平成20年4月


4月30日(水)

●《病室の窓にもたれて煙草を味ふ〜》 石川啄木は死ぬまで煙草を手放さなかったといい、病気が身体を蝕んでいった。喫煙防止が居酒屋、パチンコ店にまで拡大される昨今。道内でも未成年が入手できないICカードがお目見えする▼WHO(世界保健機構)が喫煙による健康被害を分析した報告書によると、たばこに起因した死者数は全世界で年間500万人以上。対策として、受動喫煙からの保護、禁煙希望者への支援などを列挙しているが、「課税と価格引き上げ」が最も効果的という▼受動喫煙はがんなどのリスクが高く、糖尿病にもなりやすい。このため特に未成年者が自販機から買えないように導入されるのがICカード「タスポ」。身分証明書など本人確認ができる書類のコピーと顔写真を入力するもの。道内では5月1日から導入▼7月までに全国で導入され、喫煙者の70%以上の利用を見込んでいるが、道内のカード取得者は7%程度。そこで運転免許証で年齢など本人確認ができる識別機能付き自販機の開発も進んでいる。7月以降は識別装置のない自販機は姿を消す▼英ケンブリッジ大の健康調査によると「たばこを吸わず、野菜と果物を十分取ると14年は長く生きられる」という。タスポ導入はヤングの健康を守るためには仕方がない。親や先輩のカードを持ち出して購入しないように。まして「病室の窓にもたれて…」なんて、もってのほか。(M)


4月29日(火)

●豪華な美しさを誇る弘前公園で桜吹雪を浴び、同じ日に五稜郭公園で満開の桜を見る。そんなぜいたくを味わえるのは、海峡線を使った鉄路でも、ナッチャンReraが就航した海路でも余裕を持って函館・弘前間を往復できるからだ▼交通の発達は、函館から弘前への日帰りツアーを可能にした。今年も道南から多くの人たちが弘前の桜を見に海を越えただろう。その弘前の桜は、ソメイヨシノが五分散り程度になった。代わっていまは、枝垂れ桜が満開だ▼公園内の弘前城の堀は、ピンクの花びらに埋め尽くされている。吹く風に飛ばされた花びらが、空を舞い、公園の道路や堀に降る。両手を広げて花びらを受ける人がいる。花の季節の終わりを惜しむかのようだ▼先週末に満開を迎えた五稜郭公園は、咲き誇るソメイヨシノが市民や観光客を出迎える。花見の宴を楽しむグループも多い。肉が焼けるいい匂いが、ただよう中を散策するのもまあ、悪くはない▼だが、後片付けを忘れるのか、しないのか、ごみをそのまま残す困ったグループも結構目立つ。公園の管理事務所は、風に飛ばされ堀に落ちたごみをボートを使って拾い集めるそうだ▼堀にごみが浮かぶのは、いささか情けない。水面を埋め尽くすのは、ピンクの花びらだけでいい。花は、来週には散り始める。弘前公園のように、散策路や堀の水面がピンクのじゅうたんになる。(S)


4月28日(月)

●拍子木が鳴ると、5円玉や10円玉を握り締め紙芝居へと走る。「子どもの心に直接語りかける感動や喜びは大きい」と目を細める紙芝居のおじさん。子どもたちに“昭和の心”を取り戻させようと紙芝居が復活しつつある▼あす29日は「昭和の日」。始めの20年は戦火に明け暮れ、原子爆弾にとどめを刺されて敗戦。昭和天皇は絶えず苦悩し戦後は悔恨にさいなまれたといわれる。臥牛子も小学4年生、兄たちを戦争にかりたてた“教育勅語”を丸暗記させられた(当時は「天長節」)▼しかし、映画「三丁目の夕日」のように懸命に働き、子を育て、手を差し伸べて生活を共にした昭和生まれが1億人を割り込んで「昭和の原風景」が色あせ、他人への思いやりなど助け合った“心のかたち”が崩れた。降る雪や昭和も遠くなりにけり、か▼「昭和の日」は昨年までは「みどりの日」。八十八夜(5月2日)を前に、無病息災で元気に過ごせるという新茶を飲んだものだ。緑茶飲料に「新茶」をうたう製品も出ているが、そのボトル茶から除草剤の成分が検出される事件が3件も起きて、入院した女性も▼製造過程で混ざったのか、誰かが故意に混入させたのか。飲む人の心も体も傷つけるという無神経な行為は許されない。遠ざかる昭和を「郷愁」にせず、子どもたちの心に「助け合う家族、地域を作ろう」と語り掛け、戦争と平和を再考する「昭和の日」にしたい。(M)


4月27日(日)

●老人を尊敬し、長寿を祝うために催す宴のことを尚歯(しょうし)会というそうだ。「尚」は尊ぶ、「歯」は年齢を意味する。唐の詩人白楽天が始めたというのだから歴史は古い。いまなら敬老会だろうか▼尚歯会は江戸時代、藩主などの引退を祝って開かれた。隠居して悠々自適の生活を営み、文雅の道を楽しむ。老いが尊く思われていた江戸時代には、そうした後半生があった▼今日の老人は尊ばれるどころか「うば捨て」同然に扱われていると憤りが治まらない。ほこ先はもちろん今月からスタートした後期高齢者(長寿)医療制度だ。新聞の投書欄には、高齢者の怒りの声があふれている▼新たな医療制度に移行する75歳以上は、子供の扶養家族から外れて年金から保険料が天引きされる。人間ドックを受診する際の国民健康保険の助成も受けられなくなる。明らかな負担増だ▼年寄りは医者にかかるな、ドックを受けるなと言うのかとの投書もあった。長生きは寿(ことほ)ぐことを許されなくなっているとの不満が高齢者に広がる。働いて社会のために貢献してきたのに何という仕打ちだとの嘆きも深い▼さすがにまずいと思ったからか福田康夫首相は、説明不足を謝罪した。だが高齢者の怒りは、説明不足ではなく、制度自体に向けら;ている。江戸時代より医療がずっと発達したいまの日本で尚歯を喜べない事態が進んでいる。(S)


