平成21年11月


11月30日(月)

●「我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ」——明治から大正にかけても不況だったのだろうか。代用教員をしていた石川啄木も就職難を嘆いていた。「第2の氷河期」と言われる平成期の今年も新卒者の就職難が続く▼就職難は昨秋の100年に1度といわれる世界的経済危機から一層深刻になり、今秋は中東・ドバイの不動産ブームの崩壊による円高が不況に拍車をかけている。高校生や大学生の新規採用を様子見している本州や札幌圏の企業が多く、追い込みに入った就活にも影響▼来春卒業予定の道内高校生の就職内定率は33・8%で前年同期から7・9ポイント減と大幅にダウン(10月末現在、北海道労働局)。渡島、桧山管内の就職内定率も前年同期を7ポイント下回る38・6%に落ち込んでいる。求人数も4割近くも減り、過去10年で最低の水準(函館公共職業安定所)▼また、昨年10月から今年12月末までに契約を打ち切られて解雇されたり、期間満了で仕事を失ったりする全国の非正規雇用や派遣労働者は24万6000人を超え、再就職できたのは50・4%にとどまった(厚生労働省)▼急激な円高で景気の二番底が危ぶまれ、新政権の緊急雇用対策に「貧困・困窮者、新卒者への支援を最優先」を揚げたが、「我に仕事あれ」と押しかける寒々とした年末の派遣村はごめんだ。就職が決まらないまま、学生を送り出す卒業シーズンも迎えたくない。(M)


11月29日(日)

●公立病院の医師不足が深刻化している。その医師を確保するのは、自治体の役目と大抵は決まっている。住民が自ら立ち上がるといった話は聞いたことがない。地元の商店会が研修医に支度金を支給することを決めたというニュースには、正直驚かされた▼英断を下したのは、商店など約250店が加盟する兵庫県西脇市商業連合会。医師不足にあえぐ市立病院の医師確保を目的に、売り上げの一部で基金をつくるという。不況の時代、よほどの覚悟がなければできないことだ▼国は2004年、新たな臨床研修制度を導入した。新人医師が自ら研修先を選べるようにしたことから、都市部の病院を希望する医師が増加。おのずと地方病院の医師不足に拍車がかかった▼医療を取り巻く環境は複雑で、当時の政府の判断を失政と断じることは難しい。ただ、兵庫県の商店のような一般住民にまで負担を強いる医療の在り方が正しいとは思えない。医師が不足すれば患者は離れる。患者が減ると経営が悪化する。公立病院の宿命ともいうべきこうした悪循環は、やはりどこかで断ち切らなければならない▼木古内町の新国保病院が来春の開院を目指して建設が進められている。ここもまた医師不足という現実を突き付けられている一つだ。医療制度の善しあしを論じる時間的な余裕はない。地域の医療を守るために何が必要か。まちを挙げて知恵を絞る時期にきている。(K)


11月28日(土)

●「子ども手当」。子どものいる家庭から熱い視線が送られている新政権の目玉的施策だ。もともと、子どものいない家庭との公平性の問題からの反対論や一律支給論への疑問があったが、ここへきて…。所得制限論が浮上して閣僚の見解も割れている▼今のところの政府方針は一律支給論。菅副総理によると、所得制限は給付事務が大変ということのようだが、それは単なる方法論からの見方にすぎず、説得力に欠ける。考えるべきは「なぜ支給するのか」という創設の基本的理念であり、財源の確保だから▼前政権の定額給付金とは意味合いが違う。どちらかと言うと、それが地域における経済対策の視点に立った単発施策だったのに対し、「子ども手当」は、子育て、生活支援といった意味合いからの継続施策である▼しかも支給額が支給額である。中学を卒業するまで1人1カ月2万6000円(来年度は1万3000円)、子ども2人家庭なら年間62万4000円。そう考えると、高所得世帯にも支給することの是非が問われて当然であり、世論の評価も新政権の期待に反して厳しい▼毎日新聞が11月下旬に行った世論調査によると、所得制限を設けるべきが57%に対し、一律支給支持はわずか17%だったという。加えて、支給そのものに反対の声が依然として少なくないという現実も浮かび上がっている。これ以上の説明は必要としまい、行き着く答えは既に見えている。(A)


11月27日(金)

●交通事故死者の約6倍の人数というのだから事態は深刻。1年間に自殺した人の数である。昨年は、11年連続して3万人台の3万2249人。全国で実に1日平均88・4人が自ら命を絶っていることになる▼この人数、低迷する経済情勢と無縁でない。無職者が占める割合が高く、昨年をみても56・7%を占めているほか、動機でも経済・生活問題(31・5%)が健康問題に次いで多いというのだから。まさしく社会的課題であり、対策の決め手は、周囲の人によるシグナルの感知…▼その参考となるのが自殺予防の十個条。中央労働災害防止協会などが示している防止マニュアルだが、例えば、うつ病の症状、本人にとって価値あるもの(職、地位、家族など)の喪失、急な仕事の負担増、酒量の増加、長引く身体の不調など▼行政も対策に乗り出している。24日付の本紙1面に、函館市自殺予防対策連絡会議が相談窓口を網羅したポスターを作製したという記事が掲載されていたが、さらに12月5日には講演会(午後1時半、ロワジールホテル函館、当日会場へ)が開かれる▼「北海道では1日に4人、函館市では4日に1人が自殺でなくなっているよ 自殺はみんなが思っているより身近な問題なんだ」。告知ポスターにはこう記されているが、この簡潔なコピーが言いたいのは、重く受け止めてほしい、というメッセージにほかならない。(A)


