平成21年8月


8月31日(月)

●有権者が下した審判は政権交代だった。民主党の圧勝に終わった衆院選。その勝因はいくつかあるが、何よりも自民党の失策に助けられたという印象は免れない。度重なるトップの交代、決め手を欠く景気対策など、自民党の求心力が急落し、国民の不信が極まった結果といえる▼敵失がらみの勝利という意味では、政権の座に就く民主の真価が問われるのはむしろこれからだ。審判の結果は終わりではなく、新生・日本としてのスタートである。民主が掲げたマニフェスト(政権公約)をどう実現に結びつけるか。政権交代の功罪を測る国民の視線は厳しい▼民主の鳩山由紀夫代表は選挙戦最終日の29日、次のように訴えた。「官僚主導の政治をやめ、国民と議論して政策をつくり上げていく」。さらに、マニフェストでうたった子ども手当、高速道路無料化、道路特定財源の暫定税率廃止などを「責任を持って果たす」と誓った▼道8区でも課題は山積している。民主の逢坂誠二氏は医療・福祉の充実、産業間の連携による地域経済の振興などを掲げて当選した。函館・道南の疲弊した経済や、増加傾向に歯止めがかからない失業者問題などとどう向き合っていくか。期待は大きい▼新政権が駄目なら別の政権に任せ、それで効果がなければさらに…。二大政党制に近い、選択の余地を生んだのが今回の選挙だ。互いが切磋琢磨(せっさたくま)し、政策の実現に当たる。有権者の役目はそれを監視することでもある。(K)


8月30日(日)

●「ごみを投げて」。東京出身者にこうお願いして驚かれたことがある。捨ててほしいと言ったつもりが、相手はそう取らない。当然である。その場でごみを投げれば、部屋の中はとんでもないことになる▼「捨てる」が「投げる」に化けた北海道弁の代表格だが、できれば語意の混同はこの程度にとどめたい。例えば「投票」。「票を投じる」が「票を捨てる」と曲解されていないか。まさかそんなことはあるまいと言うなかれ。函館・道南における各級選挙の低投票率は、笑い話に例えられるほど深刻な状況にある▼その実態についてはこの欄でも何度か書いてきた。あえて繰り返したい。道選管渡島支所によると、函館市の国政選挙(衆院選、参院選)投票率は、道内の市で11回連続、全市町村では9回連続でワースト。渡島支所(市を除く渡島支庁管内)では、過去4回連続で各支所の最下位▼原因は分かっていない。不名誉な記録だけが事実として残る。対策はないのか。07年参院選で道内町村部最低の投票率に終わった森町が動いた。町内全世帯に電話で投票を呼び掛けるローラー作戦を展開し、起死回生を狙う▼きょう30日は衆院選の投票日。仕事の人もいるだろう。ドライブを予定する家族や、所用で出掛ける有権者もいるだろう。その間のわずかな時間を投票に充てられないだろうか。有権者が国政に参加できる数少ない機会を捨てないために。(K)


8月29日(土)

●「小泉チルドレンで装飾された4年前の選挙で初めて投票した。1年ごとに投手が替わって、ワンバウンドや暴投を投げて、チーム内で抗争して…『仕事も希望もない』格差社会になった。相も変らぬ選挙騒音」。その審判の日が迫った▼今回の衆院選は政権選択、政権交代の選挙といわれ、二大政党制の幕開けになるか。国や社会のあり方を有権者たちの手で決める転換期の1票になる。“小沢チルドレン”なる現象も出てきた。刺客など100人は超すという▼解散から選挙までの40日には候補者も有権者にも“夏休みの宿題”が出ていた。が、定額給付金、高速道1000円、子ども手当など「ばらまき予算」の攻撃に終始。「政治は博打(ばくち)じゃない」「金がないなら結婚しない方がいい」など、国民の目線にほど遠い遊説…▼その夏休み最後の日曜が「宿題の採点」の日。選挙終盤の世論調査でも「どの党に投票するか」に「44%が民主党」「21%が自民党」と答え、民主党が320を超す勢いを保っている(毎日新聞)。期日前投票も前回を大幅に上回っている▼冒頭のように嘆くのは大学院まで出た30代前半の女性。なぜか経済危機で月収16万円に減った。「どの政党が勝っても働きがいのある社会を創出してくれれば」と訴える。森町が全世帯に電話で棄権防止を呼びかけるなど、自治体は投票率アップに躍起。1票を大事に使いたいものだ。(M)


8月28日(金)

●4夜連続で放送されたNHK教育テレビ「LIFE井上陽水—40年を語る」を見た。シンガーソングライターの井上さんは今年デビュー40周年を迎える。その音楽活動の集大成ともいえる秀逸な番組だった▼井上さんが自ら表現し、時に別の歌手が奏でた新旧の名曲が次々と登場する。それはそれで聴き応えはあるが、より楽しめたのはロングインタビューの方だった。アーティストとしての力量に加え、話術にも非凡な才能を持ち合わせている。そんな印象を井上さんから強く受けた▼ウイットに富んだ会話の数々。中でも、まじめな話を一瞬で爆笑に変える術には驚かされた。立派な話芸と言える域である。そこらの芸人にはあの即興はまねできないだろうし、根本的に笑いの質が違っているから、比較の対象にもならない▼「日本笑い学会」という名の不思議な団体がある。心を癒やす笑いについて、さまざまなジャンルの人が集まって総合的に研究を進めるのが目的という。知り合いに会員がいる。この人もよく笑い、他人を笑わせることに生きがいを見いだしている▼転じて、わが国の政治家は人を笑顔にさせることがよほど苦手のようだ。話術しかり、政策しかり。逆に、失言や失態で失笑を買うことは茶飯事とくれば、心を癒やすという笑いの本質からはほど遠い。衆院選もラストスパート。政治決戦の結果が、有権者の笑顔を生むものであってほしい。(K)


