平成21年5月


5月31日(日)

●自他共に認める漫画好きの麻生太郎首相の後押しで予算案に盛り込まれたのだろうか。約117億円をかけて東京都内に建設が予定されている「国立メディア芸術総合センター」(仮称)のことである▼漫画やアニメ作品などを展示する一大拠点にする構想だという。これらのサブカルチャーは確かに海外でも人気が高い。子どもばかりでなく大人も日本発の漫画やアニメに夢中になっている様子が、テレビなどで紹介される▼でもねぇ、この経済不況のさなかに巨費を投じて建設に着手する重要案件なのかと疑問が頭をかすめる。2009年度補正予算案に盛り込まれたハコモノ建設の中でも何だか無駄遣いの象徴に思われて仕方がない▼人気漫画家の石坂啓さんは、国費を使って額縁に原画を飾ってほしくないと痛烈に批判したと毎日新聞が伝えている。「国営漫画喫茶」と批判している民主党の勉強会での発言だというから、幾分割り引いても厳しい見方だ▼同センターの建設などが盛り込まれた予算案は、衆院の議決が優先される憲法の規定で成立した。歳出総額は過去最大の13兆9000億円だ。「100年に一度の金融危機」に対処するためと政府は言うが、首を傾げる中身もある▼一円の無駄も惜しむ家計のやりくりを思い出し、国の予算にも注目しよう。国会は3日に会期末を迎え、どうやら相当幅の延長が確実だ。その先には政権選択の総選挙が控える。(S)


5月30日(土)

●撤去か保存かで揺れていた旧函館ドック跡地の大型クレーン(ゴライアスクレーン)2基の解体作業が、ついに始まった。30年以上にわたり市民の潜在意識に刻まれてきた、港にクレーンが並ぶ当たり前の風景が、ごく自然にクレーンのない景色に取って代わる日は近い▼保存運動の中では「産業遺産としての価値」が強く訴えられてきた。確かに函館発展の象徴的存在として愛着を感じる部分は少なくないが、100年を超える数多くの歴史的建造物を抱えるこの街にとっては、あくまでも新参者。多額な保存費用を考えると、致し方のない選択だったのかもしれない▼解体を前に、マスコミを対象にした見学会が行われたが、そこで撮影された写真にびっくり。初めて見るアングルから広がる迫力ある函館山とその周辺の風景と、歴史の重みを実感させてくれる腐食の進んだクレーン本体のコントラストが実に鮮やか▼「クレーンそのものを観光スポットとして、自由に行き来できるようにすれば人気を集めたのでは」。ふとそんな考えが浮かんだ。折しも世間は“廃墟”ブーム。長崎県の軍艦島(端島)ツアーも予約待ちの大人気という。しかし、時すでに遅し▼解体前のクレーンを東京在住の熊切和嘉監督が映画「海炭市叙景」のロケでフィルムに収めてくれた。スクリーン上で懐かしい風景に再会できることを楽しみにしたい。(U)


5月29日(金)

●五稜郭公園の藤棚が開花した。「あなたの愛に酔う」「恋に酔う」の花言葉を持つ。昨年、千年の恋物語のゆかりの地、源氏物語が書かれた石山寺に立ち寄った。紫式部も眺めたのだろうか、境内に藤の妖精が陽光を浴びていた▼教え子との恋に悩んだ島崎藤村が漂泊の旅に行き着いたのも石山寺で,源氏の風流の愁いを残す藤を愛でた。藤村の執筆に活力を与えた藤棚は今も残る。藤の花のオーラは「人を妬み、人の不幸を喜ぶ」感情など打ち消してくれる▼五稜郭公園の藤棚は植えて80余年。石山寺のように歴史は長くないが、最初の2本が11本になり、幹は10㍍超、枝も広く張り、30㍍の花のトンネルに成長、花穂の数ほど“人生模様”を演出している。が、復元中の箱館奉行所の表門があると推測され、移転の話が出た▼小欄で「藤棚と共存するような表門復元も不可能ではない」と書いたが、昨秋の発掘調査で表門の痕跡は見られなかった。「藤棚を守る会」が1万人の署名を添え、市議会に藤棚存続を訴えた結果、保存が決まり、さらに樹齢が延びた▼今年は1週間ほど早く咲き出した。昨年作った歌「五稜郭の藤の花」は作曲家のc、田梓さんが曲を付けた。さわやかなメロディーで、31日に花見会を開き、ポプラ合唱団や観光客らが合唱。「花の門 函館にその命 心に深く刻まれる〜」と。2週間ほど、棚にぶら下がって咲き誇り「恋に酔わせて」くれる。(M)


5月28日(木)

●ボケ防止や気分転換に役立つなら、射幸心をあおると断罪するだけで済むものでもあるまい。もっとも”庶民の娯楽の王様”と開き直られるといささか鼻白む。市場規模22兆円のパチンコのことである▼パチンコ人口1450万人とレジャー白書が書くように、パチンコはもっともファン層が広いギャンブルだろう。ただ、パチンコ依存症や多額の借金を抱えての家庭崩壊など社会問題の原因になっていることも事実だ▼ギャンブル性の高い新機種の登場で拡大していたパチンコの市場規模がここ数年、急激な客離れで下げ基調に陥っているらしい。閑散としたパチンコホールが目に付き、倒産して閉鎖されるホールも続出している▼パチンコの貸球料金は、法律で一個4円以下と決まっている。多くは上限の4円だが、貸玉料金を下げて客を呼び込むホールも現れた。東京都内では、なんと1玉50銭で楽しめるホールも登場したそうだ▼この価格なら500円ワンコインで100玉だから、年金暮らしのお年寄りでもまあ遊べる。ギャンブル性の追求より遊びの要素を高めたことが奏功してか、台の稼働率も高い。不況下の低料金化が客足を呼び戻す好例だ▼函館ではさすがに50銭はないようだが、1円のホールはここ2、3年で登場した。パチンコはもとは子どもの遊びだった。経済不況はパチンコのギャンブル性を薄め、本来の姿に立ち返らせているのかもしれない。(S)