11月26日(木)

●「ぼくらフォークダンスの手をとれば甘く匂うよ黒髪が〜」—ずいぶんと昔の話。高校の学校祭でのフォークダンスに青春の心が躍った。片思いの女の子がなかなか次のパートナーに回ってこなかったり、目の前で曲が終わったり…▼男女共学になったばかり。手をつなぐなんて夢の夢だった。46年前に舟木一夫さんが歌った「高校三年生」で「オクラホマ・ミキサー」などのリズムに乗って踊りの輪が広まった。この「高校三年生」を作詞したのが丘灯至夫さん。かつては新聞記者▼東京勤務の同僚が新宿ゴールデン街で一緒に飲んだ時、「演歌のような夜の歌よりも明るい昼の歌を作りたい」と言っていたという。「あこがれの郵便馬車」「高原列車は行く」「東京のバスガール」など懐かしい。アニメ「みなしごハッチ」や「猫ふんじゃった」なども作詞▼フォークダンスは身体の接触や男女の交流を通して健全な意思疎通を促すのに最適。中国の小中高校でも2年前から授業に取り入れている。人付き合いを苦手とする若者が増えているからだという。照れながら手をつなぎ赤くなって踊っている…▼大ヒットした「高校三年生」は今でも歌い継がれ、若者に夢を与えている。その丘さんが「甘く匂う黒髪」の世界から92歳で逝った。晩年になって「あの世はすてきな場所」との感触を得ていたようで「霊柩車はゆくよ」という歌も作詞していたという。合唱。(M)


11月25日(水)

●救命救急対策に不可欠とされるAED(自動対外式助細動器)の設置が急速に進んでいる。その意義なり、効果については実例を伴って語られているが、今、求められる一つが「どこにあるのか」を、より多くの人に認識してもらうこと▼日本語表現より英字の方が通りのいいAEDは、端的に言うと、心肺停止状態に陥った心臓に電気ショックを与えて正常な状態に戻す医療機器。2001年に、航空機内で客室乗務員による応急措置として使用が法的に認められたのが始まり▼一般使用が解禁されたのは2004年7月ということだから、まだ5年数カ月。道南地域も同じで、配置はまず自治体が率先して。函館市立保健所のホームページには、市内の設置済み公共施設の一覧が紹介されているが、民間でも徐々に▼ただ、住民に設置場所が知られているかというと、まだまだの状況。確かに公共施設はとっさの場合でも頭に浮かんでくるし、設置場所には表示があるが、より多く知っておいてもらうに越したことはない。という観点からの取り組みが各地で多々…▼一般化しているのは、施設名と住所を記した一覧。そんな中、帯広市消防署は民間も含め把握している設置場所を地図に落とした「AEDマップ」を作成し、ネット上で公開しているという。「AEDをより身近に」。帯広市の試みは、そんな思いが伝わる参考例として注目に値する。(A)


11月24日(火)

●函館の街中を走っていると、1日に10台以上は「プリウス」や「インサイト」などのハイブリッドカーに遭遇する。1年前には1日1台見るか見ないかの割合だったことを考えると、驚くほどの普及ぶりといえる▼燃費の良さや環境に優しいという利点が支持されたことに加え、政府が追加経済対策として導入した「新車購入補助金制度」が大きく後押ししたことは間違いない。歴史的な赤字を計上した国内の自動車会社も、これによって息を吹き返しつつあるという▼一方で心配されるのは、同制度が終了する来年3月以降。これまでの反動で自動車の売り上げが大きく減少する可能性は高い。ところがここにきて、同制度の延長案が浮上してきた▼依然として厳しい状況が続く自動車会社には朗報のはずだが、日産の志賀俊之COOは「今後のスケジュールがはっきり見えないので、国内市場を読みにくい」と苦言を呈する。いずれ補助金制度が廃止されると一気に買い控えが進み、これまで以上に市場が冷え込む危険性が高いからだ▼同じく延長への検討が始まった家電におけるエコポイントもしかり。一度安さに慣れてしまった消費者の購買意欲を取り戻すのは並大抵ではない▼経済対策として一定の効果を挙げてきたエコ補助制度だが、切り上げのタイミングを見極めないと、新政権及び日本経済にとって大きな痛手になる可能性は高い。(U)


11月23日(月)