8月27日(木)

●アムールトラのタイガ(雄、1歳)が死んだ。釧路市動物園の人気者だった。生まれつき四肢に障害がありながら、元気に生きた。悲しみは各地に広がっている。26日には獣舎前に記帳台が設けられた。子どもたちが弔問に訪れ、「天国に行ってね」と小さな手を合わせたという▼残念なニュースは続く。25日夜、東京都新宿区の路上で、車いすで帰宅途中の男性が、何者かに顔に液体をかけられた。男性は病院で手当を受け、警察が液体の成分を調べている▼犯罪の矛先が社会的弱者に向けられることは少なくない。だが、今回の被害者は抵抗の手段が限られる車いすの利用者だ。無差別の通り魔的な犯行とは断定できないが、仮にそうだとすれば、暗たんとした気持ちになる▼障害者の社会参加がいわれて久しい。車いすの利用者が自ら自動車を運転し、生活を営むことが日常の光景になった。当然、周囲の協力も必要となる。その実態を測る一つの目安が、障害者用の駐車場ではないかと思う。道内のある街では、車いすマークの付いた駐車スペースに健常者が平気で車を止めるケースが目立ち、論議を呼んだ▼函館では、この種のマナー違反が比較的少ないと聞く。次は、社会に出た障害者と共生しようとする心の醸成である。そのヒントを教えてくれたのがタイガだった。急死に直面した子どもたちには、涙を流して手を合わせた気持ちを忘れずにいてほしい。(K)


8月26日(水)

●先週末、関東地方に出掛けた。用事先の近くで衆院選の演説があり、行った人によれば、いつの間にか聴衆でごった返し、終われば瞬く間に元の様子に戻ったいう。都会でそんなことは珍しくないという▼宿泊地前にある大きな木は、夜はムクドリの大群がねぐらにしていた。木の中から姿は見えず、大きな鳴き声が響く。地元の人は「見慣れているけど、いつも圧倒されますよ」と話す。鳥たちも何かを訴えているのだろうか▼帰りの羽田空港では、お土産、弁当をPRする販売員たちの「羽田空港限定です」などの声が響く。毎度のことではあるが、商品を細かく、休まず説明し続けるのは見事。一つ一つの声は大きくないが、どれかに引き寄せられ財布を開けてしまう▼衆院選投開票日が近づき、選挙カーから聞こえる声は必死さが増してきた。各陣営は終盤、大票田の函館市や近郊をくまなく回る。街中では候補者が支持を訴える声が相次ぎ、一票を決断する有権者も出る▼函館市内では笑顔で選挙カーに手を振る通行人を多く見掛ける。支持する候補者などは関係なく「頑張れ」という気持ちを込めているのだろう。選挙への関心があればこそだ▼選挙カーが去っても投票に行くことを忘れてはならない。30日の投票所は朝から晩まで有権者が途切れないでほしい。投票率が低い道南にとって、珍しい投票所の光景となることを願う。(R)


8月25日(火)

●便利な世の中だ。冷蔵便を使うと、函館のイカも新鮮なうちに地方に届く。市内の郵便局で活イカの「ゆうパック」を利用した。局員いわく「こちらもいいですけど、こういうのもありますよ」。同じイカの地方発送でも、種類がいくつかあるらしい▼2007年10月の郵政民営化後、郵便局のサービスはどう変わったのか—。窓口に行く機会が少ない身では実感に乏しい。郵便局同士の販売競争があるのかどうかも分からない。ただ、冒頭の局員の一言は「より良い品を函館から」という良心の表れと取れた▼一方で、当の郵便局側は民営化後の業務の変化をどう捉えているのか。興味深いアンケート結果が公表された。客数についての回答では、「大幅に減った」と「少し減った」を合わせ78・3%にも上った。客の苦情や不満では「証明や書類が煩雑」「郵便物の誤配・遅配」「手数料の値上げ」などが上位だった▼調査は全国郵便局長会(全特)が実施。全特の会員2万人弱のうち9割近くから回答があった。中には、やや気掛かりな結果も。郵便局の将来について8割弱が答えたという。「合理化が進み、サービスと営業力が低下するのでは」と▼今回の衆院選では、各党が郵政民営化の軌道修正をマニフェストに盛りこんだ。ちょっと待てよと思う。民営化後の検証作業もまだ済んでいないはずだ。郵政問題が再び政争の荒波に投げ出されることは、できれば避けたい。(K)


8月24日(月)

