平成20年12月


12月31日(水)

●年越しの日、あすは正月だから大掃除をしようと押入れを開けたら汚い爺(じい)さまが鼻をすすりながら座っていた。貧しい農民の平作がびっくりして問うと、「おれは貧乏神」と平然と答える▼貧乏神が居座っていては、いくら働いても貧しさから逃れられない。おかみさんと相談した平作は、家を逃げ出そうと決心する。それを知った貧乏神は「あすはお正月だから、今夜はお前にいいことを教えてやる」と切り出す▼貧乏神が教えたのは、金(きん)の神様を捕まえる方法だった。だが、2人はへまをして金の神様を捕まえそこなう…。東京都八王子市に伝わる「大みそかの金馬」という昔話だ(「日本の昔話」ちくま学芸文庫)▼その後夫婦は、骨身を惜しまずに働き、豊かな生活を送れるようなって、めでたしめでたしで物語は終わる。幸福は当人の心構えがもたらすという教訓話は、古めかしいけれど、どこかほのぼのしている▼「100年に一度の金融危機」に見舞われ、景気の急激な悪化と雇用不安に覆われた今年もきょう1日で暮れる。昔話の夫婦のように新年を迎える大掃除に忙しい家庭もあることだろう。年越しの準備を整えて除夜の鐘が鳴るのを待つ▼今年1年がどんな年だったか、思いを巡らし、来る年に期待をつなぐ。金の神様にはご縁がなくても、せめて将来に不安がない生活を実現したいと願う。皆様どうか良い年をお迎えください。(S) 


12月30日(火)

●1年で1日増えた「うるう年」の年の瀬は、米国の株下落による100年に1度の不況風が吹き荒れているうちに、新年への秒読みに入った。来年の元旦の午前9時には「うるう秒」の1秒が挿入される。1秒で何が、どう変化するのか▼あっという間の1秒。「心臓が1回脈を打ち60_gの血液を体内に送り出し…」「テニスコート20面分の天然林が消失し…」「0・3人、4秒に1人が飢えで命を落とし…」「710dの酸素が減少し…」(山本良一東大教授責任編集「1秒の世界」)▼続編では「おにぎり8600個が日本で食べ残こり…」「音速を超える465bの速さで地球が自転し…」と続く。うるう秒の1秒は、この地球の自転速度が微妙に不規則なのが原因といわれ、3年ぶりに「8時59分60秒」(日本時間)となる▼また、1秒間に「日本の借金が47万円ずつ増えています…」と嘆く。国債発行などで国の借金は07年度末で約849兆円。来年度の国家予算案でも新規の国債発行は、今年度の31・3%増の33兆円を超えた。子どもや孫につけを回す「うるう秒」は歓迎できない▼原子時計とのずれを調整する「うるう秒」。実際にはない「60秒」を数えるわけ。でも、心臓が1秒間停止して血液を送らなかったら…。来年は「世界の軍事費に1秒に425万円」も使わずに、新年の平和を願う除夜の鐘を1秒でも長く響かせ、「1秒の価値」を実感したい。(M) 


12月29日(月)

●道内の交通事故の死者数が大幅に減っている。今年は25日現在で222人、道警函本管内も18人で、前年同期より11人も少ない。交通警察の徹底した取り組みと、関係団体などの地道な啓発活動のたまものだ▼道内の死者数の減少傾向が顕著になったのはここ数年のこと。毎年、都道府県別の死者数で全国ワーストワンの汚名返上に躍起になっていたが、なかなか果たせなかった。05年にワーストワンを回避して以来、その状況は続いている。今年も愛知、埼玉を下回っている▼95年には年間632人を数え、その前後も600人近くで推移していた時期からみれば、その減少ぶりは大変なものだ。とはいえ、これは減ったからといって、手放しで喜べる数字ではない。犠牲になった一人一人の命は重く、遺族の悲しみは深いのだから▼道警は05年から高齢者対策、飲酒運転根絶、シートベルト着用の徹底、スピードダウンなどのキャンペーンを展開している。特に飲酒運転では飲料店などの業界とも連携、取り締まりも強化してきた▼それでも飲酒運転で摘発されるケースが後を絶たない。函館市内でも連日のように逮捕者が出ている。泥酔状態で立っているのも困難な運転者もいたという▼飲酒運転は重大事故を引き起こす恐れが強い。こうした運転者がいては、死者数減もおぼつかない。正月、新年会で飲む機会は増える。ハンドルは握らないと誓おう。(H)


12月28日(日)

●〈どこまでつづくぬかるみぞ〉という歌詞が思わず口をついて出る。調べてみると、日本で最高のオペラ歌手と言われた藤原義江が作曲し、自ら歌った「討匪(とうひ)行」1番の歌い出しだった▼この部分の後に〈三日二夜を 食もなく 雨ふりしぶく 鉄かぶと〉と続く。1931年の満州事変から日中全面戦争へと暗転する時代、鉄砲を担いで満州(現中国東北部)の荒野を進軍する歩兵の苦労を歌った軍歌だ▼この歌詞の〈食もなく〉が、〈職もなく〉に重なる。来春までに失職する非正規社員が先月の集計から一気に2・8倍に増え、8万5000人に上ると厚生労働省が発表したからだ。大学生・高校生の内定取り消しも増大している▼景気の悪化と雇用不安を示すデータが、歳末風景を暗くする。せめて一筋でも光明を見たい。そう願って麻生内閣のメルマガを開くと来年度予算と今年度の2次補正予算について「生活防衛のための、大胆な実行予算」と自賛している▼首相は〈世界で最初に、この不況から脱出することを目指します〉と宣言している。その意気込みはいいが、足元に広がる〈職(食)もなく〉歳末を迎える人たちの不安にどう応えられるのだろうか▼函館・道南からも期間従業員や契約社員などの身分で、本州や札幌などに働きに出る人たちがいる。そうした人たちが、ぬかるみに足を取られて寒風にさらされていないか、気になる歳末だ。(S)