●「草食男子」「宇宙人」「こども店長」など今年の流行語大賞の候補が出そろったが、鳩山政権が来年度予算案から無駄を削る「事業仕分け」が急浮上してきた。国家予算決定までの作業をガラス張りにし身近に感じさせた▼なんと95兆円に膨れ上がった来年度予算の概算要求を圧縮しようと作られた作業グループ。「乱暴だ」「民間仕分け人に権限はあるのか」などの声がある中、第1幕は243事業を仕分け、「廃止」「縮減」などで1・4兆円の財源を捻出したという▼残る204事業の仕分け作業は24日から。合わせて3兆円以上のスリム化を目指すというが、マニフェストの「子ども手当て」「高速道無料化」「農家の所得補償」など“聖域”にも手をつけるべきだ。いま一つ、庶民に理解できないのが内閣官房機密費だ▼「そんなのあるんですか。全く知りません」とうそぶいていた平野官房長官が新政権発足後、1億2000万円の機密費を受け取っていた。情報収集や国会対策に充てられ、年間12〜14億円使われているが、領収書不要というから用途は全く不透明▼外務省の官僚が機密費を横領、競走馬やマンションを買っていた。こんな機密費(裏金)はいらない。ばっさりメスを入れ、無駄を省こう。でも、通学路の橋架け替えなどインフラ整備まで「廃止」するなんて、弱いものいじめではないか。「事業仕分け」は流行語大賞になるか。(M)


11月22日(日)

●知人が子供のころ、母親に「将来は裁判官になりたい」と夢を語った。母はこう答えたという。「子供なのに人を裁くなんてとんでもない。そんな夢は大きくなってから言いなさい」▼子供が抱く自由な夢を頭ごなしに否定したが、立派なお母さんだと思う。人が人を裁く重みを、子に短く諭した▼仙台地裁で開かれた裁判員裁判で、強姦致傷罪に問われた被告に対し、裁判員が「むかつく」と発言し、裁判長に制止された。男性裁判員のたたみ掛ける質問に被告が答えなくなり、その言葉が出たという▼裁判を身近に、難しい法律用語も分かりやすく…国民が裁判に参加することで司法に対する信頼の向上に…。いずれも結構なことだが、コラム子がもし、裁判員に選ばれたら冷静な質問ができるか自信がない▼裁判員に選ばれても辞退を申し出る人が多い。高齢や病気、裁判出廷で仕事ができず著しい損害が出る場合などは辞退が認められるが、相当多い「人を裁く自信がない」という理由は認められないという。一方で「ぜひ裁判員をやりたい」という人も▼裁判員候補者は選挙人名簿の中から無作為に選ばれるが、裁判員全員が高い徳を持っているとは限らない。しかし、安易な正義感を振りかざすことなく、公平な裁判を維持してほしい。葛藤と重圧、難しさの中で、どう適正な判決に導いていくかが問われる。函館地裁では年明けに裁判員裁判が始まる。(P)


11月21日(土)

●家人がストレッチャー型の車いすを利用している。外出のときは介助が欠かせない。函館市内のある公共施設でのこと。建物を出ようとすると、ドアがすっと開いた。「大丈夫ですか」と声を掛けてくれたのは若い女性だった▼障害者やその介助者には、自然でスマートに接することが理想だろう。分かっていても、これがなかなか難しい。ぎこちなくなったり、ぶっきらぼうになったり、無遠慮に見たり…。前述の女性のような立ち居振る舞いをぜひ見習いたい▼千葉県内で介助犬と生活する身体障害者の男性が、新幹線への介助犬の同伴に待ったを掛けられた。断ったのがJR職員だったことから、問題が大きくなった。日本介助犬協会は「知らなかったでは済まされない」と憤る▼無理もない。公共交通機関が介助犬の同伴を拒否することは身体障害者補助犬法で禁じられている。同協会が改善を求め、JR側は社員教育の徹底を約束した。同伴を断った職員を責めることは簡単だが、一方で法律自体の認知度はその程度という見方もできる▼介助犬は、盲導犬や聴導犬とともに「補助犬」と総称される。補助犬は公共施設や交通機関のほか、ホテルやレストランなどでも同伴が認められている。今回の“乗車拒否”の一件は、ある意味で世間に教訓を残した。知ることから始め、特別視しない。それが障害者や補助犬、車いすと自然に接する、こつなのかもしれない。(K)


11月20日(金)

●ある時は音楽を聴き、テレビも見られる。ある時は買い物で支払い時に使う。メーンの役割は通話。その正体は携帯電話だ。財布が無くても、ケータイだけでも用が済む時代である▼買い物は、電話にチャージ(入金)した電子マネーを使う。函館のレジでも「シャリーン」など利用時の音を耳にする機会が増えた。手続きをすれば航空券も不要。ケータイを搭乗口の機械にタッチすれば乗ることができる▼電池が切れたら何もできなくなるので充電器は必携という。以前は携帯電話を無くしたら「勝手に通話されたらどうしよう」という心配だったが、今や財布を落としたほどの大騒ぎとなるだろう▼雪が降ると思い出すのは3年前の冬の出来事。函館市内でケータイを落としてしまい、紛失したと思う場所の近くにある交番に入ったら、そこに落としたケータイがあった。話を聞くと、拾い主の住所は函館駅。「ホームレスだから何も聞かないでほしい。礼も要らない」と言って去ったという▼感謝で言葉にならなかった。以来、ケータイのマナーにはいっそう敏感になった。多機能が付いた電話でも最低限しか使わない。ケータイはケータイ、財布は財布である▼店のポイントカードも携帯でまかなうところもあるが使わない。財布の中には各会員証など、常時30枚以上のカードがある。しかし、気が付けば3割は病院の診察券で、今年に入り3枚も増えていた。(R)


