平成21年2月


2月28日(土)

●深夜零時、「遠い地平線が消えて…」のナレーションが聞こえて来るのをリスナーは心待ちにしていた。FM東京をキー局に放送された「ジェット・ストリーム」は、高い人気を誇る音楽番組だった▼スタートしたのは、1967年7月である。オープニングナレーションで「皆様の夜間飛行のお供をいたしますパイロットは、わたくし、城達也です」と流れるように初代機長は、声優の城さんが務めた▼城さんは、「ローマの休日」で記者を演じた米俳優グレゴリー・ペックの吹き替えでも分かるように、包み込むような温かい声の特質を持っていた。その落ち着いた声が深夜ラジオから届けられたのである▼勉強に勤しむ受験生や深夜勤務の運転手さん、枕元にラジオを寄せて聞き入る入院患者など幅広い年代にファンが多かった。イージーリスニングという音楽ジャンルを知るきっかけを与えてくれた番組だった▼初代機長の城さんが亡くなったのは番組開始から28年目の1995年である。この25日が命日だった。「ジェットストリーム」は、FM放送の最長寿番組として続き、いまは俳優伊武雅刀さんがナレーターを務めている▼ラジオの深夜放送は、若者から高齢者まで根強い人気がある。耳から入る音声情報は、想像力の羽ばたきをもたらしてくれるのがラジオの効用かもしれない。今夜は城機長の名調子を思い浮かべながら、心静かにイージーリスニングの世界に浸ろう。(S)


2月27日(金)

●さすが国際天文年。青い光を放ち宇宙空間に浮かぶ地球に、「水」を吐きながら急接近している「ルーリン彗星」。2年前に台湾の鹿林天文台が発見、数万年に1度という彗星。最も近づいた先日、天候とタイミングが合わず、観察できなかった▼NASAの観測によると、この彗星は毎秒3000リットルの「水」を吐き出して飛んでおり、水は太陽の紫外線で水素と水酸基に分解されて、直径40万キロメートルの規模の雲状に広がっているという。生命が生まれそうな環境の惑星は太陽系の外で複数個発見されていると聞く▼ルーリン彗星もその一つだろうか。地球にある「水」は多くの彗星が運んできたのではないかと推察する仮説も。数万年前に「水」を含んだ彗星が地球に衝突した…。ルーリン彗星が最接近したとはいえ、地球から6150万キロも離れている▼5等級の明るさで来月5日ごろまで観察できる。次に注目されるのは7月22日の「皆既日食」。天体の不思議とロマンを感じさせるのは夜空だけではない。奄美大島北部などで45年ぶりの皆既月食。探査衛星が撮影した「月からの日食」の映像も公開されている▼宇宙から見る函館の星は「五稜郭の夢」。募金で輝くイルミネーションの電球が何者かによって160個も壊された。“函館の星”を減光させるなんて…。ルーリン彗星は28日の夜、しし座付近を通過するという。今度こそ、夜空の天体ショーを眺めたい。(M)


2月26日(木)

●支持率10%そこそこの麻生太郎首相が、来年もその座に留まっている可能性は相当低い。就任1カ月で60%台の高い支持率を誇るオバマ米大統領に人気の秘密を教えてもらいたい心境だったかもしれない▼新大統領からホワイトハウスに招かれた初の首脳との触れ込みでワシントンに乗り込んだ首相は外交の成果を誇示して、政権浮揚の足がかりを得たかったに違いない。何しろ失態続きで支持率が一桁台に近づく政権末期の惨状だ▼新大統領の初の議会演説に先立って行われた日米首脳会談では、世界を覆う金融・経済危機に連携して対処することなどで一致したという。まあ、両国の懸案を突っ込んで話し合う会談ではなかったということだろう▼米紙(電子版)を見ると1面は、新大統領の議会演説で埋め尽くされている。長年の同盟国とはいえ、日本の首相の訪米と日米首脳会談は、米メディアにとって大きなニュースではない。それがよく分かる扱いだ▼来月になると日本の政局は大揺れになるだろうとの予測から、駆け込みの首脳会談設定になった、との見方もある。確かに不人気首相のもとでは選挙を戦えないと交代を求める声が与党内にくすぶる。退陣への花道の会談だというのだ▼新大統領の議会演説は、経済不況から米国を立ち直らせ、再生すると力強い。それに引き比べて日本のリーダーの発するメッセージは…。などと言うまいとは思うのだが。(S)


2月25日(水)

