平成19年3月


3月31日(土)

●インドと言えば誰もがまずカレーを思い浮かべる。カレーは子どもたちの人気ナンバーワンメニュー。昨今はエスニック料理が幅を利かせ、タイカレーなどバリエーションも増えてきたが、カレーの本場はやはりインドだ▼日本に本格的なインドカレーを伝えたのはラース・ビハーリー・ボースだと言われる。インド独立運動の闘士で、宗主国イギリスに追われ1915年日本に亡命、新宿中村屋の主人にかくまわれ、その娘と結婚。恩義を感じたボースは、中村屋にインドカレーの作り方を教えた。生涯については「中村屋のボース」(中島岳志著、白水社)に詳しい▼ボースは同じインド独立運動のリーダーだったスバース・チャンドラ・ボースらとともに日本支配下のシンガポールで自由インド仮政府を樹立する。イギリスと戦っていた日本軍部と、母国の独立を目指す両ボースの思惑が一致したからだった。戦前の日本にはインド独立の闘志が多数やってきた▼それから60年余が過ぎ、日本とインドはIT(情報技術)産業を通じて関係を深めている。東京江戸川区には、インド人のIT技術者が多く住み、子弟のためのインド人学校も開かれている。独立の大志を抱いて来日した戦前のインド人とは異なり、高い技術力を買われて活躍する新世代だ▼インドは2040年には人口で中国を抜き世界一になる。経済も高度成長を続け、日本を抜いて世界3位になる見通しだ。経済的きずなを強める日本とインドの関係を日本の寺に眠るボースはどう見ているだろうか。 (S)


3月30日(金)

●「下り坂だった道路が上り坂になっている。なぜか分るかな」「地下のマグマが動いたから」「正解」。地割れや断層ができた旧国道を前に、子どもたちを集めて防災教育。その国道の新ルートの開通で有珠山噴火によるライフラインが7年ぶりに完全復旧した▼噴火湾沿岸と洞爺湖温泉を結ぶ新ルートは、2000年3月31日に噴火が始まった時刻と同じ午後1時7分から供用開始。有珠山観測所で20年間、噴火予知を研究してきた北大大学院の岡田弘教授が自身の提唱する科学者、行政、マスメディアの連携で全町民の事前避難を成功させた▼道内には15の活火山があるが、岡田教授は駒ケ岳(森町など)を含む全山の主治医といっても過言ではない。駒ケ岳は1929年の大噴火で6人の死傷者を出しているが、その後は小中噴火を繰り返している。98年の小噴火でも噴火活動や降灰などが観測された▼噴煙が1200メートルまで噴き上がった噴火口などを自ら撮影し、生々しい写真を本紙にも提供してくれた。「熱水などの不安定化による可能性がある。火口の水がなくなり、地下熱のバランスが崩れた」などと、マグマによる噴火ではないとしながらも、住民に注意を呼びかけた▼地域住民の安全を最優先に研究を続けてきた、その岡田教授が今月末で定年退官する。「防災にはチームワークが大事。次代の人が使えるように蓄積したデータを整理して道内の火山研究を見守りたい」と話す。駒ケ岳の火山活動には、今後も適切な助言をお願いしたい。(M)


3月29日(木)

●国際観光都市・函館を支える湯の川温泉の湯量減少が問題になっている。源泉からの自噴がなくなり、道の許可を得ずに動力装置(ポンプ)を使用したり、許可以上をくみ上げたりしていたことが判明したのが1997年。旅館経営者の告発が発端だった▼温泉の効能は、疲労回復や病気療養など、枚挙にいとまがない。歴代天皇が現在の有馬温泉(兵庫)や道後温泉(愛媛)などへ訪れた記録が残っている。8世紀から9世紀にかけて諸国を行脚した弘法大師空海が、つえをついた所から温泉が噴き出したとの伝説も有名▼道内にも登別や洞爺湖、定山渓などさまざまな名湯があり、温泉の数は日本一。中でも湯の川は、湯船に漬かりながら山と海を望むことができ、その絶景は息をのむほど。さらに空港にも近く利用しやすいとあって、道外の観光客も多い。しかし、自慢の湯が減ってしまっては…▼函館市も早急に対策に乗り出すことを決めた。道立地質研究所に依頼している調査結果や指針が3月末にまとまる予定で、湯の川温泉旅館協同組合などの関係機関と連携し、対策を推進する▼同組合が中心となって、第2回はこだて湯の川温泉博覧会(オンパク)も31日から始まる。昨年秋の第1回に続き、地元と全国に湯の川を売り込むプログラムを盛りだくさん用意している。温泉人気が高まっている今だからこそ、天然資源の大切さもかみしめたい。温泉は、黙っていてもどんどんわき出てくると思われがちだが、文字通り湯水のごとく消費したら枯渇してしまう。(I)


3月28日(水)

●ひところのように学歴を偏重する風潮は幾分薄れたとはいえ、2人に1人が進学する時代にあって子どもを大学・短大にやりたいと思うのは変わらぬ親心だろう。財産は残してやれないが、教育だけはしっかり受けさせたい。そう願って少々の無理は承知で、子どもの進学の夢をかなえさせている家庭も多いに違いない▼幼稚園から大学卒業までに要する費用は、すべて公(国)立でも1000万円を超す。私立大学に入れば卒業までの4年間に平均860万円かかる(文部科学省「学生生活調査報告」)。親にとっては重い負担だ。よほどの資産家か高給取りでもない限り、子どもの教育費ですねがやせ細る▼首都圏の私大に入学した新入生の家計状況調査は、苦しさを増す台所事情を浮かび上がらせる。東京地区私大教職員組合連合が保護者を対象に昨年実施した調査では、入学費用の一部を借金でねん出した世帯は28%、平均借入金額は過去最高の174万円に上った。負担が「極めて重い」と「重い」を合わせると90%に達する▼仕送り額も減っている。平均では9万9200円で、1986年の調査開始以来初めて10万円を割った。景気は回復してきたといっても賃金は頭打ち。非正規雇用の増加で、収入の格差も広がっている。まして収入が全国平均を下回る道内世帯が、子どもを大学までやるのは一大事業だ▼教育の機会均等はいまや絵に描いたもちになった。難関大学合格者の親の年収が平均をはるかに上回るのは、小学生から塾に通わせる経済力があるからだ。格差社会のひずみが大学進学にまで及んでいる。(S)


