平成22年5月


5月31日(月)

●低気圧の影響で津軽海峡の方から低い雲が発生、ともえ港が雲の上に浮かんでいるよう。函館の初夏の風物詩の一つ。「雲の切れ間から壮大な景色」と観光客をうならせる。「はこだて観光俳句」の入選作が決まった▼函館山展望台など市内7カ所に俳句応募箱を設置。今回は道内から鹿児島まで775句が寄せられた。優秀賞には「函館の夜景を心のシャッターで」や「イカ刺しは冬空よりも透き通る」など10句が選ばれ、函館の風土や文化を題材にした句が目立ったという▼中でも札幌の女性が寄せた「帰る雁夢おいてゆく湾の面」が目にとまり、海峡へ旅立つ雁の列が浮かんだ。雁はカモ科の水鳥の総称。小枝を口にくわえたり、足でつかんで運んでくるという。疲れると小枝を海面に浮かべて羽を休める▼海岸まで来ると海上で休息しなくてもよいため、小枝を落とし、帰る時は小枝をまたくわえて海を渡る。旅立ちが終わっても海岸に小枝が残っていれば雁が死んだことになる。雁を哀れみ、供養のために小枝を集めて焚いたのが「雁風呂」だ▼浜に打ち寄せられた流木や木片、小枝を見て雁への想いをはせた津軽の伝説とされているが、上方落語の「雁風呂」では函館の一木(ひとき)の松が舞台になっているという。帰る雁の列は札幌の女性に、どんな夢をおいていったのだろうか。“心をもてなす観光”メニューなど創出し、年々減少している観光客を呼び込もう。(M)


5月30日(日)

●医師免許を持たない、いわゆる“ニセ医者”が後を絶たない。最近では、岩手県内の病院が採用を決めていた女(44)が、医師法違反で逮捕された。千葉県内では、高校球児の“カリスマトレーナー”だった女(52)が、実はニセ整体師だったことが発覚。いずれのケースも巧妙に医師を装っていた▼映画「ディア・ドクター」(西川美和監督)では、無医村に赴任した医師が、ある日突然失踪(しっそう)する。これをきっかけに、彼の正体、人物像をめぐる心理劇が繰り広げられる。笑福亭鶴瓶が医師役を好演した▼前述した現実の逮捕劇と、映画の主題に共通しているのは、医師不足にあえぐ医療機関、特に地方の実態である。地域医療を支える上で欠くことのできない医師の存在が、いずれも大きくクローズアップされている▼道南地域も例外ではない。市立函館病院では、産科が休止されて久しい。「産科再開は収入増につながる」と議会筋から太鼓判を押されても、なお再開に踏み切れない理由は一つ。医師の補充が難しいからだ。出産の受け入れ再開を目指す道立江差病院では、産科医養成や医師派遣システムの構築に向けた研究を進める方針という▼医師不足の悩みは、民間病院も同じ。「新臨床研修制度」など国の施策が医師不足を助長しているとの指摘もある。関係者にとって“ニセ医者”が救世主に見えるような世の中は、やはりどこかで間違っている。(K)


5月29日(土)

●「大学の授業はまず高校の補習から」。ちょっと誇張した言い方でないかとおしかりを受けそうだが、実際にあるようだ。先日の日本経済新聞が報じた文部科学省の調査の結果からも、そんな一面をうかがい知ることができる▼わが国の教育制度は、高校生は中卒、大学生は高卒に見合った学力を持っていることを前提にしている。確かに建前ではあるが、それで成り立っているのも現実。その建前が揺るぎつつあるということなのだろう。少子化時代の影響が現場に影を落としている▼経営のためには生徒、学生を確保しなければならない。生き残りの時代となって、選抜方法に知恵を絞り、合否のレベルも…。その結果として一定のレベルに達していない学生が出てくる。かと言って、学力を無視して講義を続けても理解は伴わない▼文科省は昨年12月から今年1月にかけて、国公私747大学を対象に聞き取り調査を行ったという。高校での学習状況に配慮している大学は63%の473大学(うち国公立105大学)。それらしきことは話として聞いてはいるが、それにしても▼誤解してもらっては困るが、優秀な学生の方が多いはず。あくまで現場にこうした一面があるということ。学力にばらつきがあるという言い方が正しいのかもしれない。そこに大学の悩みがあり、寂しい気持ちにもなってくるが、わが国が抱える一つの現実、課題として受け止めるしかない。(A)


5月28日(金)

●駒ケ岳の登山が6月19日にも解禁される。安全面を第一に考えて日時やルート、手続きなど制限付きの解禁だが、1998年10月の小噴火以来というから実に12年ぶり。地元の観光関係者はもとより、夏山愛好者の期待も大きい▼改めて説明するまでもなく、駒ケ岳(1131㍍)は道南を代表する山であり、その姿が美しい観光資源。平野部からも満足させるが、山からの眺望はさらに素晴らしい。一度登るともう一度という思いを抱かせる山と言われる理由もそこに▼臥牛子もそんな思いを抱いた一人。函館に移り住んで入山が規制されるまでの2年の間に3回、登っている。もちろん夏だが、最初は裾野が長く森林浴気分をたん能できる大沼から、以後は登り始めてほどなく景色が開ける森町の赤井川ルートから▼その駒ケ岳だが、常時監視が必要な「観測火山」であり、自由にどうぞ、とはいかない。幸いにも噴火警戒レベル1という落ち着いた状況にあることから、暫定解除が実現した。とはいっても、油断は禁物で、幾つか制限が設けられるのは当然▼まずルート。解禁されるのは赤井川からだけで、通称「馬の背」まで。概ね夏休み中(毎日)と10月31日までの土日祝日(入山時間制限あり)が検討されているほか、単独の禁止、事前の届け出、携帯電話の所持など、いずれも安全確保上、欠かせないことばかり。必ず守らなければ。待望の解禁なのだから。(A)


