平成21年7月


7月31日(金)

●じめじめした夕方は「とりあえず、ビール」だ。ビールの歴史は古い。起源はメソポタミアで、エジプトでは紀元前3000年ごろから飲まれていた。ピラミッドづくりに携わった労働者らが仕事を終えて、ビールで疲れを癒やしていたという▼以前、関西で京大と早大が古代エジプトヒール「ホワイトナイル」を共同開発した。壁画から再現法を解明した早大の考古学と、世界中の小麦の種子を保存している京大の「知の出会い」の結集。当時の製造法ではアルコール度が高かったが、日本人に合うタイプのビールに改良▼ビールのうまさはノドを通る「味と香り」をいかに長持ちさせるかにある。今は麦芽を熱風で乾燥させる過程を低温から少しずつ高温にすることで、異臭や渋みの発生を抑えている。ホップを使わない古代エジプトビールは苦くなく、白ワインに近い味だとか▼今ひとつ「味と香り」に大事なのは「水」だ。はこだてビールの地ビールは函館山のわき水を100%使用。7年ほど前に出した熊石の地ビールも海洋深層水を100%使用。ともにコクがあり、すっきりと飲みやすいのが特徴▼ビールは健康にもよい。ビールに「乳がん抑制効果」があることもラット実験で分っている。「1日1本程度、飲みすぎはヤッパリダメ」という。「緑の島」で再現される大門のキャバレー「未完成」で、とりあえず、はこだてビールを飲んで、青春を取り戻したい。(M)


7月30日(木)

●世襲、踏襲、襲用、襲名…。共通するのは「襲」の字だが、決して襲(おそ)ったり襲われたりするわけではない。概して引き継ぐといった意味合いで使われることが多い。突き詰めようとすれば語源の解釈まで必要とされるから、日本語はやっかいであり、そして面白い▼さて、その世襲についてだが、最近、マスコミで盛んに使われている言葉の一つであることはご承知の通り。29日までに明らかになった自民党の衆院選政権公約(マニフェスト)案では、世襲候補の制限が盛り込まれた▼これに先立ち民主党が世襲制限の方針を打ち出している。国会議員の子や配偶者ら3等親以内の親族が同一選挙区から連続して立候補することを禁止する内容だ。自民党も次々回から民主党と同様の制限を行うという▼自民党には世襲議員が多く、その傾向は道内の選出議員も例外ではない。党内には世襲制限への反対論が根強かった。今回の制限案を民主党に対抗する付け焼き刃と一蹴することは簡単だが、自民には自民なりの苦悩があるとすれば、多少なりとも見方は変わる▼一方で、問題の本質は本当にそこにあるのかという疑問も残る。世襲は悪と言い切る前に、踏襲・襲用型がはびこる悪癖をいかに改善するか。政権交代の可能性をはらんだ今回の衆院選は、政治姿勢を含む各党の変化を期待できる大一番だ。政策を単に引き継ぐだけの政治はいらない。(K)


7月29日(水)

●TBS系列で放送中のドラマ「官僚たちの夏」が人気という。原作は作家・城山三郎の同名小説で、舞台は敗戦後の日本。国内産業の保護か、国際化を目指した自由貿易か—。そのはざまで揺れ動く通産官僚たちの活躍が描かれている▼ドラマの展開と制作者側の意図は至って分かりやすい。宣伝文句にある「大人の男たちの熱き戦い」は、NHKのかつての人気番組「プロジェクトX 挑戦者たち」を思い起こさせる。実際にドラマは中高年層にも楽しめる内容で、何より登場する官僚たちがさっそうとしていてカッコいい▼民主党の鳩山由紀夫代表は27日、衆院選の政権公約(マニフェスト)を発表した。一読して驚いた。「脱官僚」政治の実現を前面に打ち出し、ひいては中央集権から地方主権の政治に切り替えるのだという。まさに政権交代を意識した公約である▼驚いたのはその内容についてではない。鳩山代表の官僚批判と、カッコいい官僚たちのドラマとのギャップに目がいったからだ。マニフェストでは自民党政治を「官僚丸投げ」と切り捨てた上で、官僚の天下り、渡りの全廃にまで踏み込んでいる▼ドラマの舞台である戦後とは時代背景が違う、と言われればそれまでだが、国民が抱く官僚に対するイメージの変化は否定できない。一方の自民党は官僚との関係において、どのような対決軸を示してくるか。政治決戦の今夏は、官僚たちの夏でもある。(K)


7月28日(火)

●日照不足、うっとうしい天候が続く。今月の函館の降雨量も例年の3倍近い。気象台は「赤道海域でエルニーニョが発生しているものとみられ、8月の道内は太平洋高気圧の張り出しは弱く、寒気の影響を受けやすく、気温も平年より低くなる」と“冷夏”を予想▼エルニーニョは赤道海域の水温が平年より上昇する現象で、広い地域で日照り(干ばつ)や洪水などの異常気象が発生。統計では、西日本で低温、西日本の日本海側で多雨、太平洋側と北海道・東北で日照時間が少なくなる傾向にある▼1週間ほど前から列島は異常豪雨。中国地方や北九州を中心に息苦しくなるような降雨。土砂崩れ、土石流が住宅を襲い、多くの犠牲者、被害者を出し、その凶暴性が恐怖を募らせる。道南でも八雲で土砂崩れが発生、交通を寸断▼エルニーニョは動植物の生態にも影響する。海水温が上昇すると、プランクトンが減るためイカやイワシなどの小魚が死んだり、他の海域に移動したり…。その小魚をエサにしている鳥類も餓死する。3年ぶりにエチゼンクラゲも襲来する▼「晴れの日が少なく、気温は低めに推移」となれば、農作物の収穫にも影響。家庭菜園のトマトもさっぱり赤くならない。夏休みに入った子どもたちは海水浴に行けない。夏イカもエルニーニョにいじめられているだろうか。イカのてるてる坊主で晴天を呼び、港祭りでは「イカ踊り」を熱く乱舞したい。(M)


