。地域ごとに危険ポイントを記載した安全マップの作成も行われている。それにしても子供たちを守る方策は、はがゆいぐらい乏しい。(S)


10月19日(金)

●はこだて観光俳句の入賞作品に「あたたかき函館訛(なま)り初紅葉」というのがあった。駒ケ岳と大沼に映える紅葉、海峡を見下ろす函館山の紅葉。松前や江差のいにしえ街道を彩る紅葉。秋の三大要素といわれる紅葉とマツタケとサンマは真っ盛り▼裏を見せ 表を見せて 散るもみじ〜 きれいな紅葉でも必ず枯れて散っていく。良寛は最初に「裏」という言葉を詠み「惜しむ」という心の働きを重視したという。ただ色あせていくのではなく、最後に力を振り絞って輝く。「限りある命だから今を大事に」と癒やしてくれる。それが観楓の醍醐味だ▼担子菌類キシメジ科のキノコと言われるマツタケ。核実験による制裁で北朝鮮産が輸入禁止になり、中国食品への不安から中国産の入荷もダウンし、デパートなどに並ぶマツタケはカナダやスウェーデン、フィンランド産など国際色豊かに。国産は高温小雨で不作続き▼子供のころ、裏山に出かけてマツタケなど採った。毒キノコの見分け方を勉強してからキノコ狩りに出かけ、しかも迷子にならないように。クマ対策も大事だ。また、今秋のサンマは大きく、脂がのっている。遠乗りした目黒で初めて食べたサンマが忘れられないという殿様の姿が目に浮かぶ▼秋の夕日に〜照る山もみ〜じ♪ 昔から続く日本人の心象現象。マツタケとサンマをご膳に乗せて舌鼓を打ちながら、秋のぜいたくを堪能したい。先日の本欄で引用した諺『鰯の頭(かしら)も信心から』が間違っていました。読者からご指摘いただき、全く「冷汗三斗」の心境です。(M)


10月18日(木)

●映画「ALWAYS三丁目の夕日」は、西岸良平さんの人気漫画が原作だ。一昨年封切られ、話題を集めたから、ご覧になった方も多かろう。1950年代から60年代にかけて、高度経済成長が始まったころの庶民の暮らしが描かれていた▼三丁目には、いろんな騒音が渦巻いている。その中には、路地を駆け回る子供たちの声もあふれている。子供たちの遊びには、何らかの音が付き物だろう。それが受忍の限度を超えているかどうか、判断は難しい▼東京地裁八王子支部が、噴水で遊ぶ子供の声が「騒音」になるとして、噴水の運転停止を命じた。問題になったのは、東京都西東京市の「いこいの森公園」。ここで遊ぶ子供たちの声が体に障ると近くに住む女性が訴えた。女性は心臓に持病があり、療養中だという▼裁判所の決定に対しては、市民の間に論議が起きた。「うるさいなんて子供に冷たい」という意見から「女性の気持ちもわかる」まで、さまざまだ。公園を見た中村攻千葉大教授に電話をすると「公園の設計が周辺の環境を考えていなかったのでは」と問題点を挙げた▼中村さんは、噴水を住宅地から離した位置に設ければ、問題は起きなかったと指摘する。さらに「子供の生活空間と周辺の人たちとの間で、音にかかわる問題が広がっている。だが、裁判に解決を求めるのはどうか」と疑問も述べた▼函館には268カ所の公園がある。子供のボール遊びなどの苦情が来ると、学校を通して指導したり、町会と話し合って解決しているという。三丁目の優しさと地域の解決力はぜひ守りたい。(S)


10月17日(水)

