平成22年8月


8月31日(火)

●12年ぶりに登山が解禁された「駒ケ岳」。待ち望んだ人が多かったということだろう、入山した人は夏休みが終わった22日現在で延べ3092人(駒ケ岳火山防災会議協議会調べ)を数え、その5分の1は道外の人たちという▼駒ケ岳の登山が規制されたのは、1998(平成10)年10月の小噴火で。その後も安全面を第一に慎重な対応がとられてきたが、落ち着いた状況にあることから、今年、暫定解除が実現した。解禁初日は6月19日で、夏休み中を除いて個人は土、日、祝日だけ▼3日前までの事前届け出、午後3時までの下山などが義務づけられ、携帯電話の携行が求められているほか、ルートも赤井川登山道(6合目駐車場)から入り「馬ノ背」まで。万一を考えての措置であり、この程度の制約は当然▼山登りで疲れを癒やしてくれるのは、眼下に広がる景観だが、中でも駒ケ岳は。天候に恵まれ、視界が良ければ、これ以上のぜい沢はない。歩き始めるや高木はなく、登りこそ振り向きながらだが、下りは常に素晴らしい景色をたん能させてもらえるのだから▼幸い、解禁後、ルートを外した人がいたとか、大きなトラブルはないという。登れるのは雪が早かったりしなければ10月末まで。暑くもなければ、寒くもない9月は夏山を楽しむに最高の季節。来年どうなるか、それは山次第で解禁される保証はない。としたら、日を選んで。山好きの気持ちが揺れる。(A)


8月30日(月)

●ある著名作家によると、金持ちになる方法は、世に二つあるという。金貸しになるか、借りた金を返さないかだ。貸す方は高金利で暮らし、借りた方は踏み倒す▼昔から「貸した金はあげたものだと思え」という言葉もある。本当に返さない人たちがいるから、貸すならそのぐらいの覚悟で貸せという意味だが、先日考えさせられるニュースがあった▼読売新聞によると、独立行政法人「日本学生支援機構」(旧日本育英会)の奨学金の滞納者が年々増え、昨年度の滞納額は約33万6000人分、797億円という。要返還額の2割に上り、返還を求めて起こした訴訟は前年度比2・8倍の4233件。不況の影響で滞納者が増えたことが要因だが、中には支払う能力があるのに払わない人もいるそうだ▼奨学金に限らず、貸付金は返還金を次の人に回して事業を続けていく。少ない収入の中で苦労して返済している人たちが多い中、失業などの事情でどうしても払えない人もいる。しかし、払えるのに払わないのは問題外だ。似たような例で、自動車税などの滞納で給与を差し押さえるのは、調査して支払う能力があると判断されたためだ▼支払い義務を怠ることは公平性を著しく欠き、それが許されれば社会のルールが崩壊する。かたや最近は「払えない社会が悪い」「返せないほど貸す方が悪い」と、踏み倒しを指南する論理が出て、幅を利かせている。恐ろしい風潮だ。(P)


8月29日(日)

●地下800㍍。坑内でガス突出、爆発、火災、黒煙と高熱が充満。火災が収まる兆しがなかったことから坑内を密閉、注水…。93人、さぞ熱かったろう。博物館の地下1000㍍の薄暗い採炭現場を見学した▼かたや、地球の裏側のチリ鉱山事故。今月5日、坑道で崩落事故が発生し、地下700㍍の避難所(約50平方㍍)に作業員33人が閉じ込められた。食料は乏しく、2日ごとにツナ缶をスプーン二口と牛乳を一口飲み、生き延びてきた▼全員の生存が確認されたのは事故から17日目。避難所の温度は32〜35度、湿度80%という“炎暑地獄”。日本列島を襲っている猛暑日どころではない。多くが脱水症状に苦しみ、不眠や不安を訴え、うつ症状の可能性もあるという▼33人の命をつなぐのは直径10㌢の穴。水や薬など1時間かけて届ける。全員が上半身裸、ひげが伸び、やせて…。妻に「大丈夫だ。君のことを思わなかったことはない」という手紙や「動揺しないで。みんなでここから出るから」というビデオも届いたが、人が通れるくらいの救助用の穴は1日に20㍍しか進まない▼閉所の生活は「宇宙飛行士に似た症状」ではないかとNASAに支援を要請したが、助け出すにはクリスマスまでかかるという。夕張炭鉱博物館の地下1000㍍まで届くエレベーターがあったら…。33人の生還への生命線「小さな穴」に「頑張れ」と祈るしかない。(M)


8月28日(土)

●最近の民主党をみていると、かつて批判の対象とした自民党とだぶって映る。自民党は派閥の弊害が指摘され、批判を浴びた。それを反面教師にするかと思いきや代表選の動きをみる限り、その期待を自らかき消している▼グループと名を変えてはいるが、実態は派閥と何ら変わらない。違うと強弁したところで、有権者の目に映るのは派閥そのもの。党内情勢が厳しくなると、対立構図となって、露骨なほどに表れる。今まさに、その姿を露呈していると言っていい▼民主党は世論に敏感で、クリーンを標榜した党だった。だから政権を委ねた、それが昨年の総選挙だった。わずか1年、政治とカネの問題のけじめは先送りしたままであり、政策実行もなお不透明。あげくに政策論争置き去りの党内対立ときては…▼向けられる目も厳しくなって当然。それでなくても、株安・円高が日本経済を直撃し、政権与党の責任として党を挙げて対処が求められている時である。経済界ならずとも「党内抗争の前に具体的な解決策を」と直言されても、反論の余地はない▼野党なら、何時でも好きなように、気の済むまでどうぞ、と突き放してもらえるが、政権与党となれば話は別。喫緊の課題解決に猶予は許されないから。代表選を今の株安・円高が落ち着くまで延期する道だってないわけでない。思いたくはないが、国民不在、政治空白といった言葉が頭をよぎってくる。(A)