5月27日(木)

●「夫婦げんかは犬も食わない」などと悠長に笑っていられない時代である。配偶者などからの暴力(ドメスティックバイオレンス菔DV)に対する相談件数が増えている。全国のケースには、生命にかかわるような暴力もある▼函館市男女共同参画課がまとめた、DV相談の現状(本紙26日付既報)をみて驚いた。法務局や市など10機関が2009年度に対応した相談件数は3964件。前年度比で何と1000件以上も増えた▼激増の原因の一つは集計方法の変更という。しかし、それを差し引いても三けたの伸びは尋常ではない。中には、相談者を一時保護するなど「深刻なケースが依然多い」(同課)のが現状だ▼こうした例に対応するには「関係機関が相互連携を図ることが大事」と言う。確かにそれは必要なことだろう。ただ、こうした“対処療法”に追われることで、未然防止の対応が遅れることがあってはならない。交際相手からの暴力(デートDV)に対する防止啓発事業が、全国の自治体などで盛んに展開されているのもそのためだ▼中学・高校・大学生という若い層にデートDVについて学んでもらい、場合によっては相談にも応じる。狙いは、DV予備軍の芽を結婚前に摘み取ることにある。果たしてどれだけの効果があるかは未知数だが、何事も試行錯誤から。地元関係機関にも、デートDVからの徹底した対応を期待したい。(K)


5月26日(水)

●「事業廃止。天下りの高額給与、無駄な宣伝広報などの問題が解決されるまで、総務相は宝くじの販売を認めるべきではない」—政府の事業仕分けで、宝くじの販売凍結が言い渡された。徳川政府の「富くじ」禁止令がよぎった▼宝くじは約380年前、大阪のお寺で正月に参詣した善男善女が名前を書いた木札をキリで3回突いて、3人に“お守り”を授けたのが始まり。次第に金銭と結びつき、売上金が不正に使われたこともあってか、発売禁止になったと聞く▼戦後復活した宝くじの売り上げは、今では年間1兆円を超す。うち45・7%が当せん金として支払われ、40・1%が収益金として自治体に入り、残りの14・2%が印刷代などの経費。問題は普及宣伝などとして公益法人に360億円が流れていることだ▼天下り役員の年収は2000万円。厚遇ぶりをつかれると「高いとは言い過ぎ。役員の数が少ないから(高いの)だ」と理解に苦しむ反論。職員わずか15人なのに事務所は家賃が年1億8000円の高層ビルに入っている…▼「富くじ」の当選最高額は「三百両富」だったという。現在の1800万円くらい。事業仕分けによる販売凍結は「夢を買う」宝くじファンには、ちょっと無情。無駄を省いて、当せん金の配分を60%にまで引き上げたらどうか。宝くじ、買っても当たらないけど、買わないと当たらない。「ドリームジャンボ」でも買いに行こうか。(M)


5月25日(火)

●映画「書道ガールズ!」を観て『弘法も筆の誤り』を連想した。書の名人、弘法大師は平安京の朝堂院の門に掲げる額「応天門」を書く時、応の字の「心」に点を一つ入れ忘れた。顔色一つ変えず、筆を再び手に取って、額に投げつけると「心」に見事命中したという▼全国屈指の紙の生産地、愛姫県の高校の書道部員が街に活気を取り戻そうと、書道パフォーマンスを通じて奮闘。「書道は己と静かに向かい合うもの」「音楽に合わせて書くのは書道ではない」と批判されながらも美しい書に挑む▼女高生が袴姿で筆、墨、硯、紙の文房四宝を巧みに操り、最後に重さ20㌔ほどもある大筆を持ち上げて、紙上を動き回り「絆」などを書き上げる。「応天門」の心に点を書き忘れた弘法大師が「えい、やっ!」と筆を額に投げつけたパフォーマンスではないか▼近代詩文書の大家、金子鴎亭氏の出身地の松前町は、今年から小学校全校に全国で初めて「書道科」を導入し、町を挙げて「書の町づくり」に取り組んでいる。小中高一貫の書道教育を目指しており、「北居鴎碑林」の観光PRにも力を入れている▼子どもの頃から「書を愛する心」を育てることが大切だ。毛筆一本で仲間と一つの書を書き上げる達成感。最近は「書道ガールズ」の全国大会も開かれており、書の魅力はヤング世代に広がっている。「心」を書くときは「点」を忘れないでね。(M)


5月24日(月)

●「運転免許を更新する際には講習を受けなければならない」。道路交通法でそう義務づけられている。確かに、改正になった交通法令を認識したり、ハンドルを握る心構えを新たにする場として、受講を強いる意義は誰も否定しまい▼その更新時講習に伴う諸問題が、政府の「事業仕分け」で取り上げられた。公益法人お定まりの官僚の天下り、講習時に配布される教本というか資料の製作利権など。それを一手にしているのが全日本交通安全協会で、全国的に使われている▼運転免許の更新者は年間1400万人ほどと言われる。買わされているという意識のあるなしにかかわらず、講習時には数冊の教本が配布されるが、その収入だけで32億円というのだから紛れもない利権。もちろん教本を全面的に否定するわけではない▼ただ、同協会でなければ製作できない専門書ではない上、どれだけ読まれる内容で、重宝されているかとなれば…。正直に言って編集が堅すぎる。車に置いてある人はまだいい方で、講習時にパラパラとめくっておしまいという人が少なくないはず▼なぜか。決定的に欠けているのは「読ませる」という視点。大事なのは、いかに安全運転が大事か、を認識してもらうことであり、としたら、求められるのは読む側に立った編集。もっと簡便に、ビジュアルに。「配布して終わり」という現状が続くなら、いつまでも独占の弊害と言われる。(A)


