平成19年7月


7月31日(火)

●微風、薫風、突風、烈風…。風にもいろいろあるが、参院選に吹いた風は与党への台風並みの逆風だった。「政権選択の選挙ではない」と敗北を見越して張っていた予防線が、揺らぐほどの痛撃が与党を襲った▼与野党で議席を分け合った道選挙区にも、変化が見えた。与党候補の獲得票は、公認と推薦の2人の野党候補の半分である。票割がうまくいけば、野党の独占だってありうる事態だった▼2年前の郵政解散を思い出す。郵政民営化が本当に必要ないのか国民に聞いてみたい、と叫んで総選挙に打って出た小泉首相のもとで、与党は地すべり的勝利を収めた。今回の参院選は、与党に勝たせすぎたことへの揺り戻しと見るのは浅薄かもしれない▼「政治的天才とは彼自身の意志を民衆の意志とするもののことを云(い)うのである。少なくとも民衆の意志であるかのように信ぜしめるものを云うのである」。芥川龍之介が、箴言集「侏儒の言葉」に残した指摘だ▼確かに小泉首相は民衆の心をつかむ政治的天才だったろう。〈変人〉と批判されながらも、言葉で国民の意識を変え、追い風をつかんで総選挙に大勝した。もっとも小泉政治は、ワーキングプアが象徴する格差拡大や地方の疲弊の付けを残したことも事実だ▼そして跡を継いだ安倍首相は、失言が相次いだ閣僚をかばったことや、年金や「政治とカネ」の問題で逆風をもろに受けた。国民から突きつけられた不信のまなざしは厳しいが、首相は続投するという。ノーを突きつけた国民の声は烈風に飛ばされて首相の耳に届かなかったのだろう。(S)


7月30日(月)

●プロボクシングのガッツ石松が1974年、世界タイトルを手にした時、両手を挙げ、喜びの姿を取った。「ガッツポーズ」由来の一説だ。大相撲名古屋場所で21度目の優勝を果たした横綱朝青龍。何かと品行が問題になるが、ガッツポーズで喜びを表した▼今では普通だが、以前の大相撲にはなかった光景だ。20年前ほど前、のちに大出世を遂げた力士が白星の喜びを形にし、相撲協会から注意を受けたことを記憶している。神聖な土俵で礼を失したと映ったのだろう▼剣道がそうであるように、本来、武道には喜びを爆発させない勝者の精神があると思う。なぜ、相撲や柔道に備わったのか。それは恐らく国際化だろう。柔道はオリンピックで、相撲は外国人力士の進出で▼30年ほど前、ハワイ出身の高見山は接戦で敗れると土俵の砂をつかんでまくような仕草をして、悔しがった。敗者が感情を表すことには許容があったように思う。巨漢が小兵に逆転で敗れる一番がテレビ桟敷のだいご味で、高見山は先代貴ノ花との対戦が印象に残る▼勝負には番狂わせが付き物。参院選でも、本来ならば安泰とみられる多くの候補が不覚を取った。「風」を受けて電車道で押し出した候補もいれば、攻められながらも土俵際で見事なうっちゃりを見せた戦いもある▼厳しい戦いの中で「当選」というタイトルを手にした候補たちは、熱狂の渦の中でそれぞれが勝利の喜びを形に表した。勝利の余韻に浸った後は、有権者から託された願いを胸に、議員としての「心技体」を磨いてもらいたい。(P)


7月29日(日)

●函館でアブラゼミの初鳴がきかれた。天気予報によると、8月の気温は「平年並みか高め」。北海道は今夏から設けられた「猛暑日」はないにしても、暑さで体がぐったりと疲れる「夏ばて」から逃れられそうもない。そこで「ウナギのかば焼き」の出番だ▼生命力が強く、水なしで1年以上も生きた記録があるウナギは昔から精力がつくと信じられていた。古代エジプトでは「神」として崇められ、ローマでは養殖が行われ、古代メニューには必ず「ウナギの香り焼き」が付いていたという。エジプトでウナギのミイラまで出ている▼謎だらけの生態のせいか、かつて「ウナギの七不思議」とも言われた。「自然界でウナギの卵や産卵を見た人がいない」「人工ふ化は成功しているが成魚まで育たない」「親ウナギは南の産卵場までどんなメカニズムで行くのか」「なぜ不老強壮効果に優れているのか」など…▼江戸期にシンプルな「丸焼き」から柔らかく焼き上げる「かば焼き」になって、下流・上流層とも食べるようになった。今では世界の消費量の7割まで日本が占めており、しかも供給量の6割が中国に依存している。中国が欧州から稚魚を買って「かば焼き」にして大量に日本へ▼今年は、その稚魚も乱獲で漁獲が規制され、中国の加工工程では危険性が問題視されており、満足に食べられるか心配。店頭の張り紙には「中国産ウナギは日中両国の検疫で安全性が確認されています」とあるが…。資源枯渇の傾向は魚食民族に「食生活を見直せ」と警告しているのか。30日は「土用の丑」だ。(M)


7月28日(土)

●スカーフを認めるか、認めないか。それが選挙の争点になったのは、年金選挙の日本から見ると、腑(ふ)に落ちないのは仕方がない。国民の90%以上をイスラム教徒が占めるトルコの総選挙で、スカーフ着用禁止の緩和を主張する与党が勝利した▼政教分離が国是のトルコでは、女性のスカーフ着用禁止は、イスラムの伝統よりも西洋化を重視する象徴とされてきた。だが、個人の信仰や好みにまで国が口出しするのは行き過ぎとの批判もあった▼厳格なイスラム国家では、女性は頭から足先まで黒っぽいベールで覆っている。スカーフ着用もイスラム信仰の証しとみなされる。フランスでは、公立校に通うイスラム教徒女子生徒のスカーフを禁じる法案が論争になったことがある▼トルコは、第一次世界大戦の敗戦でオスマントルコが解体した後、1924年に現在の共和制が成立した。建国の父で初代大統領のケマル・アタチュルクは、世俗主義を堅持して西洋化を推進したことで知られる▼他のイスラム国家と異なり、トルコは飲酒が自由である。イスタンブールなどの大都会では、ヨーロッパ風の服装をした女性がさっそうとオフィス勤めをしている。もっとも開明的なイスラム国家がトルコだ▼開かれたトルコを象徴するスカーフの着用禁止の是非は、国是とイスラム教徒のアイデンティティーとの相克が根っこに横たわる。スカーフと年金。総選挙を終えたばかりのトルコと、参院選を間近にした日本の争点の違いはお国柄を映し出す。トルコでは与党勝利で終わったが、日本はどうか。投票日はあすだ。(S)


