平成23年11月


11月30日(水)

●「白い愛人」という名の菓子が登場する漫画があった。「恋人」ではない。「愛人」である。笑って許せる範囲と判断されたのだろう。その後、本家本元の「白い恋人」からクレームが付いたという話は聞かない▼その「白い恋人」を製造・販売する石屋製菓(札幌市)が、商標権侵害で吉本興業などを提訴した。問題の菓子「面白い恋人」は、主に関西方面で売られている。継続的な販売目的であることが、前述した漫画のケースとは少し異なる。笑いを取るのなら本業の方でどうぞ。訴えた側の本音だ▼「面白い恋人」と聞いた時は正直、罪のないパロディーの一種と受け取った。でもそれは、実害の及ばない一消費者としての感想に過ぎない。苦労してブランド力を高めてきたメーカーにすれば、かわいい我が子が傷つけられたようなもの。これを許せないという心情は理解できる▼転じて、函館には他に誇れるブランド力が存在するか。残念ながら、そうした企業や商品は決して多くない。むしろ「函館」の名が先行してブランド化された。この陰に隠れたことで、全国に知られるほど特定の商品などが育たなかったという見方もできる▼誤解を恐れずに言えば、商品がまねされることは一種の“有名税”である。商標権侵害は断じて容認できないが、一方で「まねされること自体が優れた商品の証」ともいえる。今回の一件がそれを教えている。(K)


11月29日(火)

●一般参賀でパチンコ玉4個が撃たれる、東大の安田講堂で攻防戦、日本初の原子力船進水、アポロが月面着陸、モーレツ社員が頑張ってイザナギ景気が続き、日本のGNPが世界2位に躍進した1969年▼大学卒の初任給は3万1200円、新発売のセブンスターが100円。流行語は「ゲバゲバ」だった。小川ローザのスカートがめくれ「Oh!モーレツ」のCMも強烈だった。この年にヒットしたのが由紀さおりの「夜明けのスキャット」▼♪ルー、ルル、ルー〜。友達が彼女の新アルバムが出たと持ってきたのが「1969」だ。米国のジャズ・オーケストラの演奏で吹き込み、マンボやジャズ風にアレンジした歌声は米国のジャズチャートで1位に。シンガポールやギリシャでも上位にランクイン▼日本語の歌謡曲が海外のヒットチャートをにぎわすのは痛快だ。「夜明けの…」のほか、「ブルー・ライト・ヨコハマ」(いしだあゆみ)「いいじゃないの幸せならば」(佐良直美)など12曲を日本語で歌っている。20カ国超で発売。日本に逆上陸した▼「つらい時間を少しでも忘れられれば」と、姉と一緒に原発事故の福島で開いた慰問コンサート。「いつの日にか帰らん」と避難者と涙の合唱。新アルバムはロートル世代を回顧させるだけではない。流れる透き通った歌声は、夜明けを待つ被災地や世界の人々の心に染み込むことだろう。(M)


11月28日(月)

●大相撲九州場所は千秋楽、稀勢の里が琴奨菊に敗れたものの、大関昇進を確実にした。技巧や派手さは薄いが、力と気迫で正面から全力でぶつかり一歩も引かない相撲は、師匠の先代鳴戸親方(元横綱隆の里)に似ている▼早くから大関候補と言われた稀勢の里は今場所、師匠の急死という悲しみの中での土俵となった。ここ数年は一進一退の星勘定が多かったが、昨年の九州場所で白鵬の連勝を63で止めた実力は十分。今場所も正々堂々とした取り口で、審判員らの高い評価を得た▼先代鳴戸親方は現役時代、糖尿病を患いながらも辛抱と精進を重ねて横綱に登りつめた。猛稽古で肩に隆起するようについた筋肉と、腰は高いが怪力で相手を投げ飛ばす相撲を忘れない。引退後は弟子の指導に熱心で、土俵外でも「人間の幅を広げろ」と、読書や芸術鑑賞を勧めたという▼稀勢の里はインタビューで「親方に指導してもらったことを思い出し、しっかりと相撲を取った」「慢心しないでもっともっと上を目指す」と述べた。悲しみを乗り越え、亡き師匠への恩返しの報告と決意表明となる▼日本人力士の低迷に合わせるように、相撲人気が下降した。そうした中、琴奨菊に続き、二場所連続で日本人大関の誕生という朗報だ。存亡がかかった土俵際の今こそ、日本人力士の再起が欠かせない。稀勢の里、琴奨菊が新たな時代を切り開く両雄となることを願う。(P)


