平成19年4月


4月30日(月)

●まるで悲鳴が聞こえてくるようだ。介護が必要な高齢患者の家族の声を集めた報告書を読み、長生きを寿(ことほ)ぐことはもはや出来ない国になっている実態を思い知った。〈病んでる老人は早く死ねと国はいうのか〉〈代替施設がないままでの療養病床削減は無責任〉〈国の医療政策を立案するメンバーに両親や配偶者が療養病床を利用した方を〉▼家族の思いが伝わる報告書は、札幌市療養病床協会が先ごろまとめた。同協会に参加する15病院の療養病床に入院する高齢患者の2743家族から回収したアンケートの報告書だ。道内初というアンケートでは、病院から見放されたらどこに行けばいいのか、苦悩する家族の姿が浮かび上がる▼国は昨年の医療制度改革で、寝たきりの高齢者などが長期入院している療養病床を大幅に減らすことを決めた。医療費の膨張を抑えるため、現在全国に37万床ある療養病床を2012年3月末までに15万床に削減する計画だ。入院患者の行き先として国が想定しているのは介護施設や在宅介護だ▼だが、施設は十分ではない。入所を申し込んでも長期間待たされるケースが少なくない。かといって家で介護したくても、本人が高齢だったり仕事を抱えていたりで不可能な場合も多い。アンケートでも94・5%が自宅介護が不可能と答えた。療養病床の削減には94・3%が反対した▼〈長生きすればするほど悪者扱いされかねないこの国が「美しい国」と言えるのでしょうか〉。1カ月13万円の負担を背負いながら高齢の義母を入院させている女性の痛切な言葉だ。 (S)


4月29日(日)

●宮原巍(たかし)さん(73)は、おそらくネパールで最も有名な日本人だろう。ネパール国籍を取得しているから日系ネパール人というべきかもしれない。その宮原さんがネパールの憲法制定議会選挙に立候補すると毎日新聞が報じた▼長野県出身の宮原さんは45年前、ヒマラヤ登山で訪れたネパールに魅せられ、エベレストのふもとの村にホテルを造った。それ以来、エベレストを目指す日本の登山家やトレッカーの多くが、宮原さんの世話になった。「エベレスト・ビュー」と名づけられたホテルはいまも日本や世界からの登山者やトレッカーを迎えている▼世界の屋根ヒマラヤの国ネパールは、中国とインドというアジアの二つの大国に挟まれている。地政学上、難しい位置にあるため両大国の動向に神経を使いながら王政を維持してきた。2001年6月には当時のビレンドラ国王ら王族多数が殺害される悲劇も起きた。事件の真相は解明されていないが、宮廷クーデターとの説が有力だ▼政治が揺れ動くネパールで最大の問題は、10年以上続いた内戦だった。対立する勢力を取り込んだ暫定政府が成立したのは今月1日。だが、政府に参加した毛沢東主義派は武装解除後も武器を保持しているとされ、和平が続くかは分からない▼そうした状況下で行われる国政選挙に宮原さんは立候補の決意を固めた。6月とされる選挙が予定通り実施されるか不透明だが、宮原さんは「祖国(ネパール)再生に残りの人生をささげたい」と語ったという。日本とネパールとの懸け橋の人生を生きる73歳の挑戦に拍手を送りたい。(S)


4月28日(土)

●「家庭などから毎日のようにごみが出ます。ごみの量をこれ以上増やさないようにするため、資源として大切に使うためにどのようなことができるでしょうか」には「紙の原料である森林を守る」「買い物バッグを持っていくようにしたい」などと解答▼「地獄にいたかんだたは、蜘蛛(くも)を殺さずに助けた報いに、お釈迦(しゃか)様が救い出そうとしたにもかかわらず、自分だけ抜け出そうとしたため再び地獄に落ちた」。地獄に垂れた糸をつたって自分の後に上ってくる罪人たちに「下りろ」と叫んだ途端…。「救済は平等に」という『蜘蛛の糸』の教訓▼小6と中3の児童・生徒を対象に、43年ぶりに実地された全国学力テスト(国語、算数・数学)に挑戦した。中学の数学はすっかり忘れているためか、数問はダメだったが、国語はなんとかクリアできた。記述式解答を求めるテーマにユニークな設問が目についた▼文武両道を兼修させた藩立学校の試験では、落第した者に3日間の「押し込め(出入り禁止)」が申しつけられ、合格して進級する者には賞与金を出したと聞く。かつての学力テストでは学校間の競争心をあおり、全校の成績低下を恐れて成績の悪い子を受験させなかった例も▼ランク付けは避けたいが、子供たちの能力と可能性を引き出すには“試験競争”も必要ではないか。子供たちは『蜘蛛の糸』で人の善悪を勉強した。ごみ問題で物(資源)の大切さを知った。このような実生活の設問だと大人も一緒に受験してもいいのでは。(M)


4月27日(金)

●「少にして学べば、すなわち壮にしてなすことあり。壮にして学べば、すなわち老いて衰えず。老いて学べば、すなわち死して朽ちず」。小泉純一郎前首相が国会でこの言葉を取り上げ、一躍脚光を浴びることになった江戸時代の儒学者、佐藤一斎(いっさい)▼67歳から78歳にかけて著した「言志晩録」に記されている。「少年時代に学んでおけば壮年になって何事かを成し遂げることができる。壮年時に学べば老年になって心身ともに衰えない。老年になっても学ぶ姿勢があれば、死後、人々の記憶から消えることはない」という意だろうか▼「言志晩録」と「言志録」「言志後録」「言志耋(てつ)録」を合わせて「言志四録(げんししろく)」と呼ばれる。政治、経済、教育、倫理などに触れた格言集のような書だ。門下生も多く、渡辺崋山、佐久間象山ら識者が名を連ねる。西郷隆盛も愛読していたという▼函館市の新市長に選ばれた西尾正範氏。昨年末、助役を辞した際、職員らに別れの言葉を残した。「一燈(とう)を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。ただ一燈を頼め」。「言志晩録」の一節だ。「信念を貫けば怖いものはない」とでも解釈すればいいのだろうか▼市政を激しく批判した西尾氏の一連の言動は一部市職員に反感を買った。市民はニューリーダーによる変革を求めている。職員の協力がなければ公約の実現は困難だ。「言志後録」にある。「春風をもって人に接し、秋霜をもって自らつつしむ」。西尾氏はどんな「一燈」になるか。きょう27日、初登庁する。(K)


