平成21年4月


4月30日(木)

●小アジアからイベリア半島に至る広大な版図を支配した古代ローマは、王政から共和制を経てアウグストゥス皇帝時代に帝政が始まった。その間、政治を動かす大きな役割を担ったのが元老院である▼ローマの歴史を「ローマ人の物語」に書き紡いでいる作家塩野七生さんによると元老院議員は、有力者から選ばれるのが通例だった。しかし、その地位は世襲ではなく、求められたのは識見、力量、行動力、人望だったという▼さて、世襲議員が大手を振るっている日本の国会で〈識見、力量、行動力、人望〉に秀でた議員はどれほどいるのだろう。これらの資質の有り無しは、自己採点ではなく、公平な第三者が評価しなければならない▼その評価の機会が選挙だ。だが、「ジバン、カンバン、カバン」の3バンが必要とされる日本の選挙で、高い志と能力を備えていても世襲候補に太刀打ちするのは容易ではない。そんな実情に風穴を開けるのが世襲制限だろう▼間近に迫った総選挙のマニフェストに世襲制限を盛り込む動きがにわかに高まっている。民主党は政治改革推進本部が、同じ選挙区から親族の立候補を認めない方針を決めた。賛否が乱れる与党も調整を進める▼世襲議員は自民が麻生太郎首相をはじめ党全体の約3分の1、民主も小沢一郎代表、鳩山由紀夫幹事長ら実力者が世襲だ。いまや特権と化した世襲の扱いをどうするか、選挙の争点がひとつ増えそうだ。(S)


4月29日(水)

●今はパソコン。昔はガリ版。ヤスリの上に置いた原紙に鉄筆などで製版し、ローラーで刷った。テストや教科書の一部もガリ版だった。パソコン不調で手書きの書類をコピーし配布した上司に「昭和くさい」と言った若者がいた▼先の大戦で山を駈けずり回った“戦争ごっこ”、丸いちゃぶ台を囲んで家族で食べた白いご飯、煙を上げて走った木炭バス、小銭を握りしめて駄菓子屋へ、泥だらけで捕まえたオタマジャクシ、青ばっなの童顔、缶ケリ、母の足踏みミシンの音…▼前期高齢者になると昭和の年号には「限りなき郷愁」を覚える。きょうは、天皇誕生日から「みどりの日」になり、さらに「昭和の日」になって3年目。「激動の日々を経て復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」という主旨だったが…▼総務省によると、平成生まれは2298万人(昨年10月)で総人口の18%を占めている。若者にとって「昭和」は「古くさい」「時代遅れ」の響きが少なくないという。手書き書類のコピーを「昭和のやり方」という言い方は昭和世代にとって不愉快▼明治が終わって20数年たった頃、俳人の中村草田男が「降る雪や明治は遠くなりにけり」と詠んだ。平成も21年になると「昭和は遠くなりにけり」なのか。豚インフルエンザが上陸したら、昭和生まれも、平成生まれも区別なく襲ってくる。「昭和の日」には、ご飯を知らせる親の声を思い出したい。(M)


4月28日(火)

●大リーグの公式戦で日本人初の本塁打を打ったのは誰?この問いにすぐに答えられる方は、相当な野球ファンだろう。イチロー(マリナーズ)でも松井秀喜(ヤンキース)でもない。実は野茂英雄投手である▼ドジャース入団4年目の野茂は11年前のきょう、ブルワーズ戦に先発して2勝目を挙げるとともに初本塁打を放った。大リーグ通算4本塁打の記録を持つ野茂は、今年からオリックスのテクニカル・アドバイザーを務める▼日本人大リーガーのパイオニアを果たした野茂に続き、各チームの有力選手が大舞台を目指すようになった。当初は投手が多かったが、イチローや松井の成功で、野手も大リーグでの活躍を夢見て挑戦する▼スター選手の相次ぐ流出で日本のプロ野球の試合が薄味にならないか心配だが、今年は東北楽天のスタートダッシュや北海道日本ハムの好調でパ・リーグが面白い。以前よりもパの試合のテレビ中継が増えたことも人気を盛り上げる▼開幕から3週間が過ぎ、日米ともに野球観戦の絶好の季節になった。午前中は大リーグ中継で日本選手の活躍を見る。そして午後からは、ひいきチームの試合をテレビ画面で追う。安上がりな連休の過ごし方だ▼函館では7月4、5日、日本ハム対福岡ソフトバンク戦がオーシャンスタジアムで行われる。今からわくわくする好カードだ。その日を待ちながら、ひいきチームの応援を続けよう。(S)


4月27日(月)

●フォーク歌手のイルカがカバーした名曲「なごり雪」を口ずさみながら、空から落ちてくる雪を見つめる日曜日になった。季節外れの雪は、水分を含んでじっとりと重い。降る先から解けて積もることはない▼それでもべたつく雪を屋根に載せた車が目に付く。道路脇にもシャーベット状の雪が小さな塊を作っている。大型連休初日に出された桜の開花宣言の翌日、函館・道南は行楽気分を冷え込ませる強風と雪に見舞われた▼発達した低気圧がもたらした大荒れの天候は、空や海ばかりかJRにも運休の影響が出た。大型連休の始まりに水を差す天の気まぐれだ。大沼公園や松前さくらまつりの会場も人出が閑散としていた▼落ちては解ける春の淡雪は珍しいことではない。桜が雪を被ることだってあるのだから、出かけるときに薄手のコートやセーターを用意するのは、北国に暮らす生活の知恵だ。遊びに出かけて風邪をひいてはつまらない▼風邪の症状が特徴のインフルエンザが、北米大陸を襲いメキシコで死者が出た。鳥インフルは知られるようになったが、今度は豚が感染源だ。米CNNニュース(電子版)はニュージーランドでも感染者が出たと伝えた▼世界保健機関(WHO)は感染の広がりを警戒している。人々の往来が地球を狭くした現代は、いつウイルスが入ってきてもおかしくない。行楽からの帰りは、風邪の予防も兼ねて手洗い、うがいを励行したい。(S)