12月27日(土)

●「ヨーロッパでは、小さな国の住民ほど英語がうまいのよ」と初老のオランダ婦人に聞いたことがある。婦人が言うにはオランダはもちろん、デンマーク、ベルギーなどはフランスやドイツといった大国よりも英語達者が多い▼小さな国は、大国との通商や人的交流を図らなければ、豊かな国を築けない。そうした考えが後押しして、国際語の英語を自在に操る能力を身につけるというのだ。婦人自身も4カ国語を話すと言っていた▼ヨーロッパでは2カ国語どころか、数カ国語を自由に話す人たちが珍しくない。猛勉強をして習得するよりも、子どものころから耳になじみ自然に覚える。さらに学校教育でコミュニケーション能力を高める▼ヨーロッパの言語は、単語や構文が互いに近い関係にあって親しみやすいことや、さまざまな母国語の人たちが身近にいて往来していることも好条件だ。そうした環境は日本から見るとうらやましさを覚える▼文部科学省が高校の新学習指導要領で、英語の授業を英語で行う基本方針を打ち出したのは、文法や訳読中心の指導からの大きな転換だ。会話能力の向上を目指す新指導要領は、2013年度の入学生から適用されるという▼英語を何年学んでも会話力や聞く力が乏しいという指摘は、受験中心の英語教育の欠点とされてきた。それが改善されるのか、カギは英語教諭にありそうだ。教諭が話せないのでは、話にならない。(S)


12月26日(金)

●10年ほど前まで公共事業の北海道シェアが、予算編成の大きな関心事になっていた。北海道の面積8万3456平方`は全国の22%を占める。だから国の公共事業費の2割程度は充てられていいとの論が聞こえていた▼もっとも人口でみると563万人は全国の約4%に過ぎない。公共事業は、国民に等しく便益をもたらすのを本旨だと考えれば、人口比率に見合った事業費の配分にすべきだとの意見も出てこよう▼面積で見るか、人口で比較するかによって、公共事業費の適正なシェア論議は異なる。これまでに投じられた事業費を都道府県別に積み上げた比較も考慮に加えるならば、論議の落としどころは一層難しくなる▼実は、北海道に配分される公共事業費は全国の10%が死守のラインとされてきた。そのシェアが初めて10%を割ったのは2004年度予算だった。それ以来10%割れは続き、09年度予算で6年目になる▼予算政府案がまとまり、公共事業費にあたる北海道開発事業費は31年ぶりに6000億円を割り込んだ。前年度に比べての減少は9年連続だ。国策に位置づけられた開発事業のかつての勢いは、予算上からはうかがえなくなった▼開発事業を牽引してきた道開発局は、官製談合事件の相次ぐ発覚で大揺れに揺れた。シェア論議はもはや力を失い、代わって組織と開発行政の在り方が問われる。公共事業王国・北海道に冬の風が吹き付けている。(S)

12月25日(木)

●宗教改革で知られているドイツのマルティン・ルターが大学時代のある日、激しい雷雨にあった。落雷の恐怖に死をも予感したルターは「聖アンナ、助けて下さい。修道士になりますから」と叫んで、修道院に入って、祈りと研究の日々▼イブ礼拝からの帰りの夜、森の中で常緑樹の枝の合い間に輝く無数の星を見た。その美しさに心打たれ、ぜひ家族にも見せようとモミの木を持ち込み、火を灯したロウソクを枝に飾りつけたのが、イルミネーションで飾ったクリスマス・ツリーの起源といわれている▼8世紀のドイツでは崇拝するカシの木に、幼児犠牲を捧げる習慣があった。それを止めようとしてカシを切り倒した時に、それが1本のモミの若木に変わる奇跡が起ってから、クリスマスにモミの木を使うようになった。モミは強い生命力を宿している▼もちろん、イエスが与える「永遠の愛と命」も。函館の赤れんが倉庫群のベイエリアにはカナダから贈られた高さ20bの巨大ツリー「幸せを呼ぶモミの木」が5万個以上のイルミネーションを付けて輝く。ルターが森で見た輝く星のように▼25日にはトラピスチヌ修道院で「クリスマス・ご降誕のミサ」も行われる。花火をバックに点灯する海上の巨大ツリーに「解雇された人みんなが仕事について、暖かい正月が迎えられるように」と祈るばかり。国は不況を乗り切る経済対策を早く実行してほしいものだ。(M)


12月24日(水)

●巨大ツリーの輝きが幻想的な空間を作り出す函館の光のイベント「クリスマスファンタジー」は、あと2日で閉幕する。電飾の彩りの中に、大切な思い出を刻み込んだ市民も多いだろう▼クリスマスの定番ソングは数多い。中でも山下達郎作詞・作曲の「クリスマス・イブ」は男女問わず人気が高いという。この時期にはさまざまな場面で、さりげなく流れ、誰もが耳にしている。そして口ずさむ▼〈雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう…〉サンタのプレゼントを心待ちにする子供たちと同じように、心を躍らせる恋人たちの姿がイブの華やかさに拍車を掛ける。雪はほど良い演出になる。ケーキを前に大喜びするわが子の笑顔に癒やされる夫婦もいる▼〈きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ…〉そう、一人で静かに時を過ごす人も多い。大切な人と別れて、くじけそうな気持ちに耐えていたり、片思いの切なさにひざを抱え込んでいたり、電話で家族と話すしかない単身赴任者もいる▼派遣切りに代表される雇用情勢の悪化の中、仕事を探す離職者にとってはクリスマスどころじゃない。受験生も浮かれてはいられない。みな誰もがそれぞれのイブを過ごす。そこにはその人だけの物語がある▼〈街角にはクリスマス・ツリー 銀色のきらめき…〉巨大ツリーの瞬きに魅了されるのは、その光が誰にも等しく輝くからなのかもしれない。(H)