4月26日(土)

●阿蘇五岳で火山活動が最も活発な中岳。登山3度目にしてエメラルド色の火口を見ることができた瞬間、監視員が「有毒ガスが発生、避難して」と叫んだ。ハンカチを口にあて、避難所に逃げたが、異様な臭気が胸をつく▼阿蘇山は噴火口からの噴煙とともに硫化水素の濃度が危険な状態になると立入禁止になる。硫化水素は卵の腐ったような臭いのする有毒ガス。高濃度を吸引すると、体内の細胞が壊死(えし)して即死することも。運よく生き延びても脳障害が残るという▼今年に入り硫化水素ガスを使った自殺が急増。ネットには「硫化水素の作り方」「練炭自殺より苦しまず速効で死ねる」など書き込みがズラリ。ネットが危険な自殺手段を誘発し、今月だけでも全国で女子中生ら50人以上が自殺している▼部屋や車を密閉する練炭自殺は本人やグループが犠牲になるだけですむが、目に見えない無色の硫化水素ガスは空気より重いため階下の部屋などに拡散、周辺の住民を巻き込む“2次災害”も起きて、非常に迷惑な行為。高知県の女子中生の自殺では90人が病院で手当てを受けた▼道内の硫化水素自殺は今年に入り男性3人が死亡している(遺族の意向で未発表も含めると10件前後)。いずれもスーパーなどで手に入る薬品などを混ぜる方法だった。卵の腐った臭いがしたら、阿蘇山のように「有毒ガス発生、近づかず、110番」に心がけなければ。(M)


4月25日(金)

●夏の甲子園大会連覇という偉業を成し遂げた駒大苫小牧高校野球部の前監督、香田誉士史さん(37)が今春、同校を退職した。優勝旗が初めて津軽海峡を越えて来たあの時、道民は歓喜し、感動を共有した。ご苦労さまと言いたい▼佐賀出身の香田さんは1995年から駒苫を率いた。2001年夏、03年春と夏の甲子園は初戦敗退したものの、翌04年夏は横浜などの強豪を撃破、済美(愛I揩鰍ニの壮絶な打撃戦を制して初優勝した▼ナインがマウンドに駆け寄り、人さし指1本を突き上げるシーンを覚えている人も多いだろう。香田さんの「ベストを尽くす」という姿勢を体現したポーズだという。05年夏は甲子園史上6度目、57年ぶりの連覇を達成。06年夏も田中将大選手(楽天)を擁して決勝に進み、早実との延長再試合で惜敗した▼挫折もあった。連覇直後に表面化した野球部長の部員への暴力、その後の部員の喫煙、飲酒…。昨夏の甲子園は初戦で逆転負け。香田さんはこの大会後に監督を辞任した▼本道のチームが全国制覇するなど、道民には夢物語であり、出場校は常に初戦突破が目標だった。それを一気に覆した駒苫の姿は、景気低迷などで湿った道民の心を潤した▼ある講演会で香田さんは「負けた悔しさをバネにやってきた」と話している。マイナスをプラスにする気迫はあるか、恨み言を並べて萎(な)えていいのかー。“香田野球”の神髄が垣間見える。(H)


4月24日(木)

●ツタンカーメンの墓から見つかったヤグルマギクの化石(花粉)は強壮、利尿、眼炎などに効くといわれるが、桜前線を追って北上した今年のスギ花粉は例年より早く飛散を始めた。気温が高かっただけに過去最大規模の花粉量が予測される▼鼻水がとまらず、目がかゆく、夜になると鼻粘膜が膨張し苦しくて眠れず、イライラして意識も集中できず、マスクを2枚重ねて…。日本人10人に1人が花粉症とか。意外と若者に多く、9割近くが20代前半。最近は果物を食べると口の中がかゆくなる症状も▼なんと風に乗って100キロも飛ぶ花粉もある。天気予報で花粉飛散情報も流れるようになり、先日は「函館、札幌、岩見沢、旭川でシラカバ花粉が観察されました」と掲示。函館山などのスギ花粉は大型連休まで飛散し、シラカバ花粉は大型連休から来月中旬まで飛散▼その後はダケカンバとウダインカンバの花粉が6月上旬にかけて花粉症を引き起こす。5年前、富山県で開発された「無花粉スギ」は、ようやく増殖にこぎ付けたようだが、シラカバ花粉の北海道はまだまだ“花粉からの逃避行”はできそうもない▼「目赤く鼻グズグス」の花粉から、ツタンカーメン墓地のヤグルマギクのように「目パッチリ鼻スッキリ」の花粉に改良できないものだろうか。花粉症は森林保全の対策も進めなさいと訴えているが、まずはゴーグルのような保護眼鏡をかけなければ。(M)


4月23日(水)