●船体や漂流物にぶつかり絶命したのだろうか、七重浜に打ち上げられた遺体はエビのように曲がり、目を見開いたまま。生花店を営んでいた男性が損傷の激しい遺体を一体一体、清めて遺族に引き渡した…▼55年前に多くの犠牲者を出した青函連絡船「洞爺丸」事故で「死に化粧」をしたのが納棺師の始まりといわれる。遺体処理の納棺は元々は親族が行っていたが、感染症などの問題から葬儀社の手に移り、日々人の死に向き合う職業になった▼生まれた以上、死は必ず万人に訪れる。誰でも大切な人の最期の面影が穏やかであってほしいと願う。横たわる遺体を挟んで遺族たちと向かい合い、顔や身体を清めて、肌を見せないように死に装束を着け、含み綿などで生前に近い表情にメーク▼米国アカデミー賞(外国語映画賞)を受賞したで映画「おくりびと」を見てきた。英語版の題名「デパーチャーズ」は「旅立ち」の意味。畳に正座して布団に寝かされた遺体のまぶたを閉じさせる…。畳すれすれのアングルから畳や床が身体と一体になった日本人の死生観が伝わる▼同時に短編アニメ賞を得た「つみきのいえ」も残された者の物語。水没した自宅に潜り、先立った妻や子どもに出会う…。2作品とも「死者は心の中で生きている」と呼び掛けている。死を受け入れられずにいた遺族の表情を和らげるのが、洞爺丸惨事で生まれた「おくりびと」だ。(M)


2月24日(火)

●米作家トルーマン・カポーティー原作の「ティファニーで朝食を」は、オードリー・ヘプバーン主演の映画で大ヒットした。小説ではなくこの映画を見てティファニーに憧れた女性も多いことだろう▼観光でニューヨークを訪れる日本人女性が、ショッピングに行きたい店としてまず挙げるのがティファニーだ。バブル景気にわいていたころ、ニューヨーク五番街のティファニー本店は、そうした女性であふれていた▼高級店の代名詞のようなティファニーだが、手ごろな価格の宝飾品ももちろん置いている。買い物をしなくても目の保養に高価な宝石を見たり、店の雰囲気を味わったりしても旅行の土産話にはなった▼映画が封切られた40余年前は、ティファニーの宝飾品はおそらく日本に入っていなかっただろう。戦後の混乱期をやっと脱出した時期だ。だが、豊かになったいまは、ティファニーにとって日本は重要な市場だ▼東京銀座店をはじめ北海道から沖縄まで主要デパートでティファニーの宝飾品を扱っている。そのティファニーが、ペンダントや指輪、時計などほぼすべての宝飾品を平均9%下げた。円高・ドル安の還元値下げだ▼景気の落ち込みが深刻になるにつれ、高額品の売れ行きにも影響が出始め、高級ブランドにも値下げの動きが顕著になってきている。なかなか手が出ない宝飾品だが、ホワイトデーのお返しにカミさんか娘に…やはり無理かな。(S)


2月23日(月)

●母親と一緒に展覧会に行った視覚障害の子ども。「触ってもいいよ」というシールを張った彫刻に触れ、指でなぞって「うわーい、彫刻だ。風が通っている‥」と“触る鑑賞”に感激。名前が「風の‥」で始まる作品だった▼かたやバチカン博物館。大蛇に襲われるギリシャ神話の登場人物をかたどったラオコオン像の前で「ここから入ったらいけない」という柵を越えたら警報が鳴った。また、触ることを禁じられている美術品にも素手で触って、日本人のマナー欠如を暴露した▼そう、海外のインターネットの動画サイトで「ドランク・ミニスター(酔っ払い大臣)」とたたかれた中川昭一前財務相。以前から酒に強いと聞いていたが、G7の世界の舞台で、コントロールを失い、しどろもどろの記者会見。「酔眼朦朧(もうろう)」の醜態だった▼「体調が悪く、風邪薬と酒が相乗効果を起こした」と釈明したが、「慢性アルコール中毒による発作的無意識状態で、誤認や錯覚が起きた」「意識障害の一種」との指摘も。グローバルな経済危機は、ろれつが回らない“酔眼運転”では克服できない▼その足でミケランジェロの壁画などがあるバチカン博物館へ向かい、国の代表とは言い難い行動に走った。有名な寺院の壁などに落書きした日本の大学生もいたが、みんなが守っている“マナーの柵”を超えてはいけない。「触れる彫刻」に感動した子どもに恥ずかしい。(M)


2月22日(日)

●「バイ・アメリカン」といっても、米国製でまかなえないものは輸入するしかない。米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)を見ていて、米の製造業が世界のすう勢から遅れをとっていることを示す記事が目に付いた▼記事は、オバマ大統領が署名して先ごろ成立した景気対策法のバイ・アメリカン条項が、どこまで実情に即しているかを検証している。取り上げたのは、太陽光パネルを生産しているドイツの工場である▼景気対策法は総額7870億ドル(約72兆円)と過去最大規模に上る。昨秋の金融危機に始まった「100年に一度」の経済危機に対処するため、大規模な公共事業や減税策を盛り込んだ。その柱のひとつが環境関連の投資である▼ところが、環境は米製造業の不得手な分野であるらしい。米国製品の優先購入を義務づけるバイ・アメリカン条項が法律に含まれているとはいえ、環境分野では実現できるか疑問を呈している▼バイ・アメリカンは、外国製品を締め出す保護主義を助長するとして問題になった。法律は、最終的に運用に柔軟性を持たせて保護主義の色合いを弱めた。米への輸出が多い日本や欧州は影響がほとんどなくなったといっていい▼だが、新興経済国の中国、ブラジル、ロシアなどは、米への輸出に陰りが出ると警戒している。バイ・アメリカンの影響は、米との貿易に自国経済の建て直しを図る国々にとって無関心ではいられない。(S)


