平成21年3月


3月31日(火)

●立待岬にも春を告げるフキノトウなどが姿を見せた。出会いと別れの季節でもあるが、近くの公園で思い切り春の陽光を浴びるのも楽しい。函館公園の「こどものくに」がオープン。親子連れが観覧車などに乗って歓声を上げている▼函館公園は130年前、当時のイギリス領事、ユースデンの「病人に病院が必要なように、健康な人には休養する場所が必要」との勧めで造園。上水道開設記念噴水塔や歓楽山、すりばち山などの展望台もあり、日本の歴史公園100選に選ばれている▼53年前に出来たのが道内初の公共動物飼育施設や遊具を設置した「こどものくに」。飛行機、新幹線、メリーゴーランドなど20機以上のレトロな遊園地。特に高さ12メートル、ゴンドラ8基の観覧車は、国内で稼動する最古のものだと最近知った。大沼湖畔東大島から移設された▼開港150年という大きな節目を迎え、この歴史公園を含む函館観光を広く宣伝しよう。函館出身の歌手、う〜みさんも「港函館 夜明けの開港 えぞの入り口 日本の顔だ」と、函館の歴史や地名を織り込んだ応援ソングを歌っている▼また、函館PR映像「タワーロボvsイカール星人」が痛快だ。国宝の中空土偶なども登場させて、宇宙から来襲したイカロボと五稜郭タワーの対決は今、インターネット上で人気。“1000円高速”での遠出よりも、近くの歴史的観光地の再見を春のお出かけに勧めたい。(M)


3月30日(月)

●料理研究家の平野レミさんは、東京銀座にあった「銀巴里」でシャンソンを歌っていた。あるとき、知人の永六輔さんが、銀巴里で歌わせてほしいと頼んだ。そこで平野さんが仲介して永さんの出演が決まったという▼永さんがやったのは平野さんとコンビを組んでの漫才だった。シャンソン喫茶では、異色の出し物だったろう。ところがこれが受けて、永さんの出番の日は満席になったそうだ。平野さんがエッセーで紹介している話だ▼銀巴里は1951年、銀座7丁目にオープンした。そこには三島由紀夫、吉行淳之介、寺山修司といった当代の文化人が足しげく通った。一種のサロンの雰囲気をたたえていたと言ってもいいだろう▼出演は美輪明宏、中原美紗緒、金子由香利などシャンソン界に名を残すアーチストだった。地階への階段を下りると、パリのシャンソニエの空気を漂わせた小さな舞台と客席が待っていた。薄明かりの中に写真で見慣れた有名人の顔を見ることもあった▼銀巴里が店を閉じたのは90年である。閉店の日、美輪さんは、さよならコンサートで自ら作詞作曲した「いとしの銀巴里」を涙ながらに歌って日本初のシャンソニエの終幕を惜しんだという▼日本経済新聞に美輪さんが寺山の「毛皮のマリー」と三島の「卒塔婆小町」を今年から来年にかけて上演する記事が出ていた。2人と親交があった美輪さんがどんな舞台を見せるか楽しみだ。(S)


3月29日(日)

●函館市内でタクシーに乗ったとき、運転手と景気談義になった。タクシーの売り上げは、景気動向に左右される。近ごろの不況の影響をもろに受けて、企業がタクシーを使う回数が減ったと運転手は嘆いた▼さらに話題になったのが、格安タクシー会社の道内進出だった。京都市に本社を置く「エムケイ」(MK)グループが北海道運輸局に求めていた事業認可がいつ下りるか、運転手は気にしていた▼タクシーは、2002年に参入規制が自由化されて以来、台数増が続いた。資本力の大きい大手タクシー会社が自由化の果実を求めて地方への進出を図ってきた。その象徴的な例が格安運賃で知られるMKグループである▼道運輸局は27日付でMKグループに対し、札幌圏での事業を認可した。4月から初乗り550円の40台体制で営業を始めるという。550円の初乗り運賃は他社より100円安い。利用者にとってはうれしい参入に違いない▼だが、道内のタクシー会社や運転手にとっては戦々恐々だろう。何しろ資本力が違う。MKグループは今後さらに営業台数を増やす計画だというから、札幌圏の競争は一挙に激化する。運転手の売り上げにも当然響いてくる▼函館の運転手は、MKが次は道南に進出して来ないかと気をもむ。台数が増えて運賃競争が始まれば、縮小しているパイの奪い合いが激しくなる。心配の口調は乗車中、止むことがなかった。(S)



3月28日(土)

●75歳は医療制度で後期高齢者に分類される年齢である。その年齢は、どうやら認知症が増大する境目と国は判断しているらしい。6月から75歳以上の全運転者に義務付けられる認知機能検査の方法を警察庁が公表した▼テストは免許更新時講習当日の年月日、曜日、時間を書いてもらうなど極めて易しい内容だ。認知症が疑われるかどうかを見極めるのだから、難しい出題は必要ない。ひっかかれば専門医の診断を受けることになる▼高齢者が過失の重い当事者となる事故は、高齢ドライバーの増加に伴い目立つようになった。動作反応や注意力は加齢によって衰える。そこに認知症の傾向が加われば事故の危険性はいっそう増す。検査は社会の安全を守るためにも必要だ▼だが、当事者には億劫な検査だろう。本人は自覚していなくても専門医に認知症と診断されると免許証を取り消される。公共交通が未整備な地域に暮らす高齢者には、免許証の喪失は足をもがれるのと同じだろう▼面積が広い北海道は、通院や買い物に車を利用する高齢者が多い。函館市内でも運転席、助手席に高齢夫婦が乗り込んだ軽乗用車などを見かける。その多くはゆっくりと走行しているからたいていは見分けがつく▼75歳以上の免許保有者は300万人を超す。その数は今後ますます増える。認知機能検査は、高齢化社会に生きる私たちに新たな取り組みを促すきっかけなのかもしれない。(S)


