平成22年2月


2月28日(日)

●時代が変わったのに、まだそんなことがあったか、と思うことに時たま出くわす。実は新聞の業界にも、そのまさかがあった。首都圏で今なお新聞輸送列車が走っているというのだ。驚くやら、懐かしいやら、この時代に…▼ファクスや写真電送機が高価な時代、振り返ると20数年以前の話だが、新聞社にとって旧国鉄は重要な存在だった。地方の支社や支局、通信部は、地方版に掲載予定の急がない記事や写真などは列車に託して送り、新聞の長距離輸送も列車だった▼かつて札幌に本社のある新聞社の支社、支局勤務の時代、毎夜、原稿を駅に持ち込むのが日課だった。一方、印刷された新聞(朝刊)は、札幌駅から最終列車に積み込まれて各地方都市へ。年配者なら分かるが、客車の後尾に貨物車が連結されていた▼旅客も乗っているから発車時刻は厳守。積み遅れたら他に輸送の手段がない。だから地方向けの新聞の制作印刷時間は厳格だった。その後、道路の整備が進んだことなどから新聞の輸送は列車からトラックへ。北海道でそうだから、全国的に列車はないと思っていたが…▼JR両国駅から房総方面に向けてあった。それも輸送専用列車(新聞輸送同盟会委託・夕刊)。その歴史は3月12日で終えるということだが、普通列車に託す形ではなお2、3の路線で。その理由は混雑で時間管理の難しい日中の道路事情。大都会の悩みが古き時代を今も残している。(A)


2月27日(土)

●女子フィギュア・世紀のライバル対決は、パーフェクトな演技を見せたキムヨナに勝利の女神が微笑んだ。敗れた浅田真央も、2回のトリプルアクセルを決めるなど、さわやかな感動を与えてくれた▼残念なのは、国内のインターネット掲示板の一部にキムヨナを中傷する書き込みが見られたこと。ショートプログラムを含めて「得点が高すぎる」「不正が行われている」など、根拠のない悪意が続く▼浅田本人が「ミスがあったので全然納得していない」と話すように、正々堂々と行われた勝負の結果であることは誰の目にも明らか。それにもかかわらず、「韓国は許せない」「韓国民は卑劣だ」など、国や国民に対する罵倒まで見られるのは悲しい限り▼一方、火花散るライバル対決とは別にさわやかな風を運んでくれたのが、4位に入賞した長洲未来。フリー最終滑走というプレッシャーをまったく感じさせず、終始笑顔で4分間を滑りきった。16歳の彼女は両親が日本人のアメリカ生まれで、現在は日米両方の国籍を持っているという▼今大会では、フィギュアのペアに日本から国籍を移した川口悠子が、アイスダンスのペアに米国生まれのリード姉弟組が日本代表として出場するなど、「その国で生まれ育った人菔国の代表」という図式は成り立たない時代。浅田とキムヨナの対決を日本と韓国の代理戦争として騒ぎ立てるのは、時代遅れ以外の何物でもない。(U)


2月26日(金)

●「連立」は政権内でけん制し合う良さがある一方、政策などのGシみ合わせが難しい。安全保障などの考え方に違いのある政党が手を組むのだから当然だが、生じる軋みをどう抑えていくか、そこが「連立」成否の鍵となる▼第一党に衆参で余裕を持った過半数の議席があれば「連立」の必要はない。「単独」の方が政権運営が楽なのは明らかだが、近年の「連立」には、参院で過半数を確保できなかったという背景がある。ただ、わが国の政治史では「連立」が珍しいことでない▼1993年に8党会派による細川内閣が誕生したあと、驚きの政界再編成と言われた自民・社会・さきがけの時代もあった。そして昨年8月までは自民・公明の、この間に自民・自由といった組み合わせがあったのも記憶に新しい▼解消の背景はさまざまだが、基本政策で合意しやすい党同士ならまだしも、3党の、しかも保守系と革新系が手を組んだ現政権のような形は軋みやすいと映る構図。事実、賛否ある外国人参政権付与問題では連立内で対極的な見解が表に出ている▼さらに重くのしかかっているのが、外交にかかわる沖縄・普天間の米軍基地移設問題。各党とも結党理念にかかわる懸案でもあり、容易に譲れない。おのずと時間的な制約もある。その行方は7月に控える参院選にも影響しかねない。どう答えを見つけ出すのか、現政権にとっての“最初の山”が迫っている。(A)


2月25日(木)