5月23日(日)

●21日、日本初の金星探査機「あかつき」が打ち上げに成功した。12月には金星を周回する軌道に達し、今後2年間にわたり観測を行うという。無人探査機のためか、スペースシャトルの山崎直子さんに比べると地味な扱いだが、地球からの距離を考えるとそのスケールははるかに壮大だ▼日本の惑星探査機の打ち上げは今回が2回目。12年前の火星探査機「のぞみ」は、故障のために火星を回る軌道に到達できなかったという。そのリベンジに12年もかかったのは、未曾有の不況の影響のためだ▼日本同様、資金不足から縮小傾向が続いていたアメリカの宇宙開発だが、このほどオバマ大統領が2030年代半ばまでに火星を目指す有人宇宙探査計画を発表。1969年以来実に半世紀以上かかって、ようやく人類が月より遠い宇宙へ到達できる可能性が開けたことになる▼日本の宇宙計画のトップである鳩山由紀夫首相もオバマ大統領に刺激されたのか、先日表敬訪問を受けた宇宙飛行士の山崎さんに対し「日本は(有人宇宙船の開発を)やらないのか?」と質問。「それはあなたが決めることでは?」と山崎さんは思わず突っ込みたくなったはず▼宇宙人の異名をとる鳩山首相だが、今は宇宙開発に夢をはせている余裕はない。たとえ、オバマ大統領のように新たな宇宙開発計画をぶち上げたところで、事業仕分け人にばっさり斬られるのが落ちだろうが…。(U)


5月22日(土)

●その昔、養うべき人数を減らして苦しい家計を補うことを「口減らし」と呼んだ。対象となったのが老人や子どもたち。貧しい山村では「うば捨て」の風習があり、その悲哀や葛藤(かっとう)の様子は小説「楢山節考」(深沢七郎著)、「蕨野行」(村田喜代子著)などに詳しい▼子どもの口減らしはもっと残酷だ。奉公に出されたり、花街に売られたりといったケースのほか、新生児が親に殺されることもあった。一種の間引きである。そして、親子間における殺す、捨てるといった行為は、形や理由を変え今も続いている▼九州熊本市の病院が赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を設置してから3年を迎えた。この病院では、親が育てられない子どもを匿名で受け入れてきた。「預ける」という感覚が親の罪悪感を薄れさせるのか、これまでポストに入れられた子どもは50人を超える▼預ける側と受け入れる側がいれば、当然犯罪には当たらない。問題は、合法的な育児放棄に遭った子どもたちの将来である。特別養子縁組によって一般家庭に引き取られるケースは、この病院ではごくわずかという▼ドイツの施設など海外の一部でも同様のポストを設置しているところがある。ここでは養子縁組される確率が格段に高い。熊本の病院によるポストには賛否両論があるが、当面は養子縁組の環境づくりが急がれる。養護施設を転々とする子どもの姿は見たくない。(K)


5月21日(金)

●エサをやりにいったら2日前に生まれたばかりの子豚12頭が死んでいた。母豚の口の周りがただれ、乳頭に水泡ができていた。種豚の品評会で「日本一」になったこともあったのに、自分の身を切られる思いです(宮崎県の養豚家)▼給食の前に「いただきます」と言うのは、給食に出された生き物が人間の命をつなぐために犠牲になったことへの感謝の気持ち。だから牛や豚などの生産者は、いずれ命が奪われることが分かっていても愛情を込めて育てる▼家畜の口蹄疫は10年前、宮崎県で発生し北海道に飛び火したが、当時は740頭の殺処分で沈静化した。しかし、今回の口蹄疫はウイルスの増殖が速いためか、発生地点20㌔範囲の約32万頭が対象。貴重な種牛も含まれ、食に供することなく、無駄死にさせてしまう▼宮崎県の影響は全国に広がる。宮崎で生まれた子牛が各地でブランド和牛の素牛(もとうし)になっているから。松坂牛、近江牛、佐賀牛など…。長期化すれば子牛を買い取って育てる肉牛飼育農家も打撃を受ける。北海道などから仕入れることも考えられる▼ウイルス性感染という見えない大敵。大野農高の生徒たちが育て、全国の体型審査で「最上位」を獲得した乳牛に飛び火しないよう、水際作戦で食止めたい。消毒液など無料配布する自治体も増えた。大きな声で「いただきます」と言えるように、支援金なども交付し、沈静化させてほしい。(M)


5月20日(木)

●「時間」という言葉には、深い意味が込められた表現が幾つかある。「時間稼ぎ」「時間が解決する」「時間切れ」「時間との勝負」などは日常的によく耳にし、使われるが、どちらかと言うと、いずれにも厳しいニュアンスが漂う▼米軍の普天間飛行場の移設問題も、この「時間」で追っていくと分かりいい。鳩山首相は昨年12月25日の記者会見で「来年5月までに新しい移設先を決定したい」と表明した。この大問題への取り組みに、自ら「時間の制約」を課した瞬間だった▼腹案の有無はともかく、今日まで、それを国民との約束と言い続けてきた。この間の動きは知るすべもないが、「時間」だけは、お構いなく刻まれて、5月末はすぐそこに。少なくとも、この4カ月余の作業は、紛れもなく「時間との勝負」だった▼勝算があってタイミングを推し量る「時間稼ぎ」をしているというならまだしも、そんな気配はない。取りざたされる地元や米国の理解も不透明。それより何より、与党3党合意の展望が開けず、最終政府案さえ決めかねているのだから▼もはや「時間との勝負」もかなわず「時間切れ」が必至の情勢。誰の目にもそう映っているに違いない。13日には「6月以降も詰める必要がある」と言及し、「時間制限」にギブアップした。今後、どんな展開になるのか予測すらつかないが、ずるずると「時間が解決する」とならないように願いたい。(A)