●ここ数日来、函館地方は冷え込みが強まり、吹く風にも寒さが加わった。深まり行く秋は、街路樹の葉の色にも表れてきた。函館山は、すでに一部の紅葉が始まっている。道北などでは初雪も降った▼日脚は短くなり、夕方5時を回ると薄暗くなる。海風の強い日は、夕焼けの色もくすんで寒々しい。北国の秋は、短い序章を綴り終えると冬と交錯する晩秋を迎える。長い夜が始まる季節の幕開け▼この季節の楽しみは、読書だろう。ソファに腰を下ろし、手元の明かりをともして読みかけの本を開く。テレビはつけない。ソファでなくても、布団に寝そべって本を手にとってもいい。ケータイは電源を切るかマナーモードにしておく▼評論家の臼井吉見は、函館生まれの文芸評論家亀井勝一郎と編んだ「読書のたのしみ」(文藝春秋)の中で「本屋へ立ち寄って本の顔を眺めるだけでもよい。一冊読んでおもしろかったら、同じ著者のものをもう一冊読んだらどうだろう」と本の森に分け入るコツを書いている▼若者の活字離れが問題になって久しいが、学校では読書を習慣づけようと、「朝の読書」が全国に広まっている。1988年、千葉県の私立女子高の2人の教師が提唱して始まった「朝の読書」は、小中高の実施校が2万校を超え、925万人が実践しているという▼ただ、取り組みの熱心さに差があるからか、北海道は44%で、低い方から数えて3番目。トップの佐賀県は92%だという。子供たちに読書の楽しみを身につけさせたい。そんなことを思いながら、熱いココアを用意して秋の夜長を読書に勤しむ。(S)


10月16日(火)

●「小諸なる古城のほとり/雲白く遊子(ゆうし)悲しむ/緑なすはこべは萌えず/若草も籍(し)くによしなし〜」  旅人の情景を読んだ島崎藤村の詩。高校生のころ、教科書に載っており、この美しい日本語を声に出して競って暗唱したものだ▼のどかな、その小諸市(長野県)の新興宗教「紀元会」の教団施設で、すし店経営の63歳の女性が21人の信者の集団リンチを受けて死亡していたことが発覚した。リンチに加わったのは大半が女性の信者で、中には17歳の少女を含む4人の未成年者も入っている▼37年前に出来た神道系の教団。「すべての病気に効く」と“紀元水”を1本数千円から数万円で、また「患部に当てると治る」と25万円(実際は200円の価値)もする“謎の玉”を信者に売りつけていた。殺された女性経営者も家族ぐるみ(5人)で入会していた▼教団には病院に行ってはいけないという決まりがあるらしく、あるがん患者の信者は末期になるまで紀元水を飲まされていたという。女性は最初は家庭内のトラブルから家族の暴行を受けて死亡したというが、実際は教団の会合で女性の態度が「気にいらない」と非難を浴び、殴るけるの暴行を受けたようだ▼教団内の信者がからんだ殺人事件は、オウム真理教を筆頭に、大阪の「神のお告げ」事件、福井の白装束集団事件などがあるが、小諸の事件は家族や少女が加わっており、「信心もイワシの頭から」では済まされない。人を救うのが宗教なのに。藤村も「歌哀し佐久の草笛…」と嘆いている。(M)


10月14日(日)

●山や渓谷などに映える紅葉が一つ一つ小枝を離れ始めた。食欲の秋。天高く馬肥ゆる秋。紀伊旅行から帰って、1週間分の新聞に目を通したところ、物価の値上げラッシュと食品虚偽表示の記事が目立った。ガソリンはもちろん、あれもこれも値上げの秋▼豪州などの干ばつで穀物の輸入価格が高騰し、バイオ燃料の需要増も拍車をかけて、原料のトウモロコシの生産に小麦からの転作が多くなって、需給バランスが崩れた。原油の高騰で包装費や輸送費などもかさむ。このため、まず日本製粉が小麦粉などの製品を20日から値上げ▼丸大食品は22日からハムやソーセージなど主要300品目を平均10%、エスビー食品はカレールーなど156品目を来月12日から6〜10%、山崎製パンは食パンなど500品目を12月から平均8%。来年1月の「即席めん」と続く。小売り業界が価格を凍結してくれれば助かるが…▼「赤福よ、お前もか」。食品の虚偽表示。創業300年の菓子メーカー「赤福」(伊勢市)が「まき直し」という操作で赤福餅を冷凍保管し、後日解凍後に包装を改め、消費期限を再設定して販売していた。まごころをもって人の幸福を祝い喜ぶ「赤心慶福」であるはずなのに…▼赤福餅は伊勢神宮のお土産の定番で、道産のもち米を使っている。北海道のお土産「白い恋人」に次いで消費者の信頼を失った。「1本で1日分の野菜」を表示したジュースが1日に必要な栄養素を下回っているという調査もある。秋風は「値上げドミノも、虚偽表示もいけないよ」と吹いている。(M)


10月13日(土)