4月26日(日)

●自動車運転免許の更新で、6月から飲酒運転の違反点数が引き上げられることを知った。これまで免許停止(違反点数13点)だった呼気1リットル中のアルコール濃度0・25%以上の酒気帯びが、免許取り消し(同25点)となる内容だ▼ここ数年、飲酒運転の罰則強化の動きが加速している。特に2006年に福岡で発生した幼児3人が死亡した痛ましい事故では、加害者が友人に頼んで飲酒事実の隠蔽(いんぺい)工作を図ろうとしたことなどが大きな社会問題に。翌07年に車両提供者や酒類提供者、同乗者にも初めて罰則が設けられるきっかけとなった▼厳罰化の効果か。飲酒運転による事故は大幅に減少した。それでも一部のドライバーは相変わらずほろ酔い気分でハンドルを握ることをやめようとしない。先日も函館市内で公務員が酒気帯びで追突事故を起こし、逮捕されている▼今度は「国民的タレントが飲酒で逮捕」の衝撃のニュースが飛び込んできた。しかし、コントロール不能になったのは車ではなく自分自身というからびっくり。CMやテレビ番組降板による損害額は10億円を下らないという▼道南ではこれから花見が本格化する。飲酒運転はもちろん厳禁だが、運転しないからとかえって調子に乗り、大トラ化してお縄になっては元も子もない。「飲んだら乗るな」「飲んでも飲まれるな」。この使い古された標語を胸に楽しい酒宴を迎えたい(U)


4月25日(土)

●五稜郭公園の散策路を歩くと咲き始めたばかりのソメイヨシノが、さわやかな風に吹かれて薄桃色の花を揺らしていた。花を開いた桜は、まだ数が少ないが、つぼみは日ごとにふくらみを増している▼開花宣言は週明けには出され、豪華な桜花の競演が市民の目を楽しませる花見のシーズンがスタートする。寒さのころはうちに篭(こ)もりがちだった気分も、花の季節の到来とともに外に向かって羽ばたいてゆく▼萩原朔太郎は「櫻(さくら)」と題した詩で〈櫻のしたに人あまたつどひ居ぬ なにをして遊ぶならむ〉と花に浮かれて集まる人々のにぎやかな様子を描いた。もっとも桜の下に立つ詩人は春愁を覚えていたらしい▼〈わがこころはつめたくして 花びらの散りておつるにも涙こぼるるのみ〉と歌っている。まあ、しかし花に愁いを催すのは詩人にまかせることにして平凡な日常を送る市民としては、素直に花を楽しむことにしよう▼桜花のほころびに合わせるようにゴールデンウイークが始まった。北国がもっとも華やぐ季節だ。今年は日並びに恵まれ、5月2日から5連休を楽しまれる方もおられよう。家族旅行に胸を弾ませている子どもたちも少なくないだろう▼朔太郎は〈…新しき背廣(せびろ)をきて きままなる旅にいでてみん〉と5月の旅の嬉しさを「旅上」という詩にしたためた。そう、旅もいい、近いところで花見もいい。季節は最高だ。(S)


4月24日(金)

●地上デジタル放送完全移行まであと「822日」。デジタル放送推進協会のホームページを開くと、最上段に掲げられているのが、2011年7月24日までのカウントダウンの数字だ▼地デジになると「美しい画質の鮮明な映像が楽しめます」「データ放送をいつでも見たいときに見ることができます」「テレビ局と双方向の情報のやりとりができます」などといいことづくめの案内が載っている▼世界的に見れば米・独・伊や韓国、台湾など20以上の国と地域ですでに始まっているのだから、日本も推進に躍起になるのは、当然のことだろう。テレビ各局も地デジPRのスポットCMをすでに流している▼その地デジの推進キャラクターが草なぎ剛容疑者だ。人気グループSMAPメンバーのクサナギくんを容疑者と書くのは気乗りしないが、公然わいせつの疑いで逮捕されたのだから、似合わぬ肩書き付けにもご容赦を▼草なぎ容疑者は泥酔して全裸になり都内の公園で大声で騒いだという。兼好は〈上戸はをかしく、罪ゆるさるる者なり〉(徒然草)と酒飲みを擁護した。だが、警察官に対し手足をばたつかせて暴れた草なぎ容疑者は〈罪ゆるさるる〉を超えていたのだろう▼NHKの地デジCMは、アナログ受信機の画面から草なぎ容疑者が消えていく映像だった。あのCMが主役の逮捕で消えてしまった。何だか地デジ導入の多難を思わせるクサナギくんの失態だ。(S)


4月23日(木)