●厚労省の流行入り宣言にも今ひとつぴんと来ていなかった新型インフルエンザだったが、「函館市内2高校で集団感染」の報には、危険が身近に迫っていることを実感させられた。全国に先駆けて夏休みが終わった北海道の教育現場に流行の兆しが表れたことで、これから2学期を迎える全国の学校現場もてんてこ舞い状態ではないだろうか▼これ以上に関係者が感染に対して神経を尖らせている場所がある。真夏の熱戦が繰り広げられている選挙の現場だ。候補者は念入りに手を消毒したり、手袋を着用したまま有権者と握手するなど細心の注意を払っている。不特定多数の人間が出入りする演説会場にも有権者用の消毒液が置かれたり、多くの人たちがマスクを着用する姿が目立っているという▼日本の選挙と言えば、街宣カーと大音量のマイクで道行く有権者に「清き一票をお願いします」と直接訴える「どぶ板選挙」が“正攻法”とされてきた。一方、世界的にはインターネットを活用したサイバー選挙が主流となりつつある▼国内でもネットの選挙活動規制は緩やかになってきたがハードルはまだ高い。「当選すること」ではなく「政策を理解してもらうこと」を目的に選挙活動をしている候補者には、ネットを通じ自分たちの考えを詳細に伝えることが本望のはず。新型インフルをきっかけにこちらの“選挙改革”も進むのだろうか(U)


8月23日(日)

●カミュの小説「異邦人」の主人公は、殺人の動機を問われ、「太陽のせい」と答える。裁判で主人公が受けた宣告は死刑。小説には動機に関する伏線も描かれているが、結局は理由なき殺人、不条理な犯行と取られる▼「むしゃくしゃしてやった」。函館中央署は21日、市内の駐車場に止めてあった乗用車4台の運転席や助手席の窓ガラスを割った疑いで、函館開発建設部の職員を逮捕した。「むしゃくしゃして—」はこの職員の供述という▼6月、市内では車両100台以上が同様の被害に遭った。職員はこちらへの関与もほのめかしているようだ。これなどはまさに、弁明の余地のない「不条理な犯行」であろう。この職員、路上で全裸になった容疑でも逮捕されているというから、開いた口がふさがらない▼「むしゃくしゃしてやった」という動機なき犯行は近年、全国各地で相次いでいる。通り魔殺人、連続放火、爆弾予告…。パチスロのメダルを大量に盗み、逃走車で店員をはねる事犯も。なぜむしゃくしゃしたのか。その理由も千差万別だ▼「仕事がうまくいかず」「就職活動につまずいて」「職場の人間関係に悩んで」。こういったことは大人の多くが経験するし、子どもの間でさえ「友達関係が…」と会話が交わされる時代である。それがいちいち犯罪に結びつくようでは、社会は成立しない。むしゃくしゃは別の方法で、かつ合法的に解決するしかない。(K)


8月22日(土)

●1997年1月1日、本紙創刊号の1面トップ記事は「函館、ユジノサハリンスク市が姉妹都市締結へ」だった。前年の12月に1週間ほど発行したプレ創刊号(創刊準備号)では、97年日ロ沿岸市長会議の函館開催決定を報じた▼あれから10年余り。ロシアとの交流、特に経済協力はどこまで進んだのか。その実態を知る格好の機会が、今回の日ロ沿岸市長会議だった。同会議の函館開催は97年以来2回目。最終日の20日には参加各都市が共同声明に調印した▼一読する限り、その内容は具体的だ。ロシアにおける木材、その他品目の輸出入システム改善やコンテナ輸送促進、運賃値下げを促す新規航空会社参入—などの重要性を確認した。一方で、いくつかの課題も浮き彫りになった。その一つは、ロシア極東地域の市場規模が日本側の期待に見合ったものになっていない、という指摘である▼98年、函館市内のクリーニング業界の代表数人がユジノ市を訪れ、市場調査を行った。機器や溶剤の輸出の可能性を探る目的だったが、同行取材を通して感じたのは日ロ両国の物価の格差、流通する割安な韓国・欧州商品といった厳しい現実だった▼対ロシア経済に対する疑心暗鬼をどう払しょくしていくか。商機を見逃さないための戦略は—。ハードルを乗り越えるための秘策はない。まずは共同声明の内容を具現化する。そのことから始めたい。(K)


8月21日(金)

●新型インフルエンザによる死者が3人出て、舛添厚生労働相が「本格的な流行」を宣言した。感染が始まったころは「弱毒性」で「症状は季節性インフルエンザと同じ」との情報が多かったが、沈静化するはずの夏場に突然、猛威を振るってきた▼亡くなった3人は肝臓や心臓などに持病があり、免疫力が低下していた。思ったより感染力が強く、国立感染症研究所は今月3日から1週間で全国で6万人が感染したと推測しており、お盆の大移動もあって、感染はさらに拡大している▼当初は10代、20代に多く“学園かぜ”とも言われていたが、先日はプロ野球選手や甲子園球児も集団感染。日本ハムの金子誠選手は「学級閉鎖はできてもチームは閉鎖できない」と嘆く。札幌ドームの入場ゲートに消毒液を配置し、選手とのハイタッチなどのファンサービスも自粛▼衆院選にも影響。「自分が感染して抵抗力の弱いお年寄りたちにうつすわけにはいかない」と、街頭での握手自粛が相次ぐ。消毒液を持ち歩き、演説会場にも持ち込む。だ液が飛ぶような距離では演説しないよう徹底している候補も▼意識障害や呼吸器困難に陥った幼児もおり、新型の致死率は高いようだ。目や鼻、口にウイルスを付着させない、手洗い、うがい、マスク着用など、秋や冬に大流行させないよう、基本的な健康管理に徹するしかない。函館市教委は児童生徒の健康状態把握に乗り出すという。(M)


8月20日(木)