●7月に亡くなった作家小田実さんの名を有名にしたのは、欧米・アジアの貧乏旅行記「何でも見てやろう」だった。その後、反戦反核の市民運動家として知られるようになった小田さんのこの本には、若者の好奇心が凝縮されている▼1968年に出版された「何でも見てやろう」は、若者たちに貧乏海外旅行の扉を開く役割を果たした。海外旅行がいまほど自由ではなかった時代、若者たちはアルバイトで貯めたわずかなお金を持ち、リュックひとつを背負って日本を飛び出した▼イランで誘拐された横浜国立大生の中村聡志さんは、小田さんの本を読んで思い立ったわけではないだろう。いま海外旅行の必携本は「地球の歩き方」だろうから、こちらの本は荷物に入れていたかもしれない。小田さんの時代も現在も、若者をかき立てるのは、未知の海外への好奇心だ▼中村さんは12月に帰国する予定で、大学には半年の休学届けを出していた。5月に1人で日本を出てから、香港、インド、ネパールなどを回り、イランに入ったらしい。ひとつの国から隣りの国へ、行けるところは陸路を通っての旅行だったのではなかろうか▼イランは、世界遺産のペルセポリスなど古代ペルシャの多くの遺跡と、世界2位の石油資源を持つ国である。その一方、政治的には反米を貫き、核開発の疑惑もささやかれている。日本とは貿易上のつながりが深く、外交関係は良好とされている▼イランでは、8月にベルギー人男女が誘拐され、その後釈放されている。中村さんの家族は祈るような気持ちで吉報を待っているだろう。(S)


10月12日(金)

●道東地方を車で走ると、道路のすぐ近くでエゾシカを見かける。時には十数頭の群れが車の音も気にならないのか、逃げもしないで悠然と草を食べ続けていたりする。自然環境の豊かさに心和む光景だ▼車にはねられるシカもいるのだろう。道路にはシカの跳び出しに注意を促す看板が立っている。オオカミなどの天敵がいないからシカは道内のほぼ全域で増え続けてきた▼だが、生息数の増大は困った事態を引き起こした。樹木の樹皮が裸にされたり、農作物が食い荒らされたりの被害が広がった。渡島支庁の調べでは、道南でも農作物被害が漸増傾向にあるという▼被害を減らす有効な手立てのシカ猟が27日に解禁され、来年2月までハンターが山に入る。道南ではこれまで猟期を2回に分けていたが、今年から3回に増やした。ハンター数の減少や高齢化で、頭打ちだった捕獲数を途中の中断期間を短くして増やす狙いだ▼シカは、フランスはじめヨーロッパ各国で古くから食卓に上ってきた。高たんぱく、低脂肪の優れた食材として一流レストランのメニューにも載る。日本でも道産のシカ肉を使った料理の普及を目指し、一部では生肉や缶詰なども売られている▼だが、捕獲したシカの解体と食肉化は、企業ベースに乗せにくい。道東の町では、生肉を取り扱っている食肉店もあるが、スーパーの店頭には並ばない。天然資源を捕獲するのだから量が少ないうえ、流通ルートも未整備だ。道南でも事情は似ているだろう。シーズンが始まったら、函館で生肉が手に入るのか、なじみの肉屋に尋ねてみたい。(S)


10月11日(木)

●先の南北朝鮮首脳会談で、北朝鮮の金正日総書記が「拉致日本人はもういない」と発言したとの情報が、韓国側同行者の話として報じられた。拉致被害者の家族、そして帯広市内に住む鳥海冏子さんはどんな思いでこの報道に触れたのだろう▼鳥海さんは、1973年に失跡した帯広育ちの渡辺秀子さん(失跡当時32歳)の実妹だ。渡辺さんの長女(同6歳)と長男(同3歳)は北朝鮮に拉致されたと警察庁がことし4月に認定、捜査本部を設置した。渡辺さんの夫は北朝鮮工作員で、73年に本国に召還され姿を消した▼渡辺さんは子供2人を連れて都内で夫を捜していたが、そのまま行方不明に。工作活動の発覚を恐れた別の工作員が、渡辺さんを殺害し子供を拉致した疑いが持たれている。鳥海さんは姉とその子供たちの所在確認を求め、捜査当局に働き掛けてきた▼ただ、拉致問題が次々に表面化する中、鳥海さんには「姉の夫が工作員だった」という負い目があり、拉致被害者家族会などとは距離を置かざるを得ない事情があった。孤独な闘いだった▼そんな鳥海さんの重い心は、家族会代表の横田滋さん、早紀江さん夫妻と面談して少しほぐれた。早紀江さんの「皆それぞれ事情を持っている。気にしないで一緒に頑張りましょう」という一言が身に染みたからだ▼年金問題や政治と金、安倍首相の無責任退陣など、一連のゴタゴタの中で、拉致問題が陰に追いやられた感は否めない。手を携えて国家的犯罪に立ち向かおうとする被害者家族に、この秋の風は一段と冷たく感じられるのではないか。(H)