4月26日(木)

●ジャック・レモン、ジェーン・フォンダが主演した「チャイナ・シンドローム」は、原子炉事故をテーマにした映画だった。事故を隠ぺいしようとする電力会社側に対し、ジャック・レモン演じる発電所技師とジェーン・フォンダ演じるテレビレポーターが、敢然と立ち向かう姿は、サスペンス映画の緊迫感と迫力を示していた▼この映画は1979年3月に起きたスリーマイル島事故の直前に封切られたことから、事故を予言したと評価され、チャイナ・シンドロームという言葉を一般に流布させる役割も果たした。チャイナ・シンドロームは、アメリカで原発事故が起きると、超高熱が原子炉を溶かし、地球内部を貫き、裏側の中国に達するとの冗談から生まれた言葉だという▼スリーマイル島事故から7年後、1986年のきょう26日、旧ソ連のウクライナで最悪の原発事故が起きた。チェルノブイリ原発事故である。放射能で汚染された地域から16万人が移住させられ、いまも小児がんの多発などの被害が続く。原発から30キロ圏は人が住めない死の地帯だ▼この事故では隣国ベラルーシに死の灰の70%が降り注いだと言われる。日本とはなじみが薄い国だが、同国から毎年子どもたちを招き日本で過ごさせる活動が続いている。道内ではNPO法人「チェルノブイリへのかけはし」が取り組んでいる▼日本では先ごろ電力会社の事故隠しやデータねつ造が相次ぎ明るみに出た。「チャイナ・シンドローム」が製作されてから30年近くたつが、事故隠しの体質は洋の東西を問わず変わらないらしい。(S)


4月25日(水)

●函館山にかれんな姿を見せ始めたカタクリの花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」、一輪だけ咲かせるキクザキイチゲは「追憶」、アズマイチゲは「温和」とか。穀雨を過ぎ、一斉に活動を始めた植物の花言葉を口ずさみながら散策する季節だ▼今年の新入社員のタイプは、細かく利益を確保する株取引に例えられ「デイトレーダー型」。ショウジョウバカマのように「希望」をもって働き、コブシのように同僚たちと「友情」をはぐくみ、クロッカスのように「青春を喜び」、ミズバショウのように「美しい思い出」をつくってほしい▼粋な花言葉が通年で使えないかなと思っていたら、植物に花を咲かせる「開花ホルモン」の正体を奈良先端科学技術大らのグループが発見したという記事を読んだ。いわば「花咲かじいさんの灰」だ。このホルモン(タンパク質)を増やすことによって、開花までの日数が3分の1程度に縮まった▼転生した昔話のイヌの「灰」が、このホルモンで、薬剤などに適用できれば開花調整が自由になるといい、今様の「枯れ木に花を咲かせる」ことも夢ではない。今、花に限らず、野菜など温室で通年栽培しているが、開花ホルモンで出荷時間まで調整できるのではないか▼しかし、満開は満開で良し、葉桜は葉桜で良し…。花から新緑へ移り行く季節の風情も捨て難い。上司に怒られたとキレないで、レンゲのように「心を和にし」、モクレンのように「自然を愛し」、サクラのように「心の美」で仕事に励めば「開花ホルモン」が社会の荒波から守ってくれるはず。(M)


4月24日(火)

●「ラ・マンチャの男」は松本幸四郎さん主演のミュージカルや、ピーター・オトゥール、ソフィア・ローレンが出演した映画で人気を集めた。ミュージカルも映画も30年余り前に作られたが、テーマ曲「見果てぬ夢」がいまも口をついて出る方もあるだろう。「ラ・マンチャの男」は「ドン・キホーテ」を題材にした作品だった▼やせ馬ロシナンテにまたがり、風車をめがけて突進していくこっけいで時代錯誤の主人公。「ドン・キホーテ」で思い浮かぶイメージは、的外れの正義感を背負った姿だ。だが「ドン・キホーテ」は世界の文学史上にさん然と輝く傑作であることは誰もが認める。その作者セルバンテスは1616年のきのう23日に亡くなった▼セルバンテスの命日に当たるこの日は、ユネスコが定めた「世界本の日」だった。セルバンテスの故郷スペインでは聖人の名を取ってサン・ジョルディの日と言われ、女性は男性に本を、男性は女性にバラを贈る習慣があるという。日本の書店組合が、盛んに宣伝したサン・ジョルディの日は、スペインの故事に由来する▼書店の思惑と異なり、サン・ジョルディの日は記念日として定着したとは言い難い。一時期、本屋などに張られた宣伝用のポスターを見かけることも少なくなった。活字離れが進んだとされる現代では記念日の効用も薄いのかもしれない▼だが、子どもに読書の習慣を身に付けさせたいと願う親や先生方は多い。朝の10分間読書は1万を超える学校で実践されているという。子どもにならってきのうは積ん読の本を開いた。(S)


4月23日(月)