●幕末ブームが続いている。そのけん引役は、やはり坂本龍馬だろう。書店には関連本が積まれ、テレビではNHKの大河ドラマ「龍馬伝」が好調という。もちろん龍馬生誕の地の高知県も“土佐の英雄”一色。地元紙の高知新聞では「龍馬関連の記事がない日はない」(週刊東洋経済・2月20日号)ほどだ▼高知新聞は龍馬関連に加え、「岩崎弥太郎伝」の長期連載も予定している。岩崎弥太郎は言わずと知れた三菱の創業者。龍馬の意志を継いで海運業を興したとされるが、土佐の青年期における両人の接点については諸説がある▼ドラマ「龍馬伝」では頻繁に会話を交わすなど、密接な関係性を強調する。一方、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」(文藝春秋)では、初対面の時期がドラマよりもかなり遅い▼ドラマでの弥太郎は粗末な身なりをしている。高知の関係者から「あれほど汚くない」とブーイングもあったという。「岩崎弥太郎と三菱四代」(河合敦著、幻冬舎新書)では、本の帯に「カネと女を使い、ハッタリで成り上がった男の経営哲学」とあり、ドキッとさせられる▼同著によると、弥太郎の経営理念は「豪放かつ緻密(ちみつ)」。これらが誤解や誇張となって後世に伝わった感がある。三菱のマークのスリーダイヤモンドは、人の字をかたどったとされる。人を大切にした弥太郎の思想は、空疎な経済大国・日本がいま最も必要としている治療薬かもしれない。(K)


2月24日(水)

●ヤー! ウォー! ヤップ! 絶叫するカー娘。ジャンプやフィギュアなど多くの競技は声を出さず孤独の戦いだが、カーリングは4人が大きな声を出し合ってショット。氷上の美を演出するクリスタル・ジャパンのテレビにくぎ付け▼82カ国から2600人の最高のアスリートが最高の記録を追求するバンクーバー五輪も終盤。日本選手団の半数近くがスケート最年少の高木美帆選手ら道内ゆかりの選手。服装の乱れで「だらしない」と言われたスノーボードの国母和宏選手は8位に入賞した▼服装の乱れは公式の場でなかったことが救いだが、最高の美を表現する五輪に小さな汚点を残した。常識がないと言えばそれまでだが、空港で周囲の人が注意すれば騒がれなかった。舌にピアスをつけているカー娘も出てくる時代なのに…▼さぁ、氷上の最高の美を競うフィギュア女子。「しっかり練習してきた。最高の演技ができるよう頑張りたい」(浅田)、「100%近い力を出す。一番の演技を見せたい」(安藤)、「どんな演技ができるか、すごく楽しみ」(鈴木)。3人娘は「メダルが欲しい」と氷上に挑む▼金・銀・銅のメダルは先住民が海の恵みをもたらすと考えたシャチの図案。シャチの美と力と集団性を表現。日本選手にはまだ、金色の「シャチ・メダル」を手にするチャンスは十分。バンクーバー劇場とテレビ劇場を歓喜に包んでほしい。(M)


2月23日(火)

●南北に長い日本列島。北国はまだ氷点下の世界を抜けていないというのに、南国では早くも梅や桜情報が聞かれる季節。当然の自然現象だが、その“開花前線”は、5月中下旬ゴールの根室へ向け北上を始めている▼梅もさることながら、近年人気が高まって入るのが桜。旅行会社が幾つも桜ツアーを企画し、1月から募集を始めているのがその証。書店には桜の特集本が増え、めくってみると、松前、五稜郭公園なども含め、改めて桜の名所が多いことに驚かされる▼その桜が最も早く開花するのは沖縄県の寒緋桜(かんひざくら)で、本部町の八重岳山頂までの約4キロの並木が有名。さらに奈良県の吉野山などスケールの大きな名所、角館や弘前など美しさをたたえる所がある一方で、圧倒されるのが俗に言われる三大桜▼いずれも樹齢1000年以上の「滝桜」(福島県)、「淡墨桜」(岐阜県)、「神代桜」(山梨県)。その「滝桜」が保護、管理費を賄うため観桜料(中学以上一人300円)の徴収に踏み切るという。それだけ価値があるということだが▼近年は保護を目的として募金を行う所も出ている。自治体の財政は厳しく、街に金を落としてくれるのだからそれでよし、という思いも微妙に。五稜郭、松前など道南の名所も抱えている課題でもある。気象情報会社は一回目の桜情報を発表した。函館の開花は4月下旬、満開は5月初めごろという。(A)


2月22日(月)

●孫の小1女児が「先生が今年は本を読む年だといっていた。何を読んだらいいの」というので、神沢利子さんの「くまの子ウーフ」を買ってやった。知りたがりのクマの子を描いたもので、クマと一緒に知らない世界へ飛び込んでほしい▼2年前の衆参両院で今年を国民読書年と決議した。読書や活字離れを危ぐした関係機関が「じゃ、読もう」を合言葉に、気軽に本が読める環境が必要と、子ども対象のワークショップ開催、新聞活用教育の展開などの事業を推進▼子どもたちの想像力を救うのは図書館と本を読む能力にあるといわれる。その図書館は全国で10年前に比べ1・2倍に増えているが、図書の購入費は逆に4分の3以下に減っている。函館市中央図書館の蔵書は一般図書、児童図書など40万点を超え、まずまず…▼「学校図書館に読みたい本があるか」に大半が「分からない」と答えている。電子世代の子どもたちに、読書の楽しさを伝え、適切な助言をする司書ら専門職員も減っているようだ。函館では図書ボランティア養成講座などを開いて、専門家不足をカバーしているが…▼年配者があこがれた、薪(たきぎ)を背負って読書にいそしむ二宮金次郎をまねよとは言わないが…。読書環境は学力さえ左右する。子ども手当の一部を学校図書館の整備に充てて、冒険心と好奇心を満足させなければ。いつでも、どこでも本が読める国民読書年にしよう。(M)