11月27日(日)

●東日本大震災の影響で、当初は開催自体も危ぶまれた今年のプロ野球だったが、ソフトバンクと中日による第7戦までもつれ込む日本シリーズの熱戦により、最高の盛り上がりの中で幕を閉じた▼今年から“飛ばないボール”が採用された影響からか、レギュラーシーズン中は本塁打や長打が激減し、各チームの平均得点が大幅に減少。野球関係者やファンからは「試合内容が地味になって詰まらない」と不満の声も多く挙がった▼日本シリーズでもその傾向は顕著で、7戦中4試合が2|1とロースコアの接戦。両チームによる最多得点も、第3戦の計6点にとどまるなど、華やかな点の取り合いを期待した人には物足りなかったかもしれない▼それでは筆者にとって、今年の日本シリーズが面白くなかったかと言えば、答えはノー。毎試合繰り広げられる一点を巡る緊迫した駆け引きにより、テレビの前にすっかり釘付けにさせられてしまった。大リーグばりのダイナミックな“魅せる”ベースボールにはない、日本ならではの緻密でスリリングなプロ野球の魅力を再認識させてもらった▼一方フィールド外では、選手たちの与えてくれた感動を曇らせてしまうようなごたごたが一向に収まらない。老舗球団のお家騒動、新規参入を巡る不穏な動き…。せっかくのプロ野球の盛り上がりに水を差すようなもめごとは一刻も早く解決してもらいたい。(U)


11月26日(土)

●企業の新卒(大学)採用活動の開始時期を巡る議論が後を絶たない。それだけ問題が多いということだが、今月中旬、日本商工会議所の岡村正会頭が一石を投じた。学生を3年次から就職戦線に巻き込むべきではないという趣旨の、まさに正論▼その尺度はともかく、いい人材を確保したい、という思いはどの企業も同じ。それが「他社より早く」となって、採用活動の開始時期は3年次。研究など最も充実する時期なのに、学生もついていくしかない。議論は現状の是非論である▼秩序ある採用活動を、と経団連が定めたのが採用選考に関する企業の倫理憲章。それに基づき開始時期の協定ができたものの、早過ぎるという批判は残ったまま。なにせ3年次の10月には採用広報(説明会等)ができ、4年次の4月からは採用選考が解禁だったから▼今年1月に打ち出された見直し協定も、表向き取り繕っただけ。採用広報の開始時期を2カ月延ばした12月とし、選考開始はそのまま。議論の先送りだった。こうした中で2013年採用の広報活動が始まろうとしているが、そこに飛び出したのが岡村会頭発言▼「4年次の4月から広報活動を始め、10月から選考活動を行うのが正常な姿」。少しの異論もない。大事なのは社会の秩序、さらには学生の側に立って考える姿勢。特に大企業だが、今、欠けているのはその部分。企業の見識が改めて問われている。(A)


11月25日(金)

●自らの死も笑いに変える。ある意味で欲張りな人だった。「上から読んでも下から読んでも“談志(だんし)がしんだ”」。死後の新聞見出しを“予言”したが、実際の訃報は、さん付けだった。「センスがないねぇ」と苦笑する顔が見える▼落語家・立川談志。人情噺を得意とする一方、時事問題を噺に盛り込むことも多かった。独演会では、カルト教団の教祖を演じ、空中浮揚と称して座布団の上を跳ねて見せた。古典を含む名人芸を堪能できたが、本人いわく「今日の出来は良くなかった。申し訳ない」。大真面目に頭を下げた姿が印象的だった▼立川さんは五代目柳家小さんに入門し、若手の本格派として頭角を現した。落語協会の理事も務めたものの、真打ち制度などで幹部と対立し脱退。良くも悪くも「風雲児」のイメージが付いて回った▼小さんに弟子入りし、修行を積んだ落語家は多い。現在は函館で活動する東家夢助さんもその一人。夢助さんは出前落語の地域活動に努め、本年度は道教育大函館校の特任教授に任命された。「落語に学ぶ対話の極意」などの講義が人気という▼同門だった談志さんと夢助さんの接点の有無は分からない。ただ、活動の場は違っても日本の伝統芸能と向き合う真摯(しんし)な姿勢に変わりはない。志半ばで逝った談志さんの分まで、夢助さんには末永く活躍してほしい。地方から落語の楽しさを伝える担い手として。(K)


11月24日(木)