3月27日(金)

●テレビの天気予報を見ているとキャスターの背後に夜桜が映っていた。首都圏では今週末、花見の人出が最高潮になるという。桜前線は東北に向かって北上中だ。爛漫(らんまん)の春が本州を進む▼だが、海峡を越えた道南は数日来、雪模様の寒気が居座っている。仕事を終えた深夜、駐車場に行くと、愛車が雪を被っていた。ブラッシュを取り出し、雪を払う。この冬、何度目の雪払いだろうか▼真冬の乾いた雪とは異なり、水分をたっぷり含んだ重い湿雪だ。暗い空からぼたぼた落ちてくる雪が頭部を濡らす。だがいまの時節に降る雪は、長く残ることはない。ほんのわずかな春の足踏みだ▼松尾芭蕉は320年前のきょう、江戸深川の芭蕉庵を出て「奥の細道」の旅に出発した。〈春立(たて)る霞の空に白川の関こえん〉と心づもりして、庵の柱には〈草の戸も住替る代ぞひなの家〉の句を残しての旅立ちだった▼東京隅田川沿いの芭蕉庵のあったあたりは、桜が見ごろを迎えている。浅草から水上バスで隅田川を下り、芭蕉庵跡を眺めながらお台場まで行く船旅は、水上からの花見が楽しめる人気のツアーだ。この週末、水上バスは大混雑するだろう▼隅田川の桜の情景を思い出しながらネットで桜の開花情報を眺める。暖冬で開花が早まる予想だが、道南に桜前線が届くのは来月下旬だ。それまでは列島各地の桜の名所をテレビの映像で楽しむことにしよう。(S)



3月26日(木)

●米でレストランに入ると、一人前の分量に驚く。よほど空腹でないとメーンを1人で平らげるのは、かなりの苦行になる。そんなときメーンは2人前頼んで3人でシェアしよう、などと相談をまとめる▼英語のシェア(share)は「分ける」「分担する」などの意味を表す。そのシェアという語を耳にすることが増えた。まず、使われるようになったのは、ワークシェアだ。雇用不安が広がるにつれ、この語の登場回数が目立つ▼サービス残業や働き蜂のことばが示すように、日本人の働き過ぎはしばしば問題になってきた。雇用情勢が悪化しているいま、長時間労働を解消するため、仕事を複数で分かち合いましょうというのだ▼政府と日本経団連、連合の政労使が会合を持ち、日本型ワークシェアの推進で合意したという。ただし、中身はあいまいで、新たな雇用を生み出して失業問題の解決に結びつくのか分からない。日本型というのがどうもくせものだ▼遅れ気味のワークシェアと異なり、車の使用を分かち合うカーシェアは、普及が進んできた。車を所有しないで必要なときだけ借り、整備費などの負担を軽くする。企業が導入し、個人にも広がってきた▼うまく使えばレンタカーより安上がりだ。所有することで必要になる駐車料金や税負担も軽減できる。カーシェアの進展を見越し、事業参入する企業も増えた。シェアは、さまざまな分野で時流になってきた。(S)


3月25日(水)

●新しい朝が来た、希望の朝だ〜 国際宇宙ステーションにドッキングした翌朝、長期滞在を目指す若田光一さんは『ラジオ体操の歌』で目を覚ました。宇宙に浮かぶ青く瑠璃(るり)色の地球を眼前に軽体操。骨粗しょう症防止策だ▼若田さんは今度運んだ太陽電池パドルの取り付けなど何度かの船外活動が予定され体力を消耗するが、無重力状態による骨粗しょう症が心配されている。無重力の宇宙では筋肉をあまり使わないためか、骨のカルシュウムが溶け出し、骨折もしやすい▼骨の中の柱や壁が細く薄くなる骨粗しょう症は高齢者、特に女性に多く見られ、寝たきり状態の原因の一つ。無重力では地球上の10倍の速度で骨密度が減るという。帰還した米国の女性飛行士が記者会見の壇上で立っておられず、倒れる場面もあった▼自力歩行能力を損なって長期の身体障害を引き起こす危険性が大きく、帰還しても元に戻るのに3—5年かかる。若田さんは医学実験に進んで志願。骨粗しょう症の治療薬が宇宙でも有効かどうか、週1回服用して確かめる▼放射能も地球上の半年分を1日で浴びる。若田さんは被爆線量の測定でも自ら被験者になるといい、頭が下がる。かつて宇宙メダカが誕生、子どもたちに夢を与えた。今、宇宙にはシダレザクラが“滞在”。この宇宙サクラは若田さんが6月末に持ち帰る。宇宙からは命の不思議、命の大切さが伝わってくる。(M)


3月24日(火)

●明治の俳人正岡子規は、ベースボールに初めて日本語訳を付けたことで知られる。子規の訳語は「弄球」といった。弄(ろう)はもてあそぶという意味である。だが、弄球は死語になり使われることはない▼「野球」の訳語は1894年、第一高等中学校で選手だった中馬庚(ちゅうまん・かなえ)が編み出した。ただし、それ以前に子規は雅号に幼名の升(のぼる)をもじって「野球(ノ・ボール)」と付けている▼子規は肺結核に倒れるまで、米から入った新しいスポーツのベースボールに熱中した。いまも使われている打者(バッター)、走者(ランナー)、四球(フォアボール)などは子規の訳だ。「伝記 正岡子規」(松山市教育委員会・編)に教えられた▼子規が生きていたらベースボールと野球が激突した試合を食い入るように見つめたことだろう。結果はサムライ・ジャパンが投打で米を圧倒、きょうの韓国との決勝戦にコマを進めることになった▼日本の野球の歴史は、子規のころまでさかのぼって約120年、韓国はそれよりずっと若い。その両国が世界一を懸けて戦う。〈久方のアメリカ人のはじめにしベースボールは見れど飽かぬかも〉(子規)の熱闘を期待しよう▼ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は16カ国・地域が参加して3週間にわたり熱戦を繰り広げた。数々の印象的な場面を残して、きょう幕を閉じる。(S)