11月19日(木)

●病院の待ち時間は、短いに越したことはない。検査で訪れた場合ならまだしも、風邪を引いた時のように具合が悪く、横になっていたい時の診察待ち時間は、ことさら長く感じる。大なり小なり、そんな経験をしているに違いない▼特に負担が大きいのが、子どもやお年寄り。10年ほど前ながら、30%の病院で平均60分以上という国の調査結果もある。それから徐々に改善され、急患は別にして予約制の導入が進み、総合病院などには自動再来受付機が登場、手続きも早くなった▼さらに、もう少し何とかなれば…。混み具合は病院によって、季節によって異なるが、患者側のこうした思いに応える新たな仕組みが登場しつつある。それは携帯電話を活用した待ち時間の通知システム。ソフト開発も進み、既に実用段階のケースも▼複数の業者が取り組んでいるが、考え方にそれほどの差異はない。大まかには、患者が携帯電話から病院(フリーダイヤル)に手続きして登録する、診察順番が近づくとその旨の連絡が届く。患者はそれを受けて病院に、という流れとなる▼これなら待合室で順番が来るまで待ち耐える必要はない。病院が近ければ自宅で休んでいることも、車の中で待つこともできる。逆に、病院側にとっても待たせているという思いを軽減できる。ソフト開発は進む、双方に利点がある。とすれば、あとは時間の問題。一般化が待たれる。(A)


11月18日(水)

●能登半島に住んでいた子どものころ、木のてっぺんに残る柿が食べたかった。確か最後に残った実は「木守り柿」といった覚えがある。木や神、自然に実り(収穫)を感謝し、来年の豊作を祈願するめためだと聞かされた▼柿の原産は中国。日本では「古事記」などに名前が記されていることから、奈良時代にお目見えしたようだ。11月の平均気温が12度以上でないと実にならないといわれ、北海道では函館、松前、伊達などの一部で取れるだけ。それも渋柿…▼能登の生家から柿が届いた。家の周りには3本の柿木があり、小雪のころまでに収穫、冬は毎日のように食べさせられた。食べられない渋柿でも天日に干すと甘柿より甘くなる。「柿が赤くなれば医者が青くなる」と、昔の人は柿の栄養価を知っていた▼柿に含まれるビタミンやカロテンなどは、よく食べる果物の中でもトップクラス。風邪予防や美肌効果、高血圧予防、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、がん予防…そう二日酔い防止にも効果がある。干し柿は、かつて甘い食べ物の代表だった▼よく熟し、やわらかくなった柿を冷凍にするとシャーベット状になる。砂糖など大量に使った刺激の強い氷菓子より、スプーンでシャーベット柿を食べさせ、インフルエンザを吹き飛ばそう。てっぺんの1つは鳥のために、一番下の1つは旅人のために残したともいう。「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」(正岡子規)(M)


11月17日(火)

●景気回復を肌身で感じ取れる日はいつのことか。家庭の財布のひもが緩む気配はいっこうにない。“無駄の洗い出し”では酒、たばこなどの嗜好(しこう)品がばっさり削られ、大安売りの新聞ちらしが1円単位で比較検討される。一般家庭における財務省(主婦)のチェックは厳しさを増すばかりだ▼行政刷新会議による来年度予算概算要求の「事業仕分け」が進んでいる。民間を中心とした仕分け人の追及は容赦がない。次々と「廃止」の決断が下される。この様子を見て小気味よいと感じるか、やり過ぎと取るかは人それぞれだろう▼当面の生活に追われる庶民感覚からすれば前者、地域の将来を長い目で考えると後者といったところか。どちらにせよ、仕分け作業の雰囲気が、さながら公開裁判のようになっていることが気に掛かる▼函館に関係する事業も“被告”側に立たされた。「廃止」と判定された知的クラスター事業がその一つ。西尾正範市長は「地域の実情を知らない人がわずかな時間で廃止を決めたことは許されない」と憤る▼地元選出の逢坂誠二衆院議員(民主党)も「事業仕分けのやり方はおかしいと思う」と首をかしげる。地域に直結した事業が廃止とされ、そのことへの不満が党内にもくすぶっている。「まず仕分け人を仕分けしろ」という皮肉な意見もあるという。それぞれの判定結果に拘束力はない。その一点だけが救いである。(K)


11月16日(月)

●今シーズンは惜しくも日本一こそ逃したものの、ここ4年間で3度のパ・リーグ制覇を果たすなど安定した強さが光る日本ハムファイターズ。観客数も毎年記録を更新し続けていて、もはや完全に道民の球団として定着したと見て間違いない▼これ以前に道内唯一のプロスポーツチームとして注目を集めていたのが、Jリーグのコンサドーレ札幌。岡田武史監督の下でJ1に復帰した2001年には、ホームでの平均観客数が2万人に迫る勢いで、このまま人気が衰えることはないと思われた▼それから8年、熱狂的ファンの声援が続くなか、コンサドーレはJ1とJ2との間を迷走している。J2に降格した今シーズンは上位争いに絡むことなく観客数も激減。いつのまにか大きく広がってしまった日ハムとの差はどこにあるのだろうか▼日ハムが北海道に移転した2004年当時は、道民の大部分が巨人ファンと言われていた時期。このハンディを克服しようと、ヒルマン前監督や新庄元選手などが先頭に立って熱心なファンサービスを展開したことが、現在の人気の基礎となった▼一方、コンサドーレはJリーグブーム最高潮の1996年に誕生。アルシンドやペレイラなど有名ブラジル選手を迎えて華々しいスタートを切ったが、現在スター選手は皆無。本気でJ1復帰とファン獲得を目指すなら、今こそ思い切った大型補強を試みるしかない。(U)