7月27日(月)

●中国、九州地方で猛威を振るっている豪雨被害は、多くの犠牲者を出しながら未だに収まる気配が見えない。テレビが映し出す惨状に胸を痛めながらも、どこか遠くの出来事と客観的に眺めていたのだが、25日に発生した八雲町内での土砂崩れ被害で一気に目が覚めた▼思い起こせばこの地域では、ちょうど10年前の夏にも集中豪雨により国道5号の野田追橋が流されている。この時はp鞢㕣iうかい)ルートが日本海側まで達し、長距離トラックによる書籍や日用品の輸送が大幅に遅れるなど、日常生活に多大な影響が及んだ▼国道5号は函館と道央をつなぐ重要な大動脈であるにもかかわらず、災害時にp鞢哬Hとして機能する道央自動車道は、札幌方面から八雲ICまでしか伸びていない▼実は今年の10月には、今回の災害現場のすぐ近くに新しく落部ICが完成する予定になっている。しかし、その先の森IC、大沼ICまでの開通はさらに3年後。最終到達点である七飯ICまでは、7㌔にも及ぶトンネル整備の必要性などから開通のめどが立っていないのが現状だ▼一方、北海道新幹線の新青森—新函館間は、15年の開通に向けて着々と工事が進められている。この新函館駅に隣接するのが七飯ICであり、新幹線開通と同時に完成すれば道南の観光ルートの幅は大きく広がる。防災と観光の両面から一日も早い道央自動車道の全線開通が待たれる。(U)


7月26日(日)

●函館で獲れるイカにはファンが多い。作家の故・山口瞳さんもその一人。著書「行きつけの店」の一章「函館 冨茂登の烏賊の糸造り」では次のように書いた。「鮭やキンキがなくても平気だが烏賊がないのは苦痛になる。特に函館がそうだ。なぜなら、烏賊釣りの漁り火が毎晩見えているのだから」▼同氏は東京暮らしだったが、函館市宝来町の「料亭 冨茂登」をひいきにした。大女将である尾形京子さんとは特に気心が知れていたという。京子さんは現在88歳。同店は再来年に創業50周年の節目を迎える▼冨茂登の歴史は京子さんが腕を振るった、おでんの店に始まる。伝統の味は3年ほど前に市内本町に開店した「おでん 冨茂登」に引き継がれている。京子さんの長男夫婦、尾形成一さんと信子さんが店を切り盛りする。お二人に話を聞く機会があった▼おでんを作る銅器は半世紀にわたって使い込まれたもの。つゆの味も継ぎ足しながら大切に守ってきた。おでんを口に運ぶと、京子さんが歩んできた歴史に少し触れた気になる。不思議な瞬間だ▼函館の飲食店は新旧交代が著しい。のれんを下ろしたままの店が少なくない一方で、老舗の頑張りも目を引く。尾形さん夫婦は言う。「独自のカラーがあったからこそここまで来られたのでしょうね」。長く商売を続ける秘訣(ひけつ)は意外とシンプルで、だからこそ難しいことなのかもしれない。(K)


7月25日(土)

●根っからの左党である。気候変化の影響か、道内産の米がおいしくなったと言われ、その米で作る日本酒も再評価され始めている。仕事をしている以外はアルコールに浸されている時間が多い。身近にうまい酒があることはうれしい限りだ▼味では焼酎も負けていない。先日、厚沢部町の本格焼酎・喜多里を飲んだ。選んだのは地元産の黄金千貫(こがねせんがん)を原料としたサツマイモ焼酎。独特のクセを残しながらもすっきりとした飲み口で、ついつい杯を重ねてしまった▼「『本格焼酎といえば九州』。そんな通説に真っ向勝負! 原料づくりから手がけ、挑みます」。喜多里を製造する札幌酒精工業はホームページの中で力説する。サツマイモだけでなく、ジャガイモ、コンブ、麦を原料としたものもあり、楽しみは尽きない▼道内にはさらに、さまざまな原料の焼酎がある。シソを使った釧路管内白糠町の「鍛高譚(たんたかたん)」などが知られているが、ほかにもトウモロコシ、クマザサ、ハッカ…と百花繚乱(りょうらん)。ミルク焼酎といった変わり種もある。ぜひ試してみたいものだ▼各地の取り組みからは「全道・全国に発信できる逸品を」という地元民の気概が感じられる。共通のキーワードは「地産地消」。いっときの焼酎ブームは去った感もあるが、こよいはそれぞれの街に思いをはせ、「地焼酎」に酔うのも一興では。(K)


7月24日(金)