3月23日(月)

●「地方は国の奴隷」とは、特異な言動で知られる大阪府の橋下徹知事の発言だ。民主主義の学校と称される地方自治体が、国からの押し付けに翻ろうされる。その実態への抗議を込めた発言だった▼橋下知事が問題にしたのは、国の公共事業に地元自治体が負担金を払う制度の在り方だ。財政状況の厳しい自治体にとって、高額な負担金は大きな重荷になっている。橋下知事は、負担金の最大2割削減を表明した▼知事の反乱は大阪府にとどまらない。北陸新幹線建設で220億円の追加負担を国から求められた泉田裕彦新潟県知事は、根拠を明らかにするよう求めて支払いに難色を示した。同調の動きは佐賀県など他県の知事にも広がる▼国の公共事業は、地方からの要望を受けて着手するのが一般的だが、無駄な工事をしているとの批判もつきまとう。中には熊本県の川辺川ダムのように国のごり押しに地元が反対して中止が決まり、費用が無駄になるケースも出ている。▼“公共事業王国”といわれた北海道の財政悪化は、地元負担金に音を上げたことが要因のひとつとされる。道内の公共事業は、地元負担の割合が特例で軽減されている。それでも積みあがった負担が財政を苦しめる▼麻生太郎首相が出席して開かれた政府の会合で知事側からは、負担の見直し要求が出された。奴隷からの脱却と財政の建て直しを懸けて地方から叫びが上がり始めている。(S)


3月22日(日)

●函館中央病院や函館五稜郭病院を運営する函館厚生院の前身は、1900(明治33)年に設立された函館慈恵院。借りた家屋に老弱者3人を収容したのが始まり。救護したのは捨て子や孤児、病人、貧困者たちだった▼『函館厚生院100年史』によると、北海道開拓や出稼ぎ労働で失敗し、玄関口の函館に戻る流浪者は絶えなかった。病に倒れた流浪者たちを、行旅病者という。そのままでは行き倒れとなり、供養もされない。慈恵院はそうした人たちも救済した▼元函館市職員で、昨年86歳で亡くなった長谷川實さんは、行旅病死者の供養を願っていた一人だ。長谷川さんは親子で船見町の火葬場の管理人を50年間務め、火葬場前の斜面に多くの行旅病死者が土葬されたことを自著で紹介した▼「火葬場に登る坂の途中に無縁仏の箱が二段重ねで段々と増えていった。春の雪解けまで土を掘ることができなかった」と記している。つまり無縁仏は雪解け後に埋められた▼戦前から戦後にかけてのことで、長谷川さんは「開拓に従事し、縁あって函館で息絶えた人たちを供養したい」と訴えた。そして霊園整備も願ったが、実現しなかった▼一方、市は船見町の共同墓地に合葬墓を整備する。埋葬されるのは引き取り手のない、さまざまな方々の遺骨。ともに汗と涙を流してこの世を築いた人たちだ。同じ場所に眠る無縁仏の供養も兼ねて読経できないだろうか。(P)


3月21日(土)

●この季節、ドラッグストアに行くと花粉症のコーナーを設けているのを目にする。マスク、目薬、点鼻薬など花粉症の必須用品や薬品を取りそろえ、患者の悩みを軽くしますとたくましい商魂を見せている▼花粉症はいまや、国民的な疾患と言っても過言ではない。患者数は数千万人に上り、医療費の総額は3000億円近いとの推計がある。通院や病休による労働力の損失は500億円を超すという▼暖冬だった今年、本州では花粉症の主な原因のスギ花粉が先月から飛び始めた。道内でスギが植生している道南では、今月になって花粉症患者の症状が現れたよう★だ。函館市内でも大きなマスクを着けた人たちに出会う▼道内の多くの地域はスギ花粉と無縁だった。その利点を活用して、花粉症からの避難ツアーを企画する町もある。十勝の上士幌町は首都圏で花粉症患者向けの説明会を開き、町にツアー客を呼び込む▼もっとも、道内にも花粉症の原因物質は存在する。よく知られているのはシラカバやブタクサの花粉だ。だが、飛散の濃度がスギほどではないのか、ゴーグルとマスクで目鼻を覆った患者を見掛けることは少ない▼花粉症対策グッズは年々進化している。最近、ドラッグストアで「見えないマスク」を見つけた。鼻に差し込む直径約1㌢のフィルターだ、マスクと違い、眼鏡の曇りを防げるという。効能書につられ、つい買ってしまった。(S)


3月20日(金)

●三寒四温。本州から彼岸桜、ソメイヨシノの花便り。暖冬の今年は雪中から掘り起こさなくなくても墓参ができそう。東京などでは著名人の墓巡りがブームとか。函館は開港150年。ペリー艦隊の水兵が眠る外人墓地でも巡ってみようか▼外人墓地は1854(安政元)年に病死したバンダリア号の水兵2人を海を見下ろす高台に葬ったのが始まり(米国人の墓は40基)。5年後にロシア戦艦の乗組員を埋葬したのがロシア人墓地(43基)。さらに4年後に清国人の遺体を埋葬したのが中国人墓地▼プロテスタント系、ロシア系、中国系など宗派別に区分されている。開港以来、十数カ国の軍艦や船舶が帰港した交易港がしのばれる。また、明治中期、信濃助治が衣類から足袋まで赤ずくめの格好で新聞の号外をまいた「天下の号外屋翁の墓」も。真っ赤な墓で心霊スポットとか…▼「私のお墓の前で泣かないで—」と秋川雅史が歌った『千の風になって』は駒ケ岳のふもと大沼で作詞・作曲された。地元住民の強い要望で同曲誕生の地を示す「千の風モニュメント」が建てられ、亡き人への思いが詰まっている▼彼岸の墓参は先祖の霊を慰めるほか、刻まれた墓碑銘を読み、故郷の歴史を勉強することになる。函館山や五稜郭などに、開港150年につながる国内外の偉人、著名人の墓碑がずらり。それぞれ、かけがえのない人生があったことに気付くに違いない。(M)