2月21日(日)

●北海道新幹線の新函館駅は仮称。駅は北斗市にできるため、名称が「新函館」ではおかしいと、北斗市側は主張する。最近も北斗市からマスコミに「新函館(仮称)駅」と表記するよう要請があった▼その主張も分からなくはないが、両市の冷静な議論を望む。長崎空港は大村市にあるが、大村空港と名乗れば、多くの人は「そこってどこ?」と首をかしげるだろう▼大事なことは、2015年度の開業に備え、地域がどう一丸となって対策を進めるかだ。現函館駅へのスムーズなアクセスは先般、経済界と関係市町でつくる団体が「対面乗り換え法式で、20分以内」との要望をまとめた▼開業後に経営分離される江差線五稜郭—木古内間の代替輸送についても、議論が本格化する。鉄路存続かバス輸送か、函館、北斗、木古内の中でも温度差が感じられる▼さらに問題なのは、新駅周辺の開発。北斗市は市全体の利便性が高い南口の開発を優先する考え。地元が負担し整備するのだから当然と言えば当然だが、七飯・森方面や高速交通網全体から考えると北口整備も欠かせない▼地域全体で取り組むべき懸案が山積しているが、どうも一体感が薄い。駅名問題ひとつにしても、歩み寄りが必要だ。もうすぐ新幹線が走るという平野を臨んでみた。今はまだ雪に覆われているが、そこを真っ直ぐに横切る鉄路を思い浮かべると、新時代への息吹を感じる。雪解けは近いのだが。(P)


2月20日(土)

●国土交通省は今月初め、高速道路無料化の初年度計画を発表した。対象としたのは37路線50区間、全国の高速総延長の18%でしかない1626キロ。しかも通行量の多い主要路線は軒並み外され、失望感が広がっている▼期待の裏返しは失望。期待の度合いが高いほど、違った時の失望は大きくなる。現政権では暫定税率の継続などに続く実質的な公約修正。風呂敷を広げたはいいが、胸を張った財源確保は叶わず、社会実験と言い出して…。その大方が通行量の少ない地方の路線、区間である▼道内では道東道の夕張—千歳恵庭間などだが、これをもって、何を実験しようとしているのか、意図は伝わってこない。路線、曜日による混雑なら予測できたことであり、経済活性化の視点なら主要路線を対象にしないと意味がない▼数日前の十勝毎日新聞に、こんな記事が載っていた。帯広市の中心から10㌔ほど離れた大正地区に1軒あった地元食品スーパーが廃業し、高齢者世帯などが困っている、のだと。その背景にあったのは高規格道路の開業による通行量、利用客の減少という▼無料なら高速を、と思うのは人間の心理で、結果として、地方では国道など既存幹線が影響を受ける。そもそも高速道路と既存幹線には線引きがあって然るべき。財源の壁も厚い、となれば現実的な方策は、全路線対象の一定率引き下げ、ではないか。2011年度に向け検討する時間は十分にある。(A)


2月19日(金)

●タコの料理法はさまざまだ。刺し身やすしはもちろん、しょうゆで軟らかく煮ても酢で味付けしてもおいしい。おやつ感覚のたこ焼き、明石焼きも捨てがたい。その外見からか、西洋の一部では「悪魔の魚」として忌み嫌われ、タコが食卓に上ることはない。美味を知る日本人としては、もったいない限りである▼函館市椴法華地区でマダコが水揚げされている。漁師の皆さんは「新鮮さと味で勝負」と自信の弁。有名なのはたこつぼ漁だが、ここでは縄の先に人工の“光り物”を取り付けた漁法を採用する。タコとの知恵比べが、この漁のだいご味だ▼人を馬鹿にしたり怒りを表すときの呼称に「タコ」がある。これでは本物のタコに失礼である。タコは無脊椎(せきつい)動物の中でもとりわけ知能が高い。タコの名誉のため、次に実話を紹介する▼インドネシア沖でのこと。ココナッツの殻を自ら組み合わせ、その中に身を潜めるメジロダコが発見された。道具を使って体を保護する姿は高等動物のそれであり、「無脊椎動物としては初の快挙」という。そのニュースは、新聞・テレビで“ひっぱりだこ”だった▼日本人はタコに一目置いている。愛嬌(あいきょう)のあるユーモラスな存在としてキャラクター化されることも多い。人が使う「タコ」の呼称に触れたが、これも親近感ゆえの表現と取りたい。何よりもタコは味がいい。「悪魔の魚」とはもう言わせない。(K)


2月18日(木)