●32年前に「お元気ですか」で歌手デビューし、最近は派遣社員として働き、母親を介護していた清水由貴子さんが父親の墓前で「ご迷惑をかけてすいません」との書き置きを残して硫化水素自殺を図った。「お元気ですか」を聞いて、よく元気づけられたものだ▼年度替りの今、発表される各種データで最も悲しいのは自殺の統計。警察庁によると、昨年の自殺者は3万2249人。11年連続で3万人を超えた。1日平均88人は交通事故死者の6倍。なんと10年で函館市の人口が消えていることになる▼特に経済状況が悪化した昨年10月が3000人を超えた。10年ほど前、資金繰りに行き詰まった中小企業の経営者が仏壇の前で割腹自殺を図った。経済的理由は今も変わらないが、芥川龍之介は「何故生きていくのは苦しいのか、何故苦しくとも生きていかなければ…」と服毒自殺▼国は自殺に対する社会病理(うつ病)などを除去しようと、3年前に自殺対策基本法を制定、失業対策、介護支援、生活保護などを充実させているが、断末魔に追い込まれた“孤独な心理”を把握する点と線の連携の強化が必至▼「真闇に浮かぶ青く輝く水の惑星を眼前に…命を与えられた事を有難く思う」—宇宙に長期滞在している若田光一さんが作った“宇宙連詩”。自殺のSOSをキャッチしたら、いのちの電話などに一声かけて「与えられた命を粗末にしないで」と説得しなければ。(M)


4月22日(水)

●十勝管内豊頃町出身の自衛官、山保幸己さんの長男一己ちゃん(1歳)は、重い心臓病で心臓移植以外に助かる道はないと診断された。その一己ちゃんが、入院先の横浜市の病院から父母に付き添われ渡米した▼カリフォルニア州の大学病院が受け入れたからだ。一己ちゃんは、臓器提供者を待ちながら入院を続けている。一己ちゃんのように移植を受けるため海外に出かけた例は、募金活動とともにたびたび報じられている▼国内での子どもの心臓移植は、道が閉ざされている。97年に施行された臓器移植法では、15歳未満の子どもからの臓器提供を禁止しているからだ。だから、一己ちゃんのような患者は海外での移植に頼るしかなかった▼法律の施行から12年たって、移植法の改正案の審議が国会で始まった。舞台は衆院厚生労働委員会である。現在3つの改正案が提出され、さらに各案の要素を取り入れた新案も作ることで与野党が合意した▼改正案のポイントは子どもからの臓器提供を認めるかどうか、認めるとしたら何歳からにするかだ。さらに、書面での意思確認をなくし、家族の同意があれば提供できるようにするかどうかも論点になっている▼脳死者からの臓器提供は「命の贈り物」「命のリレー」などと表現される。だが、特に子どもについての脳死判定の難しさや家族の苦悩など多くの難題がある。注目の改正案は大型連休明けにも衆院で採決される。(S)


4月21日(火)

●「朝6時から13時間運転してまだ1万2000円ちょっとです」。先日利用したタクシーの運転手さんから、こんな現実を聞いた。規制緩和による増車と不景気のダブルパンチで、売り上げはかつての半分程度という▼運転手さんは、札幌に進出するタクシー大手「MK」が、いずれ函館でも開業するのではないかと不安を打ち明けた。MKは低料金と徹底したマナーが売り物。利用者の選択肢は広がるが、他社にとっては脅威に違いない▼タクシーなどとともに規制緩和された一つに酒類販売がある。その結果、安売り大手やスーパー、コンビニなどに酒が並び、町の酒屋さんが廃業に追い込まれてしまった▼強者が勝ち残る自由競争と、ある程度は業界各社が共存できる規制を設けた競争のどちらがいいのか。賛否は当然、分かれる。しかし、いずれにしてもまじめに働いている労働者の生活が保障されることが大前提だ▼タクシーの規制緩和が始まったとき、函館の業界幹部から「厳しい時代だが、好印象を与えることで選ばれ、繁盛するチャンスでもある」と聞いた。だが現実は、過当競争の中で各社が体力を消耗し、歩合制の乗務員の給料が減る結果を招いた▼以前より一生懸命働いているのに生活が苦しいという。「頑張った人が報われる」社会が後退している気がしてならない。タクシー「日本号」のメーターが適正に作動するように、英知と精査を。(P)


4月20日(月)

●三波春夫さんが歌った「東京五輪音頭」1番に〈4年たったら また会いましょと かたい約束 夢じゃない〉の歌詞がある。五輪再招致にかける関係者の思いは〈7年後にぜひ会いましょう〉だろう▼国際オリンピック委員会(IOC)の評価委員会が東京入りして競技場予定地などを視察した様子をテレビで見ると、国や都など日本側が並々ならぬ心遣いをしているのが手に取るように伝わってきた▼何しろ五輪の開催地決定に力を持つ評価委員たちの視察だ。麻生太郎首相がお得意の英語で歓迎とPRの言葉を述べたのをはじめ、石原慎太郎知事も調査委員に同行して東京をアピールした▼東京が目指すのは「世界一コンパクトな大会」だという。競技会場の多くを半径8キロ以内に置いて、選手や関係者の移動をスムーズに図る。そのカギは都内の渋滞解消だが、評価委員たちの乗ったバスは幸い時間通りに運行できた▼16年夏季五輪に立候補しているのは、東京のほかシカゴ(米)、リオデジャネイロ(ブラジル)、マドリード(スペイン)だ。評価委員はこれら4都市を視察した結果をリポートにまとめ、開催地を決める権限を持つIOCに提出する▼開催地が決定するのは、10月に開かれるIOC総会だ。日本を熱狂させた64年大会以来、2度目の夏の五輪が実現するかどうか。ばく大な税金を投じる五輪への反対の動きもある中で招致活動が本格的に始まった。(S)


