平成21年10月


10月31日(土)

●2006年6月に大韓航空が函館—ソウル便を開設した本当の狙いは何か。北海道ブームや観光客誘致はもちろんある。しかし航空関係者によると、仁川空港を経由して同じ大韓機で海外へ飛ぶ客を函館から確保することだった▼海外に飛ぶ際、羽田から成田への移動が必要。しかし成田へのアクセスは世界の主要空港の中で最も不便といわれている。だが、仁川を経由すると、函館空港でスーツケースを預ければ、身ひとつで世界どこへでも飛べる。そうした戦略で大韓航空は日本の16空港と仁川空港を結んでいる▼自転車のハブは、車輪の中心。ハブと車輪を結ぶスポークが路線に似ていることから、エアラインが集中する空港をハブ空港という。前原国土交通相は「羽田のハブ空港化」構想を打ち出した。その背景には、仁川や上海などのアジアのハブ空港に日本の海外旅行客が奪われている国際競争の現実がある▼しかし、全日空のあるパイロットは、この問題は仁川空港が2001年に開港する前から航空業界で指摘されていたという。国内線は羽田、国際線は成田とすみ分けしているうち、海外のエアラインに乗客を奪われてしまった▼飛行機の命は「乗り継ぎ」。羽田と成田のように、これがうまくいかなければ乗客は離れてしまう。成田ができた複雑な経緯はあるにせよ、日本航空の経営難は、こうした国策の失敗も背景にあるような気がする。(P)


10月30日(金)

●有珠山のふもと、伊達市の善光寺を訪れた。江戸幕府が直轄した蝦夷三官寺の一つ。建造から200年を経た木造の本堂と庫裏が並び、かやぶき屋根と白い壁は昔話に出てきそうな雰囲気だ▼浄土宗の寺院だが、伝承によると比叡山の僧円仁(慈覚大師)が826年、自ら彫った阿弥陀如来の本尊を安置したのが始まりという。開基については後世の仮託だろうが、天台僧が開いたという内容は興味深い▼円仁は現在の栃木県出身で、若い時、東国を巡行した。そのため東北地方には松島の瑞巌寺や山形の立石寺などに数々の開基伝説がある。本州での伝承の北限は青森県恐山だが、道内にも唯一、有珠善光寺にある▼9世紀初頭に最澄が開いた天台宗は、東国への布教に力を入れた。道教育大の佐々木馨教授(日本中世宗教史)の研究によると、比叡山のトップとなる天台座主は、初代から七代までのうち5人が東国関係者という。その中の1人が第三代座主の円仁だ▼佐々木教授は、古代天台宗の東国伝道、当時の北東北と蝦夷との関係、有珠善光寺の伝承などから、10世紀には北海道に仏教が伝来した可能性があることを指摘する▼有珠善光寺の創建自体は江戸時代だから、円仁はまさに伝説の人。だが、円仁の東国巡行が天台宗の蝦夷地布教の足がかりとなったことは確かだろう。秋の陽光が注ぐ善光寺の参道を歩き、歴史と伝説は切り離せないと思った。(P)


10月29日(木)

●緒形拳が逝って1年。NHKは26日から3夜連続で、この名優の特集を組んだ。放送されたのは、ドラマ「破獄」、舞台「白野—シラノ—」、映画「長い散歩」の3作品。どれも緒形の主演だが、「白野」はひとり舞台だから、主役も脇役も緒形一人でこなす▼膨大でありながら流れるようなせりふ回し。鬼気迫る演技力。番組は2006年に東京で収録されたものだが、同じ年に見た札幌公演とは違う趣があった。緒形のアップを多用するテレビ映像の迫力と、客席の息遣いを感じることができる生の舞台。どちらの魅力も捨てがたい▼放送後に披露された逸話も印象深かった。緒形の遺作となったドラマ「風のガーデン」の脚本家・倉本聰は、緒形を評して「人たらしの笑顔」と言った。ドラマで共演した俳優・中井貴一は緒形が言葉少なだったことを挙げ、「役者は仲良しごっこではない」ことを実感したという▼前置きが長くなった。言いたいのは、こうした良質の舞台を函館でも数多く見たいということだ。過去には、緒形主演の舞台「ゴドーを待ちながら」が市内の金森ホールで上演された。あのときは古い倉庫の雰囲気が演出に一役買っていた▼函館は映画が似合う街である。それなら舞台もと思う。演劇が身近な存在になれば、地元文化の底上げにもつながるはず。札幌や東京だけが文化の拠点ともてはやされることに、少々いら立ちを覚える。(K)


10月28日(水)

●読書を大切だと考える一番の理由に小学生、中学生とも「知らない言葉や漢字が覚えられる」を挙げているが、雑誌離れが目立つ。小学生の雑誌の1カ月の平均読書量は4・8冊で昨年を0・2冊下回った(毎日新聞の読書調査)▼その小学生が87年間も愛読していた学年別学習雑誌「小学五年生」と「小学六年生」(小学館発行)が本年度いっぱいで休刊する。机に男女が向かう学年誌のシンボルマークで親しまれ、「ドラえもん」など人気まんがも人気を集めていた▼かつて創業者が「出版も活字だけではなく、音とか映像とつながったり、別のものとつながったり、その中で生きていくでしょう」と予言したことが現実となった。子どもたちの学習環境が激変し、情報などの多様化・細分化も活字離れにも拍車をかけている▼読書週間初日の27日は「文字・活字文化の日」。子どもはもちろん、言語力を向上させようというものだが、今年も「この1カ月に本を一冊も読まなかった人は53%で前年を7ポイントも増え」「読む時間がない」(読売新聞)の傾向が続いている▼今はケータイ小説ブームだといい、昨年まで学習雑誌を読んでいた中1の孫娘もはまっている。「ネットで読書」もいいけど、良書を読めば読むほど心が鍛えられる。まず、箱館戦争を織り込み開拓の夢を抱く青年を描いた「風の橋」を読んでみよう。孫には「余命1ケ月の花嫁」を買ってやろう。(M)