●自分を公的にどう証明するか。今の時代、ともかく身分の証明を求められる機会が多い。確かに実感する。金融機関の口座開設に始まって、旅券など各種の申請手続き…商業現場でも売買が伴う場合など求められることがある▼その際に使われるのは、概ね健康保険証と運転免許証。いずれもほとんどの人が所持している公的証明だが、どちらかと言うと、免許証を提示する人が多数に違いない。その免許証も高齢になって返納したり、事情があって更新できなかったりすると、どうするか▼社員証など他に証明できるものがあるのは現役世代だけ。ということで、近年は住民要望に応えて「町民証」を出している市町村が増えている。外出時など事故に遭った時の身元確認に役立つという狙いもあってだが、免許証の代わりとなるにはまだまだ▼免許証を返納した際、6カ月に限って交付される運転経歴証明書の希望者が多いのもそれ故。昨年は全国で高齢返納者のうち4割に当たる2万5千人が求めたという。一つの返納誘導策として有効と判断した警察庁は、要望の多い証明期間を長期にする方針を固めた▼バスやタクシー業界の返納者への運賃割引もある。この両輪でさらに返納をうながそう…なぜなら高齢者の運転事故を減らす道となるから。現在、法の改正内容を詰めており、実現は来年にも。運転経歴証明書がその役割を増す日はそこまできている。(A)


11月23日(水)

●地下鉄、松本サリン事件などで殺人罪に問われたオウム真理教元幹部の遠藤誠一被告に対する最高裁判決が21日、言い渡され「サリンが何に使われるか知っていたのにサリンの生成に介入した」などと上告を棄却、死刑が確定。一連のオウム事件の公判は終結した▼遠藤被告は京大大学院医学研究科に在学中に入信。教祖だった松本智津夫死刑囚らと共謀、松本市で猛毒のサリンを噴霧し住民7人を殺害、東京の地下鉄内でもサリンをまき乗客ら13人を殺害。幹部ら14人による集団テロだった▼幹部は「世紀末にハルマゲドン(人類最終戦争)が起きる」との教えに共鳴した高学歴者が大半で、マインドコントロールされる体質の集団だった。地下鉄サリン事件では何と6000人を超す市民らが被害に遭った▼裁判上は終結したが、社会的にはまだ終わっていない。全国の24カ所に及ぶ教団施設(アレフと改称)の信者は1000人超といわれ、分派の「ひかりの輪」も200人を超す。施設には元代表の松本死刑囚の写真が飾られているという▼当時、オウムの車両係だった野田成人元幹部は「信仰で現実を見失った。若い人が希望を見いだせない今の社会では再びカルトが台頭してもおかしくはない」と警告(毎日新聞)。いまだに苦しんでいる多くの被害者に謝罪し、罪を償ってほしい。未曾有の惨事を生んだ「罪と罰」を問い直し、公判16年の教訓にしなければ。(M)


11月22日(火)

●人間の記憶ほど当てにならないものはない。よほどのことでもない限り時間の経過の中で頭から遠のいていく。わずか1年、いや半年の間のことでも。言われてみてそうだった、そんなことがあった、と思い起こすことが少なくない▼今年も残すところ1カ月余りとなった。12月に入ると、この1年の出来事を振り返る重大(十大)ニュースや新語・流行語、一文字で表す漢字などが次々発表される。確かに物事に対する認識は人それぞれで、誰もが同じというのは極めてまれだが、今年ばかりは…▼誰からも異口同音に同じ答えが返ってくるに違いない。「3月11日に発生した東日本大震災であり、それに起因した津波災害、福島原発事故」。今月10日に発表された世相表現の言葉を選ぶユーキャン新語・流行語大賞の候補60語にもうかがえる▼多かったのは大震災がらみの言葉。「3・11」や「絆」に始まって「瓦礫」「帰宅難民」「除染」「復興」「内部被ばく」「災後」「脱原発」「節電」「計画停電」「建屋」「メルトダウン」「シーベルト」「放射線量」…。もちろん「がんばろう日本」もあって、ざっと20余▼未曽有の大災害、復興は始まったばかり。当然といえば当然で、逆に少なかったら候補語の一つでもある「想定外」となりかねない。そのほかでは「なでしこジャパン」「スマホ」など。どの言葉が選ばれるか、大賞は12月1日に発表される。(A)


11月21日(月)