●ドイツ・ベルリンで開かれている第12回世界陸上選手権。お盆から連日夏日を記録する残暑の中、7時間という時差を苦にせず、テレビの生中継に見入る人も多かろう。決勝ばかりではなく、予選からの好勝負に注目が集まる▼今回の中継では日本人選手のキャッチコピーが聞かれなくなった。日本陸連が放送局側に撤廃するよう通達したという。前回までは引退した男子短距離の朝原宣治さんの「燃える走魂」から女子マラソン選手の「世界最速の受付嬢」まで、各競技で連呼されていた▼かつて、女子バレーボールの「東洋の魔女」、大相撲で小柄な体格から多彩な技を繰り出す現解説者舞の海秀平さんの「技のデパート」がよく聞かれた。誰からも親しまれるのであれば歓迎される、陸連は現場関係者に問題視されていたようだ▼キャッチコピーは江戸時代、チラシに独創的な戯文が書かれ、人々から注目を集めていた。始めたのは平賀源内と言われる。現代では製品の性能を要約しないものの、強いインパクトを与え、聞く人を引き込む▼30日投開票の衆院選、「日本を守る、責任力」は自民党のマニフェストのキャッチコピーだ。民主党のポスターには「国民の生活が第一。」。歴然とした言葉で支持を訴える▼有権者は国の将来を見据え、重要な判断をするためあらゆるメディアに注目している。漠然な言葉を発するようでは不信感を買ってしまう。(R)


8月19日(水)

●静かな幕開けだった。18日に公示された衆院選。道8区には予想された4人が立候補した。各級選挙が同時期に行われ、候補者名の連呼が交差するのが統一地方選。これに比べ国政選挙では、序盤から決戦ムード一色という例をあまり聞かない▼4人が立候補すれば、遊説の車も4台に限られる。発せられる音量に格段の差があるのも当然だろう。だが、選挙特有のざわついた空気が街中に感じられない理由はそれだけだろうか。道8区は、いわゆる注目選挙区の枠外である。老婆心ながら、有権者の「無関心のムシ」がうごめき始めたのではと心配になる▼公示日、ある政党は今回の衆院選を「政権交代選挙」と位置づけた。別の政党は「政権選択ではなく政策選択の選挙」と反論する。どちらにせよ、この国の政治が転換期を迎えていることに違いはない。今回の選挙に全国的な注目が集まる理由もここにある▼選挙戦初日ということもあるのだろう。各党党首の第一声はキャッチフレーズ的な訴えに終始した。道8区も同様、用意しただるまの目に墨を入れて必勝をアピールしたり、馬上からの第一声で出馬の決意を表現するなどのパフォーマンスが目立った▼各候補には具体的な政策論議を期待したい。道8区の票田となる函館市の投票率は、道内ワースト記録が続く。注目の政治決戦で1票を無駄にしないこと。ひいてはこれがワーストの汚名返上にもつながる。(K)


8月18日(火)

●「30時間前、2人は強制労働収容所に送り込まれる恐怖におびえていた。突然、会合に行くと言われ、連れて行かれた部屋に入ると目の前にクリントン元大統領が立っていた。その瞬間、悪夢がついに終わるのだと確信した」▼2人の女性記者が北朝鮮と中国の国境周辺を取材中、北朝鮮に拘束され、不法国境出入罪と朝鮮民族敵対罪で労働教化刑12年の判決を受けて5か月。わずか1泊の電撃訪朝の元大統領は、2記者の家族から持ち掛けられていた釈放にこぎつけた▼同時期に開城工業団地で働く韓国企業の男性職員が「北朝鮮の体制を批判した」などと拘束されたが、先ほど、企業のトップが訪朝し、開放された。元大統領や企業トップが、どんな“おみやげ”を持って行ったのだろうか▼北朝鮮は外交シナリオによって記者らの拘束を巧みに利用した。かたや、拉致被害者の日本人は元気だろうか。衆院選のマニフェストで「人権侵害であり、解決に全力を尽くす」「国家の威信をかけ帰国を実現する」と書いているが、具体的な踏み込みがない▼麻生首相は地方遊説に先立ち、歴代の首相として初めて拉致現場を視察したが…。「部屋に入ると、お母さんがいて『自由なんだよ』と抱きしめてくれた」という横田めぐみさんの姿が早く見たい。曽我ひとみさんは母親救出の署名活動を始めた。各党は「どうしたら北朝鮮を動かせるか」の論戦を繰り広げてほしい。(M)


8月16日(日)

●函館港「緑の島」で9日から行われている函館開港150周年記念行事のメーンイベント「ドリームボックス150」が、16日で幕を閉じる。当初の目標であった来場者数15万人を上回るのは確実で、経済的に冷え込んでいた函館の街の“温度”を上昇させたのは間違いない▼当初、このイベントについて不安な部分も多かった。開催半年前になっても具体的な内容はなかなか見えてこなかったが、いざその全貌が明らかになると、予想以上のボリュームとバラエティーに富んだプログラムに驚かされた▼もちろん、八代亜紀や大黒摩季などのビッグネームにも心引かれる部分はあったが、それ以上に市民レベルの多彩なステージやアトラクションの充実ぶりに新鮮な感動を覚えた。函館および道南の潜在的“マンパワー”が、このイベントを軸にして結集した感さえある▼ドリームボックスが盛り上がったもうひとつの要因に、エンターテインメント性の高さも考えられると思う。観光都市としての函館の魅力が、過去の輝かしい歴史的遺産の数々にあることは言うまでもないが、一方で子どもや家族連れが楽しめる“遊び場”の少なさが長年の課題だ▼その穴埋めにぴったりマッチしたのが、今回のドリームボックスだったとすれば、今年限りの打ち上げ花火に終わらせるか、新たな観光客獲得の手段として今後も検討していくか真剣に考える価値はあると思う。(U)