●日本で生まれた「もったいない」を世界の共通語「MOTTAINAI」へ—。環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性、ワンガリ・マータイさんが提唱する「MOTTAINAIキャンペーン」の趣旨である▼リデュース(ごみ減量)、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)の「環境3R運動」。これらを一言で表す日本語「もったいない」という言葉と価値観にマータイさんが出合ったことが、キャンペーン始動のきっかけという▼そういえば「もったいない」という言葉を聞かなくなった。「もったいないお化け」が登場し、子どもたちの食べ残しを戒めるという一時期のテレビコマーシャルも姿を消した。外食産業などでは客の食べ残しや売れ残りが大量に廃棄され続けている▼先日、函館市内のコンビニエンスストアで買い物をして驚いた。昼食を手にレジに向かうと、店員が「よければこれも食べていただけませんか」と言う。差し出されたおにぎりを見る。賞味期限はほんの数分前に切れたばかり。「捨ててしまうよりは…」ということだろう。コンビニも変わった▼弁当などの賞味期限に関しては、廃棄前の見切り販売をめぐる大手コンビニ本部と加盟店のすれ違いが記憶に新しい。変わらなければならないのはコンビニだけではない。片面だけ印字された用紙を無造作に捨ててしまった。あー「MOTTAINAI」。(K)


7月23日(木)

●天文ファンが大勢詰めかけた、鹿児島県トカラ列島の悪石(あくせき)島。22日午前、日本の陸地で46年ぶりとなる天体ショーは厚い雲に阻まれた。お目当ての皆既日食は地上から直接観測できなかったが、皆既の時間帯には真夜中のような闇に包まれたという▼ところで、日食の際に動物はどのような行動を取るのか。そう考えていた矢先、同日付の本紙に興味深い記事が載った。ハム・ソーセージ製造で知られるカール・レイモンが、1936年6月の皆既日食時に動物の生態観察を行っていたというのだ▼観察地は現北斗市本郷にレイモン自ら開いた小動物園。記録によると、日食によって周囲が暗くなるにつれてサルの群れが狂ったように騒ぎ出し、大きなクマの夫婦もうなり声を上げる。ライオン夫婦だけは百獣の王らしくじっと太陽をにらみつけていたという▼では今回は—。いろいろと調べてみたが、動物たちに驚くような変化があったというニュースは見当たらない。大分県奥別府のアフリカンサファリでも、動物たちの様子に変わりはなく、獣医師のコメントとして「日食で騒いだのは人間だけでした」(大分合同新聞)というオチまでついていた▼この日は函館・道南でも部分日食を見ることができた。ぜひ聞いてみたいことがある。そちらから太陽、月、地球はどう見えましたか。動物たちの様子はどうですか…。天国のレイモンさん。(K)


7月22日(水)

●「総選挙はお祭りだ」。関係者の間でよく聞かれるせりふだが、今回は様子が異なる。地方選の連敗と支持率低下に危機感を抱く自民党、政権交代の大命題がプレッシャーとしてのしかかる民主党。他党の思惑もさまざまで、「お祭り」などと悠長なことは言っていられないというのが実情だ▼衆院は21日午後、解散された。いよいよ政治決戦・夏の陣に突入する。立候補予定者は一斉に選挙区に戻り、すでに事実上の選挙戦を展開している。解散から投開票日までは40日間。取り方は人それぞれだろうが、国政選挙は概して「長いようで短い」▼北海道8区でも、現時点で4氏が立候補を予定。熱い夏がスタートする一方で、地元民にとって寂しいニュースもある。衆院で当選5回を重ねた8区の金田誠一さん(61)が、この日の解散に伴い政界から引退した▼函館市議から国政に転じたシンデレラボーイというイメージが金田さんにはあるが、「弱者のための政治」に粉骨砕身した苦労人でもあった。臓器移植法の制定に向けた「金田案」の提出で知られるほか、地元の身体障害者団体との交流など地道な活動も多かった▼金田さんには心から「お疲れさま」と言いたい。有力議員の引退により8区では一つの時代が終わった。そして、新たな政治の1ページが書き加えられようとしている。有権者はどの候補者、政党を選択するのか。道南の将来を占う一大決戦の行方を注視したい。(K)


7月20日(月)

●2007年11月、十勝岳連峰の上ホロカメットク山(1920メートル)で雪崩が起きた。日本山岳会道支部の11人が巻き込まれ、4人の命が奪われた。当時、十勝管内に勤務していたことから、取材の手配などに当たった。真っ先に現場に急行させたのは、登山経験が豊富な若手のカメラマンだった▼16日、今度は大雪山系のトムラウシ山(2141メートル)で登山客9人が死亡するという大惨事が発生した。前出のカメラマンも現地に駆けつけたという。彼自身、何度も同山に登った経験があり、「道内の夏の登山では五指に入るほど難しい山」と言い切る▼最後まで集団で行動する。一人が脱落したら全員で引き返す。こうした登山の鉄則が今回守られなかったのはなぜか。「現場取材でも分からないことが多かった」。カメラマンは首をかしげる▼遭難事故を受け道警は18日、ツアーを企画した旅行代理店の東京本社などを業務上過失致死の容疑で家宅捜索した。登山日程に無理がなかったか。ガイドの判断に誤りはなかったか。これらの検証が今後の焦点となる▼中高年の間で登山ブームが続いている。今回のツアー参加者もその年代の男女だった。健康で元気な熟年が、趣味に登山を選んでも不思議はない。ただし、十分な知識と装備、さらに余裕ある登山日程などは不可欠である。9人の犠牲者が身をもってそのことを教えてくれた。(K)


7月19日(日)