●直木賞作家の西木正明さんは40年ほど前から何十回とアラスカを訪れている。イヌイット村で住民と一緒に暮らし、海の氷を割ると、タラバガニが山ほどいる。西木さんは村人に持ちかけた。「このカニで日本相手に商売しないか」▼ロシアがカニの輸出規制を強化してから、品薄と高騰が続いている。2007年に輸入された生鮮タラバは前年の半分で、価格は3倍になったという。小樽では3月、カニ輸入業者が倒産した▼西木さんはデビュー作「オホーツク諜報船」で「レポ船」の実態をまとめた。「レポ船」とは米ソ冷戦下、ソ連国境警備隊に情報提供する見返りに、北方領土周辺で操業を黙認されていた船。提供する情報は新聞や警察名簿などで、船主は蔵が建つほどもうけたという▼4島海域はホタテやウニ、カニなどの宝庫。しかし、レポ船以外が専管水域で操業すると拿捕(だほ)され、ハバロフスクの収容所送りとなった。拿捕は現在も続き、一昨年は銃撃された若い船員が死亡する悲報もあった。拿捕のニュースが流れるたび、暗たんとした気持ちになる▼北方4島は日本固有の領土。そもそも4島の海域開発を手掛けたのは、函館ゆかりの豪商・高田屋嘉兵衛だ。国後と択捉間の航路を開き、漁場を次々と開拓していった▼資源枯渇を招く乱獲は良くないが、あの味が遠のいたことは寂しい。嘉兵衛が生きていたら、今の世をどう見るだろうか。(P)


4月22日(火)

●「花を折る」は、花を折ってかざす意から容姿を飾ることをいう。そこからさらに、容姿が美しいの意味に転じた。手元の日本語大辞典(講談社)の説明だ。折った花を髪や胸に一輪さすなら、なるほど美しさを引き立てもしよう▼だが、各地で相次いだ花荒らしは、醜さばかりが目立つ。前橋市では、道路沿いのプランターに植えられたチューリップ1000本余りが切り落とされた。福岡市でも大濠公園のチューリップ約120本が踏みつけられた▼被害は桜にも及んでいる。東京小金井市や福岡県大牟田市で、桜の枝が折られる被害が出た。山口県下関市の公園では、桜の枝を盗んだとして生花業者が逮捕された。歩道に置かれたプランターのパンジーが引き抜かれる被害も埼玉県草加市で起きた▼「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」と書いたのは、「放浪記」の作家林芙美子だ。花が生き生きと美しい盛りは短い。その短い命を引っこ抜いて終わらせる蛮行は、どんな人間の仕業なのか。警察も捜査をするという▼道南では、桜の季節が始まった。松前のソメイヨシノと南殿(ナデン)は20日、開花した。五稜郭公園でも今週中に花を開く。函館市内では、まもなく道路沿いに色とりどりの花を植栽して市民の目を楽しませる▼〈花盗人は風流のうち〉とは言うけれど、花はあるがままを愛(め)でたい。心を美しく装うには「花を折る」必要は、ないだろうと思う。(S)


4月21日(月)

●親の経済力が、子どもの学歴格差を生み、ひいては就職格差にまでつながっているのは、まぎれもない事実だろう。格差の固定化をどう防ぐかは、社会全体で取り組まねばならない課題だ▼数年来、問題になっているワーキングプアは、好んで貧困に甘んじているわけではない。学歴もなく、職業訓練を受ける機会もなかった若者たちが、低賃金の仕事にあえでいるのが実情だ▼そうしたワーキングプアの多くは、親の経済力が乏しくて、進学をあきらめざるを得ない家庭から生まれている。貧困を逆バネとして、経済的にも社会的にも成功者とされる人はいるが、まず例外的だろう▼東京都が今夏から始める低所得世帯に対する塾代の融資は、格差の再生産に歯止めをかける試行のひとつだ。都の案では、年収約200万円以下の世帯の子どもが高校や大学受験のために学習塾に通う費用を無利子で貸し付ける▼中学3年生には年15万円、高校3年生には20万円を貸し付ける予定だ。大学や専門学校の受験料の融資も検討している。塾通いが7、8割にも上り、公教育の不足を補っている現実を追認する施策と言っていいかもしれない▼福島県阿武隈山地の過疎の村・川内村では村営の学習塾を昨年から開設した。東京杉並区の和田中は、塾と提携して校内で夜間塾を開いている。さまざまな論議はあっても、子どもの進学を助ける取り組みは、もっと広がっていい。(S)


4月20日(日)

●五稜郭公園を通りかかったとき、サクラの枝をたわめて花芽をのぞき込んだ。細い枝についた芽は、ほぼ半数が少し口を開き中にピンク色が見えた。閉じたままの芽はわずかしかない▼気持ちが華やぐ開花は、もうすぐそこまで来ている。少し離れると、樹木全体が心なしか淡いピンクをまとっているように見える。早咲きのサクラは、花を開いたという便りも届くようになった▼サクラを愛(め)でた歌は数多い。その中でもくっきりと印象深いひとつが、与謝野晶子の〈清水へ祇園をよぎる櫻月夜こよひ逢(あ)ふ人みなうつくしき〉だ。その祇園円山公園のサクラは、すでに散り終え、新緑に彩られるころだ▼京都ばかりではない。関東でも〈空をゆく一とかたまりの花吹雪〉(高野素十)の季節が行き、北上を続けるサクラ前線は青森県に達した。豪華な美しさで知られる弘前公園のサクラは、平年より8日早く開花宣言が出され、今週満開を迎える▼そして前線は、海峡を渡り、道南に上陸する。函館の開花予想は、気象台が25日、気象協会はそれより2日早い23日だ。どっちが当たるかなんて予想するのはやめて、自然の摂理を見守ろう。咲かずに散ることはないのだから▼サクラに導かれるように道南では、エゾツツジが咲き、コブシもまもなく花を開く。単色に覆われていた函館山がパッチワークの彩りをまとうようになった。北国の花の季節が始まる。(S)