5月27日(水)

●親からもらった畑に立てば 米粒ひとつ おいらの命 夜つゆをなめても生きてやる〜 所ジョージの「兄弟農地」を聴いていると、危機に陥っている日本農業の状況と重複する。「みつばちマーヤ」の復活も待ち遠しい▼日本の農業就業人口は昨年初めて300万人を割り込んだ。なんとピーク時から8割の減少。就業者の6割は65歳以上。農業離れが進み、親から貰った畑を手放して、引退する高齢者の穴はいっこうに埋まらない。田畑が減って、エサをついばむスズメも少なくなった▼今ひとつ、心配なのはカボチャ、スイカ、イチゴなど野菜や果物の受粉に欠かせないミツバチが激減していることだ。3年前に米国で発生した蜂群崩壊症候群が日本各地にも波及。農薬や寄生ダニ、環境破壊などが大量死の要因として挙げられており、ミツバチ輸入も止まっているという▼受粉用のミツバチは農家にとって貴重な労働力。ミツバチがいなくなると、手作業で受粉させることになり、農家の経営を圧迫する。花は咲いても実を結ばない。甘いミツ集めのため過剰なノルマを課せられたハチたちの反乱かも…▼“空き農地”には異業種からの参入も目立ってきたが、根底に横たわるのは減反政策や後継者難。自分たちの国を狙っていたスズメバチを退治したマーヤのような「強力な農業改革」が急がれる。胸を張って「親からもらった畑」を耕す農地にしなければ。(M)


5月26日(火)

●「汚名」は北海道の地域政党・新党「大地」代表、鈴木宗男衆院議員の話題の本だ。〈国家に人生を奪われた男の告白〉のサブタイトルが示すように、逮捕・起訴され刑事被告人となった経緯をつづっている▼北海道開発庁長官や官房副長官などを歴任し、自民党の大物議員だった鈴木氏は2002年、北方領土支援事業とケニアのダム建設に対する政府開発援助(ODA)にかかわる”疑惑”を追及された▼辻元清美社民党衆院議員が「疑惑の総合商社」と名指したことを記憶されている方も多かろう。「利権を漁るあくどい政治家」。それが鈴木氏に着せられた汚名だった。鈴木氏はその年6月、東京地検特捜部に逮捕された▼本は、逮捕当日朝の家での様子から書き出す。そして保釈までの437日間、拘置所で絶望と戦いながら過ごした日々や取り調べの様子をつづる。さらに、鈴木氏が取り組んだ北方領土返還交渉にも触れている▼鈴木氏の”疑惑”に絡んでは、逮捕された佐藤優外務省主任分析官がベストセラー「国家の罠」で国策捜査と批判した。「疑惑の総合商社」の鈴木氏を何としても失脚させる。そのために特捜部が、事件を作ったというのだ▼メディアからバッシングを受けた鈴木氏は、テレビのバラエティー番組にも出演するなど悪徳政治家のイメージは変わってきた。だが裁判は1、2審とも実刑判決で最高裁に上告中だ。汚名は晴れていない。(S)


5月25日(月)

●今年の大型連休は、自動料金収受システム(ETC)による高速料金値下げの効果も加わり、例年以上に大勢の観光客が函館に足を運んだ。しかし、その後の3回の週末には、同じような光景を見ることはなかった▼4月上旬、湯川町の温泉街はいつにないにぎわいを見せていた。函館市民体育館で開かれたラージボール卓球大会の出場選手が、宿泊先から会場を往復する姿だった▼大会関係者によると、期間中には全国各地から約100人が訪れ、最大で5泊した人もいたという。地元に帰った後も、ブログで函館の思い出や名所、名産品を紹介するなど、観光振興への貢献度は高い。3月に同体育館で行われたバレーボール・Vリーグの際も、全国から“追っかけ”が集まり、試合の合間に函館観光を楽しんだという▼大型連休中に函館が混雑したのは、サクラの満開という季節的要因が大きい。一方、参加型および観戦型スポーツ大会の実施は、函館の豊かな観光要素との組み合わせより、年間を通した集客の可能性を秘めている▼オーストラリアのある州では、観光政府が国際的なスポーツ・イベントの開催と一体化した観光の振興を図っている。2000年シドニー五輪の成功も、その成果のひとつだ▼観光都市でありスポーツ健康都市宣言の函館で、市民体育館の在り方に関し、広く意見を聞く「市民体育館のあり方検討懇話会」が開かれる。活発な意見交換に期待したい(R)


5月24日(日)