●「夏はやっぱりウナギで」「夏のスタミナづくりはウナギ」—。19日の『土用の丑』を前に、スーパーなどの売り込みチラシがどっさり。業界も「ウナギを食べて景気が“うなぎ登り”に上向く」と、輸入ウナギの安全性をPR▼食糧難の子どもの頃、学校から帰ると、山へ鳥を捕りに出かけ、川では魚を捕った。川で小さいけれどウナギを捕った時はうれしかった。河口を出たウナギは産卵場のマリアナ海域に向かうというが、水深1000メートル超の海底でどう泳いでいるのだろう▼どうして日本の河口に来るのか。謎とロマンに満ち、つかみどころのないウナギだが、昨年、水産庁の調査船がマリアナ海域で4匹の親ウナギを採集したという。われわれの口に入るまでの“ウナギの旅”の全容が解明されるのも近い▼土用の丑に食べるウナギは何と言っても蒲焼き。語源は口から尾っぽまで竹串に刺して焼く様子が蒲(がま)に似ているところから。焼く前につかまえようとするが、右手からぬるりと顔を出し、左手を持っていくと、上へ上へと昇り、空に届いたという話も…▼冷凍ギョーザ事件などで中国産ウナギは激減していたが、今夏は復活したため、2、3割安く出回っているという。何と行っても夏はウナギと花火だ。薬味のサンショウまでも消化吸収を高めてくれる。土用の丑には夏ばて防止のウナギを食べて、今夕は夜空へ昇る函館港花火大会の大輪を堪能しよう。(M)


7月18日(土)

●いきなり無知をさらすが、「北海道三大祭り」というものを知らなかった。北海道神宮例祭(札幌市、6月)、金刀羅神社例大祭(根室市、8月)、姥神大神宮渡御祭(江差町、同)をそう呼ぶようだ。後者の二つは開催月が同じ。偶然だろうが、日にちも9—11日で重なっている▼先日、江差町を訪れた際、濱谷一治町長との間で祭り談義になった。根室、江差の両市町は互いの祭りに敬意を示している。「市長さんは江差に来たいと言ってくれるが、例大祭では自ら大事な役回りがあり、根室を離れられないようです」。濱谷町長は残念そうに語った▼訪れた日、町内の一角にある姥神大神宮の周辺に観光客の姿は少なかった。半月後にはここが祭りの喧噪(けんそう)に包まれるとはにわかに信じがたい。ホテルのフロントに聞くと、前回の祭りが終わった直後の1年前から宿泊の予約が入り、今のこの時期はキャンセル待ちの状態という▼姥神大神宮渡御祭は北海道最古といわれる祭りで、その起源は360年余り前にもさかのぼる。町のホームページによると、その年のニシン漁を終え、蝦夷地きっての景気に沸き返る夏の江差で、豊漁に感謝を込めて行われる祭りだった▼道南出身ではないこともあり、この祭りに触れたことがない。「今年はぜひ」といろいろな人に言われるが、ホテルには空きがない。来年まで待てるか—。自問が続いている。(K)


7月17日(金)

●ペリー提督が開港下検分のため箱館に来て10年後、今から145年前の7月17日。西部地区の東坂を下った岸辺。海外に新しい知識を求めようとした新島襄(同志社英学校創始者)と、ペリー艦隊の帆船技術を独学して「函館丸」の建造に携わった福士成豊▼英語力に磨きをかけた仲。深夜、2人は小舟に乗り込み、新島は船底に身を伏せ、成豊が櫓をこいだ。途中、奉行所役人にとがめられたが、信頼の厚かった成豊が冷静に対応。新島をベルリン号に乗せて、アメリカ行きを手助けした▼当時の国禁を破っての渡航、大志を抱いての脱国だった。ベルリン号船主のハーディー夫妻の養子に迎えられ、10年にわたって、大学で懸命に勉強。教育を中心に欧米の政治、経済、社会慣習などの知識習得に励んだ▼新島襄は成豊を命の恩人として尊敬していた。教育指針に「真誠の自由を愛す」の言葉を記述している。偽りやごまかしのない本当の自由を愛すとの意。明治の日本でも平成の日本でも、その根底にある真誠の自由とは、重い言葉である(箱館英学研究家・井上能孝氏)▼開港150年の函館から、国禁を破って渡航した偉大な教育者。その陰には国運を託す箱館人もいた。函館は日本教育の原点。純粋な情熱、石をも砕く信念を意味するギリシャ語の「パトスの会」が17日、海外渡航地碑の前で「祈念祭」を開く。新島襄の偉業・功績をしのぼう。(M)


7月16日(木)

●コンパクトカーの定義は何か。調べてみたが、これといった答えが見つからない。排気量についても見解はまちまち。少し乱暴だが、「全長が短い小さな車(軽自動車は除く)」といったところか。経済性だけでなく近年は性能や乗り心地も向上しているという。売れる車にはそれだけの理由がある▼ここで取り上げたいのはコンパクトカーではなく、コンパクトな結婚披露宴のこと。先日あった知人の披露宴は、出席者が60人弱だった。車との同列は新郎新婦に失礼とは思うが、小さいけれど中身が充実していた▼披露宴の会場は函館市内のホテル上階のレストラン。港を一望できる絶好のロケーションの中で進む宴は、終始和やかな雰囲気だった。会場が小さく、ひな壇もない。主役である新郎新婦との距離を感じることがなく、何より祝いの席に参加しているという実感がある▼札幌市内で以前出席した人前結婚式も心に残るイベントだった。披露宴を兼ねた式は構成もユニークで、笑い声が絶えない。ほのぼのとした空気が心地よく、そのとき始めて多様な結婚式の在り方を知った▼誤解のないようにしてほしいが、決して数百人単位の盛大な結婚披露宴を否定するものではない。要は自分に合った形を選べばいい。車も小さなものから大きなもの、さらにさまざまなデザイン、性能の中から選択できる時代。多様性の流れが冠婚葬祭に及んで悪いはずがない。(K)