3月19日(木)

●「サクラ咲く」は、試験合格を知らせる電文に使われた。携帯電話やメールが一般的な通信手段になる前のことである。逆に「サクラ散る」は不合格を伝える悲しい電文だった▼今年は「サクラ咲く」の便りが早い。地球温暖化の影響なのかサクラの開花は、平年より早まる傾向が顕著になっている。九州はすでに開花した。関東地方は今週末から来週、開花するとの予報だ▼日本人にはサクラに寄せる特別な思いが深い。花といえばサクラを指す。愛(め)でる花はサクラであり、花見酒はサクラを見ながら酌み交わす酒である。花吹雪(ふぶき)は、はらはらと散る桜花の豪奢(しゃ)な姿だ▼道南にはサクラの名所が多い。函館市内の五稜郭公園、松前などは全国にも知られ、多くの観光客が訪れる。だが、北国のサクラはまだつぼみが固い。暖冬の影響が見込めるとはいえ、花だよりが聞こえ始めるのは来月半ば過ぎだろう▼今年の大学、高校入試はほぼ終わった。携帯やメールで合格を家族に知らせ一足早く「サクラ咲く」の喜びを味わった受験生も多いだろう。その一方、サクラの開花を見ないまま悲嘆を味わっている不合格者もいる▼悲喜こもごもの思いが交差するサクラの開花だ。今年、函館市内のサクラはいつ見ごろは迎えるのだろうか。本州を東上するサクラ前線の進行予想を眺めながら昨年見た五稜郭と松前の満開のサクラを眼前に思い浮かべる。(S)


3月18日(水)

●シェークスピアの戯曲「ベニスの商人」には、強欲な金貸しのシャイロックが登場する。金を貸したアントーニオが返せないと分かったとき、シャイロックは約束通りにアントーニオの肉体から1ポンドの肉を切り取って渡せと要求する▼物語は、アントーニオの親友バサーニオの婚約者ポーシャが裁判官に扮し、機転を利かせてシャイロックをこらしめ大団円を迎える。「ベニスの商人」はシェークスピアの戯曲でももっとも人気がある作品だ▼米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の経営者は、まさかシャイロックの後裔(えい)ではあるまい。だが、その振る舞いはシャイロック顔負けの強欲のそしりを受けても仕方がない▼昨年9月の金融危機で経営難に陥ったAIGは米政府から巨額の公的資金を受けて破たんを免れた。つぶせば世界的な影響が大きすぎる。だから救済するしかないとの理屈で14兆円を超す資金が注入された▼公的資金の原資は納税者が納めた税金である。税金で救済を受けながら、AIGは幹部ら約400人に約160億円のボーナスを払ったというのだ。この暴挙にオバマ大統領は怒り、阻止するよう財務長官に命じた▼米紙(電子版)を見ると、このニュースを1面で大きく取り上げている。懲りない経営者の無責任なお手盛りには、あいた口がふさがらない。シャイロックも真っ青の強欲ぶりだろう。(S)


3月17日(火)

●ワーキングプア(働く貧困層)とハウジングプア(住まいの貧困)は、表裏一体の関係にある。「年越し派遣村」に集まった非正規労働者は、職を失うと同時に住まいも失ったケースが多かった▼収入の道を断たれ、派遣会社の寮などを追い出された労働者たちが、東京日比谷公園に吸い寄せられるように集まり、炊き出しの食事に空腹をいやし、テントで一夜を明かした様子は、テレビで繰り返し放映された▼ここ数年でかなり知られるようになったワーキングプアに比べ、ハウジングプアは最近使われだした。住まいのセーフティーネット(安全網)が整備されていないことが、ハウジングプアを引き起こす背景にある▼雇い止めを理由にアパートから退去を求められる。家賃の支払いの遅れで強制的に追い出される。そうした貧困層は、米の金融危機から始まった経済不況が出口の見えない深刻さを増すにつれて広がっている▼住まいは生活の基盤だ。その基盤を突き崩すハウジングプアの問題に取り組むネットワークが東京で設立された。市民団体などのメンバーが参加し、公共住宅の増築などを求めていくことを確認した後、デモ行進して訴えた▼政府はずっと持ち家を奨励する政策を続けてきた。その一方、良質で安価な公共住宅の供給を怠ってきた。そのつけが貧困層にのしかかっている。ハウジングプアは住宅政策の貧困もあぶりだしている。(S)


3月16日(月)

●「安いことはいいことだ」というのは、消費者心理として正しいのだろう。まして、景気悪化で非正規労働者ばかりでなく、正社員にも首切りの波が及んでいる現状では、生活費の節約は家計の至上命題だ▼財布のひもは固くなる一方というのが、いまの状況だろう。消費が鈍れば、モノの値段は上げられない。逆に値下げで何とか買ってもらおうとメーカーや小売業界は躍起になる。かくして安値競争が激しさを増す▼日本の経済はどうやら、デフレの穴をのぞき込むまでに悪化しているらしい。経済の実態を映し出す指標のひとつ、物価上昇率が1月にゼロになった。2007年10月から続いた上昇が2年3カ月で止まった▼物価の下落は消費者にとってうれしいことだとはいえ、企業の売り上げ減につながり、ひいては労働者の給料にも響く。企業業績の悪化は、失業者の増大を招く。それは、消費の落ち込みに直結し、物価のいっそうの値下げ圧力になる▼縮む市場での勝ち組を目指して格安商品を投入する動きが活発化している。道内創業の企業では、家具大手のニトリが大規模な値下げキャンペーンで顧客をつか★む。ユニクロや大手スーパーは格安衣料品の展開を始めている▼消費者の財布のひもを少しでも緩めさせたいとの戦略だ。消費が上向けば、生産縮小や雇用情勢の悪化を食い止★め、不況脱出への道筋も開けてくる。早くそうなってほしいと軽い財布を手に取る。(S)