8月15日(土)

●釧路市の知人から電話があった。全国に散らばる高校時代の同窓生が、9月に函館に集うという。母校は釧路市内にある進学校。この場合、同窓会は仲間の多い釧路で開くか、陸・空路ともに本州からの交通の便を考えて札幌を選ぶのが多数派と思われる▼なぜ函館を再会の地としたのか。知人が函館の地理に詳しいことが理由らしいが、それだけとも思えない。せっかく北海道に行くならおいしいものを食べて、ついでに観光も—。こう考える人がいても不思議はないし、函館はそれに見合った魅力を備えている▼函館山を中心に扇状に広がる天然の良港。四季折々の山海の幸。寒暖差の少ない過ごしやすい気候…。これらの恵まれた環境は他地域から見れば垂ぜんの的である。加えて、地元関係者が苦労して培った観光都市としての知名度がある▼お隣の北斗市では、2015年開業予定の北海道新幹線新函館駅(仮称)の駐車場整備計画を見直した。当初計画の国道227号側(南口)に加え、国道5号側(北口)にも駐車場を設置する。乗客本位の方針転換を歓迎したい▼道新幹線は陸路の利便性を飛躍的に向上させる。その一方で、道南観光の要である函館市へのアクセス方法といった課題も少なくない。行きたい街上位の「函館」というブランド名におごることなく、利用者側に立った十分な論議を求めたい。これからも同窓会の開催地であり続けるために。(K)


8月14日(金)

●函館ゆかりの豪商・高田屋嘉兵衛は北前船航路を確立した。北前船によるニシンやヒノキ材交易は、買う組織、売る組織が一致団結して、ニシンの財産を不動産に替えた。そのバイタリティーは江差商人に大きな影響を与えた▼その高田屋嘉兵衛は船を作る条件にヒノキなどの植樹を徹底させたという。豪商の“江差スピリット”ともいえる。「江差の五月は江戸にもない」繁栄は大事に育てた樹木で建造した北前船のおかげだ。北は利尻から関門海峡を周り瀬戸内海の大阪に向かう日本海海運の主力▼1年に1往復の航海で、海難の危険はつきもの。帆柱の根元に船霊(ふなだま)や神棚を安置。乗組員は信仰心が厚く、小型の船仏壇も置かれた。つり下げたり、折り畳み式の珍しい仏壇もあって、船内でお盆を迎え、祖先を供養したのだろう▼復元された北前船「みちのく丸」が函館開港150周年の会場・緑の島に姿を現した。全長32㍍、幅8・5㍍、帆柱の高さ28㍍で、千石(約150㌧)のコメが積める。道内や東北の船大工が樹齢200年の樹木を使って建造。青森で帆走実験を繰り返し、初めて津軽海峡を渡った▼一般公開に訪れた市民は昔の人の技術の高さに感嘆。北前船が往来した海のシルクロードは物資ばかりではない、江差追分など文化も運んだ。今、休止している「北前船サミット」を再開し、北前船のベンチャー・スピリットを子どもたちにも伝えたい。(M)


8月13日(木)

●「函館神社マップ」なるユニークなパンフレットを頂いた。地元の「宝物」を発信、応援している「函館宝島研究会」が函館開港150周年に合わせて作製した。マップの表紙に「神社の歴史は函館の歴史」とある通り、市内30カ所の神社のいわれなどを紹介。折り畳めばポケットに入るサイズだが、情報量は一冊のガイドブック並みだ▼函館の神社の特徴についても、函館市史を参考に解説。引用すると、北海道の神社の多くは明治以降、開拓のために移住してきた人々の心のよりどころとして、かつ集まった人たちの分散を防ぐという目的で建立されてきた▼これに対し、古くから海の安全や豊漁を祈願した神社が多いのが、海のまち函館の特色という。さらに、松前藩と幕府による統治、箱館戦争、開港による国際化、大火などの多様な歴史的背景が、函館における神社の建立経緯を特異なものにした—と結論づけている▼具体的な神社の紹介では、道内最古の説もある船魂神社(元町)に始まり、亀田八幡宮(八幡町)、函館八幡宮(谷地頭町)、湯倉神社(湯川町)などと続く。掲載神社のうち14カ所は電車で巡ることもできる▼各神社では例祭の季節を迎えた。「この地に暮らしてきた人々が何を願い、何に感謝し、誰がどのように祀(まつ)り続けてきたのか」。こんなことを考えながらの神社巡りをマップは提案する。いつもと違う秋の過ごし方も一興では。(K)


8月12日(水)

●「物事に応じて、機敏に心が働くこと」(広辞苑)。「機転」「気転」、どちらの表現も正しい。とっさに判断することを「機転が利く」とも言う。それが行動に結びつけば、なおのこといい▼「横綱の里」で知られる福島町に行った。「横綱千代の山・千代の富士記念館」の館内は以前に見学したことがある。今回は売店のみの利用をお願いした。受け付けの女性は快く中に入れてくれ、記念写真の撮影ポイントも教えてくれた▼ふと奥の方を見ると、体の大きな力士が3人いる。本を手にくつろいでいる様子だったが、女性が近づき、一緒にカメラに収まるよう頼んでくれた。優しく紳士的な力士たちとの一枚は、願っても見ない記念になった▼同館では現在、九重部屋の夏合宿の真っ最中。こちらが子ども連れだったこともあるのだろうが、偶然居合わせた力士たちに声をかけてくれた女性のとっさの行動には、驚くやら恐縮するやら。こういうことを「機転が利く」というのだろう。頂いた番付表には3人の力士の名があった。次の場所から、応援する楽しみが増えそうだ▼接客に当たっては、マニュアル通りの対応で事足りることも多い。一方で思いがけない出来事、場合によってはトラブルに巻き込まれることもあるだろう。そんなときこそ、機を見て心を動かすことが求められる。できないはずがない。観光立国の函館・道南で働く接客のプロなのだから。(K)