11月15日(日)

●社会における最大の格差とも指摘される男女の社会的立場。共同参画社会の実現、という言葉が聞かれて久しいが、わが国の“参画先進国”入りはまだまだの域。その現実が国際的な機関の報告が指摘されている▼10月末に公表された世界経済フォーラムによる男女格差指数。女性の地位を政治、経済、教育などの分野からアプローチした調査だが、男女の格差が少ない国別順位で、わが国は前年より24位上がったとはいうものの、134カ国中なんと75位という▼欧州の主要国はほとんど20位以内、いわゆる先進国や主要国と呼ばれる国の中では遺憾ながら最低。項目別にみても、例えば国会議員数は105位、賃金格差は99位、意外ながら高等教育への進学率でも98位というから穏やかでいられない▼確かに政府は担当大臣、行政は担当部署を設けるなど看過しているわけでない。函館市を例にとっても、条例や推進計画に取り組んでいる。それでも国全体として世界に劣るのは、社会の認識と取り組みの広がりが十分でないということだろう▼「つくらない つくっちゃいけない 男女の差」。帯広市が募集した「ひと(女)ひと(男)の一行詩」の最優秀作だが、こうした問いかけを通して、地域での「認識」と「機会」をどう醸成していくか。世界経済フォーラムの報告は、わが国、地域に対する強いメッセージにほかならない。(A)


11月14日(土)

●「天下り」という言葉を知らぬ人はいまい。それほど目にし、耳にするということだが、根絶しよう、と叫ばれて久しいのに、実態は多少減ったかな、というレベル。というわけで新しい政権に期待が寄せられていたのだが…▼「天下り」とは「退職した高級官僚などが外郭団体や関連の深い民間企業の相当の地位に就任すること」(大辞泉)で、ほかの辞書もおおむね同じ表現。ということは、社会的に異論がない、とも言えるのだが、政治の世界はどうもすっきりとさせてくれない▼この6日に政府が閣議決定したとされる定義が然り。一見、もっともらしく映るが、説得力に欠けるというか、違和感を覚えた人は少なくないはず。確かに前段では辞書のいうところの認識を踏まえているが、後段は素直にならしてくれない▼こう記している。「府省庁によるあっせんを受けずに適材適所の再就職をすることは天下りに該当しない」。府省庁が、この人を、と直接働きかけない限り天下りではない、という。つまり、その線引きは「あっせんの有無」にあり、誘われるケースは当たらない、と▼言葉を換えると、府省庁が表立って働きかけなければいい、特殊法人や企業側が府省庁との関係を保とうとして気を使ってくれる分には問題がないということになる。それは国民が求めていた答えで、それで本当に歯止めになるのか、残念ながら苦しい胸の内が透けて見えてくる。(A)


11月13日(金)

●民主党が高速道路の無料化を来年度から本道と九州で先行実施する方針を固めてから約2カ月。ETC(自動料金収受システム)土日祝日の普通車以下「上限1000円」を利用し札幌に行く度、無料化になった場合のメリット、デメリットを実感する▼メリットは観光客が多く道南に来ていること。春、秋の大型連休では行楽地の駐車場は札幌、室蘭ナンバーの車で満車状態が続いた。無料化になれば、さらに地域経済の活性化につながるだろう。だが、目に見える良い点はこれくらい▼交通量が増えれば排気ガスは増加する。西部地区では駐車場不足に拍車が掛かり、路上駐車は増えるだろう…などデメリットは多く浮かぶ。最も感じるのは高速道の運転に慣れていないドライバーが多くなるため、事故が増えることだ▼苫小牧から札幌までで急な車線変更をする車が増えた。最近延伸された道南地域では車は少ないが速度超過の車が多い。バックミラーに写ったかと思えば、あっという間に後ろにぴったり付き、離れない▼落部インターチェンジ(IC)から、国道5号で函館に向かう車の速度も上がっている。高速道路を降りるとスピード感覚は鈍る。無理な追い越しを目にすることも多くなった▼「無料化に伴う悪影響を最小限にとどめることができる」という理由で無料化先行に選ばれた本道。都道府県別交通事故死者数ワースト順位アップは許されない。(R)


11月12日(木)