●初老の女性が「マスクはありませんか」と尋ねると、店員は「すみません。すべて売り切れました」と答えた。首都圏の駅のキオスクで目撃したやりとりだ。そうした光景が日常化してからもう1週間になる▼電車内では咳(せき)をする乗客の傍からさりげなく離れる人を見る。せき込むことで自分の周りに他の乗客を寄せ付けない高等戦術と勘繰れないこともない。見渡すと乗客のほぼ半数がマスクを着けている▼電車内は濃厚接触の可能性が高い空間だから、新型インフルエンザの感染者がいたら、自分にもうつるかもしれない。マスクの着用とさりげない移動には、そのリスクを減らしたいとの気持ちがにじみ出ている▼函館ではマスク姿は病院など一部で日常風景になっているだけだ。だが、否定されたとはいえ感染の疑いが出たことで市民の反応はどう変わるだろう。まさかマスクが払底することはあるまい▼新型インフル患者の発生が関西から首都圏に広がるにつれて、マスクの需要が急増している。一部のドラッグストアやコンビニでは在庫がなくなり入荷ゼロが続く。価格が高騰しプレミアムが付き、たかがマスクに振り回される▼冷静に見れば顔を隠すマスク姿はカッコいいものではない。ダンディな男やいい女にマスクは似合わないだろう。もっとも新型インフルが下火になるまではカッコなんかに構っていられないというのが大方の受け止めか。(S)


5月23日(土)

●家柄に関係なく、仏門に入って精進すれば栄達できる時代があった。奈良時代に東大寺を開いた良弁、その大仏造営に尽くした行基、その寺で受戒して比叡山を開いた最澄…。母と生き別れ後、苦労しながら学問を積んだり、渡来人の末流とされたり、さまざま▼しかし、平安時代に入ってから摂関家、藤原師輔の子が比叡山に上り、ついに天台座主という頂点に立つ。世俗の権力が聖の世界にそのままスライドした。平等に目指せるはずの道も、生まれで左右されてしまうようになる▼生まれながらに特権のような地位を得られる世界は、現在もある。国会の2世や3世議員は衆院の場合、全体の3割ほどを占めるという。麻生内閣の閣僚では6割が世襲というから驚く▼親から地盤、看板、カバンを譲り受け、家業を継ぐように議員になる。当選を重ねるうちに権力や名誉を手に入れる。うまくいけば大臣のいすも手に届く▼この2年間で政権を投げ出した2人の首相も世襲議員。苦労知らずとは言わないが、無菌室で育ったような弱さがなかったか。麻生首相も代々続く政治家で、生まれは財閥。その出自をなくして到達できただろうか▼民主党に続き自民党も、世襲を制限する方針を決めた。鳩山代表は父の地盤を引き継がなかったが、麻生首相と同様、祖父は総理大臣。数カ月以内に次の政権を争う2人が同じ毛並みというのも、世襲政治の産物か。(P)


5月22日(金)

●盛唐の大詩人李白は、酒仙と称される酒好きだった。自由を愛し、豪放磊落(ごうほうらいらく)と言われた李白の有名な詩に「月下独酌」がある。明月を見上げながら一人で酒を楽しむ粋人の心境を歌った詩だ▼タイトルだけ見ると孤独な酒のようだが、実は地に映る自らの影と空に輝く月を友に酒を酌み交わしている。孤独な酒よりも仲間と飲むのがよい。それが酒をたしなむ際の詩人の心得だったのだろう▼憂いを含んだもの思いにふけりながら一人酒を口に運ぶのは、演歌の世界でおなじみだ。カラオケでもリクエストが多い「悲しい酒」は、〈ひとり酒場で飲む酒は…〉と歌い出す。歌詞に込められているのは、悲嘆を酒でまぎらせようとするやるせなさだ▼酒が悲しみや孤独を癒やす妙薬になることは珍しくない。だが、行き過ぎるとどうやら病気を招くことになるらしい。厚生労働省が「孤独な酒」は脳卒中の危険性を高めると調査結果を公表した。全国の男性約1万9000人を10年間、追跡調査して分かった▼酒好きで親友がいない人は頼れる人がいる場合に比べ、脳卒中の危険が2倍も高かったという。百薬の長とされる酒だが、量が過ぎると害になるという。飲むときは、仲間とわいわいやりながらがいいらしい▼これからは、一人で飲む場合も詩人にならって心の友を招き寄せ朗らかに語らおう。まあ、月や影は無理としてもせめて板長を話し相手にしよう。(S)


5月21日(木)

●俳優の小泉孝太郎が7月から放映される連続ドラマで初主演する。小泉純一郎元首相の長男で、現役首相の息子として華々しいデビューを飾ったのは7年前。当時の注目度はないものの、地道な活動を積み重ね、今回の抜てきとなった。数々の正念場を乗り切った結果だ▼芸能界における2世、3世は珍しくないが、最近は政治家の血を引くタレントの活躍が目に付く。お天気キャスターとしても人気の俳優・石原良純の父は石原慎太郎東京都知事。幅広い世代に「ウイッシュ」の決めゼリフをはやらせたロック歌手・DAIGO(ダイゴ)は竹下登元首相の孫だ▼DAIGOも当初は祖父との関係ばかりにスポットが当てられたが、気が付けば独特の天然キャラがお茶の間に浸透。今、総選挙に出馬すれば当選間違いなしと言われているが、本人にはまったくその気はないという▼一方、政界における2世、3世は厳しい局面に立たされている。民主党がマニフェストに掲げる「世襲制限」を、世襲議員が4割を占める自民党も検討をはじめた。選挙に向けた人気取りの一環に過ぎないとの評も聞かれるが、党内での議論は本格化しているらしい▼これが実現したら、小泉氏から続く安倍、福田、麻生の4首相がすべて世襲議員の自民党はどうなるのか。元首相のジュニアである鳩山由紀夫新代表を抱える民主党も…。ともに正念場を乗り切れるのだろうか。(U)


5月20日(水)