3月15日(日)

●稀勢の里へのだめ押し、嘉風へのにらみつけ、千秋楽のガッツポーズ…。朝青龍の立ち振る舞いに「喜怒哀楽を顔に出すべきではない」「異端の本能、気にならない」と賛否両論。その朝青龍をモデルにした仏像「多聞天」が作られる▼多聞天は四天王の一尊で、すべてを聞き漏らさず釈迦の教えに精通し、夜叉など鬼神を支配下に置いて、勝負ごとにも利益があると崇められている。たけだけしさの中にも慈悲深さが漂う。3場所連続休場の朝青龍は、初場所で全力を出し切って復活優勝▼自ら作った渦(危機)を乗り越えたという達成感からのガッツポーズ。外国人力士が多く、朝青龍や白鵬がいなければ火が消えたような土俵で、喜怒哀楽を身体で表現することに違和感はなかった。埼玉県のお寺が大門に安置する多聞天のモデルに選んだのもうなずける▼京都の工房で写真撮影。右手に宝棒を持って、注文に応じて顔をしかめたり、体全体に力を込めたり…。真剣な表情に、仏師は「一口に言えないいろんな面が入って一体の仏像になる。朝青龍の厳しさ、決断力、包容力、優しさを織り込んでみたい」▼そろい踏みとなる広目天は白鵬をモデルに制作中。多聞天とともに2年後の落慶を目指す。建仁寺の十一面観音坐像をはじめ、相次ぐ仏像の盗難や、大麻汚染ににらみを効かせてほしい。「多聞天に恥じない相撲を」と張り切る朝青龍。きょうから春場所。(M)


3月14日(土)

●毎月送られてくる電気代の請求書を見て、何とか節約できないかと頭を悩ますご家庭も多かろう。特に最近はやりのオール電化住宅ともなると、冬季間の電気代は馬鹿にならない金額に上る▼生活の快適さには、それなりの負担が必要なことを理解してはいても、暖房機が不要な陽春が早く来ないかと寒空を見上げて嘆息する。実感からすると蓄熱式の暖房器具を使う冬季の電気代は夏の2倍近い▼そんなとき、家庭の太陽光発電装置があったらなあ、とつい無いものねだりをしてしまう。屋根などに太陽光パネルを設置した住宅は、20年ほど前に登場した。だが、高額な設置費や余剰電力の買い取りが進まなかったため普及は遅れた▼ところが、家庭で使いきれなかった電気をこれまでの2倍の1㌔㍗時当たり約50円で電力会社に買い取らせる制度が来年度から始まる。そのための法案が閣議決定され、今国会で成立を目指すことになったのだ▼太陽光発電の設置費は住宅用で約250万円を超す。国などの補助金を利用できるが、それでも自己負担分が200万円前後に上っている。余剰電力を売って負担分を回収するには20年以上かかると試算されていた▼新制度が始まると、その期間が10年程度短くなるという。太陽光発電は自然エネルギーの利用という点でもエコ生活の推進に役立つ。初期費用はかかるけれども、検討しようかと家人と話している。(S)


3月13日(金)

●赤ちゃんが最初に聞く音は母親の心音。心臓の鼓動。低く長い第1音に高く短い第2音がつづく。1歳で母親と別離し、32歳になった飯塚耕一郎さんは、金賢姫元死刑囚の胸に抱かれた時、31年前の母親の心音はよみがえっただろうか▼耕一郎さんは北朝鮮の工作員に拉致された田口八重子さんの長男。八重子さんは東京で2人の子どもを託児所に預けたまま行方不明に。大韓機事件で逮捕された金元死刑囚が「日本語を習った日本女性に似ている」と証言したことから拉致事件と分かった▼「母の面影をたずねたい」と、先ほど、八重子さんと1年8カ月一緒に暮らし、韓国で2人の子どもを持つ金元死刑囚と面会。母子手帳やへその緒なども携えたという。「大きくなったね。お母さんは生きていますよ。希望を持ってね」と抱擁▼母親と引き裂かれ、工作員になった金元死刑囚も母子別離の境遇を持つ。「この場に八重子さんがいたら、どんなに良かったか。私が韓国のお母さんになります」とも言い、母親との再会を求める耕一郎さんに、故郷にいる母の姿を重複させたのだろう▼止まっていた母子の時間が流れ始めた。20歳を過ぎて実母の存在を知らされ「田口八重子さん」としか呼べなかった耕一郎さん。韓国のお母さんから聞いた八重子さんの心音で、心から「お母さん」と呼ぶ日が待ち遠しい。横田めぐみさんも「死んだことは信じられない」と言い切った。(M)


3月12日(木)