10月10日(水)

●函館市内のシネマアイリスで上映中の「シッコ」は、米医療制度のお寒い現状を描いた作品だ。民間保険が主体の米では6人に1人が医療保険に加入していない。たとえ加入していても、保険会社はさまざまな理由をつけて保険金の支払いを拒む▼映画では、マイケル・ムーア監督がインタビュアーとなって米の医療難民の実情をリポートすると共に国民皆保険制度に守られた先進各国を紹介する。なかでも胸を打つのは、医療費を支払えないために病院を追い出され、路上に棄てられる患者の姿だ▼そんな非人道的なことが、世界最先端の医療技術を誇る米で起きているのかと不審に思われる方もいよう。同時多発テロを「華氏911」で描いたムーア監督のブッシュ政権批判を偏見に満ちていると指摘する声もある▼だが、医療を受けられない貧しい人々がいるのは、厳然とした事実だ。医療制度改革が、米大統領選の主要テーマに浮上していることからも社会問題化していることが分かる。映画は、改革をさせないために保険会社が多額の献金をしている実態を皮肉たっぷりに描く▼ムーア監督が訪れた皆保険制度の国は、カナダ、イギリスなど4カ国だ。ここに日本が加わっていたら皮肉屋の監督は、どんな描き方をしたろうか。46年前に国民皆保険が始まった日本は、米より安心できる制度を持っている▼だが、保険料を滞納して保険証の交付を止められた貧困層や、重い医療費を嘆く年金暮らしの高齢世帯も多い。「シッコ」の提起した問題は、ひとごとではないな、と画面を見つめながら思った。(S)


10月9日(火)

●有機農法を実践している埼玉県の農家を訪ねたとき、牛ふんからメタンガスを分離して炊事に使っているのを見せてもらった。装置は手作りしたという簡単なものだった。もう10年以上も前のことだ▼牛を神聖視しているインドでは、牛ふんは大切な資源だ。都会ではさすがに見かけないが、郊外や農村では拾い集めた牛ふんを土壁に張り付けて乾燥させている。水分が抜けた牛糞は、燃料になる。火力もかなり強くて煮炊きをするには十分だ▼牛ふんが有効な資源であることは分かっていたつもりだが、まさかバニラの香りまで含んでいるとは、思いもよらなかった。日本人の女性研究者が、バニラの芳香成分「バニリン」を牛のふんから抽出することに成功し、イグ・ノーベル賞を受賞した▼イグ・ノーベル賞は、ノーベル賞のパロディ的な賞として1991年に創設された。「まず笑わせ、そしてうならせ考えさせる」ような独創的研究に与えられる。笑いと賞賛と、時には皮肉を込めた授与式が米ハーバード大学で行われるから、権威付けもたっぷりだ▼日本では、これまで「たまごっち」の開発者、カラオケの発明者などが受賞しているが、衝撃度では今回の牛ふんからバニラが抜き出ているだろう。なにしろバニラアイスを食べるたびに、まさか牛ふん由来の香りは使っていないだろうな、と疑心暗鬼に陥りそうだから▼まあ、製品化の可能性は当分なさそうだから、心配は杞憂(きゆう)だろう。それにしても牛ふんは、すごい資源なんだ、と改めて知った。埼玉の農家もインド人もびっくりだろう。(S)


10月8日(月)