8月27日(金)

●どこかの知事が「現代の怪談」と表現したようだが、面白おかしい例えは時として反感を買う。まして行政機関のトップの発言である。では、あなたたちはこれまで一体何をしてきたのか—と問いたくなる▼高齢者の所在不明問題が全国の自治体に波及している。三重県志摩市では、江戸時代の1847年に生まれた163歳の男性がいることが分かった。誕生年は黒船来航の6年前に当たる。断わるまでもなく「163」という数字は、戸籍に基づく計算上の結果にすぎない▼また、大阪市では120歳以上の高齢者が5125人も生存したままになっていた。連日明らかになるこうした実態は、行政に対する住民不信を助長する。国や都道府県は毎年、長寿に関する統計を公表するが、その信ぴょう性について検証を要するような事態だけは避けたいものだ▼行政側にも言い分はあろう。親族から死亡届が提出されない。個人情報を理由に親族が所在確認の問い合わせに応じない…。ただ、これらは戸籍整理のための事後作業といった印象が強い。順序としては、高齢者に対する日常の安否確認が先ではないか▼函館市は100歳以上の高齢者全員の所在を確認した。今後求められるのは、一人暮らしの高齢者宅の見回りや声掛けなどの強化だ。すでに実践している町会などと連携するのもいい。安否確認の徹底は、「現代の怪談」の呪縛から解放される近道でもある。(K)


8月26日(木)

●日本語は奥が深い。微妙に異なる意味合いを持っていたり、時として裏の裏まで読まなければならない表現も少なくない。特に政治の世界は言葉の探り合いでもあるが、だんだん読まれてきて、ここ数日来、耳にする次の言葉も然り▼「注意深く見守ります」。急速な流れで日経平均株価は9000円台を割り、外為市場の円相場も24日には一時1ドル83円台まで上昇するなど異常な事態。それに対する菅総理、野田財務相、荒井国家戦略相の発言故に、響いてくるのは本来と違った意味▼この言葉には「対応を考えます」というニュアンスもあるが、対応を望む声が強い現状を踏まえると、それは「打つ手を考えていません」「何もしません」と同意語。期待感とは逆に、失望のメッセージとしてしか伝わってこない▼政治家の間では本来の意味とかけ離れた解釈がある。よく例として挙げられるのが「善処」。本来は「事態に応じて適切な処置をとる」という前向きな意味が込められた言葉だが、聞いた方は「やってくれる」と、答えた方は「やらない」と受け止める▼「注意深く…」は、それに近いかもしれない。発した方は「やる」でも、受け取る方は「やらない」と。言葉はともかく、現実に目を向けると、経済対策とりわけ株価・為替対策は最優先すべき課題。25日になって野田財務相が一歩踏み出す考えを示唆したが、菅内閣に向けられる目は厳しさを増している。(A)


8月25日(水)

●焼け付くような照り返しが肌に痛い。前日まで続いた土砂降りの雨がうそのようだ。亡き戦友のためにたてた茶を祭壇にささげようとした瞬間、足が止まった。無風だったはずの上空から一陣の風が舞い降りる。涙があふれ、歩を進められなくなった▼6月、沖縄での慰霊祭。茶道裏千家前家元、千玄室さんの述懐である。23日、七飯町内で開かれた「平和の祈り記念講演会」で千さんは、当時の状況を「“千の風”がサーッと吹いた」と表現。特攻隊員として命を落とした友人ら戦没者への哀惜にあふれた、感動的な講演だった▼翌24日、同町内流山温泉での慰霊「お茶湯」。千さんの言う「奇跡」が再び起きた。それまでの雨が開会直前にやみ、地元児童による「千の風になって」の合唱が終わるころには透き通るような青空に。参列者はそのことに一様に驚き、やがて感動の空気に包まれたという▼今回の一連の催しでは、千さんの戦友で彫刻家の流政之さん、名曲「千の風—」を作った新井満さんも顔をそろえた。別々の世界でそれぞれ頂に達した3氏が七飯に集い、平和への願いを一つにする。このことを単なる偶然とは思いたくない▼「亡くなった連中(戦友)の分まで」と千さん。それは「ほかの人のために何ができるか」という自問でもある。平和への思いを込めてまいた種が芽を吹き、少しずつ仲間を増やす。行動のないところに奇跡も感動もない。(K)


8月24日(火)

●運転免許証の更新がまだ半年も先なのに、警察から講習予備検査(認知機能検査)と高齢者講習の手続き案内がきた。「すみやかに講習の予約を」というので、近くの自動車学校に申し込んだところ、込んでいるので12月の予約となった▼数カ月先まで予約が詰まっているのは、それだけ高齢者ドライバーが増えているのだ。後期高齢者になると、運転感覚が鈍るのは事実。高速道を逆走したという話を聞くと、高速入り口の標識で確認すれば事故など起きないのにと思っていたが…▼その高齢者が付ける運転標識「もみじマーク」。13年前に導入されたが、枯葉や落ち葉みたいで“人生の晩年期”を宣告されたようだと評判はよくなかった。確かに「涙」を連想させ、見方によっては「切なさ」すら募らせる▼割り込みや、あおり運転の嫌がらせを受けたり、自宅に駐車しておけば老人世帯と分かり、犯罪者の標的にされることも。そこで登場したのが「四つ葉マーク」。幸福を象徴する四つ葉のクローバと「シニア」を表す「S」の文字をデザイン化▼葉の緑は若々しさ、黄とだいだい色は豊かな人生経験を示しているという。年内には導入するが、当分の間は「もみじマーク」も認める。新マークになったからと言って犯罪者に狙われるのは変わらないが、周りのドライバーの思いやりと寛容が一層求められる。初めての「認知機能検査」に今からどきどきしている。(M)