●阪神タイガースファンにとって、昨シーズンは悔しさに身をよじりたくなる終盤の失速だった。セ・リーグのペナントレースで、ぶっちぎりの優勝を飾ると予想していたのに、夏場以降は勢いが失せ2位に甘んじた▼逆に読売ジャイアンツファンには、こたえられない展開だった。何しろ独走態勢の宿敵タイガースを引きずりおろし、逆転優勝で日本シリーズに進出したのだから、快哉を叫びたい気持ちだったろう▼タイガースは最高の助っ人と称されたランディ・バース選手を擁し1985年、21年ぶりにリーグ優勝を果たした。その年、バース選手は三冠王に輝く大活躍でチームを引っ張った。だが、その後は長い低迷が続いた▼今シーズンは「夢よ再び」の期待がファンを熱くしそうだ。85年の優勝時、ファンがバース選手に似ているとして胴上げをして道頓堀川に投げ込んだケンタッキーフライドチキンの「カーネル・サンダース」像が引き揚げられたのだ▼ファンの間では低迷の原因は、川に沈んだ「カーネル・サンダースの呪い」とまことしやかに伝わっていた。その呪いが解けたと気の早いファンを喜ばせている。24年ぶりに引き揚げられた像は、水も滴る笑顔を見せた▼さて、プロ野球はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の第二ラウンドが米サンディエゴで始まる。それが終わると、4月3日からいよいよセ・パ両リーグ公式戦が開幕する。(S)


3月11日(水)

●デビッド・リーン監督の英映画「戦場にかける橋」は、主題歌の「クワイ河マーチ」とともに日本でもヒットした。初公開は半世紀前だが、アカデミー賞を受賞したこともあっていまもテレビなどで放映される▼映画は第二次大戦中、タイからビルマへ進攻を企てた日本軍が、英軍の捕虜を使って国境の川に鉄橋を架けるストーリーだった。名優アレック・ギネスや日本軍の大佐役の早川雪洲が存在感のある演技を見せた▼最後の場面では、完成した鉄橋が米英の決死隊によって爆破される。ちょうど橋を通過しようとしていた列車が川に転落していく。主人公の英大佐も日本軍指揮官も死亡し、悲惨な光景が広がる中で映画は終わる▼タイは東南アジア各国でも鉄道が発達した国である。だが、映画の影響ではないだろうが、ビルマ(現ミャンマー)との国境を越える鉄路は建設されていない。ミャンマーが鎖国状態にあることも理由のひとつなのだろう▼そのタイが北の隣国ラオスとの間に鉄路を建設し、今月初め一番列車が走った。両国の国境にはメコン川が流れる。鉄道は、メコン川に鉄橋を架け、タイ東北部の国境の町とラオスの首都ビエンチャン郊外を結ぶ▼メコンに橋が架かる前、小船で川を渡りラオスを訪れたことがある。次回はバンコクから列車でビエンチャンに行ける。アジア鉄道旅行の楽しみが広がる開通だ。次はミャンマーにも鉄路が伸びてほしい。(S)


3月10日(火)

●建設現場で石塊やレンガを砕く少女。1日12時間働いて日給は80円ちょっと。世界銀行によると、人口11億人の半数が貧困ラインの1日1・25ドル以下で生活し、貧困層が経済成長の恩恵から取り残されている▼家族は「どろ沼に咲いたハスの花だ」とわが子を抱きしめた。先のアカデミー賞に輝いた「スラムドッグ」の舞台になったインド西部ムンバイのスラム街。映画に出演したスラムの子どもたちが受賞から帰国した時、「これで政府の貧困対策に弾みがかかる」とマチあげて祝福した▼「スラムドッグ」は貧しいスラムで暮らす青年を指す。映画に出演した子ども6人のうち、3人がスラム出身。政府は新しい家と教育を保証したという。映画のスラムは現実よりきれいすぎるとの批判もあったが、子どもたちの熱演が政府を動かしたようだ▼貧困からインドの独立をかちとったのはマハトマ・ガンジー。鼻からずり落ちそうな丸縁の眼鏡がトレードマーク。その丸縁眼鏡や懐中時計、サンダルなどが米国で競売にかけられ、インド人が180万ドルで落札、「遺品は国家遺産」と国に収めたという▼所狭しと並んだベッド、横たわる患者‥。インドを旅行した知人は、生と死が交錯する「死を待つ人の家」に涙したという。スラム街の子どもたちも、新興経済国の底辺で、映像を通して、貧困からの脱出を目指した「ガンジーの精神」を発揮したのではないか。(M)


3月9日(月)

●市町村が地元商店での買い物を誘導するのは、地域振興の点でも有効な施策だろう。それにしても定額給付金に伴い、プレミアム商品券を発行する熱意には驚く。何と道内市町村の6割が発行を予定している▼給付金特需を狙って商品券発行に踏み切るのは、道南でも函館市など10市町に上る。自治体や商工団体などが割り増し分を負担して購入代金よりもお得になる商品券だ。地元でしか使えない制約はあるが、消費者には魅力だろう▼総務省のまとめでは、割増率の全国トップは後志管内黒松内町と網走管内西興部村、それに福井県の1町の67%だそうだ。額面1000円の商品券が600円で購入できる計算だ。函館市の15%に比べると、ずいぶんお得だ▼総額2兆円の給付金を巡っては、争奪商戦が始まっている。旅行業界では、支給額と同じ1万2000円の温泉宿泊プランを販売する動きが広がる。デパートも均一セールで消費の盛り上げを図る▼消費不況は、小さな商店から大手製造業や小売業にまで暗い影を落とす。そうした暗雲に一条の光を当てる効果を給付金特需に期待するのだろう。はやし立てられて消費者はさて、どう動くだろうか▼給付金は大いに使って消費を刺激してくださ★い、というのが政府の魂胆だ。地域の商店もその余得を期待している。でもねえ、いざという時に備えて踊りの輪を眺めているだけの消費者も少なくないだろう。(S)


3月8日(日)