10月27日(火)

●遠来のお客さんが函館で1泊となると、函館山からの夜景は案内に欠かせない。お客さんも期待している、ということもあるが、せっかく来てくれたのだから、その素晴らしさを脳裏に残して帰ってほしい、という迎える側の気持ちも働く▼先週末もそうだった。あいにくロープウエイが定期点検のため休止中。その代わり、普段は規制されるマイカーの乗り入れが認められているということで、夕食後、車を走らせた。夜景には格好の季節であり、空模様も申し分なし▼「きょうはきれいだよ」と語りながら登山口から順調に登っていくと、何と渋滞の列。五合目付近だったが、動かない。情報発信は観光の命であり、いかに的確に求められる情報を提供するか、は鍵の一つ、函館でも取り組みは進み、夜景情報も出されている▼確かに登山道の渋滞情報は、普段は必要ない。だが、現に乗り入れを容認している時期は、別途の対応があって然るべき。幅員はぎりぎり、いらいらしたところで、Uターンすることもできない所である▼その時にどの程度の詰まり具合で、(頂上の駐車場まで)どのぐらいかかりそうか、が分かれば。「何カ所かに手書きでも、そんな情報表示があると(気持ちが)違うのにね」。結局、頂上まで要した時間は1時間あまり。疲れは素晴らしい夜景が癒やしてくれたが、だからと言って、その指摘が帳消しになるわけでない。(A)


10月26日(月)

●小中学校の音楽の時間を通じ、モーツァルト、ベートーベンと並ぶ古典派の“巨匠”として教えこまれたハイドンが、今年で没後200年を迎えた。2006年のモーツァルト生誕250年には、数多くの記念イベントで盛り上がったものだが、今年は実にひっそりとしている。果たしてこの“巨匠”は本当に名曲を残したのだろうか▼音楽の時間には「おもちゃの交響曲」や「セレナーデ」を代表曲として聴かされたが、驚くことに今ではこの2曲はハイドンの作品でないことが分かっている。前者はモーツァルトの父親レオポルトの作品をハイドンが編曲したもので、後者はホフシュテッターという人の作品を、ハイドンの知名度にあやかろうと出版社が楽譜を偽装したと言われている▼現代ならどちらも著作権法に引っかかる事例だが、この当時は日常茶飯事。そういえば「モーツァルトの子守歌」として愛されていた作品も、実はフリースという作曲家の手によるものだった▼話がそれたが、海外でのハイドン人気は日本とは比較にならない。特に評価が高いのがオペラやオラトリオ、ミサ曲などの声楽曲。「天地創造」「四季」「ネルソンミサ」「ハルモニーミサ」などが持つ圧倒的なスケール感や緻密な構成力は、言葉が分からなくても十二分に堪能できる▼教科書の中の“巨匠”から日本人に愛される“巨匠”として扱われる日が来ることを願いたい。(U)


10月25日(日)

●新型インフルエンザの流行が続いている。関係機関は当初、患者数のピークを10月とみていた。ところが、感染の拡大はとどまるところをしらない。函館市内ではマスク姿の市民が目立ち、病院や診療所の小児科は受診の子どもたちでごった返している▼我が子が体調を崩しても、数時間待ちの病院には連れて行けない。ぜんそく持ちだが、ワクチンの優先接種は守られるのか—。住民の間で不満と不安が交錯する。政府の対応は後手に回り、流行と対策に関する情報も不足しがちだ。医療現場の混乱はすぐさま住民に伝わる▼その影響を最小限に食い止めようと、地方が立ち上がった。函館市医師会と渡島医師会は、25日から休日の診療体制を拡充する。函館、北斗、七飯の小児科休日当番医を1カ所増やして2カ所に、市夜間急病センターでは日曜・祝日の内科医師を1人増員して計4人で対応する▼新型インフルエンザワクチンの予防接種も始まった。道内の病院では十分な量が行き渡っていないという。道南も例外ではなく、このことが住民不安を助長する結果につながっている。各病院・診療所では医師、看護師らの接種順位を決めるなど、冷静な対応が目立つ▼地方に自衛を強いることは、政府の本意ではないはず。情報を速やかに開示し、地方による対応のばらつきを解消することが急務だ。“泥縄式”では、この流行に立ち向かうことは難しい。(K)


10月24日(土)