7月27日(金)

●北海道電力泊原発。1、2号機を建設中に3回見学した。稼動してからの見学は容易ではない。申込書から厳重にチェックされ、やっと許可が出ても、展望台から建物を見るだけ。テロ対策も含めて警備が厳しく、アリ1匹も浸入できないのだ▼建設中の3号機で不審火が相次いで発生している。原子炉補助建屋でゴミ袋の布から煙が出て(3日)、同じく建屋2階でほうきに火がつき(4日)、同建屋1階で段ボールや角材が燃え上がった(11日)。24日には2階壁のビニールシートから出火、なんと今月に入って4回目のぼや▼放射能漏れはなかった。溶接作業の火が飛び散った可能性もあるものの「出火との因果関係は不明」としており、不審火とみられている。また、23日には建屋3階で2カ所の溶接用の電気コードが人為的に切断されていた。誰かが原子炉建屋に潜り込んで、放火でもしたのだろうか▼今年2月には道内の知内など5火力発電所の全11基で、ばい煙の排出量や冷却水の取・排水量データが改ざんされていた。環境基準値の2倍を超えたり、19年間もデータを改ざんしたりしていた火発もあった。火発、原発問わず、安全性を最重点に安定供給に力を入れているはずなのに▼わが国は原子力プラントを建設する世界一の技術を持ちながら、想定外の破壊力を持つ海底活断層を把握していなかった柏崎原発など、安全対策の見直しが急務。ぼやが発生した建屋に出入りできるのは建設作業員だけ。警察と協力して徹底的に捜査して、道民の信頼を回復してほしい。(M)


7月26日(木)

●「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。プロ野球・楽天の野村監督がしばしば口にする言葉だ。試合に勝つ場合、実力だけでなく、運やつきという目に見えない力が働くこともあるが、負ける時は、敗れるだけのはっきりした理由がある―という意味だろう▼いよいよ終盤を迎えた参院選。閣僚の相次ぐ交代や失言、不透明なままの事務所費問題、年金記録漏れ…。与党・自民党はかつてない逆風にさらされている。「負けに不思議の負けなし」と言われてもおかしくない状況だ▼政権交代への大きな一歩と勢いづく民主党は、敵失を突き、大きな政治のうねりを作りだせるか。全国紙などの世論調査を見る限り、全国的には大きく議席を伸ばす情勢のようだ。ただ、投票間近になって劣勢が伝えられる側を擁護しようとする動きが出てくる可能性もある。目に見えない有権者の力が、投票行動にどんな影響を及ぼすか▼函館市内の市立小中学校では23日に1学期の終業式が行われた。投票日の29日は、子どもたちが夏休みに入って最初の日曜という人がほとんどだ。旅行やレジャーに出かける前に期日前投票で有権者としての意思を1票に託そう。投票は義務ではなく権利だ▼さて夏休み―。子どもたちが命を落とす、悲惨な事故が毎年、後を絶たない。野村監督流に言えば「無事に不思議の無事あり、事故に不思議の事故なし」。万全の備えで海、山、川でのレジャーに繰り出し、体を動かして楽しい思い出をいっぱいつくろう。(K)


7月25日(水)

●政局につながることを警戒した与党が「政権選択の選挙ではない」と予防線を張って始まった参院選は、選挙区候補が週明けから道南に入り、決戦ムードが高まってきた。きのうは、4候補が函館市内に選挙カーを乗り入れ、遊説や街頭演説で支持を訴えた▼広い道内を駆け回ってきた候補は、日に焼け、声もかすれがちだが、有権者の支持を1票でも多く取り付けようと懸命に訴え、走る。選挙戦が終盤にかかり、候補も陣営も高揚感と不安とを両抱えしながら投票日を迎える▼選挙に「絶対」はない。どこでどんな地殻が動いているか。それが奔流となってあふれ出てくるのか。予兆をつかむのは、地震と同じように難しい。プロを自認する選挙通でも、結果が判明してからほぞをかむことだってある▼選挙では、言葉の力で人をひきつける正攻法の裏で、利害や情実、裏切り、謀略などの生臭い人間ドラマも繰り広げられる。だから、選挙は面白いというのは紛れまぎれもない事実だろう。そうした面白さは、小説の格好の題材になる▼「選挙参謀」(角川書店)は、代議士私設秘書や選挙プロデューサー経験を持つ著者が、当選請負人の異名を持つ選挙プロを描いたフィクションだ。敗北必至と見た選挙プロが、相手をおとしめるために仕組んだワナは悪らつで巧妙だ▼小説の世界ほどではないにしても、実際の選挙でもさまざまな役割を担った登場人物が舞台裏で活動する。それらの役割がどう絡み合い、表舞台の候補の集票に結実していくのか。選挙ドラマの終幕まであと5日だ。(S)


7月24日(火)

●いつも買い物をするスーパーに行くと、ヨーグルトの種類が増えていることに気づいた。大手乳業メーカーから地元メーカーまで、さまざまな種類のヨーグルトが並んでいる。健康志向がヨーグルト人気を押し上げ、各メーカーが新製品を投入したからだ▼ヨーグルトは、ブルガリアが原産国と思っている人が多いようだ。大手メーカーが製品名にブルガリアを付けたことや、コマーシャルに同国出身の大関琴欧州を起用したことが誤解の背景にある。だが、ヨーグルトは中央アジアの遊牧の民だったトルコ人が生み出した▼実際、ヨーグルトはトルコ語の「ヨウルト(かき混ぜる)」からきている。トルコでは、ヨーグルトをサラダのドレッシングや肉を漬け込むのに使ったりと、日本ではあまりなじみがない用途にも活用している▼インドやパキスタンなどで飲むダヒもヨーグルトから作られる。香辛料を利かせた料理を食べた後、ダヒで口中をさっぱりさせる。日本のヨーグルトドリンクは甘みが強いが、ダヒはもっとさわやかだ▼10年ほど前、カスピ海ヨーグルトを自家製造することがはやった。コーカサス地方に暮らす人たちの長寿にあやかり、ヨーグルトを食べて健康で長生きを願った。それがヨーグルトの普及に果たした役割は大きい▼そして最近、再びヨーグルト人気が高まっている。牛乳の消費が、ペットボトル入りのお茶や水などに押されて伸び悩んでいるのに対し、ヨーグルトは消費の拡大が続く。きょうはプレーンの新製品にしようか。牛肉を漬け込んで…と、夕食のメニューが浮かんだ。(S)