3月27日(火)

●「珠洲の海に朝びらきして漕ぎくれば 長浜の浦に月照りにけり」。大伴家持が船出して詠んだ能登半島をマグニチュード6・9の大きな地震が襲った。ナマズは予測の裏をかき大暴れ、日本海の潮風に耐えて軒をつらねる古い家が無残に倒壊した▼最新の地震動予想地図(地震調査研究推進本部作成)によると、能登半島は30年以内にM6弱以上の揺れに見舞われる確率は0・1%未満と推定される“安全地帯”だ。が、鳥取県西部地震や宮城県北部地震、新潟県中越地震、福岡県西方沖地震のように足元に活断層が潜んでいた…▼「何かにつかまらないと立っていられない」「地面がゆがんだように見えた」激しい揺れ。輪島市には桃山期の公家書院造りの時国の家もあることから、庭に大きな石灯篭(どうろう)などを置いている民家も少なくない。その下敷きになり主婦が亡くなった。江差をはじめ道南には北前船の時代から能登出身者が多い▼臥牛子が生まれた寺院(能登町)も鐘楼がずれ、斜面の墓地がせり出し、山門に通じる石段が崩れた。寝耳に水のパニック。過去に大きな地震が起きていない「空白地」の発生、現代地震学の裏をかかれた▼足元に活断層が走っていない地域でも不意打ちの備えが必要。北海道も例外ではない。気象庁が揺れが始まる直前に警戒を発信する「緊急地震速報」の速やかな実用導入を望みたい。「岩走る垂水の上のさわらびの 萌えいずる春になりにけるかも」(万葉集)。余震は続くが、早く復興の春を迎えたい。(M)


3月26日(月)

●卒業式に歌われる歌が様変わりしてきた。以前は「仰げば尊し」と「蛍の光」が定番だった。それがはやらなくなり、代わっていま最もよく歌われるのは「旅立ちの日に」だという▼「白い光の中に 山並みは萌(も)えて 遥(はる)かな空の果てまでも 君は飛び立つ」。埼玉県秩父市の中学校長が作詞したこの曲は、人気グループのSMAPが出演するテレビCMにも使われ、一般にもなじみが深い。新たな出発を迎える人々への応援歌と言っていい歌詞が好まれているのだろう▼「仰げば尊し」はタイトルが示すように教師をあがめる内容が時代にそぐわなくなった。「仰げば尊し 我が師の恩」で始まり、2番の中ほどでは「身を立て名をあげ」と立身出世を賛美する。クールな子どもたちがそっぽを向くばかりでなく、教師にとっても面映くてとても聞いていられないに違いない▼卒業式の内容も変わってきた。教師が式のすべてをお膳立てするのはもはやほとんどない。中学、高校ともなると生徒のアイデアを取り入れた進行が当たり前になった。今年が最後の卒業式になった函館東高校では、羽織り姿の生徒代表が、学校長に「卒業証書」を手渡し、会場の微笑を誘った▼卒業は確かに「この広い大空に 夢を託して」(「旅立ちの日に」より)新たなスタートを切る日だ。楽しい思い出も辛い出来事も前途を切り開く糧(かて)になる。卒業シーズンが終わり、まもなく新入学・入園の季節が始まる。胸に希望を抱いた新しい顔を迎えるのも間近い。(S)


3月25日(日)

●名残の雪、雪の別れ、忘れ雪、雪の果て、終(つい)の雪、はだれ雪、淡雪―。こう並べてみると日本語の繊細で豊かな表現に驚く。冬から春へ、季節の移ろう足音が日ごとに高まってくるころに降る雪を鋭敏な感覚でとらえた言葉だ。冬が明けて春を迎える喜びの中に雪を惜しむ気持ちもにじんでいる▼北海道に住む私たちにとって雪は、除雪の労苦を強いる厄介者だ。降雪後に気温が下がれば路面が凍りつき、車の通行や歩くのにも難渋する日々が一冬に何度かやってくる。雪は、観光客を呼び寄せ、川に豊富な水量をもたらす貴重な資源でもあると知ってはいても雪を厭(いと)う気持ちを一度も持たなかった道産子は少ないだろう▼江戸時代後期の越後(新潟県)の商人鈴木牧之は、雪との厳しい闘いに明け暮れる人々の暮らし振りを「北越雪譜」に著した。江戸で出版された「北越雪譜」は、当時としては異例のベストセラーになったといわれる。そこで描かれたのは、暖国では想像もつかない豪雪地帯の風俗、言葉、産業などの諸相だった。現代のように手軽な暖房器具や除雪機械もなかった時代だから日々の生活は想像を超える困難さを伴ったろう▼今年は全国的な暖冬の影響で、函館でも豪雪はおろか除雪車が何度も出動するような積雪もないまま冬が行き去ろうとしている。先月亡くなった俳人飯田龍太さんは〈雪の峰しづかに春ののぼりゆく〉と詠んだ。道南の山々の雪模様が少しずつ白い輝きを失ってきた。降り仕舞いの雪も今年は早いだろう。春の気配が日ごとに膨らんできた。 (S)


3月24日(土)