8月23日(月)

●わが国の有給休暇消化率は先進国で最低—。外国通信社などが行った調査結果で改めて示された。「そうだろうな」。現実に実感できているから変に納得するが、同時に一種の感覚マヒという思いもこみ上げてくる▼労働者の“休み”に関しては、欧米諸国から常に遅れをとっている。週休2日制がそうだった。有給休暇は制度として整備はされてきたものの、運用面はどうか、となると、まだまだの域。その精神が生きるレベルに至っていない実態は別の調査が浮き彫りに▼60%の人が年間10日以内の消化にとどまっているという。気になる理由だが、見え隠れするのは、わが国らしい勤労意識。「仕事が忙しい」「上司や同僚に迷惑をかける」「上司がとらないから」「病気の時などのために残しておきたい」▼気持ちよく有給休暇がとれる環境が醸成されているとは読み取れない。一方で、給与や福利水準同様に企業間の格差があって、消化率は官公庁や大企業で高く、中小零細企業は低い。話は戻って、外国通信社による各国の消化率だが…▼トップはフランスの89%で、イギリスやドイツなどは70%台。ほとんどの国が50%を超えている。それに対し、わが国は、というと、先進国の名が泣く33%。「せめて70%台へ」。その実現に求められるのは国の誘導策。完全消化企業に対する税制等の優遇措置とか、を改めて考える段階にきている。(A)


8月22日(日)

●児童虐待が後を絶たない。全国の児童相談所で対応した虐待の件数は、過去最悪のペースという。ただし、これは表面化したケースに限った傾向。家庭内に埋もれ、外に出ない事例も一方にある。児童虐待の本当の数を把握することは極めて難しい。その実像を想像すると正直、怖い思いに駆られる▼児童虐待の種類は「身体的虐待」「性的虐待」「心理的虐待」「ネグレクト(養育の放棄)」の4つ。このうち殴るけるなどの暴力行為は子どもに外傷が残るため比較的、表面化しやすい。最近では、親が子どもに熱湯のシャワーを浴びせる事件もあった▼逆にネグレクトは発見が難しく、大阪のマンションで幼い姉弟が遺体で見つかった事件が記憶に新しい。母親が約2カ月、一度も帰宅せずに食事も水も与えなかったという。この母親は殺人容疑で逮捕された▼函館中央病院が院内に児童虐待防止委員会を設置した。けがをした幼児、児童に虐待が疑われるケースなどに目を光らせる。「院内連携を密に、スピード感を持って対応する」というから心強い▼身体的なものに限らず、ネグレクトなど他種の虐待への対応にも期待が集まる。そのためには病院だけに頼ることなく、児童相談所をはじめとする専門機関の積極的な関与が不可欠となる。地域一丸で子どもたちを守る—。予防に必須な意識を高め、各機関の横のつながりを再強化することから始めたい(K)


8月21日(土)

●激暑、酷暑、炎暑、猛暑、炎熱、焼け付くほどの暑さ、うだるような暑さ、クソ暑い、殺人的な暑さ…。つい口に出てしまう。気象用語でいう「暑夏」だ。動くのも面倒だから“どっこい暑”という人もいる▼異常高温の炎は異常に強く、列島は1カ月も燃えている。函館でも真夏日が続く。先日、一緒にまわっていたパークゴルフの75歳の仲間がよろよろと倒れた。顔は真っ青、意識もうろう、救急車を呼んで病院へ。幸い大事には至らなかった▼今夏はラニーニャ現象によって太平洋高気圧が列島を覆っているとか。この2カ月半に熱中症で病院に運ばれた人は全国で3万人を突破、搬送された直後に亡くなった人は130人を超えるという。頭痛、吐き気…体温が40度を越えると危険▼さいたま市で電気代が払えず年金暮らしの76歳の男性がエアコンを使えず死亡。大半は高齢者だが、東京ではエアコンが修理中で使えずに死亡した20代の男性もいた。狙われるのは人ばかりではない。海水温が高いため、道東沖のサンマがさっぱり獲れず、食卓に上がらない▼実りの秋を前に果物や農作物への影響も心配されている。23日は「処暑」。暑さが終わるという意味。でも、油断はできない。これまでの暑さに体力が弱くなって、夏バテや食中毒にもかかりやすい。「ラニーニャ現象よ、鎮まれ」。炎暑をもろともせず咲き続ける百日紅(さるすべり)に猛暑撃退のパワーをもらおう。(M)


8月20日(金)