7月23日(月)

●縄文人はおしゃれだったようだ。ピアス、イヤリング、首飾り、ブレスレット、入れ墨、朱や黒の櫛(くし)を身につけた。美しく見せるばかりか、イヤリングで動植物たちの精霊の声を聞き、首飾や腕飾りで首や手首の関節を敵から守った▼北海道で初めて国宝に指定された「中空土偶」(愛称・茅空=カックウ)を公開した「北の縄文ロード」展を見た。いうまでもなく、農作業中に南茅部の遺跡から出土した土偶。発見されてから32年目に「縄文時代の精神文化を知る上で学術的価値がきわめて高い」と評価された▼縄文後期(約3500年前)に作られ、高さ41・5センチ、幅20・1センチと中空土偶では最大級。頭部の一部と両腕が欠損しているものの、ほぼ完全な形。この時代の土偶は多産や豊穣を祈る信仰から女性の姿をモデルにしているが、カックウは“性”を超越したシャーマンだった▼先ほど公開された約9000年前のメソポタミアの女神の土偶(高さ15センチ)は、目鼻や頭髪も描かれ顔も彩色されており、農民たちは女神の微笑みを眺めて農耕に励んだ。八ケ岳山麓の遺跡から見つかった「縄文のビーナス」は食糧がなくなる危機的状況下でいけにえにされたという▼土偶を壊すことによって、災厄を祓うという目的のほかに、治療や再生も願っていた。「蝦夷のビーナス」の両腕は高貴な人の患部を治すために、もぎ取ったのではないか。北海道生まれの土偶が国宝の舞台で、何かを呼びかけている。夏休みには「縄文のロマン」を研究テーマに親子でカックウを眺めよう。(M)


7月22日(日)

●イチローや松坂、松井ら大リーグで活躍する選手をテレビで見ていて、野茂英雄投手はどうしているのだろうと気になって仕方がない。当時の近鉄バッファローズを退団して1995年、ドジャーズに入団した野茂は、日本人大リーガーのパイオニアだった▼新人の年、オールスターに選ばれ、先発して2回を無失点に抑えた。トルネード投法で積み上げた勝ち星はメジャー11年間で123勝、近鉄での5年間78勝を加えると201勝になる。野茂は日本人選手の大リーグ挑戦を切り開いた先達であることはだれもが認める▼野茂は4年前、社会人野球の「NOMOベースボールクラブ」を大阪府堺市に設立した。社会人野球チームが、親会社の業績不振などで次々と休部・廃部になっていくのに心を痛め、資金を自ら提供した。社会人出身の野茂が、野球に打ち込める環境を後輩たちにプレゼントしたのだ▼都内で開かれた同クラブのお披露目に野茂がやってきた。グラウンド同様の飾らぬ口調で、多くの若者に野球を続けてもらいたくて、クラブを作ったと語った。同クラブは2005年の全日本クラブ選手権で日本一に輝く実績を挙げている▼野茂が最後にメジャーのマウンドに立ってから2年。昨年、右ひじの手術を受け、アメリカで再起に向けてリハビリを続けているとのうれしいニュースに接した▼渡米2年目の野茂の先発した試合をドジャースタジアムで見たことがある。打者に立ち向かっていくトルネードは、さっそうとしてかっこよかった。あの姿を大リーグのマウンドで再び見たい。(S)


7月21日(土)

●「麦やそばは飲めるけど芋はちょっと…」。左党でも芋焼酎の独特の香りを敬遠する人は少なくない。サツマイモを原料とする芋焼酎は、ほかの焼酎と比べて香りが強い。お湯で割ると特にその香りが引き立つ。芋焼酎派なら「それがいいんじゃないか」と口をとがらせそうだ▼厚沢部町産のサツマイモ「黄金千貫(こがねせんがん)」を原料にした本格焼酎「喜多里(きたさと)」。製造元の札幌酒精工業は、昨年10月に厚沢部工場の操業を本格的に開始。初めて仕込んだ商品は5月に店頭に並んだ。芋の栽培から収穫、仕込み、蒸留、瓶詰めまですべて厚沢部で行われた第1号になる▼味はまろやかで香りもやわらかい。「あの香りがたまらない」という芋焼酎派にすれば少し物足りなさを感じるかもしれない。しかし、芋焼酎の本場、鹿児島県でも「飲みやすさ」が追求される時代。地元はもとより、道内で多くの人に受け入れられるのではないか▼国税庁の統計(速報値)によると、道民(成人)が2005年度に消費した焼酎は12・0g。全国平均の9・7gを上回る。このうち喜多里などを含む本格焼酎(甲類)はわずか1・3g。全国平均(4・9g)の4分の1に過ぎず、沖縄を除く46都道府県の中で最も少ない。そんな土地で本格焼酎の製造を始めたメーカーの決断にエールを送りたい▼意外に思う人もいるだろうが、焼酎はビール、冷酒、梅酒と同様、夏の季語だ。お湯割り、水割り、ロックでもよし。この夏は、道南産焼酎でのどを潤そうか。(K)


7月20日(金)

●人生経験が豊かな人の言葉には、重みがある。饒舌(じょうぜつ)でなくとも、心に染み入ることをさり気なく言う人がいる。さまざまな苦楽を乗り越え、酸いも甘いもかみわけて到達した人が発する一言には、味わいがある▼取材体験から一つ。檜山のある町で植林に貢献し、道から表彰を受けた漁業の男性が語った。「漁師は陸(おか)に上がったら何もできないって言われて、悔しい思いをした。だから一生懸命スギを育てている。自分で切りたいから百歳まで生きたい」▼人のあざけりを糧に、黙々と生きている姿に頭が下がった。スギとともに年輪を刻み続け、それが人間としての円熟味につながるのだろう▼確かに高齢者一人一人が、他人に負けない何かを持っている。学歴や資格の有無ではない。例えば子どもをたくさん育てたお年寄りは、子育てに悩む現代の若いお母さんたちの良きアドバイザーになれるし、経験に裏打ちされたその一言は、きっと重い▼策定中の函館市の新総合計画で、高齢社会はプラス要因として考えるべきだとする意見が、市民代表の審議会から出された。成熟した社会がつくられていく源で、豊かな人生経験から培われたさまざまな知識や技術を、地域社会で発揮してもらう意義は大きい▼芥川賞作家、赤瀬川原平氏の「老人力」という言葉がブームになって久しい。一見負け惜しみのようにも思えるが、老いることで得られるさまざまな能力をユーモラスに説いている。能力主義、競争社会とは一線を画す、肩の力を抜いた一冊。「老」から学ぶことはまだまだ多い。(P)