●どうして即時撤廃できないのか。「ことしの入団選手が決まっているからではないか」。そんな疑いの声が聞こえてきそうだ。プロ野球のドラフト(新人選手選択)制度の希望入団枠は、ことしではなく、2008年からの撤廃となる見通しだ▼ドラフト制度について協議する、21日の12球団代表者会議。アマチュア選手に対する西武の金銭供与を受け、大多数の球団が希望枠の「即時撤廃」に賛同したが、一部球団が難色を示した。撤廃条件として、球団選択の自由を補償するフリーエージェント(FA)の取得期間(9年間)を短縮すべきだと主張したという▼希望枠に関しては導入当初から「不正の温床になるのでは」という懸念があった。実際、04年には当時学生だった一場靖弘選手(楽天)への裏金問題が明らかになり、3球団のオーナーが引責辞任。それに続く今回の不祥事は、不安が現実のものになったと言って過言ではない▼アマチュア球界はもとより、プロ野球選手会も即時撤廃を望んでいる。「球団それぞれの都合でまとまらないのであれば、非常に残念」とは、選手会の宮本慎也会長(ヤクルト)の談話だ。今秋のドラフトまでまだ時間はある。「プロ野球界」という組織の良識が求められていることを各球団は肝に銘ずるべきだ▼白熱したドラマが子どもから大人までを魅了するプロ野球。きょう24日にパ・リーグが、30日にセ・リーグが開幕する。ファンが「もやもやした気持ち」を吹き飛ばし、手放しで楽しめるシーズンであってほしい。(K)


3月23日(金)

●畜産と聞いて、すぐ頭に浮かぶのは乳牛であり肉牛。酪農王国とも、畜産王国とも呼ばれる北海道だが、その中で綿(めん)羊の飼養が回復しつつあるという。首都圏などでのジンギスカンブームが一つの背景だが、道も十勝などで振興に取り組んでいる▼回復という表現を使ったのは、かつて主要畜産だった時代があるから。その歴史をひもとくと、今から50年前、戦後の復興期だが、ピーク時の1956(昭和31)年に道内で飼われていた綿羊は約27万頭。それは現在約26万頭と言われる肉牛の飼養頭数にほぼ匹敵するほど▼肉もさることながら毛も使えるとあって重宝されたが、その後の経営を襲ったのが綿羊肉の輸入自由化。いわゆる産業価値の消失によって飼養頭数は急減に転じ、20年ほど後の1979(昭和54)年には5000頭も割って、それ以降は統計でも「その他」扱い▼採算が合わない、専業では難しいとして飼養農家が百数十戸になった中で、研究だけは続けられてきた。滝川畜産試験場(現道立畜産試験場)や国の十勝種畜牧場(現家畜改良センター十勝牧場)で、牧草地に綿羊がたたずむ牧歌的な光景を目にした人もいるに違いない▼「絶やすことなく」という試験場の使命によるが、1年ほど前の時点で道内の飼養頭数は約6000頭。1万頭のレベルには遠いが、それでも徐々に増えているという。今後の期待はヘルシー時代のジンギスカンブームの持続。それによって…。道南でも再び綿羊の姿が見られる日がやってくるかもしれない。(N)


3月22日(木)

●障害者を抱える家族にとっては、身につまされる思いが募るのではなかろうか。交通事故で死亡した重度障害を持つ息子の逸失利益が「ゼロ円」とは。この算定を不当として札幌市の両親が損害賠償を求める訴えを来月、札幌地裁に起こすと知ったとき、大半の障害者家族は「がんばって」と応援したい気持ちにかられたろう▼逸失利益は働いている場合には、実収入を基に計算する。年少で働いていなかったり、主婦などは平均賃金に就労可能年数を掛けて算出されるのが一般的だ。就労していると収入の多寡(たか)によって算定額に大きな開きが出る。それは理解していても障害があって働けないからゼロ円というのは、残された家族には納得いかない仕打ちだろう▼障害を持つ人は障害者年金を受給する。額は多くはなくても国が支給する決まったお金だ。札幌市のケースでは、加害者側の損害保険会社は、息子が将来受け取るはずの年金についても収入とは認めなかったという▼国連は昨年暮れ、「障害者の権利条約」を総会で採択した。今世紀になって初めて採択された包括的な人権条約で「障害に基づく差別は人間の固有の尊厳を侵害する」と宣言した。今月30日にニューヨークの国連本部で条約署名式が行われる予定だ▼世界には約6億5000万人の障害者がいるといわれる。障害を持つ人でも手助けと配慮と理解があれば就労することも可能だ。障害者自立支援法が施行されてむしろ障害者と家族の負担が重くなったとされる日本で、札幌のケースは日本社会の「優しさ」を問う試金石とも言えそうだ。(S)


3月21日(水)

●暑さ寒さも彼岸まで。寒の戻りと言っても、春の足音が。少雪暖冬と言われただけに、スコップで墓を掘り起こさなくてもよさそう。「最後の1粒も食べよ。もったいない」「ありがとうと感謝せよ」「済みませんと謝れ」…。読経とともに祖母の声が聞こえてくる▼よく「三つ子の魂百まで」というけれど、人の舌粘膜の乳頭にある卵形の感覚細胞「味蕾(みらい)」は小学校6年(12歳)で完成するとされる。この味覚芽をはじめ、小学高学年にもなると、心と体は自立し自我が芽生え、自己を主張し、親に反抗し、淡い恋心を抱くようになる▼この多情多感な孫に夏休み、冬休みごと良書を買い与えている。今度の春休みは「アンネの日記」を選んだ。「私の望みは死んでもなお生き続けること」と収容所で叫んだ少女アンネ・フランク。隠れ家に通じるカモフラージュの本棚、暗い屋根裏部屋。13歳から2年余で身長が12aも伸びた▼差別、偏見、虐待、いじめ…今も世界各地で起きている数奇な運命。異性との交際をとがめられた父親あての手紙では「ただの14歳の女の子と思わないで。心も体も自立している。母親なんて必要ない」などと反発したが、翌日、アンネは父親に「済みませんでした」と謝ったという▼「済みません」は「済んでいないこと」で、ルーツの先祖にまだ恩返しが済んでおらず、心新たに恩返しすることで、「ありがとう」は何千万分の1の確率で「有る」ということだと教えられた。きょう21日は春のお彼岸の中日。墓前で「ありがとう」「済みません」と感謝してみてはどうだろう。(M)


3月20日(火)