●国民が参加する裁判員制度が21日から始まるが、民間から選ばれた裁判員に、事件を分かりやすく、ビジュアル立証をめざした、大型ディスプレーや小型モニターを配置した「IT法廷」が各地の地裁で整備されていると聞く▼東京で女性を殺した元派遣社員の初公判で、遺体を切断してトイレに流すことを立証するため、下水道管から発見された肉片172個と骨片49個の写真が映し出された。次の公判では遺体を包丁、のこぎりで解体する再現写真、マネキンの足を腰から切り離す画像も▼裁判員裁判の対象は殺人、危険運転致死、強制わいせつ致死傷など18の重大事件。先の公判では生々しい映像に傍聴の女性遺族が大声で泣き崩れた。残忍な証拠映像は遺族への一種の冒涜(ぼうとく)であり、公正な審理への影響も懸念される▼状況証拠のみという異例の裁判となった毒物カレー事件では、約1700点もの証拠品が出された。“素人”の裁判員が膨大な証拠を詳細に吟味し、判断することは可能だろうか。法務省は「裁判の7割は3日以内で終わり、重い負担にならない」とPRしているが…▼「人が人を裁く」は永遠のテーマだが、バーチャルな“地獄再現”では公正な判断は難しい。裁判員に選ばれた場合「できれば参加したくない」と答えた人が52%に達した(毎日新聞)。裁判員が参加するのは「重罪」ではなく「複雑でない事件」から始めてもよい。(M)


5月19日(火)

●仏の女優カトリーヌ・ドヌーヴが主演した映画「シェルブールの雨傘」は1964年に封切られた。20代だったドヌーヴの輝く美しさと、しゃれた音楽でヒット作になった。制作45年の今年、デジタルリマスター版が日本で作られた▼この映画は、セリフにすべてメロディーが付き、語りは一切無かった。演奏されたテーマ曲は、いまもラジオから流れる。ミシェル・ルグランの音楽は長い人気を保っている▼ドヌーヴが演じた主人公らは母親が店主の傘店の嫁である。その店に展示された傘は、とてもカラフルだった。日本では地味な色の傘がほとんどだったころだ。ピンクやワインレッドの傘は女性でも持っていなかった▼雨降りは、気持ちが落ち着くから好きだという人ももちろんいる。だが、足元が濡れるし、雨がうっとうしいと感じる人は少なくない。そんな時に頭上にかざす傘が地味な色合いでは、気持ちがさらに沈む▼映画に出てきた色彩豊かな傘がフランスには昔からあったのだとすると、せめて目で明るさを楽しむ知恵のたまものかなと想像する。そうした知恵はまねすればいい。最近は日本でもカラフルな雨傘がたくさん店頭に並んでいる▼沖縄と奄美が梅雨入りしたと気象庁が発表した。梅雨が無いとされる本道にも蝦夷梅雨と呼ぶ長雨の時期がある。今年は明るい色の傘を買って、カラフルな気持ちで雨の季節をやり過ごすのも悪くないなと思う。(S)


5月18日(月)

●マスクが感染症の予防に使われるようになったのは91年前のスペイン風邪(4000万人超死亡)から。新型インフルエンザが流行して、白いマスクに混じって、青いマスクが目立つ。青い色は気持ちを落ち着かせるといい、安心感を与えるのかも…▼カナダで短期留学中に新型インフルに感染した高校生は日本から送られたマスクを着用していなかったという。英大学などの研究チームによると、新型の致死率は0・4%で、スペイン風邪より低いと推定。強毒性ではないが、感染者は40か国・地域で8700人を超え、75人が死亡▼国や自治体は感染者が多い外国からの帰国者や、感染者と同じ航空機に乗っていた帰国者などを対象に水際対策を徹底させたが、新型ウイルスは水際検疫をすり抜けていた。大阪府など関西で渡航歴のない高校生らが集団で体調を崩し、50人以上の感染を確認▼感染者が最多のメキシコはレストランで隣りのテーブルの椅子と2・5㍍の距離をおいたり、ノーネクタイなど規定し防止。日本では中高校の海外への研修旅行を見送って国内に切り替え、隣県への修学旅行を取り止めた小学校も▼過剰反応との声もあるが、日本の高校生を襲った新型ウイルスが感染力の強い強毒性に変身する可能性は大きい。見えない敵との闘いはこれから。念入りに手洗いし、白いマスク・青いマスクを忘れず。これが学校や家庭の水際対策だ。(M)


5月17日(日)

●「子どもには、心臓の病気で亡くなったと言ってある」「(事実を)とても言えない」。夫が自殺した妻から相談を受けた川入博弁護士が紹介している声だ(「サラリーマンの自殺」岩波ブックレット)▼過労死弁護団の活動に携わり、多くの遺族に接してきた川入さんは、なぜ亡くなったかをほとんどの人が隠していると指摘する。かけがえのない家族が自殺した事実を明かすのは、勇気が要ることなのだ▼昨年1年間に全国で3万2249人が自殺し、特に30歳代が過去最悪になったと警察庁が公表した。3万人超の自殺者数は11年連続である。1997年の2万4391人が、翌年に3万人台に急増してからずっと高水準が続く▼30歳代の自殺者数4850人は、統計を取り始めた78年以降、最悪だという。動機としては「生活苦」「失業」「就職失敗」などの伸び率が大きく、景気悪化が自殺の引き金になっていることをうかがわせる▼自殺は、病気のほかに社会的要因によっても増減する。雇用不安が広がり将来に希望を持てなくなった若年層が、人生に見切りをつけているのだろうか。働かされ過ぎて心に変調を来たし自殺するケースだってあろう▼自殺者の多くは、誰かに絶望的な気持ちを打ち明けると高橋祥友医師が解説している(同ブックレット)。そのときは励ましや批判は控え「徹底的に聞き役に回って」。悲しい数字を減らすためのアドバイスだ。(S)


5月16日(土)