●「雪国のハンデ」。そんな表現はすっかり過去のことになった。北国の球児は、雪が降る冬季間、十分な練習ができない。甲子園に出場しても一回戦を勝ち上がれば「よくやった」と言われたのは、かなり以前のことだ▼いまや全国的に名が知られた強豪校が、道内大会をレベルの高い熱戦にしている。選手の体力、技術、潜在的な能力も格段に向上し、プロのスカウトが有望選手を見ようと球場にやってくる。そうしたスカウトの目に留まり、今年の高校生ドラフトで道内から3選手が指名された▼かつてのドラフトでは、特定球団以外は行きたくないと拒否し、社会人や大学に進んでからプロを目指すケースもあった。特にパリーグ球団の指名にその傾向が強かった。だが、3選手とも指名を光栄と喜び、入団に前向きのコメントをしている▼今シーズンのプロ野球は、楽天の田中将大投手の大活躍で沸いた。札幌ドームの日本ハム戦では、地元の日ハムと変わらぬ声援が田中投手に送られた。駒大苫小牧を夏の甲子園2連覇に導いた田中投手のプロ1年目の活躍は、3選手にも強い印象を与えたろう▼指名された3選手は、いずれも投手だ。体は立派でもプロとしての体力と技術を磨くのは、これからの努力だ。「早く一軍に上がりたい」と抱負を語っているように、まず二軍でスタートし、実績を積んでから晴れのマウンドを夢に描く▼プロ野球は日本一を目指すポストシーズンが始まる。海の向こうの大リーグでは、ワールドチャンピオンをかけた熱戦が続いている。もうしばらくはテレビ観戦が楽しめる。(S)


10月7日(日)

●福島町は千代の山、千代の富士の2横綱が生まれ育った古里だ。横綱を2人も輩出した町は、全国でもここだけだ。町は2人の偉業をたたえ、10年前に横綱記念館を開設した▼千代の山は上背を生かした強烈な突っ張りで一時代を築いた。一方の千代の富士は、速攻を得意とし小兵ながら優勝31回を数える小さな大横綱だ。記念館では、2人が締めた綱や化粧まわし、優勝額、見事な筆跡の揮ごうなどを展示している▼館内の見所のひとつは、再現された九重部屋の稽古(けいこ)場だろう。町には毎夏、部屋の力士たちが訪れ、ここの土俵で稽古に励む。力士たちの汗がしみこんだ土俵の前に立つと、激しい息遣いが聞こえてきそうで、気持ちが湧き立つ▼土俵は古来神聖な場だった。その土俵でこともあろうに暴力が振るわれていたことが相次いで明るみに出た。時津風部屋に入門したばかりの序の口力士が急死した事件に続き、武蔵川部屋では部屋付きの親方が傷害容疑で書類送検されていた▼相撲界には「かわいがり」という言葉があるそうだ。これはと見込んだ力士に集中的にぶつかり稽古をつける。強くしてやりたい親方心、兄弟子心なのかもしれないが、行き過ぎるとリンチまがいになる。新弟子をビール瓶で殴った時津風親方は、言語道断だろう▼横綱朝青龍の巡業すっぽかし以来、大相撲は不祥事続きだ。伝統を誇る国技なのに、入門予定者が断りを入れてくる例さえ現れているという。新弟子が集まらなければ、角界の将来は暗い。泉下の千代の山も協会幹部の千代の富士も苦虫をかみつぶしているに違いない。(S)


10月6日(土)

●湯治は江戸時代に日本人の生活文化に定着したらしい。池波正太郎の人気シリーズ「仕掛人・藤枝梅安」にも疲れを癒しに湯治に出かける場面があったと思う。そのころの人々にとって、湯治は寺社詣でと共に人気のレクリエーションだった▼ゆっくりと湯につかり、英気を養う。湯にはさまざまな薬効があるから、病気やけがも治療できる。効果が現れるには、相当の日数を要したろうから、江戸時代の湯治は、長期にわたるものだった▼忙しい現代に暮らす私たちは、1カ月もの湯宿暮らしはまず望めない。第一家計が許さない。だが、たとえ1泊でも日帰り入浴でも、湯につかって手足を存分に伸ばすと、体の底からリフレッシュした気分に浸れる▼そうした身近な幸せを堪能できる温泉地が、道南には数多くある。車で遠出をするときは、風呂道具を必ず持って行くという転勤族もいる。行き会った土地で、標識に導かれるまま湯宿を訪ねる。入浴だけなら多くは500円のワンコインでお釣りが来る手軽さだ▼函館市内にも温泉が多い。かけ流しの湯やサウナ、薬湯などが楽しめて銭湯と同じ料金だ。家風呂があっても気持ちのよさは、温泉にかなわない。温泉大好き人間にとって、函館・道南はパラダイスだ。そのパラダイスに新たな魅力が加わる▼温泉郷・湯の川に足湯が設けられることになり、工事が始まった。足湯は服を脱がずに入れる手軽さが受けて、各地の温泉に広がっている。江戸時代の湯治のような寛ぎはないかもしれないが、温泉の新たな楽しみ方だ。湯の川の足湯は年末にオープンする。(S)