●米ワシントンポスト紙のボブ・ウッドワード記者は「攻撃計画」(日本経済新聞社)の中でアメリカがイラク戦争に踏み切るまでの内幕を描いた。ブッシュ大統領をはじめ、米政権中枢部や軍、中央情報局の幹部などにインタビューを重ね、戦争に向かう意思決定がどのように形作られていったかを明らかにした▼同書によるとブッシュ大統領の密命を受け、国防長官と中央軍司令官が中心になって戦争計画は練り上げられた。準備が整い開戦したのは2003年のきょう3月20日。米英軍を中心とした軍事作戦は3週間で首都バグダッドを陥落させ、5月には戦闘作戦終結をブッシュ大統領が宣言した▼それから4年、アメリカ全土で米軍のイラクからの撤退を求める大規模な反戦デモがわき起こった。戦争は終結したが、治安は回復していない。イスラム教の宗派間の対立や米軍を狙ったテロが起き、犠牲がやまない。米兵の死者は終結宣言後にむしろ増加し、開戦以来約3200人に上る▼当時の小泉純一郎首相は、イラクに大量破壊兵器が存在することを理由にアメリカの武力行使を支持して、自衛隊の派遣に踏み切った。だが大量破壊兵器は存在しないことが明らかになっても、釈明はないままだ。イラク戦争は自衛隊を初めて海外派遣した点で、日本にとっても大きな転換点になった▼「平和の脅威」のフセイン大統領を打倒するという目的は達した。しかし治安悪化が4年間も続くとは米政府も予想しなかったのではなかろうか。誤算はなぜ起きたか。ウッドワード記者の続編を読みたい。(S)


3月19日(月)

●懸念の声は現実…。わが国の治安が揺らいでいる。子どもを狙った、または路上での通り魔的犯罪に加え、ネットに絡む犯罪など不安は増す傾向。内閣府が昨年12月に行った世論調査の結果も、そんな現実をはっきりと浮かび上がらせている▼「治安が良く安心して暮らせる」と思っている人は、半数弱の46%しかいない。さらに、この10年でみても「治安が良くなった」と実感している人はわずか11%。地域差はあるにせよ、最大公約数の思いと受け止めるとして、認識しておくべきはその理由▼在日外国人による犯罪が増えたことも確かだが、地域社会の連帯意識が希薄になった、青少年の教育が不十分である、様々な情報が氾濫し容易に手に入るようになった、が増える動き。いずれも以前から指摘されていたことだが、それは社会に改めて示された厳しい問題提起▼とりわけ気になるのは「社会の連帯意識」と「情報の氾濫」。というのも、犯罪の抑止には「地域の目」や「地域への関心」が大事とされ、連帯意識が求められているが、その一方でネットが次々と犯罪を生み出している。特にネットは対処し切れていないだけに不安が増幅する▼この調査では実際に、不安を覚える犯罪のトップが、フィッシング詐欺などのネット関連だった。40%を数え、前回3年前の調査に比べて16ポイントも増えている。情報技術の進歩に社会の対応、法整備が追いついていっていない。「何とかしなければ…」。この調査結果はそう警鐘を鳴している。(A)


3月18日(日)

●パリ・ルーブル美術館の至宝「ミロのビーナス」は1820年、ギリシャ・メロス島に住む農夫が見つけた。紀元前2世紀に作られたとされる美の女神は、高さ2メートルを超す。ルーブルを訪れる人なら必ず女神の前にたたずんで、至福の時を過ごす▼大きさではビーナスに譲るが、こちらの女神も女性美の豊かさでは負けていない。函館市尾札部町(旧南茅部町)の著保内野(ちょぼないの)遺跡から出土した中空土偶のことである。高さ41・5センチの縄文のビーナスは道内で初の国宝に指定されることが決まった▼発見の経緯もビーナスと似ている。旧南茅部町の農家小板アエさんがジャガイモを掘ろうと鍬(くわ)を振り下ろした先に世紀の大発見が眠っていた。32年前の1975年8月のことだった。土偶は発見から4年後に国の重要文化財に指定され、そして今回国宝に昇格する▼土偶は、胸に大きな乳房を持ち女体の特徴を備えているのが一般的だ。1万2000年前から約1万年間にわたる縄文時代に作られ、主に東日本から出土する。縄文人は豊かな自然の恵みを土偶に託して願った(「縄文の土偶」講談社)▼お隣の青森県は、三内丸山遺跡が縄文ブームを巻き起こした好機を地域興しにつなげる試みを展開している。三内丸山遺跡という“商品”が観光客を呼び寄せ、地域活性化の起爆剤になるとともに新たなビジネスチャンスを広げている(「縄文パワーで飛躍する青森」東洋経済新報社)。3500年前の縄文人が函館に遺した中空土偶の宝は、地域活性化の期待を担い6月に里帰りする。(S)


3月17日(土)

●函館市内のスーパーのレジで一瞬考えた。レジ係は袋を2枚、買い物かごに入れてくれた。買った分量からすると1枚に収まりそうだが、2枚あればゴミ箱の内袋に2回使えるな、と。まあ、資源節約に少しでも貢献しようと1枚は返したが何となく損をしたような…▼誰もが当たり前にもらっているレジ袋は、40年ほど前にポリエチレン製が開発されてから普及が始まった。それ以前は生鮮食料品なら店屋が新聞紙などに包み、客が持参した風呂敷や袋に入れて持ち帰った。注文を受けて自宅まで運んでくれる御用聞きもいた。小さな商店が元気だったころの話である▼買い物風景は大きく変わった。郊外型のスーパーやコンビニが増え、小さな商圏に頼ってきた町の小売店は立ち行かなくなった。それに伴い買い物は手ぶらで行き、買った品をタダでもらえるレジ袋に入れるのが当然になった。かくして全国で年間300億枚を超えるレジ袋が消費される「使い捨て文化」が全盛を迎えた▼レジ袋は使い終わればゴミになる。野菜保存袋や生ゴミ袋に再利用されるといっても最後は廃棄されるゴミだ。これを何とか減らせないかと、函館市がレジ袋削減キャンペーンに乗り出す。遅まきながら地球環境保護やゴミ削減に向けた啓発活動だ▼レジ袋削減は全国で取り組みが広がっている。東京杉並区はレジ袋1枚に付き5円を消費者から徴収する環境目的税を制定した。レジ袋を有料にしてマイバッグ持参を促したり、ためたスタンプに応じて割引してもらえる生協やスーパーも増えている。函館でも袋持参を普及させたい。(S)