2月21日(土)

●ここ数日来、函館・道南は遅れてやって来た本格的な寒さに見舞われている。どんよりした空から雪が風に吹かれて降りしきる。道行く人々も厚手のコートやジャンパーに身を包み、足元に気をつけて過ぎていく▼地肌が露出していた五稜郭公園は、すっぽりと雪化粧した。散策に訪れる姿も心なしか少ない。寒さが峠を越え、雪が解け出す雨水(うすい)を過ぎての寒波は、北国ではよくあることだ▼そう分かってはいても、1月から2月半ばまで続いた暖冬で、今年は春の訪れが早いのかと油断していた。だが、自然の摂理は、ちっぽけな人間の期待などには無頓着に、きっちりと冬将軍の威光を誇示する寒気を送り込んできた▼冷え込む夜、上戸にとっての楽しみは熱く燗(かん)をした日本酒だ。冷酒や焼酎が人気といっても燗酒のうまさは捨てがたい。鍋物やおでんとともに頂く一献は、冷えた体をしんから温めてくれる▼もっとも近ごろの居酒屋は、お燗用の徳利を置いていない店もある。用意が面倒な燗酒は敬遠されているのだろう。若者がビールやカクテルなどを選ぶ好みの変化も燗酒の陰りを押し進めているのかもしれない▼「悲の器」などの作品を残した作家高橋和巳さんが、中国語には〈酒悲〉の言葉があると書いている。悲しみをまぎらそうと酒を飲んでもかえって悲しみは募るという意味だ。寒夜の今宵、〈悲しい酒〉は歌にとどめ、楽しくやろう。(S)



2月20日(金)

●ワーキングプア(働く貧困層)は「年収200万円未満の」と形容語句を冠して記述されることが多い。ボーダーラインの200万円は切りのいい数字であることや、生活保護費との兼ね合いで言うのだろう▼そのワーキングプアよりさらに低い給与で生活を支えているのが、母子家庭の母親だ。父親を亡くした遺児に奨学金を貸与している「あしなが育英会」の全国調査では、母親の給与は昨年8月時点で12万2千円だったという▼回答を寄せた母親の4人に1人は半年前より給料が下がり、9割近くは生活が苦しくなったと訴えている。不況のしわ寄せが、もっとも弱い人たちの生活を脅かしている一端を示す数字だ▼私立高校の授業料滞納が増大しているのも、不況の影響を映し出す。私立中学高校連合会が昨年12月時点で実施した調査では、滞納者が2・7%で、半年間に3倍に増えた。本道・東北は滞納者の割合が4・5%にはね上がる▼親の負担を少しでも軽減したいと、山梨県高等学校・障害児学校教職員組合は、先生方が拠出した主任手当て分を困っている生徒に贈るという。組合の雨宮信二書記長は「授業料の足しになれば」と話していた▼「年越し派遣村」の村長だった湯浅誠さんは、貧困に落ち込むとはい上がれない社会を指して「滑り台」と表現した。親の貧困が子にも連鎖する悪循環を絶てない限り、滑り台の傾斜角は増すばかりだろう。(S)


2月19日(木)

●ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で月を観察してから400年。地動説を唱えたため宗教裁判で有罪となったガリレオ生誕の15日、バチカンはローマの教会でミサを開き、裁判の非を認め謝罪、偉大な科学者の偉業をたたえた▼今年は世界天文年。「宇宙 解き明かすのはあなた」をスローガンに宇宙への関心が加速。東大阪市の中小企業が手掛けた雷観測衛星「まいど1号」が日本上空から列島の撮影に成功。青い地球に四国、九州などがくっきり。同時に打ち上げられた公募の小型衛星も順調に飛行▼一方、米国テキサス州に米露衛星の衝突によるものと見られる破片が落下したというニュース。空に火の玉のようなものが見えたという。これまでに宇宙空間に打ち上げられた人工衛星は約6000個。廃棄衛星など宇宙ごみ(デブリ)は1万2000個超▼米露衛星衝突でも600個以上のデブリが発生したようだ。小さな破片でも“凶器”。直径10センチのデブリが秒速数キロの速さで衝突すれば衛星はひとたまりもない。若田光一さんが乗り込む宇宙ステーションは衝突があった軌道から離れているというが…▼子どものころ、天体望遠鏡を買ってもらって「ガリレオの世界」をのぞいた。多くの探査機が宇宙の謎(ロマン)を徐々に解明しているが、「まいど1号」が撮影した青い地球に“火の玉”が降らないため、各国が「宇宙のごみ」回収のルールを作ことも急務。(M)


2月18日(水)