●出身高校の校歌を完全に歌いきれる人は、そう多くはないだろう。愛校心を測る尺度などというつもりはない。卒業から何年たっているかにもよるし、そもそも「在校中から歌詞を覚えていない」という強心臓もいるかもしれない▼「北海道高等学校 校歌全集」(くま文庫、月刊クォリティ編集部・北海道メディア研究編)という本を手に取った。「函館」から始まる高校は、全8集のうち⑥に収められている▼同書にもあるように、それぞれの歌詞には郷土愛、若者へのエールなどが随所にちりばめられている。青春の思い出に浸るもよし、他校のものと比べるもよし。楽しみ方はいろいろだ▼ぱらぱらとめくるうち、函館大妻高校のページで手が止まった。「恥を知れとの言の葉を 常に心にとめおきて 正しき道の一すぢを 進むもうれしもろともに」。二番の歌詞にある「恥を知れ」は、校訓にもなっている。どういう意味があるのか。そう思っていたところ、本紙のインタビュー記事に答えを見つけた▼函館大妻学園理事長に就任した西野鷹志さんは言う。「『恥を知れ』という校訓はどきっとするが、真意は『自分に恥じることはするな』」。開学以来「しつけ教育」に重点を置く独特な校風が、ここからもうかがえる。同校の校歌が制定されたのは、開学と同じ年の1924(大正13)年。風雪を経た校歌には、“温故知新”の精神が宿る。(K)


10月23日(金)

●サル好きで店名にチンパンジー、マントヒヒ、オランウータンと名付けていた知人がいた。サルといえば「反省だけならサルにでもできる」とCMにもなった猿回しの次郎の「反省ポーズ」が懐かしい。3代目まで続いたが…▼先日、見返りなしに仲間を手助けするチンパンジーの姿が放映された。京都大学霊長類研究所などの研究チームが、窓でつながった透明の部屋に1頭ずつ入れて、外にあるジュースを手にできる1頭にはストローを、ストローがあれば飲める1頭にはステッキを与えた▼6つのペアで24回ずつ実験したところ、約60%の確率でストローとステッキなど道具の受け渡しが見られた。窓から「ステッキ貸してよ。ジュースをたぐり寄せるから」「たぐり寄せたけど、ストローが…」と話しかけたのかな▼1頭だけに道具を渡したケースでも大半が相手に渡していたという。見返りなしに困っている仲間に手を差し伸べている姿勢には感銘を受けた。かつては、塀ごしに「味pクを切らした」「お米を貸して」と隣同士で助け合ったものだ▼電車やバスのなかで立っている高齢者や妊婦たちに積極的に席を譲る光景が少なくなった。情けないけど、チンパンジーのように60%もいないのではないか。悪いことをして、反省はポーズだけという偉いセンセイもいた。友愛政権は苦境の国民に手を差し伸べ、助け合う国づくりに全力投球だ。(M)


10月22日(木)

●本マグロがうまい季節を迎えた。たっぷりと栄養を取って大きくなったマグロは脂がのり、冬に向けてさらにうま味を増す。刺し身を酒のさかなに、また赤身やトロをすしで…。食する人に応じた多彩な楽しみ方があるのも、マグロの魅力だ▼本マグロといえば「大間マグロ」が全国的に有名である。その味の良さは専門家も認めるところで、最近はテレビ番組での露出も増えた。その大間を相手に、函館の「戸井マグロ」が健闘している。戸井の方に「日本一」の軍配を上げる市場の目利きも多いと聞く▼津軽海峡を挟んで向かい合う大間と戸井では、漁法が異なる。一本釣りが多い大間に対し、戸井では船団がはえ縄漁を展開する。捕ったマグロを船上で即座に処理するのが「戸井方式」で、これによってマグロの“身焼け”を防ぐことができるという▼戸井マグロを広くPRするTシャツが出来上がった。戸井漁協が作製、自ら販売に当たっている。後ろに「最高級」とプリントするあたりに、マグロ市場を担おうという心意気を感じさせる▼函館市勢要覧によると、同市のマグロ漁獲高は約10億6500万円(2007年)。290㌧の漁獲量でこの金額は、マグロがいかに“高級魚”であるかを物語る。質の高さで戸井マグロに分があるのであれば、知名度アップを漁協だけに任せるわけにはいかない。行政を含む戦略的な取り組みに期待したい。(K)


10月21日(水)

●作家・山崎豊子さんの小説が相次いで映像化されている。「白い巨塔」「華麗なる一族」「不毛地帯」などがそれだ。最近では「沈まぬ太陽」(新潮社)が映画化され、話題を集めた。軽く薄いものが好まれる昨今、重厚な山崎作品に光が当たることに意外性を感じる▼「沈まぬ太陽」は映画化が難しいとされてきた。原作の舞台がアフリカにも及ぶ壮大さゆえ、というのが理由の一つ。それ以上に、モデルとなった日本航空(JAL)の暗部を描いた小説であることが、映像化を遠ざけた主因とされる▼小説では、航空会社の労働組合委員長を務める主人公が、経営陣と激しく対立。アフリカへの左遷人事、ジャンボ機墜落の遺族係、会長室勤務と物語は進む。“モデル小説”に虚実は付きものだが、このことが小説をめぐる後の論争につながった▼週刊誌での連載当時から、JALが小説の内容に強く反発。一時は機内サービスからこの週刊誌が消えた。ドラマ・映画化に当たっても構想、中止が繰り返されてきたという▼そのJALが経営危機にさらされている。小説ではなく、現実の話である。経営再建に向けた政府の動きも慌ただしさを増す。国民の血税である公的資金投入の是非が焦点の一つだ。JAL側は、この時期の「沈まぬ太陽」の映画化をさらなるイメージダウンと取るか、それとも関与の余裕さえ失したか。映画は24日に公開される。(K)


10月20日(火)