3月16日(金)

●「日常生活に不可欠な水。古代ギリシャの哲学者タレスは「すべてが水から生まれ、水に還(かえ)っていく」と宇宙の原理を説いたといわれるが、国会で光熱水費をめぐる「今、水道水を飲んでいる人はほとんどいない」から始まる松岡利勝農相の答弁は解せない▼農相の政治資金収支報告書によると、無料であるはずの議員会館に5年分の光熱水費として約2880万円が計上されたという。何に使ったのだろうか。支払先や日時、費目など詳細な記載や領収書などを必要としない収支報告書の盲点を“悪用”したのではないかと勘繰りたくなる▼最初は「水道に『何とか還元水』を付けている」と言っていたが、「1本5000円の水を飲んでいる」という話が浮上。確かに一番まずいのは水道水、一番おいしいのはミネラルウオーターという「利き水」の試飲結果もあるが、ミネラルウオーターは光熱水費に入るのだろうか▼このところは「適切に報告している」の一点張り。「(民間とは)ずいぶん違う世界。われわれでは絶対に許されない。政治とカネは透明性が高くないといけない」(御手洗冨士夫経団連会長)。素朴な疑問に説明責任を果たすべきだ▼目も耳も不自由なヘレン・ケラーが最初に発したのが「水」という言葉で、水を通して世界を発見したと聞く。こんな大切な水を“政争の具”にしてほしくはない。孟方水方(うほうすいほう)とまねる“先生”も出てくる。つじつまの合わない支払いを子供たちにどう説明したらよいのか。(M)


3月15日(木)

●「布団を頭からかぶり母と子どもたち4人で手をつなぎ、名前を呼び合いながら逃げました。もう熱くて熱くて。よく焼け死ななかったと…。あの恐ろしさは忘れることができません」。函館市在住の西沢和子さん(80)は62年前の東京大空襲の恐怖をいまもありありと思い浮かべる▼日本の敗戦が間近に迫っていた1945年、当時18歳の西沢さんは浅草に住んでいた。3月10日未明、低空で進入したB29の大編隊が東京の下町に焼夷(しょうい)弾の雨を降らせる。10万人が死亡したといわれる東京大空襲だ。一夜明けた住宅密集地の下町は、焼け焦げた死体が転がり、家屋の大半が焼失していた▼その惨状と戦争の愚かしさを後世に伝えようと2002年3月、江東区北砂に「東京大空襲・戦災資料センター」が開館した。館長は自身も大空襲を体験した作家の早乙女勝元さん。早乙女さんは1970年に東京空襲を記録する会を設け、戦争の惨禍を著作や講演などで訴えてきた。早乙女さんの呼びかけで民間からの寄付を募り、生まれたのが同センターだ▼東京大空襲の被災者や遺族ら112人が、国に損害賠償と謝罪を求める訴訟を起こした。旧軍人・軍属には手厚い補償をしているのに民間人犠牲者は救済されずに放っておかれた。不平等で違憲ではないかというのが訴えだ▼西沢さんは道内2人の原告の1人に加わった。「生きているうちに(裁判の)結論は出ないでしょうね」。それでも「戦争は二度としてはならない」との願いを原告団に参加することで示した。西沢さんの思いは早乙女さんとも響き合ってている。(S)


3月14日(水)

●北海道国際交流センター代表理事の山崎文雄さんは、国には経済力、文化力、武力という三つの力があると説明する。「地域レベルの国際交流は今後、文化力での交流が一層大切になるでしょう」▼経済交流ももちろん大事だ。函館市は新年度から、東アジアやロシアとの貿易促進に向け、新しい組織機構を立ち上げる。まずは相手国の考えや商慣習の違いなどを学び、理解することが肝要だ。その根は文化交流と同じだろう▼「相互理解」という作業は、相当な労力を伴う。イエス、ノーをはっきり言い、主義、主張を伝える外国人の姿に、日本人は面食らう。あいまいな日本人の答えの中から意味するところを理解してもらうなど、外国人にはそれこそ理解しがたい。函館を訪れた各国の留学生からも、日本人の「以心伝心」が最初は分からなかったという感想をよく聞く▼しかし、さまざまなことは外国に行かなくても勉強できる。ロシアや中国の小中学生が描いた水彩画ひとつを見ても、その国の風土がよく伝わる。テレビ番組で日々紹介される外国よりも印象が強い場合もある▼国内でも同じだ。北方領土(根室)や沖縄に行った函館の豆記者たちも、いろいろなことを学び、視野を広げて帰ってくる。「沖縄本島の約20%が米軍基地で、大きな問題。しかし基地がなくなれば、基地がある土地の賃貸料やそこで働いている人の仕事がなくなり、大変だそうです」(記録文集「羽ばたき」)。「武力交流」は避けたいが、子供たちが物事を複眼的に見て学ぶ力を養うことは素晴らしい。(I)


3月13日(火)

●このまま春が来るのかと油断していたら、そうは問屋が卸さなかった。暖冬異変は、穏やかな春の到来を保障してはいない、という当たり前の事実を突きつけられる雪降りが3月に入ってから断続している。函館海洋気象台のまとめでは12日までに1センチ以上の降雪を観測した日数は計7日。通算の降雪量も平年3月の53センチを上回った▼高村光太郎に「冬が来た」という詩がある。〈きっぱりと冬が来た〉と始まり、〈きりきりともみ込むような冬がきた〉と進む。そして〈刃物のような冬が来た〉で終わる。1914年、31歳のときに刊行した第一詩集「道程」に収められた。小学校の国語教科書でこの詩に馴染(なじ)んだ方も多かろう▼このところの函館地方の寒気はまさに、もみ込むような冬である。最高気温が氷点下の真冬日は、2月には一日もなかった。だが、3月は12日を含め2日目。予報ではこの先も寒気に見舞われることがありそうだから、月間降雪量も真冬日も増えるかもしれない▼啓蟄(けいちつ)が過ぎ、地面の中でうごめき始めた虫たちもこの寒さでは、まだ春は遠いと土中深く潜ってしまったろう。光太郎も〈草木に背かれ虫類に逃げられる冬が来た〉と歌った。遅れてきた冬は、暖冬の帳尻を合わせるかのように強い寒気と風雪を伴ってきた▼だが、春の兆しは日の長さに現れてきた。地吹雪の止み間にのぞく日の光は、微(わず)かな暖かさを地上に送ってくる。行きつ戻りつしながらも北国の春は、近づいている。海峡線が全通した19年前のきょうも、朝方は雪が舞った。(S)