●だんな、檀那、旦那、柁那。妻が夫を呼ぶ語。目下の人が目上の人を呼ぶ語。召使が主人を呼ぶ語。サンスクリット語の「ダーナ」の音写。「与える」「ほどこす」の意味。ダーナは欧州に渡って「ドネーション(寄贈)」になり「ドナー(寄贈者)となった▼ドナーは特に臓器提供者を指すようになり「身を捨てて人のためになる」人とか。今、その臓器移植法を15歳以下の子どもでも提供できるように改正しようという動きが出ている。現行法では国内で子どもの体に合う臓器が得られないからだ▼小児の患者は渡航移植に頼らざるを得ない状況の中、世界保健機関(WHO)は渡航移植制限ともみられる“自給自足”の方針を打ち出した。横行している臓器や組織売買の「移植ツーリズム」の抑制を狙っているようだ▼臓器売買ビジネスは各国で急成長。皮膚はやけどの治療に、血管や心臓弁は心臓病患者に、骨、じん帯などは歯科や形成外科に…。葬儀の前に抜き取られている。日本でも3年前に愛知県で「腎臓を提供したのに金をくれない」という事件が発覚している▼最近、心臓移植を受けるために渡米した1歳の男児が移植の前に亡くなった。子どもに大人でも難しい脳死判定は酷かもしれないが、外国に頼らない移植の道を議論することも必要だろう。先ごろ、函館で骨髄移植1万例を記念し、ドナーに感謝の意を示す桜を植樹した。(M)


5月15日(金)

●エコと名がつくと、地球温暖化防止に貢献できそうで、いいことずくめに思える。まあ、そうには違いないのだろうけれど、モノを買うことが前提となると、この不況のご時世に財布の軽さがどうしても気になる▼きょうから始まった「エコポイント」は、省エネ家電を買うともらえるポイントを次の買い物で使える制度だ。大手量販店をはじめ広く普及している買い物ポイント制の政府版だと思えば分かりやすい▼対象になるのは、省エネ性能が優れているエアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送(地デジ)対応テレビ。家電店に行けば目印の「エコポイント対象商品」のマークを付けて展示しているから簡単に見分けがつく▼電力を節約できる新製品の使用が増えれば、日本全体の二酸化炭素排出量が減り、温暖化防止に役立つ。加えて、家電製品の買い替え需要が進めば消費刺激効果も表れ、不況脱出への景気対策にもなると期待される▼いいことだなあ、とは思うが、わが家の家電製品は買ってから数年しかたっていない。まだ、十分に働いてくれている。それに日々の暮らしを考えると、高額な新製品を買うだけの余裕が家計には乏しい▼政府の施策は、国民の財布を当てにして業界を助ける意図が見え隠れしているような…。と、言ったら勘ぐりすぎか。この際、無理しても買い替えるかどうか、家人とじっくり相談しよう。買わない自由だってあるのだから。(S)


5月14日(木)

●高田屋嘉兵衛がドラマ化されたとき、「函館を拠点に活躍した嘉兵衛の業績を全国に伝えられる」と喜んだ人がいた。嘉兵衛は北方四島の漁場を開き、水産都市函館を築いた先駆者で、喜んだのは函館商工会議所副会頭の沼崎弥太郎さん▼沼崎さん自身も、海洋都市づくりに情熱を注ぎ、4月に設立された財団法人「函館国際水産・海洋都市推進機構」の代表理事に就任した。函館の産業経済の発展に尽力したのは嘉兵衛と同じ▼沼崎さんと、1998年、函館シンガポール協会や商工会議所、市などが主催したシンガポール公式訪問で同行した。函館産食料品の販路拡大と定期航空路線の開設が目的だった▼当時のシンガポール協会会長は魚長グループの柳沢勝さん。赤道直下、太陽が真上にある地で政府観光局や航空会社などを精力的に回り、柳沢さんが自信を持って空輸した魚介類は現地の日本料理店で提供され、好評だった。沼崎さんは「柳沢さんが築いた友好関係をさらに発展させたい」と意気込んだ▼一昨年の柳沢さんに続き、その沼崎さんも亡くなった。笑顔と真心で来店者を迎え、もてなしていた姿が思い浮かぶ▼拓銀が破たんした翌年で、現在と同様に経済はどん底。それでも国際観光都市をPRし、函館の未来を切り開こうという情熱があった。不況が続く現在、沼崎さんには、今後の函館の行く末をもっと見守っていてほしかったと思う。合掌。(P)


5月13日(水)

●石原裕次郎さんの「粋な別れ」は〈生命(いのち)に終(おわ)りがある 恋にも終りがくる…〉と歌い出す。カラオケの持ち歌にして、情感たっぷりに歌い上げる中年世代がいまも絶えないヒット曲だ▼恋は必ずしもハッピーエンドで終わらないところがつらい。涙の別れや、時には「別れ話に逆上して」と表現される暴力ざたを招くこともある。胸のときめきを思い出に残し、粋な別れを実現するのはなかなかに難しい▼きょうはメイ・ストーム・デー(5月の嵐の日)と言い、別れ話を切り出すのに最適な日だそうだ。バレンタインデーから数えて88日目のこの日を「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」に懸けているらしい▼立春を起点に数える八十八夜は、毎年5月2日ごろに当たり、この日に摘んだ茶を喫すると長生きできるとされている。でも、別れの嵐に翻ろうされている身には、心の安定をもたらすお茶の効用を説いても聞いてはもらえまい▼一昨日亡くなった作曲家三木たかしさんの「つぐない」は、好きな男と別れ去っていく女心を台湾出身のテレサ・テンさんが歌ってヒットした。その中に〈こんな女でも 忘れないでね〉の一節がある▼政界は、小沢一郎民主党代表の辞意表明でメイ・ストームの様相が強まる。もっとも小沢氏当人は、秘書逮捕を償うための辞任とは認識していないらしい。〈粋な〉辞任劇とは見えないのが悩ましい。(S)