●徒然草の作者兼好法師は「下戸ならぬこそ、男(おのこ)はよけれ」と書いているように、相当な酒好きだったらしい。月の夜や雪の朝、旅の宿などで飲む酒を「いとよし」「いとをかし」と賛美している▼だが、「万(よろず)の病は酒よりこそ起れ。人の知恵を失ひ、善根を焼くこと火の如(ごと)くして」と酔っ払いをののしり、酒の害を説いてもいる。酒は百薬の長だが、適量を過ごせば災いを招くとの教えだろう▼辞任を表明した中川昭一財務相兼金融担当相は、風邪で体調が悪いところに飲んだ酒が利き過ぎたのだろうか。先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見の様子をテレビで見ると、視線は定まらず、ろれつが怪しかった▼中川氏は政界で聞こえた酒豪である。酒は、仕事の憂さや辛さを一時的にせよ忘れさせてくれる妙薬であり、人間関係の潤滑油にもなる。一杯の酒が沈んだ気分を解きほぐし、新たな活力の源になることだってある▼中川氏の父一郎元農相も酒豪で知られた。酔っ払って国会敷地内で立小便している姿を写真誌に撮られたことがある。武勇伝ですんだ父と異なり、中川氏の失態は支持率がた落ちの麻生内閣にとって命取りになりかねない▼兼好は「上戸は、をかしく(愉快で無邪気)、罪ゆるさるゝ者なり」と酒飲みを擁護している。しかし、本道選出の実力議員とはいえ今回の醜態は擁護のことばが見つからない。(S)


2月17日(火)

●函館とユジノサハリンスク(旧豊原)の間には週1往復の国際定期航空路が開かれている。函館空港を飛び立ってユジノまで約1時間、もっとも近い外国が、ロシア極東のサハリン(旧樺太)である▼観光旅行でサハリンを訪れる日本人は多くはない。函館・道南に住む私たちにとっても、定期航空路があるとはいえサハリンは身近な地域ではない。樺太からの引揚者を除けば、現地を知っている人は少ないだろう▼そのサハリンをあす、麻生太郎首相が訪れ、メドベージェフ・ロシア大統領と首脳会談を行う。日露間の最大懸案の北方領土問題も話し合われる予定だ。首相としては、低迷する支持率回復のきっかけになる成果を挙げたいところだろう▼首相は、天然ガスと石油開発の巨大プロジェクト、サハリン2の稼働式典に出席する。サハリンの大陸棚は資源の宝庫だ。その開発には、日本企業も出資や技術者を送って深くかかわって来た▼日露首脳がそろって稼働式典に出席するのは、サハリン開発への期待の大きさを示す。出荷される液化天然ガスは、約6割が日本向けとされ、日本にとっては、エネルギー供給源の多角化にも役立つ▼日露間の経済関係は、今回のサハリン2の稼働を通じてさらに深まると見られるが、領土交渉は小泉・安倍・福田政権を通じ、めぼしい進展はない。そこに何か風穴を開けられるか。首脳会談のやり取りは、注目に値する。(S)



2月16日(月)

●ドギーバッグを知ったのは、ニューヨークでレストランに入ったときだ。米のレストランで出される食事の一人前は、日本よりもずっと量が多い。大食いの米国人にも手に余ることがあるらしい▼そうした際に、米国人が給仕を呼んで注文するのがドギーバッグだ。残した食事を愛犬用に持ち帰りたいからとの理由で求める無料の箱や袋のことだ。犬はドッグフードが主食だから人間の食事の残りを食べさせることは少ない▼持ち帰った食べ残しはその日か翌日、電子レンジで温めなおして家族の口に入るのが一般的だ。廃棄される残り物を少なくする合理的なやり方だな、と感心したことを覚えている。そのドギーバッグが日本でも売られるようになった▼ネットでドギーバッグを検索すると、プラスチック製の組み立て式が大小1セット819円で売られているのを見つけた。「欧米では、食べ残した料理を持ち帰るのは当たり前の習慣です」と宣伝文句を添えている▼函館でもパーティーなどで余った料理を容器に詰めて持ち帰る光景を見ることがある。容器は、ホテルやレストランがただで提供してくれるから、ドギーバッグを買って持ち込まなくても済む▼それでも持ち帰りはまだ少ない。食中毒を恐れて認めないレストランもある。だが、世はエコ時代だ。節約意識も高まっている。食べ残しの廃棄を減らすには、ドギーバッグの活用があってもいいように思う。(S)


2月15日(日)

●郵政民営化が実現できたら「死んでもいい」と叫んで総選挙を自民大勝に導いた小泉純一郎元首相にとって、民営化に賛成ではなかったと受け取られかねない麻生太郎首相の最近の発言は、看過できないのだろう▼「ただただ、あきれている」とまで批判した小泉さんの過激な言及は、麻生首相の胸にぐさりと刺さる痛撃に違いあるまい。政治コメンテーターは、大政局の始まりとテレビ番組で解説していた▼麻生発言を巡っては、言わずもがなのことを言うとか、ぶれているとか評価がかんばしくない。だが、小泉さんの今回の批判は衝撃度が格段に違う。小泉さんは定額給付金法案の再可決にも反対の意向を示した▼批判の矢は、さすが「小泉劇場」のかつての主役だけあって大向こうをうならせるタイミングで放った。これまで沈黙を守ってきたのは、発言をより劇的に演出するための秘策だったのだろうとさえ思わせる▼小泉さんは、次の総選挙で二男に地盤を譲り、引退を表明している。世襲批判もどこ吹く風の“親ばか”ぶりだ。小泉さんも人の子だ、と擁護する声はあっても、祖父から続く国会議員が4代目となると何かひっかかる▼さらに、米国流の新自由主義を旗印に規制緩和を推進して、格差拡大や不安定雇用の増大を招いたのは小泉さんの5年間だった。これらの政策の評価はどうなのだろうか。引退前にご本人の口からぜひ聞いてみたい。(S)