3月11日(日)

●モンゴル建国800年記念の映画「蒼き狼」を観てきた。雄大な草原にモンゴル軍5000人、エキストラ2万7000人を動員してチンギス・ハーンの半生を描いた大スペクタル。女性の立場から現代でも通じる「親子の絆」を描き出している▼チンギスの時代、戦いに敗れた部族の女性は“戦利品”だった。他の部族に奪われた母から生まれたチンギス・ハーンは「蒼き狼の子孫ではない」と苦悶するが、他の部族に奪われた妻も奪い返した時は臨月だった。「生まれた子供には罪はない」と諭されて殺さなかったが…▼「たとえ他の部族の子供でも、モンゴルを託す我が子」と悟った時は遅かった。北方警備で敵の毒矢を受けた息子を抱きしめ、やっと「親と子の絆」をたぐり寄せた。観終わった後、最近騒がれている「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」とする民法772条が脳裏をよぎった▼民法772条では、父親が誰であろうと母親の離婚から300日以内に生まれると、戸籍上の父親は前夫になる。これを拒めば出生届は受理されない。住民票が取れず、無国籍の子供になってしまう。乳児検診や児童手当支給などで不利な扱いを受け、パスホートが発給されないため修学旅行に行けない生徒も▼出産が早期化し超未熟児でも元気に育つ時代に、明治期の旧民法を引き継いだ772条を適用しようというのは無理がある。医師の診断などで前夫の子供でないことを証明するだけでいいのだ。チンギス・ハーンの母と妻は過酷な運命を全て受け入れ、寛大な心で子供を育てた。早急に法改正を。(M)


3月10日(土)

●密室での緊迫したやりとりが延々と続き、無罪の評決を下すまでを描いた「12人の怒れる男」は法廷もの映画の傑作とされる。名匠シドニー・ルメット監督の出世作であり、人が人を裁くことの難しさを余すところなく描いた▼映画は、父親殺しの罪に問われたスラム育ちの少年の裁判をめぐって進行する。市民から選ばれた12人の陪審員のうち11人は、当初有罪を主張するが、それに敢然と異議を唱えたのがヘンリー・フォンダが演じた陪審員8番だった。もっと議論すべきだとの主張がきっかけになって、法廷で示された証拠や事実の疑問点が次第に明らかになっていく▼8番がこだわったのは、もし間違って人の命を奪うことになったら取り返しがつかないという恐れだった。それが状況証拠や目撃証言などから有罪を決めてかかる他の陪審員を押しとどめ、納得できるまで徹底的に議論する道を選ばせた。アメリカの陪審制度の長所を描いたとされるこの作品は半世紀前に公開された▼日本でも市民が裁判に参加する裁判員制度が2年後に始まる。裁判官と裁判員が一緒に評議するなどアメリカの陪審制度とは異なるが、裁きの場に市民が加わるという点では一致している。似たような制度はイギリス、フランス、ドイツなどにもあり、日本は遅ればせながらの導入だ▼裁判員制度の啓発活動が始まり、函館地裁でも先ごろ裁判員を加えた模擬裁判が行われた。終了後、裁判員の1人は「人を裁くということがこれほど大変とは」と感想をもらしたという。12人の男たちの議論の場面が思い浮かんだ。(S)


3月9日(金)

●「知のデータベース」である図書館は、その充実度が地域の知的インフラを測る目安とされる。膨大な数の書籍や雑誌、視聴覚資料などをそろえ読書や学習、調べものに訪れる人々の要望にこたえる。漫画、CDもあるから娯楽が目的の人々も多いだろう▼函館市中央図書館が開館から1年3カ月で入館者数100万人を超えた。予想より半年も早い大台到達は、それだけ市民に親しまれ利用されているからだ。新聞を読んでいるお年寄り、本を探して書架に目をやる女性、参考書とノートを広げ勉強する学生…。みんな図書館のファンだ▼図書館はいま新たな機能も持ち始めている。ビジネス関係の書籍やデータベースをそろえ、起業家や新規事業を目指す人々を対象に講座や相談業務を行い専門家も紹介する。ビジネス支援図書館と呼ばれる図書館だ▼米ニューヨークに設けられた科学産業ビジネス図書館を参考に、日本でも起業準備に役立つ情報を提供する図書館が現れはじめた。本を貸し出したり資料を収集したりといった従来型の図書館とは異なり、創業の増加や中小企業の活性化に図書館を役立てようとの発想だ▼図書館の電子化も進んでいる。蔵書検索や貸し出し予約が自宅のパソコンからでもできるようになった。海外の図書館へもネット経由で資料の問い合わせや送付を依頼することも可能だ。図書館は大きく変貌(ぼう)している。利用者100万人を超えた中央図書館が、蓄積された情報をどう市民に活用してもらうか。「知の殿堂」の新たな構想力が試される時代だといえよう。(S)


3月8日(木)