●選挙の神さまは予想を超えた配剤もすれば残酷な仕打ちもする。勝った候補には、慈悲の笑顔で頭上に降りてきてくれた思いだろうが、負けた候補からすると「なぜだ」と恨み言のひとつも言いたくなるだろう。統一地方選の後半戦が投開票され、23日未明にはほぼすべての結果が判明した。喜びに沸く陣営と打ちひしがれる陣営とにくっきり分かれるのは変わらぬ選挙の光景だ▼3選を目指した現職の井上博司氏に前助役の西尾正範氏が挑戦した函館市長選は、思いがけない大差がついた。出馬表明から2カ月、有力な支援組織を持たない西尾氏が、政党や経済界などの支援を受けた井上氏に圧勝したのは、市政を変えたいという市民の願いが奔流となったからだろう▼函館は人口減少と高齢化、地域経済の疲弊などの課題に直面。新幹線が地域経済の浮上をもたらすとの期待はあっても、手をこまぬいて時間を浪費することはできない。いわば身内同士の遺恨試合を勝ち抜いて初当選した西尾氏には、手腕と決断力が問われる場面がすぐにもやってくるに違いない▼今回の統一地方選では財政再建団体になった夕張市と現職市長が選挙戦のさなかに銃撃され死亡した長崎市長選が全国の注目を集めた。7人が立った夕張では、同市出身の前会社社長が再建のかじ取り役を担うことに。長崎では世襲批判を展開した元市職員が激戦を制した▼統一地方選のけん騒は終わり、北海道にも花の季節がやってきた。選挙の神さまには夏の参院選まで休息を願い、しばらくは花の女神に主役を譲ってもらおう。(S)


4月22日(日)

●「後任の医者がなかなか見つからなくてね」。道内過疎地の町長が、そう言って嘆息した。町長は医師を派遣してもらおうと、大学医学部の教授のもとへ足しげく通っていた。町民の健康を守るのは首長の責任。町立診療所が頼りの過疎の町では、医師の不在は何としてでも防がねばならない町政の重要課題だ▼診療所医師の年収は町長をはるかに上回る。だがいくら待遇を良くしてもおいそれとは来てくれない。1人医師の診療所は勤務が厳しい。しかも最新の医療技術の進歩に触れる機会も少ない。まじめな医師ほどストレスを抱え込み長くはいてくれない。「あらゆるつてを頼って探しているのだが…」。町長の嘆きは尽きなかった▼道内各地で医師不足が深刻化している。特に市街地から離れた町村部ではお産ができない、子どもが熱を出しても小児科医がいないなどの悲鳴が上がっている。再選された高橋はるみ知事も地方の医師不足解消を最優先課題に挙げた▼冒頭に紹介した町では、地域医療に熱心な医師が1人で頑張った。寝たきりの高齢者宅への往診にも取り組み、町民の信頼は厚かった。町長はずっと町にいてくれると期待し、願っていた。しかし休日も満足に取れない勤務を長年続けた医師は、町長の説得も空しく町を去った。10年ほど前のことだ▼事情はいまもあまり変わらない。過疎地の町村は、道地域医療振興財団の紹介やインターネットで医師を探す。やっと見つかり着任しても大学からの派遣と異なり、辞めたら補充に困る。地方の医師不足解消は行政が抱える難題だ。(S)


4月21日(土)

●来年のオリンピック目指し建設ラッシュが続く中国・北京と新千歳を結ぶ定期便が18日から運航を始めた。新千歳から中国への定期便は、これまで東北部の瀋陽と上海の2路線だけだったが、来月開設される大連線を含めると4路線になる。日中国交正常化から35年、経済発展が著しい中国と北海道との距離がさらに縮まる路線の拡充だ▼海外で事業活動をしている道内企業の半数は中国に進出している。ジェトロ北海道が昨年実施した調査では、海外に進出している154社のうち89社は中国だった。進出企業は年々増加を続け、10年間に4倍強に膨らんだ。生産拠点の中国シフトは中小が多い道内企業にも着実に浸透してきた▼さらに今後3年以内の海外直接投資の計画では、中国の25社が他の国を圧倒して多い。人民元の切り上げや、人件費高騰などのリスク要因を考慮しても13億人の巨大市場は魅力的だ。中国への進出熱は今後も衰えることはないだろう。そうした将来性を見越して北京路線は開設された▼函館には中国の旧正月に当たる2月にチャーター便がやってきた。経済的な豊かさを手に入れた中国の富裕層には海外旅行熱が高まっている。中国路線の拡充に呼応して、函館にも中国人観光客を呼び込む知恵が必要になっている▼国交正常化は1972年9月、北京を訪れた田中角栄首相と周恩来中国首相が共同声明に調印して成し遂げられた。35周年の今年、記念事業のひとつとして定期便が就航する中国の各都市へ日本から約2万人の訪問団が訪れ、交流を深めることが決まっている。 (S)


4月20日(金)

●日常的に裁判を取材する記者にとっても法律用語は分かりにくい。法廷で飛び交う言葉を一般市民がすんなり理解するのは至難の業だろう。2009年5月までに導入される裁判員制度に向け、裁判所、日本弁護士連合会、検察庁の法曹三者はそれぞれの立場で「分かりやすさ」を求めて知恵を絞っている▼日弁連はプロジェクトチームをつくって難解な用語を日常的な言葉に置き換える作業に取り組んでいる。構成メンバーは、弁護士のほか言語学者やマスコミ関係者ら▼中間報告の一例を紹介する。「未必の故意」は確定的殺意、未必の殺意、認識ある過失に分類。確定的は「殺そうと思って…した」。未必の殺意は「(必ず殺してやろうとまで思っていなくても)死ぬなら死んでもかまわないと思って…した」。認識ある過失は「死んでもかまわないと思ったわけではないけれど…した」といった具合だ▼自白の任意性は「脅かされたり、だまされたりすることなく、自らの意思で自白すること」、教唆するは「他人をそそのかして犯罪をやる気にさせること」。専門用語をかみ砕いて説明している▼中には検察側が疑問視する言い換えもあるようだ。立場が違う以上、解釈に多少の差異が生じるのは仕方ない。肝心なのは、用語がはらむ法律的概念に少しでも市民になじんでもらうことだ。さて最高裁の動きはどうか。「いまのところ用語集のようなものを作る予定はない」(広報課)という。裁判所による“入門書”があれば、市民は安心するのではないか。(K)


4月19日(木)