4月19日(土)

●誰が名づけたか「後期高齢者」という医療制度の「天引き」をめぐって、不安と怒りが広がっている。病気を引き起こす遺伝子は75歳に達すると生活環境や心の持ち方次第で、ある程度働きを抑えることができて長寿につながるという▼95歳の聖路加国際病院の日野原重明理事長は、これを「新老人」と名づけた。尊い言葉だ。ある高齢者クラブでの話。「息子の扶養家族から外され、年金が目減りする」「主人の年金から引かれていたけど、年金をもらっていないのに払わなければならない…」▼「これまでの国保では『1割』だった本人負担が『3割』になっていた」などと、みんな驚くばかり。75歳未満の重度障害者にまで強制加入を求めていた道県があったというから、どうなっているのか。年金からは介護保険も引かれている▼対象者に事前に負担額を通知せず、いきなり天引きされると、低所得者ほど負担増になる感が強い。「病院の治療にも格差がつく」という事務医療の専門家もいる。「公費に負担がかかり、役立たずの老人は早くあの世へ」という“姥捨て”か▼「医療費の還付金があります」とささやく新手の振り込み詐欺まで出てきた。長野県の姨捨(おばすて)山の民話は「息子がこっそり連れ帰った老婆の知恵で国の危機が救われ、殿様は年寄りを捨てるおきてを改めた」と結ぶ。新医療制度も洗い直し、お年よりに優しい制度に改める勇気がほしい。(M)


4月18日(金)

●仏教は暴力や殺生を禁じる教え。一方で大乗経典の涅槃経(ねはんぎょう)に、護法思想という一説がある。仏法を守るための武力行使は許される、との思想で、護法のためならば刀剣を持つことも否定していない▼チベットで暴徒化した僧侶たちは、その教えに沿って行動したわけではないだろうが、自治や文化を守ろうとする願いの強さを感じる▼涅槃経には、生きとし生ける者のすべてが仏になる素質・仏性を持っている、との教義が根幹にある。日本でも座禅や念仏、自力、他力など法に違いはあるが、「みな仏になれる」との教えが生まれ、人々の救済となった▼救済は宗教のテーマ。チベットの僧侶たちも、人々の救済という大きな使命を持っている。暴動でダライ・ラマ14世は、僧侶たちに非暴力を訴えた。自治区を実質的に支配する漢族にこぶしを振り上げた僧侶たちは、そのこぶしで涙をぬぐうのだろうか▼政治的、経済的に弱い立場の人々が泣いて終わる結果にしてはならない。北京五輪を政治問題化することは好ましくなく、まずは対話だ。中国も「内政干渉」と言わず、互いが救済される道を模索してほしい▼しかし、26日の長野での聖火リレー。機動隊が伴走するという。パリ、ロンドンなどで妨害されたことを受けての措置だが、「五輪の美しいシンボル」(IOCのロゲ会長)と機動隊。なんとも相入れない構図となりそうだ。(P)


4月17日(木)

●19世紀アメリカの発明王エジソンは、電球のフィラメントに日本の竹を使った。竹製のフィラメントは、電球の寿命を大幅に伸ばし、普及に弾みをつけた。子供向けの伝記物語で紹介している話だ▼伝導体を発熱させて照明に用いる白熱電球は、色調に温かみがある。明かりの主流は、その後に発明された蛍光灯が取って代わったが、寝室などにはいまも白熱電球を使っている家庭も多いだろう▼その白熱電球が、近い将来に消える運命にあるらしい。白熱電球は、電力消費が大きくエネルギー効率でも蛍光灯より劣る。温室効果ガスの削減に躍起になっている国の方針を受けて、メーカーが生産中止を打ち出した▼白熱電球は、蛍光灯ほど長持ちはしない。温暖化対策上も蛍光灯に切り替えるべきだという方針は間違ってはいない。だが、価格は蛍光灯よりずっと安い。それにどこか白々しい蛍光灯に比べると、赤味を帯びた色合いは気持ちを和ませる▼オフィスばかりでなく家庭でも白熱電球の肩身が狭くなっているのは事実だろう。電気店をのぞくと蛍光灯の売り場は種類が豊富だが、白熱電球は限られている。いまは白熱電球の色調をまねた電球形蛍光灯も出ているほどだ▼古いものが新しい発明品に取って代わられる。しかも、地球温暖化を防ぐためにも必要な措置だと説明されたら反論が難しい。しなやかな竹にも寿命が尽きるときが来るとあきらめるしかないか。(S)


4月16日(水)