●函館市にまた一つ全国区の“100選”が加わった。通称・古都保存法が施行されて40年になるのを記念し、古都保存財団などが新たに設けた「美しい日本の歴史的風土100選」で、道内からは3カ所、松前町、小樽市とともに選ばれた▼“100選”ばやりとも言われるが、地域にとって選ばれることはお墨つきでもあり、願ってもない勲章。どんな分野であれ、ともかく全国で100カ所なのだから。函館・道南はその勲章が道内でも比較的多く、昨年も函館公園と五稜郭公園が日本の歴史公園100選に▼本欄でも取り上げたことがあるが、函館・道南の勲章を幾つか挙げると…。日本の道100選(赤松街道など)、さくら名所100選(松前公園)、日本の音風景100選(ハリストス正教会)、日本の紅葉100選(大沼公園)、日本の灯台100選(恵山岬灯台)など▼函館・道南が歴史、景観、文化、自然財産が多い地域であることを実感するに十分だが、それにしても「美しい日本の歴史的風土100選」に選ばれたのは、弘前市(青森)、仙北市(角館・秋田)など、知名度の高い都市の中に選ばれるとは…▼函館市(西部地区の歴史的街並み)は「北方の開港都市として繁栄した明治大正期の洋風建築、倉庫、領事館跡、教会などが坂道景観と相まって異国情緒を醸し出している」、松前町は「松前城下町の遺産」が日本最北の城下町のたたずまいを残している、というのが理由。函館・道南から2カ所…。道内の他地域からうらやましがられるのもうなずける。(A)


3月7日(水)

●福島町が財政再建団体になったのは1969年のことだった。青函トンネル工事の関係者が一時的に流入、学校や保育所の増設、道路工事などが重なり町財政がパンクした。赤字額は約1億3000万円。自力再建を断念し、国の管理下で財政の建て直しに当たった▼だが、役場は火の車でも「町民にはオラの町がつぶれるとの不安はなかった」(当時総務課に勤務していた原田恵悦渡島西部広域事務組合事務局長)。職員の昇給はストップし、使用料・手数料の一部も引き上げられたが、町民税は据え置かれた。住民の負担増がわずかだったことが不安感を和らげたという▼財政再建団体になる夕張市は、道内では福島町以来のこと。赤字額は福島町の270倍の約353億円。この赤字を18年かけて解消する計画だ。再建計画では職員を半分以下にするとともに給与も大幅カット、市民税や下水道使用料、保育料なども引き上げる。住民には重い負担増だ▼福島町は当初7年で再建を果たす計画だった。それを短縮してわずか3年で再建を成し遂げたのは、経済の右肩上がりの時代がもたらした幸運だった。財政再建団体に陥ったといっても、切迫感は夕張市に比べ薄かったというのが実情だろう▼夕張市民には、厳しさに耐えねばならない前途が持ち受けている。財政難に悩む国や道の支援には限界がある。だが全国的な注目を集め、支援の手を差し伸べる動きも目立ってきた。こうした動きは福島町ではなかったことだ。冬を耐え忍べば春が来る。夕張市民にエールを送りたい。(S)


3月6日(火)

●わが国の人口は50年後に9000万人を下回り、高齢化率は40%台に―。昨年末、こんな衝撃的な人口予測が公表された。現在に比べて3000万人以上もの減少だが、国立社会保障・人口問題研究所の推計だから、それなりの重みがある▼とりわけ人口構成は社会のさまざまな枠組みを築く上で重要とされる。税収、年金などが身近で分かりやすいが、鍵を握るのは働く年齢層。労働人口に厚みのある年齢構成が理想とされる理由もそこにあるのだが、近年はその大事な部分が崩れ始めている▼わが国の人口の歴史は“増加の歴史”だった。例えば101年前の1906年(明治39)年は約4700万人だったのが、戦後の1948(昭和23)年には8000万人を超え、ピークは2004年の1億2779万人。そして今、流れは減少に転じている▼もはや増加は望めないとする見解が大勢だが、それにしても9000万人割れとは…。高齢化率も高まるのだから“支え合う体制”づくりは大変であり、この人口予測には今に生きる者に対する提言といった意味合いがにじむ。「今から考えなさい」「ツケを先送りしないように」▼そう指摘されるのも国の借金が既に800兆円を超えているから。毎年10兆円減らしていったとしても80年かかる金額である。この現実を踏まえ、今の政治に求められるのは「社会の枠組みを将来にわたって保ち続ける道筋づくり」だが、残念ながら2007年度予算案にはそこが見えていない。(H)


3月5日(月)

●目覚めた虫たちは10日もたつと動作が活発になって、醜い青虫もモンシロチョウとなり舞い始める。まさに菜虫化蝶(なむしちょうとなる)であり、蟄虫啓戸(すごもりむしをひらく)の季節。そんな中、カエルのツボカビ症とハチミツ事件が気にかかる▼水田の害虫駆除に欠かせないカエル。自然破壊、農薬、都市化、温暖化などによって、カエルの合唱が少なくなったが、最近は真菌の一種「ツボカビ」が世界各地の両生類を絶滅の危機に追い込んでいるという。そのツボカビ症が昨年暮れ日本に上陸、ペット用のカエルが死んだ▼その後も発症が増えており、感染すると9割のカエルが死ぬという。世界自然保護基金などが緊急事態宣言を出し、菌の拡大防止を呼びかけている。カエルは水質汚染など環境の変化に敏感で、絶滅したら自然の生態系が狂ってしまう。ツボカビの脅威から守ってやらなければ▼帰巣能力に優るミツバチが巣箱に帰ってこない。米国の24州でミツバチが集団失踪(しっそう)しており、養蜂業を含め1兆6000億円の被害が予想されている。アーモンドなどへの受粉作業に過剰なノルマを課したため、ストレスから帰巣器官に異変を起こしたのだろうか▼働き過ぎ、ストレスがたまる‥。人間社会に見られる現象が目覚めた虫たちにも“感染”したのか。ツボカビが自然界に広がったら大変なことになる。「痩蛙(やせがえる)まけるな一茶是に有」だ。赤松街道で害虫から松を守るために巻いたコモを外す季節でもある。あす6日は啓蟄(けいちつ)。(M)


3月4日(日)