●生きる力をたくわえた蕾、一雨ごとに開く花、宴(喜び)を映す満開、春風に舞う花びら。“色はにほへど散りぬるを”…いろいろな人生模様を繰り返しながら、もうすぐサクラ前線は津軽海峡を渡る。サクラの古里といわれる吉野山のサクラを50年ぶりに見てきた▼吉野山のサクラは7世紀末に修験道の金峯山寺蔵王堂を中心に広がった。桜木に蔵王権現を彫って本尊にしたのが始まり。信者の献木で増え下千本、中千本、上千本、奥千本といわれているが、実際は10万本とか。鎌倉時代に京都嵐山に移植されるなど各地に“枝分け”されている▼松前城下の柳本父娘が約280年前に吉野山を訪れた時、美しい尼僧からもらったものが血脈桜(けちみゃくざくら)と伝えられている。尼僧と出会ったのは女人にも開かれた室生寺付近だろうか、それとも七曲り付近だろうか。桜の精がお別れにやってきた血脈桜の悲話が幻想的によぎる▼サクラの命は1週間から10日ほど。短命の花びらは幹のピンクであり、樹皮のピンクであり、樹液のピンクでもある。樹木全体で懸命に極上のピンクの世界を創出する。一昨年、函館公園の新芽が津軽海峡から函館山に渡ってきたウソに食い荒らされ、咲く花びらは少なかった▼今季は暖冬で山に野鳥のエサがあったせいか、一昨年連日のように飛来していたウソの姿は少なくなった。新芽を保護するせん定方法もとっており、今春はきれいな花を付けるのでは(函館公園管理事務所)。五稜郭公園、四稜郭…次々と開花する名木・古木に道南の歴史ドラマを堪能したい。(M)


4月18日(水)

●車いすに乗ったブレイディ米大統領報道官が、自らの名を付けた法の制定を喜ぶ姿をテレビで見たことを思い出した。1981年3月30日、ブレイディ氏はレーガン大統領暗殺未遂事件で頭部を撃たれ、半身不随になった。この衝撃的な事件がきっかけになって、銃の販売を規制するブレイディ法が93年に成立した▼それから14年、バージニア工科大で32人の犠牲者を出す銃撃事件が起きた。テレビは、銃を携え、防弾チョッキを着込んだ警察官が雪が舞うキャンパスに展開する様子を伝えてきた。映画ではない。現実の場面は恐ろしく静かだ▼アメリカでは年間3万人が銃の犠牲になっているとされる。にもかかわらず銃の保持は憲法で保障された権利として定着している。米三大ネットワークの一つ、ABCニュースが2002年に行った世論調査では73%が銃の保持を憲法で保障されていると答えた(「アメリカにおける銃保持・携帯権限」鈴木康彦著・冬至書房)▼その一方、現行法よりも厳しい銃規制を望む市民が半数を超えていることも同書は紹介している。銃を使用した事件が多発している現状から、銃保持が自分や家族を守り、社会の安全を保つ手段だとする考えに懐疑的になっていることがうかがえる▼ブレイディ法が成立する前年には、16歳の日本人留学生がルイジアナ州バトンルージュで銃殺される事件も起きた。銃販売店に購入者の身元調査などを求める内容の同法は、延長手続きがとられずに失効した。ブレイディ氏も亡くなった。銃があふれる米社会の悲劇はやまない。(S)


4月17日(火)

●「地域づくりは人づくり」。使い古された言葉に新たな響きを与える事業を福島県阿武隈山地の過疎の村が始めた。人口約3300人の川内村が15日に開校した村営学習塾「かわうち興学塾」のことだ。小学校5、6年生と中学生合わせて121人のうち70%強の88人が申し込んだというから地域の期待の大きさが分かる▼村には小学校と中学校が1校ずつ、高校の分校が1校ある。石井芳信教育長によると村の子どもたちの学力は、県平均を下回る。これをかさ上げするには、塾をつくるのが最適との判断が働いたという。塾はコミュニティセンターに設置され、水曜と日曜に授業が行われる▼村にはこれまで塾がなかった。隣接町の塾まで車で約30分かけて通っていた子どもは数人。それが村営塾の開校でいっきょに数が膨らんだ。月額授業料が小学生の1000円から中学3年生の2000円までと格安なのも人気を集めた。3人の講師は郡山市の塾からやってくる▼村が組んだ予算は890万円。学力向上とともに教育に対する親の意識改革も目的だと石井教育長は言う。公教育の不足分を塾で補う発想と言えなくもないが、将来を託す人材育成を独自に進めたいとの願いは、よく分かる▼文科省が13日に発表した高校3年生対象の学力テストでは、思考力や応用力を問う問題の成績が振るわなかった。特に理数系を苦手とする傾向が浮き彫りになった。川内村の子どもたちは「ゆとり教育」がもたらしたとされる課題を乗り越える学力を身に付けるだろうか。授業は18日に始まる。(S)


4月16日(月)

●外国人は「音の暴力」と言ったそうだ。日本人でも同様に感じている人も少なくはないだろう。だが、とかくの批判はあっても日本の選挙に連呼は欠かせない戦術だ。統一地方選の後半戦が本番入りし、道南にも選挙カーからの訴えがこだまする日々が再び始まった▼函館市長選、同市議選、北斗市議選が告示され、候補は一斉に街頭に飛び出した。運動員とともに車から手を振り、名前を連呼する。玄関先に出てきたり、足を止めてくれた有権者のもとへは車から降りて駆け寄り笑顔で握手を求める。一票ずつの積み重ねが勝敗を決する選挙では、見慣れた光景だ▼道内の13市長選では財政再建団体になった夕張市が、もっとも注目されテレビの全国ニュースでも取り上げられた。7人が立候補した夕張ほどではないが函館市は2人が立ち選挙が行われる。7市長選が無投票で決まったのに対し、函館の有権者は一票を行使できる機会を得た。函館、北斗の両市議選も立候補が定数を上回り、選挙が実施される▼選挙は祭りに似ているといわれる。神輿(みこし)に乗る候補者は、陣営に集まる支援者に担がれる。神輿の周りを囲む観客は、さしずめ有権者に例えられよう。ただしこの観客は傍観者ではない。乗り手の一挙手一投足をじっと見つめ、一票の支持を与えるかどうかを判断する批評家だ▼あすは3町長選と10町議選も告示される。道南の浅い春は選挙一色に彩られ、今週いっぱい支持を求める連呼の叫びに満たされる。投開票日はいずれも22日。連呼の声が途絶えるころ、桜の春が駆け足で近づく。(S)