7月15日(水)

●漫画「はだしのゲン」の作者、中沢啓治さんの講演を聴いたことがある。原爆の被爆体験を基にした内容だった。焼けただれた皮膚、水を求めてさまよう人たち…。被爆直後の悲惨な様子には耳を覆いたくなるような怖さがあった▼怖さという点では漫画「はだしのゲン」の描写も同様である。現実としての戦争の悲劇をペン1本で描ききっている。同時に、激動の時代をたくましく生きる主人公の姿を活写し、読む側はその中から希望を見いだすことができた▼しかし、中沢さんの講演からはその希望を感じることができなかった。被爆の描写があまりにも生々しかったせいかもしれない。推測だが、そこに中沢さん自身の意図が働いていた可能性もある。どんな講演にも聴衆の記憶に残すための語り口というものがある▼14日、多数の死傷者を出した函館空襲から64年目を迎えた。本紙は「記憶をたずねて」と題したルポを5回にわたって掲載。2人の女性記者が被災者とともに空襲の現場を訪ねた。記者は最終回を「戦争を知らない世代にできることは何か—。あらためて考えたい」と結んだ▼戦争体験者が高齢化し、やがて戦争を知らない世代だけになる。戦争体験を聴き、後世に語り継いでいく。紙面を通して記録に残すこともその一つだ。戦火を逃げまどい、戦後をたくましく生きた「はだしのゲン」は函館にもいる。その事実と記憶を風化させたくない。(K)


7月14日(火)

●孔子曰く「仁がある人には必ず勇気はあるが、勇気がある人に必ず仁の心があるとは限らない」。大型地方選で4連敗し、東京都議選で過半数割れに追い込まれた自民党。「惜敗(必勝)を期して…」の迷演説で敬遠された麻生太郎首相は衆院解散を決断した▼「未曽有」などの読み違いは国語力が足りないから。国語力が足りなければ国民への説得力も不足する。昨秋からの世界的な経済危機で「景気回復と不況脱却最優先」の対策を打ち出したが、国民はすんなり受け入れなかった▼例えば高速料金1000円。なぜETC搭載車だけが優遇されるのか。値下げで2年間に必要な5000億円は国民の税金で負担する。なぜ土日祝日に休める人たちだけが優遇されるのか。納税者は平等に恩恵を受ける権利があるのに、説得力ある説明はなかった▼オバマ米大統領の「チェンジ」は都議選でも生きていた。特に1人区で都議会のドンが新顔に苦杯するなど惨敗。半世紀ぶりの“負けっぷり”にも麻生首相は「国政と直接関連したものではない」と強気。大型地方選に続く都議選の有権者の多くは国政を意識したというのに▼次期衆院選は「8月30日投開票」という“勇気ある判断”を見せたからには、孔子から「必ず仁がある」と言われるようなマニフェストをつくり、子どもの命(改正臓器移植法)を守る選挙にしてほしい。誰に投票しようか、忙しいお盆になりそう。(M)


7月13日(月)

●日本国内の陸地では46年ぶりに見られる皆既日食が、いよいよ22日に迫ってきた。しかし、実際に皆既日食を体験できる場所はごく一部に限られており、鹿児島県の屋久島や種子島、奄美大島、トカラ列島などの南の島々まで行かなければならない▼中でも注目を集めているのが、トカラ列島の悪石島(あくせきじま)。ここでは太陽が月の影に完全に隠れる皆既時間帯が6分25秒に及ぶ。今世紀中に起こる皆既日食の中でも最長となるため、世界各国から大勢の観測者が足を運ぶと見られている▼ところがこの悪石島は住民わずか70人ほどの小さな離島。宿泊施設も整備されておらず、学校の校舎や校庭を開放しキャンプで受け入れるという。島では貯水タンクを増設したり食料の確保に努めているほか、緊急の警備体制を敷くなどてんてこ舞いらしい▼このような過酷な条件にも関わらず、南の島々への皆既日食ツアーはすでにほとんどが売り切れとのこと。「せっかく国内で皆既日食を体験できるチャンスだったのに」と悔やんでいたら、なんと函館でも見ることの機会が訪れるという▼それは2063年8月24日のことで、筆者がもし存命だとしたら満96歳。悪石島と違い、気軽に足を運べる観光地函館には、果たしてどれだけ多くの人々が押し寄せるのであろうか。皆既日食自体よりも、そのにぎわいを確かめるために長生きしたいものだ。(U)


7月12日(日)

●衆院の解散時期ではいつもやきもきさせられる。今回は政権交代の可能性も取りざたされている。政治決戦に対する国民の関心は強い。だから余計にイライラが募る。永田町では解散時期をめぐる発言が二転三転する。四転五転して元に戻ることもあるから、実際の解散前に国民は疲れ切ってしまう▼折しも函館は開港150周年の節目の年。8月には記念のメーンイベントが目白押しだ。ほぼ同時期には恒例の港まつりも控えている。「選挙どころではない」と感じるか、「祭りどころではな★い」と取るかは人それぞれだろう▼当然のことだが、夏の祭りやイベントを予定しているのは函館だけではない。全国各地で名の知れた催しはむしろこの時期に集中する。観光客の入り込みを当てにできる、書き入れ時でもある▼「開港イベントを盛大に祝いたいし、一方で国政選挙も大事」(本紙10日付)。函館市幹部のコメントは偽りのない本音だ。有権者の意識がイベントに傾けば、総選挙の投票率にも影響が出る。かといって「選挙どころではない」と言い切ることもできない。だから関係者はつらい▼12日は東京都議選の投開票日。与野党の勢力図に変化はあるのか。その結果が衆院解散の時期にどう影響するのか。やきもきは当分続く。せめて函館・道南の一連のイベントと総選挙が重ならないように。こう願うのは地元住民のわがままか。(K)