●昨年のこの時期、日本はノーベル物理学賞と化学賞合わせて一度に4人の受賞者が誕生した話題で持ちきりだった。しかし、自国の受賞者がいない今年は驚くほどにノーベル賞の話題が盛り上がらない▼実は今年も有力な日本人受賞候補がいたことをご存知だろうか。ここ数年必ず名前が挙がる作家の村上春樹氏だ。イギリスのあるブックメーカーも、掛け率を昨年の11倍から10倍に下げるなど前評判は高かったが、彼の名前は呼ばれなかった▼一方で、老舗の予想屋もノーマークだったのが、平和賞を受けたアメリカのオバマ大統領。国連で可決された「核兵器なき世界」の提案が受賞の決め手と見られるが、まだ何も実績を挙げていない状態での決定には、世界中が首を傾げた▼これを世界平和を願う(ノーベル賞)委員会の戦略と見る考えもある。自国の利益を優先して世界の治安をかき乱し続けたブッシュ政権がようやく終えん。オバマ氏も就任直後こそ立派な言葉を並べているが、いざとなると『世界の警察』の旗を掲げて暴走する不安はぬぐえない。そこで最初に大きなご褒美を与えることで、乱心を防ごうという寸法だ▼かつて「非核三原則」を表明し平和賞を受賞した佐藤栄作元首相が、実は日本への核持ち込みの密約をアメリカと結んでいたと言われるぐらいだから(現在も日本政府は密約の存在を否定)、その効力は疑わしいものではあるが…。(U)


10月19日(月)

●1兆円とは、どれくらいの金なのか、庶民には想像がつかない。毎日100万円ずつ使ったとして3000年もかかる計算。タイムマシンで古代ギリシャやローマに行って使い始めたとしたら、今秋には金庫の底が見えてくるという▼鳩山政権が「コンクリートから人へ」「無駄遣い根絶」をうたい飛び立って、1か月後にたどり着いたのが「95兆円」という巨大な数字。そう、2010年度予算の概算要求だ。「1兆ヨイクニ(良い国)」といわれた半世紀前の国家予算のなんと95倍(09年度当初より6兆5000億円増)▼「88・5兆円以下に押さえ込め」という首相の指示をよそに、各省は「マニフェスト至上」とばかりに、あれもこれもと積み増し。財源の手当てを欠く“メタボ予算”ではないか。09年度の補正予算を3兆円を削ったカンナではなく、大ナタでバッサリ削らなければ▼税収の落ち込みで歳入不足は目に見えており、過去最大の50兆円の赤字国債で穴埋めするしかない。これまでの国の赤字国債は約860兆円。日本の借金は「1秒に47万円」ずつ増えているのだ▼そのツケを払わされるのは子どや孫の世代だ。ダムの建設中止結構、子ども手当て結構、高速道無料結構…。また、ヤミ金融の犠牲になる中小企業が増えてきた。景気を回復させ、税収につながる企業対策も急務ではないか。ハトが「クークー(苦苦)」と鳴かないためにも。(M)


10月18日(日)

●鳩山内閣が来年度予算の概算要求をやり直したところ、北海道新幹線札幌—長万部を含む新規着工3区間の事業費計上が見送られた。民主党は整備新幹線に消極的とみる声もあったため、ある程度は予想されたことだ▼しかし、札幌延伸の事実上の凍結は、函館市や道南をはじめ、道内関係者に衝撃を与えた。それは隣県の青森県も同様だろう。青函開業に向け、青森県は道新幹線着工時に720億円の地元負担を約束している▼2005年5月22日の道新幹線着工記念式典での三村申吾青森県知事の祝辞を思い出す。「新幹線がライラックのもとを走る日を待ち望みます」。含意は「青森も大きな地元負担を飲み込んだので、早くライラックが咲く札幌まで延伸して」だろう▼青森側としても、道新幹線は政令市の札幌と結ばれることで、多額の地元負担を補う恩恵を受ける。当時、関係者からは「青森の負担は札幌延伸を条件とするようなもの」という声が聞かれた。仮に札幌延伸がなくなれば、青森県の負担金は誤算となってしまう▼前原国土交通相は新規着工3区間について「白紙とする」と語った。前原大臣は地元が多額の負担をした八ッ場ダムの中止も表明したが、中止ならば東京都などはこれまで負担した事業費の返還を国に求める構えだ。今回の札幌延伸問題で、場合によっては青森県も同様の動きをするのではないかという不安が頭をよぎった。(P)


10月17日(土)

●プロとアマチュアのチームがともに争うサッカーの天皇杯。トッププロ(J1)の浦和が社会人チームに敗れるなど、波乱が続いた。ファンに夢を与えるプロである以上、敗北は責められるが、勝負に「絶対」は無いということを物語った▼プロとアマの差が一番大きいスポーツは相撲であろう。大学相撲部から鳴り物入りで入門し、横綱昇進が有望視された力士でさえ、三役の壁に跳ね返された現実は多い。1998年のアマチュア横綱の加藤精彦は高見盛として土俵をにぎやかにしているが…▼野球は高校生投手が即戦力の期待通りの活躍を見せており、サッカーは格下に屈するチームが続出。囲碁では平成生まれの井山裕太八段が名人となった。つくづくプロという実力社会の厳しさを感じさせられる▼一方で、アマの世界でも、レベルの高さに驚かされることが多い。写真ではキャリアが少ない女性や若者たちの台頭が雑誌などで目立つ。「これ、きれいだと思って撮りました」と感性を素直に表現している。容易に撮影できるデジカメの普及のおかげかもしれない。函館でも傑作が増えている▼17、18の両日、函館市青年センターで素人落語会が開かれる。こちらはベテランのアマがそろう。客を引きこむ話術から生まれる客席の雰囲気は本場の寄席並みである。古典芸能に触れて感性を磨き、笑って健康になる。そんな秋のひとときを過ごしてみようか。(R)