7月19日(木)

●「災害は忘れたころに来る」という有名な警句は、物理学者で随筆家の寺田寅彦が発したとされている。災害はいつ襲ってくるか分からない。常に備えを怠りないように、との自戒がこの警句には込められている▼だが、今回の新潟県中越沖地震は、わずか3年前に同県を襲った大地震の記憶がまだ去らないうちにやって来た。気象庁が命名した地震の名も、震源地のわずかな違いから「沖」が付いただけである▼今回の地震で犠牲になった人たちは、7、80代の高齢者だった。高齢者は、年老いた伴侶や単独で古い木造住宅に住む例が多いという。そうした住宅の耐震性は、新しい基準で建てられた住宅より劣る。それを知っても耐震補強工事をしてもらうのは、年金暮らしの高齢者にとって大きな負担だろう▼12年前の阪神大震災でも犠牲者の40%が65歳以上だった。危険を感じてもすばやく逃げる敏しょうさを失い、しかも古い家に暮らす高齢者は、常に災害弱者だといってもいい▼それにしても私たちは、地震多発列島に住んでいることを改めて思う。3月に能登半島地震が起き、そして今回の地震だ。鴨長明は「方丈記」の中で「おそれの中におそるべかりけるは、ただ地震なりけり」と元暦2年(1185年)に体験した地震の恐怖を記している▼その恐怖も「月日かさなり、年越えしかば、後は言の葉にかけていひ出づる人だになし」と忘れやすい人間の性癖を見抜いた。寺田寅彦の警句に通じる指摘だ。被災地では余震が続く。まずは恐怖からの解放へ、手厚い支援態勢を願う。(S)


7月18日(水)

●重厚な屋根瓦の伽藍(がらん)や民家などが倒壊、大規模な崖崩れで道路や線路が埋まる…。6847の島からなる日本列島の連休は大型台風と直下型地震に襲われ、大きな被害を受けた。震源地は福岡県沖、能登半島と一緒で海底に潜む「未知の活断層」▼列島には2000の活断層があり、このうち阪神淡路大地震を契機に陸域の活断層の調査は進み、地震の発生確率を示す「地震動予測地図」なども作成されているが、数多くの海底活断層の把握は遅れているという。海底による天変地異の実態がはっきりしていない▼今度の中越沖地震(マグニチュード=M6・8)の13時間後に発生した京都府沖震源(深さ約370キロ、M6・6)による地震の最大震度(4)は、なんと十勝管内浦幌町で観測された(函館は震度2)。震源の深さから生じる「異常震域」と呼ばれ、比較的よくある現象だという▼「異常震域」なんて知らなかった。震源地から遠く離れていても、いつ襲ってくるか分らないのだ。列島全体が異常震域ではないか。また、中越沖地震で最大震度6強を観測した4カ所のうち、大きな揺れが到達する前に予測震度を知らせる気象庁の「緊急地震速報」が間にあったのは2カ所だった▼さらに電話回線が途切れ、最大震度のデータが気象庁に届かなかった所が1カ所。最大震度は初動態勢を取る上で重要。日本海域の活断層の研究を加速させ、伝達方法のバックアップ機能も充実させなければ。多くのお年寄りが亡くなった中越沖地震。一日も早い復興を願うばかり。(M)


7月17日(火)

●「日本一」と称する新潟県長岡市の花火大会を見物したことがある。ここの呼び物は、三尺玉(約90a)の打ち上げ花火である。信濃川河川敷の会場から打ち上げられる三尺玉は、直径600bを超す大輪の花を咲かせる。そしてばちばちと音を上げながら、漆黒の夜空に消えていく▼花火大会はお国自慢の競い場だ。東京ならば歴史を誇る隅田川の花火大会を挙げるだろうし、静岡県なら熱海の海上花火大会の豪華さを自慢するだろう。歴史と規模では譲るとしても、海と山の地の利を得た函館で開く本社の花火大会も華麗さでは負けていない▼昨夜、音と光のファンタジーで函館の夜空を彩った花火の数々を楽しまれた方も多いだろう。天気にも恵まれたから函館山からの眺めもすばらしかったに違いない。打ち上げ会場近くから見上げる花火は、函館山のシルエットを一瞬浮かび上がらせ、海のスクリーンにきらめきを降り注いだ▼花火は6世紀ごろ中国で発明され、13世紀にヨーロッパに伝わって技術が発展したとされる。日本には16世紀終わりごろにもたらされたらしい。祝賀の行事や五穀豊穣を祈る奉納などの際に花火が使われた▼花火には子どものころの思い出が寄り添う。親と手をつなぎ、花火見物に出かけた日をよみがえらせる人も多い。昨夜の花火大会でも、両親や祖父母に手を引かれた子どもたちが夜空を見上げる姿が見られた▼新潟県を襲った地震では柏崎市を中心に大きな被害が出た。本社の花火大会は無事に終了したが、長岡の花火大会は8月に開催できるのだろうか。心配が募る。(S)


7月16日(月)