7月11日(土)

●一般市民が刑事裁判に参加する裁判員制度が5月21日にスタートして、2カ月近くがたった。しかし、多くの市民にはその実感がないのではないか。現在は、証拠や争点を協議する公判前整理手続きが全国各地の地方裁判所で行われている最中だ。実際にはまだ、裁判を通して人を裁いたことのある「一般市民」はいない▼函館市内で女性が車に押し込められ暴行された事件で、函館地検は9日、同市内の容疑者を強姦致傷罪などで函館地裁に起訴した。裁判員制度対象事件の起訴は同地検では初めて。初公判は10月以降になりそうだという▼同制度の対象事件の起訴件数は全国ですでに数百件に上るとみられる。中には殺人事件も相当数含まれるという。公判前整理手続き後の夏から秋にかけ、裁判員裁判による初公判が次々と開かれることになる▼5日、大阪市内のパチンコ店が放火され、4人が死亡した。逮捕された容疑者の罪はこれから問われることになるが、今後、この種の凶悪犯罪が同制度の対象事件として扱われるケースも出てくるだろう。裁判員はそのつど難しい判断を迫られる▼人を裁くことに抵抗感があるという市民は依然少なくない。一方で同制度の実質的なスタートは目前に迫る。地元函館もその例外ではない。どんな制度にも一長一短がある。果たして何が「長」で、何が「短」なのか。見極めるには時間がかかりそうだ。推移を慎重に見守りたい。(K)


7月10日(金)

●「破壊」に関する二題。一つは「価格破壊」。作家城山三郎の同名の著書が語源とされるが、ちまたに低価格商品があふれる昨今。その言葉自体が死語となりつつある。破壊される前の価格、つまり正規の値段ではなかなか物が売れない時代である▼「正規の値段」というものがすでに存在しないのであれば、「平均値」という表現に置き換えてもいい。先日、函館市内の家電量販店に行って驚いた。店頭表示の価格はあくまで複数店の平均値であり、来店客もそのことをよく知っている。値引き交渉はここでは当たり前の光景だ▼何店かを回った。どこでも「ほかのお店はいくらでしたか」と聞かれる。そのたびにわずかずつだが値が下がる。長年わが家に鎮座していたブラウン管テレビが、ようやく地デジ対応のものに変わった。結局、予算以下の価格だった▼さて、もう一つの「破壊」だが、こちらの方は文字通り「物を打ち壊す」という物騒な話。6月下旬、市内で乗用車の窓ガラスが相次いで割られた。被害車両は100台を超えた。時をほぼ同じくして今度はホームセンターの現金自動預払機(ATM)が盗まれた▼後者はトラックで店舗に突っ込むという手荒い犯行だった。住民に恐怖を与えたいずれの事件も未解決のままだ。価格破壊とはまったく異質の、犯罪としての破壊行為を看過するわけにはいかない。1日も早い解決に期待したい。(K)


7月9日(木)

●ビートルズ解散後の1972年、ポール・マッカートニーは『アイルランドに平和を』という曲を出した。英国の北アイルランド支配を批判し、「アイルランドを返せ、アイルランド人の手に」と歌い、英国の国営放送BBCはこの歌を放送禁止にした▼「ウイグルに自由を」と求めている彫りの深い顔立ちの人たちを見て、思い出した。英国は音楽という表現の自由を拘束したが、中国は暴動に加わった1400人以上の身柄を拘束した。死者は150人を超えている▼暴動の原因ははっきりしない。もともとは平和的なデモで小競り合いから発展したという話もある。双方の宣伝戦の中で、事態は混迷を極めているが、根底にあるのは民族問題になかなか本腰を入れない中国の姿勢▼昨年の北京五輪前にはチベットで暴動が起きた。国際社会で大きな舞台があれば、民族問題が必ず出てくる。南オセチアの独立紛争もしかり▼今回はイタリアでのサミットの直前。中国も10月に建国60周年式典がある。新疆ウイグル自治区は天然資源に恵まれ、経済成長を遂げているが、その恩恵は漢族が握るという。そうした不満が背景にあるのか▼ウルムチを何度も訪れているという函館の男性は「実に美しい都」と賞賛していた。シルクロードのオアシスで、悠久の時の流れにロマンをかき立てられるという。流血の惨をこれ以上広げてはならない。楼蘭の美女も泣いている。(P)


7月8日(水)