●俳優の森繁久弥さんが亡くなった。長年にわたり大衆芸能をけん引してきた。この世界の大御所であ★り、それだけに新聞・テレビの扱いは大きかった。死因には老衰とある。96歳の大往生だった▼そういえば、最近の訃報(ふほう)欄に、老衰の文字を見つけることが少なくなった。高齢で亡くなっても、たいていは何らかの病名が付く。厚生労働省の人口動態統計によると、90歳以上の死因で多いのは心疾患、肺炎など。100歳以上になって初めて、老衰が死因の第1位(2007年)になっている▼なにを指して老衰と呼ぶのか。はっきりとした答えはない。強いて挙げると、人体の各機能が衰弱し、死因が十分に把握できなかった場合。どうも分かりにくい。それよりも、安らかに息を引き取ると言った方がしっくりする▼自分の死とどう向き合うかは人それぞれだろう。医師である山崎章郎さんは著書「病院で死ぬということ」(文春文庫)の中で、末期がん患者たちの生きざま、そして死の迎え方を克明に記した。患者の苦痛を和らげるホスピスの存在を早くから伝えた名著でもある▼老衰に定義がないように、「安らかな死」にも決まった形はない。森繁さんは妻、長男、後輩俳優たちを先に送った。「次はだれでしょうか」と長生きのつらさを語った。そして、自分の番であることを悟ったのだろう、その死は眠るようだったという。(K)


11月11日(水)

●覚せい剤を使用し有罪判決を受けた酒井法子被告はデビューの前に整形、目はぱっちり、鼻高々のアイドルに変身したという。6日間の逃走劇でげっそりやせていた。女優や芸能人の大半は、どこかを整形しているといわれるが…▼整形の目的は「美」だが、世間から逃れる「逃避」もある。特にかつての女性犯罪のキーワードは「整形」だった。27年前、松山ホステス殺人事件で容疑者の女性が整形で顔を変え「7つの顔を持つ女」として逃避行、時効3週間前に捕まった。今度は30歳の男が顔を整形して逃避行▼10日夜に逮捕された、英国人女性の遺体遺棄で手配されていた男。一重を二重まぶたにし目の鋭さが消え、厚い下唇を薄くし、2つのほくろを消すなど4か所を修正。何度も整形しており、建設会社の寮で暮らしながら2年以上も逃げ回った▼10年ほど前のキーワードは和歌山毒物カレー事件のように「毒」「薬」だったが、今は「介護」「婚活」「睡眠薬」か。埼玉県警に結婚詐欺容疑で逮捕された34歳の女。介護の80歳の男性ら数人から大金を取っており、数人の男性が不審死している▼鳥取でも35歳のホステスと接点があった数人の男性が不審死。遺体から睡眠導入剤が検出された。取り調べを受けた埼玉の女はブログに「サスペンスのような1日」と書き込んでいる。島根県の女子大生はもちろん、不可解な事件の早い全容解明を願うばかり。(M)


11月10日(火)

●いっそのこと国家禁煙法をつくったらどうか。たばこ税に関する最近の論議に触れ、そんな皮肉な思いに駆られる。増税を前提とした政府の考えは、分からないわけではない。ただし、何事も急ぎすぎは禁物である▼20本入り1箱300円前後を、2倍の600円程度まで引き上げる。さらに、段階的に増税していくというのが、政府筋の考えのようだ。極めて単純で、非現実的な発想と映る。たばこ離れが進むことによる税収の減少を計算に入れているのか。たばこ耕作農家などの声を聞いているのか。懸念の材料は尽きない▼特に、後者の業界対応は一朝一夕に片付く問題とは思えない。海外では1箱1000円などという国もあるが、いずれも10年ほどをかけて税率を引き上げたという。わずか2、3年でその水準にしようという考え自体が無茶だ。たばこ製造・販売が一つの産業であることが、ここでは完全に忘れ去られている▼政府は、健康配慮からの喫煙率低下を増税理由に掲げる。こんな大義名分が簡単に通じるとは思えない。喫煙者の立場から言わせてもらえば、大きなお世話である。マニフェスト(政権公約)実現の財源確保を迫られた民主党の苦肉の策と邪推したくもなる▼一服できる場所が日に日に少なくなり、受動喫煙にも細心の注意を促される。喫煙者の肩身は狭くなる一方だ。拙速な大幅値上げは“魔女狩り”以外の何ものでもない。(K)


11月8日(日)

●世の中には、注意されながら改善されないことが多々ある。函館にも通じる自転車のマナーもその一つ。特に若い人たち。ヒヤッとした経験を持つ人は結構いるはずだが、ともかく速く、道幅が狭い所でも、道が交差する所でも飛び出しが▼自転車が関連する交通事故は、全事故件数の約2割というから無視できない水準。自転車が歩行者とぶつかる事故も多く、昨年度は全国で2942件(警察庁統計)発生している▼信号無視や一時不停止、安全不確認など、自転車側に違反や過失があって起きた事故も少なくない。それらに起因する事故は、死者が出たうちの39%、負傷者が出たうちの29%を占めるという。改めて自転車が被害者にも加害者にもなっている現実を教えられるが、問われる留意点は昔も今も同じ▼車道は左側を、交差点での安全確認を、歩道は歩行者優先で車道寄りを、飲酒・二人乗り・併進はしない、夜間はライトを、などだが、なにより守るべきは、危険を察した時に対処できるよう、速度を抑えて乗ること。とりわけ函館の市街地では。道路や歩道の幅が狭い、交差点が多い…▼一部路線を除いては道路事情が自転車向きになっていないし、この季節は夕暮れも早い。雪こそ積もっていないとはいえ、朝夕の気温はめっきり下がり、先を急ぎたいという心理が働く。「気持ちは急(せ)いても速度は落として」—。もう一つ、自分は大丈夫、はない。(A)