●「チーズ」と言うべきところを「バター」とまじめな顔でのたまう。渥美清さん主演の「男はつらいよ」で御前様を演じた笠智衆さんの表情が忘れられない。記念撮影の場面だったと記憶している▼チーズと発音すると、口がやや開き、口元がほころぶ。にっこり笑顔を写真に納めたいとき、撮影者が掛ける号令がチーズだ。それをバターと言い間違えた?いや、わざと言ったところが、いかにも御前様らしい▼御前様にとっては、チーズもバターも同じようなものだろう。味や用途は違っていても、乳製品という点では共通している。一般的には牛乳から製造されるが、ヤギや水牛などの乳から作られる個性的な製品もある▼酪農業日本一の北海道では、牛乳が余り、生産調整をしていた。お茶やジュースなどの消費が伸び、飲用牛乳の消費が落ち込んだからだ。窮余の一策として国が推進したのが、バターや脱脂粉乳など保存が利く乳製品の製造だ▼バターは昨年までスーパーの特売の目玉にもなっていた。200グラム一個が、200円程度で買えたこともある。それが、よく行く函館市内のスーパーで335円で売られている。数も少ない▼余っていたバターが一転して品薄になっているらしい。だからか高値に張り付いたままだ。今月からみそ、しょうゆ、食用油などが値上がりした。これに乳製品も続く。御前様でなくても口元を緩めてはいられない。(S)


4月15日(火)

●「ベルトコンベヤーといってはいけないけど、自動的に進む方法を考えてはどうか」と語り、非難を浴びていた鳩山邦夫法相の命令で、4人の死刑が先ごろ執行された。昨夏に鳩山法相が就任してから10人。短期間にこれほど集中したのは異例▼帰宅途中の女子高生を連れ去り山林で暴行のうえ絞殺した死刑囚、顔見知りの宝石商夫婦を刺殺した死刑囚、元同僚の工員ら2人を窒息死させ遺体を切断した死刑囚ら。日本では凶悪犯罪の増加に伴って死刑判決が増え、現在は104人にのぼっている▼世界で死刑制度を維持し執行を続けている国は60カ国。サミット参加国では日本と米国(50州の3分1が廃止か停止中)だけで、死刑廃止の方向だ。ナイジェリアで婚外子を産んだ女性に宣告された「石打ち」による死刑の廃止運動も起きている▼死刑執行命令書にサインするのは法相だが、死刑を言い渡すのは裁判官だ。「死刑執行の後に真犯人が出てきたら、自分が殺人者になってしまうのではないか」と常に苦悩…。宝石商夫婦を刺殺した死刑囚は公判で一貫して無罪を主張していた▼一般の市民が刑事裁判に参加する裁判員制度は来年5月から。38%が「義務でも参加したくない」と答えている(最高裁調査)。心優しい人は被害者に同情するのは普通で、重罰化が進むのではないか。改革すべきは改革して“市民により身近な司法”の実現を目指してほしい。(M)


4月13日(日)

●代名詞となったトルネード(竜巻)はなかったけれど、1000日ぶりにメジャーのマウンドに立ったロイヤルズの野茂英雄投手はやはりカッコよかった▼本拠地のカンザスシティーで行われたヤンキース戦。野茂は7回から9回までを投げぬいた。うなりを上げた往年の直球の威力はない。だが、得意のフォークボールを要所で駆使してヤンキースの強力打線をソロ本塁打2本に抑えた▼野茂は8月に40歳の不惑を迎える。同年代でメジャーに挑戦していた3投手のうち桑田真澄、高津臣吾の両投手はすでに解雇され、サンフランシスコ・ジャイアンツの薮恵壹投手だけがメジャーに昇格した▼野茂は厳しい試練を乗り越えての再起だ。酷使した右ひじや右肩にメスを入れた。投げられない苦しみと孤独なリハビリにも耐えてきた。日本人メジャーリーガーの先達としての誇りが、野茂を支えてきたのだろう▼野茂は、メジャーで2度のノーヒット・ノーランを達成した大投手だ。通算勝ち星もメジャーだけで123勝に上る。近鉄時代の勝利を加えると、名球会入りの基準を満たす201勝だ▼今季のメジャーは、ドジャースの黒田博樹、カブスの福留孝介など新加入選手の活躍が話題だ。松坂大輔、イチロー、松井秀喜もチームを引っ張る存在だ。そこにベテラン野茂が加わり、大リーグ中継が一層おもしろくなった。願わくばヒルマン監督が野茂を先発で使ってくれないかな。(S)


4月12日(土)

●〈お尻より 怖い年金 かじり虫〉。千葉県の60代男性の句。リース大手のオリックスが募集した「マネー川柳」の入賞作だ。応募は昨年11月から今年1月にかけてだったから、後期高齢者医療制度が問題化する前だ▼だがこの句、同制度に対する高齢者の不信をずばりついている。年金からの保険料天引きが、いや応なく始まる。子供に人気のお尻かじり虫は、年金暮らしの高齢者には不安を呼び込むお邪魔虫でしかない▼後期高齢者とは心無いネーミングだと思ったからか、看板だけ長寿と書き換えた制度が新年度から始まった。しかし、対象とされた75歳以上のお年寄りの反発は止まない。制度が十分周知されていないうえ、保険証が届かないケースが続出している▼厚生労働省は10日、保険証が手元にないお年寄りが医療機関を受診する際は、運転免許証や旧保険証を提示すれば窓口で全額負担しなくてもいいと通知した。反発と混乱を恐れたドロナワ式の後処置だろう▼新制度は06年6月、小泉政権時代に法律が成立した。狙いはもちろん高齢者医療費の抑制だ。75歳以上の医療費は、現役世代の5倍の年間80万円余。膨張を続ける医療費を減らさないと財政がパンクするという理屈は分かる▼だが、肝心の負担水準が決まらず、作業着手が遅れて混乱を招いた。〈サクラ咲くたびに年金 目減りする〉(70代男性)。高齢者の嘆きと怒りは、深く静かに浸透している。(S)