●英ロンドンの「アビーロード・スタジオ」と言えば、ビートルズが数多くの名曲の録音作業を行った、ファンにとっては“聖地”ともいえる場所。このほどイギリスのレコード会社EMIが“聖地”を売りに出していることが分かった。落札予想額は数千万ポンド(数十億円)にも上るとみられる。▼同スタジオは当初「EMIレコーディングスタジオ」というシンプルな名称だった。しかしビートルズが実質的ラストアルバムのタイトルを、スタジオ所在地「アビー・ロード」から取ったことで、この名称が広く知られるようになり改名したという▼もちろんメンバーにとっても大切な場所だった。中でもポール・マッカートニーは、自宅にも同スタジオをそっくり再現するほど愛着を持ち、今回の売却のニュースではさぞかし心を痛めているに違いない▼いっそのことポールが買収してくれればと考えるが、先ごろの離婚騒動でのばく大な慰謝料の支払いで、ふところ状態は厳しいはず。これが十数年前だったら、一時期はビートルズの楽曲の著作権を所有するほど熱狂的ファンだった故マイケル・ジャクソンが真っ先に手を挙げただろうに…▼これまで通り録音現場として残されるか、それとも記念館のような形になるかは、新しい所有者の判断にゆだねられるところ。少なくともビートルズを愛する人たちを悲しませない活用をしてほしいと切に願う。(U)


2月17日(水)

●まずは反省から。16日付のこの欄で、バンクーバー五輪での日本勢の不振に触れ、「もどかしい」と書いた。その矢先に日本中が沸く朗報が飛び込んでくるとは。素人判断でスポーツを語る無謀さを痛感した▼スピードスケート男子500メートルは圧巻だった。長島圭一郎選手(十勝管内池田町出身)が銀メダル、加藤条治選手が銅メダルを獲得。五輪の表彰台に日本選手が2人並ぶ光景はいつ以来のことか。テレビ映像を繰り返し見て、感動に浸ったという人も少なくないのでは▼2人のたくましさを感じたのは、競技後のインタビューだった。「金じゃなくてすみません」(長島選手)、「悔しいという気持ちが大きい」(加藤選手)。男子500メートルの「お家芸復活」とたたえられながら、それに浮かれることのない言動に、さらなる未来を予感させた▼国民が快挙に沸く一方で、やはり話題に上ったかと思わせる論評があった。政府の行政刷新会議が事業仕分けの中で、大幅削減の結論を出したスポーツ予算についてだ。第二、第三の長島、加藤選手を育て上げるには財政支援が不可欠という考え方は、スポーツ振興の国家戦略的な発想からは的を射ている▼長島選手は表彰台に上がるこの日まで、何度も挫折の涙を流したという。個人の努力を欠いたところに栄冠はないが、一方で選手を支える体制のありようも問われている。スポーツ予算に関する論議の再燃を歓迎したい。(K)


2月16日(火)

●メダルがすべてではないことは分かっている。それでもやはりもどかしい。バンクーバー五輪2日目。スキー女子モーグルの上村愛子選手は、悲願のメダルに届かなかった。ジャンプの個人ノーマルヒルでも日本勢は残念な結果に終わった▼五輪は始まったばかり。今後の日本選手の頑張りに水を差すようなことを言うな、とおしかりを受けそうだが、諸外国との実力差は動かしがたい。同じ日のサッカー東アジア選手権では、日本が韓国に惨敗した。このことが五輪でつまずいた気持ちをさらに滅入らせた▼日本には夏、冬を問わず「お家芸」と呼ばれる得意種目が常に存在した。柔道、バレーボール、体操、そして冬のジャンプ。野球は今も強いが、五輪の正式種目から外れたように世界的なスポーツとは言い難い。真の意味で世界に通用する種目が限られてきた事実を見るにつけ、遠い昔を懐かしむ気持ちにさせられる▼「実力差菔体力差」と見る向きがある。果たしてそれだけだろうか。前述のジャンプ・ノーマルヒルで優勝したシモン・アマン選手(スイス)は、身長172センチ。バランス感覚を磨く練習を積み、体力差を克服した▼日本選手がアマン選手に学ぶべきことは多い。かつてのバレーボール日本チームは、小技を使った速攻で頂点に上り詰めた。上村選手はエッジを使って曲がる「カービングターン」が発展途上という。4年後の表彰台も夢ではない。(K)


2月15日(月)