4月19日(日)

●「千島のおくも沖縄も 八洲(やしま)のうちの守りなり〜」。明治初期の唱歌集に載った「蛍の光」の4番の歌詞。ノンフィクション作家の上坂冬子さんが「歴史的に北方4島は日本の領土」と4島一括返還を訴えた千島だ▼根室のノサップ岬沖1.85キロ先に見える領土。2月の日露首脳会談で露大統領が「独創的で型にはまらないアプローチ」による具体的な交渉作業を提案。麻生首相は「向こうが2島、こちらが4島では全く進展しない。政治家が決断する以外、方法はない」と強調▼麻生首相は外相時代に4島の面積等分に言及しており、先ほどブレーン役の谷内正太郎政府代表が「個人的には(4島返還ではなく)3・5島返還でもよいのではないか」と4島返還に固執すべきではないとの見解を示し、波紋を広げている▼4島返還を固守する上坂さんは6年前に北方領土を訪れ、翌年には「1人でもできる簡単な行動で返還運動を盛り上げたい」と、国後島泊村に本籍を移した。北方領土解決促進の法律があり、誰でも4島に転籍でき、多くの島民や子孫が移籍▼政治家は北方領土担当大臣になると通り一遍の視察をするだけ。政治家(閣僚)は上坂さんのように4島に本籍を移し、返還運動にまい進してほしい。洞爺湖サミットで「船を出して各国首脳に北方領土を見てもらうべきだ」と注文を付けていた、その上坂さんが肝不全のため永眠された。合掌。(M)


4月18日(土)

●チャロは日本で生まれた子犬だ。捨て犬のチャロは、翔太に拾われ家族の一員として育てられる。ところが〓エ太一家がアメリカ旅行に出かけたとき、同行したチャロはニューヨークの飛行場で迷子になってしまう▼そこからチャロの大冒険が始まる。すぐにピンと来た方は、NHKがテレビ、ラジオ、ネットで流している「リトル・チャロ」の物語を楽しみにしている視聴者だろう。実はコラム子もラジオで聞いている▼分かりやすい物語展開とキャラクターが生き生きしていて引き込まれてしまう。英語を聞く耳のさび落としをしようと聞き始めたのだが、すっかりファンになってしまった。ラジオを聞き逃してもCD版が出ている▼チャロは、原作者のわかぎ・ふゑさんが生み出した物語の主人公だが、ミッキーは広島市民球場で球審にボールを運んで人気者になった実在のゴールデンレトリーバーだ。そのミッキーの訃報が新聞に載った▼ミッキーがボールボーイを務めたのは05年からだ。ボールの入ったかごをくわえて走るミッキーの姿をテレビでご覧になった方も多かろう。ミッキーは新しい市民球場に雄姿を見せることなく旅立った。11歳だったという▼海の向こうでは、オバマ大統領一家の飼い犬「ボー」がデビューした。こちらは生後半年のポルトガル・ウォーター・ドッグだそうだ。チャロと違って、ボーは英語の聞き取りが得意なのだろうな、きっと…。(S)


4月17日(金)

●いつもの背番号51ではなかった。黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソン選手の永久欠番42を着けたイチロー選手が、故障者リスト入りから復帰した今季初戦で、日米通算3085安打目を満塁本塁打で達成した▼張本勲選手の持つ日本プロ野球の通算安打記録にあと2本と迫っていた今季、記録到達は時間の問題だった。それを劇的な満塁本塁打でやってのけるところがイチロー選手のすごさだ▼マリナーズの本拠地シアトルの地元紙(電子版)は、7回に放った満塁本塁打の打球の行方を見つめるイチロー選手の写真を掲載している。記録は張本さんがセーフコ球場観客席で見守る中で達成された▼今年の大リーグは、いつにも増しておもしろい。巨人の元エース上原浩治、中日の元エース川上憲伸の両投手がデビュー戦を勝ち星で飾った。打者でもイチロー選手をはじめ岩村明憲選手らの活躍が見逃せない▼昨シーズン18勝を挙げた松坂大輔投手が故障者リスト入りしたことや、松井秀喜選手の出番が減っているのは寂しいが、大リーグ中継をつけると日本人選手の活躍の場面が目に入る。これからの半年、迫力のシーンが楽しめる▼イチロー選手が記録に到達した日、大リーグ全選手が同じ背番号をつけた。ロビンソン選手のデビュー記念日にちなみ、コミッショナーの指示で実現したという。42を背負ったイチロー選手は、この日だけの特別の姿だった。(S)


4月16日(木)

●かつて、満員電車で痴漢のぬれぎぬを着せられた青年の刑事裁判を描いた映画「それでもボクはやってない」を見た。法曹関係者も舌を巻くリアリズムを貫き、司法の矛盾をえぐっており、少女の思い込みの怖さも潜んでいた▼この映画のヒントになったと言われるのが防衛医科大の名倉正博教授の強制わいせつ事件。3年前の春、東京都内の満員電車で高校に通う女性が下着の中に手を入れられるなどの痴漢行為に遭った。女性は名倉さんのネクタイをつかんで駅長に突き出した▼最初、女性は痴漢行為を目で見ることもできず、体がくっついていた名倉さんが犯人だと思っていた。目撃証人もいない。判断材料は女性の供述だけ。捜査段階から「やっていない」と犯行を一貫して否認したものの、起訴された▼一審、二審とも実刑判決を受けたが、最高裁の上告審判決で「被害女性の証言の信用性を疑う余地がある。犯罪の証明が不十分」と、逆転無罪が言い渡された。指から下着の繊維が検出されないなど客観的証拠がなく、一審、二審の判断は慎重さを欠いたというものだ▼東京の満員電車では手のやり場に苦慮する。捜査当局は女性の言い分に耳を傾けるのは当然で、卑劣な犯罪への強い姿勢が望まれるが、泣き寝入りするケースも少なくない。今度の逆転判決は被害女性の証言を有罪の根拠にしてきたとみられる痴漢事件に一石を投じた。(M)