4月15日(日)

●「大きな袋を肩にかけ 大黒さまが来かかると ここは因幡の白うさぎ 皮をむかれて〜」 サメをだまして陸地に渡ろうとしたウサギは皮をはがされて丸裸になってしまった。通りかかった大黒さまが「きれいな水に身を洗え」と助けてやった▼祖母から白ウサギの童話と「大黒さまの歌」を教えてもらった。七福神のうちで最もふくよかな神さま。右手に鉾、左手に宝塔を持ち「我を信仰するならば貧窮の者には福を与え…」と微笑む。その大黒像がミイラ・白骨化した5遺体があった住宅の祭壇に置かれていた(大牟田市)▼一家は生きていれば99歳と92歳の老夫婦と50〜60代の子供の8人。5人は4年〜20年前に病気などで亡くなったというが、市役所に届けていなかった。6畳や8畳の和室に大黒像が入った祭壇があり、「死者をそのままにしておくと生き返る」と信じて放置、老夫婦の年金を受給していた▼薬剤師のように白衣を着た娘たちが消毒液や塩をまいたり、線香をたいたりしていたという。天にのぼるお香は死者の魂を導くといわれ、「除病延命息災我」「南無大黒天」などと、唱えていたのだろうか。しかし、大黒天の「復活・再生・長寿」のご利益はなかった▼新一年生、新社会人が人生のスタートをきった春に、こんな悲惨なニュースが飛び込むなんて心が痛む。人の心に巣くっている死者復活の願望は抑えることはできないが、なぜ10年も20年も前から姿を見せない実態が把握できなかったのだろうか。民生委員らのさらに一歩踏み込んだ活動が望まれる。(M)


4月14日(土)

●言葉を聞くことはあっても中身はいまひとつピンとこない。どうやら私たちの暮らしにもかかわりがあるらしいが、何となく遠い存在のままだ。道州制についての道民の受け止め方は、そんなところが大方ではなかろうか。先の知事選でも、3候補とも道州制への言及はそっけなかった▼それでは困る、と道が「みんなでつくる道州制」と題した冊子を作成し、無料配布を始めた。道州制推進道民会議の論議を基に道州制とは?について解説している。関心のある方は、道庁の出先や市町村の窓口で1冊ほしいと申し出られたらいい▼道州制は実は、国と地方の在り方を根本的に見直す機運をはらんでいる。もっとも道州制の検討は、地方からではなく国が主導してスタートしたことから真の分権改革が実現するのか疑問視する声もある。全国の知事によって評価に温度差があるのは事実だ▼本道を道州制のモデルにするための「道州制特区推進法」が今月、施行された。これによって国の権限のうち8つの事業が道に移譲される。しかし移される権限は、どれも中央省庁の抵抗が薄いものばかりだ。冊子では「着実に前進しています!」と強調しているが、大きな税財源の移譲を伴う権限は省庁が手放さない▼本道を道州制のショーウインドーにする作業はまだ緒に就いたばかり。冊子は道州制を「自分たちの住む地域のことは自分たちで決めていく『地域主権』『住民主権』を実現する」ための〈仕組み=道具〉と説明する。道具を使いこなすには、技(わざ)が必要だ。まず中身を知り、技を磨くことからはじめよう。(S)


4月13日(金)

●〈便所より青空見えて啄木忌〉。亡くなった劇作家寺山修司が青森高校生のときの1953年に詠んだとされる歌だ。津軽海峡を隔て函館の地に眠る石川啄木は、早熟な寺山にとって深い感興が沸く存在だったろう。この歌には、啄木への憧憬(しょうけい)と侮べつとがない交ぜになったような若者の衒(てら)いが見えておもしろい▼「中学生の石川はじめが、生まれて初めて煙草(たばこ)の味を知ったのは、学校の便所の中であった。…便所の高窓から青空が見えた」。啄木の歌を題材に寺山が書いた「啄木を読む」の冒頭部分に〈便所より…〉の歌の由来が出てくる。むろん虚構であろうが、歌人として出発した寺山の目に、隣県・岩手出身の啄木がどう映っていたかを知る手がかりになる▼その啄木が故郷・渋民村を追われるように函館入りしたのは1907年5月5日だった。函館時代の啄木の足跡を詳細に追った「啄木と函館」(阿部たつを著・桜井健治編、幻洋社)によると、文芸雑誌を発刊する「苜蓿社(ぼくしゅくしゃ)」の同人で啄木の生涯を物心両面で支えた宮崎郁雨(いくう)が「鶏小屋に孔雀が舞いこむようなものだな」と来函を歓迎したという▼それからちょうど100年、きょう13日は96回目の啄木忌だ。啄木一族が眠る墓地近くの地蔵堂で法要と追悼講話が行われる。貧窮にあえいだ啄木にとって函館の132日間は、仕事と仲間に恵まれ、妻子と水入らずの生活もあった期間だった。いまも啄木をしのぶ函館の人々の心情を寺山が生きていたらどう思うだろうか。(S)


4月12日(木)

●3月27日に亡くなった植木等さん(享年80歳)は、高度経済成長に沸く昭和の一時代を風刺し、歌手、役者として一世を風靡(ふうび)した。青島幸男さん作詞の「ドント節」では「サラリーマンは 気楽な稼業ときたもんだ」と歌い、働きづくめのサラリーマンを明るく皮肉った▼道南の1市2町の議員8人が任期途中の3月末に辞職した。辞職勧告を受けても職にとどまる議員が大勢いるというのに、あと1カ月の任期をまっとうしないのは異例だ。「高齢」「体の不調」を理由にする人もいれば、「統一地方選立候補予定者の応援」を挙げる人もいる▼改正地方公務員等共済組合法が4月1日に施行された。退職議員の年金給付水準を12・5%引き下げることが盛り込まれている。ただし、3月31日までに退職すれば従来の水準で支給される決まりだ。任期によって異なるが、減額分は年間数十万円に上る▼全国紙などの報道によると、制度改正が理由とみられる駆け込み辞職は、全国で相次いだ。退職後は一市民、実入りが減っては困るということか。道南の辞職者の多くは「制度改正とは無関係」と言う。ならば「李下(りか)に冠を正さず」。誰もが納得できる説明が欲しい▼植木さんは「ハイそれまでョ」で「ひとこと小言を言ったらば プイと出たきり ハイそれまでョ」と、恐妻家の悲哀をユーモラスにメロディーに乗せた。任期途中で辞職した議員の面々を草葉の陰からどう見ているだろう。歌は「フザケヤガッテ コノヤロー 泣けてく〜る」と続く。(K)