●わずかでもガソリン代を節約し、地球温暖化防止に貢献しよう。けちくさい思いから自分なりの「エコドライブ」に取り組んでいる。極力エアコンの使用を控え、発進直前までエンジンをかけない。急加速はしない。実践しているのはそんなことだから、どの程度、効果があるか…▼道経済産業局がパンフレット「ガソリン節約のツボ」を発行した。地球環境問題が叫ばれる中、温暖化防止に向け、運輸・家庭部門でのエネルギー消費を削減するヒントにしてもらうのが狙いという▼パンフでは「省エネ運転」のポイントとして(1)まずは、ゆっくり発進(2)効率の良い運転を(3)アイドリングは短く―の3点を挙げている。急発進・急加速を控え、スロー発進を心がけると、年間60リットルのガソリンが削減できると試算。二酸化炭素(CO2)も139キログラム減らせるらしい▼「エンジン再始動に必要な燃料は、アイドリングの5秒分」で、5秒以上停止する際はエンジンを切るよう勧めている。一日10分、アイドリングをやめると年間73リットル「のガソリンと169キロのCO2が削減できる。余分な荷物を積まないことやタイヤの空気圧を適度に保つことも呼びかけている▼こんな数字を見ると、我流のエコドライブも効果があるように思えてくる。パンフの副題は「家計と環境のためにできること」。「地球規模での環境保護」と考えるとテーマが大き過ぎる。日々の運転の工夫ならいつでも始められる。「自分一人ぐらい」ではなく「せめて自分だけでも」。そんな精神でエコドライブを続けてみよう。(K)


7月15日(日)

●「真実一路」や「路傍の石」などで知られる作家山本有三は、1947年から53年まで参院議員を務めた。47年に施行された第1回参院選では、山本を含め無所属議員が108人と政党所属議員を抑えて最多の当選者数を占めた▼それら無所属議員のうち保守系72人が集まり結成したのが院内会派「緑風会」である。名付け親になった山本は「はつ夏の風を思いだすだろう。…緑は七色のなかの中央の色である。右にも偏せず左にも傾いていない」と、既成政党とは一線を画して国会に新風を送り込む意気込みを語っている▼緑風会に参加したのは、文化人や学者、官僚出身者などだった。党派の利害にまきこまれずに参院独自の機能を発揮するとの方針を掲げ、党議拘束は設けずに、是々非々を貫くことを目指した。最大会派を誇った緑風会は、55年の保守合同で所属議員の多くが自民党に流れた▼戦後の一時期、衆院の独走を抑える「良識の府」を代表した緑風会が、自然消滅の形で解散したのは65年である。いま、その名は地方議会の会派名に残る。緑風会の盛衰については、「緑風会十八年史」(野島貞一郎編集)で知った▼選挙戦たけなわの参院選挙は第21回に当たる。緑風会が消滅してから42年、参院選も政党の陣取り合戦の様相が濃くなり、無所属候補は影が薄い。名が知られた文化人やタレントを政党が抱え込もうとする時代だ▼緑風会が理想とした参院は、いまや“衆院のカーボンコピー”と皮肉られる。山本が生きていたら年金などの争点とともに、参院の存在意義も問うたのではないかと思う。(S)


7月14日(土)

●穏やかな日和の休日、竿(さお)と文庫本を持って海に行く。防波堤の岩に腰を下ろし、竿をセットしてから本を開く。魚は釣れなくてもいい。むしろ釣れたら後が面倒だ。それでもまったく引きがないと面白くない。竿先にちょんちょんと当たりが来ると、おもむろに合わせる▼運悪く釣られた魚は、すぐにリリースする。先日は、針を喉の奥に飲み込んだアブラコが釣れ、針を外して逃がしてやろうと悪戦苦闘するうちに死なせてしまった。本を読みながら半日を心置きなく過ごすのが目的だから、釣られた魚には申し訳ないことをした。そんな休日を函館では楽しめる▼作家開高健はモンゴル、アラスカなど世界を釣り歩いた。巨魚や怪魚を釣った苦闘の記録は、心躍る読み物だ。アマゾンで黄金に輝くドラドを釣ったときのことを「ふいに強い手でグイと竿さきがひきこまれたかと思うと、つぎの瞬間、水が炸裂した。…右に左に跳んでは潜り、消えては走り、落下しては跳躍した」(「オーパ!」・新潮社)と記している▼作家のような豪快な釣りは望みようがないが、本持参のぐーたら釣りにも楽しさがある。穏やかな海風と陽光を受けながら初夏の空気を胸いっぱいに吸うと、心身ともにリフレッシュできる▼アイザック・ウォルトンの名著「釣魚大全」について作家立松和平が「一匹の魚から人間社会ばかりでなく森羅万象から宇宙まで考察」すると解説しているのを読んだ。そんな高尚ではなくても防波堤での“ながら釣り”も結構面白い。日が傾いてきた。そろそろ帰り支度をしよう。(S)


7月13日(金)

●「本日御来場の貴殿へ。同封の遺産金一万円を修業の糧としてお役立て下さい」とつづった和紙の手紙を添えて、表には「報謝 一人一封」と書かれた包みが18都道府県の市役所など46カ所の男子トイレに置かれていた。あなたは素直に現金を持ち去りますか▼北海道から沖縄までトイレ1カ所に10包ぐらいずつ、総額は400万円を超すという。辞典によると、報謝とは「恩に報い徳を謝すること。物を贈って報いること」とある。仏教では「順礼などに出す布施」などの意味。布施はサンスクリットの「ダーナ(旦那」からきており「施すこと」だ▼文面も筆跡もほぼ同じで同一人物とみられ、全国行脚して目に付くトイレの洗面台に置いたようだ。退職した公務員が、批判にさらされている公務員に「頑張れ」とメッセージを送ったのでは、あるいは不祥事が続く「政治と金」をめぐる政治家への皮肉な行動とみる向きも…▼札幌市の場合、現金を置いた人が現れなければ市の雑収入として一般財源に繰り入れる方針だが、大半は「手紙だけでは真意が分からない」(警察庁)と、せっかくの善意が拾得物扱いになるという。恩に報い謝する「報謝」は熱演する大道芸人に報いる「投げ銭」と変らぬと思う▼「修業の糧」「心に悪(あ)しき事を思わず。…合掌」。病気などに苦しんでいる高齢者の最後の報恩なのだろうか。15日に大門プラザで「念仏じょんがら」を乱舞する函館出身のギリヤーク尼ケ崎さんに、惜しみなく投げ銭(報謝)を投じ、腐りつつある「風潮」を浄化したい。(M)


7月12日(木)