4月15日(水)

●「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、1940年代のキューバに実在した音楽クラブだという。そこでは、夜ごとキューバ音楽の生演奏が繰り広げられ、陽気な人々が集っていた▼スペイン語で絶景を意味するブエナビスタが、阪神競馬場の芝1600メートルコースを1着で駆け抜けた桜花賞の中継を見ながら、ドキュメンタリー映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の場面と音楽を思い浮かべた▼この映画は10年前に作られ、日本でも上映された。監督は「ベルリン・天使の詩」などで知られる巨匠ヴィム・ヴェンダース。映画はキューバの元気な老ミュージシャンたちの活動を追っていた▼国外ではあまり知られていなかった老ミュージシャンたちは、キューバを訪れた米ギタリスト、ライ・クーダーとの共演をきっかけにアルバムを制作、世界ツアーに乗り出す。ツアーはラテン音楽ファンの歓呼に迎えられ大成功を収めた▼映画は東京都内の封切館で見た。老ミュージシャンたちの日常やツアーの様子そして光と騒々しさがいっぱいのキューバの街の風景が印象深かった。見終わってから同名タイトルのCDを買い込み、繰り返し聞いた▼社会主義キューバは、日本人観光客がさほど多く訪れる国ではない。だが、この映画は、日本でもキューバへの関心を高める契機になった。クラシックレースを制した3歳牝馬の名が映画とともに脳裏に刻まれる。(S)


4月14日(火)

●〈春の海 終日(ひねもす)のたりのたり哉〉。俳人であり画家でもあった与謝蕪村の有名な句である。1762年(宝暦12年)、蕪村は香川県多度津から船に乗って妻子の待つ京都への旅路をたどった▼瀬戸内を行く船が明石海峡を過ぎ、須磨浦の海辺を間近に見る辺りに来たとき、浮かんだのがこの句だとされている。穏やかな波の律動が眠気を催すような春の日長だ。その暖かな船べりで過ごす俳人の姿が思い浮かぶ一句だ▼道南にのどかな海が帰ってきた。寒気にあわ立っていた冬の波が、輝きを弾くようになった。今月に入ってからの好天と気温の上昇が、海に春めいた景色をよみがえらせている。何より海の色が明るくなった▼休日は、港の岸壁や海岸で釣竿を出す人が増えてきた。竿とエサとおにぎりでも用意すれば、一日をのんびりと過ごせる。手近で安上がりなレクリエーションだ。その上、魚が釣れたら晩ご飯のおかずにも出来る▼近くの漁港に出かけると、そんな家族連れや釣り好きのお年寄りでにぎわっていた。釣果はぼちぼちのようだが、釣ることよりも春の日差しとさわやかな海風を楽しめれば満足しているように見えた▼日脚が伸びて、日没時刻は午後6時を回る。それから30分ほどして、最後の残光が山の頂上近くを染め、薄暮が街を覆い始める。だが家に帰るには早い。〈春の暮 家路に遠き人ばかり〉と街にさまよい出たくなる春だ。(S)


4月12日(日)

●今年のゴールデンウイーク(GW)は、高速道路が大渋滞するらしい。高速道路会社などの予測では、30キロ以上の渋滞が昨年の2倍の56回にもなるとか。最長の渋滞は九州道で60キロにも及ぶという▼車で帰省したり、行楽に出かけたりする家族などが例年以上に増えるとの予想は、通行料値下げの効果を見込むからだ。自動料金収受システム(ETC)搭載車を対象に「1000円乗り放題」が始まったのは先月末からだった▼それを契機に料金が割り引かれる週末は、遠出のドライブ旅行を楽しむ家族連れの様子をテレビが伝えていた。ただし、高速道路が発達している本州や四国・九州から届く映像がほとんどだった▼高速道のネットワーク化が遅れている本道は、ETC搭載車の割合が本州より低いとされる。ETCを装着しても恩恵が少ないからだろう。だが、ETCへの補助を目当てに装着に踏み切った方もおられよう▼今年は、曜日の並びが幸いしてまとまった休みが取りやすいGWだ。今月25日から来月6日までの期間中、5連休がはさまる。すでに楽しい旅行計画を立て、心を弾ませている家族も多いに違いない。何しろ本道は桜が咲く絶好の季節だ▼30キロ以上の渋滞予測に本道の高速道は1カ所も入っていない。つまり、車で出かけても時間がかかり過ぎてイライラさせられることが少ない。これって、本道の利点だな、と思わぬ発見をした。(S)


4月11日(土)