12月23日(火)

●虚礼廃止が声高に叫ばれたのは一昔前だ。その考えの根っこには、無用な出費と手間ひまの浪費は止めようという社会的合意の形成を求める動きがあったように思う▼年賀状もお歳暮と並び虚礼に挙げられた。毎日顔を合わせる社員同士が印刷された年賀状をやり取りするのは、無駄ではないか。そんな声が勢いを増し、年末近くになると虚礼廃止を張り紙などで示す会社がいまもある▼だが、友人・知人や普段疎遠な遠方の親類などに送る年賀状は、時候のあいさつも兼ねて連綿として続いている。景気後退が押し寄せている今年は、印刷会社に発注する年賀状のカラー印刷が減り、単価が安い単色が増えているらしい▼パソコン、プリンターの普及は、工夫を凝らした年賀状を家庭で手作りすることを可能にした。絵手紙が得意な人は自作の絵を描いた年賀状を作成する。それに自筆の一言が添えられた年賀状を受け取ると嬉しさも倍加する▼郵便局では年賀状の受け付けが最盛期に入っている。25日までに持ち込めば、元日に配達してくれるという。きょうの休日、送る相手を思い浮かべながら添える一言に頭をひねったり、宛名書きに勤しんでいる方もおられよう▼景気の落ち込みが雇用不安を広げ、話題はつい暗くなりがちだ。それに物騒な事件が続く年末だ。だが、湿っぽい気持ちはしばし忘れ、年賀状には雄牛の勢いをこめた新年への期待を添えたい。(S)


12月22日(月)

●「暗増景気」と書いてクラサマスケーキと読む。もちろんクリスマスケーキのもじりだ。豪華でおいしいケーキにけちをつけるようで気が引けるが、景気や雇用の不安が広がる現状を見事に表現していて感心する▼住友生命が毎年募集している「創作四字熟語」の最優秀作品10編のひとつに選ばれた。世相を敏感に映し出す創作熟語は、19回目の今回9041作品が寄せられた。そのうち経済関係が例年にないシェアを占めたという▼世界を覆う景気後退の発端は、米の高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題だ。住宅価格の値上がりを見越し、借金をしてモノを買う。その「脆宅惨米(ぜいたくざんまい)」の消費は、住宅の暴落で綻びを広げた▼サブプライムローンが組み込まれた証券化商品が巨額損失を生み、9月には大手証券リーマン・ブラザーズが破たんした。そこから発生した金融不安が「株式逃資」を引き起こし、日米欧の市場で株価急落を招いた▼政治も不安定感を増した。9月に就任した漫画好きの麻生太郎「漫親総理」は、解散・総選挙を先延ばししている間に支持率が急下降。与党内からも麻生氏では選挙を戦えないとの声が出る始末だ▼高齢者には「苦労長寿」の後期高齢者医療制度が始まり、名ばかり管理職の「酷使無償」が問題化した。なんだか暗い話題が多い。しかし、締めは上野投手の金メダルにあやかり「好投夢繋」といきたい。(S)


12月21日(日)

●米政治史上でもっとも知られた匿名は「ディープスロート」だろう。ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者にウォーターゲート事件の秘密情報を提供し、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ謎の人物だ▼その謎が明らかになったのは3年前だ。「私がディープスロートと呼ばれた男」と米誌のインタビューに告白したのは、元連邦捜査局(FBI)副長官のマーク・フェルト氏だった。事件から30年余を経て明かされた真相だ▼ウォーターゲート事件は、70年代の米国を揺るがせた最大の政治スキャンダルだ。共和党のニクソン政権時代、民主党本部があるワシントンのウォーターゲート・ビルに盗聴器を仕掛けるために侵入した5人の男が逮捕された▼72年に起きたこの事件には、ニクソン大統領の側近の関与が明らかになり、大統領自身もその後の隠蔽工作にかかわっていた疑いが強くなった。政権の陰謀を次々とスクープしたのが、ワシントン・ポスト紙だった▼ポスト紙の報道は、新聞の調査報道の優れた手本とされる。事件の経緯は、ウッドワード記者とカール・バーンスタイン記者が著した「大統領の陰謀」に詳しい。本は日本でも翻訳出版された。映画でご記憶の方も多かろう▼秘密の衣を自ら脱いだフェルト氏が心不全のため95歳で亡くなった。日本の新聞は地味な扱いだが、さすがにポスト紙(電子版)はフロント面で大きく掲載している。(S)



12月20日(土)