●「交通信号機がなかったら」。そう考えると、恐ろしくなる。事故は増え、交差点はかなり渋滞しよう。警察官が交差点の真ん中で、手信号で裁いていた時代が思い出されるが、大都市では道路に車があふれ返るに違いない▼いわゆる自動式の三色灯交通信号機が、わが国に初めて登場したのは、1931(昭和6)年の8月20日。東京・銀座の尾張町交差点(現銀座4丁目)と京橋交差点など34カ所だったといわれる。80年ほど前だが、今や市街地の交差点はほとんどに▼国道をはじめ改良舗装など道路整備のテンポに合わせるかのように設置は進んだ。その数、今や全国で約20万基という統計があるが、北海道内は、と言うと、道警資料で約1万2993基(今年3月現在)。この2年で200カ所ほど増えている▼近年は右折専用の矢印灯や切り替わり時間表示付きの歩行者灯など、より安全を誘導する信号灯が増設される動き。こうして進化の恩恵を受けている割には、信号機に対しては意外と無関心。例えば灯(レンズ)の大きさ…。全国的に多くは直径30㌢という▼LED(発光ダイオード)の採用は既に10%超に。そして事故防止に最も大事なのが三色の意味だが、正しく認識されているだろうか。「青」は「進め」という強制ではなく「進んでもよい」で、「黄」の基本精神は「止まれ」、もちろん「赤」は「進んではいけない」である。20日は「交通信号の日」。(A)


8月19日(木)

●“100年の眠り”についた「眠れる森の美女」のオーロラ姫は、なぜ眠ったのだろうか。一般的には紡ぎ車の針や麻糸と言われているが…。針が刺さったのなら“痛くて眠れぬ美女”だ。今様なら睡眠薬を処方されたのか▼ストレス、うつ病…、猛暑日も加わって眠れぬ夜が続く。何日も続くと、もうろうとなり危険だ。病院に駆け込んで睡眠薬を処方してもらう。飲み忘れると、また眠れぬ夜が続く。3日も我慢すればよいのだが…。誰もが一度はこんな経験を持つ▼睡眠薬は精神安定への手っ取り早い処方。このところ、4年間で医療機関が患者1人に処方する1日分の睡眠薬の量が3割も増えた。患者の3割が4年間も飲み続けている。うち7割が処方の量が減っていないという(厚生労働省調べ)▼晩婚で高齢出産の知人の奥さんは子育てなどで悩み、うつ病になり、睡眠薬をはじめ、4種の向神経剤を処方してもらったものの、「重かったためか、効果がどう出てくるか、難しく、数年はかかった」という。今ではバイトをするまで回復した▼厚労省は「漫然と処方されているのではないか」と危ぐ、睡眠薬の投与と減量法のガイドライン策定に着手するという。でも「眠れる森の美女」のように紡ぎ車の針で、という訳にはいかない…。睡眠薬に頼らず、家族が悩みを共有して“豊かな心”を育むことが肝心ではないか。「人を眠らせなくなった社会」を乗り切るためにも。(M)


8月18日(水)

●政治の役割は何か、それは「国民の生活を守る」ことで、具体的な施策の一つとして「雇用」は欠かせない。「仕事」の安定なくして「生活」の安定はないからだが、その雇用環境に改善の兆しはのぞかず、完全失業率は依然として5%台▼改めて言うまでもなく、賃金の低下も含め雇用の不安は、消費を冷やし、生産活動を抑制させる。わが国の経済はその悪循環から抜け出せないでいるのだが、長引くしわ寄せは、これからの時代を担う若い人たちに容赦なく襲いかかっている▼先日、文科省が発表した統計には、信じがたい数字が並んでいた。今春、大学を卒業したものの就職も進学もしていない進路未定者が、ほぼ5人に1人の10万6397人。しかも8万人を超える人がアルバイトもしていないというのだから▼やむなく留年を選択した学生も10万人規模というから、実態はさらに深刻。これでは社会の循環機能が麻痺してしまう。失業者が多い上に、新たな就業者の実態がこうでは、影響は税収、年金財政を直撃する。本来なら納付しているはずの人ができないでいるのだから▼アルバイト程度で国民年金の保険料を納付せよ、というのも酷な話。今の生活はぎりぎりと言われると反論のトーンも下がる。事実、厚生労働省によると、昨年度の国民年金の納付率は60%まで落ちている。恐ろしいのは、こうした“つけ”が次の世代へと順送りされていくことである。(A)


8月17日(火)

●昨年、オリジナルアルバムのリマスター盤が発売され、古くからのファンのみならず、若者の間でも再びブームを巻き起こしたビートルズ。その時のラインアップから外されていた通称「赤盤」「青盤」と呼ばれるベスト盤が、いよいよ今年の10月に発売されることが発表された▼ビートルズのベスト盤と言えば、2000年に発売された「ザ・ビートルズ1」が有名だ。これは、イギリスとアメリカのヒットチャートで1位に輝いた作品ばかり27曲を集めた超強力盤で、全世界で3000万枚の大ヒットを記録した▼ナンバー1作品を網羅した文句のつけようのないアルバムではあるが、実はファンの間からは不満の声も出ていた。「ノルウェーの森」「イン・マイ・ライフ」「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」など、シングル化されなかった名作が含まれていなかったためだ▼「赤盤」「青盤」はビートルズ解散後の1973年に、ジョージ・ハリスンが選曲し、残り3人のメンバーもその内容にお墨付きを与えたという、いわばビートルズ公認の唯一のベストアルバム。単純にチャートのランキングを元に選曲したアルバムとは質が違うというわけだ▼もちろ「赤盤」「青盤」には、前述したシングル化されていない名曲がしっかりと収められている。「ビートルズ1」世代の若者にもぜひ手に取ってもらい、さらに奥深いカブトムシの森に迷い込んでもらいたい。(U)


8月16日(月)