5月12日(火)

●総選挙を控えた時期に、なぜ野党第一党の党首側近を政治資金規正法違反という「形式犯」で逮捕、起訴したのか。小沢一郎民主党代表への風当たりが増す一方で、検察捜査への疑問もくすぶり続けた▼中堅ゼネコン西松建設からの違法献金疑惑は、小沢党首のほか二階俊博経済産業相らについても浮上した。だが、漆間巌官房副長官が「自民党議員には波及しない」と発言した通りの経緯をたどっている▼何だかすっきりしない中でついに辞任を表明した小沢代表である。辞任が遅すぎるとの批判がある。側近訴追に対する責任と選挙に及ぼす影響を考えれば、もっと早く決断すべきだったとの声が党内からも上がる▼事件発覚までは、落ち目の麻生政権に対し、民主党は支持率で上回っていた。早期選挙になれば、民主党が第一党になるとの予測が一般的だった。ところが、最新の世論調査では、麻生政権の支持率が回復し、民主党には逆風が吹いている▼小沢辞任を密かにほくそえんでいるとしたら、それは霞が関の官僚かもしれない。霞が関には「暗黙の総意として政権交代への拒否反応」があると政治アナリストの伊藤惇夫氏が指摘している(中央公論5月号)▼民主党が掲げる「霞が関改革」は官僚機構の権限縮小につながりかねないとの危惧(ぐ)からだ。違法献金の摘発は、政局を揺るがし小沢政権を幻にした。さて、代表辞任は総選挙にどう影響するのだろう。(S)


5月11日(月)

●9日の告別式には、4万2000人もの一般参列者が足を運んだという。これは美空ひばりや石原裕次郎などの国民的スーパースターに匹敵する数だそうだ。確かに彼の個性は唯一無二であり日本の音楽界に多大な影響を与えたことは間違いないが、決して万人に親しまれるタイプのミュージシャンではなかっただけに、このような熱狂ぶりには驚かされた▼忌野清志郎、ロック歌手、享年58歳。フォークから出発しロックやブルース、パンクなど多彩なジャンルを自己流に味付けしながら、斬新なヴォーカルスタイルとストレートな歌詞、インパクトのあるファッションで圧倒的な存在感を示してきた▼そんな彼が世間を騒がせたのが、1988年に発表された「なに言ってんだー」。プレスリーの「ラブ・ミー・テンダー」のメロディーに乗せ原発反対を痛烈に歌い上げた問題作で、発売中止の憂き目に合うなど賛否両論を巻き起こした。しかし、音楽という武器を使って体制に立ち向かうという無骨なスタイルは多くの共感を呼ぶことにもつながった▼新聞の活字には「キング・オブ・ロックンロール」の言葉が踊っているが、果たして雲の上の当人はこのような紹介のされ方を喜んでいるのだろうか。「おれはただ自分の好きなように歌い続けた一人のミュージシャンにすぎないんだぜ。悪いけどあまり持ち上げ過ぎないでくれ」と笑い飛ばしているに違いない。(U)


5月10日(日)

●〈みそ汁をひっくり返しても怒らず始末をし、失禁しても年をとると皆がこうなるのですよと安心させ、「わからないわからない」と訴えていた主人に「大丈夫、私がついているから」となだめ…〉▼「愛する人が痴呆とよばれて」(大阪老人性痴呆医学研究会編・ミネルヴァ書房)で紹介している介護手記「三歳児になった夫」の一部である。滋賀県に住む筆者は、アルツハイマー型認知症の夫の最期を見取るまで9年間、介護した▼子どもはなく、2人暮らしの穏やかな日々が、夫の発病によって暗転する。オムツ替えを嫌う夫の介護にやけになり、いっそ心中しようとまで思い詰める。だが、妻ではなく母として愛情を注ぎ、危機を乗り越える▼老老介護が当たり前になってきた日本で、訪問看護やホームヘルプサービスを受けながら、自宅で認知症の伴侶を世話するケースは決して珍しくない。それは世間に名を知られた有名人でも当然、起りうる▼俳優の長門裕之さんが妻南田洋子さんの認知症をテレビの番組で明かし、涙にくれた映像は、見る人の心の琴線に触れた。南田さんは数多くの映画に出演した日活のスターである。美貌とすらりとした容姿でファンを引きつけた▼その南田さんが、夫に老残の身をゆだねて日を送っている。長門さんの告白は、老いは誰にもやって来ることを改めて思い起こさせた。それにしても…とスター夫婦のいまを思う。(S)


5月9日(土)

●五稜郭公園で桜の枝をたわめ、香りを吸い込んだ。ところが当方の鼻が鈍くなっているのか、花の香はちっとも分別できなくて、鼻腔(こう)に入ってくるのは食欲をそそるジンギスカンのにおいばかりだった▼もともと香りが淡い桜は、香料に使われることも少ない。それでも桜花の塩漬けを湯に浮かべた桜湯を口に含むと、ほのかに優しい香りが口中から鼻腔にはい上がってきて、思わずにんまりする▼大型連休が終わり、花見客でにぎわった桜の名所も人出が減った。好天に恵まれた連休中、五稜郭公園は広げたシートの上で焼き肉やビールなどを楽しむ家族連れや友人同士が目立った。そんな花見風景が過ぎ去った▼北国の花見にジンギスカンが欠かせないご馳走になったのは、いつからだろう。バーベキューセットが普及するまでは、その場で肉を焼いて食べる習慣はなかったから、始まったのは約20年前か▼香ばしいにおいにほほを緩めてジンギスカンとビールを楽しむのも悪くはないが、風に乗って微かに流れてくる香りを感じ取るのも花見の風情だ。だが、市内の桜は盛りを過ぎ、すでに散り始めた。代わって青葉の季節が近づく▼オホーツク沿岸部では今週、最高気温が30度を超す暑さがやってきた。函館でも20度前後まで気温が上がり、5月のさわやかな風を受けてそよぐ木々に温かな日差しが降り注いだ。街には半そでシャツ姿も目立ち始めた。(S)