●福島県双葉町は太平洋に面した浜通り地方の中部に位置する。人口は約7200人。東京電力の原子力発電所2基が立地している以外は、特筆するような産業は乏しい▼その町の井戸川克隆町長が、町長給料の手取り額を来年1月から3月まで「ゼロ円」とする条例案を議会に提案した。18日に開かれた町議会(定数12)は条例案を賛成6、反対5の1票差で可決した▼町長給料は38万3000円。それが1月から5万6000円に引き下げられる。総務省に問い合わせると、全国自治体で最低の支給額だという。支給額から健康保険料などを差し引くと手取りはほぼゼロ。他に収入のない町長は蓄えでやりくりするそうだ▼なぜ、こんな思い切った提案をしたのか、町役場に聞いた。武内裕美総務課長の説明では、収入に対する借金返済額を示す実質公債費比率が25%を超え、早期健全化団体への転落が確実になったことが背景にある▼財政難の現状を自ら身を削ることで町民にも理解してもらいたい。町長の気持ちを武内さんはそう代弁してくれた。まず「隗(かい)より始めよ」を実践したというのだが、僅差の票決が示すように議会には反対論も根強かった▼町に入る地方交付税は小泉政権の三位一体改革の結果、最大だった2000年に比べ40%以上削減された。自治体の財政基盤は地方に行くほどぜい弱だ。給料ゼロの決断の陰に地方財政の問題が浮き出る。(S)


12月19日(金)

●愛し合いながら、妖精の住む森にやってきた若い2組のカップル。森の中をさまよい、やがて眠ってしまう。妖精が夢から覚めて最初に見たものに恋をしてしまう媚薬を男の目に注ぐ。でも、相手を間違えてしまった…(シェイクスピア「真夏の夜の夢」)▼子どもの頃、しょっちゅう、恐ろしい何かに追われて両手を平泳ぎしながら空を飛び回っている夢を見たが、目が覚めると何かが思い出せない。我慢しきれずに海水浴場に散水したところ、床の中のおねしょだった。でも夢再現はできなかった▼先ほど「脳の活動パターンを読み取り、夢の『再現』夢じゃない」の記事を読んで驚いた。京都の国際電気通信基礎技術研が脳の血流パターンをコンピューターで読み解いて、夢で見ているものを推定する仕組みを開発したというのだ。主役は大脳の「視覚野」▼「身体障害などで家族とのコミュニケーションが限られている人に意思表示の手段が提供できる」という。ということは技術が進めば、実際見ていない夢や想像の世界も、のぞき見できるということか。「真夏の夜の夢」の恋人たちの心の中も…▼昨夜の夢再現はロマンチックのようだが、何かに追われて逃げ回った「何か」が目の前に現れたら、夢より怖い気がする。繁殖の夢を託して佐渡の自然に放鳥されたメスのトキが、タヌキなどに襲われて“帰らぬ鳥”となった“無残な夢”は再現したくない。(M)


12月18日(木)

●師走も押し詰まったこの時期、東京永田町や霞が関界隈は、地方自治体首長や議会議員らが行き交う。地元関係の事業予算獲得を目指して上京した陳情団だ。ネクタイ、スーツに身を包み、数人から10人程度のグループで動きまわる▼地元選出議員に要望内容を説明し、力添えを求める。省庁の部局を訪れ、予算に盛り込まれるようにと頭を下げる。毎年繰り返される風景だ。陳情団の規模は縮小気味とはいえ、習慣は続く▼2009年度当初予算は、過去最大の88兆円台後半になる見通しとあって、景気対策の公共事業が増えるとの期待が膨らむ。麻生首相が掲げる「生活防衛のための緊急対策」にもさまざまな理由をつけたメニューが登場しそうだ▼北海道の重点要望では、新幹線の札幌延伸が来年度着工する。道内新幹線は新函館―札幌間の早期着工が懸案だった。その札幌延伸が予算に盛り込まれ、ほぼ10年後に完成する▼北海道は公共事業縮減の影響を受けて、景気の低迷が深刻だ。新幹線の札幌延伸は1兆円以上の事業費が見込まれるだけに、地元の建設関連にとって久し振りの明るい話題だ。要望活動の先頭に立っていた高橋はるみ知事もほっとしているにちがいない▼予算案は財務省で最終盤の調整作業が続く。担当の主計部門は連日の徹夜勤務で細かな数字を詰める。財務省原案の内示は20日だ。その後の復活折衝を経て、政府案は24日に決定する運びだ。(S) 


12月17日(水)

●花束ではなく靴が飛んでくるとは、ブッシュ大統領の嫌われぶりが知れる。身ごなしの軽さでうまくかわしたが、ことの異常さはテレビ画面からも分かる▼来月の退任を控え、予告なしに訪れたイラクの首都バグダットで記者会見中に起きたハプニングだ。イラク人記者が突然立ち上がり、「別れのキスだ。犬め」などと叫びながら履いていた靴をブッシュ氏目がけて投げつけた▼記者は拘束されたが、イラクやエジプトでは、記者を称えるデモが起きている。国賓への野蛮な行為に苦虫をかみつぶしているイラク政府をよそに、「よくやった」と留飲を下げる思いの人たちも多いようだ▼ブッシュ氏は、靴のサイズは10(約28センチ)だった、と冗談を言って余裕の表情を見せた。だが、超大国のトップとしては、不名誉な出来事だろう。「テロとの戦い」の最前線のイラクで、「ノー」を突きつけられたのだから▼そのイラクから日本の航空自衛隊の撤収が始まった。航空自衛隊はクウェートを拠点に陸上自衛隊への支援輸送や、多国籍軍兵士と物資の輸送などを約5年間にわたり実施した。事故なく任務を終えたのは喜ばしい▼だが、「テロとの戦い」が大義名分になった5年前の熱気は、ブッシュ氏の不人気ぶりでも分かるように、いまは冷めている。任務を遂行した自衛隊員にも平和に貢献しているのか、疑問が兆す瞬間もあったのではと思う。(S)