●「B級グルメ」という言葉が市民権を得て久しい。簡単には、安価で庶民的な飲食物のこと。地域性の強いものは「B級ご当地グルメ」と呼ぶ。わがまちの名物を「B級」と言ってはばからないあたりが潔くていい▼B級ご当地グルメの祭典「B—1グランプリ」が回を重ねている。このイベントの目的は「食べ物を提供するのではなく、“まちを売る”」こと。参加登録は自慢の飲食物ではなく、団体名で受け付ける。このこと一つを取っても、「まちおこし」につなげたいという、主催者側の強い願いが伝わる▼6回目となる今年の同グランプリでは、「ひるぜん焼そば好いとん会」(岡山県真庭市)が最高賞のゴールドグランプリに輝いた。ちなみに道内勢では、過去に富良野カレー、室蘭やきとり、オホーツク北見塩やきそばの各推奨団体が入賞を射止めている▼ここに函館の名がないのはやはり寂しい。確かにラッキーピエロのハンバーガー、ハセガワストアのやきとり弁当などは既に全国的な知名度を勝ち取っている。それでもなお、今のB級グルメブームに新函館名物を売り出さない手はない▼では、何をもって全国に打って出るか。そこが頭の痛いところだ。海産物などで確固とした函館ブランドを築いてきた先人たちの例があるだけに、そのハードルは高い。むしろイカ、塩味といった函館らしさを生かした新メニューはないか。夢は無限に膨らむ。(K)


11月20日(日)

●次期衆院選で公明党が、道10区(空知、留萌)の公認候補に比例道ブロックの現職、稲津久氏の擁立を決定した。比例代表と合わせ、道内2議席を狙う。全国でも9小選挙区での候補擁立が決まった▼稲津氏の小選挙区出馬は、以前から観測が流れていた。10月22日に函館市内で開かれた時局講演会で、稲津氏は「やってみろということになればきちんと政治判断したい」と意欲を見せ、盟友の横山信一参院議員も「そうなれば全力で支援する」と宣言した▼公明党は2009年の前回衆院選で、当時の党代表や幹事長らが8つの小選挙区に挑んだが、全敗の憂き目に遭った。しかし、ここでひるんでは党勢拡大はおぼつかない。道10区では今後、自民党との選挙協力や候補者調整が焦点となるが、自民党も候補者の選考作業中という▼自民党は道8区(渡島、桧山)でも次期衆院選の公認候補の選考作業を進めている。8区自民党は小選挙区に移行した1996年の総選挙から、民主党の鉢呂吉雄、金田誠一、逢坂誠二の3氏に5連敗中。野党に転落したとはいえ、かつての保守王国の底力を見せたいところだ▼解散・総選挙に向けた動きが本格化してきた。震災復興や増税論議、環太平洋連携協定(TPP)など内外の課題で、解散はまだ先との見方もあるが、いずれ2年以内にやってくる。自公協力や8区自民党の候補者擁立の動きからも目が離せない。(P)


11月19日(土)

●函館市縄文文化交流センター(臼尻町)に行った。道内唯一の国宝「中空土偶」はこれまでも何度か見ているが、そのたびに“縄文ロマン”をかき立ててくれる。この日も大勢の老若男女が訪れ、身近な施設に国宝が常設されている幸せを実感していた▼同センターのある南茅部地区からは、中空土偶以外にも膨大な数の遺物が発掘されている。現在は道内と青森・岩手・秋田の北東北3県が手を携え、縄文遺跡群をユネスコの世界遺産に登録する活動が熱を帯びている▼月刊誌「潮」12月号に同センター館長の阿部千春さんと、伊達市噴火湾文化研究所長の大島直行さんによる対談が載った。縄文時代は、弥生時代が始まるまでの約1万年にわたって続く。対談では、その間に道南と北東北が海峡を挟んで交流を続けていたことに着目している▼阿部さんは言う。「通常、海峡というのは紛争の場になることが多い。それが正反対に1万年以上も交流の架け橋になっていたというのは注目すべきこと」。こうした特殊な歴史を今に再現しようという試みが、地域の垣根を超えた世界遺産登録の動きだ▼阿部さんはスコーレ・ツーリズム(学び観光)の提唱者の一人でもある。縄文遺跡群を生涯学習の素材とするばかりでなく、観光振興にもつなげる。これまでの青函交流からさらに範囲を広げた道南・北東北の連携は、両地域の新しい未来像を暗示している。(K)


11月18日(金)