5月8日(金)

●赤十字の理念は博愛と中立。パリの病院で近代医療と博愛精神を身につけて帰国した高松凌雲は、箱館戦争で榎本軍と行動を共にし、戦いが始まるや敵味方の別なく、負傷者や病人の治療に奔走、日本で赤十字思想を初めて実行した▼「人の心を苦しませ、いたませる光景をなぜこんなに幾つも物語り、悲しい思いをさせたのか。…戦場において救護と看護を行い、負傷者が全快するまで病院で看護をするというこの慈善事業に、進んでいつでも献身しようという人全部に呼びかけをする」▼赤十字の父といわれるアンリー・デュナンの「ソルフェリーノの思い出」を読み返した。170年も前に北イタリアの戦争を体験。悲惨な戦いを目の当たりにして赤十字創設を決意し、敵味方の区別なく救護する博愛と中立の精神を訴えた▼赤十字の事業は災害救援、医療、福祉など人道に基づいて展開される。世界で多くの人が自然災害や紛争、病気で苦しんでいる。先日、パキスタンで爆弾がさく裂し、幼児12人が死亡したという小さな記事を読んだ。爆弾と知らずに遊んでいた▼武装勢力や地域紛争に巻き込まれ、命を落す子どもが多くなっている。日本赤十字社は紛争地の保護・支援活動に力を入れているが、活動資金が頼りという。凌雲のように「人間を救うのは人間」。活動資金に少しでも寄付しなければ。8日はデュナンの誕生日を記念した「世界赤十字デー」。(M)



5月6日(水)

●又吉栄喜さんの芥川賞小説「豚の報い」は、スナックへ豚が闖(ちん)入して起きた騒動から物語が始まる。小説では、豚は災厄をもたらす生き物として描かれ、スナック従業員の1人が魂(マブイ)を落とす▼主人公の大学生とスナックの女性3人は、魂を落とした従業員の厄落としのために神の島を訪れる。舞台は沖縄。心に傷を持ちながらもひたむきに生きる登場人物たちは、おおらかな魅力をたたえていた▼世界を恐怖に陥れている新型インフルエンザは、ヒトのウイルスが豚に感染して広まったらしい。だが、豚から人への感染の証拠はない。豚インフルの名称は豚にとっては迷惑だ。だから新型と呼称を統一した▼エジプトでは、新型インフルの流行阻止を名目に政府が豚の全頭殺処分を指示した。これに怒った養豚業者が、抗議行動を起こし、警官隊と衝突して負傷者が出た。豚への死の宣告は、養豚業者にとって死活問題だ▼エジプトはイスラムの国だ。豚を不浄とみなすイスラム教徒は、豚肉を食べない。エジプトの養豚業者はほとんどが少数派キリスト教徒だから、殺処分の政府指示は、宗派間対立をあおることにもなったらしい▼「豚の報い」は、厄落としが済み、元の素朴な生活に戻っていくことを暗示する場面で終わる。過剰な疑念が引き起こしたエジプトの豚の受難は、さてどんな結末になるか。騒動の原因は豚ではなく人間の側にある。(S)


5月5日(火)

●紅白の幕を張って、街路灯の間に裸電球をつけて、ゴザの上に一升瓶を並べて、飲んで、歌って…ソメイヨシノの夜桜を満喫。47年前、函館公園での写真の桜は満開だった。五稜郭と並んで桜の名所だが、今年は花が少ないという▼函館公園の桜は公園が出来た12年後の118年前に近くに住む住民が寄贈。420本のうち350本がソメイヨシノ。気温が7度ほどの日が続くとスプラウト(新芽)が休眠から目覚める。膨らみ始めた新芽が野鳥にとって冬の格好のエサ▼新芽を食う“犯人”は津軽海峡から函館山に渡って来るウソ。5年前は台風で倒木があり、大雪も重なって、木の実や昆虫などが少なかったため公園の桜に目をつけ、食べられた新芽は3分の2にも上った▼ウソは11月には南下するが、今冬は暖冬のせいかエサが多く、函館山の留鳥のほか、渡って来るウソが群がった。開花したのはウソが重みで止まれない細い枝先だけで、「10年で最悪の被害」と嘆く。人出の多い五稜郭公園を除いて近郊の名所もやられているという▼函館公園の桜は1世紀もたつ古木が多く、常に野鳥被害と塩害に悩まされる。函館山は特別鳥獣保護区で駆除できないのが現状。新入社員たちが“五月病”にならないため、社会の荒波を乗り切るために“開花ホルモン”をいただくのがお花見だ。新芽が食い荒らされた「葉桜」では、ちょっぴり寂しい。(M)


5月4日(月)