4月11日(金)

●函館での夜桜見物は、明治末ごろから始まったらしい。函館公園に設置された電灯料金を函館水電が無料にしたのに続き、北海道瓦斯(ガス)も同公園のガス灯料金をタダにした、と「函館むかし百話」(幻洋社)が紹介している▼同公園のサクラは、函館の商人逸見(へんみ)小右衛門が明治の半ばに奈良県の吉野山から苗木を取り寄せて移植した。小右衛門は、函館山や亀田川堤防にもサクラを植えた。函館を吉野山のようなサクラの名所にしたいという願いがあったという▼そうした先人の努力のお蔭で、函館はサクラの名所が多い。今年は3月の気温が高かったことから、平年より5日早く28日に開花すると気象台が予想した。九州をスタートした桜前線が、約1カ月かけて道南に上陸するのだ▼サクラの季節になると、梶井基次郎の短編「櫻の樹の下には」を思い浮かべる。〈櫻の樹の下には屍體(したい)が埋まってゐる!〉という書き出しで始まる。肺結核のため31歳で亡くなった作家の空想が生んだ作品だ▼風雅を愛(め)でるのが良しとする桜花の観賞には似つかわしくないかもしれない。だが、色鮮やかなサクラを見ると、あらぬ想像をかき立てられる。もちろん梶井の空想は作品世界だけのことだ▼サクラを待つ心持ちには、あでやかさが似合う。うきうきと心が弾むのも花見の宴を思い描くからだろう。サクラの名所では、そろそろライトアップの準備が始まる。(S)


4月10日(木)

●チベットの国花といわれているヒマラヤシャクナゲは咲いただろうか。両手、両ひざ、額を大地に投げ出して祈る“五体投地”はチベット仏教の最高礼拝。信者は高地の風に揺れるシャクナゲを見ながら、何日もかけて聖地にたどり着く▼中国のチベット民族に対する弾圧への抗議暴動は北京五輪の「聖火リレー」まで巻き込んだ。ロンドンでは「チベットに自由を」と約1000人が集結し、リレー走者から聖火を奪い取ろうとした。パリ市庁舎には「世界の人権を擁護」の横断幕▼エッフェル塔前を出発して、4回も聖火の火が消され、警備のバスに運び込まれた。手錠の輪を連ねた五輪を描いた抗議の旗も。沿道の市民に見せるべき聖火が消火されたのでは意味がない。“火種”はあるというものの、前代未聞▼この後、聖火リレーは北南米、アフリカ、中東、オーストラリア、日本と回るが、サンフランシスコの金門橋に弾圧反対の横断幕やチベットの旗が掲げられた。欧米の議会では、中国かダライ・ラマ14世との対話に応じない場合には、各国首脳が五輪開会式をボイコットするよう決議案も▼ヒマラヤシャクナゲの花言葉は「危険、警戒、尊厳、威厳」。ダライ・ラマが求めているのは「独立」ではなく「高度な自治」。今回の聖火リレーのロゴ「不死鳥」は永遠、気高さ、幸福の象徴。政治にも、暴力にも振り回されず、五体投地して、話し合いを急げ。(M)


4月9日(水)

●〈どこの誰かは 知らないけれど 誰もがみんな 知っている〉。中年過ぎの方なら夢中になった子供のころを懐かしく思い出すかも知れない。テレビのヒーローだった「月光仮面」の歌いだしである▼1958年から放送され、子供たちをテレビの前に釘付けにした「月光仮面」は、川内康範さんが原作を書き、主題歌の作詞も手がけた。川内さんを一躍売れっ子にした記念碑的な作品である▼月光仮面の名は、薬師三尊の月光菩薩(ぼさつ)にちなむ。〈国や身分に分け隔てなく人々の病を救うとされる薬師如来に当時の私自身の思いを重ね、「人間愛」と「不戦」をテーマに、物語を作り上げた〉と川内さんは書いている(「おふくろさんよ」マガジンハウス)▼川内さんは、函館市の寺の四男として生まれた。父は元商人で、身延山で修行して和尚の資格を取った一代住職だったという。家は貧しく母親と布団を質屋に持っていったという逸話が残る▼小学校を出て家具屋の店員、たんす屋の職人、製氷工場など仕事を転々とした。その間も映画館に通いつめ、薄暗い中でノートに各シーンのシナリオを書きとめた。回想録「生涯助ッ人」(集英社)で紹介している話だ▼森進一さんが歌って大ヒットした「おふくろさん」は、母から教えられた生き方を書いた代表作と川内さんは言う。その歌を昨年、「もう歌わせない」と宣言した。森さんとの確執は解けないまま、川内さんは旅立った。(S)


4月8日(火)

●ガソリンスタンドにとっては、春の嵐のような新年度入りが一段落して、給油待ちの車の列も見なくなった。値下げを待ちわびていた人たちの殺到ぶりは、一過性のフィーバーみたいなものだ▼必要量だけ小分けに給油していた人たちも車のタンクを満タンにしたことだろう。函館でもレギュラー1リットルが120円前後で安定している。他店の価格をにらみ、値段の書き換えに忙しく動き回る姿もなくなった▼ガソリンは下がったけれど、身近な食料品の価格が上昇した。食用油、しょうゆ、小麦などが軒並み上がり、電気料金も続く。家計への影響は、ガソリンの値下がり分が吹き飛んで、マイナスになる家庭だってあるだろう▼本紙の取材に答えてくれた函館市内の主婦は、食費と医療費が上がることを心配していた。なるほど車を持たない家庭にとっては、ガソリン値下げの恩恵は薄い。むしろ日々の生活に直結する食費や医療費の負担増が深刻だろう▼函館市役所をはじめ自治体の窓口には、後期高齢者医療制度の相談が殺到している。2年前、小泉政権が医療費の抑制を狙いに成立させた法律だが、保険料算定方法など制度の中身が決まったのは昨年11月だ▼これでは周知期間が十分とは言えまい。後期高齢者という言い方がまずいと思ったか、長寿医療制度と言い換えるそうだ。ガソリン狂騒曲が過ぎ、今度は急ごしらえの制度の嵐が高齢者に吹きすさぶ。(S)