●NHKテレビの人気お天気キャスターだった倉島厚さんが「風伯雨師」と題したエッセーに「春は風伯雨師が大活躍する」と書いている。風伯は風の神、雨師は雨の神だそうだ。なるほどその通りのお天気模様だ▼冬ごもりの虫が土からはい出す啓蟄(けいちつ)が過ぎたというのに、道内は雪や雨を伴った強風が吹きすさぶ荒れた天気に見舞われた。発達した低気圧が通過した影響だという▼道南でも海が大荒れになった。立待岬から沖合を見ると、白い波頭が立ち騒いでいる。岸に打ち寄せる波が、荒々しく飛まつを上げていた。風に乗って雪が横殴りにほおに当たる。春は名のみの寒さだ▼だが、函館市内の道路はすっかりアスファルトが露出している。道路脇の残雪は、解けて固まり黒く変色している。それがすっかり消えるのは、まだ先だとしても、道路がツルツルに凍結することはもうあるまい▼大学や高校の合格発表シーズンになった。一足早く春をつかんだ受験生は、新たなスタートに胸を躍らせるころだ。その一方、志望校に振られて落胆する受験生や不安を抱えながら発表を待つ受験生もいる。喜びと悲しみが交錯する光景だ▼荒れた天気はきょうまでらしい。風伯雨師の後には、明るい日差しが戻ってくるだろう。この先、雪が舞ったとしてもすぐに解ける淡雪だ。弥生の空模様は気まぐれだが、温もりは日ごとに増してくる。春本番が間近い。(S)


3月7日(土)

●ETC(自動料金収受システム)の売れ行きを伸ばすための陰謀じゃないか、とケチをつけたら、勘ぐりすぎだよとしかられそうだ。でも、割引対象がETCの搭載車だけというのは、不公平に思えて仕方がない▼使用歴10数年のわが愛車は、ETC未装着だ。周りの同僚でETC装置を付けた車に乗っているのはひとりだけ。高速道路料金の大幅割引の恩恵に浴するドライバーは、一体どのぐらいなのだろうか▼北海道は、高速道路網の整備が本州に比べると遅れている。さらに一般道を使っても高速とあまり変わらない時間で目的地に着けることや、工事費込みの値段が1万円以上することもあってETCの普及が進んでいない▼土日祝日の高速道路料金を上限1000円にする割引は、08年度第2次補正予算関連法の成立を受けて今月28日から始まる。ETC車で高速道路をよく利用するドライバーにはうれしい割引制度だろう▼遠出を楽しむ家族連れが増えるかもしれない。ピーク時に比べると価格が下がり気味のガソリン需要が高まり、消費刺激効果も見込める。ETCが売れればカー用品店だってにぎわう。でも、いいことばかりではない▼車の通行量が増えれば、排ガスだって増大する。競合するフェリーや鉄道輸送にも影響を与える。実際、九州と本州を結ぶフェリーでは寄港地の取りやめも出ている。高速道割引の功罪はさて、どんなてん末になるのやら。(S)


3月6日(金)

●2兆円もの税金の使い方として妥当か、消費拡大の起爆剤か・・・。すったもんだと言われながらも、定額給付金が衆院の「3分の2」のルールで再可決された。高額所得者を「さもしい」と表現していた麻生太郎首相も一転「いただきまーす」▼世論調査で7割の人が給付金を評価しなかったが、いざ支給となると9割以上が「もらえるものはもらう」とし、5割以上が「生活費の足しに」と言う。娘一家(子ども3人)は「8万4000円は中学に入る子の制服などにあてる」と待っている▼さっそく国会で再可決された翌日の5日から全国で支給開始。1人当たり1万2000円、65歳以上と18歳以下には8000円加算。2月1日に住民票のあった市区町村から支給される。地方自治体に「丸投げ」され、膨大な事務費用は約825億円にも上った▼口座振込みが原則だが、現金支給も。西興部と青森県西目屋の2村がトップ支給を競った。受け取った高齢者は「友だちと久しぶりに美味しいものを食べる」と目を細めた。乙部町では下旬に支給。支給時期に合わせて地元消費を狙ったプレミアム付き商品券も相次いで発行▼「選挙前のバラマキだ。決して経済刺激にならない」と頑として受け取らない人もいるが、税金の還付金としてもらえばいいのでは。麻生首相は「盛大な使い方」を示し、不況で職を失ったホームレスやネットカフェ難民にも、平等に支給してほしい。(M)


3月5日(木)

●お寺に詣でる人たちを善男善女という。みな清くて善い心を持つ人、という意味。その前提に立っているから、お寺には誰もが入れる▼それを逆手にとったと言えば大げさか。京都市の古刹、建仁寺から由緒ある仏像を盗んだ会社社長が逮捕された。白昼堂々、お堂の中から仏様を盗む人間がいるなんて、お釈p・lでも気が付くまい▼「仏像が好きで毎日拝んでいた」と供述し、自宅からはほかに盗んだとみられる仏像も押収された。信心深いのではなく、単に物欲が強いだけなのかも。ただ気がかりなのは、仏像が最近、海外に流出していること▼鎌倉時代の仏師、運慶作とみられる大日如来像が昨年3月、ニューヨークでオークションにかけられ、14億円で落札された。盗難品ではなく、目利きが骨とう商から見つけたもの。落札者も偶然、日本の関係者だった▼文明開化の時代、浮世絵など貴重な文化遺産は、海外のコレクターに収集され散逸してしまった。現代社会でも盗品文化財などの闇の流通ルートがある、との指摘もある▼建仁寺では盗難防止のため、センサー設置などの対策を講じる考えもあるという。そういえば、もうろうとした記者会見後、出かけたバチカン博物館で石像に触り、警報ブザーを鳴らした大臣もいた。お寺も博物館と同様、厄よけの対策が必要となったということか。善男善女ばかりとは言ってられないご時世なのかもしれない。(P)


3月4日(水)