●「駅ビルの屋上に家庭菜園」。もちろん東京周辺での話だが、よく考えると「楽しみプラス実益」「環境対策」の一石二鳥の策でもある。ヒートアイランド対策として屋上緑化は不可欠であり、一方で菜園に対する需要もあるのだから▼道路のアスファルトやビルのコンクリート熱が、さらに気温を上げる。それがヒートアイランドと言われる現象で、対策として有効なのが屋上や壁面の緑化。わが国では20年ほどの歴史でしかないが、条例で義務づける動きも徐々に▼技術面でも防水化などビルへの影響を避けることができるように。上京した折、気をつけてみると、確かにビルの緑は増えている。その多くは芝や樹木の植栽だが、楽しみながら新鮮な野菜を手にできる菜園人気は、屋上の利用多角化のヒント▼そもそも大都会で賃借できる畑地を探すのは大変。遠く離れた地で借りて休みの度に通う人もいるそうだが、現実的な姿として一般的なのがベランダなどでのミニ栽培。「需要はある」。関連商品の売れ行きもそう物語っている▼今月初旬の読売新聞が報じていたが、JR東日本が事業として乗り出したという。計画したのは新設の高崎ターミナルビルで、一区画6平方メートルとして指導付き月額6000円。まさに大都会価格だが、どんな反応があるか。もしかして何年か後には…。「屋上菜園」がブームとなっているかもしれない。(A)


8月15日(日)

●年とともに物忘れがひどくなった。顔は覚えているのに相手の名前を思い出せなかったり、備忘のために残したはずのメモが見つからなかったり。「忘」は心を亡くすと書く。失念の範囲なら冷や汗をかく程度で済むが、忘却のかなた—となると話は別。我が身のことだけに、心をどこかに置き忘れたような虚無感にとらわれる▼日本人は忘れっぽい性分と言われる。時々の重大ニュースも、わずかな歳月で過去のものに。悲惨な事件、事故を早く忘れ去りたい気持ちは分かるが、繰り返し検証が必要な「忘れてはいけない出来事」も一方に存在する▼中国で、山東省の乳製品メーカー製の粉ミルクを飲んだ赤ちゃんの胸が膨らむなど早熟現象が相次いで報告されている。粉ミルクに女性ホルモンが混入していた疑いがあり、2008年の汚染ミルク事件に続く食品安全問題に発展する可能性もあるという▼対岸の火事ではない。BSE(牛海綿状脳症)、牛肉偽装事件、産地などの相次ぐ偽装表示、そして最近の口蹄疫問題。残念ながらここ日本でも「食の安全・安心」を脅かす事例には事欠かない▼これらのいくつかに至っては、「そういえばそういうことも…」という声が聞こえてきそうだ。問題山積の中国を特別視するのではなく、今回の汚染ミルク問題を日本国内における課題洗い出しの契機に—。災難は往々にして、忘失のすきに付け込んでくる。(K)


8月14日(土)

●♪そろよそよ風 牧場に街に…手拍子そろえてシャシャンがシャン〜 真夏の夜にひびく子供盆踊りの歌。お盆に帰ってきた先祖が、子どもたちの盆踊りに目を細めている。でも、帰りたくても帰れない人もたくさんいる▼お盆には“怪談”がつきもの。皿を数える美しすぎる幽霊。何度、数えても皿の数が足りない。かたや、炎暑の列島で「行方知れず」の高齢者を数える役人。数えるたびに、その数が増えていく。“幻の人生”は、皿屋敷の怪談よりも怖い▼戸籍上では125歳、127歳…。毎年、8万件の捜索願が出ている。身元不明の遺体は1000体以上にものぼる。少子高齢化で核家族化が進んで、親子、親類の絆が希薄化したといわれて久しい。人を遠ざける“悪霊”が棲みついてしまった▼お盆の¥15¥日は釈迦の弟子・目連が百味の飲食で修行僧を供養し餓鬼道で苦しんでいる母親を救った日。身内で亡くなったら死亡届を出すのが当然。しかも、悪霊にとりつかれて年金まで受け取っていたなんて犯罪ではないか▼タイの地獄寺には「鳥を殺した人は鳥に内臓を食われる」という教訓があるという。行方不明者を書類上で生かし続け、悪用したら、死ぬまで“心の地獄”がつきまとう。お祝いを贈ったり、ごちそうしたりする「生身魂(いきみたま)」という習わしもある。一緒に子どもたちの盆踊りを見せてあげたい。〈涼しさや くるりくるりと冷し瓜 正岡子規〉(M)


8月13日(金)

●函館に来て7回目の夏。本州でも夏の気温は高く、湿気も多い富山で育ったコラム子も、今年の夏は寝苦しい。同じマンションに住む関東からの移住者も「今年の夜は暑いね」とややバテ気味の様子▼真夏日を数えると今年は12日現在3回。最初の夏だった2004年は8回あったが、夜は気温が下がったので寝ることができた。しかし、先月から今月にかけ、温かい空気の流入が続き、夜でも気温は下がらなかった。これが寝苦しさの原因▼今年最も暑かったのは今月6日から7日にかけて。函館海洋気象台によると7日午前4時ごろの函館の最低気温は24・5度で、観測史上1924年7月21日に並び最も最低気温が高かった。この時期、函館の夜の湿度は80%を超えることが多く、高温と湿度に参った人も多かろう▼気象庁の用語に「熱帯夜」がある。夜間(夕方から翌朝まで)の最低気温が25度以上のことをいう。この話を生まれも育ちも函館の80代男性にすると「ネッタイヤって何屋さん」と答えた。函館はこれまで無かったのだから知らないのも無理はない▼函館で最低気温の高い記録は85年、94年、2004年に多い。実はいずれも台風の発生も多い年である。今年は4号が12日に近づいた。8月の台風接近は07年の5号以来、08年は年間ゼロ、09年は同1個のみだった。ここ数年は台風による大きな被害は発生していないが、これからの季節は十分な警戒が必要だ。(R)