4月7日(月)

●雪が解けると、散乱したごみばかりでなく、人骨の一部が発見されることも多い。函館市内でも5日、白骨遺体が見つかった。千歳市で取材活動を行っていた14年前、山中から女性の頭がい骨が発見された▼千歳に赴任する際、先輩記者からその19年前に起きた誘拐事件が未解決で時効を迎えた話を聞いていた。当時中学1年の女子生徒が突然行方不明となり、千歳市役所に身代金要求の電話が入ったものの、その後は何の動きもなく、手掛かりがないまま捜査は打ち切られた▼山中の頭がい骨は簡易鑑定の結果、10代から40代の女性。ふいに誘拐事件のことが頭をかすめた。しつこく警察で取材し、当時女子生徒が住んでいた家や周辺も回った。発見の3カ月後、頭がい骨と写真を照合するスーパーインポーズなどから骨は女子生徒と確認された▼他紙の記者は誰も骨の身元など追っていない。「頭がい骨は誘拐被害の女子生徒!」。新聞の見出しを頭に描き、はやる気持ちを抑えながら警察で確認に当たったが、「まだ何も言えない」の一点張り。連日連夜、捜査幹部宅を訪ねた▼「(発表したら)大騒ぎになるかなぁ」。幹部のその一言で記事を出稿した。社会面トップのスクープ。女子生徒は父親と2人暮らしで、その父親も既に交通事故で死亡したことも報じた▼白骨が見つかると警察は身元確認に当たる。それは、一人の人間の人生を静かにたどる作業でもある。(H)


4月6日(日)

●JR岡山駅で男性を線路へ突き落として死亡させた大阪府の少年は、大学進学をあきらめた後、家出して犯行に及んだという。少年の父親が「奨学金を探すなど手を尽くしてやればよかった」と語ったと朝日新聞が伝えている▼大工だった父親は、不景気で仕事が減り、いまは派遣で働いていたという。家庭の経済状況は恵まれてはいなかったのだろう。だが大学進学が出来なかったからといって、腹いせに突き落としたのだとしたらひどく短絡的だ▼死亡した男性とその家族にしてみれば、決して許せない犯行だ。なんの落ち度もないのに突然命を奪われる。一面識もない少年の不満のはけ口にされた理不尽さは、癒されることはないだろう▼経済的な理由で進学を断念するケースは、少年に限らない。難関とされる大学や人気の高い学部に合格する学生の親は、高収入との調査もあるぐらいだから、経済的格差が子供の学歴格差につながっている面は否めない▼逮捕された少年は「働いて金をためる」とも言っていたそうだ。そこまでの気持ちを固めていたとしたら、なぜ進学を数年待てなかったのか。働きながら勉学できる夜間や通信制の大学もある▼少年を犯行に追い込んだ動機は警察の調べで明らかになるかもしれない。だが失われた命は戻らない。謝罪を繰り返す父親の言葉を読みながら進学をあきらめている多くの学生とその家族のことを考えた。(S)


4月5日(土)

●昼なお暗い境内を、ノンちゃんという八つになる女の子がただひとり、わあわあ泣きながら、鼻をすすりながら、歩いておりました…。先日、101歳で亡くなった児童文学者・石井桃子さんの「ノンちゃん雲に乗る」の冒頭▼ノンちゃんはお母さんとお兄ちゃんが出かけ、おいてきぼりをくわされて、泣きつづけたが、大病をしたノンちゃんの体を気遣ってのことと分り、後でわれながらみっともないと思った…。母と子の心を通い合わせる姿に感激、何度も読んだものだ▼八戸市で、その母と子の心を引き裂いた悲しい事件。9歳の小4男児が通院歴のある30歳の母親に電気コードで首を絞められて殺された。その男児の詩「おかあさん」が「荒城の月」の詩人・土井晩翠を記念した「晩翠わかば賞」に入賞していた。幼い言葉でつづる母への思い▼「おかあさんは とてもやわらかい ぼくがさわったら あたたかい 気もちいい ベッドになってくれる」。男児の夢「電気屋」も消えてしまった。東京では47歳の母親が4歳になる女児の首をひもで締めて殺した。「精神的に疲れていた」と▼石井さんは「長い間、本づくりにかかわってきたが、命の大切さを意識的に学ばせようと意図したことはない。自然や季節のうつろいをしっかり体感させることが、それにつながる」と話していた。わが子を暖かいベッドに戻れない子にした残忍さを嘆いているに違いない。(M)


4月4日(金)