8月11日(火)

●芥川賞や直木賞の賞金は100万円。これは副賞で、正賞は時計だ。鎮痛剤の購入費に窮して芥川賞を欲しがった太宰治は例外だが、賞金や時計が欲しくて賞を目指す文士はいまい▼作家の登竜門である『文学界』『オール読物』などの新人賞は賞金が50万円。毎回1000編以上の応募があるが、これも賞金が目的ではない。本当に作家を目指す者であれば、賞金がゼロでも新人賞を取って大手出版社から1冊を出したいだろう▼函館港イルミナシオン映画祭の本年度シナリオ大賞に、過去最高の300編以上の応募があったという。大賞の函館市長賞は賞金300万円で、この額はシナリオとしては破格▼過去には「賞金を全額寄付するので、それを利用して作品化してほしい」と言った大賞受賞者がいた。小説なら単行本、シナリオなら映像化というのが新人賞を射止めた人たちの最高の栄誉だろう▼ちなみにこのシナリオ大賞の応募者や受賞者は、圧倒的に道外や首都圏在住者が多い。超財政難の時代に市が気前よく300万円をポンと出しても、もらうのは市民以外。映画祭を盛り上げる目玉の一つだろうが、何かふに落ちない▼シナリオ大賞は既に作品の多くが映画化されている。「賞金が低くても、ぜひ大賞が欲しい」と思わせる賞になりつつあると言っても過言ではない。シナリオ大賞の名誉にもっと自信を持ち、賞金を見直す時期ではないだろうか。(P)


8月10日(月)

●原爆が投下された夜、広島駅で早坂暁さんはボツボツと燃える青白い燐を見た。「まだ収容できない死体から出ている燐光、火の玉。何千、何万もの死体から燐光が燃えて、地球が消滅する時の光景ではないかと思いました」(毎日新聞)▼なぜか、蝉や蛍の姿が見えない8月は「鎮魂と追悼の月」。広島、長崎の原爆忌に次ぎ、終戦の日、お盆と続く。目連が水を乞う子どもを見捨てた罪で逆さまに吊るされ、食べ物が燃える地獄で苦しんでいる母親を救ったのがお盆の始まり▼「水を下さい」と叫んだ被爆地獄は想像を絶する。「お母さん」の「お」さえ叫べず、瞬時に燃えた人々。うめき、祈る被爆マリアの涙はとまらない。原爆開発に携わった女性科学者(87)も惨状に「awful(オーフル=ひどい)…」と絶句した▼世界には2万発を超す核爆弾があり、核実験で200万人が被爆している。原爆投下したB29乗員の1人は今夏も「戦争早期終結のため」と原爆使用を正当化、オバマ大統領の道義的責任も間違っていると批判した。敗戦のきっかけになったのは事実だが…▼お盆には何千、何万という燐光・火の玉が帰ってくる。オバマ大統領は「核兵器のない世界の平和と安全を追求」と宣言。今、若者の間に「ノーモア・ヒバクシャ」の輪が広がっている。「Yes we can」の前に「I can(私にも何かできる)」だ。まず、戦争犠牲者の霊を慰めよう。(M)


8月9日(日)

●催(さい)の一字は「もよおす」「うながす」ことを表す。さらに、催(もよお)し、催すとなると、「せきたてる」「かきたてる」など、他者に影響を及ぼす能動的な意味合いが一層強くなる。イベントの開催が人を動かすことを思うと、それも確かにうなずける▼函館開港150周年記念事業のメーンイベント「ドリームボックス150」が8日、函館港「緑の島」で開幕した。「ドリームボックス」の名称には、緑の島を夢のたくさん詰まった箱にしようという思いを込めたという▼キーワードは「食」「音楽」「スポーツ」の三つ。16日までの9日間、多彩な催しを繰り広げる。初日の航空自衛隊第4航空団第11飛行隊(ブルーインパルス)によるアクロバット飛行は、残念ながら天候不良で中止されたが、会場は終日、大勢の市民でにぎわった▼「横浜などほかの開港都市に比べ、函館は150周年行事が盛り上がっていませんね」。本州からの来客者を含む複数の人から言われた。本当にそうだろうか。1年を通してイベントを継続するのも一つの手法だが、一方で短期集中型があっていい▼北海道の夏は短い。その一時期に市民のエネルギーを爆発させる方が、函館には合っているような気がする。開幕日の8日には、会場周辺で車が渋滞した。催しにはやはり、何かを「かきたてる」ものがあるのだ。夏の9日間が、別のパワーを「うながす」ものであってほしい。(K)


8月8日(土)