5月19日(水)

●金星の女神はメソポタミアではイシュタル(ビーナスらの源流)と呼ばれていた。突如冥界への道に進む彼女は、第1の門に王冠、第2門に耳飾り、第3の門に首環、第4の門に胸飾り、第5の門に腰帯、第6の門に腕環と足環を預けた…▼最後の第7の門では腰布を渡して全裸になった。冥界の女王は裸で自分の前に出るとは無礼と彼女を殺す。愛の女神だったイシュタルが死ぬと、人間も動物も愛し合わなくなり、家畜は殖えず、作物も実らなくなった。彼女を生き返らすことになったが…▼太陽と月に次ぐ輝きを持つと言われる金星。地球の「兄弟惑星」や「双子星」とも言われる金星。素顔は灼熱と荒涼の世界で地表は400度を超すという。冥界の女王に命を奪われ、ぬくもりを失ったイシュタルの裸体のように…▼その金星へ、イシュタルの姿を探る日本の探査機「あかつき」が21日にも種子島から打ち上げられる。超回転と呼ばれる大気循環のメカニズムを解明することが最大の目的。謎の多い金星の大気に挑戦。どこかの首相のような“火星人”もいるのだろうか…▼太陽光を大きな帆に受けて燃料なしで宇宙を進む世界初の宇宙ヨット「イカロス」も一緒に打ち上げ、地球と金星の間を永遠に飛び続けるという。北大や道工大などが開発した小型衛星も相乗りする。暁の明星、宵の明星。見上げれば、生き返った金星の女神がほほ笑んでいる。(M)


5月18日(火)

●北海道新幹線が札幌まで延伸された場合、JR北海道は在来線の函館—小樽間の経営を分離する方針を重ねて示した。新幹線との並行在来線に当たるというのが理由だが、問題はその区間に新函館(新駅)—函館(現駅)間約18キロが含まれていること▼JR北海道は北斗市の新駅から現駅へのアクセスについて、新幹線から在来線へ同一ホーム対面乗り換え方式を有力案に検討している。そして函館市などは、新駅—現駅間は札幌延伸後もJRがアクセス列車の運行を継続すると考えてきた▼新函館開業後の北海道と本州間の鉄道利用客は2・5倍の年間347万人、新函館に降りる人の大半が函館市に向かうとの需要予測がある。だから、両駅のスムーズなアクセスが大きな課題であり、列車の運行は引き続き、高いノウハウを持つJRにお願いしたい▼しかし、JRは採算性の問題などから札幌延伸後は分離する考えだ。しかも、道民の悲願である札幌延伸は、この問題を解決することが前提となっている。額面通り受け止めると、JRの考えを飲むことが延伸の条件だ▼新幹線建設運動は、地域間で多少の思惑の違いはあっても、オール北海道で足並みをそろえてきた。「札幌までの全線フル規格開業」から「青函暫定開業」に絞り、部分着工の形でスタートの実を取った。函館の願いも当然、札幌への早期延伸だ。立場を超え、全体に利益のある解決策が急がれる。(P)


5月17日(月)

●「ドリームジャンボ宝くじ」と「ミリオンドリーム」が発売中。夢は遠く、夢を見てばかりというため息も聞こえるが、そうは言っても必ず誰かが当たっている。ということは可能性がゼロでない。そこに働くのが「もしかしたら」という心理▼だから買い続ける。ある調査によると「一度は買ったことがある」人は9割。さらに「ジャンボは発売初日に買うつもり」と思っている人が2人に1人という。根強い宝くじ人気を裏付ける話だが、今の生活を取り巻く環境ではなおさら▼所得は目減りし、預金の金利は超低く、年金は不安を抱えたままで、雇用も芳しくない。「宝くじでひと起こし」と考えたくもなってくる。1等と前後賞を合わせて3億円は無理にしても、億を超える当せんは108本、3等の100万円は540本もある▼そこまで夢を広げなくても100万円で御の字となれば、発売3年目の「ミリオンドリーム」も魅力。1等100万円がなんと7000本あるというのだから。夢はぐんと現実に近づいて映ってくるし、1万円(2等)でも、と考えるなら7万本も▼庶民心理はくすぐられ、買い方にこだわりを持つ人も。曜日、売り場等々、夢を託すのだから、そんな気持ちになるのも頷ける。ちなみに高額当せん者が答えたという秘訣だが、何のことはない、根気よく買い続けることで、当たったのは「運」だそう。考える時間は6月4日まである。(A)


5月16日(日)

●かつて高校生の頃の肝試しは寺の墓地巡りだった。真っ暗な空間に浮かぶ墓石にぶつかったり、白い衣を着た坊さんが立っていたり…。小雨の夜、リンが燃える「火の玉」が見られれば、最高の肝試し▼また「夜の高校」も怖いもの。ペアで校舎の周りを一周。ゆっくり歩いても20分程度なのに、1組目は30分たっても帰らず。2組目も帰って来ない。3組目も出発したが、4組目は怖くて泣き出した。体育館倉庫には天井からロープをつるした光景が…▼先ほど、大阪で女子高生が肝試しに線路を渡って電車にはねられ死亡した。同学年の女子生徒と2人で下りホームから約1.1メートル下の線路に下り、幅約6.6メートルの線路を走って渡り、上りホームに上がろうとして快速急行にはねられた。1人はホームにはい上がったが…▼2人は線路を渡って友人がいる下りホームに行き、友人と別れて上りホームに戻る計画だった。別の生徒は「これまでも『肝試し・度胸試し』と言って、線路を渡る高校生がいた」という。普通電車の陰から線路に飛び出すのは肝試しではなく、自殺行為だ▼失敗するとは思わなかったのだろうか。線路を渡る怖い肝試し、学校も厳しく指導すべきだった。社会の荒波に屈しないように度胸をつけることは必要だが、命を落としたら未来はない。ダライ・ラマは「失敗しても自ら命を絶つ理由などない」と自殺など無謀な行為を戒めている。(M)