●I have a dream(私には夢がある)と語りかけたキング牧師の言葉は、格調の高さと心を打つ内容で名演説のひとつに数えられる。中学英語の教材にもなっているから、さわりの部分を英語で記憶している方もいるだろう▼演説は1963年8月28日、約20万人が集まったワシントン大行進の際に行われた。キング牧師は「今から百年前…偉大なアメリカ人(リンカーン)が、奴隷解放宣言に署名した」と話し始める▼「しかし、百年たった今も、まだ黒人は自由ではない」と差別と貧困の実態を告発する。〈私には夢がある〉と聴衆に訴えかけるのは、演説が後半に入ってからだ。キング牧師の言葉はアメリカの良心を揺り動かし、翌年の公民権法制定に結実する▼インド独立の父マハトマ・ガンジーに啓発され非暴力抵抗運動を組織して黒人差別と戦ったキング牧師は、64年にノーベル平和賞を受賞した。だが、それから4年後、テネシー州メンフィスで遊説後に暗殺された▼きょう4日は、キング牧師が凶弾に倒れてから40年に当たる。その演説集は日本でも翻訳出版されているほか、映像でも見ることが出来る。心の奥底からわき出る言葉には、ひとを動かす力があることを示す好例だ▼さて、日本の政治家から最近、記憶に残る言葉を聞いただろうかと考えた。寂しいけれど思い浮かばない。引き比べてキング牧師の演説は、輝いていた。(S)


4月3日(木)

●ガソリンの値引き合戦は、函館市内の大半のスタンドに及んだ。何であれ、安いに越したことはない。臥牛子は月に約80gを給油するので、リッター当たり25円安くなると2000円、暫定税率が廃止されると年間で2万4000円も浮く。だとすれば非常に助かる▼だが、待てよ。ガソリン税などは道路整備だけでなく、維持補修や除雪に充てられる特定財源だ。国全体の道路特定財源は2008年度で5兆4000億円。そのうち2兆6000億円が暫定税率分だ。問題は25円を取る、取らないの世界だけではない。このまま失効すれば2兆6000億円の歳入不足をどう賄うのか、全く伝わってこない▼そもそも、34年も続いているものを「暫定」と呼び、1999年に導入された定率減税は「恒久減税」と言いながら2007年に廃止。「暫定」と「恒久」という日本語の永田町基準が、国民にとっては全く理解不能である▼使われ方も問題だ。やれマッサージチェアだ、高級カラオケセットだ、などと、道路とは全く関係ないものの購入にも充てていたとあっては、非難以前に脱力感すら覚える▼福田首相は「政治のツケ」を国民に押し付ける結果となったことを陳謝。民主党の小沢代表は勝利に攻勢を強める。道南は道路整備が遅れている。暫定税率の行方も心配だが、穴埋めする財源がなく、穴のあいた道路を埋めるお金もないようでは困る。(P)


4月2日(水)

●春の異動シーズンも一段落し、新しい仕事場に慣れようと懸命な転勤族、社会人として一歩を踏み出し、先輩の指示に右往左往している若者も多いだろう。職場での歓迎会も早々に開かれるはずだ。酒を交わすことで話が弾み、打ち解けていくこともある。ただ、飲酒運転は絶対に許されない▼昨年9月、改正道交法が施行され、飲酒運転の罰則が強まった。運転した本人は当然、運転すると知りながら酒を飲ませたり、車を提供した側も厳重に処罰される。飲酒運転の車に乗ったら「同乗罪」が適用される。酒酔い運転は5年以下の懲役か100万円以下、酒気帯びは3年以下の懲役か50万円以下の罰金▼酒の提供者や同乗者は2、3年以下の懲役か30ー50万円以下の罰金だ。改正のポイントは運転者への罰則強化、周辺者への罰則新設。東京都内で1月、飲酒運転の車が街路樹に衝突し7人が死傷した事故では、東京地検が3月31日、車を貸した女を道交法違反罪で在宅起訴している▼こうまで締め付けなければ飲酒運転がなくならないというのも情けない話だが、それでも摘発が後を絶たない。道南でも逮捕者が相次いでいる。安易に考えた時点で、人生を棒に振ってしまうのだが…▼摘発された社員や職員らに、企業なども社会的責任として厳しく対処し始めている。家族や大切な人のために、酒を飲んだら運転しない、させないという誓いを。代償はあまりに大きい。(H)


4月1日(火)

●GNP(Gross National Product、国民総生産)は、経済活動を示す物差しとして世界的に使われる。日本でも新聞、テレビなどに登場するから見たり、聞いたりした方が多かろう▼だがGNHとなると、なんだろうと小首をかしげる。国際的な経済指標にはもちろん採用されていない。将来も普遍的な基準として使われることはまずない。それでも何となく気になるのがGNHだ▼実はGNHは、ヒマラヤの秘境ブータン王国のワンチュック国王が唱え始めた。HはHappiness(幸福)を表す。つまり「国民総幸福量」と訳されるのがGNHだ。経済的な豊かさは、必ずしも幸せとは一致しない▼その当たり前のことに目を見開かされるメッセージが、GNHにこめられている。世界第二位の経済大国・日本と比較すると、ブータンは150位以下の経済規模だ。自動車産業もなければ新幹線も走っていない▼だが、仕事や勉学などに忙しく日々を送る豊かな日本と、最後のシャングリラ(桃源郷)とされるブータンに暮らす人々とどちらが幸せかと考えると答えが出ない。幸せの尺度はおそらくないのだから▼そのブータンで初の国民議会選挙が行われた。1世紀にわたった王室統治が終わり立憲君主制が実現するとともに民主国家に移行した。人口55万人、九州ほどの面積の山国に新しい風が吹く。風は、いっそうの幸福を呼び込む風だろうと思う。(S)


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