●シルバーコロンビア計画は、旧通産省が推進しようとして、いつの間にか立ち消えになった計画だ。バブル経済と、その後にやってきた長い経済停滞で、日本は退職者にとって必ずしも住みやすい国ではなくなった▼だが、目を国外に向ければ、物価高の日本と異なり、年金収入で中流以上の生活ができる国や地域がある。さあ、退職者よ、海外に移り住もう―。そう呼びかけたのがシルバーコロンビア計画だった▼国がお墨付きを与えたとあって、引退者向けコミュニティーの海外展開を目指すデベロッパーもあった。移住の候補とされた国の中には歓迎の動きもあった。日本人引退者がもたらす外貨収入に期待したのだ▼しかし、米豪などから「日本は工業製品だけでなく、いらなくなった年寄りまで輸出するのか」と批判されると、計画は一気にしぼんだ。いまシルバーコロンビアは、ロングステイと名を変え、経済産業省の関連団体が旗振り役になっている▼ロングステイは台湾、フィリピンなど気候温暖な近隣国やマレーシア、ハワイなどが人気だ。完全に移住するのではなく、数カ月ごとに日本との間を行き来する人もいる▼道内では伊達市が団塊世代の受け入れに熱心だ。函館市も2005年2月に「定住化サポートセンター」を開設。インターネットに専用サイトを立ち上げ、不動産情報や移住者の体験談を掲載している。同様の取り組みを実施している自治体は数知れない。魅了をアピールすることは大事だが、より魅力あるまちづくりを進める努力も欠かせない。(S)


7月11日(水)

●参院の仕事って何だろう。広辞苑には「参議院議員をもって組織され、その権限は衆議院に劣るが、解散制度はない」とあり、どうも存在感が薄い。参院の本来のあり方は「衆議院の誤りを正し、行き過ぎをたしなめ、足らざるを補う」と教科書で教わったが…▼別名「良識(社会人としての健全な判断力)の府」ともいわれ、確かに専門知識に長けた議員も多いが、最近の活動を見ると、参院の“腐敗”が目立ち、国会の“死に体”を誘発しているように思われる。どうして…▼重要法案が山積の先の通常国会では、国家公務員法改正案を審議する参院内閣委で、与党側が「中間報告」という秘策を駆使。野党が委員長ポストを握っているため、委員会採決を飛ばし本会議で一気に成立を図るという荒っぽい手法がまかり通った。とても良識の府とは思えない▼これでは衆院の“カーボンコピー”との批判は免れない。たまりかねた扇千景議長は「いつも最後のしわ寄せが参院に来て、落ち着いた審議ができない。不本意だ」と不満を漏らした。「しょうがない」失言などに続き、今度は赤城徳彦農相の1億円超の経常経費疑惑が政治不信に拍車をかける▼先日、留萌管内幌延町の牧場で見てきた「幻の青いケシ」は天上の妖精とも言われ、透き通るよな薄い花が清楚(せいそ)感を漂よわせていた。このケシのように、実効性の高い政治資金の透明化策を図って、参院を「良識の府」に戻してほしい。参院選は12日に公示、新議員の“資格試験”は29日。試験官は有権者だ。(M)


7月10日(火)

●函館市内で入ったウナギ屋のおやじさんが「値が上がるかもしれない」と浮かぬ顔で話していた。だからいまのうちに食べておいたほうがいいと、勧めているわけでもなさそうだが、仕入れ先から近々値上がりそうだと聞かされたらしい▼生きたままのウナギを必要な分だけ買い、自らさばいて客に提供している店だから値上がり前にまとめ買いすることもできない。仕入れ値が上がったら値札を書き換えなければならないか、と思案顔なのだ▼ウナギは、その生態が謎に包まれていた。どこで生まれどのようにして育つのか、近年まで知られていなかった。だが、ウナギを食することは万葉の昔から行われていたらしい。滋養に富み夏やせに効くとして大伴家持の歌にも詠まれている▼私たちの食卓に上るウナギは、ヨーロッパ産のシラスが中国に輸出され、養殖されて日本にやってくる。そのヨーロッパで資源の枯渇が問題になり、シラスの輸出規制が決まった。シラスの規制は、回りまわって日本に輸入するウナギの量と値段に跳ね返る。ウナギ屋のおやじさんの心配の種はヨーロッパの動きに発端があったのだ▼今村昌平監督の映画「うなぎ」では、役所広司演じる主人公が、水槽で飼うウナギに語りかける場面があった。ウナギの顔は、どこやら哲学者めいていた。あのウナギは国産だったのか、ヨーロッパ産だったのか▼まあ余計なことを思い出したりしないで、まずはウナギを食べて力をつけよう。今年の函館は夏の到来が早い。土用の丑の日の前にもう一度ぐらいはおやじさんの店に行きたい。(S)


7月9日(月)

●北海道の財政事情は、そこまで厳しいのか、と思わずため息をつきたくなる事態だ。道は来年度開発予算の補助事業の概算要求で金額を「空白」にした予算要求をする。地元負担分をまかない切れないとの恐れからだ▼道は先月、財政の中長期的収支試算を見直した。その結果、来年度の歳入が470億円不足するとの深刻な見通しが明らかになった。職員給与をカットし、不要不急の事業を棚上げしても追いつかないほどの大きな額だ▼補助事業は国が55%、道と地元市町村が45%ずつ負担して行う。公共事業関連業者に落ちるお金や雇用の確保を考えると、できれば事業を実施したいところだ。とはいえ、財政事情がひっ迫している道や市町村にすれば、ない袖は振れない▼開発予算は道路、港湾、橋などインフラ整備を担ってきた。公共事業が大盤振る舞いされた2000年初めごろまでは、全国の公共事業費の約10%超が開発予算に充てられた。公共事業王国・北海道が、開発予算の恩恵を受けてきたことは、疑いのない事実だ▼だが、国も地方も財政がきわめて窮屈になってからは、公共事業に大なたが振るわれてきた。もはや昔の夢を追うことはできない。従来の方針を大きく転換しなければ、財政は立ちゆかなくなる。それが「空白」の予算要求につながった▼それにしても前代未聞の異常事態といえる。「金がない」はすっかり恒常化してしまった。未来へ希望をつなぐ光明は何とか見いだせないだろうか。カラ元気を奮い立たせながら、そう願う。(S)


7月8日(日)