10月16日(金)

●紅葉の季節を迎えた。本紙でも、七飯町の大沼国定公園と、森町の鳥崎渓谷八景の紅葉を掲載した。赤や黄の葉が秋の陽光に映え、芸術作品を見る趣がある。四季がはっきりした日本に生まれてよかった、と思わせるひとときだ▼そもそも紅葉はどのようにして起こるのか。その仕組みは気象庁のホームページに詳しい。要約すると、木は本体を低温から守るため、葉の根元と枝の間に離層というコルク状の物質が形成される。これができると、葉と枝の間で養分や水分の交換が停止する。その後、葉の糖類が日の光を浴び、赤い色素に変化していく▼理解できないことはない。だが、その仕組みは情緒とは無縁である。紅葉を愛でる一方で、「葉緑素が分解されて…」と頭をめぐらせるのは無粋というものだ。仕組みは知識だけにとどめ、できれば理屈抜きでその美を感じ取りたい▼「紅葉の美しさはやがて散ってゆくという滅びを前提としている。それは秋という季節の、華やかさの裏にある寂しさそのものでもある」(講談社・新日本大歳時記)。春を彩る桜にも同じことが言えそうだ▼函館市内にも紅葉の名所は多い。香雪園、函館公園、赤川ダム…。これからが見ごろだが、葉がうっすらと色づき始めたころの「薄紅葉(うすもみじ)」も捨てがたい。好みの鑑賞時期や場所は人それぞれ。つい見とれてしまう恐れもある。車の運転にはくれぐれも注意を。(K)


10月15日(木)

●子どもたちの命が脅かされている。凶悪事件だけではない。日常の生活圏の中にもその危険は潜んでいる。13日には、札幌市内の古書店で本棚が倒れ、小学5年と中学3の姉妹が被害に遭った。本棚に挟まれた妹は意識不明の重体という▼書店の本棚に関しては、設置基準となる法律がない。そもそも本棚が倒れるという事態を想定していないからだろう。だが、書店の本棚は倒れるのである。地震などの災害がなくてもだ。今回の事故がそれを教えてくれた▼法律がなくても転倒防止策を施す書店は多い。本棚の下部の幅を広くして座りを良くしたり、本棚自体を金具で固定したり…。目に見えにくい、こうした安全対策があって初めて、客はゆったりとした気持ちで本を選ぶことができる▼道内の大手家電量販店での事故も記憶に新しい。子どもが店内のエスカレーターに手や指を巻き込まれる事故が相次いで発生。このうち1人は指を切断したが、その後の手術で接合した。普段足を運ぶ身近な場所であっても、常に危険を意識しなければならないことを痛感した事故だった▼エスカレーターもそうだが、今回の本棚転倒事故では、徹底した原因解明と再発防止策の構築が望まれる。一方で、設置基準を設ける論議の契機にもなってほしい。本棚の固定状態や本の収容状況など、決めるべきことは少なくない。書店がいつまでも憩いの場であるために。(K)


10月14日(水)

●歴史の浅い北海道では「老舗」と呼べる名店が少ない。単に歴史の古さを競っても意味がないし、自称「老舗」は特に信用できない。ただし、ここ道南地方は例外のようである。その多くは地元住民、さらに全国からの支持を勝ち得ている▼七飯・森町方面をドライブした。まず大沼公園のにぎわいに驚かされた。特に混雑が目立ったのは、「元祖 大沼だんご」が人気の店「沼の家」(ぬまのや)。レジ前は長蛇の列だったが、店員のてきぱきとした対応のおかげで、時間をかけずにだんごを買うことができた▼「沼の家」の創業は1905(明治38)年。1世紀以上もだんごを作り続けている。一つの折で二つの味を楽しむことができ、あえて団子をくしに刺さないのが特徴だ▼森町では「いかめし阿部商店」のいかめしを目指した。ところが、正午を回ったばかりというのに、既に「完売」。肩を落とすのと同時に、不動の人気ぶりに感服した。同店は1903(明治36)年に創業。いかめしの知名度が全国区になった今も、“本家本元”の地位は揺らいでいない▼扱うものは違っても、二つの店に共通するのは、昔から頑固に守り続けている味。そこには、観光客だけでなく地元からも信頼される店、という共通の理念がある。ドライブの途中、国道沿いの店舗前に車があふれていた。ハンバーガーの「ラッキーピエロ」。ここもまた、楽しみな老舗候補である。(K)


10月12日(月)

●「僕らが生まれてくるずっとずっと前にはね、アポロ11号は月に行ったっていうのに…」——。人気グループ、ポルノグラフィティが1999年にヒットさせたデビュー曲の印象的な一節だ▼これを聞いた時「今の若者にとって人類の月面着陸は、もはや過去の歴史的事実に過ぎないのか」と時の流れを痛感した。それからさらに10年。アームストロング船長が人類にとって大きな一歩を月面に刻んでから今年で40年となり、若者のみならず総人口の半分がアポロ以後の世代になってしまった▼しかしこの間、人類は月より遠くの天体に足を踏み入れていない。子どもころ読んだ科学雑誌では「21世紀までに月面に宇宙基地が完成し、人々は火星や金星、木星などへの惑星間旅行を楽しむようになる」と予測していたのだが、現在実現している民間人用宇宙ツアーは、一人数十億円の費用で、地球の衛星軌道上を回るのが精いっぱい▼NASAは9日、月の南極に無人探査機を衝突させた。衝撃で舞い上がったちりを観測することで、月に水が存在するかどうかが確認できるという。人間が地球外で長時間活動するために必要な水が発見されれば、月面基地建設の夢も大きく前進するかもしれない▼果たして、僕らが生まれてきた時代に僕らは月に行くことはできるのだろうか。地球上同様に環境破壊を繰り返すだけならば、行けないままのほうがいいかのもしれない。(U)