●事情があるのは分かるが、何とかならないかと思う特急列車がある。大阪と札幌を結んでいる豪華寝台特急の「トワイライトエクスプレス」がそれ。五稜郭駅まで乗り入れ、停車しているのに利用(乗り降りが)できないのである▼この「トワイライトエクスプレス」は、鉄道ファンならずとも一度は乗ってみたい列車の代表格。JR西日本が週4往復運行させているが、深夜、早朝にかかる新潟県の新津と洞爺の間は、JR表現でいうところの「客扱い」をしていない▼機会あって一昨年秋、札幌から上りの大阪行きを利用したことがある。午後7時前、五稜郭駅に入ると、機関車の付け替えに5分ほど停まっていたが、列車のドアが閉じたまま。あらかじめ分かっていたが、寂しいというか、何か複雑な気持ちをこらえ切れなかった▼どうやら理由の一つに五稜郭駅停車が午前5時前という下りの札幌行きとの兼ね合いがあるらしい。駅の業務対応もさることながら、早朝に「客扱い」をして降りた乗客をどうサポートできるか、といった問題に突き当たる▼確かにそうだが、敢えて一言。上りだけの「客扱い」は、できない相談なのだろうか。というのも、航空機と組み合わせた旅行商品が可能になるから。関西からは空路で函館に来てもらって、帰りはこの豪華寝台特急で。道南の人はその逆パターンの利用ができる。乗り換えなしに関西と鉄路で結ばれる意義もある。(A)


2月14日(日)

●箱館戦争で榎本軍が吹雪の鷲ノ木海岸に上陸し、五稜郭、江差などを目指した行軍の際、足元にトウガラシを入れたところ、ポカポカと体温が上がったという。今でいえばカイロか▼そのトウガラシ入りのチョコがお目見えした。カブサイシンという辛さの成分は血行をよくし、発汗を促し、味覚や臭覚も刺激、食欲を増進させる。脂肪をエネルギーに代えるので体温が高くなる。この成分を練り込んだ肌着や靴下なども製品化されているほど▼トウガラシ入りチョコは「ピリリと舌先にいたずらし、ノドの奥に火がともって、苦くて甘い香り」とか。マヤ文明では煮出したカカオにトウガラシを入れて飲んでいた。しかも愛の媚薬として。まさに厳冬のバレンタインデーにぴったりの大人のチョコ▼ある百貨店の調査では、チョコ1個あたりの平均購入額は本命が2424円、義理が1091円、自分用が1962円。義理チョコの数は平均5.4個で、渡す相手は父親が4割とトップだった。低価格志向が浸透しているせいか、手作りセットにも人気が集まる▼14日は猫もシャクシもチョコ騒ぎを楽しむ日。今年は日曜日と重なったため、家庭で質のよい食材を使っておいしいものを作る「内食志向」のようだ。ダイエット効果もあるトウガラシチョコにも食指が動く。バンクーバー冬季五輪代表の15歳の道産子選手からの「金」の五輪チョコが待ち遠しい。(M)


2月13日(土)

●何気なくテレビを見ていたら、子どもの転倒について特集していた。最近の子どもは、転んだ時に顔や頭を打つケースが増えているという。反射的に出るはずの手が出ないことが原因らしい▼乳幼児はよく転ぶ。平衡感覚が未発達なことに加え、体に比べて頭が大きく重心を取りにくい。親などが片時も目を離せないのはこのためだ。ただし、前述したのは、成長過程で自衛の本能が備わっているはずの小学生の例。少なくとも、転ぶたびに大けがをするという年齢ではない▼転倒時になぜ手が出ないか。子どもたちの体力・運動能力の低下が原因の一つという。もともとは運動経験の不足に起因しているし、さらにさかのぼると外に出て遊ばなくなったことが、危険回避の能力をそいでいるのではないか▼連日の降雪と冷え込みで、函館市内ではツルツル道路が目立っている。そんな矢先、子どもたちを転倒事故から守ろうと、市内の複数の町会が立ち上がった(9日付本紙で詳報)。通学路の除雪作業や砂まきのほか、交差点でけがをしないようパトロールを強化しているところもある▼ツルツル道路での転倒はいくら注意していても起こる。まして転び方を知らない子どもたちには、大事故の危険も。「子どもの安全は地域で守る」という町会員たちの活動には頭が下がる。ただ、すべてを大人任せにはできない。子どもたちは普段の体力づくりも忘れずに。(K)


2月12日(金)

●どの政党が政権を担おうと、永田町の体質は何ら変わらないようで。問題が起きた時に大事なのは、的確に見極めて対処し、政治の信頼を確保していくという視点だが、今の「政治と金」の問題を巡る動きを見聞きする限り、残念ながら…▼国政の舞台で国民の声を聞く最大の機会は選挙だが、もう一つ重要視されるのが世論調査。今や報道各社が内閣や政党に対する支持率などのほか、政治の様々な局面ごとにも行うようになって、ある意味、けん制役を果たしている▼サンプルのとり方など調査の方式が確立されたことで結果の精度が上がり、信頼を高めていることが背景にある。各社の調査結果に大きな差が出てこないのは、いわばその証だが、言い方を代えると、無視できない存在。だから、時として過敏な反応が出てくる▼政治に関しては、都合の悪い結果が出ると、正面から受け止めようとしないのは、今に始まったことではない。渦中の小沢幹事長にしても「十分でない」と思われているのに「これ以上の説明はないのではないか」(読売新聞)とし、さらに平野官房長官も…▼「聞き方によってはいろいろな答えが出てくる。一概に判断できない」(産経新聞)。受け止めようだが、世論調査は信用しません、とも聞こえる。政権が交代してほぼ5カ月。期待と失望が交錯し始める時期と言われるだけに、世論調査が発しているメッセージは貴重なはずだが…。 (A)