10月5日(金)

●矯正保護講座を受けていた学生の頃、大阪拘置所で死刑執行の絞首刑台を見学した。宗教祭壇を前に、死刑囚の首に巻かれたロープに連動したレバーを引くと地下室に落ちていく。医務官が13階段を降りて、息を引き取ったことを確認する▼死刑囚とはいえ、人間の命を抹消するのだから執行官は「自分がこのレバーを引くことによって…」と悩む。このため、執行担当は当日の朝になって言い渡される。前日だと、眠れず、精神的にまいってしまうからだ。死刑執行に署名をする法務大臣の心境も同じだろう▼在任中に署名しなかった大臣、思想信条などから署名を拒否した大臣もいたが、福田内閣で再任された鳩山邦夫法相は「ベルトコンベヤーと言ってはいけないけど、順番通りなのか、乱数表なのか分らないけど、自動的に客観的に進む方法を考えてはどうか」と言った。これは暴言だ▼「一つの命」を巡って、心から罪を悔い、常に死の恐怖におびえている悪人も執行までは生きる権利がある。一方、被害者の家族も苦悩し続けるが、刑事訴訟法には「死刑の執行は法務大臣の命令による」と明記されている。ジレンマに陥っても、死刑制度から逃れられない…▼小中高生を対象にした道教委の命の意識調査で「命より大切なものがあるか」の質問に72・2%までが「ない」と答えている。波紋を広げる「コンベアー、自動的に」発言。執行官がレバーを引いても、被害者の命も、加害者の命も大切だということを子供たちに教える方法はないのだろうか。死刑廃止以外に…。(M)


10月4日(木)

●初老の男性たちがエプロンを着け、慣れぬ手つきで包丁を使っている。メニューは家庭用総菜が中心だ。定年退職者の料理教室。妻が寝込んだりしたときに、何か作れるようにと教わっているのだ▼テレビでも男性向けの料理番組が増えた。「男は台所に立つものじゃない」と祖母から戒められたのは昔のこと。いまは男が厨房に立ってもとがめだてする年寄りはいない。釣ってきた魚を使って、家庭料理を作るのが趣味というお父さんだって少なくない▼内閣府が実施した世論調査で「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」との伝統的な考えに反対する人の割合が初めて半数を超え52・1%に上った。性・年齢別では、女性の30歳代から50歳代が反対の割合が高く、逆に男女とも高年齢ほど賛成が多かった▼だが、家事分担では、夫の出番は少ない。食事のしたく(85・2%)、食後の後かたずけと食器洗い(74・7%)も妻が主役だ。掃除さえも夫がしているとの回答は20人に1人だ。役割分担の固定化は、意識上は緩んだかもしれないが、実践は伴っていないのが現状だろうか▼調査は男性が家事、子育てなどに参加するために必要なことも問うている。回答で目に付くのは「男性自身の抵抗感をなくすこと」で約半数が挙げている。「労働時間短縮や休暇制度の普及」といった労働環境の改善を求める回答も多い▼価値観念のゆらぎはあっても、役割分担の大きな転換はなかなか難しい。主夫の言葉が使われだしてから10年以上になるが、職業欄に堂々と主夫と書き込める日はくるのだろうか。(S)


10月3日(水)