10月11日(日)

●黒澤明監督が好きで、その作品の多くを見た。後期の映画は劇場で、初期のものはDVDなどをレンタルした。ただし、熱烈なファンだとこうはならないようだ。作品群を手元に置いておきたい、という“収集派”は黒澤ファンに限らず多い▼「生きる」「羅生門」「姿三四郎」など黒澤監督の名作が、格安DVDとして売られた。著作権をめぐる訴訟の端緒である。注目された最高裁の決定は、格安DVD販売会社側の上告を棄却。販売に“ノー”を突き付けた▼著作権の保護期間が争点となった。黒澤監督を著作者の一人とした上で、現行著作権法(公開後70年間)と旧著作権法(死後38年間)を比較。旧法の規定を適用したことで、該当する黒澤作品の著作権は2036年まで継続することになった▼折しも、著作権法をめぐるもう一つの判決があった。同法違反のほう助罪に問われた、ファイル交換ソフト「ウィニー」の開発者が高裁で逆転無罪に。「(開発者は)著作権侵害を勧めていない」というのが判決理由だった▼ウィニー流行後も別のファイル交換ソフトが複数開発された。今も映画などの違法コピーに悪用されているという。格安DVDの販売には「待った」がかかったが、見ようと思えばただ同然で作品を入手できる環境に変化はない。著作権問題は「いたちごっこ」と言われる。残念ながら、難題解決の糸口はまだ見つかっていない。(K)


10月10日(土)

●道路整備に必要なのはまず財源だが、黙っていても工事は進まない。地域にとってその道路がいかに価値を持ち、安全で快適な生活につながるかを訴え、熱意を示すことで予算付けされる▼きょう開通する道縦貫自動車道八雲IC—落部IC間16・0キロは、新幹線時代に対応した高速交通網の整備に大きな役割を果たす。国道5号の代替ルートとなるほか、医療・経済圏が広がり、防災面でも効果を発揮する▼函館市でも道路建設へのアピールが続いている。南茅部地域で長年の懸案となっている国道278号尾札部道路(尾札部—大船間14・75キロ)の整備促進に向け、地元の町会や市などでつくる建設促進地域協議会が、今年も「盛土遺構」の再現に取り組むことを決めた▼盛土遺構は縄文人が使用しなくなった土器や石器などを丁重に廃棄して重なった地層。大船遺跡で復元が進められており、昨年初めて同協議会が再現に取り組み、地域にとってバイパス整備が縄文遺跡を生かした観光振興にも欠かせないことをアピールした▼地域では国宝「中空土偶」を展示する市縄文文化交流センターの整備も進められている。同センターは2011年度の開館予定で、同バイパスが重要なアクセス道となる▼民主党政権下で、道路整備は今後、真に必要な事業だけが行われるとの見方が強い。縦貫道などと合わせ、あらゆる観点から整備の必要性を訴えることが必要だ。(P)


10月9日(金)

●桃から生まれ、イヌ、サル、キジを連れて鬼退治に向かう「桃太郎」。桃太郎からきびだんごをもらい活躍する動物たちとの関係は「ご恩と奉公」「恩賞と忠誠」を表しているといわれる。昔話には日本固有の信仰の姿が込められているが、桃太郎は奥が深い▼なぜお供は犬たちなのか。陰陽五行説では、桃は五行の金に対応する果実で、対応する方位の干支(えと)の動物であるという。儒教的な思想では、イヌは「仁」、サルは「智」、キジは「勇」の象徴だという▼小学1年の時、学級の発表会は桃太郎だった。先生は「犬はにおいで鬼を探し、猿は鬼退治の方法を考え、光り物の好きな雉が最初に攻撃する。鬼の演技で舞台が盛り上がる」と説明し「みんなで力を合わせて芝居をするぞ」という気持ちにさせてくれた▼最近、あるコマーシャルが話題だ。お遊戯会に遅れそうな桃太郎に扮した園児を、親が「主役、主役」と急がせる。その晴れ姿を撮影しようとしたら、舞台横一列に桃太郎がずらり。親は「全員主役…」。驚きの表情を見せる▼函館の舞台製作者は「配役を決めるのに、以前にはなかった神経を使う」と話す。役に不満な子どもが親に頼み、親がクレームを付けることがあるらしい。「あのコマーシャルは現代の親と先生との関係の象徴に思える」と話す。「桃太郎誕生」の著者・柳田國男氏は“舞台は全員桃太郎”の深層をどう考えるだろうか。(R)


10月8日(木)