5月15日(土)

●中川あゆみという女性歌手を知っているだろうか。5月5日に弱冠14歳でメジャーデビューした彼女は、ファーストシングル「事実〜12歳で私が決めたコト〜」で、自らのドラマチックな生い立ちを赤裸々に歌い上げて注目を浴びている▼両親の離婚により7歳の時に祖父母と養子縁組し苗字が変わってしまった彼女は、「もらいっ子」と呼ばれ学校でいじめを受けるようになり、一時は不登校に。しかし、歌手になりたいという夢を抱き、10歳のころからギターを持って地元横須賀市で路上ライブを敢行。その堂々たる歌いっぷりが評判となりデビューにこぎつけた▼デビュー曲の内容は、彼女の生い立ちをそのままなぞったノン・フィクション。小学校の卒業式で久々の対面を果たした母親に対し「もう私はあの頃の私じゃない」と決別し、「生まれた後は全部私の責任でしょう」と突き進む▼新人歌手が注目を集める条件としては文句のない衝撃度だが、「不幸を売り物にしている」など批判の声も少なくないという。確かに学校の教室に喪服を着た彼女がたたずんでいるジャケットは、狙いすぎの感は否めない▼しかし何より彼女の最大の魅力は、年齢を感じさせない深みのある伸びやかな歌声にある。よくも悪くもデビュー曲のインパクトを乗り越え喪服を脱ぎ捨てることができた時、本当の意味で歌手「中川あゆみ」が輝きはじめることを期待したい。(U)


5月14日(金)

●子どものころに抱いた夢を長く持ち続けることは意外と難しい。年齢を重ねると誰しも世の中という現実に突き当たるし、夢そのものが変化することだってある。夢を捨てずに実現する人がいれば、素直に拍手を送りたくなる。その舞台が世界規模であればなおさらだ▼ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、来春の定期公演で、指揮者の佐渡裕さん(49)を起用すると発表した。「ベルリン・フィルの指揮者」は佐渡さんの長年の夢。小学校の卒業文集にもそう書いた。世界最高峰のオーケストラの歴史に自らの名を刻む。その夢を現実のものにした佐渡さんは、次にどんな夢をみるのだろう▼カナダ出身のヘビーメタルバンド・アンヴィルは、今も夢を追い続けている。30年間にわたる不遇の時代を追ったドキュメンタリー映画「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」が、静かなブームを呼ぶ。少年の心を忘れない熟年ロッカーたちがたどり着く先は日本。映画のラストは感動的だ▼その日本では、柔道女子の谷亮子選手が夏の参院選に民主党から出馬する。谷選手は五輪、子育て、議員の「3足のわらじ」。その姿勢に批判の声もある▼「ロンドン五輪で金メダルを目指す」のは自由だが、議員活動との両立はどう考えても無謀であり、欲張りすぎだ。夢みる心には愚直なほどのいちずさがあっていい。それがないところに共感や感動はない。(K)


5月13日(木)

●膨らむ一方の国の借金。その額たるや庶民には天文学的としか映らない。しかも年を追って増え続け、まさに自転車操業状態。財務省が公表した2009年度末債務残高(国債や借入金等)によると、882兆9235億円というのだから▼多額すぎて逆に実感がわいてこないが、驚くには早い。この1年間の増加額だけで36兆4265億円(4・3%)である。実に赤ちゃんを含め国民1人あたり693万円、勤労者1人あたりにするなら恐らく1000万円レベル▼グローバルな経済環境の中で長引く景気の低迷。法人税など税収は落ち込み、一方で所得も減少して消費を直撃、それがまた景気に跳ね返る。まさに悪循環で、行き着く先は国債発行。そんな財政運営が続いて、もはや国債発行の抑制方針は無きがごとし▼いわゆる普通国債が債務残高に占める割合は約7割。昨年度も2度にわたる経済対策補正(約20兆円)もあって増発。前年比で8・8%も増加して残高は593兆8717億円。一般会計税収の10数年分に相当する額であり、財政再建は遠のくばかり▼ギリシャで財政破たんが表面化、大混乱している。ポルトガルやスペインも心配されているが、日本も他人事でない。健全化の道筋をつけなければ、将来の世代にさらなる負担を押し付け続けることになる。「それだけは避けなければ」。債務残高という名の天文学的な借金は、そう問いかけている。(A)


5月12日(水)