●「息子が、七夕の短冊に、(ほかの子は)みんな自分のことを書いているのに、僕の足が治りますようにってね」と言って言葉を詰まらせた。いかめしい男の目が潤んでいた。「もう一回、グラウンドに立って、ホームランを打つところを見せてあげたい」▼プロ野球・オリックスの清原和博選手の記者会見を見て鼻の奥がつーんとなった。ことし2月に手術した左ひざの回復具合が思わしくない。日常生活にも支障をきたすようになり、再手術を決意した▼球団によると、6日に行われた手術は無事、成功。運動を再開するまでに半年は要するという。野球選手としてプレーできるかは、リハビリ次第だ。まさに選手生命をかける決断だった。七夕の短冊につづられた、けなげな長男(4)の願いが、がけっぷちに立つ父親の背中を押した▼決断を促したもう一つの理由は桑田真澄投手(米大リーグ・パイレーツ)のメジャー昇格。事実上、巨人を解雇され、単身渡米。マイナー契約でスタートし、オープン戦での右足首ねんざを乗り越え、ついにメジャーのマウンドへ。会見で清原選手は「桑田の姿は衝撃的だった」と語った。「衝撃的」という言葉に、受けた影響の大きさが表れている▼通算本塁打歴代5位(525本)のスラッガー。「次に打つホームランが一番心に残るホームランだと思います」。頑張って愛息に526本目を見せてほしい。8月に不惑を迎える清原選手の、野球選手として最後の戦いが始まった。息子さんの願いが、無事かなえられますように―。(K)


7月7日(土)

●開拓古きわが七重 進歩のあともいちじるく 輝きはゆる〜(七重小学校の校歌)。平安時代に「もっぱら」「いちずに」「一筋に」などの意を表す「ひとへに(現在の“偏に”)」が基になって、より強調するため「七重」になったと聞く▼七福神、虹の七色など、「七」は縁起の良い数字。特にラッキーの「七」は人生をバラ色に染めるといっても過言ではない。ことしその「七」が重なるのは「2007・7・7」で、10年に1度、巡ってくるめでたい日。ラッキーセブンの由来は米メジャーリーグからきている▼1885年、シカゴ・ホワイトソックスの打者が7回に打ち上げたフライ。普通ならアウトになるところだが、強風に運ばれてホームランに。選手たちは「ラッキーセブンズ」とはやらせた。このためか、ラッキーセブンの日に結婚式を挙げるブームは米国から▼「挙式は縁起が良く、覚えやすい記念日にしよう」というもので、ことしは米国の110万人が登録しているウエディングサイトで、3万1000組が「7・7・7」を挙式日に選んでいる。予約を受け付けたビーチホテルに昨秋から徹夜して列の先頭を確保したカップルもいるという▼もちろん、日本でも結婚式場に挙式の申し込みが殺到。2007年のラッキーカラーのオレンジとグリーンの結婚衣裳が輝きそう。東北地方で発見された装飾横穴墓の「七重の渦巻き模様」は「太陽」を表しているといわれ、7・7・7で挙式したら、陽の当る温かい家庭を築いてね。(M)


7月6日(金)

●函館と青森の距離が一層、近くなる。東日本フェリーが9月、最高時速67キロの高速船を導入する。速度は現フェリーの2倍以上で、現在3時間50分を要する青函航路を1時間45分で結ぶ▼長く青函航路を支えた旧国鉄の連絡船は、就航当時の1908年、青森と函館を4時間で結んだ。東日本フェリーは過去にも、青函を2時間で結ぶ高速船を導入したことがあるが、船のスピードは100年前も今もあまり変わらない▼津軽海峡の往来風景は大きく変わった。戦時中は石炭や食糧などの物資輸送を担う大動脈。戦後は青森から「担ぎやさん」と呼ばれる女性たちが米や野菜を運んだ。現在は、太平洋と日本海を結ぶ国際海峡として、軍事面でも要衝とされ、その下を海峡線が走り、旅客は身軽だ▼現在のフェリーか、料金が割高でも大幅に時間短縮される最新の高速船を選ぶかは、利用者の自由。8年後には新幹線という“弾丸”がやってくる。輸送機関の選択肢が広がることは、利用者にとってありがたい▼新高速フェリーの名前は「ナッチャンRera」(レラ)。ナッチャンは、船体表面をデザインした京都市伏見区の小学2年生川嶋なつみさんの愛称。レラは「風」を意味するアイヌ語▼元来、日本の船の名は「○○丸」が多く男性的なイメージだった。しかし、英語圏では船を「彼女」と呼ぶ。今回の「ナッチャン」のネーミングも、すっきりして親しみやすく、風を切ってさわやかに走る船体が、新しい青函時代の到来を感じさせる。(P)


7月5日(木)

●「私たち、6人姉妹が銀河で入浴していたら、あなたは私の衣を掴み取って逃げましたね。5人の天女はベガに帰ったのに、私、織姫だけが取り残されました」「あなたが自分の嫁になるなら衣を返す、と言ったので、しょうがなく嫁ぎ、1男1女を授かりました」▼「これに激怒した天帝が私を天界に引っ張って連れ戻しました。あなたは私を追いかけて来ましたが、水を高く巻き上げた銀河に阻まれ悪戦苦闘。私と息子と娘が懸命に水をくみ出す姿に天帝も感動して、年に1度、銀河(天の川)での再会が許されたのです」―中国伝来の天の川伝説▼特別史跡キトラ古墳の壁画の天文図には68の星図が描かれ、彦星の図も確認されている。先日、天文図の一部がはがれ落ちたと報じられたが、彦星が心配だ。「彦星と織姫と今夜逢ふ天つ河門に波立つなゆめ」―万葉集でも「波がたって2人の逢瀬を邪魔しなければよいのに‥」と詠んでいる▼天の川に隔てられた織姫星(ベガ)と彦星(アルタイル)は16光年も離れているという。光速の携帯電話で冒頭のように愛を交信をしたら、往復でなんと32年の月日を費やしてしまう計算になる。火星への飛行が1年半はかかるというのに、二つの星は超遠距離デートだ▼短冊には決して「女性は産む機械」「ナントカ還元水」「原爆投下しょうがない」と書いてはいけない。願いのキーワードは「参院選でまともな政治家を選ぼう」だ。「臥看牽牛織人星‥」―7日の七夕には、晩唐の詩人杜牧のように、横になって年に1度の逢瀬に感無量の星たちを眺めたい。(M)


7月4日(水)