●俳人・高浜虚子はよほどリンゴが好きだったのだろう。「食ひかけの林檎をハンドバッグに入れ」と詠んだ。一説では、胃弱のせいで片時もリンゴを手放せなかったらしい。“携帯食にリンゴ”という虚子にとっての必然も、その光景を想像するとほほえましい▼リンゴには滋養がある。子どものころに風邪を引くと、すったリンゴを食べさせられた。食欲がなくても、不思議とのどを通った。元気なときは丸かじりがいい。小気味よい音と食感は、この果物ならではの醍醐味(だいごみ)である▼リンゴを材料にした加工品も多い。パイなどの菓子やアルコール飲料が代表的だが、料理にも使われる。函館大妻高校の生徒たちが、リンゴの創作料理発表会に挑戦した。取り組み自体も珍しいが、ひときわ目を引いたのが斬新なメニューの数々だ▼ギョーザやグラタン、さらに「豚肉のリンゴ巻き」なる一品も。取材記者が生徒に伝授されたレシピによると—。バターでいためたリンゴに豚肉を巻く。さらにバターでいためた後、しょうゆ、みりん、砂糖で作ったたれをからませる▼出来上がった料理はごはんにも合うという。ミスマッチが醸す妙であり、生徒が創作料理をうたった理由もここにある。幸い、七飯町というリンゴの産地が身近にある。ぜひ今晩の食卓でお試しを。これらの創作料理を虚子が口にしていたら、リンゴ好きがさらに高じていたかも。(K)


10月7日(水)

●収穫の秋に貧乏話は似合わないかも。でも、「はたらけど はたらけど…」の石川啄木は借金だらけで貧乏だった。青春時代、母と妹のため忍耐強く働いた樋口一葉も貧乏だった。放浪の俳人、種田山頭火もいつも貧乏だった▼「なんぼう考へてもおんなじことの落葉ふみあるく」など自由律俳句の山頭火は死の2年前の日記に「炭だけは借りたが、さて米はどうするか。また絶食するか、貧乏はつらいね」と記し、「生活難じゃない、生存難だ、いや存在難だ」とも書いているという▼「一億総中流」といわれたこともあったが、100年に1度の経済危機で、山頭火のいう『貧乏の味』の時代に入ったのか。働くにも仕事がなく、8月の失業率は5・5%。働けない人は360万人を超え、昨年より90万人増えた▼年収200万円以下は1千万人に。その貧乏度はどの程度なのか。厚労省が国民の貧困率(全国民の平均的な年収の半分に満たない人の割合)の調査に乗り出すという。経済協力開発機構によると、日本の貧困率は先進国中、米国に継ぐ2位となっているが…▼東京五輪招致活動の費用は150億円。プレゼンテーションのウエアに一着30万円もかけたと聞くと、ピンとこないが…。早急に貧困率を調査して、地域雇用拡大をはかって“幸福度”を上げてほしい。山頭火のいう“存在難”にまで陥らないように。ちなみに山頭火の貧乏日記から70年。(M)


10月6日(火)

●白いポロシャツが似合う人だった。清潔でスマート。人前では、このイメージを裏切ることがなかった。自民党の中川昭一さん(元財務・金融相)が東京の自宅で亡くなった。発見されたときも、ポロシャツ姿だったという▼地元十勝での野外イベントは、永田町の激務を忘れさせてくれるひとときだったのだろう。軽装で支持者と握手を交わす表情は、いつも柔らかかった。一転、背広姿に戻ったときは真剣に北海道の将来を語った。理想を現実に変える、その実力を備えた逸材でもあった▼「人間味のある人だった。昨年は焼鳥屋で政治談議をした」。弔問に訪れた鳩山由紀夫首相が語った。選挙区が同じ北海道であり、いずれも政治家の血筋。ほかにも共通点が多く、気が合ったのだろう。身を置く政党は違っても、2人には好敵手としてこの国、そして本道を引っ張っていってほしかった▼自民党が再生への助走に入った。中川さんもまた、再出発を期していたという。志半ばの死が無念であったことは想像に難くない。突然の悲報を乗り越え、党内の結束に期待する声も強い▼1983年の初当選後、地元農業を視察した中川さんは、作物の見分けがつかなかった。それがやがて農政通として認められるまでに成長し、経済全般でも実績を残した。先に逝った父一郎氏(元農相)との政治談議はいつでもできる。今は心と体をゆっくり休めてほしい。(K)


10月5日(月)

●インドネシアのバリ島で、旅行中の日本人女性が現地の男に殺害される痛ましい事件が起こった。バリ島は日本人に人気の高い観光スポットで、治安もよく安心して旅行を楽しめる場所として知られているが、あるテレビ番組のコメンテーターは「日本以上に安全な国はないということを、あらためて認識してほしい」と訴えていた▼その安全な国の日本で、行方不明の女性の遺体が公園の地中から発見された。現場は道南の森町。被害者は中国から来日していた技能実習生という。治安の良いはずの日本の、しかも風光明美でのどかな港町で娘が事件に巻き込まれて命を落とすとは、祖国の両親は想像もしてなかったに違いない▼かつて「世界でもっとも危険な都市」との不名誉なレッテルを張られていたアメリカのニューヨークは、警官を2倍以上に増やすなどのジュリアーニ前市長の大胆な政策により犯罪数が激減した▼一方、日本でも統計上は犯罪の発生件数が減っているというが、通り魔事件の〓セ発や犯罪の低年齢化などから、むしろ治安が悪化している実感が強い▼来日した外国人が電車に乗って驚くのは、日本人が座席で平気で居眠りをしていることだそうだ。海外ならばそのすきを狙って、荷物や財布は奪われ放題だという。そんな日本独自の風景も「人を見たら泥棒と思え」という格言のように、見られなくなる日は近いかもしれない。(U)


10月4日(日)