●何だかマンガチックだな。「さもしい」「矜持(きょうじ)の問題」と言っていた人が一転して受け取りを表明する。落語の熊さんなら、コロコロ変わった「ぶれ」にどんな半畳を入れるだろうか▼いや、なに定額給付金のことですよ。給付金の原資は国民が納めた税金。それを返すのに給付などと施し与えるようなニュアンスの用語を使う。ヘンだな、と思っていた国民の気持ちは7割を越す反対に表れている▼麻生太郎首相は、受け取る理由を消費を刺激するため、と説明している。給付金は、預貯金にまわさないで使いましょうというわけだ。もっとも首相の受取額は2万円だそうだからホテルで一杯やれば大半が飛んでいく▼給付金を盛り込んだ08年度第2次補正予算案はきょう、衆院で再可決される。「あきれている」と批判した小泉純一郎元首相は、採決への欠席を表明したが、小泉氏の動向にかかわらず予算案が成立するのは間違いない▼そして給付金は財源の裏づけを得て、自治体に丸投げした給付作業が具体化する。だが目的が「生活支援」から「消費の刺激」に変わった給付金は、低迷する消費を底上げする効果を発揮するのだろうか▼民間調査では2兆円の給付金のうち消費にまわるのは3割程度との試算があるそうだ。だとすると消費刺激効果は限定的。大盤振る舞いをした首相の人気が高まらないと「おあとがよろしいようで」となりかねない。(S)


3月3日(火)

●カラオケでいまもリクエストがある「石狩挽歌」は、1970年代の後半、北原ミレイが歌ってヒットした。歌詞は、ニシン漁でにぎわった浜が、いまは見る影もなく寂れている様子を女の心境に重ねている▼雪が舞う曇り空の下には、破れた網や人気の絶えたニシン御殿がたたずむ。海を銀色に染め、押し寄せた郡来(くき)は、すっかり過去の幻影となった、と大漁の日々を思い浮かべる。作詞はなかにし礼だった▼その幻の光景が、小樽市の沿岸に出現したニュースを読売新聞が取り上げた。産卵のため岸近くに群れとなってニシンが押し寄せ、放出した精子で海が乳白色に濁った写真を道内発行の社会面に掲載した▼ニシンはかつて100万トンを超す水揚げがあり、網元が御殿を建てる繁栄を道内の日本海側にもたらした。だが、乱獲がたたったのか、海流の影響からか1950年代からニシンの郡来は見られなくなり、漁獲高ががた落ちした▼ニシン資源を復活させようと、道は石狩や留萌管内で稚魚の放流に取り組んできた。その事業が道南の江差、上ノ国、乙部の3町沿岸でも新年度からスタートする。桧山支庁の独自事業で3万尾を放流するという▼数年後、道南の沿岸が銀色に盛り上がり、ニシンの大漁に沸く夢を見る。〈海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると 赤い筒袖(つっぽ)の やん衆がさわぐ〉。北原ミレイの声が耳の奥によみがえる。(S)


3月2日(月)

●子供のころ、町の書店で「地獄の本」を見た。全身の皮膚をはぎ取られた罪人に、獄卒が真っ赤に焼いた刀剣を押し付ける。ふん尿の池におぼれる亡者が、大きなくちばしを持った生き物に食われる▼うそをついたり人を殺した人間が落ちる地獄であると、本は紹介していた。地獄の一日は人間界の何万年で、その責め苦は何千年も続く▼恐かったが、これを読んで「地獄なんてあるはずない」と思った。これだけの罰を負う罪はこの世にない、と思ったからだ。地獄は人間を善い方向に導くための方便の世界ではないだろうか、と▼しかし、自らの欲望のため、何ら落ち度がない女性を部屋に引きずり込み殺害し、遺体を細かく切断してトイレに流した男がいる。彼は極刑にはならず、逆に愛する娘、妹を奪われた被害者の遺族の方が地獄の苦しみの中にいるという▼「死刑は犯罪抑止にならない」「人が人に死刑を命じる権利があるか」。死刑廃止論者の主張も十分理解できるが、悲しみの渦中にいる遺族にその言葉を掛けられるだろうか▼「地獄の本」で見た内容はその後、源信の『往生要集』に基づく世界であることを知った。源信は地獄の世界を仏典から引用し、極楽の様子を対極に描き、極楽往生への道を説いた。地獄のあるなしは結局分からないが、地獄の苦しみはある。それが加害者ではなく遺族の側に、というのがなんともやりきれない。(P)


3月1日(日)

●森山直太朗さんが歌う「さくら」は〈僕らはきっと待ってる 君とまた会える日々を〉と始まる。この歌は、学び舎(や)を巣立ち行く卒業生の思いを素直に表現しているからか、卒業式でよく演奏される▼歌は〈さくら並木の道の上で 手を振り叫ぶよ〉と続くが、春の遅い北海道では卒業式と桜は時季が一致しない。卒業式シーズンを迎える道南の季節の彩りは、まだらに残る雪だろうか。植物はまだ芽吹きを待つころだ▼旅立ちと出会いが交差する3月が始まった。北国の弥生の空は、冬から浅い春へ日脚を伸ばす。日差しの温もりと寒気とがせめぎあいながら、草萌(も)えの春が少しずつ近づいてくる気配が濃くなる▼公立高校の多くは、きょう卒業式を迎える。私立ではすでに卒業生を送り出した高校もある。希望と不安とがないまぜになった気持ちを胸に、進学や就職のために古里を離れる若者がいる。親にとっては安ど感の一方で寂しさも募る子の旅立ちだ▼やはり卒業式によく歌われる「旅立ちの日に」は〈希望のかぜに乗り この広い大空に 夢を託して〉と綴る。経済危機の暗雲が世界を覆い、雇用の不安が広がる。それでも若さの前途には、希望と夢とが待っている▼多感な年代に経験した出来事は、楽しいことでも悲しいことでも、怒りに満ちたことでもおそらく一生脳裏に刻まれる。さあ、旅立ちのときだ。胸を張り前を向いて歩き出そう。(S)


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