4月11日(水)

●戦前を知る方なら松根油を思い浮かべるかもしれない。アメリカからの石油の輸入が途絶え、航空機燃料が不足したとき松の根を蒸し焼きにして採取した。もっとも松根油はオクタン価が低く、そのままでは航空機燃料には使えなかったそうだ▼それにもかかわらず航空機を飛ばせない事態を避け、戦争を続けるために国を挙げて松根油の生産を奨励した。太平洋戦争末期のことだ。戦争は日本の松が根こそぎ伐採される前に終わった。もし戦争が継続していたら赤松街道も姿を消していたかもしれない▼松根油は現代風に言えば、バイオマス(生物資源)燃料だ。バイオ燃料は石油、石炭などの化石燃料と異なり、原料の植物が生育するときに二酸化炭素(CO2)を吸収するため、地球温暖化対策上も有効と注目されてきた。現代のバイオ燃料は、主にサトウキビやトウモロコシを原料に作られる▼バイオ燃料の普及が遅れている日本で「バイオガソリン」が今月末から首都圏のガソリンスタンドで販売される。バイオエタノールを3%混合した製品だ。普通のガソリンと変わりなく、エンストも起きない。価格もレギュラーと同程度だという。石油依存度を引き下げる切り札になると期待されての導入だ▼だが、製品は国産ではなく輸入だ。国内でもバイオエタノール生産が細々と始まってはいるが、ブラジル、アメリカなどに比べ、生産量はわずか。製造コストでも太刀打ちできない。松根油のように消えてしまうことはないだろうが、このバイオガソリンが道内で普及するのはいつになるだろうか。(S)


4月10日(火)

●13・1%。ピンと来る人もいるだろう。道内地上波でテレビ放送されなかったプロ野球・巨人の開幕戦の平均視聴率だ(関東地区、数字はいずれもビデオリサーチ調べ)。昨年より2・8ポイント下がった。2003年に20%台を割って以来、5年連続で10%台にとどまる▼2年連続日本一の期待がかかる北海道日本ハムファイターズ。札幌ドーム開幕戦は11・1%(札幌地区)。第2戦こそ7・0%と振るわなかったが、第3戦は16・4%。巨人の開幕戦と比べても決してそん色ない▼巨人人気の低迷で激変の波にさらされているプロ野球界。巨人の開幕戦が、ファンが多い道内で放送されなかったのは、変革期を物語る象徴的な出来事だ▼プロ野球界はドラフト(新人選手選択)制度の希望枠をことしから撤廃すると決めた。アマチュア選手に対する西武の金銭供与を受け、アマ球界はもとよりプロ野球選手会も撤廃を求めていた。しかし、フリーエージェント(FA)権の取得期間短縮とセットで議論すべきと巨人が主張。来年からの廃止を先に決めた後、厳しい世論を踏まえて方針を変えた▼職業選択の自由を規制するドラフトと、その規制から救済するFA。兼ね合いをどうするかは広い視野での議論が欠かせない。ただペナントレースを面白くするのは「戦力の均衡化」だ。球団ではなく球界の一員になる。そんな考え方を選手個々に浸透させる方策はないものか。もちろん、魅力ある組織づくりという各球団の真摯(しんし)な経営努力があっての話だが。(K)


4月9日(月)

●長く議員秘書を務めた人が言っていた。「選挙は平和な戦争だよ」。なるほど現ナマという“実弾”が飛ぶことはあっても血が流れることはない。取り締まり当局が、目を厳しく光らせている昨今は、“実弾”に物を言わせることも減ってきているに違いない。「平和」な戦いといえばその通りだろう▼だが候補と陣営にとっては、平和にあぐらをかいていられないのが選挙だ。票を食うか食われるか、正攻法と秘策を駆使して戦い抜かなければ勝利を手繰り寄せることはできない。まして政党ごとの色分けや、利害関係で固まる票よりも、無党派層の増大が著しい最近の選挙では、予想外の結果だって起こりうる。「絶対」や「確実」は選挙の禁句だ▼線上とされた候補ばかりでなく、強いとされた候補も厳しいとみられた候補も、それぞれ期待と不安を抱きながら有権者の審判を待ったことだろう。道知事選、道議選、札幌市長選など統一地方選の第1弾が8日投開票され、9日未明にはすべての結果が判明した▼晴れやかな笑顔で万歳をする当選者があれば、沈んだ声で敗因を語る落選者もいる。いつもながら悲喜こもごもの選挙風景だ。道南の道議選では、全道屈指の激戦区だった函館市区をはじめ北斗市区、渡島支庁区、檜山支庁区で計11人が喜びの笑顔に包まれた▼統一地方選はこの後、函館市長選、同市議選が15日に告示され、1週間の選挙戦に突入する。幕あいが明けると、再び選挙カーが街に繰り出し、有権者に支持を訴える。「平和な戦争」はより身近な舞台で第2幕が始まる。(S)


4月8日(日)