●日本で初めてとなる裁判員裁判が終わった。6日の判決後、審理に立ち合った裁判員6人と、補充裁判員1人が記者会見に臨んだ。その様子を見て感じたのは、裁判員たちのしっかりとした受け答え、そして審理に対する誠実な姿勢だ▼今年に入って日本新聞協会は「裁判員となるみなさんへ」とするアピールを発表した。判決後、記者会見による取材に協力を求める内容。裁判員がその職務を果たして考えたことなどを語り、社会全体で情報を共有するという趣旨だった▼そして本番。実際の裁判員たちは記者会見に協力的であり、法廷内で感じたことなどを率直に口にした。今後、全国で裁判員裁判が次々と開廷する。この日の会見収録は映像のみ、音声のみの二通りだったが、その肉声はこれから裁判員になる人たちに届いたはずだ▼今回扱われた殺人事件では被告が犯行を認めており、争点は量刑に絞られた。今後は被告が犯行を否認している裁判や、死刑にかかわる判決に裁判員が直面するケースも出てくるだろう。審理はスムーズに進むのか、記者会見開催の是非が問われることにならないか。不安が残る▼函館でも近い将来、裁判員裁判が開かれる。成果が多かった半面、今回の裁判で浮き彫りになった課題は少なくない。今後は各裁判ごとに十分な精査が望まれる。裁判員制度はスタートしたばかり。問題点は徐々に解消していけばいい。(K)


8月7日(金)

●「函館でコンサートをやっても人が集まらない」「それは客の入らないアーティストを呼んでいるからだ」。後の発言者は、コンサートで黒字を出せる理由の一つに「全国から集客できる函館の魅力と可能性」を挙げた▼今春、函館市西部地域振興協議会(二本柳慶一会長)が「コンベンション都市への提言」をまとめた。前段の会話は、同協議会関係者の体験談という。人気アーティストを呼べば、それに見合った客が函館に集う。だから、その受け皿となる施設が早急に必要—。理論は明快だ▼「コンベンション施設」として同協議会が市に整備を求めているのは主に二つ。㈰展示会、大会、イベントなどが可能な展示場㈪さまざまな利用方法のある屋根付き屋外ステージ—。コンサートの開催は㈪で対応できる▼同協議会の提言は続く。コンベンション施設の立地はアクセスや周辺施設との連携面から中心市街地が望ましい。施設整備は北海道新幹線の開業に合わせ2015年完成を目指す。このスケジュールだと「今年中に目鼻立ちを立てる必要がある」とする▼実現に向け、やるべきことは多い。市と市民団体などによる話し合いの継続。論議経過の市民への情報開示。何よりも財源の裏付けが不可欠であることは言うまでもない。内外の意見を十分に吸い取ることは行政執行の基本である。そうすることで、おのずと答えはみえてくる。(K)


8月6日(木)

●日立製作所や三菱化学などが、ブルーレイディスク(BD)の25倍以上の記憶容量を持つ次世代光ディスクを開発し、2012年の実用化を目指しているという。いまだにDVDのハードしか持っていない筆者は「ちょっと進歩が早すぎるのでは」と思わず声を上げてしまった▼家庭用の録画メディアとして長らくポピュラーだったのがビデオテープ。1970年代中盤に普及し始め、2001年に国内出荷台数でDVDプレーヤーに逆転されるまで、実に四半世紀にわたって王座に君臨していたことになる▼一方、アナログからデジタルへの歴史的進化を遂げたDVDは、それからわずか7年後の08年にレコーダー(録再機)の出荷台数でBDに逆転を許している。そのBDも数年後にニュータイプにとって代わられることになるのだろう▼開発サイクルの目まぐるしい短期化は、素人目には過剰な開発合戦のように映るが、パソコンの大容量化やハイビジョンなどの超高画質映像の普及スピードとリンクした必然らしい▼ここで心配されるのが、VHSとベータ、BDとHD DVDとの間で繰り広げられた仁義なき規格戦争の再燃。最終的に迷惑をこうむるのは、敗者側のハードを購入してしまった消費者。おそらく今後も別方式の次世代ディスクが発表されることだろう。せめて製品化される前に統一した規格を発表してほしいと願うばかりだ。


8月5日(水)

●JR函館駅前地区が元気だ。「大門」の往年の活気を取り戻そうと、市民有志によるイベントが相次いで企画されている。行政の支援に頼らず、「とにかく何かやってみよう」。この心意気は、同地区活性化の糸口となる可能性を秘めている▼8日から30日の期間、初の「アートフェス・ハコトリ」が西部地区を中心に開かれる。その先行展示が大門商店街などで始まった。靴店や帽子店、薬局、餅店などが、商品の横に彫刻や陶芸、絵画といった作品を並べる。バランスを欠いたアート性が面白い▼そもそも「ハコトリ」とは何か。横浜で開かれている国際展「横浜トリエンナーレ」に負けない気持ちで「とりあえず」始めてみようか—という意味という。実行委が手弁当でつくり上げたイベントが、本番でどういう展開をみせるか楽しみだ▼一方、1日には松風町6の旧高砂ビル跡地で「はこだてサマーガーデン2009」と銘打ったイベントが開かれ、音楽イベントや出店でにぎわった。主催は実行委と市西部地域振興協議会。来年以降も夏の一定期間に常設のテントを設け、カフェや物販の実施を模索するという▼中心市街地の衰退は歯止めが利かないところまできている。かといって、無策のままでいいはずがない。特効薬にはなり得ないだろうが、「とりあえず始めてみよう」。今の函館に求められていることは、「ハコトリ」の精神なのかもしれない。(K)


8月4日(火)