8月12日(木)

●作家、作詞作曲家などとして活躍する新井満さんから転居のはがきを頂いた。横浜市から七飯町大沼地域に移り住んだという。はがきには駒ケ岳と大沼の神秘的な風景、夫人が世話している羊や豚の写真が配され、少年時代からの憧れだったという「仙人の暮らし」の一端がうかがえる▼担当記者が、転居に関する取材をお願いした。「広く知らせるようなことではないから」とソフトに辞退されたようだが、新井さんが大沼に住むということは地域住民にとって特別な意味を持つ。その趣旨を理解した新井さんは、無理な取材依頼にも快く応じてくれた▼大沼は、大ヒット曲「千の風になって」の誕生の地という。新井さんは20年ほど前、大沼に別荘を購入。のちに名曲として知られる「千の—」の作曲、訳詞をここで手掛けた。七飯、大沼の人たちが新井さんの転入を歓迎する理由もここにある▼11日付本紙の記事によると、台風の風倒木で別荘に幽閉状態となった新井さんを助けたのが地域住民だった。「この時、こんな素晴らしい地域はないと思った。地元の人ときずなが生まれた」▼新井さんの述懐には、地域住民への愛情が込められている。住民もまた、その気持ちに応えようとする。移住者と地域の縁は、そういった関係性の上に成り立っている。景色や気候以上に大事なものは「人」であり、新井さんの移住がそのことを端的に物語っている。(K)


8月11日(水)

●崖下に飢えた母親トラと7匹の子トラがうずくまっていた。子トラに与える乳も出ないほど痩せ細って…。通りかかったサッタ太子(出家前の釈迦)が崖下に身を投げ出して母子トラを救った。「捨身飼虎」の仏話▼かつて小欄で「ドナー」の語源はサンスクリット語の「ダーナ」ではないかと触れた。中国、日本に渡り「旦那=与える、ほどこす」となり、欧州に渡って「ドナー(寄贈者、臓器提供)」となった。身を捨て人のためになることだ▼改正臓器移植法によって、家族の同意だけで脳死になった人から臓器の摘出・提供ができるようになった。15歳未満の小児からの臓器摘出も可能になり、海外に頼っていた子どもにも移植の道が開けた。その法改正後初の脳死判定が先日あった▼20代の男性。臓器提供の意思表示カードは持っていなかったが、生前、家族に「万が一のときは臓器提供してもいい」という意向を伝えていたという。心臓は20代の男性、肝臓は60代の女性、腎臓は10代の男性に…。尊い命のリレーだ▼生前のドナー登録制度が普及していない中国では、提供臓器の65%を死刑囚に頼っている。釈迦の「捨身飼虎」の話は「身を捨てる覚悟がなければ悟りはひらけない」ことの比喩(ひゆ)。脳死になったら臓器提供に同意するかなど運転免許証や保険証に明示しなければ。もちろん、家族との話し合いも十分に。(M)


8月10日(火)

●政権が交代して間もなく1年。政治の信頼は、経済は、社会保障は…1年で答えを問うのは酷、という声も尤もだが、何か変わりそうな気がする、といった実感もない。なにせ財政はひっ迫し、国債の発行も膨れに膨れている▼「財源がない」。毎年繰り返される次年度予算案の編成期の財政論議。政権につく前は勇ましかった無駄の洗い直しも思うに進まず、落ち着いた先は各省庁一律10%の削減。その際の大臣の反応がさまざまな中で、原口総務相から注目に値する発言が▼政党助成金に触れて「ゼロベースで聖域なく議論していくことが大事」と。削減の例外ではないという意味だが、当然といえば当然。改まるはずだった「政治とカネ」の疑惑はいっこうになくならず、政治不信、政治家不信を濃くしているのだから▼その政治家の多くが所属する政党に交付されているのが政党助成金。政党交付金ともいわれるが、企業や団体などからの政治献金を制限する代わりとして制度化された。その国民負担額は支持する政党のあるなし、老若にかかわらず1人250円▼国会議員数が5人以上など要件を満たし、申請した政党(共産党は辞退)に払われ、総交付額は年間約320億円。しかも、この16年間、検証もされていない。せめて「聖域なき…」発言が、大臣の単なる思いつきだった、で終わらないように。議員定数の削減の対応とともに厳しい目を向けていたい。(A)


8月8日(日)

●道議会の議員定数見直しで、各会派代表でつくる検討協議会は、定数を2減らして104とする座長試案をまとめた。定数3の渡島とオホーツクをともに1減とする内容で、最大会派の自民党は所属議員が容認しているという▼公選法は、各選挙区の議員定数を人口比で決めるよう定めている。2007年の道議選では、渡島東部旧4町村が函館市と合併したため渡島の人口が減り、議員も削減が検討された。結局、上磯町と大野町が合併して誕生した北斗市を単独選挙区とし1増、その分渡島を1減とし、事実上の定数は変動がなかった▼このように、人口比で議席を配分する方法は分かりやすい。しかし、札幌への一極集中が進む中、人口比だけで見直せば、札幌市部の議員が増え、地方の議席が減り続ける。地方の議員は人口が少なくても、汗を流す選挙区は広い▼さらに削減論議で難しいのは、政党や会派の思惑や事情が絡むことだ。削減対象となる選挙区では、現職を多く抱える政党や会派から反対論が出る。現に今回は、渡島と同程度の人口と定数で削減対象になっていない選挙区もある▼道議会の定数見直しは避けられない。ただ、道政全体の視点に立って地域の声を伝え、施策を求める議員は必要だ。公選法では、特別な事情があるときは人口を基準に、地域間の均衡を考慮して決める、とある。オール北海道のバランスからも適正数を議論してほしい。(P)