●殺人事件で時効が成立した所在不明の男を相手取り、殺害された娘の遺族が9月末、札幌地裁に1億3000万円の損害賠償を求める訴えを起こした。民事訴訟という形で「元容疑者」を追及するのは異例だ▼1990年12月に起きた札幌市西区内の信金女性職員殺人事件。自宅近くの民家の軒下で刺殺体で見つかったこの女性は当時24歳だった。事件直後に近所の男が失跡し、警察はこの男を殺人容疑で指名手配した。しかし、空しく殺人時効の15年が過ぎた▼道警詰め(道警本部記者クラブ詰め)の記者として取材したこの事件。少しでも新しい情報を、と取材も過熱した。発生から1週間目だったと思う。失跡した男の行方を警察が捜しているとの情報を同僚記者がつかんだ。夜中まで裏取り取材に走り、この男を特定し、翌日朝刊に「重要参考人浮かぶ」と社会面トップで報じた▼特ダネだと確信していたが、全国紙の1紙に同様の記事が掲載されていた。逮捕令状を取り、指名手配したことなど、より詳しく書かれていた。他の新聞は「1週間、手掛かりなく…」という内容だったと記憶している▼さて今回の提訴。口頭弁論で男の犯行が立証され、裁判所が原告側の訴えを認定し、原告勝訴となれば当然、男に賠償責任が生じる。ただ、金の問題ではないのだろう。捜査は終わったが、娘の命を奪った「犯人」を絶対に許せない、野放しにはしない、という遺族の悲壮な決意が伝わってくる▼時効の壁に泣くのは捜査員も同じ。しばれる冬の事件現場で、手掛かりを求めて黙々と捜査に当たった刑事たちの無念さを今、改めて思う。(H)


10月2日(火)

●心に残るいい話を聞いた。ところは知内町中央公民館。町制施行40周年を記念して昨日開かれた町民手作りの祝賀会場である。ここに町出身の北島三郎さんが、姿を見せてあいさつに立った▼北島さんは、たまたま父母の墓参りに訪れ、祝賀会に招かれた。母親の死後、北島さんは1本の歯を母と思って、大切にしてきたという。ところが最近「物がかめないとおふくろが夢に現れて嘆いてね。それで、墓に歯を返しに来ました」▼北島さんは今年71歳になる。古希を過ぎた息子が、母の歯を長年手元に置いていた。その歯は、北島さんにとって宝物であり、母を思い出すよすがでもあったろう。飾り気のない語り口に母を慕う北島さんの心情が、あふれていた▼墓参りのとき、強風の中でともり続けたローソクが、歯を墓に戻すとすっと消えたというエピソードも紹介した。歯が戻った母は、物がかめるようになり、おいしく食べられると息子の心遣いを喜んだろうと想像する▼会場では北島さんのあいさつの後、知内高校吹奏楽部がポピュラー曲を中心に演奏を繰り広げた。彼らが最初に選んだのは「函館の女」だ。高校生がはつらつと演奏する自分のヒット曲を北島さんは、笑顔をたたえながら聞いていた▼大スターも古里では、隣りのサブちゃんだ。次々とやってくる知り合いと和やかに話を交わす北島さんには、舞台やテレビで見る顔とは別の穏やかさがあった。母に歯を返した北島さんは、古里の仲間の拍手に送られて会場を後にした。いつでも帰って来てね、待ってるよサブちゃん。(S)


10月1日(月)

●秋の空は、女心にも男心にもたとえられる。心が変わり易く頼りないのは、女も男も同じかもしれない。このところの函館の天気は、晴れた日中に雨が降り出したり、雨模様が一転してさえた月夜になったりと安定しない▼スーパーマーケットの電光温度表示は、日が落ちると10度を少し上回る程度まで下がる。まだ30度近い残暑が続く本州の一部とは異なり、北海道の秋は、一気に深まる。子供たちと海に入って遊んだ日々は、急速に色あせた▼この季節になると、シャンソンの名曲「枯葉」を思い浮かべる。マルセル・カルネ監督の映画「夜の門」でイブ・モンタンが歌った。おぼろに記憶しているフランス語の歌詞で、人に聞かれないように口ずさみ、映画のシーンを蘇らせる▼枯葉は英語に訳され、ビング・クロスビー、フランク・シナトラなどが歌い米国でもヒットした。だが、秋の夜長に聞くには、キャノンボール・アダレーのサックス演奏が最高だろう。枯葉をジャズのスタンダードナンバーに押し上げた名演奏だ▼枯葉には少し早いが、街路樹の緑が失われる10月が始まり、郵政事業がきょうから民営化された。小泉純一郎元首相が構造改革の本丸と執念を燃やした民営化だが、過疎地の集配拠点削減など先行きに不安を残してのスタートだ▼中国映画「山の郵便配達」は、湖南省の山間地に暮らす人々に郵便を届ける父と息子の物語だった。効率追求では出来ない仕事が、父から息子に引き継がれるのを描いた。民営郵政は、過疎地でも変わらぬサービスを今後も継続していけるのだろうか。(S)


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