●国民の熱気がまるで違う。2016年夏季五輪の開催地がリオデジャネイロに決まった瞬間、そう思った。全身で歓喜を爆発させる本国ブラジルの人、人、人…。感情に率直な南米気質が顕著に表れた光景である▼それだけに、日本国内の静けさが際立った。東京を候補地としたレースに敗れたのだから当然だが、果たしてそれだけだろうか。序盤から日本国民の関心は薄く、一方で南米初開催という悲願を旗印に掲げるブラジルのエネルギーに圧倒され続けた▼そのブラジルと日本は古くから強いきずなで結ばれている。接点ができたのは1908年。「笠戸丸」に乗った多くの日本人がブラジルに渡ったことに始まる。昨年は移民100周年の記念の年だった。ブラジルには今、約150万人の日系人が住む▼同国サンパウロ市在住のフリージャーナリスト、日下野良武さんから昔の逸話を聞く機会があった。日本からの移民者はコーヒー農園などで働いた。収穫作業では手が血だらけになった。それはやがて硬いタコとなって盛り上がった。農園が機械化される前の話である▼日系6世までが誕生している現在、勤勉で誠実な日系人には現地の人たちから絶対の信頼が寄せられているという。五輪の東京落選は残念だが、日本の血が一部に流れるブラジル・リオの悲願達成を素直に喜びたい。できることなら、手を赤く染めた移民1世にも五輪を見せたかった。(K)


10月3日(土)

●秋の月は1年で最も大きく、美しい。月下の海底に潜むナマズはいつ暴れるか分らない。サモア諸島沖とスマトラ沖で大地震が相次いだ。津波にさらわれたり、建物の下敷きになり、犠牲者は数千人が予想されるが、1人でも多くの救出を願う▼きょう3日は「中秋の名月」。旧暦で8月15日、秋の真ん中の日の月。子どもの頃、豊作に感謝して供える「月見だんご」が待ち遠しかった。十五夜には15個、十三夜は13個…。イモを飾ることもあり、「芋名月」とも呼んだ。でも今年は「秋の七草」を供えたい▼クズ、ススキ(尾花)、キキョウ、ナデシコ、ハギ…。摘んで食べる春の七草と違って、眺めて楽しむものだが、薬用や食用になるものもある。クズの根のでんぷんは料理や菓子の原料。根の成分に発汗や鎮痛作用がある。サポニンを含むキキョウはせきを鎮め、解熱作用も▼ススキはかやぶき屋根に欠かせない。日本の人工衛星「かぐや」は謎だらけの月の裏側の素顔を探査したが、先ほど、米の探査機の観察で表面の太陽側に砂の表面に結合する形で水が広範囲にわたり存在していることが分かった▼環境破壊で秋の七草の自生種が年々減っている。月に水があれば春秋の七草栽培も夢ではない。月で作った食材で青い天体に「地球見だんご」を供えることも…。もちろん、南方の地震被災地に栄養たっぷりの「月見だんご」を贈ることを忘れてはならない。(M)


10月2日(金)

●戦術に徹底する打撃、いぶし銀の守備、時にはONを叱咤、巨人の名二塁手、名脇役として活躍した土井正三氏が9月25日に膵臓(すいぞう)がんのため亡くなった。V9を支えた名声は永遠の記憶に残るが、否定的なある風評は川上哲治元監督の言葉で消えた▼土井氏はオリックスの監督時代、鈴木一朗という新人を二軍に落とした。監督が変わり鈴木はイチローとしてスター街道を進み、大リーグでも数々の記録を生んだ。そんな才能を「見抜けなかった指導者」と一部で言われた▼川上氏は告別式の弔辞で「野球は全員が力を合わせてやるべきもの。それを若いうちに教えるため、意図的に二軍に落とした。君はイチロー君の才能を初めから見抜いていた」と話した。イチローも土井氏に付けられた印象について「そうじゃないのにね…」と振り返る。指揮官として経験を積ませたことが明らかにされ、誤解は否定された▼見ている限りで事実は判断できないが、大相撲の世界は…。先の秋場所で5大関を破り、12勝の小結・把瑠都が殊勲賞を受けられなかった。5場所連続受賞者なしだが、今回は大関陣の不調が影響しているようだ▼千秋楽に解説者北の富士勝昭氏は「大関を破っても殊勲と言える価値はないのでは」とばっさり。1人途中休場、残る4人は全員勝ち星ひとけたという事実では辛口解説を浴びる。ダメ大関からの名誉回復は力で示すしかない。(R)


10月1日(木)

●「交通戦争」と言われた時代があった。自家用車の急速な普及に伴い、交通事故による犠牲者が急増。その勢いが過去の戦争における死者数を上回ったことから、その名が付いた▼自家用車の呼称はおそらく、「一家に1台」にちなんだものだろう。今は「家族1人につき1台」の時代。多発する交通事故もまた、「日常の出来事」になっていないか。交通戦争と呼び、社会現象として捉えられていたころとは隔世の感がある▼奥尻町が交通事故死ゼロ3000日を達成した。ゼロ行進が8年以上も続くまちは珍しい。8月末現在、道南18市町で最長、道内180市町村でも第6位という。まちを挙げての“偉業”といってもいいだろう▼ではなぜ、奥尻町なのか。同じ江差署管内の江差町でも8月に交通死事故死ゼロ2000日を達成していることから、安全・安心面での地域性を指摘する意見がある。同署をはじめとする関係機関の努力が実を結んだ結果ともいえるだろう。一方で、これらの背景に住民の意識の高さがあることも忘れてはならない▼奥尻町は1993年7月の北海道南西沖地震で死者172人、行方不明者26人を出した。大災害の教訓から、町民の防災意識醸成に徹底して取り組む体制が生まれた。こうした意識が根付き、交通安全にも反映しているのではないか。「人の命は大切」という理屈を超えた感情がここに生きている。(K)