12月16日(火)

●ワークシェアリングという言葉がテレビや新聞で報じられ、一般にも知られるようになったきっかけは、国会議員が秘書給与を流用して警視庁に摘発された事件だろう▼勤務実態のない政策秘書を働いていると偽り、給与を国から受け取った詐欺罪に問われ、有罪になった。週刊誌が流用疑惑を報じたとき、議員が説明に使った言葉が「一種のワークシェア」だった。疑惑の発覚は6年前だ▼ワークシェアリングは雇用を分け合うことを意味する。例えばひとりの仕事を2人で分担し、労働時間の短縮につなげる。賃金も下がるが新たな雇用が生み出され、失業を防ぐことにもなる▼ワークシェアリングを思い浮かべたのは、雇用不安が広がっているからだ。非正規雇用の雇い止めや新卒者の内定取り消しが問題になり、国会でも取り上げられる。景気後退を敏感に映して名だたる大企業も雇用調整に乗り出している▼雇用打ち切りや内定取り消しの当事者にとっては、寒風が身にしみる師走だ。そうした人たちの不安を和らげる方策としてワークシェアリングの本格導入は不可能だろうか。仕事を分かち合えれば働き過ぎの解消にも役立つ▼…と、考えてみたが、ワークシェアリングが国会で話題になったのは事件のときだけだ。企業はコスト増を警戒し、労組も従業員の待遇低下を懸念して取り上げにくいのだろう。雇用不安が社会不安を増幅しないか心配だ。(S)


12月14日(日)

●失、貧、危、恐、崩、迷…。どれも1年の世相を表す漢字だが、日本漢字能力検定協会の「今年の漢字」に『変』が選ばれた。広辞苑で『変』を引くと、かわること、非常の出来事、普通でないこと、異常、奇妙、変相の略、と続く▼13年前の阪神淡路大震災の「震」から、狂牛病発生の「食」、山一証券破たんの「倒」、カレー毒入り事件の「毒」、20世紀末の「末」、同時多発テロの「戦」、中越地震の「震」、人命軽視の「命」、食品偽装の「偽」など、暗いイメージの漢字が多かった▼協会はオバマ氏が当選した米大統領選や世界的な金融危機、気候異変など「変化」を象徴しているとみているが、「人の心が悪い方向に変わったのでは」と言うちまたの声に同感。揮ごうする清水寺貫主が書きたいとした「恕(じょ)」(思いやる心)が、世の中から消えたのか…▼日本の進路に低迷している失言癖の麻生太郎首相は今年の漢字に「気」を選んだ。「やる気、活気、いろんな気がある。ノーベル賞4つというのも元気が出た」と。悪化する景気の「気」はどうした。「内定取り消し」にどう応える▼今年の世相を反映する創作四字熟語でも「暗増景気」(クリスマスケーキ)、「株式逃資(投資)」など金融危機を扱った作品が目立つ。『変』という漢字は「優秀な船長不在の日本丸が舵(かじ)を変えて、迷走する」ような“異常な事態”になることを憂慮している。(M)


12月13日(土)

●「函館市の発表によると、本年度上期の市の観光客数は310万人に落ち込み、同期間で300万人を突破した1988年以降、最も少なかったという。観光都市としては気掛かりな数値だ▼燃油価格の高騰に伴い、マイカーの利用を控える傾向にあったことが大きく影響したとの分析。その他にも要因はいくつかあるだろう。数値の意味を読み取る努力は必要だ▼函館に住んで1年余。これまで転勤で道内の主要都市数カ所で暮らしたことがあるが、やはり函館は見どころの多い魅力的な街だ。観光をけん引する夜景やおしゃれなベイエリア、元町、さらに五稜郭があり、そこに市電が彩りを添えている▼何と言っても海がいい。魚介類もおいしく、足が動いた状態で出てくる活イカは絶品。友人が訪ねてきた時、活イカを食べさせただけで大満足して帰る。海水浴場も近いし、温泉もある▼観光資源は圧倒的にそろっている。あとは集客力をどう高めていくかが課題ということになろうが、人それぞれに魅力を感じ、興味を引かれる対象は異なる。イベント効果も限りがある。とすれば、資源の素朴な魅力を愚直にアピールするしかない▼海のない街に暮らす小学生の娘が遊びに来た。観光スポットは回ったが、一番楽しかったのは「海で貝殻を拾ったこと」と一言。友達に渡すため袋いっぱいに拾って持ち帰った。彼女にとって函館の魅力は「貝殻」だ。(H)


12月12日(金)

●「アイ・キャント・スピーク・イングリッシュ」。英語を話せませんと冒頭に断りを述べて日本語で講演した益川敏英京都産業大学教授のはにかむような笑顔は、英語嫌いを勇気付けたのではなかろうか▼スウェーデン・ストックホルム大学で行われたノーベル賞受賞記念講演で、英語以外の言葉でスピーチしたのは益川さんだけだ。一流の学者でも英語が苦手な人もいる。当たり前のことにほっと気分が和む▼実は、日本語で講演したもうひとりのノーベル賞受賞者がいる。40年前に文学賞を受けた川端康成さんだ。「伊豆の踊り子」などで知られる川端さんの講演のタイトルは「美しい日本の私」だった▼羽織り、袴(はかま)の正装で登壇した川端さんは、禅や和歌、源氏物語、茶道など日本文化の魅力を語った。当時の西欧の人々には、理解が難しかったかもしれない。いや、私たち日本人にも易しいとはいえない内容だった▼さて、ストックホルムのコンサートホールできのう行われた授賞式では、業績紹介で一部日本語が使われた。テレビには「小林先生、益川先生心よりお喜び申し上げます」と物理学賞の2氏をたたえる画面が映し出された▼今年の日本人受賞者は、米国籍の南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授を含め4人に上る。ノーベル財団が、そのことに配慮して日本語を交えたのだろう。晴れ舞台で日本語が使われたことに何だかうれしくなった。(S)