●小さいころ、食事の前に「いただきます」と言って、正しく箸(はし)を使う「しつけ箸」が厳しかった。成人になっても正しく持てない人もいる。今は学校の給食にも箸が出るようになって、箸使いの作法に接している▼箸の歴史は古い。中国では3000年前から使われ、日本で初めて一般の食事に箸を使わせたのは聖徳太子。中国に送った使節団が随王朝の人たちが箸を使っているのに驚いた。日本に来る使節団のために箸を使った食事の作法を急ぎ朝廷の人に習わせたという▼道元禅師も700年以上も前に箸の作法を著している。探り箸、移り箸、すかし箸、禁じ箸…。箸の作法を教えることは資源保護、エコにもつながる。木や竹が原材料の割り箸は使い捨てられており、もったいない。フォークのように洗って使い回されるのも困るし…▼おいしそうなメニュー(マニフェスト)が出ると、自然と正しく使うようになる。今月の衆院選で「幼児教育の無償化」「中学まで月2万6000円」「子どもの医療無料化」など“お品書き”がずらり。子どもの成長に、どのメニューが大事か▼箸を正しく持つのは「食事を作った人に感謝し、自らを律すること」と言われる。マイ(エコ)箸を持ち歩き、箸にも棒にもかからぬマニフェストはつまみ出さなければ。例の語呂合わせで34年前にできた8月4日の「箸の日」には、大人も子ども正しい使い方を再考したい。(M)


8月3日(月)

●長く降り続いた雨はようやく上がったが、道南でもさまざまな事故があった。大門祭でのアーチ転倒と志海苔地区のがけ崩れ、八雲ではJR函館線への土砂流出と国道5号のマヒ。災害への備えの大切さを改めて実感した▼道路は防災面で果たす役割も大きい。費用対効果の観点から建設が一時凍結された国道278号鹿部道路は、円滑な交通や海産物の輸送だけでなく、駒ケ岳噴火時の避難路であるとして、鹿部町や道南の関係者は声を大にして必要性を訴えた▼熱意が通じたのか、鹿部道路は一転、事業再開の方針が決まった。関係者はひと安心したに違いないが、総選挙前の思惑も透けて見える。選挙を意識して政治判断が「猫の目のように」くるくる変わるのはいかがなものか▼しかし、実際にネコの目がくるくる変わるのは、移り気なのではなく、わずかな光も反射して獲物を捕らえる狩りの本性からという。暗い所では瞳孔をめいっぱい見開くそうだ▼1955年の保守合同から、一時を除き続いてきた自民党政治が、今回の衆院選で変わるかもしれない。政治不信というマグマのように蓄えられたエネルギーを民主党は爆発させたい考えだが、その通りになるか▼候補をじっと見つめ、主張にしっかり耳を傾け、手持ちの1票を温めて投じてほしい。生活が本当に良くなるか、主張の真贋(しんがん)を見極め、ネコのように瞳をしっかり見開いて。(P)


8月2日(日)

●アイヌ民族をめぐる動きが慌ただしい。政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」がこのほど、アイヌ民族の地位向上などに関する報告書をまとめた。これに先立ち政府は昨年6月、「アイヌ民族を先住民族と認識する」との談話を発表している▼アイヌ民族に対する国民の関心は高い。いや、高くなったと言うべきだろう。これまで「北海道限定の問題」という印象が否めなかったアイヌ政策が、全国規模で論じられるようになった意義は大きい。同懇談会の報告書では全42ページのうち17ページを歴史記述に充てた▼「圧倒的多数の移住者の中で、アイヌ民族が被支配的な立場に追い込まれ、さまざまな局面で差別の対象になった」。歴史記述の一部にある「移住者」とは、言うまでもなく「和人」のことである。アイヌ民族の歴史は被差別の歴史でもある▼ここ道南も、その歴史と無縁ではない。江戸時代には、松前藩がアイヌ民族との交易の独占権を家臣に与えるようになり、アイヌの人々の交易が制限されたという。この制度は「商場知行制(あきないばちぎょうせい)」と呼ばれた▼折しも市立函館博物館では、特別企画展「アイヌの美—カムイと創造する世界—」(9月6日まで)が開かれている。アイヌの人たちによる工芸品など貴重な品々が並ぶ。アイヌ民族を文化的な側面から見つめ直すことは、民族の歴史の一端に触れることでもある。(K)


8月1日(土)

●函館西ふ頭に、高速船「ナッチャン・レラ」が接岸されていた。これまで豪華客船や勇壮な帆船などが多くお目見えしていたが、華やかなデザインと双胴型の姿の登場は、付近の人に違和感を与えたようで見物人が集まった▼「違和感」を辞書を引けば「しっくりしない感じ」「ちぐはぐに思われること」とある。本来は函館—青森間を駆け抜け、青函航路に新しい歴史を作るはずが、役目を終えた青函連絡船記念館摩周丸と向かい合い、余暇を過ごす釣り人たちが見つめている。何とも調和が取れない光景である▼約1カ月前、函館どつく造船所のゴライアスクレーンの撤去作業が行われた時は、港が変ぼうする様子を目に焼き付けようと、西ふ頭は見物客でごった返した。クレーンの解体作業はけた部まで進み、「HAKODATE DOCK」の文字が無くなりつつある▼函館港のシンボルが消えた後に行われた花火大会では、港の情景に違和感を持った人も多かったはずだが、惜しむ声は意外に少なかった。すでに新しい港になじみ始めている様子だった▼8月に入ると「函館港まつり」に続き、函館開港150周年記念事業が本格化する。開港当時や北洋漁業の全盛期と比べれば、今の港は活気が足りないかもしれない。しかし、イベントを通じ市民が一丸となって新しい港町としての魅力が発信されれば、再びあの当時の活気が戻ってくるに違いない(R)