8月7日(土)

●旬の秋刀魚(サンマ)を期待していた人には、今年は高根の花となりそうだ。走りの漁模様は極端に悪く、浜値は昨年の20倍をつけ、初物の値が東京では1匹1500円だったという。この値は極端にしても、庶民の手にはほど遠い▼サンマの漁は7月の流し網漁に始まり、棒受け網漁へと移って本格化する。ここ数年は豊漁レベルで推移し、昨年も350万トンが水揚げされたが、水産庁が先日、発表した今年の推定資源量(見込量)は221万トン。なんと38%も減少するというのである▼いくらサンマは庶民の味と唱えても、この量では高値推移を翻せない。まさに異変。今夏の日本列島は猛暑に襲われているが、どうやら、それと無関係でないらしい。北海道沖の表面水温が高いことの影響とみる向きが一般的▼としたら、来年以降にも不安が残る。いうまでもないが、食料生産の二本柱の一つ、農業が気象の影響を受けるのはよく知られる。農作物は日照時間や気温、雨量によって生育が左右されるのを確認できるからだが、漁業は直接的でないから実感に乏しい▼海水温の変化などに影響し、無関係でない。「異常気象」や「温暖化」といった言葉は今や日常語。それだけ気象のメカニズム、サイクルが狂っていることの証しだが、別の視点でとらえるなら、それは原因を作っている側への警告であり、負わざるを得ない付け。なのに、温暖化対策は進んでいない。(A)


8月6日(金)

●泣いて泣いて泣き疲れて 折り鶴にいつも励まされて 折り折り折り続けて…残されたのは薬の包み紙で折られた小さな鶴たち〜 シャンソン歌手、クミコさん(55)が歌う『INORI〜祈り〜』▼かつては病院が調剤する薬は薬包紙に1回分ずつ包んで患者に渡していた。折り紙で五角形の折り方で薬包みを作った。広島の「原爆の子」のモデル、佐々木禎子さんが、被爆して12歳で世を去るまで病床で折り続けた鶴。すべて薬包紙だった▼55年前、白血病の少女が生きる希望を千羽鶴に託した「祈り」は心打つ反戦の歌だ。曲を作ったのは少女のおいの佐々木祐滋さん。クミコさんは「人が一生懸命にどう生き抜き、いかに死んでいくか。それを伝える人間愛の歌」として歌い始めたという▼発売から半年たっても有線放送のランキング上位を続け、コンサートでは戦争を知る世代、知らない世代、それぞれの心をとらえ、観客は涙を流しながら聞き入る。薬包紙を使った「折り鶴の輪」(薬包紙は病院が提供)も全国各地に広がっている▼二度と二度とつらい思いは誰にもしてほしくはない〜 原爆投下の6日の平和記念公園には、たくさんの薬包紙で折った千羽鶴が舞う。今年の平和記念式典には国連事務総長をはじめ、米英仏など17カ国から初めて代表が出席する。クミコさんが熱唱する『INORI』に耳をかたむけて、少女の祈り「核なき世界」を実現してほしい。(M)


8月5日(木)

●東京ドームの敷地内に「鎮魂の碑」がある。日中戦争や太平洋戦争で命を失ったプロ野球選手を慰霊するため、1981年にプロ野球コミッショナーによって建立された▼石碑には沢村栄治、沢村の好敵手の景浦将など69人や、戦友とキャッチボールしてから神風特別攻撃隊員として出撃した石丸進一のことが刻まれている。野球人でなくても忘れてはならない名や話である▼終戦記念日まであと10日。今は夏休み真っ盛り。ドーム周辺は野球やイベントで連日にぎわう。全国から訪れた家族連れらが、時代の波に巻き込まれ、悲劇に見舞われた野球人のことをしのんでいる▼終戦から65年の現代、バットやボールを銃に持ち替えることはない。しかし五稜郭公園で開催中の「函館野外劇」では、箱館戦争のシーンで函館大学野球部員が旧幕府軍の鉄砲隊士として出演しており、新政府軍に発砲する役目を担っている▼部員は毎回10人出演する。6月に開かれた全国大学選手権で、東京ドームのマウンドに立ったエース、ホームランを打った強打者も、練習後に黒装束に着替え、ボランティア活動する▼彼らのほとんどは本州各地から来ている。転勤で道内から赴任した渡島総合振興局の職員も同じ場面で出演し、函館の夏の風物詩に貢献している。地元に住む者として観劇し、函館の歴史絵巻を伝えることで野外劇を支える。今年の公演もあと6、7日の2回のみ。(R)


8月4日(水)