●100年に一度の経済危機から立ち直るためには、何でもありの政策総動員が必要だと言われると分かったような気がする。それでも大盤振る舞いのツケが、子どもや孫たちを苦しめるのではないかと心配になる▼政府が決定した過去最大の追加経済対策のことだ。財政支出15・4兆円のうち10兆円以上を国債発行で賄う方針だという。国債は償還が必要な国の借金だ。財源が足りないから借金で窮状を糊塗する姿が透けて見える▼追加対策に伴う09年度補正予算案は月末にまとまる。当初予算と補正を合わせると新規の国債発行額が何と税収を上回りそうだという。景気悪化で企業業績が振るわず、税収が落ち込む見通しが影を落とす▼麻生太郎首相はきのうの記者会見で、経済危機を乗り切るためにあらゆる対策を講じると語った。その意気込みはいいが、どれほどの実効性を持つのだろう。中でも消費拡大策は首を傾げたくなる項目もある▼その筆頭が贈与減税だろう。高齢者から子・孫への生前贈与について、住宅取得に限り非課税枠を610万円まで拡大する。金融資産を持つお年寄りに金をはき出させて落ち込む住宅需要を喚起する狙いだ▼だが、610万円ではマンションを買うにも足りないうえ、金持ち優遇策との批判も根強い。車や家電の買い替えに対する補助にしても賢い消費者を動かせるかどうか。何だかバラマキのツケを将来に回すようで怖い。(S)


4月10日(金)

●「金打(きんちょう)を打つ」という表現を藤沢周平さんの小説で知った。武士が、自分の太刀の刃や鍔(つば)を相手のそれと打ち合わせて約束を守ると誓うことだという。子ども同士なら「指切りげんまん」だろうか▼自然界の約束は、武士の金打のように違えることがない。時ならぬ寒気に見舞われた先月下旬、まだ硬かった桜のつぼみが、数日来の温もりで膨らみを増してきた。五稜郭公園の桜樹の下を歩くと、ほのかな色づきを感じる▼桜前線は東北地方の中部まで伸びてきた。関東は満開を過ぎて、花びらをはらはらと散らしているのをテレビが伝えている。桜前線が海峡を越えるのは今月末だが、桜樹の枝を透かして見る空は心なしか桜色のもやにかすんでいる▼道南では、松前公園の冬桜が開花した。本州で冬に咲く桜が道南に春の到来を告げる。亜熱帯から亜寒帯にまで広がる日本列島の季節の移り変わりは、桜前線が気になる春がもっともくっきりした姿を見せる▼函館の最高気温が10度を超えるようになった。冬物のコートやセーターを仕舞うころだ。クリーニング屋にオーバーを持って行くと若主人が「いまが書き入れ時です」と汗を浮かべた笑顔をほころばせた▼車のタイヤはスタッドレスから夏物に替えた。ひょっとして雪が舞う日があるかもしれないが、道路が白くなることはもうあるまい。花の季節が、約束通りに足音を高めて近づく。(S)


4月9日(木)

●入学式や始業式などがある4月は児童生徒たちにとって、新しい出会いがあり、新しい友だちができ、楽しさにあふれる時期。でも、日本生まれのフィリピン人で13歳のカルデロン・のり子さん(埼玉県蕨市)の始業式は父母との別離の場となり、悲しさに満ちた日となった▼のり子さんの母親は17年前に、父親は翌年に他人名義のパスポートで不正入国した。父親は15年にわたり内装解体工として働き、後輩を指導する立場にまでなった。しかし、母親が3年前に逮捕され、裁判で執行猶予付きの有罪に▼「日本語しか話せない。親子3人で暮らしたい」との滞在申請のたびに東京入管は、1カ月程度の滞在許可を出していたが、先月、両親が帰国すれば、のり子さんの在留を認めると最後通告。両親は涙をのんで強制退去処分を受け入れた▼労働力不足の日本に多くの外国人が入国。所得税や住民税も収めてきた一家に、なぜ在留特別許可が出せなかったのか。子どもには何の過失もない。親子の別離は子どもの権利条約に違反する。欧州では一定期間居住した外国人に在留許可を与える法制度もある▼のり子さんは母親の妹夫妻のもとで滞在する。「親友とダンスの先生になるのが夢。勉強を続けるのは日本しかない」と話す。両親は2年生になる8日の始業式で我が子の元気な姿を見届けた後、フィリピンに帰国する。のり子さん、頑張れ。(M)


4月8日(水)

●「フリー・フェア・オープン」が、小沢一郎民主党代表のスローガンだという。つまり自由で、公正で、開けた日本社会を作るというのが、小沢さんの政権構想の骨格だ▼「ミスター円」の異名で知られた元大蔵省財務官の榊原英資早稲田大学教授のインタビューにそう答えた(「政権交代」・文藝春秋)。民主党政権が誕生すれば首相に就くと目されている小沢さんだが、違法献金事件で足元がゆれる▼麻生太郎首相が「5月解散」に含みを持たせる発言をしたのは、思わぬ”敵失”で民主党への風当たりが厳しくなっているのを好機ととらえたからだろう。発言で政界には、にわかに解散風が強まってきた▼麻生さんは、新しい経済対策を実施するために09年度補正予算案を今国会に提出する考えを明らかにした。その補正予算案の成立に野党が抵抗するなら解散も辞せずと言及した。解散権を持つ首相発言だけに反響は大きい▼麻生さんは選挙の顔として自民党総裁に選ばれ、首相に就いたが、失言や閣僚の失態などで支持率を下げ、選挙をすれば政権から滑り落ちるとの観測が強まった。「100年に一度の経済危機」をとらえ政局より経済対策と解散を封じてきた▼だが、衆院議員の任期切れが迫る中で、首相が自らの手で解散に打って出るには限られた時間しかない。さて5月解散になれば、その時戦う相手党首に小沢さんが踏ん張っているのかどうか。(S)