12月11日(木)

●忙しい師走。「忙しい」という字は「心を亡くす」と書き、「忘れる」という字は「亡くした心」と書く、と何かで読んだ。師走の犯罪は「忙しくて心を亡くした精神状態」から発生するのだろうか。親たちは子どもを犯罪から守るのに多忙▼「わが身を犠牲にしてでも、わが子を守る」という親心を利用したのが、大阪の不明少女を巡る1億円詐取事件。下校途中の少女(当時14歳)が行方不明になったのは5年前。親はワラをもつかむ思いで情報提供者に謝礼金200万円を出すと公表▼その数日後、女の声で「私の弟も誘Oサされたが、プロに助けてもらった。プロを紹介します」と電話。少女の無事を確認するからと交通費10万円を詐取したのをはじめ、4年間で470回にわたって父親から1億円近くを口座に振り込ませていた▼「警察を信じてはいけない。娘さんは精神的に参っており、私に任せて」「もう少し時間をかけてから帰ろうと思う」などと、少女をかくまっているようなニセの携帯電話を掛けて…。犯人は39歳の無職男と38歳の内妻。金は生活費に充てていた▼娘を救いたいという親の心情を悪用した卑劣な犯罪。父親が家族にも相談しないで土地を売ったり、学資保険を取り崩して金を工面していたことが悲しい。わが子を犯罪から守るには親の努力にも限界がある。「心を亡くさない」ために警察、家庭、学校の連携プレーが大事だ。(M)


12月10日(水)

●発売中の年末ジャンボ宝くじは、1等と前後賞合わせた賞金が3億円だ。庶民にとって3億円は、一度も目にすることのない夢の彼方のお金だろう。その巨額をまんまと強奪する事件が40年前のきょう起きた▼1968年12月10日午前9時21分ごろ、東京の府中刑務所北側路上で現金輸送車が後ろからきた白バイ警官に停車を命じられた。ダイナマイトが仕掛けられているとだまして銀行員を避難させた後、警官は車に乗って逃走した▼わずか3分間の早業だった。これが世を驚がくさせた「3億円事件」である。輸送車には、近くの東芝府中工場従業員4500人余のボーナス2億9430万円が入ったジュラルミントランク3個が積まれていた▼3億円事件は、奪われた金額とその手口から昭和の大事件のひとつに数えられる。警視庁は大捜査体制を敷き、必死に犯人を追い求めた。だが、大量の遺留品がありながら事件は7年後の1975年、時効を迎えた▼「決定版昭和史」(毎日新聞社刊)には、警官の扮装をした犯人のモンタージュ写真が載っている。同書によると68年のラーメンの値段は120円。当時のサラリーマンの平均年収は70万円程度だから3億円は現在なら20億円以上だろう▼モンタージュ写真の犯人は20代に見える。健在なら60代だろうか。昭和が終わって既に20年。大金をせしめた後の歳月をどう送ってきたのだろうか、聞いてみたい気がする。(S)


12月9日(火)

●新聞にはテレビなどと同様に、差別語や不快用語として使用しない言葉がある。目の見えない人や特定の民族を指す言葉などさまざま。井上陽水さんの有名な曲の歌詞がいきなりそれで始まり、放送自粛となった例もある▼あえて記すが「土方」は「建設作業員」と表記する。紹介した理由は「土方の父」を持つ女子中学生の話だから。彼女の学校の先生がある時、勉強が苦手なクラスメートに「土方にでもなるか」と言ったそうだ▼少女の父は、レールの枕木などを修理する仕事をしていた。彼女は傷ついた。父は雨の日も風の日も、夜中でも仕事があれば飛び出していく。そんな姿を誇りに思っていたからだ。父がいなければ電車は走らない▼少女の思いをつづった文章は20年ほど前、中学生人権作文コンテストで最優秀賞に輝いた。思春期の繊細な心情が伝わってきて心を打たれた。きつい、汚い、危険の「3K」という言葉が流行していたころだ▼少女は「若者は3Kを嫌うが、同じ若者として自分はどうか」と省みる。そして、先生の言葉も悪意があったのではないと語る。見かけで判断せず、大切なものを見失わない自分でありたい…。そんな内容だった▼10日まで人権週間。最近は先生に理不尽な要求をするモンスター親も現れ、権利意識なのか人権なのか分からない。少女が問い掛けた人権に対する疑問は真っすぐで、温かい思いやりに満ちていた。(P)


12月8日(月)