●幸せって何だろう。心の豊かさか。経済的な繁栄か。イケメンの国王、一般家庭出身の美しい妃。「世界一幸せな国」のブータンから国王夫妻が新婚旅行を兼ねて国賓として来日、“幸せな外交”を繰り広げている▼ヒマラヤ山麓の小さな国。林業を含む米や麦など農業が中心。最大の輸出は水力発電所の電力で主にインドに売っている。決して経済的に豊かな国ではないが、日本の大震災には100万㌦(約8000万円)を寄付。被災者の安全を祈る式典も▼国の豊かさの尺度はGNP(国民総生産)で、「日本は中国に抜かれた」云々と競っているが、ブータンはGNH(国民総幸福量)を提唱している。家計が苦しくても、健康でなくても、孤独でも、みんなが信頼し合えたら幸福度が上がるという▼「幸福は持ち物で測れない。今持っているもので満足するのが幸福の鍵」とも言い、国民の95%が「自分は幸福」と感じている。「困っている人」「心配な人」を支え合い、助け合うことで、幸福感・満足感を得るという▼かたや、お金に振り回されている日本は1000兆円の借金大国。国民1人当たり700万円以上の借金に幸福度を感じる余裕はない。ブータンでは懸命に咲く花を売買するなという。花にも心があるから…。若き国王は国会で大震災にふれ、「日本は逆境から繰り返し立ち直った」と礼賛。夫妻は東北の被災地も訪れ、激励する。(M)


11月17日(木)

●トンネルにその座を譲って、青函連絡船が歴史の幕を閉じて23年。函館などで、かつての雄姿をしのばせている3隻のうち、1隻が姿を消そうとしている。記憶に残る「羊蹄丸」。東京・お台場の船の科学館で15年間にわたり展示されていたのだが▼青函連絡船が、人と物の交流を支える大動脈として、北海道の発展に寄与した史実は今さら言うまでもない。その期間実に80年。「羊蹄丸」は歴史の語り部として残されたうちの1隻だった。総トン数8300トン、貨車48両、旅客定数約1300人▼運航期間は22年7カ月、総運航回数3万5800回、延べ旅客数1178万3000人という。その活躍ぶりは一目瞭然だが、船の科学館が展示をやめる方針となり、9月に譲渡先を公募。海外を含め11団体の中から選ばれたのが愛媛県の産学官の研究団体▼ただ、安堵というわけにはいかず、その余命は残りわずか。新居浜東港で公開された後、解体技術(解体時の二酸化炭素排出の削減など)の研究材料になるという。まさに最後のお勤め。鉄くず売却のための解体ではないのが、せめてもの救い▼これで残る生き証人は、函館の青函連絡船記念館「摩周丸」と、青森のメモリアルシップ「八甲田丸」の2隻に。否定する人はいないはず、かけがえのない歴史財産であることを。だから残し続けてほしい。「羊蹄丸」からも、そんなメッセージが聞こえてくる。(A)


11月16日(水)

●災害は忘れた頃にやってくる…これほど的を射た日常生活の座右の銘はない。なのに備えが十分かと言えば必ずしもそうでない。喉元過ぎればなんとやらの類になりがちで、目に見える形での啓蒙が必要とされる理由もそこに▼たとえ被災しなくとも、現場に足を運ばなくとも、見聞きした大災害は自らの経験であり、記憶から消えることはない。奥尻を襲った北海道南西沖地震、阪神淡路大震災の大変な光景は脳裏に未だ鮮明であり、ましてや東日本大震災の大津波はきのうの出来事のまま▼それらは忘れられようのない現実であり、教えられた教訓は多い。まずは日ごろからの意識。そのきっかけづくりとして「防災の日」(9月1日・関東大震災)や「防災とボランティアの日」(1月17日・阪神淡路大震災)などが設けられている。そして今年また一つ加わった▼津波対策推進法(6月成立)で制定された「津波防災の日」である。過ぎてしまったが、その日は11月5日。今から150年余り前、大津波が和歌山県を襲った際、暗闇で稲に火をつけ住民を高台に避難させたという逸話が残る日である▼大なり小なり地震や洪水は毎年襲ってくる。行政の対策が大事なことは言うまでもなく、個人に問われるのは備える意識。「防災の日」を知らない人が6割もいたという調査結果もあるが、せめて1月17日、9月1日、そして11月5日ぐらいは覚えておきたい。(A)


11月15日(火)