●随分前、ギリシャの遺跡劇場で古代劇を視た。人間の国を滅ぼそうとする神々に挑む…。美女のパンドラが箱を開けると、あらゆる人間の災いが飛び出す…。通風、リュウマチ、貧困、嫉妬、怨念などが飛散…▼パンドラから出てきたギリシャ悲劇の発端は政権交代した昨秋の財政赤字の暴露から。統一通貨制度のもとでユーロ圏とギリシャは呉越同舟。国債が暴落し、欧州はもちろん、アメリカ、アジアの同時株安など金融市場に混乱を招いた▼ギリシャは直ちに付加価値税(消費税)を4%引き上げて23%にし、公務員給与削減、年金支給減額など財政緊縮法を成立させたが、国民は「財政危機は公務員が湯水のごとく使ったからだ」と抗議デモ、3人が亡くなっている▼ユーロ圏ではポルトガルやスペインなどでも財政危機が懸念されている。このため、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)が総額約13兆円の拠出を決め、最大約90兆円の緊急融資ができる仕組みも整えた。90兆円は日本の1年の国家予算だ▼リーマンショックから3年。やっと世界経済は持ち直したのに。スズメの涙ほどの株を売って3Dテレビに買い替えようと高騰を待っているが…。ギリシャ悲劇は遠い国の年金生活者にも響いてくる。美女のパンドラの箱も、浦島太郎の玉手箱も「決して開けてはいけない」と言われていた。不幸にも開けた以上は、智恵を絞って難局を乗り切るしかない。(M)


5月11日(火)

●大型連休中、道南旅行の知人を迎えた。1組はお目当ての桜に時期が早かったが、直近のもう1組は五稜郭公園内の絶景に感動していた。ある人は「五稜郭の桜は息苦しいほど美しい」と言った。珍しい表現だが、満開の時期の例えとしては説得力がある▼道南以北の人たちは、濃いピンク色のエゾヤマザクラを見慣れている。同じ桜でも色が淡く、はかなげに風に揺れるソメイヨシノの容姿は別格である。剪定(せんてい)など行き届いた管理の下で育てられた桜はひときわ美しい。一定の秩序がもたらす日本特有の造形美といえよう▼こうした会話の中、花見におけるバーベキューの習慣に話題が及んだ。道外の花見は弁当やオードブル持参が主流という。満開の桜の下でジンギスカン鍋を囲む姿に、カルチャーショックを受ける転勤族も、周囲に少なくない▼煙にいぶされた桜を見て「せっかく咲いたのにかわいそう」という気持ちは分かる。一方で、「花より団子」という考え方もある。日によっては、5月の花見は寒い。暖を取りながら、おいしいものをという道産子特有の合理性が背景にあっても不思議はない▼バーベキューであろうと弁当であろうと、要は花見客のマナーの問題。食後の片づけなどはもちろん、使った火の始末は絶対条件だ。管理者、そして桜そのものに対して礼を失するような花見客は、自宅の庭で存分にバーベキューを。(K)


5月10日(月)

●20世紀を代表するイタリアの女性オペラ歌手ジュリエッタ・シミオナートが5日、亡くなった。100歳の誕生日を7日後に控えた大往生だった。彼女はメゾ・ソプラノという声質を生かし、ソプラノが演じる華やかなヒロインに対する個性的なライバル役として抜群の存在感を発揮していた▼日本との結びつきも深く、海外の一流アーティストによる初の本格的来日オペラ公演として知られる「NHKイタリア・オペラ」では、第1回公演(1956年)からメンバーに名を連ね、歌声の素晴らしさはもちろん、圧倒的な演技力でも絶大な人気を集めていた▼「アイーダ」のアムネリス、「フィガロの結婚」のケルビーノ、カルメン、「トロヴァトーレ」のアズチューナ、「セビリャの理髪師」のロジーナなどレパートリーの幅広さも特筆されるが、中でも「カヴァレリア・ルスティカーナ」のサントゥッツォは絶品。1961年の東京文化会館での公演では、アリア「ママも知るとおり」を歌い終わると嵐のような拍手が鳴り止まなかったという▼今ごろ彼女は、先に旅立ったカラス、テバルディ、デル・モナコ、コレッリ、ディ・ステファーノらの盟友と再会を果たし、数十年ぶりの豪華なセッションを繰り広げているのだろうか。当り役のひとつ「ドン・カルロ」のエボリ公のアリア「むごい運命を」を聴きながら、故人をしのびたいと思う。(U)


5月9日(日)

●以前、天橋立の智恩寺本尊の文殊菩薩を見てきた。右手に剣、左手に経巻を持つ。経巻は智恵の象徴、剣はその智恵を鋭く研ぎ澄ましている。「三人寄れば文殊の智恵」。同じ若狭湾に作られた増殖炉を「もんじゅ」と名付けた▼原子力の荒ぶるエネルギーを人類の智恵の力で抑えることを願ったものだ。その高速増殖炉の原型炉もんじゅ(敦賀市)が14年ぶりに運転を再開。普通の原発が燃料にウランを使うのに対し、もんじゅは燃えかすのプルトニウムを使用。原発では燃やせない種類のウランも使える▼消費した以上の燃料が生産できるため資源に乏しい日本にとっては“夢の原子炉”。開発費はこれまでに約9200億円が投じられている。しかし、14年前に冷却材のナトリウム漏れ事故が発生してから運転中止▼事故現場を撮ったビデオを隠したり、ウソの報告をしたり、組織体質が厳しく問われ、機器の劣化なども懸念され、昨年2月の運転再開が延びていた。今回も再開初日に燃料が破損した際に出る放射性ガスを検出する警報機が誤作動している。しかも事実を公表しなかった▼13年度の本格運転を目指し3段階の性能試験を続行していくというが、想定外の不測の事態に対応できるのか。実用化へ今後の運転にも年200億円かかる。文殊菩薩が振り上げている剣は煩悩の根源を断ち切るというが、放射能漏れによる環境破壊までは断ち切れない。(M)


5月8日(土)