2月11日(木)

●ジーンズかコットンパンツかは忘れたが、飾らない服装が印象的だった。人懐っこい笑顔と朴訥(ぼくとつ)とした語り。人気作家でありながら、えらぶったところがまるでない。初対面でこれほど親近感を持たせる人はそういまい▼立松和平さんには、1997年に初めて会った。函館新聞が創刊記念として開いたリレー講演会の講師の一人だった。立松さんは大学卒業後、土木作業員や魚市場の荷役、市役所職員などとして働いた。第一印象の庶民的な雰囲気は、この時期に培われたのだろう▼特異な経歴は、骨太な作品群に反映された。出世作である小説「遠雷」は、東京近郊でトマトのハウス栽培をする若者が主人公。仕事への誇りと将来の不安が微妙に交錯する。そこからは、本道の農業青年が抱える“土着”と“焦燥”という共通性を見出すこともできる▼立松さんは北海道を愛したという。北海道が立松さんを呼び寄せたと言ってもいい。特に、知床を材にとった著書を多く残し、世界自然遺産登録にも尽力した。立松さんは宇都宮市出身だが、道産子の血が底流にあったのでは。そう思わせるほど北の風土が似合う人だった▼その立松さんが8日に亡くなった。62歳の早すぎる死だった。人間の深層心理に分け入り、リアルな物語展開を試みる。そんな作品をまだまだ読みたかった。函館・道南を舞台にした小説が生まれていたかもしれない、と思うと残念だ。(K)


2月10日(水)

●ポンピングブレーキをかけながらアイスバーンの交差点に入るが、いつも停止線をオーバーしてしまう。条件反射が鈍くなった高齢者運転が情けない。かつて教習所で安全運転にはブレーキの“遊び”が大事と教えられた▼“遊び”とは「機械の部分が密着せず、その間にある程度動きうる余裕のあること」(広辞苑)。しかし、国交省にリコール(無料の回収・修理)を届け出た新型プリウスの「効きにくいブレーキ」は、もちろんブレーキの“遊び”とは違う▼ガソリンエンジンと電気モーターを併用する環境にやさしいハイブリッド車。エコカーの代表車。米国の「アクセルペダルの不具合」に続く「ブレーキの不具合」。ブレーキの瞬間的な作動を電子制御しているシステムがドライバーに違和感を持たせるような設定だという▼それを最初は「欠陥ではなく、ドライバーのフィーリング(運転感覚)の問題」と言い張った。「ユーザーは運転が下手だ」と言われているような気がして怒り心頭。苦情が相次ぎ、やっと重い腰を上げ、欠陥を認め無償修理に踏み切った▼1秒前後の効きの遅れとはいえ、アイスバーンの道路では他人を巻き込む大事故につながる。プリウスはラテン語で「〜に先立って」という意味とか。世界一のメーカーにのし上がった矢先のリコール。日本車は安心感のある品質の良さで売ってきた。「アクセルは控えめに、ブレーキは早めに」だ。(M)


2月9日(火)

●クラシック音楽の世界では、作曲家や演奏家の生誕や没後を1世紀、もしくは半世紀単位でメモリアルイヤーとして華やかに盛り上げることが多い。2006年のモーツァルト生誕250年のフィーバーは記憶に新しいところ▼さて今年の主役は、生誕200年を迎えたピアノの詩人「ショパン」とミスターロマン派「シューマン」。音楽に疎い人でもショパンの「子犬のワルツ」や「葬送行進曲」、シューマンの「トロイメライ」や「流浪の民」などの名旋律は、どこかで耳にしているはず▼ショパンの哀愁漂うメロディーは映画やポピュラー音楽にも引っ張りだこで、全編に名曲が流れる「戦場のピアニスト」や、夜想曲第20番をモチーフにした平原綾香の「ノクターン」など枚挙にいとまがない。一方のシューマンは、なんと「ウルトラセブン」の最終回にピアノ協奏曲が使用されるという、離れ業を演じている▼クラシック界よりはるかに歴史の浅いロック界も、10年単位ではあるがビッグスターたちの記念年になっている。没後40年のジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、没後30年のジョン・レノンといずれも不世出の超大物ばかり▼さらにバンド解散年から数えると、ビートルズが40年目、レッド・ツェッペリンが30年目とこちらも歴史的モンスターグループが並ぶ。記念盤の発売や記念イベントの開催も目白押しで、楽しみな一年になりそうだ。(U)


2月7日(日)