●「世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」(在原業平『古今和歌集』)。もし、この世に桜がなければ、「いつ咲くのか」「もう散っていくのか」などと気をもむこともないだろうに、という句だ▼日本さくらの会から道内で唯一「桜守」の称号を与えられた七飯町の浅利政俊さん(76)も「日本人は桜を思えば仕事も手に付かなくなる」と話す。桜の美しさは日本人の心に深く根ざし、豊かな感性や発想の源。平安人も現代人も、桜を愛する心は同じということか▼しかし、その美しい桜を守っているのは人間である。浅利さんは「桜博士」の異名を持ち、松前公園に40本しかなかったヤエザクラ1種を250種1万本まで増やした。小学校教諭の傍ら、泥まみれになって改良を重ね、誕生させた新品種は105種類。その数々は、国内はもとより世界各国に渡り、花開いている▼作業着にチューリップ帽、ゴム長靴が浅利さんのお決まりのスタイル。帽子の下からのぞく顔は、海の男のように春でも日焼けしている。開拓農家として渡った先祖から、ずっと赤貧続きだったが、庭にはヤエザクラ、オンコ(イチイ)、マツ、ツツジなどが育ち、植生の宝庫だったという。子供のころは庭の桜に登って大野平野を眺めた。四季を通して姿を変える庭や平野が、北海道有数の名所を育てたとも言える▼その松前公園で、フユザクラが咲いた。「函館はいつ咲くのか」。うきうきと落ち着かない季節が、またやってきた。(I)


4月7日(土)

●経典を求めて孫悟空らを連れて西方に向かった三蔵法師が天竺国に入って最初に目にしたのが仏桑華(ぶっそうげ)だったといわれる。葉が桑の葉に似ていることから名付けられた。原産地は中国南部で、扶桑(ふそう)ともいわれ、学名はハイビスカス▼8日の花まつり(潅仏会サかんぶつえ)には「常に新しい美」や「繊細な美」という花言葉をもつ仏桑華をはじめ、色とりどりの花を飾る釈迦(しゃか)の誕生日。子供たちが浴仏盆に立つ“唯我独尊”の釈迦像に甘茶をかけて祝う。産湯が香水だったことから、香湯など五色の水を注ぐ▼先週の土曜日はイスラム教の預言者ムハンマドの誕生日だった。ネコ好きのムハンマドが外出する際、服の上に寝ていたネコを起こさないように服の袖を切り落として着たという逸話がある。8日はキリスト教のイースター(復活祭)。イスラムはアラビア語で「帰依する」を意味し、釈迦の「帰依」と同じ▼ともに「人間は卑小さを超越して大きくなれ」と主張。イランのアフマディネジャド大統領は、ペルシャ湾で拘束した英海軍15人にムハンマドの誕生日と復活祭を迎えることなどから恩赦を与え解放した。イラン独特の寛大な演出といえ「イースターの贈り物」に、まずは安ど▼釈迦が生まれ、キリストが復活した8日は統一選挙の最初の投票日でもある。止まぬ官製談合、国民を傷つける発言など、何をしても許されると“唯我独尊”を誤って解釈している政治家が多い昨今。住民サイドに立って「常に新しい美・繊細な美」を求める候補に一票を投じたいものだ。 (M)


4月6日(金)

●「昔の学校では青は男子、赤は女子と決まっていた。授業などでカスタネットを使う際、男女別に数合わせするのが大変なので赤と青を組み合わせた」。先日、函館市芸術ホールでカスタネットの華麗な演奏技術を披露した日本カスタネット協会の真貝(しんがい)裕司会長がそんなエピソードを紹介した。学習指導要領が策定された1947年ごろに赤青カスタネットは誕生したという▼今の時期「男子は黒、女子は赤」と言えばランドセルだ。大手スーパーが2001年に24色をそろえるなど、この5、6年で多色化が進む。男子は緑や青、女子はピンクを求める児童も増えている▼ランドセル素材の人工皮革を製造・販売するクラレ(東京)が1月に発表したアンケート結果によると、購入したランドセルの色は男子の1位が黒(62・5%)、2位は青系(18・0%)。4年前と比べ、黒は20ポイントも減少。女子はピンク系が47・5%と過半数近くに上り、赤(32・0%)を抜いた。アンケートを開始した1999年以降、赤が主役の座を譲り渡したのは初めてだ。ちなみに、4年前は赤が7割を超していた▼それまで当たり前だったことも、時代の変化とともにさまざまに変容する。色とりどりのカスタネットが、児童の小さな手で打ち鳴らされる日が来るのもそう遠くないかもしれない▼道南のほとんどの小学校できょう、入学式が行われる。本年度、渡島・桧山管内で小学校の門をくぐるのは約3900人。どんな色のランドセルが登場するだろう。(K)


4月5日(木)

●経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)と日本語に訳して表記しても内容はなかなか難しい。国と国あるいは地域間の経済関係は、世界規模での通商拡大が続く現状では強まることはあっても衰えはしないだろうから、EPA、FTAが今後も経済外交の主要テーマになることは間違いない▼道知事選にも通商問題が顔をのぞかせている。立候補している3氏の選挙公報はいずれも日豪EPA交渉に触れているからだ。交渉は今月末にも始まるが、北海道の主要産業の農畜産物の扱いが最大のテーマになることは確実だ▼「日豪EPA交渉の中止」「重要農産物の現行関税率の堅持」「農産品無関税化を阻止」と3氏の主張は道内農業を守るという点では一致する。国際競争力に乏しい農業分野で関税率の大幅引き下げが実現したら農業への打撃は底知れない。何としても阻止するとの意気込みが公報から読み取れる▼安倍首相とタイのスラユット暫定首相が3日、日タイEPA協定に署名した。日本のEPA調印は6カ国目だが、コメについては日本側の抵抗で協定の対象外になった。日タイの前日には米韓がFTA締結で合意している。こちらもコメは関税削減の例外扱いになったが、日タイと比較すると、相互の市場開放の度合いはずっと高いとされる▼通商関係は互恵平等が原則だ。その原則を堅持しながら交渉で互いに最大の利益を引き出す。日豪交渉を間近にしたいま、候補者3氏が、マニフェストに掲げる約束をどう果たそうとしているのか、もう少し詳しく聞いてみたい。(S)


4月4日(水)