4月7日(火)

●人工衛星の打ち上げに成功したと伝える北朝鮮の報道はもちろん信用できない。軌道を周回する衛星から金日成、金正日父子をたたえる歌を送信しているというのも虚報だろう。米軍の公式発表は、北朝鮮の報道を否定する内容だ▼だが、北朝鮮から発射された「飛翔体(ひしょうたい)」の一段目が日本海に落ち、残りの段が日本の上空を飛び越えて太平洋に落下したのは、米の早期警戒衛星や自衛隊のレーダー追跡からまぎれもない事実だ▼飛翔体なんて耳慣れない語は初めて知った。辞書で飛翔を引くと「大空を飛翔する」の用例が載っている(「国語例解辞典」小学館)。まるで天女か大きな鳥が空を悠然と舞うイメージだ▼北朝鮮が発射したのは、もっときな臭い代物だ。米ニューヨークタイムズ紙(電子版)は、核弾頭搭載可能な長距離ミサイルを打ち上げたと報じた。そして実験は失敗したと専門家の見方を紹介している▼北朝鮮は、多数の餓死者が出て国際的な食料援助を受けた国である。今回の発射には約300億円の費用がかかったと韓国政府は試算しているそうだ。国民を飢えさせている独裁国家が、脅しの手段の開発には金を惜しまない▼そんな隣国の動きを警戒して、日本は多大な費用と人員を投じて備えなければならない。大騒ぎすれば、脅威を際立たせて存在感を示す独裁国家の策略に乗せられることになる。歯がみが止まらない。(S)


4月6日(月)

●政府高官が「ミサイルが飛んでいるのを見えたら『ファー(打球の飛ぶ方向にいるプレーヤーや観客に警告するかけ声)』って言うのにな」とゴルフボールに例えたり、ミサイル防衛にも「撃っても当たるわけがない」と発言した北朝鮮の飛翔(ひしょう)体▼人工衛星だろうが、ミサイルだろうが、他国の領域の上空を超えることは穏当ではない。人工衛星打ち上げ技術は長距離弾道弾の発射能力を持ち、「米国まで届く」とのデモンストレーションにしても、お花見の頭上を飛び越え、日本に損害をもたらすと推定されれば迎撃は当然▼11年前、三陸沖に着弾したテポドン1号の着弾まで11時間、3年前の2号も着弾地点公表に3時間近くかかった。今回は1段目のブースターは秋田県沖、2段目は太平洋沖に落下。ミサイル搭載のイージス艦やPAC3ミサイルを配備。緊急情報システムを全国に網羅▼しかし、発射予告期間の初日に「北朝鮮から飛翔体が発射された模様」と発表したが、5分後に「飛翔体は確認されず」と訂正する失態が起きた。発射から着弾まで10分程度。こんな誤探知などがあれば国民の安全は守れない▼そんな中、北朝鮮は発射予告2日目の5日、飛翔体を発射。飛翔体は列島上空を通過し、太平洋上に抜け、迎撃はなかった。人工衛星なら夢と希望がある。弾道ミサイルには脅威と死しかない。ミサイルなら今度の発射を最後にしてほしい。(M)


4月5日(日)

●ニッチ産業という言葉がある。誰も手をつけなかった分野の需要を見込んだビジネスで、ニッチは「すき間」の意味。DVDの宅配レンタルやペット用の超高級ディナーなど、アイデア次第だ▼住まいがない人たちが寝泊まりするインターネットカフェや個室ビデオ店は、本来のニーズにすき間の需要が加わった例だろう。昨年10月には大阪の個室ビデオ店で、16人が死亡する放火事件があった▼群馬県の高齢者施設「たまゆら」で起きた火災も、犠牲者が10人に上った。運営しているNPO法人は建築確認をせずに施設の増改築を繰り返していた。県への届け出もなく、行政の監視が及ばなかった▼なぜこうした施設の需要があったのか。国は社会保障費の抑制で、療養病床の大幅な削減を進める。老いた親の面倒をみたくても、わが身の生活で手いっぱい。特別養護老人ホームは数年待ち…。行き場を失った高齢者たちは、三食住まい付きで訪問介護も受けられるとなれば、おのずと流れる▼厚生労働省は、ようやく無届け施設の調査に乗り出したが、遅きに失した感がある。いまさら全国で同様の施設が300カ所以上あると言われても「やはり」というあきらめに覆われ、介護政策の貧しさを嘆きたくなる▼制度のひずみが生んだ「負のニッチ」というべきか。たまゆらとは古語でほんの一瞬、という意味。皮肉にも一瞬にして命を奪われた高齢者に合掌。(P)


4月4日(土)