11月7日(土)

●「20年後の患者数は世界で4億3800万人を超える」。糖尿病を巡って最近、こんなショッキングな報告が出された。ここまでくると、報告というより警告に近い。この人数たるや、わが国とロシアを足した総人口を上回るのだから▼糖尿病は体内でブドウ糖がエネルギー源となるに必要なインスリンが不足し、血糖値が上がり続ける病気。怖いのは網膜症、腎症などの合併症を招くことで、口すっぱく注意を促される理由もそこにある。なのに、軽く考えられがち▼冒頭の警告データは国際糖尿病連合によるものだが、現在で既に危機的な状況。推計で2億8500万人を数えるという。人口に比例してかインド、中国、アメリカに多く、わが国は8番目で710万人。成人人口の約7%は少ない数字でない▼特に課題提起されているのが、二型糖尿病。食生活の乱れや運動不足によるとされる層で、分類別では圧倒的に多い。個々人の意識や自覚で抑える余地があることから啓蒙が続けられるが、その対策は国によって差はない▼「連携した取り組みを」。国際糖尿病連合はこうして生まれ、多くの国が11月を糖尿病月間に。わが国も第2週を全国糖尿病週間としているが、覚えておきたい日が14日。「世界糖尿病デー」である。「肥満に気をつけ、飲みすぎ、食べ過ぎを避けて、適度な運動を」。自分のために、よく耳にする注意と聞き流してはならない。(A)


11月6日(金)

●日本航空(JAL)の経営再建が国に委ねられることになった。それにしても独自の取り組みが機能せず、事ここに至るとは。その公共性なるが故に、国も放ってはおけないということだろうが、確かに一企業の問題ではない▼同社は就職活動をする学生にとって、まさに羨望の的の企業の一つであり、それだけに衝撃が走って当然。大企業もひと皮むけば内情は、といったところだが、ただ、その影響を受けかねない地域としては他人事ではないし、仕方ないでは済まされない▼というのも、同社の再建計画の中に、函館発着の路線を持つ北海道エアシステム(HAC)からの撤退が入っているから。既に、一方の出資者である道に対し、株式保有を15%未満に引き下げ、経営の主体から外れる意向が伝えられているという▼残念ながら函館発着のHAC4路線は、押しなべて搭乗率が低迷基調だが、それに伴う収支だけが判断材料ということであれば、存続するしないにかかわらず、御旗の公共性はどこに…。確かに、道が新たな経営形態を模索しているという話も聞こえてくる▼改めて言うまでもなく、いずれも地方を結ぶ必要な航空路線であり、引き続き維持されなければならない。とりわけ奥尻路線であり、医療や住民生活などの視点からも譲れない。今、鍵を握っているのは道だが、問われるのは国の姿勢。「そこまでは知りません」では済まされない。(A)


11月5日(木)

●「あの日 鉄の雨にうたれて父は死んだ この悲しみは消えない〜」—。最近の小学校高学年の学芸会で「はだしのゲン」をはじめ、「ひめゆりの搭」「消えた八月」など反戦メッセージ劇に挑戦する学校が多く、その熱演に驚く▼小6の孫娘が通う小学校の学芸会で5、6年生全員が沖縄戦の劇「さとうきび畑の唄」を取り上げた。5年生が唱歌「故郷」や「さとうきび畑の唄」などで盛り上げ、詰めかけた父母や祖父母たちも口ずさんだ。そして6年生の劇▼先の大戦で唯一地上戦となった沖縄。子どもたち15万人の島民が犠牲になった。サトキビ畑一家の息子(少年)に出征の赤紙。「お父さん、お母さん、妹を守るために戦ってきます」「必ず帰ってこいよ」—。米軍に追い込まれて自決…▼戦争はいつも子どもを惨事の渦に巻き込む。先月、パキスタンの女性による自爆テロで子どもら11人が死亡。パレスチナでは爆発物を持った少年を拘束。男に検問所付近の女性に渡すよう頼まれ5シュケル(約120円)で請け負ったという▼“自決菔死”を選択しても守らなければならないのは何か。「はだしのゲン」の被爆者を痛痛しく演じる子ども。「戦争は絶対おこさないで」と訴えるトウキビ畑の少年。涙ながら演じた児童。「子どもに反戦劇なんて」と非難の声もあるが、悲惨な戦争を風化させないためにも、「地球に平和を」の挑戦に感動を深くした。(M)


11月4日(水)