●ドラッグストアなどから姿を消していたマスクが、再び店頭に並び始めた。その矢先の6日、新型インフルエンザに感染した患者が函館市内で確認され、翌7日には別の2人にも広がった。「とうとう函館にも…」と率直に思うが、今のところ感染は特定のグループ内にとどまっている。一般市民への感染拡大の可能性は低いと聞いて一安心した▼しかし、観光本番を控えた地元関係者にとって感染のニュースが脅威であることに変わりはない。「5月の大型連休後から観光客が落ち込んでいる。感染が拡大しないことを願うだけ」。コメントを寄せた函館国際観光コンベンション協会の思いは切実だ▼2008年度の渡島管内観光客数が973万5800人と発表された。対前年度比7・5%の減少で、1997年の調査開始以来初めて1000万人を割り込んだ。外国人の宿泊客も大幅に減っているという▼燃料高騰や景気低迷、円高などが不振の原因とされる。それに加え、今回の新型インフルが観光客の今後の動向にどう影響するか。それを推計することは現時点では難しい。こうした非常時にこそ函館・道南観光の底力が試される▼求められるのは感染拡大への官民一体となった取り組みと、家庭などにおける予防対策である。これまでも繰り返し呼び掛けられてきたことだが、改めて言いたい。「冷静な対応を」と。風評被害を生む、過度の反応が一番怖い。(K)


7月7日(火)

●梅雨があけて本格的な暑さに向かう小暑。願いごとを書いた五色の短冊を笹竹に結ぶ七夕。7日の夜空を見上げれば満月。月明かりに浮かぶ天然の良港が開港150年を迎え、記念行事が目白押し。本紙に載った「ペリー来航150周年—黒船が残したもの」を読み返した▼6年前、函館英学研究家の井上能孝氏が52回にわたって連載。155年前、風雲急を告げる幕末に鎖国日本の扉を開けたペリー提督が箱館港を下検分するために、5隻の黒船を率いて来航。わずか18日間の滞留でペリーが残した函館の“ハイカラ文化”をつづっている▼当時の北前船とは似ても似つかぬ3本マストの巨艦。捕鯨船の船長から親潮の圧流を聞いていたペリーは津軽海峡の荒波を乗り越えて下田から3日と16時間で戸井沖に着いた。持病のリウマチに耐えつつ、5回ほど市街に上陸▼店頭でお土産を買う水兵らがトラブルを起こさないように松前藩に「青空バザール」を提案、一つ一つ値段を付けて並べさせた。今のフリーマーケットの始まりだ。民家にも寄って食生活も観察。風俗、鉱石、火山、海草なども調査▼散策がてら採集した鈴蘭など86種の標本を米国に持ち帰った。「HAKODADIよ。サイナ」と立待岬を後にした。函館の祭りの原点ともいうべき、大黒山、船山、エビス山の山車が練り歩いていた。港まつりにはペリーが残した“ハイカラ文化”を偲んで、熱狂しよう。(M)


7月6日(月)

●最近「早割り」という制度をよく見掛ける。ホテルや飛行機で早く申し込むと割引きしてくれる早期予約割引のことだ。ある航空会社では国内線で最大約73%の割引きになるという。夏休みの旅行で使う方も多いだろう▼この季節は「お中元」商戦でも、早割りの導入が目立っている。早期の申し込みにより送料のサービスなどを行い、顧客獲得を目指している▼このほかはゲームソフト、マンスリーマンションの賃貸料、代行運転料、ウエディング費用、自動車の車検の整備料、行政書士事務所が行う登記簿謄本取得の手数料…生活のあらゆるものに早割りが登場している▼函館でも今年、新たな早割りが誕生した。3日に五稜郭公園で開幕した函館野外劇で、65歳以上の方が11日までに観劇すると2500円の入場料が1000円になるという「早割り65優待」だ。7月の第2週(10、11日)までの公演を対象にしている▼毎年欠かさず足を運んでいる人や、早期に予定を決められる場合にはとてもありがたい制度。実際、初日から利用客が目立ち、例年開幕から2、3週までの入場者が少ないことに悩む主催者にも笑顔は広がった▼一方、日々時間に追われたり、計画が立てにくい場合は利用しにくい制度でもある。筆者も今年の夏は、衆議院選挙の動きが不透明のため、夏の帰省には利用できない。同じようにため息をついている人も多かろう。(R)


7月5日(日)

●函館は障害者に優しい街—。この説にはいろいろな見方がある。例えば観光名所。歴史的建造物などは形状を勝手に変えることはできない。さりとて障害を持つ観光客を軽視することも許されない。ここに関係者の葛藤(かっとう)が生まれる▼車いすを利用する家人がいる。ある日、観光地の石畳に車輪が挟まり、立ち往生した。函館らしい風情が少し色あせて見えた。石畳だけを悪者にする気はない。「あちらを立てればこちらが立たず」。観光と福祉の両立は意外と難しい▼不便が便利に変わる経験もした。ホテル、レストラン、遊覧船、そして市電。どれもが障害者には使いづらいものだったが、支障なく、そして気持ちよく利用することができた。例外なく周囲の人たちが介助の手伝いをしてくれる。車いすに伸びる大小の手、手、手…。函館はやはり「優しい街」なのだ▼車いすで生活する奈良県内の女子中学生が、地域の中学校に入学した。入学を認めない町教委に対し、地裁が仮の入学許可を義務づけるよう決定。3日に初登校したこの生徒は、教師らから笑顔の出迎えを受けた▼学校内は階段が多いという。予算の関係で施設整備も容易ではない。でも大丈夫。そこにはいつも手助けしてくれる生徒や先生たちがいるはずだ。施設も大事だが、人の気持ちという魂が入らない「福祉」ほど空疎なものはない。(K)


7月4日(土)