2月14日(土)

●かつて「バレンタインデーは“児童労働”を助長する」と言われた。アフリカのココア農場で働く子どもたち。給料のよい仕事があると騙(だま)されて連れて来られて、休憩時間も与えられない重労働。病気になって働けなくなると、暴行を受け殺されたという▼おいしいバレンタインデーのチョコができる過程に児童の悲劇が隠れている。このため、最近ではチョコの本場のベルギーを中心に商取引を通じて貧困のない公正な社会を作る「フェアトレード」運動が展開され、児童労働に頼らない商品が並ぶと聞く▼14日は婚姻禁止のローマ帝国時代、バレンタインが兵士の結婚を手助けして処刑された日。女性が男性にチョコを贈る日だが、今年は男性が女性に贈る「逆チョコ」だという。逆チョコを贈る気持ちは「感謝」「友情」「愛情」の順となっている▼健康志向のチョコも出現。抗酸化作用が上昇し血行もよくなるという黒ニンニク入りのチョコ(カカオ含有率72%のガーナスイート)。歯科医の助言を得て砂糖の代わりにキシリトールを使った虫歯を予防するチョコ▼チョコ味のビールやメッセージを添えた道産ワインもお目見え。逆チョコの新定番化を目指しているが…。「郵政発言」でイバラの道を歩む麻生太郎首相には血行をよくするチョコか。男性は来月のホワイトデーにも贈らなければならないが、悲惨な児童労働を忘れてはならない。(M)


2月13日(金)

●函館市内の「ニトリ」を訪れたら、「暮らし応援価格 値下げ宣言」と書かれたポスターが至るところに張ってある。新学期が間近い時期とあってか、店内は学習机などを選ぶ子ども連れの買い物客でにぎわっている▼札幌に本社を置くニトリは道内発祥企業の中でも勝ち組のひとつとされる。消費不況にもかかわらず好調な業績を上げているのは、店内ポスターが示すように値下げ攻勢で消費者の心をつかんでいるからだろう▼景気は昨秋の金融危機を発端に急下降している。日本の経済を牽引してきた自動車産業は、大手が軒並み赤字決算に陥り、雇用調整という名の人員整理が続く。モノが売れなくなり、消費が縮む悪循環に陥っている▼そんな暗い世情に光明をともしているのが、元気な企業だ。好業績の企業に共通するのは、消費者を引き付ける価格の引き下げらしい。「お得感」あふれる価格帯の商品を提供して集客力を高めようとの戦略だ▼ハンバーガーチェーン大手の日本マクドナルドは、マックポークなどを100円に値下げすると発表した。同社は2008年12月期に過去最高の売上高を記録した好調企業だ。道内ではコープさっぽろが食品などを値下げする▼価格引き下げが個人消費を刺激すれば、不況脱出への道も開ける。縮んだ消費を拡大基調に持って行く有効策は、定額給付金のばらまきよりも魅力的な価格設定にあるのかもしれない。(S)


2月12日(木)

●スター選手がそろうニューヨーク・ヤンキースでもアレックス・ロドリゲス選手は、別格だろう。なにしろ年俸総額が10年で約250億円と大リーグ史上最高額の契約を結んでいるスラッガーだ▼アメリカン・リーグ最優秀選手に3度輝き、ホームラン数も553本を積み重ねている。33歳という年齢から将来はバリー・ボンズ選手の持つホームラン記録の762本を塗り替えるだろうと期待されている▼そのロドリゲス選手が、テキサス・レンジャーズ時代の2001年から03年にかけ、筋肉増強剤を使用したと米テレビ番組で告白した。画面で見るロドリゲス選手は、みけんにしわを寄せ沈痛な面持ちで語っていた▼「私は若く、愚かだった」「(高額な年俸に見合う)成績を残さなければとプレッシャーがあった」。ロドリゲス選手が薬物に魅入られたのは、期待に応えなければならないというあせりだったのだろう▼ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)はレンジャーズ時代、ロドリゲス選手はシーズン平均52本のホームランを放ったが、ヤンキース移籍後の04年からは41・6本に落ちたと伝えた。レンジャーズ時代が勝っているのは薬物効果だろうか▼米では、北京五輪で8個の金メダルを獲得した水泳のマイケル・フェルプス選手の大麻吸引疑惑が発覚したばかりだ。スター選手の浅はかな行為が子どもたちやファンを傷つける。米スポーツ界の病根は根深い。(S)