●寒風が吹くと「北風小僧の寒太郎」の歌を思い浮かべる。NHK「みんなのうた」で堺正章さんが歌ってヒットした。リメイク版は、知内出身の北島三郎さんがカバーしたから、サブちゃんバージョンでご記憶の方も多かろう▼〈北風小僧の寒太郎 今年も町までやってきた ヒューン ヒューン〉と分かりやすい歌詞が軽快なメロディーに乗って流れる。イメージするのは、マントのすそを翻して歩を進める旅人の姿だろうか▼冬の季節風を伴って大陸からの寒気が押し寄せてきた。隙間だらけの木造家屋が全盛だったころ、軒先に当たって聞こえる笛のような音を虎落(もがり)と呼んだ。辞書で見ると本来は、竹を筋交いに組み合わせた柵だそうだ▼その柵を鳴らして吹く季節風が、虎落笛(ぶえ)だった。竹柵が消え、家屋の構造が変化した現代では、虎落笛の言葉そのものが死語に近くなった。寒太郎が発するヒューンという風音に虎落笛の余韻をしのぶだけだ▼今年は先月下旬に内陸部で氷点下20度を下回る気温を観測した。早い厳冬の訪れは、寒い冬を暗示しているのかもしれない。函館でも路面が凍りつき、車輪が滑る怖さをすでに体験している▼師走が深まると、寒気が押し寄せる間隔が次第に狭まってくる。気温が氷点下に張り付いたままの真冬日も珍しくなくなる。日は短く、夜が長い。〈冬でござんす ヒュルルルルルルン〉と寒太郎が歌っている。(S)


12月7日(日)

●古代ローマのハンセン病は死の病と言われていた。復讐を遂げてもなお消えないジュダの憎しみ。投獄された母親と妹がハンセン病で“死の谷”に捨てられたように暮らしている惨状を知って、救出に向かう(映画「ベン・ハー」)▼日本のハンセン病患者は約2800人ともいわれ、大半は高齢者。故郷から遠く離れた療養所に強制収容された。元患者で81歳の平沢保治さんは故郷の菩提寺に墓参を願い出たところ、住職から「檀家に迷惑がかかる」と暗に断られた▼「故郷は地球のどこよりも遠かった」と嘆いていた平沢さんが先日、70年ぶりに母校を訪れた。同級生たちと再会、初めて本名を名乗って、5、6年生を前に講演。「人権とは、ともに励まし、遊び、学び、生きていくことです」と▼また、結純子さんが、療養所で21年前に亡くなった藤本としさんの自伝「地面の底がぬけたんです」を、ひとり芝居で公演して100回。失明しても舌で点字を読み、口述筆記で文章を残した幼女時代から86歳までの生涯を演じている。強制隔離が生んだ悲劇。手足の一部を切断された患者もいたという▼平沢さんの講演を聞いた6年生は「ひどい差別を受けたのに立ち向かって尊敬できる人です。私たちが頑張って差別をなくしていきたい」と話す。“望雲の情”を抱いている患者はまだ沢山いる。ジュダのように、早く救ってあげなければ。10日まで人権週間。(M)


12月6日(土)

●「堅持」と「維持」では、決意と力の入り方が違う。年末に決まる来年度予算の編成方針で、公共事業費3%削減や社会保障費の伸びを年2200億円圧縮する概算要求基準(シーリング)が、緩和されることになった▼小泉政権が推進した歳出削減路線の事実上の棚上げだ。「100年に一度の金融危機」(麻生首相)が実体経済にも影響を及ぼし、雇用不安が広がっている現状では、シーリング「堅持」の閣議決定も風前の灯だ▼それでも政府は、完全撤廃に対する躊躇(ちゅうちょ)があったからか、「維持」と修正することにとどめた。シーリングを名目上維持しながら、特別枠で上積みするという。その特別枠は3年で10兆とか30兆の声が与党に広がる▼公共事業削減で地方の青息吐息(といき)はいまに始まったことではない。社会保障費の伸び抑制が、医療・介護・福祉の現場で人材流出などのひずみをもたらしているのも見逃せない▼だが、財源をどうするかが見えてこない。頼みの消費税率の引き上げは、論議が封印されたままだ。現下の経済情勢や来秋までには実施される総選挙への影響を考えると、不人気な増税論議はしたくないのだろう▼予算は20日に財務省原案が示される。堅持から維持に変更されたシーリングの扱いの結果が、具体的に現れる。国の予算がどうなるかは、私たちの生活にも直結する。その姿が見えるのは2週間後だ。(S)


12月5日(金)

●街にクリスマスソングが流れる季節になった。「ジングルベル」「サンタがまちにやってくる」「赤鼻のトナカイ」など子どもたちにも親しまれている曲が、カーラジオから聞こえてくる▼数多いクリスマスソングの中でも、多くの人気歌手がカバーしている極め付きは「ホワイト・クリスマス」だ。英語の歌詞を中学や高校で教わり、この時期になると口をついて出てくる方もおられよう▼この曲は、アービン・バーリンが作詞・作曲した。1942年にビング・クロスビーが歌って大ヒット、その後もフランク・シナトラやエルビス・プレスリーがカバーした▼〈私は夢見ている ホワイト・クリスマス(I’m dreaming of a white  Christmas)〉と歌われる歌詞は、緩やかな曲調とともに親しみやすい。この曲が、世界で最も売れたシングル盤だというのもうなずける▼「アービン・バーリンのホワイト・クリスマス」というミュージカルが、ブロードウエイで上演されている記事を米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)で見つけた。劇評欄で取り上げるのだから話題になっているのだろう▼ニューヨークでは、ロックフェラーセンターのツリーが点灯された。景気後退の中で迎えるクリスマスだが、〈あなたが楽しく明るく過ごしますように(May your days be merry and bright)〉。 (S)


12月4日(木)