●子どもに携帯電話は必要か。「不審者などの防犯対策になる。帰宅が遅いときGPS機能で居場所が分かる」と言う携帯派。反対派は「有害サイトは犯罪やいじめの温床になる」。善悪が決められないまま、メールを打つ光景は続く▼家庭や学校などの足踏みをよそに、携帯を利用した新しい“危険な遊び”が出てくる。最近は中高生の間で「リクエスト写メール(リク写メ)」がはやっていると聞く。顧客の要望に応じて自分のポーズや制服姿などを撮影、メールで1枚300円前後で販売する▼代金の振込先の銀行口座や学校の制服などから追跡されて、脅迫されたり、写真を無断公開されるケースも多いとか。「リク写メ」のほか、20秒ほどの動画を送る「リクエストムービー」もあるようだ▼こんな事例を聞くと、子どもの携帯には賛成しかねるが、先ほど、石川県議会が小中学生の携帯電話所持を規制する全国初の条例案を可決した。有害サイトから子どもを守るのが目的。「防災・防犯など特別な場合を除き、持たせないよう努める」というもの▼メールを交換し、心の支えを見いだしている子どももいるだろうが、かつては「援助交際」、今は「リク写メ」と、携帯を小遣い稼ぎに使うのは取り返しのつかないことになり、非常に危険。リク写メの子どもは道内に多いという。家庭や学校でも、このような実態を把握し、携帯電話をうまく使うルールを考えなければ。(M)


7月3日(金)

●函館では「焼き鳥」を注文すると豚の精肉が出てくる。「ラーメン」と言うと塩味。もう一つ、函館の消火栓の色はなぜ赤ではなくて黄なのか…。地元の人たちが当たり前と思っていることでも、観光客や転勤族の頭の中には「?」マークが点灯する▼本紙で「函館異聞(いぶん)」という企画案が出たことがある。函館、道南だけで通じる不思議な習慣や品々の秘密に迫る。そんな狙いが上司には伝わらなかったらしい。「地元読者にとっては異聞(珍しい話)に当たらないのでは」。無情にも企画案は退けられた▼話を焼き鳥に戻す。「なぜ豚肉なの?」の疑問は、やきとり弁当で知られる「ハセガワストア」のホームページであっさり解消した。一部を引用させてもらう。「道南地区は養豚場も多く、鶏より豚が安価に手に入りやすかったことが、その一番の理由といえるかもしれません」▼その「ハセスト」に行った。修学旅行と思われる男子生徒5人ほどがやきとり弁当を注文した。豚肉が焼けるのを待つ表情からは「?」の様子がうかがえない。何のことはない、観光ガイドブックですでに秘密の鍵を握っているのでは—。その可能性に思い至った▼「函館異聞」の企画展開には今も未練が残る。ただし、実現には具体的なテーマが足りない。この場を借りて協力をお願いしたい。知っているつもりで実は知らなかった。こんな話はありませんか。(K)


7月2日(木)

●修学旅行で青函連絡船に乗った記憶がよみがえる。二等と呼ばれるぎゅうぎゅう詰めの空間で級友たちと雑魚寝をした。海を渡るという高揚感があった。ひざとひざがぶつかるような狭さも苦にならなかった▼廃止後の青函連絡船について将来取材する側に回る。そんなことは想像すらしていなかった。各種団体や公募による「旧青函連絡船『摩周丸』保存活用懇談会」の論議は2002年にスタート。同懇話会が提言を取りまとめ、函館市に提出するまでに2年近くを費やした▼各委員に摩周丸の船内が特別公開され、それに同行した。ヘルメットをかぶり、はしごを上り下りした。懐かしい客室と、鉄道連絡船の象徴である貨車甲板の威容に触れたときの感動が忘れられない。建築基準法などの関係でこれらが現在も非公開となっていることが残念だ▼本紙連載の「函館巴港を見つめて」では摩周丸の元船長、山内弘さんにも登場を願った。「船長を経験したからこそ語れる船のだいご味を伝えたい」。山内さんは現在、「函館市青函連絡船記念館摩周丸」で案内役を務める。修学旅行生へのガイドが一番の楽しみという▼1日、函館は開港150周年の節目を迎えた。長い歴史の中で青函連絡船の存在はささやかな1ページにすぎないのかもしれない。しかし、現役時代を知る者にとってその雄姿は、今も強烈な印象としてそれぞれの胸に刻まれている。(K)


7月1日(水)

●年を取ると、人前でスピーチをする機会が増える。誰に向けて話をするのか、いま話題になっていることは何か、結びの言葉はどうするか…。事前にしっかり準備をしていたつもりでも、本番での緊張には勝てない。途中で話がすべり、冷や汗をかくことも少なくない▼先日、民放テレビで放映している「人志松本すべらない話」を見た。年のせいか最近のお笑い番組で心底笑ったということがない。でも、この番組だけは別。今回も17人の芸人が登場し、それぞれが期待通りの話術を披露してくれた▼特別な話をするわけではない。奇抜なアクションや小道具にも頼らない。身近な家族や芸人仲間とのなにげない日常の出来事を笑いに変える。芸人魂から繰り出されるすべらない話の数々は、まぎれもない「プロの仕事」である▼それに比べてすべりっぱなしなのが、政治家たちのコメントだ。衆院解散、総選挙を控えたこの時期は特にひどい。総裁選前倒しに関する再質問を報道陣から受けた麻生太郎首相が「また言葉尻をとらえて…。危ないところだったな」とつぶやいたニュース映像には、わが目と耳を疑った▼報道記者が政治家の言葉尻をとらえなければ取材にはならない。それをちゃかすような発言は、話がすべる、すべらないという以前の問題だ。国民の疑問には真摯(しんし)に答えるのが政治家の義務ではないか。(K)