●政治家の発言は重い。それも政権の中枢にいる大臣や、与党の幹部ほど重い。それだけ注視され、影響が大きいことの証しである。この認識は政治家にとって「いろはのい」だが、政権が代わっても、発言の軽さは変わらないようで▼今、象徴的なのが米軍の普天間飛行場問題を巡る鳩山首相の発言。衆院選前の昨年8月、民主党代表として「一番いいのは海外、最低でも県外」と発言。それが12月には「辺野古は生きている」、今年3月には「極力県外に移設」となって▼さらに「…最低でも県外」発言の責任を問われるや「努力したいという思い」では、政党トップとしての発言の重みを自ら否定したに等しい。聞く側の国民は、首相や閣僚、政党トップの発言は「約束」であり、そうなるんだと受け止めたとしておかしくない▼沖縄県民は期待した。その分、怒りを増幅させる結果を招いているが、軽さでは山岡賢次国対委員長の失言も一緒。今こそ慎重に徹すべきなのになぜこんな発言が飛び出すのか、6日の党内会議での発言とはいえ、あまりにお粗末の極み▼「普天間の話、政治とカネの話は、直接、国民生活に影響しない。地方に行くと普天間は雲の上の話」。出席者から抗議されて謝罪、撤回したものの後の祭り。改めて言うまでもなく、政治家の軽い発言、失言はさらなる不信を生み出し、政治の信頼を遠のかせる。それは世論調査の結果を見るまでもない。(A)


5月7日(金)

●親切に接すると、人間誰しもすがすがしい気持ちになる。特に旅行先などでは、もう一度きてみたい、という思いを抱かせる。函館でホスピタリティ(思いやり)が叫ばれるのも、残念ながらその域に達していないから▼4月末、岩手県内を旅行した。桜の北上が急に遅れ出し、楽しみ半減の気持ちだったが、それをカバーしてくれたのは、その地の人たちの温かさだった。予定を変更して駅前で路線バスを待っていると、初老のご婦人が「どこから来られたの」とさりげなく▼途中まで同じバスに乗車すると「これ食べて」と串に刺した焼きあんもちを。色々と情報を教えてくれて、バスを降りると手を振って…。わずか10分ほどの触れ合いだったが、旅の思い出をつくってもらった思いに。その帰りのバスの運転手さんも▼降車の際に「たんのうできましたか」と笑顔で一声。もう一つ、ホテルで教えられた和食屋さんを探せずに歩いていた時、30歳前半の青年が「どこか探していますか」と声をかけてきた。略図を示し店の名を告げ、道順を教えてくれるだけかと思っていたら…▼本当かどうか、自分も遠回りでないから、と言って、店まで連れて行ってくれた。親切も押し付けがましく映ると嫌味になる。それがなかった。心の奥から、気負わず、さりげなく…。市民レベルの“もてなしの心”の原点を教えられた思い。それは桜の埋め合わせには十分だった。(A)


5月6日(木)

●親切に接すると、人間誰しもすがすがしい気持ちになる。特に旅行先などでは、もう一度きてみたい、という思いを抱かせる。函館でホスピタリティ(思いやり)が叫ばれるのも、残念ながらその域に達していないから▼4月末、岩手県内を旅行した。桜の北上が急に遅れ出し、楽しみ半減の気持ちだったが、それをカバーしてくれたのは、その地の人たちの温かさだった。予定を変更して駅前で路線バスを待っていると、初老のご婦人が「どこから来られたの」とさりげなく▼途中まで同じバスに乗車すると「これ食べて」と串に刺した焼きあんもちを。色々と情報を教えてくれて、バスを降りると手を振って…。わずか10分ほどの触れ合いだったが、旅の思い出をつくってもらった思いに。その帰りのバスの運転手さんも▼降車の際に「たんのうできましたか」と笑顔で一声。もう一つ、ホテルで教えられた和食屋さんを探せずに歩いていた時、30歳前半の青年が「どこか探していますか」と声をかけてきた。略図を示し店の名を告げ、道順を教えてくれるだけかと思っていたら…▼本当かどうか、自分も遠回りでないから、と言って、店まで連れて行ってくれた。親切も押し付けがましく映ると嫌味になる。それがなかった。心の奥から、気負わず、さりげなく…。市民レベルの“もてなしの心”の原点を教えられた思い。それは桜の埋め合わせには十分だった。(A)


5月5日(水)

●野口雨情が札幌の旅館で石川啄木と会った時、啄木は「煙草を頂戴しました」と言って雨情の巻煙草を甘そうに吹かしていたという。「実は昨日から煙草を買う金がなくて困っていました」。啄木の歌にけっこう煙草が出てくる▼夏目漱石の「我輩は猫である」の「猫」は「なぜ人間は口から煙を吸い込んで鼻から出すのか。腹の足しにも血の道の薬にもならないものを」と話す。たばこの煙には発がん性の化学物質が43種も含まれていることを知っていたのか…▼国の財政が苦しくなると、必ず「たばこ増税」が浮上する。3月ころから議論されてきたが、10月から一般的な銘柄1箱(20本)当たり70円の増税に。このため、105銘柄が1箱110〜140円の値上げとなる。セブンスターが300円から440円に▼1日に2箱吸うと1年間の出費増は10万円を超す。「1箱1000円になったら禁煙する」と言っていた愛煙家はやはり、吸い続けるのだろうか。肺でも患い、医師から「命かたばこか」と迫られれば観念するだろうが…▼愛煙家は緊張を和らげる、いら立つ神経を鎮める、ストレス解消など効用?を説くが、「副流煙」や「受動喫煙」など他人に迷惑をかけてはいけない。国は健康増進法に基づき「職場の禁煙」も義務付けるという。啄木は「病院の窓にもたれて煙草を味ふ」とも詠んでおり、値上げされても「忘れ来し煙草を想ふ」だろうか。(M)


5月4日(火)