●十勝の冬は寒い。最低気温がマイナス30度以下という日も、一昔前までは珍しくなかった。この“しばれ”を利用しない手はない。スピードスケートが盛んになったことは必然だった。小学校のグラウンドは冬の間、スケートリンクに変身する。授業の一環だったのだろう。強制的にリンクに立たされた、当時の記憶がよみがえる▼カナダ・バンクーバー冬季五輪のスピードスケート競技に出場する高木美帆選手は、十勝管内(幕別町札内中3年)の出身。中学生の五輪代表という話題性もあって、連日、新聞やテレビをにぎわせている▼「センセーションを巻き起こしている15歳」。現地入りした高木選手の動向を、五輪組織委員会が公式ニュースの一つとして伝えた。だが、厳寒の小さな町から彗星のごとく現れた少女が担うには、メダルへの期待は重すぎる。まずは実力を出し切る。その一点に集中してほしい▼同じ五輪の舞台には、北斗市出身のアルペンスキーヤー、佐々木明選手(28)が立つ。後援会は150本ののぼりを設置するほか、テレビスクリーンを通した地元応援会を予定している▼関係者の多くは、佐々木選手のメダル獲得に期待を寄せる。一方で「伸び伸びと滑らせてあげたい」という声も聞く。高木選手も同じだろうが、記録を争う“競技”とは無縁だった子ども時代があったはず。楽しむことで結果が生まれることだってある。(K)


2月6日(土)

●「千島の奥も沖縄も八州のうちのまもりなり〜」。子どものころ、卒業ソングの定番「蛍の光」を四番まで歌わされた。意味は分からなかったが、この歌で千島の北方四島は日本の領土で、日本が護(まも)っていたことを知った▼昨秋の日露首脳会談で露大統領が「独創的アプローチで過去の遺産を解決することは可能」、首相は「現世代で最終的に解決を」で一致。洋上視察の前原誠司担当相は「実際に不法占拠された島を見て、悔しい思い、じくじたる思い…。強く返還を求めなければ」と決意▼今年こそ、政府は返還運動を盛り上げるべきだ。先ごろ、中学生対象の北方領土サミットで、気楽に参加できる「四島まつり」や「領土勉強プロジェクト」、「ほっぽう新聞」発行、「北方領土ツアー」などが提案され、中学生が「実現へ積極的な活動」をアプローチ▼ただ気になるのはロシア国境警備隊に銃撃されたスケトウダラの2漁船。安全水域で操業していたとみられる時間帯に衛星通信システムが途絶えたり、銃痕が消されたり…。区域内の操業なら隠すことはない。領土返還運動に水をささなければよいが▼「北極振動」に振り回された今冬だが、気象協会は第1回開花予想で「3日から1週間早まる」と発表。四島返還運動のシンボルの花「千島桜」が咲くころには一歩も二歩も前進させよう。まずは冬フェス会場で著名だ。7日は「北方領土の日」。(M)


2月5日(金)

●きょうは晴れか、雨の心配はないか、気温はどの程度か。だったらきょうの服はこれにしよう、コートはどうしようか。その判断材料を与えてくれる天気予報は、今や欠かすことのできない重要な生活情報である▼実際に毎朝、新聞やテレビ・ラジオで天候・気温を確認することが習慣になっている人は多いはず。一日に何度かチェックする人も少なくない。向上する予報の精度が信頼性を高め、きめ細かくなった提供スタイルが、より身近な存在へと後押ししている▼かつては時間ごとの予報や降水確率もなかった。予報の地域設定もかなり大くくりだった。それが観測機器や技術の進歩に加え、観測地点を増やしてきた結果、予報は市町村単位になり、豪雨や豪雪、強風などの警報・注意報も細分化されてきた▼例えば、渡島、桧山は現在、6地域設定までになっている。それでもさらに細かく、という要望は後を絶たない。より解りやすく、より“注意”を実感できるに越したことはないからだが、5月27日(予定)から、市町村単位での発表が実現することに▼これなら、情報がよりストレートに伝わるばかりか、行政も避難指示など災害対策の判断もしやすくなる。違う気象条件の地域を幾つか抱える市町村からは、さらに細分化を、という声も聞かれそうだが、これだけでも大きな前進。改めて気象観測の進歩と情報の充実を実感する。(A)


2月4日(木)

●この季節は多くの小中学校で「さよならコンサート」が開かれる。文字通り、卒業生が学校や先生、在校生たちに「さよなら」を告げるコンサートだ▼響きもいい「さよならコンサート」。1980年の山口百恵さんの引退公演が「日本武道館さよならコンサート」と称されているから、ずいぶん前からその言葉があった。今ではさまざまなアーティストが、解散や引退公演などで同様の冠を付ける▼75年にさだまさしさんが作り、クラフトが歌った「さよならコンサート」という曲があり、このあたりが語源ではないか。こちらの歌詞は、歌う側の気持ちが少々複雑だ▼毎日ステージに立ち、歌い続ける「僕」の前に必ず訪れていた彼女が、きょうは二人連れだった。僕は彼女の好きだった曲をプレゼント代わりに歌い、別れを告げる。しかし、ステージにさよならはせず、ずっと歌い続けていく▼さださんの曲はその叙情性から弱々しくも聞こえる。しかし、どんなにつらく、血を吐くような苦しみの中にあっても、前を向いて歩き続けるような強さがある。うつろいゆく世の無常を歌い、悲しみに向ける視線は優しく、時には自分が道化になって人々を笑わせる▼小中学校最後の舞台に立つ児童・生徒たちも、精いっぱい「さよならコンサート」で歌ってほしい。巣立った後も、さださんの歌に流れるような、優しさと強さを持ち続けて生きることを誓いながら。