●関税の撤廃などを盛り込んだ経済連携協定(EPA)を日本が初めて結んだ相手国は2002年のシンガポールだった。交渉がまとまったのは、シンガポールが農畜産物輸出国ではなかったからだ。だから農畜産物を例外扱いすることにもすんなり同意した▼日本とオーストラリアのEPA交渉が今春始まる。オーストラリアはシンガポールと違い農畜産物が主要な輸出品目だ。日本は牛肉、乳製品、砂糖などの農畜産物に高率の関税をかけ、競争力の弱い国内農業を保護している。交渉でオーストラリア側が関税の見直しを求めるのは間違いない▼農畜産物関税が完全撤廃されたらどんな影響が出るのか、農水省が試算の形で驚くべき数字を公表した。国内農畜産業の年間生産額が3兆6000億円減り、国内総生産(GDP)も9兆円減少、375万人の雇用が失われる―▼北海道は農業が基幹産業だ。渡島管内も畜産を中心に農業生産額が335億円(2005年、函館統計情報センター調べ)に上る。地域産業の柱の一つが揺らいだら、その影響は計り知れない。だが、農水省が示したのはあくまで仮定のシナリオ。ショックを与えて世間の耳目を引き付け、「国内農業を守る」との姿勢を示す魂胆が見えなくもない▼貿易の拡大は世界のすう勢だ。貿易立国の日本もシンガポールに続き東アジア各国と交渉を進めてきた。だが、オーストラリアとの交渉は農水省が神経をとがらせるようにこれまでよりもずっと難しい。国内農業団体も深い関心を寄せる。交渉の行方をしっかりと追っていこうと思う。(S)


3月3日(土)

●市営函館競輪が「冠杯」協賛社の公募に乗り出した。公営事業も昨今は人気、増収対策に様々、知恵を絞らなければならない経営環境だが、これは一つの秘策。効果も期待され、広告宣伝費と考えれば高くもない。ただ、地元企業がどう受け止めるか、鍵はそこに▼函館競輪が生まれたのは、戦後間もない1950(昭和25)年。競馬など各地の公営事業の例にもれず、かつては市の財源を潤す存在だった。しかし、娯楽の多様化といった時代の流れの中で取り巻く環境は厳しくなり、各開催地とも新たな対策を迫られている▼函館で競輪場を全面改装し、ファンサービスに力を入れているのも然りだが、この命名権作戦も次なる秘策。第1とか第2といったレース名に企業名や商品名を付加する代償として賞金や商品などを提供してもらい、商品についてはファンサービスに充てる考え▼市の建前は「地域への定着を進める策」だが、新たな宣伝媒体の誕生でもある。協賛社にとってはPRになる。冠レースの開催期間中は貴賓室で観戦できるのはともかく、新聞やネット、予想紙などの出走表に「冠」が掲載されるのだから。経費としても手ごろ、狙いは悪くない▼昨年度の函館は5年ぶりに売り上げ200億円台を回復した。しかし、肝心の本場や地元場外などの入場者、売り上げは低迷環境を脱していない。模索は続くが、この秘策は試金石ともなるメッセージ。どれだけの企業が、どんな「冠」を申し出るか、地元の理解を占う視点から応募の行方が注目される。(N)


3月2日(金)

●弥生の空に芽吹く草木。七十二候で「草木萌動(そうもくきざしうごく)」という3月。昔から「桃栗3年柿8年、柚子のバカヤロウ18年…」と言う。今は家の周りにビワなども含め果物の木が少なくなったが、栄養たっぷりの桃は子どもに欠かせない▼桃の葉は浴槽に入れて桃湯として親しまれ、花は白桃花と呼ばれる生薬で利尿に働く成分があり、種は桃仁といい婦人病の漢方薬。血液の循環をよくして老化防止、高血圧や脳梗塞(こうそく)の予防にも効くという。桃はまるごと女性をきれいにしてくれるのが最大の魅力▼本紙によると、函館のインフルエンザの流行が本格化し、子どもを中心に患者が増え、学級閉鎖は20校を超えている。保健所は「睡眠不足で体力が低下しやすい受験生は特に注意」と警告しているが、インフルエンザといえば処方される治療薬「タミフル」が心配の種▼ウイルスが全身に広がるのを防ぐが、3年ほど前からタミフル服用後の子どもたちに異常行動死が。先月は高層マンションから中2女子が転落(愛知県)、やはり中2男子が11階から転落(仙台市)…。異常行動とタミフルの因果関係は確認されていないというが、異常だ▼先日、厚労省はやっと自宅療養する場合、異常行動を防ぐため、2日間は保護者が付き添うよう注意を喚起した。新型インフルエンザにも効くというが、服用のガイドラインが必要。桃太郎は桃の栄養だけで大きくなった。桃を食べて体力をつけ、インフルエンザを退治しよう。あす3日は「桃の節句・ひな祭り」。(M)


3月1日(木)

●主要先進国の首脳が集まり、第1回のサミットが開かれたのは1975年のことだった。ベトナム戦争がサイゴン(現ホーチミン市)陥落によって終結してから半年後の同年11月15日、パリ郊外のランブイエ城に6カ国の首脳が集い、歴史的な会議が行われた▼それから32年、いま道内でのサミット開催がにわかに現実味を帯びてきた。高橋はるみ知事が来年に日本で開かれるサミットを誘致する考えを固め、来月の定例道議会閉会後に正式表明するという。候補地としては胆振管内洞爺湖町周辺があがっている▼サミット誘致を巡っては自民党の道内選出国会議員で作る道代議士会が誘致推進を決定して後押し。民主党も道内開催に積極姿勢を見せ、与野党挙げて誘致に取り組む構えだ。開催地としては、すでに関西(京都府、大阪府、兵庫県)、開港都市(横浜市、新潟市)、瀬戸内(岡山県、香川県)が名乗りを上げているが、道が立候補すれば警備上の都合から最有力候補になるといわれる▼サミットには首脳、閣僚、随行員、報道関係など数千人規模の人々がやってくる。「ホッカイドウ」を世界に向けて発信する絶好の機会だ。当初知事は警備費などの財政負担を懸念して必ずしも積極的ではなかったと伝えられたが、立候補を固めたからにはぜひ誘致に成功してほしい▼現在8カ国に拡大した主要国の首脳の動静が道内から世界に配信される。それは「ホッカイドウ」の認知度を飛躍的に高めるに違いない。(S)


戻る