2月11日(水)

●仏教の八宗とは、奈良時代の六つの教えと平安時代の天台宗、真言宗を指す。これらを修めた人を八宗兼学といい、転じて物事に広く通じていることを指す▼鎌倉時代の東大寺僧、凝然(ぎょうねん)は、仏教の概説書となる『八宗綱要』を著した。内容はまさに八宗兼学。函館市の称名寺住職、須藤隆仙さんが出版した『仏教名言・名句事典』(新人物往来社)を手にし、その言葉を思い出した▼須藤さんは2004年、集大成とも言える『世界宗教用語大事典』(同社)を刊行。たった一人で1万5000もの宗教用語を解説した。今回も特定の宗派に偏らず、示唆に富む450の名言や名句を集め、紹介した▼須藤さんは、分かりやすく仏教を教えてくれる。例えば中国の高僧、善導は「仏に従って歩き、自然に帰る。自然とは弥陀(みだ)の国である」と述べた。仏教は成仏や往生などいろいろ説くが、要は自然に帰る教えなのだ、と▼難解なことを易しく伝えることが一番難しい。それは諸経典を読み、そしゃくし、滋養としなければできない。さらには思いやりである。難しい言葉を並べても人の心には届かない▼しかし、凝然が自身の著作を「九牛の一毛、大海の一滴」と述べたように、須藤さんも「不明浅学の身、不備不足が多い」と謙虚に語る。易しいことも難しく伝えてしまうことこそ浅学であろうに…。須藤さんの他を慈しむ心に感服するばかりだ。(P)


2月10日(火)

●函館の最高気温が5度前後まで上昇した午後、五稜郭公園を歩いた。雪はところどころまだらに残っているが、サクラの木の周りは、ほとんど解けて草地が露出している。黒っぽく変色した濡れ落ち葉がその上を覆う▼サクラの芽は、もちろんまだ小さくて固い。だが、命が膨らむ日をじっと耐えて待っているのだと思うと、小さな芽にもいとおしさがわいて来る。昨年楽しんだ満開のサクラをまぶたに映じながら歩を進める▼今冬の道南は、暖かな気温で推移している。1月の函館は平均気温が平年より2・5度高かった。最高気温が氷点下の真冬日は、平年の半分以下の5日間だった。冬型の気圧配置が長続きしなかったのが要因らしい▼早朝目覚めると、夜の帳(とばり)が朝と交代する淡い明るみがカーテンのhメ間からこぼれてくるのに気づく。いつまでも夜が明けないように思えた年末に比べ、いまは6時前には山の向こうに朝焼けが始まる▼日脚は確実に延びている。日没が午後5時過ぎになった。突き刺すような寒風が一日中吹くこともこの先、多くはあるまい。季節の歩みが、冬から春へ行きつ戻りつしながらもゆっくりと少しずつ進んでいることを感じさせる▼だが、暖冬だからといって油断はできない。強い寒気や大雪が、暖冬の帳尻合わせのように春先にやって来ることもある。そんなことを思い巡らしながら歩いていると、五稜郭公園を一周してしまった。(S)


2月8日(日)

●函館市内の和食屋の板長が「いいゴッコが入った」と言ってゴッコ汁を出してくれた。ゴッコは、その奇怪な容姿からは想像できない味わいを秘めていることを道南に住むようになって初めて知った▼ゴッコは通称で、ホテイウオが正式名だ。見た目は黒っぽくてプヨプヨしていて、お世辞にも整った形とはいえない。板長の説明では胸びれが変化した吸盤を使って岩にへばり付いて暮らしているらしい▼このゴッコの鍋や汁は、冬が旬だ。くつくつと煮え立つ鍋や熱々の汁から身を取り出してほおばる。ゼラチン質の身が口の中で踊り、プチプチした卵とともにのどを滑り落ちていくと、うまいなと思わず笑顔になる▼ゴッコは、スーパーの魚売り場でも切り身が売られている。骨ごと食べられるから、家族の夕食に購入する主婦もいるのだろう。値段を見ると、オスとメスで倍くらい違う。一尾数百円のオスに対し卵を持つメスは1000円近い▼食通で知られた北大路魯山人は〈日本の食品中で、なにが一番美味であるかと問う人があるなら、私は言下に答えて、それはふぐではあるまいか、と言いたい〉とエッセーに書いている(「海にふぐ山にわらび」)▼なるほど薄くひいた刺し身や豊かな食感の鍋物とその後の雑炊は、フグを食べる醍醐味だ。だが、フグはおいそれと手が出ない高級魚。道南にはゴッコがあるじゃないか、とつぶやいて板長にお代わりを頼んだ。(S)


2月7日(土)