●「永遠の妖精」といえば、思い浮かぶのは女優のオードリー・ヘプバーンだろう。亡くなって16年になるが、ヘプバーンのヒット作はビデオ店でも取りそろえているから、いまも借りて見ることが出来る▼ヘプバーンは、イギリス人の父とオランダ人の母との間にベルギーで生まれた。きょうが生誕80年である。「アンネの日記」で知られるアンネ・フランクと同年だからか、ヘプバーンはアンネに深い同情を寄せていたという▼映画ファンなら、ヘプバーンの出演作の何本かをすぐに挙げることができる。王女を演じた「ローマの休日」は、スクーターに乗って市内を走るときの輝く笑顔と、高貴と言ってもいい容姿が印象的だった▼下町育ちの娘が教授の厳しい指導で淑女に変身していく「マイ・フェア・レディ」、全盲の人妻を演じた「暗くなるまで待って」、サスペンスの傑作「シャレード」などどれもヘプバーンの魅力があふれていた▼晩年のヘプバーンは、ユニセフ(国連児童基金)の親善大使を務め、アフリカの子どもたちの支援活動に力を注いだ。それはヘプバーン自身が第2次大戦の混乱期に食料などの援助を受けた経験があるからだという▼生誕80年を記念してCSやNHK衛星でヘプバーンの特集番組が放送される。大型連休も後半に入り、行楽疲れが出るころだ。テレビの前で「おしゃれ泥棒」や「パリの恋人」を見て過ごすのも悪くない。(S)


5月3日(日)

●「不眠症だから夜中に何度も起きるのも苦にならないのですよ」。80代の実母を自宅で介護していた女性の話が忘れられない。20年近く前、在宅介護の実情を取材させてもらったときのことだ▼リューマチを患い、脳こうそくに倒れた実母は、寝たきりで言葉を発することも出来なかった。当時60代だった女性は、床ずれ防止のために3時間置きの体位交換や水分補給で夜中も起きて実母の世話をしていた▼女性の息抜きは社交ダンスだった。週1度、仲間とダンスに汗を流す。女性が家を空けるときは夫が世話を代わってくれた。元タレントの清水由貴子さんの自殺を取り上げた週刊誌を読んで、その女性を思い浮かべた▼清水さんは、最も重い「要介護5」と判定された実母を自宅で世話していた。介護サービスを使っていたとはいえ、清水さんの負担は大きかったろうと想像する。介護疲れから抑うつ状態に陥っていたかもしれない▼清水さんのような悲劇を招かないように介護の「社会化」を目指して始まったのが介護保険制度だ。それまで主に女性の献身に頼りがちだった家族介護を社会全体で支える仕組みに作り変える目的で導入された▼介護保険は今年10年を迎えた。当初掲げられた理念は、財政難やマンパワーの不足などにさらされ、実現したとは言い難い。そんな実情を地元での取材で連載企画にした。「介護保険10年」をぜひご愛読下さい。(S)


5月2日(土)

●モノの価格の値下がりは、財布を預かる主婦としては嬉しいことに違いない。だが、日本経済を見渡すと、必ずしも歓迎すべきことでもない。何しろ不況下の物価下落はデフレの心配を呼び起こす▼総務省の発表によると3月の消費者物価指数は、1年半ぶりに上昇率がマイナスに転じたという。石油製品が大幅に下落したほか、食品の伸び率が縮小した。その傾向は風薫る5月も続いているようだ▼函館市内のスーパーをのぞくと、パンやマヨネーズが値下がりしている。電気、ガス料金も原油や液化天然ガスの下落を受けて今月から過去最大の値下げになった。ガソリン価格は変動があるとはいえ、レギュラー1㍑が110円台だ▼賃金の頭打ちやボーナスの削減に直面している勤労者世帯は、少しでも安いモノを、と低価格志向を強める。ましてぜいたく品や不要不急な買い物は慎む。かくして消費は減退し、消費不況の暗雲が頭上に広がる▼消費が伸びないと企業業績は当然悪化する。それは、雇用と賃金に影響を及ぼす。同じ日に総務省が発表した3月の完全失業率が4・8%の高水準に達したのは、企業が人減らしを進めていることを示している▼五稜郭公園の桜が満開を迎え、大型連休の行楽が最盛期なのに、何だか弾んだ気分に水を差すような話に落ち込んだ。どうかご寛恕(じょ)を。でも、数字の裏に浮かれていられない現実が透けて見える。(S)


5月1日(金)

●就任から100日を迎えたオバマ米大統領にとって、新型の豚インフルエンザの感染拡大は、憂慮すべき難題に浮上しているのだろう。区切りの日の演説で「最大限の予防措置を取る」と強調した▼その米国では、初の死者が出た。メキシコからやってきた幼児で、テキサス州で治療を受けていたという。感染は東部ニューヨーク州にも広がり、休校に踏み切る学校も出ているとテレビのニュースが伝えている▼感染者数、死者数ともに最大のメキシコとの国境を閉鎖することはないと大統領は言明した。だが、感染防止の水際作戦は容易ではない。世界保健機関(WHO)も警戒レベルを世界的大流行の一歩手前まで引き上げた▼影響は日本にも及んでいる。国際線が到着する空港では、飛行機の中に検疫官が乗り込み、発熱や咳(せき)、体調不良を訴える乗客がいないか問診を重ねる。外国船が入港する港でも検疫態勢が強化された▼海外旅行に出かける人たちでごった返す空港では、マスクや消毒薬の売れ行きが、いつもの数倍に上るという。感染予防のためには思わぬ出費も我慢のうち。旅行をキャンセルするよりは出かけたい願望が勝っているのだろう▼穏やかな日差しの5月が始まり、大型連休もあすからの5連休で最高潮を迎える。新型インフルの被害拡大は不気味だけれど、帰宅時の手洗い、うがいをしっかり励行して、絶好の季節を楽しみたい。(S)


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