●長谷川穂積がKO負け——。仕事中に届いたニュース速報メールに思わず目を疑った。ボクシングのWBCバンタム級世界王者として、この5年間無敵の10連続防衛を続けてきたヒーローに何が起こったのだろうか▼帰宅後に見た試合内容は、壮絶なものだった。3ラウンドまでは完全に長谷川ペース。4ラウンドも両者譲らず、勝負は中盤にもつれ込むとみられた残り8秒、一発の強烈なカウンターで体勢を崩した長谷川に対戦相手モンティエルの怒とうの猛ラッシュが浴びせられ、残り1秒で試合は終わった▼一見、相手のラッキーパンチによる不運な敗戦にも思えたが、試合後に長谷川が1回にもらったパンチで右あごを骨折していたことが判明。モンティエルの底知れぬパンチ力の強さが王者をじわじわと追い詰めていたのだ。まさしく一瞬で勝負が決まるボクシングならではの面白さ(怖さ)が凝縮された試合だった▼ここ数年、日本のボクシング界はよくも悪くも亀田親子の話題で持ちきりだった。そのために地道に勝利を積み重ねてきた長谷川の素晴らしい活躍には、なかなかスポットが当たらなかった▼亀田興毅、内藤大助がともに王座から陥落した今こそ、真のヒーローとして脚光を浴びる絶好のタイミングだっただけに、今回の敗戦は本当に残念。また一から記録を積み上げて、今度こそ具志堅用高の持つ13連続防衛の日本記録に再チャレンジしてほしい。(U)


5月3日(月)

●墟ブームが続く。その外観から軍艦島と称される長崎県の端島は、長崎市が1億円をかけて散策道を整備。民間会社が企画した見学ツアーに客が押し寄せ、経済波及効果は1年間で約15億円という▼先日、軍艦島の人気を探るテレビ番組を見た。周囲1・2キロの島では良質な石炭が採れ、最盛期には5000人以上が暮らした。しかし国のエネルギー政策の転換で1974年に廃鉱となり、無人島に。訪れたファンは「見捨てられようとされている孤独感に共鳴する」と話していた▼軍艦島はユネスコの世界遺産登録に向け、暫定リストに入った。歴史遺産、産業遺産としての価値は多くの人が認めるところだろう。炭鉱跡だけでなく、大正時代に建てられた国内最古の鉄筋コンクリート製の集合住宅など、島全体が大きな遺産だ▼ただ、軍艦島で人が呼べるから、他の産業遺産も同様と考えるのは早計だろう。軍艦島は、失われた時代への郷愁や当時の島の空気を伝え、廃墟特有の心霊スポットとしての魅力などが混在している。もし産業遺産がみな観光資源となるならば、夕張の炭鉱跡は観光客で引きも切らないだろう▼道南で言えば、なくなった旧函館ドック跡地の大型クレーンや、戸井線跡は産業遺産に近い。その近くの旧町にあるバブル期を象徴するホテル跡は廃墟だろう。今、どちらが人を集めるか。後者のホテルのような気がする。何か皮肉な現象だ。(P)


5月2日(日)

●作家・東野圭吾のベストセラー小説「新参者」が、テレビドラマ化された。異動して間もない刑事が活躍するミステリーで、東野作品らしい謎解きの楽しみが随所に散りばめられている▼「新参」はもともと、「新たに奉公に来た」ことを指す。現在は、新たに加わるという広義の意味で使われることが多い。新入り、新米などと同義語であり、迎える側が“新加入者”を仲間の一員として認めていることが前提となる▼似て非なる呼称に「よそ者」がある。外から来た人を迎えることに違いはないが、よそ者には突き放したニュアンスが多分に含まれる。そこには保守的な影が感じ取れるし、この性向が風土としてその地に根付けば排他性にもつながる▼ゴールデンウイーク真っ盛り。函館市内には観光客がどっと押し寄せている。そんな中、嫌な光景を見かけた。地元のタクシーが、前を走る札幌ナンバーの車に急接近するなど、執拗に「あおり」の行為を繰り返す。明らかな嫌がらせである▼地理に不案内な車は確かにイライラの原因だろう。その気持ちは分からないでもない。しかし、これが高じると、「よそ者」に対する嫌悪、さらに排除の心理につながりかねない。言うまでもなく、函館の産業を支える観光は、こうした「よそ者」たちに支えられている。未熟な運転に対しても、せめて「新米なんだから」という気持ちの余裕を持ちたい。(K)


5月1日(土)

●心臓に電気ショックを与えて心停止から命を救うAED(自動体外式除菌動器)は、医療従事者だけではなく、資格を持たない一般市民も使用が認められ、今や公共施設などあらゆる場所に設置されている▼そのAEDが正常に作動しないトラブルが起きている。60歳の男性に使用したところ、蘇生措置ができず病院で死亡した。AED内部のトランジスタが何らかの原因で脱落し、胸部に取り付けるパット部分に電流が流れなかったようだ。故障と死亡の因果関係は不明としているが…(大阪市)▼どこでも、誰でも使えば命を救える医療機器なのに事故が起きるなんて。日本で普及しているAEDは米国製が多いというが、販売している日本光電工業は先日、医療従事者や救急救命士が扱う8万5000台の自主回収を決めた▼回収対象は8年前から販売した4機種。使用中に意図せずふたが閉まった場合、直後に開け直して操作ボタンを押し続けると「要修理ランプ」が点灯し不能になり、再びふたを開け直せば使用再開できるという。音声で使用方法をガイドする仕組みのAED、これでは混乱してしまう▼「道のそばにAEDの箱を作って『ここにAEDあり』の看板を立てたら、道で倒れた人にもすぐ使える」(小学生の投書)。使い始める時間が早いほど命を救う確立が高い。“携帯AED”が欲しいくらいだ。安心して使えるように“欠陥AED”は一掃してほしい。(M)