●「占領後、家や漁場を奪われて島から追い出された人たちのことを考えると、一日も早く北方領土が返されればいいと思います。おじいちゃん、おばあちゃんのお墓まいりも自由にできないのはかわいそうです」(小学生の作文)▼北方四島(択捉、国後、色丹、歯舞)との「ビザなし交流」で昨年度までの15年間で墓参を中心に日本から延べ8338人(ロシア側は6354人)が訪問。今年度も865人が訪れている。北方領土問題解決までの「相互理解増進」を目的にロシア側の提案で開始▼旅券やビザなしで四島に上陸できる。人の交流ばかりではない。人道支援物資も供与。しかし、先月下旬、注射器など医療物資を積んだ船が国後島に向かったが、着岸できなかった。出入国カードの提出を要求されたからだ。自国の領土だから日本側の拒否は当然▼ロシア側は支援事業を受けながら着々と島の生活地盤を固めている。入国カードの提出は「国内法の改正で外国人の義務」と主張しており、北海道に入ってくる島民にも出国カードを義務付けるのは必至。今度のロシア側の横暴は“砂上の友好交流”に追い込む感が…▼154年前に日露通好条約が調印され、北方四島が日本の領土になった。その条約調印の日の2月7日を「北方領土の日」とし、四島返還を訴えている。近く両国の首脳会談が予定されおり、「墓参が自由にできるよう」話し合ってほしい。(M)


2月6日(金)

●後志管内余市町と古平町を結ぶ国道の豊浜トンネルで1996年2月10日朝、崩落した上部の岩盤がトンネルを突き破り、走行中の路線バスと乗用車が下敷きになった。20人の命が奪われた事故から間もなく13年▼その日はちょうど、札幌の新聞社で取材記者の原稿をチェックし、紙面構成を考えるデスク業務に当たっていた。第一報はトンネル付近で土砂崩れが起きたというものだった。ほどなく「バスが消えた」との情報が入り、現場に10人余の記者とカメラマンを走らせた。編集局内は騒然となり、情報は錯綜(さくそう)した▼翌日には現場デスクとして現地入り。岩盤を除去するための発破は難航を極め、押しつぶされたバスと車から遺体を出すことができたのは一週間後だった。日本海沿いの極寒の地で、「早くトンネルから出して」という遺族の悲痛な声を聞く毎日が続いた▼崩落のその瞬間、たまたまトンネルに入ったバスと車。バスには部活に向かう高校生ら19人が乗っていた。全員即死だった▼1カ月後に再度現地入りし、20人の最後の言葉を遺族に聞く取材に当たった。つらい取材だったが、被害者全員の「その朝」を記録し、無念さを共有する中で、再発防止を誓うのが報道機関の使命と信じた▼今、トンネルは新しくなり、入り口には防災祈念公園が整備され、慰霊碑が建立されている。取材仲間は今もこの時期、碑に手を合わせている。(H)


2月5日(木)

●函館市内ではお年寄りを中心に「健康マージャン」が広がりつつあるという。卓ではたばこも酒も排除し、金銭もfイけない。自分の牌を組み立て、捨て牌から他の3人の手の内を読むのだから、とにかく頭と神経を使う。老化防止になるというのもうなずける▼小学低学年から家族マージャンを始め、学生時代は徹夜マージャン(徹マン)に明け暮れた。社会人になっても徹マンは何度も経験した。役満を振り込んだ苦い思い出もあれば、四暗刻単騎をあがって飛び跳ねたこともある▼相手の意外な一面が見えてくるのも楽しい。ずいぶん慎重だなあ、おやおや大胆だこと、その真剣さを仕事に生かしてくれよ…。そんなことを思いながら打つと、ゲーム性の高さとともに、面白さに拍車が掛かる▼ギャンブルとしてのマージャンを取り上げた小説として、阿佐田哲也の「麻雀放浪記」がある。阿佐田哲也は作家の色川武大がマージャン小説の際に使ったペンネームで、「朝だ、徹夜だ」が由来という▼麻雀放浪記は1984年に映画化された。真田広之、鹿賀丈史、大竹しのぶらが出演するモノクロ作品。戦後復興期の騒然とした雰囲気に、イカサマ技などが巧みに刷り込まれていた▼そうしたギャンブル性は二の次に、仲間と話をしながら卓を囲むのは愉快だ。頭の体操として牌を握る健康マージャンは、高齢社会の進展とともにさらに定着する気がする。(H)


2月4日(水)

●もう1人生まれていれば野球チームが出来るね、と家庭の話題になったかもしれない。米ロサンゼルス郊外の病院で先月末、8つ子の赤ちゃんが誕生したニュースは各紙がこぞって伝えた▼赤ちゃんは男児6人、女児2人で、8人が生存したまま生まれたのは世界で2例目だという。体重は約580グラムから約1470グラム。帝王切開で行われた出産はわずか5分で終わったそうだから、母体の負担も軽かったのだろう▼日本での多胎出産は、鹿児島県徳之島伊仙町の5つ子がよく知られている。1980年に生まれた五つ子は、テレビのドラマにもなって、一躍脚光を浴びた。町のホームページの年表にも五つ子誕生が掲載されている▼その伊仙町が、子だくさんの町・日本一に輝いた。1人の女性が生涯に生む子どもの平均数である「合計特殊出生率」が2・42に達し、都市部の3倍にもなった。その他、出生率上位には九州・沖縄の島しょ部が入っている▼逆に下位は、東京目黒区の0・74を筆頭に、都市部が占める。このデータを発表した厚生労働省の人口動態統計から見えてくるのは、出生率の大きな地域間格差だ。離島などが健闘しているのに対し都市部は、子どもの数が少ない▼地域が一体となって子育てを支える気風は、地方ほど濃厚に残っているのだろう。それに比べ晩婚化が進む都市部は、子育ての環境が劣っているのでないか、と考えさせる統計資料だ。(S)