●砂漠のはるか彼方から黒い点が浮き上がってくる。英将校ロレンスが率いるアラブ人のラクダ部隊である。スペクタクルと印象的な映像で、映画史に残る「アラビアのロレンス」は英監督デビッド・リーンの作品だ▼アカデミー賞の7部門に輝いた大作の音楽は、モーリス・ジャールが作曲した。そのモーリス・ジャールの訃報が新聞に載った。フランス・リヨン生まれの作曲家、米ロサンゼルスで死去と小さな記事で紹介していた▼「アラビアのロレンス」のほか「ドクトル・ジバゴ」、「インドへの道」で3度アカデミー賞を受賞した作曲家である。これら3作品はいずれもデビッド・リーンの監督作品だ。監督と作曲家は、絶妙のコンビを組んでいた▼映画音楽は、CDやレコード全集が出ているようにひとつのジャンルを形成している。映画のヒット作には、いい音楽が欠かせない。映画の場面に重なってメロディーが思い浮かぶ映画好きも多かろう▼2人が携わった作品の中でコラム子には「ライアンの娘」がもっとも印象が深い。20世紀初頭、英国からの独立を求めるアイルランドの寒村が舞台だった。主人公の人妻の心情に寄り添うように響いてきた音楽が忘れがたい▼18年前に亡くなったリーン監督は昨年が生誕100年だった。そしてジャールさんも鬼籍に入った。2人が残してくれた傑作の幾本かをビデオ店で借りて楽しもうかと考えている。(S)


4月3日(金)

●「さばさばに乾いていく心を ひとりのせいにするな みずから水やりを怠っておいて/駄目なことの一切を 時代のせいにするな」。茨木のり子さんの新入社員を励ます詩「自分の感受性くらい」の一節だ▼今年の新入社員は100年に1度の経済危機の中で働く。6月までに職を失ったか、失うことが決まっている非正規労働者が10万2000人を突破。正社員のリストラも1万人超。そんな中、社会経済生産性本部が命名した今年の新入社員のタイプは「エコバッグ型」▼エコロジー(環境)に関心があり、エコノミー(節約志向)で無駄を嫌い、折り目正しいとか。耐久性はあるが、酷使すると放り出す早期離職の傾向も。昨年は周囲がつくった環境でブラシで磨きつつ、減速しない「カーリング型」▼30数年前は、おとなしいが、人になつかず、世話が大変という「パンダ型」だった。ある調査によると、新入社員の一番の不安は「先輩や同僚に嫌われていないか」だ。嫌われないためには仕事を教えている上司や先輩の話を素直に聞くことが肝心という▼厳しい社会情勢に、ストレスがたまり自暴自棄に陥って“五月病”になってしまう。茨木さんの詩は続く。「苛立つのを 初心消えかかるのを 暮らしのせいにするな」と。この詩をバイブルのように持ち歩き、苦しい時、読み返して“自分の感受性”を高めているサラリーマンもいる。新入社員、頑張れ。(M)


4月2日(木)

●後厄というのに不摂生な生活を続け、あすはお払いを受けるという日に実家から電話が来た。昨年8月に腹部大動脈瘤破裂で、66歳で急逝した恩師の夫人が会いたがっているという。その年の5月、帰省した時にお会いしたのが最後だった▼ほかにも用件ができ、帰省を決めたころ、昨夏に家族旅行で来函し会っていた知人が脳内出血で入院したという知らせが入った。さらに、出発の2週間前、幼なじみの父が急逝した。実家に着き事情を聞けば、同窓会の温泉で酒を飲み風呂に入り倒れたという。かぜさえひかない父を失った友の涙は初めて見た▼脳内出血で倒れた知人を見舞った。事前に夫人から聞かされたが、右腕は回復不能らしい。「まだ温かい。きっと治るさ」と右腕を温めていたのが痛々しい▼恩師の夫人に会った。恩師は頑固な性格で、関節痛に悩んでいた。亡くなる前「最近痛いなあ…足が」と言っていたという。「あれは足でなくお腹だった。正直に言ってくれればよかったのに…。悔しい」▼夫人はこのことを誰にも言わなかったという。帰り際「去年から言おうと思っていたが、あんた太ったね。調子が悪いと思ったら医者に行きなさいね」と声を掛け、恩師の似顔絵が書かれた名刺を渡してくれた▼もしかして夫人は恩師から「家に呼んで、体調管理を注意しろ」と言われたのか。名刺は財布に入れている。不摂生を反省し食生活を改善した。(R)


4月1日(水)

●〈風がすでにやってきた。町はすでに姿を消した。どの家族も逃亡のさなかだった。恐怖が支配していた。怪物の支配が始まるかもしれない〉。サイード・バハウディン・マジュルーの詩の一節である▼ノーベル文学賞候補と言われた詩人は、ソ連軍の侵攻後、アフガニスタンからパキスタンに亡命してレジスタンス闘争のレポートを発信し続けた。1988年に暗殺された後、フランスで出版されたのが冒頭の物語詩である▼アレキサンダー大王の東征の拠点であり、インドから仏教文化が広がる中継点でもあったアフガンは、文明の十字路ともたたえられた。イスラム過激派タリバンが破壊したバーミアン遺跡など古代からの遺産が多く残る▼そのアフガンは、30年にわたる戦乱が国を破壊した。パキスタンとの国境に近い山岳部には、オサマ・ビン・ラディン容疑者らテロリストが潜む。米軍の掃討作戦で政権を追われたタリバンが再び勢力を盛り返している▼オバマ米大統領は政権就任以来、イラクからの撤退とアフガンへの兵力増強を表明していた。テロとの戦いの最前線をアフガンと見ているからだ。その戦略の発動が2万1000人の米軍増派である▼ブッシュ前政権の戦争がイラクだったのに対し、「オバマの戦争」はアフガンが主要舞台になる。新大統領の戦略が人々を〈恐怖の支配〉から解放し、文明の十字路に一日も早い平和の訪れを願いたい。(S)


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