●雪の一文字に寄せる人々のイメージは概して良い。雪(すす、そそ)ぐの読みだと、ぬぐい去るといった意味になる。汚名を雪ぐ、恥を雪ぐなどだが、これが「雪辱」になるとスポーツ界における常套(とう)句になった感も。今風には「リベンジ」といったところか▼当然だが新雪は白い。降り積もると、そこにあった街の汚れを覆い隠してくれる。春になり、雪自体が黒っぽく汚れてくると、溶けることで自ら姿を消す。何ともけなげである。豪雪地帯に住む人たちにしかられることを覚悟で言えば、雪にはやはり、白くてきれいなままでいてほしい▼函館市内では2日、初雪が観測された。時期的には昨年より2日早い程度だが、暖かい日が続いていただけに、心の備えが足りなかった。3日も大粒の雪が舞い、突然の寒さと相まって骨身にこたえる▼数年ぶりの函館の冬。知人は「降る雪の量が毎年増えている」と言う。気象庁のデータを調べると、確かに昨シーズンは降雪量の合計が341センチとやや多めだった。さすがに除雪に明け暮れることはないだろうと楽観しつつも、知人の脅しが結構利いている▼何十年もデータをさかのぼると、降雪量の微増傾向は一目瞭然だ。気候変動などが要因だろう。農業などへの影響を考えると気が重い。雪は汚れを取り去ってくれるなどというロマンチックな装飾は、現実では何の意味も持たない。(K)


11月3日(火)

●「十年一昔」は、よく聞く言葉だが、「世の中は移り変わりが激しく、十年も経つともう昔のことになってしまう」(大辞泉)という意味。とすると、今や死語ではないか、改めてそう感じている▼2年半ぶりに函館に戻って、好奇心から、いつの時代に生まれた言葉か調べようとして徒労に終わったが、それはともかく、世の中の変わりようは速く、激しい。21世紀に入ってからはなおさら。「二、三年一昔」でもおかしくないし、情報通信分野などでは「一年一昔」とさえ言われ、「10年を使うなら、そのあとは一昔でなく大昔」といった話も▼情報通信分野に顕著だが、その流れはすべての分野に共通して、と言って過言でない。当然ながら、まちの変わりようにも通じる。東京の超高層マンションの林立ぶりなどは目に見えて分かりいい例だが、地方だって…。函館も例外でない▼ここ2年ほどの間に、港のシンボルだった超大型クレーンが姿を消し、新しいホテルは目立ち、大型のショッピングセンター、家電量販店の開業…。こうした姿から垣間見えるのは、よりし烈な競争社会の姿。まちの姿も「十年一昔」ではなく、やはり「二、三年一昔」▼「今の世の中の動きは、本来、人間が持つ生理機能の限界を超えている」。妙に記憶に残っている話だが、「十年一昔」という言葉には、そのテンポがいい、という意味合いも込められていると思えてくる。(A)


11月2日(月)

●「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まず〜」—。若山牧水は、青空と紺碧の海に漂うように飛翔する白鳥をすばらしいと詠んだ。これまでバラに不可能とされた「青いバラ」が開発され、3日から店頭に並ぶという▼愛するニンフを失ったギリシャ神話の花の女神フローラが神にニンフを不死の花に変えてほしいと頼んだところ、バラに変わったが、花弁に「冷たく不吉な色」の「青」だけは与えなかった。青いバラが存在しない理由(最相葉月著「青いバラ」)▼バラは次々と新品種が開発され世界で2万5000を超しているが、青だけは不可能だった。本来のバラに青の色素がないからだ。世界初の青いバラを開発したのはサントリー。パンジーの青い色素の遺伝子をバラに組み入れ、5年かけて誕生させた▼古くから「不可能」の代名詞だった青いバラ。名付けて「ブルーローズ・アプローズ」。アプローズは喝采(かっさい)の意味で、花言葉はまさに「夢かなう」。薄青紫色で、香りは優雅で華やかで緑のすがすがしさが漂うという▼牧水が詠んだ自然界の「空や海の青」に限りなく近づいた。仏教の五色の「青」は仏の毛髪の色で「心乱れず穏やかな状態」を指す。「あなたに百万本のバラの花を〜」…加藤登紀子が文化の日に歌うのは、不可能を可能にする「青いバラ」か。だだ、バラ色の人生を「青色の人生」に変換するには時間がかかりそうだ。(M)


11月1日(日)

●11月に入り今年もあと2カ月となった。英語のNOVEMBER(ノーベンバー)は「9番目の月」の意味。紀元前46年までは3月が1年の始まりとするローマ暦が使われており、3月から数えれば9番目ということである▼日本の旧暦では霜月(しもつき)と呼ぶ。文字通り、霜が降る月の意味である。函館は平年が10月17日、今年は同12日であった。函館の初氷の平年は同22日、今年は同31日に観測したばかり。初雪は11月2日▼気象庁が3カ月ごとに分け、9—11月を秋期、12—2月を冬期としているが、函館にとって11月は秋か冬か—。七五三参りは11月15日だが、函館では寒くなるため、10月15日前後に行う人が多い。スポーツでは屋外球技の試合はほとんどなくなり、下旬には市民スケート場の整備が行われ、今年はクリスマスファンタジーが28日に開幕する▼函館の11月は短い秋と長い冬の分かれ目であろう。函館の平均気温は10月は11・7度で11月は5・3度。6・4度の開きだが、9月は17・9度なので9—10月も6・2度の差がある。一気に変わるので、体調管理や車の運転に注意が必要な月である▼市芸術ホールでは市民文化祭が開催中だ。展示部門は「清秋・函館市文団協芸術展」、舞台芸術部門は「華麗・錦秋の夕べ」と名が付くように、作品は心温まるものがそろっている。函館の残り少ない秋を楽しむのには絶好の事業である。(R)