●死別する原因は病死に限らず、交通事故や地震など災害に遭ったり、事件に巻き込まれたり、自殺したり…。真夏の8月は、お盆などで亡き人と語り合う月でもある。人の手によって、絞首刑で他界した人は、どう話しかけてくるだろう▼先の選挙で落選した千葉景子法相が2人の死刑執行命令書にサインしたのは参議院議員の任期が切れる前日だった。死刑廃止を推進する議員連メンバーなのに、なぜ死刑執行に急変したのか。執行現場にも立ち会ったと言うが、唐突の感はぬぐえない▼拘置所の刑場も報道機関に公開するという。8畳ほどの刑場。正面には仏壇。首につけられた輪のロープ。執行官がレバーを引くと床が開いて奈落の地下に落下。医師が13階段下りて、生死を確認…(53年前、大阪拘置所で見学)▼千葉法相は「執行命令が実行されたか」を確認するため、執行レバーに触れたのだろうか、地下の冷たい床から12センチの高さに止まった足を見たのだろうか…。この時期の執行は民意を得ない法相続投という批判をかわす狙いとの見方も▼死刑囚は100人超。「ベルトコンベア式に」と言った大臣もいた。絞首刑が適切かどうか、本人にどう執行を告知するか、死刑罰をどうするか、大いに論議する必要はある。昨年、死刑を執行した国は日本など18カ国(死刑廃止は139カ国)。人の手によって“奈落の底”に落ちた人たちは、お盆に帰ってこられるだろうか。(M)


8月3日(火)

●「夏山を甘く見るな」「ツアーは慎重に」。中高年の登山ブームは、さまざまな問題を提起している。昨年7月、トムラウシ山の9人死亡の遭難が記憶に新しいが、道内ではこの1週間ほどの間にも救助要請を求める事態が2件▼山が好きだが、現役時代は時間がなかった。リタイアしたのを機会に、夫婦で登りたい。とはいえ経験が足りないから単独は難しい。ましてや北海道など遠くの山となると…。ツアーなら効率よく、ガイドも帯同してくれるから飛びつきやすい▼このツアー登山にも落とし穴がある。参加者全員の登山技量が同じでないことだ。山登りで大事なのは自分のペースだが、ツアーだとそうもいかない。しかも山の気象はめまぐるしく変わる。風雨や急激な気温の変化が体に与えるダメージは大きい▼トムラウシ山での遭難者の死因は低体温症だった。この1週間ほどの間に、日高山系で2件のツアー登山者の救助出動があった。いずれも日高山系で、カムイエクウチカウシ山で5人(7月28日)、ヌカビラ岳で8人(8月2日)。天候の急変、疲労だった▼いずれも50歳以上。幸いにトムラウシ山の教訓が生きていた。通信機器を装備し、早めの救助要請というガイドの判断があった。よく言われる。「登りたい」と「登れる」を混同してはならない、と。中高年の登山愛好者に何より大事なのは、自分の力量を謙虚に認識することである。(A)


8月2日(月)

●「世界的にもっとも有名な日本人揮者」を問われて、小澤征爾氏(74)の名前を上げないのはよっぽどのへそ曲がりだろう。晩年にシカゴ響を振った故朝比奈隆氏や、東欧で絶大な人気を誇る小林研一郎氏、BBCウェールズ響桂冠指揮者の尾高忠明氏などの活躍も目覚ましいが、小澤氏の華々しい活動歴には歯が立たない▼若干24歳でブザンソン国際指揮者コンクールに優勝すると、1960年代初めから世界を飛び回り、73年にはアメリカ5大オーケストラの一つ、ボストン響の音楽監督に就任。日本人の“西洋音楽後進国”コンプレックスを痛快に吹き飛ばしてくれた▼何よりグラモフォンやフィリップスなど、超有名な海外演奏家の名前が並ぶメジャーレーベルから彼の録音がリリースされるようになったことは革命的だった▼賞賛すべきは、海外を拠点にしながら、日本国内にもしっかりと目を向け続けていること。1984年に著名な日本人演奏家に呼び掛け結成した「サイトウ・キネン・オーケストラ」は、ヨーロッパ公演で旋風を巻き起こした▼この超人的な活動ぶりも病気には勝てず、今年1月からは食道がんの治療に専念していたが、1日に公開リハーサルに復帰。15キロの体重減は痛々しいが、パワフルなタクトは健在。80代でも現役が珍しくない指揮者の世界。さらに1ランクスケールアップした“世界のオザワ”の音楽を聞かせてほしい。(U)


8月1日(日)

●今年も「原爆の日」が近づいてきた。あの日から65年。わが国は唯一の被爆国として、核廃絶を訴え続けているが、悲しいことに現実の姿として実を結んでいない。「さらなる訴えを」。今、新たな取り組みが提起されている▼原爆の悲惨さを後世に伝えることは、今日、生きている者の責務。被爆者の証言は最重要の伝承記録であり、全国で数多くまとめられている。それを世界にどう知らしめていくかが課題だが、一つの解決策として浮上しているのが世界記憶遺産への登録▼ユネスコ登録の世界遺産は、いわゆる自然、有形文化遺産の知名度が高い。わが国にも知床、白神山地など14件が登録されている。実はそればかりでなく、世界遺産には他に無形文化遺産、記憶および記録遺産がある。「該当に値する」▼毎日新聞が報じていたが、提唱したのは東京の弁護士。賛同者の輪が広がって、今年2月には取り組みの準備委員会が発足している。広島や長崎市など各方面の協力を得て証言録などを収集、整理した上で国に登録候補としての選定を求める考えという▼「ノーモア被爆」の訴えは、地球上から核がなくなるまで終わりはない。ゆえに少しの可能性にもかける姿勢を持ち続けなければならない。世界記憶遺産の登録は193件というが、その中に被爆の事実と伝承がないこと自体が不思議。国が率先して登録へ動くべき、という主張も間違ってはいない。(A)