●列車での一人旅は、たとえ特急を利用したとしてもそこはかとない思いにかられるものだ。仕事上の出張といった気の急(せ)く場合を除き、列車で移動する時間は、日常を離れて心を遊ばせる機会を与えてくれる。そんな時、たまたま手にした読み物が優れていたら旅の興趣もいっそう深まる▼函館から八戸までの特急で、いつもはぱらぱらとしかめくらないJR北海道の車内誌に引き込まれた。3月号の特集が函館にゆかりの深い石川啄木を取り上げていたからだ。タイトルは「百年の旅人、石川啄木〜『忘れがたき人人』と北の風景〜」▼啄木は1907年、岩手県渋民村の故郷を追われるように北海道に渡ってきた。上陸したのは函館だった。函館には4カ月しか滞在しなかったが、小学校の代用教員や新聞記者の職に就き、安定した生活を営んだ。そうした函館時代の啄木については、啄木研究家の桜井健治函館市商工観光部長が誌上で語っている▼JR北海道が車内誌を創刊したのは1987年の新会社移行後だ。「道内にゆかりの人物や歴史のほか最新の情報も載せて移動の時間を楽しんでもらいたい」(発行元の北海道ジェイ・アール・エージェンシー)との狙いからだ。月刊発行部数は約10万部。4月号から内容をリニューアルした▼八戸で乗り換えた新幹線の車内誌は、西行を特集していた。みちのくを旅した西行とみちのくの故郷を離れた啄木。時代を隔てた2人の歌人の足跡をたどる特集は、旅のつれづれを慰める絶好の読み物だった。こうした発見があるから旅はおもしろい。(S)


4月3日(火)

●「とっさの反応が鈍ってきたと自覚してね。事故を起こす前に免許証を返上しました」。知り合いの老名誉教授が運転をあきらめたのは80歳を目前にしたころだった。加齢とともに視力や運動神経が衰えるのはやむを得ない。だが、ゆっくり慎重な運転を心がければ、まだまだ大丈夫。そんな未練を断ち切っての決断だった▼老名誉教授はずいぶん逡(しゅん)巡したと明かした。広い道内では、車はまさに足代わり。地方都市や町村では、バスや電車など公共交通機関が不便なだけに車の必要度は高い。「なかなか来ないバスを待つのは時間がもったいない。かといってタクシーを使うとなるとお金がかかる」。車を手放すとき老名誉教授は足を奪われるつらさを味わったという▼警察庁が運転免許更新時に70歳以上の高齢者に課している講習を見直すと毎日新聞が伝えた。2008年度から視野検査や認知症の簡易検査を新たに導入する方向で検討しているという。高齢ドライバーによる事故が増えている現状では、適性検査の強化は必要なことだろう▼車社会のアメリカでも高齢ドライバーの事故は大きな社会問題になっている。州によって法規が異なるが、高齢ドライバーには夜間の運転を禁止するなどの規制をかけているところもある。社会の安全を守るには、ある程度の不便は耐え忍んでもらわなければならないとの考えからだ▼老名誉教授の決断は、10年も前のことだった。奥さまを亡くされ1人暮らしだった老名誉教授もいまはない。「ぼくの判断は間違ってなかった」。そうつぶやく声が聞こえるようだ。(S)


4月2日(月)

●「角さんの手は傷だらけだったな。指輪をしている女性と次々と握手して引っかき傷が残った」。そんな話を先輩記者から聞いたことがある。角さんとはもちろん田中角栄元首相のこと。ロッキード事件で逮捕された後、初めて行われた1976年12月総選挙に密着取材した先輩の述懐だった▼田中元首相は強固な後援会組織を持ち、旧新潟3区で他候補を圧倒するトップ当選を果たしてきた。その元首相でも逆風下で迎えたロッキード選挙では、1人ひとりの支援者と握手し、一票を積み重ねる地道な努力をした。選挙の洗礼を何度も経験しているベテランは、握手したときの感触で自分に投票してくれるかどうか分かるという▼春浅い道南に桜前線より早く選挙前線が上陸した。道知事選に続き道議選が告示され、各候補の選挙カーがいっせいに街頭に繰り出した。期間中、唯一の選挙サンデーの昨日、買い物客でにぎわう大型店前や繁華街では候補者陣営の訴えの声がこだました。笑顔を振りまき握手を求める光景もいつもながらだ▼道南の道議選は4選挙区に計17人が立候補した。道内では48選挙区中、11選挙区が無投票になり、19人が選挙という有権者の審判を受けずに当選証書を手にする。投票のチャンスを奪われた選挙区の有権者に比べ、道南の有権者は一票の権利を自らの判断で行使できる▼候補者が近くに来たら何を訴えるか、よく聞こう。そして握手を求められたら嫌がらずに応じよう。そのとき、どんな話をするか、声や目に力がこもっているかも判断の材料にしよう。投票日まであと6日だ。 (S)


4月1日(日)

●「地方自治体の仕事は住民の暮らしと福祉を守ること。北海道に福祉の心を取り戻したい」「地域間格差の問題は医療、福祉などの分野にも広がっており、解消に取り組みたい」「道民所得を全国ベストテンに、出生率も全国並みの1・25に」▼統一選挙が行われる4月の初日は「エープリルフール」。フランスで始まり、江戸時代に日本に伝わって「4月ばか」とか「万愚節」と言われ、1日の午前中に限り、社会の秩序を乱さない程度にウソをついたり、人をからかったりしてもとがめられない▼冒頭は道知事選候補の抱負の一部だが、今回の首長選からマニフェストの配布が解禁された。団体や組織への「お願い型」から具体的な政策を有権者一人一人に示す「約束型」へ。各候補のホームページに詳細に書き込まれているが、エープリルフールにならないよう、よく見極めたい▼また、春の入り口の4月は新1年生の出番だが、タミフルを服用しての異常行動や、相次ぐ虐待が心配。バグダッドでは武装勢力が子供を使って米軍の警戒を解いた自爆テロが報告されている。大人が逃げた後、車は2人の子供を乗せたまま爆発。子供を巻き込むなんて…▼「無党派層も政党です」という宮崎県知事選の「そのまんま現象」が全国に広がっているが、子供を守るセキュリティー対策を優先してほしいものだ。函館はサイレントマジョリティー(もの言わぬ多数派)なのか、いつも投票率が低いといわれる。投票行動に移さなければ、本当の有権者とは言えないのでは。(M)


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