2月3日(水)

●大相撲の世界は奥が深い。分からないことが多いと言い換えてもいい。ただでさえ知識が乏しい上に、伝統ゆえの不透明さが加わると、さらに頭をひねることになる。その好例が、貴乃花親方が当選した日本相撲協会の理事選挙だ▼そもそも「一門」とは、相撲部屋のグループのこと。政治の世界の「派閥」に近い。理事選挙では、それぞれの一門が代表の候補者を立てて臨む。二所ノ関一門を離脱した貴乃花親方の一挙一動は「クーデター」とも「造反劇」とも取られた▼勝てば官軍。世論は「勇気ある行動」として貴乃花親方をたたえ、理事としての角界改革に期待を寄せる。若き親方を迎えた理事会の試金石は、横綱・朝青龍の暴行問題への対応ばかりではない。仮に改革が協会の総意とすれば、明確な指針づくりが今後、不可欠となる▼その一つが、力士育成の長期ビジョンだ。実際に貴乃花親方は、熱心に子どもを指導することで知られる。幕内力士の多くを外国人が占める中、国技としての将来を憂える声は大相撲ファンならずとも少なくない▼北海道はかつて、相撲王国と呼ばれた。福島町に限ってみても千代の山、千代の富士の2人の横綱を輩出している。しかし、その活躍に地元が沸いたのは昔の話。郷土力士を応援する機会がなくなったことはやはり寂しい。力士を育て、角界復興の一助に。理事会の密室ではなく、貴乃花親方の肉声を聞きたい(K)


2月2日(火)

●「きさらぎ・衣更着・如月」に入った。寅は寅でも十干の庚(こう=万物があらたまる)と十二支の寅(とら=動くという意味)を組み合わせた庚寅(かのえとら)。60種の組み合わせがあり、60年ぶりの庚寅▼旧暦では庚寅の年が始まるのは4日の立春で、庚寅の元日。「春が来て、草木が生える」というが、世の中が大きく変化する年、物事が正しい方向に改まる年、天変地異が起きる年、政権交代の流れが継続する年になるのか▼60年ごと巡ってくる干支は「変革の庚寅」。60年前には女性の平均寿命が60歳を超え、朝鮮戦争勃発、金閣寺炎上、自衛隊発足、120年前は初の総選挙が実施され国会召集、420年前は豊臣秀吉が天下統一などターニングポイントに▼今年まず変動が迫っているのは政界か。庚寅の元日に当たる4日に土地取引事件で逮捕された小沢一郎幹事長の元秘書、石川知裕議員が拘置期限になり、起訴される可能性があるから。4日の相撲協会の理事会では初場所で泥酔して知人を殴り、負傷させた横綱・朝青龍関にどんな処分を言い渡すのか▼韓国では「白虎の年」と呼んで、めでたいとされた。そこで、60年前に入手した祝賀などに使う「伽羅(きゃら)」を久しぶりに焚いた。楽しい時に感じる香、怒った時に感じる香…。同じ伽羅香でも「心の変化」で感じ方が違う。節分で邪気をはらい、万物が生じる立春の香りを感じたい。(M)


2月1日(月)

●大幅に減ったとはいえ、被害額はなお全国で96億円。昨年一年間の振り込め詐欺の被害総額である。減ったのは注意の喚起など社会の取り組みの成果だが、さらに共有したいのは「まだ多い」「根絶させる」という思い▼記憶にはあまりないが、振り込め詐欺は以前からあった犯罪という。ただ、連日のように被害が報道され、社会問題化したのは2003(平成15)年のこと。翌2004年には全国で2万5600件も発生し、被害総額は実に284億円にも及んだ▼犯罪に良しあしはないが、詐欺は人が人をだます最も卑劣な犯罪。中でも「振り込め」は、社会的弱者である高齢者を狙い撃ちにしている犯罪であり、まさに社会への挑戦。オレオレ詐欺に始まり架空請求、還付金詐欺、融資保証金詐欺…▼「絶対に許せない」。対処法の啓もうやATMなど周辺での声かけなど社会に“闘いの輪”が広がった。それでも被害を根絶するに至っていないが、地道な取り組みは成果をもたらし、昨年は前の年に比べ被害件数で64%、被害総額で65%減少させた▼この大幅減少の最大の要因は、何といっても検挙率のアップ。昨年は検挙率77%、955人を検挙しているという。検挙に勝る抑止効果はなし、であり、そのためには刑罰の見直しも検討されていい。振り込め詐欺の刑罰を特別重くすることに、社会の支持は得られるはずである。(A)