●寒さを倍加させる予測にたじろぐほかない。先進30カ国で構成する経済協力開発機構(OECD)が、景気悪化に伴い日米欧の失業者が2010年までに800万人増えると発表した▼08年の失業者3400万人が2年後には4200万人に達する。日本が20万人増えるのをはじめ、米300万人、英80万人などの数字が並ぶ。日本経済新聞によると建設・不動産や自動車で失業者が増えるという▼厚生労働省の調査では、10月から来年3月までに非正規社員3万人が「雇い止め」などで失職する。景気悪化は来春新卒者にも及び、内定取り消しが331人と5年ぶりに100人を超えた▼まさに雇用の冬景色だ。函館でも電子部品製造大手が先月末で派遣社員150人の契約を打ち切った。携帯電話向けの受注が急激に落ち込んだと会社側の説明だが、失職した従業員は不安に身も凍る思いだろう▼景気後退の黒い雲が世界を覆う。モノが売れなくなり、生産が縮小する。日本経済を牽引した自動車会社が、販売台数の落ち込みで派遣や契約社員の雇用打ち切りに乗り出している。米ではビッグ3が、存続へ政府融資を求めている▼〈何から何まで真っ暗闇よ〉とかつての流行(はや)り歌の文句が浮かぶ師走。政治の混迷はさっぱり解消されないが、せめて身近なところで明るさに触れたい。今宵は、クリスマスファンタジーの光の競演を楽しみ、憂さを忘れよう。(S)


12月3日(水)

●アラフォー」も「グ〜!」も知らなかったと正直に告白したら、オジサン度が分かってしまう。このふたつを聞いたことがあるか社内で小調査を実施すると、概して若い世代ほどなじみが深かった▼今年の世相を映した新語・流行語の選定で大賞に輝いた2語である。アラフォーは、40歳前後の女性をテーマにしたドラマでブームになった。グ〜!は、お笑い芸人エド・はるみさんのギャグだそうだ▼どちらも発信源はテレビである。テレビドラマに関心がなかったり、バラエティー番組に疎いオジサンたちは、そもそも耳にするチャンスがなかった、と知らなかった負け惜しみをぶつぶつつぶやく▼まあ、それでもトップテンに選ばれた残り8語は、聞いて理解できる。「上野の413球」は、胸を熱くして見た北京五輪のシーンを思い出させる。「居酒屋タクシー」は、あきれた公務員の実態をさらけ出した▼働く貧困層の共感を呼んだ「蟹工船」、労働搾取が現代にも存在することを明るみに出した「名ばかり管理職」は、社会のひずみを浮き彫りにした。「後期高齢者」の怒りは長寿と名を変えても収まらない▼霞が関の「埋蔵金」に、家にも埋蔵ヘソクリがあったらなあ、とうらやましく思った向きもあるのでは。「ゲリラ豪雨」が襲った今年、「あなたとは違うんです」とタンカを切って前首相が辞めた。違いが分かる?前首相は受賞を辞退したそうだ。(S)


12月2日(火)

●〈椋鳥と人に呼ばるる寒さかな〉。信州(長野県)生まれの俳人小林一茶の冬の句である。粋といなせを好んだ江戸の人々は、信州人をムクドリとさげすんだ。「田舎者」といった冷ややかさがこもる呼び名だ▼俳人として名を立てようともがいた一茶は、江戸俳壇に受け入れられず、貧窮の生活を送っていた。世に拗(す)ね、心に鬱屈(うっくつ)を抱えて迎えた寒い季節。ムクドリはそんな自身を卑下した言い方だ▼だが、自然界のムクドリは、田舎者どころか都市を占拠する勢いだ。イタリア・ローマでは、大群が押し寄せ、糞害を撒き散らしているとテレビが伝えた。カサを差して歩いている観光客の姿が映し出された▼道内でも札幌大通公園の糞害と騒音が困惑の種になっている。プラタナスの木に止まって夜を過ごし、朝になると一斉に飛び立つ。歩行者は糞の直撃を受けないか、戦々恐々だ▼この時期、公園の像などは、汚れないようにシートを被せる。「行き場を失った動物たち」(今泉忠明・東京堂出版)は、ムクドリの大群が4年前の12月から大通公園にねぐらを構えるようになったと紹介している▼もともと郊外の河川敷などにねぐらがあったムクドリが、都市に進出したのは河川改修や護岸工事でやぶが喪失したからだという。一茶は故郷に終(つい)の棲家(すみか)を求めたが、ムクドリの帰るねぐらは都会にしかないらしい。(S)


12月1日(月)

●「医者は社会的常識が欠落」「たらたら飲んで食べて、何もしない人の医療費を何で払うのか」―麻生太郎首相の失言癖に振り回されているうちに、はや師走入り。非正規労働者の失職が3万人を超えるなど、不況風は強くなるばかり▼不況風は、好調だった自動車業界にまで吹いて大量のリストラ。雇用現場からは「年末年始をどう迎えればいいのか」という悲痛な声。麻生首相から「定額給付金」の話が出た時、最初は「暖かいお正月を迎えて」という「もち代(お年玉)」だと期待した▼子ども2人の家庭なら6万4000円が支給される。子供にお年玉もあげられる、ちょっと豪華なお節料理も買える…。お金は貯蓄より消費に回る確率が高いはず。「ふくらんだ財布が心を軽やかにする」という言葉もある▼先日、民主党の衆院選候補者に年末年始の活動費として1人200万円の「もち代」が支給された。自民党では慣例だが、民主党では初めて。センセイ方がうらやましい。給付金の支給方法などが地方自治体に“丸投げ”されため暗礁に乗り上げたまま。年内どころか年度内も危ない▼懸命な「シューカツ」で、ようやく手にした大学生の就職内定の取り消しも相次いでいる。12月の「シワ(ハ)ス」はハツル(果て)の月で、年の終わりの意味。もち代のように、お金が必要な年末に出すのが給付金ではないか。学生たちがシューカツを再開するためにも。(M)


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