●中学野球部の同期に会ったのは、アマゾン川河口に開けたベレンの国際空港だった。30年近い年月が過ぎていたが、日に焼けた彼の顔は、外野で一緒にボールを追ったころとすぐに重なった。彼は大学浪人をしていたとき、移住を勧める海外協会のPR映画を見て、ブラジルに渡ったと語った▼道内出身の農家で数年働いた後、独立してコショウの栽培を始めた。その後、日系人の知人と共同で養鶏業に乗り出し成功を収めた。彼は移民としては最後に近い年代に属する。ブラジルに渡るときも飛行機を使ったと言った▼サンバとカーニバルの国ブラジルは、いまサトウキビからできるバイオ燃料の世界的な生産国になった。1980年台から90年代にかけて国民を悩ませたインフレと経済停滞を脱し、中国、インドなどと並ぶ新興工業国の仲間入りを果たした▼ブラジルへの移民が始まって99年になる。最初の移民は1908年、神戸港を出港した笠戸丸で1カ月余をかけて海を渡った。戦前の貧しい移民の労苦については、作家石川達三が「蒼氓」に描いている▼道内からも多くの農民が移住した。冷害に痛めつけられ、貧しさから脱することができない農民が、南米の肥沃(ひよく)な大地に夢をかけて海を渡った。そういえば橋田壽賀子さんが脚本を書いたNHKドラマ「ハルとナツ」も移住した道内農家の物語だった▼ブラジルには百数十万人の日系人が暮らす。それぞれが家族の物語を織りなしながらブラジルに根付いた。汗にまみれてボール拾いをした彼もブラジルでの生活が日本のほぼ2倍の長さになった。(S)


7月3日(火)

●世界三大料理を問われてフランス料理、中華料理はすぐに思い浮かぶ。だがもうひとつはどこだろうか、戸惑う方も多いだろう。正解はトルコ料理なのだそうだ。知人のトルコ人が自信をもって断言した▼日本人なら、そりゃ和食だよ、と憤然と抗議するかもしれない。イタリア人ならイタリア料理こそ三大料理のひとつと譲らないだろう。料理については誰しも自国賞賛派になりがちだ。子どものころから慣れ親しんだ料理が一番との信念は消しがたい▼イタリア料理は、フランス料理の源流と考えられているから同列に置くことができるとしても、和食は世界的な広がりの点で及ばない。ではトルコ料理はとなると、これが侮れない実力派だ。ヨーロッパからアジアにまたがる広大な地域を支配したオスマン帝国の時代、トルコ料理は各地域の伝統料理を取り入れ、多様性と洗練を加えた▼トルコの食事はメゼと呼ぶ多種類の前菜で始まる。これをワインやビール、水で割ると白濁するラクという蒸留酒などを飲みながら食べる。そして肉料理、魚料理などのメーンに進み、デザートまで2時間以上かけて食事をする。トルコを訪れたとき、食材とメニューの豊かさに驚いた▼そしていま、函館で夏イカのおいしさに感動している。新鮮そのもののイカを細作りにし、イカゴロを一切れ入れ、しょうゆをかけてかき回してから食する。イカの甘みにゴロの濃厚な味わいがからみついて毎日でも食べたい味だ▼和食の三大料理を選定することがあれば、ぜひ函館の夏イカを推奨したい。7月、イカ漁は佳境に入る。 (S)


7月2日(月)

●親鸞を師と仰ぎ浄土真宗の布教に務めた蓮如は、生涯5人の妻との間に27人の子供をもうけた。最後の子は死の前年の84歳のときに生まれているからいまなら艶(えん)福家といえようか▼蓮如が現代に生きていたら、大家族ばんざいといったテレビ番組に取り上げられたかもしれない。人口増に寄与したとして政府や自治体から表彰されても不思議ではない。蓮如の生涯については、五木寛之著「蓮如」(岩波新書)で知った▼蓮如ほどではなくても、戦前の日本では5、6人の子を持つ家庭はざらにあった。乳幼児死亡率が高かったから生存率を見込んで多く生んだのだろう。政府が兵を補充するため「生めよ増やせよ」と奨励したことや、農家が働き手を確保しようとしたことも多産の背景にあった▼戦後のベビーブームのころ日本の出生率は4・5を越えていた。それが徐々に低下し始め1975年には2を割り込んで、将来の人口減が心配されるようになった。出生率の低下は止まらず、05年には1・26に落ち込んだ▼ところが最新の06年は1・32に持ち直したという。人口減に歯止めがかかったとしたら喜ばしいが、そう単純でもないらしい。出生率に影響する未婚率は年々上昇しているうえ、今年に入ってからの出産は昨年を下回っている▼函館市の06年出生率は全国平均より低い1・10だが、過去最低の05年を0・03ポイント上回った。しかし「少子化に歯止めがかかったとはいえない」というのが保健所の見解だ。出生率回復の決め手は、多くの子を持った蓮如でも示しえない難題だろう。(S)


7月1日(日)

●いつからか、世界三大夜景といえば函館と香港とナポリ。中国の内戦で香港に逃れてきた英中混血の女医と朝鮮戦争に従軍した米国の新聞記者との切なくも甘い恋…。52年前の映画「慕情」のロケ地が、美しい夜景の「ビィクトリア・ピーク」だった▼3都市ともキーワードは「観光」。香港島は北半分が摩天楼などの超高層ビル群、それにつながる南半分には亜熱帯林が広がり、このアンバランスが香港観光の醍醐味(だいごみ)。英国から中国に返還された後に訪れ、映画で2人がデートした「病院の裏手の美しい丘」を探したが、見つからなかった▼なんと言っても、函館山からの夜景が一番。良港と海峡に挟まれた扇のような地形が宝石を散りばめた夜景をかもし出す。まさに「100万ドル」いや「1000万ドルの夜景」。「光の粒となって浮き上がる夜景に感動した」と多くの観光客をうならせている▼ローマ時代から「ナポリを見て死ね」とまで言われているのが「ボジリポの丘」だ。湾曲した海岸線、淡く光るヨットハーバー…。オレンジ色の輝き、温かみのある夜景が人気。函館も数々の名作のロケ地になっているが、観光客を呼ぶには天然の観光資源にプラス・アルファが必要▼香港が返還されてきょう1日で10年。2年前に香港ディズニーランドをオープンさせたためか、昨年の観光客は8%増の2500万人を超えた。なんと函館の5倍。“光るイカ”の大水族館とまでいかなくても、裏夜景やいさり火をグレードアップさせ、夜景を盛り上げていかなければ。(M)


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