2月3日(火)

●「子どものころ、紙コップで糸電話を作って遊んだ。糸は母親から絹糸をもらった。紙コップも手づくり。声が糸の振動に変換されて「あす凧揚げするぞ」が伝わる。声(音)の実体が振動であることが分かるため、いい理科の教材だった▼よく母親にも糸電話でおねだりをしたものだ。今は携帯電話。小6の孫から「あす誕生日だよ」と携帯メール。冷たい活字の“メールおねだり”は味気ない。相手の感情が伝わらないから、学校裏サイトに個人を攻撃するような言葉が書き込まれる▼授業中でもメールを打って、いじめにつながったり、自殺に追い込んだりする。たまりかね、文科省は子どもの携帯電話の学校持ち込みを原則禁止する指針を通知。小中学が対象。現在でも、小中校の9割以上が持ち込みを禁止しているが…▼本紙によると、渡島管内の小中高校の6割が携帯電話のメールマナー、危険性を教える情報モラル教育に取り組んでいるが、ネットいじめや裏サイトの実態など最新情報を入手して指導しているのは全道平均を下回っている。家庭との協力体制も遅れているようだ▼塾通いなどでの事件の未然防止に、発信地が分かる機能付きの携帯電話を持たせておけば安心というのも確か。学校に登校したら預けて、下校時に携帯させればよい。学校と親が協力して適切な使い方のマニュアルを徹底することが大事。糸電話のように“心の振動”を伝えたい。(M)


2月2日(月)

●「カリブの海賊」は、東京ディズニーランドの人気アトラクションだ。ボート型の乗り物に乗って、陽気な海賊たちが待ち構える冒険の旅に出る。海賊船の戦いや銃撃戦、財宝がきらめく洞窟など胸が躍る趣向が展開する▼海賊たちは、顔つきこそいかめしいが、歌ったり踊ったりと訪問者を歓迎してくれる。怖がりな子どもでも親しみを抱くキャラクターだ。もちろん架空の世界のことだから、本物の恐怖が襲っては困る▼ディズニーランドの海賊が楽しさを振りまく平和の使徒なら、こちらは真の恐怖をもたらす海のギャングだ。ロケット砲や銃火器で武装し、アフリカ・ソマリア沖に出没して民間船舶を襲う▼海賊の狙いは金だ。船舶を乗組員ごと奪い、身代金を要求するのが多い。被害は急増を続け、日本関連の船もターゲットにされた。ソマリア沖には約20カ国の艦船が派遣され、被害を防ごうと躍起になっている▼そこに海上自衛隊を派遣する準備が始まった。派遣が決まれば日本の海運会社がチャーターした船や日本人乗組員の船を警護する。重武装した海賊から攻撃されれば、自衛隊が海外で初めて武器を使う可能性もあるという▼アフリカの角と呼ばれるソマリアでは、長い内戦が続き、あふれるほどの武器が出回っている。恐怖と貧困が人々を苦しめる。アフリカの地図を見ながらそこに派遣される自衛艦を思い描く。(S)


2月1日(日)

●「実感なき」の語句を冠して表される日本の景気拡大は、2002年2月から始まった。この間、輸出企業は最高益の更新を続け、余った金は配当の形で株主を潤した。しかし賃金は伸び悩んだ▼「実感なき」は、従業員の立場から見た景気拡大の局面だ。過去の好景気では、雇用される側にも賃上げの恩恵があった。だが、今回は非正規雇用の増大など不安定雇用に乗っかった景気拡大だった▼戦後最長の景気拡大は、07年10月に終わったと内閣府が正式に認定した。米国発の金融危機が起きる1年近く前だ。そして現在、世界は未曾有の経済危機に直面している。なぜ、こんな事態に陥ったのかを解き明かす本が注目されている▼「資本主義はなぜ自壊したのか」(中谷巌著・集英社)だ。著者の中谷・多摩大学教授は、新自由主義や市場原理主義の推進者として知られた。小泉構造改革を竹中平蔵・元経済財政担当相らと支え、経済政策の決定に影響を与えてきた▼その中谷教授の転向宣言がこの本だ。教授は小泉改革を批判し、市場至上主義が大量の貧困層を生み出したと分析。かつて一億総中流とされた日本は、先進国の中で米国に次ぐ高い貧困率に落ち込んだと指摘している▼昨年暮れから新年にかけて開設された「年越し派遣村」が象徴するように、なるほど日本の貧困層は広がりを見せている。そんな時代状況を読み取る手がかりを与えてくれる一冊だ。(S)


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