●昔、檀家は新米をお布施としてお寺に収めた。米はお金より貴重だった。新聞やテレビなどで「TPP」の文字を見ない日はない。太平洋を囲む国々が関税撤廃など経済的な結び付きを強めようという協定▼ある中学生は「TPPって『ちちんぷいぷい』の略でしょう」と言った。「痛いの痛いの飛んでいけ」のおまじない。「ちちんぷいぷい」は仏教用語で「七里結界=四方七里に邪を寄せ付けない結界を設ける」こと。妨げになることは取っ払って、守るものは守るということ▼「アメリカがくしゃみをすると日本は風邪をひく」を思い出す。野田佳彦首相はオバマ大統領に押されて「TPP交渉参加」を言明した。アメリカ主導で物品の関税撤廃など幅広い分野で自由化を目指すというが、日本の主役は農業▼安い米が入ってくると、500%以上の関税で守られている日本の農業は崩壊する。道南の米農家も「国がきちんと支援策を打ち出し、守ってくれないと、安い外国産には太刀打ちできない。小規模農家はつぶれる」と危惧▼TPPの利点と不利点は何か。国民に情報も説明も少ないまま「行き先不明のバスに乗り遅れるな」と見切り発車。交渉分野は21もある。日本は何といっても農業(お米)が主役。「ちちんぷいぷい」の『七里結界』で、守るべき日本の米文化を守って、“米国の属国”にならないよう、しつこく交渉に当たってほしい。(M)


11月13日(日)

●残念ながら社会に悪のない時代はない。人が人を騙(だま)す、人のやることでない。厳しく批判されるが、それでも無くはならない。悲しい現実であり、実際に今も振り込め詐欺や数多くの悪徳商法が蔓延(はびこ)っている▼ある所で悪徳商法に関する注意チラシを目にした。そこに記載されていたのは悪知恵のオンパレード。アポイントメント商法、送りつけ商法、点検商法、催眠商法、マルチ商法…さらにはネットオークション詐欺、ワンクリック詐欺、劇場型投資詐欺など20種類ほど▼次々と、よくも、と思うが、看過できないのは被害者が多いから。2009年度の統計(警察庁)をみると、全国の被害者は約8万7000人に及び、被害総額は何と1740億円。最も多かった4年前に比べると減ってはきているが…▼確かに啓蒙活動の成果は表れている。国民生活センターへの相談増も一つの証しだが、高齢者からの問い合わせや相談の件数が10年前に比べ2倍以上という。そう、大事な対処法は、応じる前の相談。手にした注意チラシには「撃退7ケ条」が挙げられていた▼「訪問販売の応対はドア越しに」「電話勧誘はきっぱりと断る」「契約前に家族や消費生活センターに相談を」など。そして、もう一つ根絶したいのが振り込め詐欺。10月末にも函館で被害者が出たが、こちらの撃退法は1カ条…「金の請求は疑ってかかること」しかない。(A)


11月12日(土)

●東京都は今月3日から、東日本大震災で発生した大量のがれきの受け入れ処理を、東北以外の自治体として初めて開始した。これに対し、放射能汚染を危惧する反対メールや電話が、都に3000件近く寄せられた▼石原都知事は会見で「(放射能量を)測って、何でもないから持ってきている」としたうえで、反対意見に対し「『黙れ』って言えばいい」と一喝。「力のあるところが手伝わなくちゃしょうがない。日本人がだめになった証拠だ」とまくし立てた▼石原都知事といえば、大震災発生時の「天罰」発言など、数多くの暴言や妄言の印象が強いが、今回の「黙れ」コメントに関しては、力強いリーダーシップが感じられるとして、賛同する国民も多かったようだ▼しかし、もし自分の生活圏内に、放射能汚染されているかもしれないがれきが運ばれても冷静にいられるだろうか。幼い子を抱える家庭はなおさらだ。石原都知事は「放射能の安全性については事前に説明している」と言うが、不安を訴える声が数多く寄せられている以上、十分な周知がされていたとは言いがたい▼1300万人の都民の安全を守る長に求められるのは、人々の不安をいかに取り除くかであって、「黙れ」の一言で無理やり従わせることではない。今、日本では強いリーダーが待望されているが、国民には「本当の強さ」とはなにかをしっかり見極める責任がある。(U)


11月11日(金)

●新聞の国際面でイタリアのローマ遺跡から1500年前の「手をつないだ男女の人骨」が発掘されたという記事を読んだ。埋葬時はお互いに見つめ合う姿だったようで、手をつないでいることから恋人か若い夫婦とみられる▼4年前にも同じイタリアで抱き合うように埋葬された6000年前の男女の人骨が発掘されている。額がくっつきそうになるまで近づいて、腕を絡ませて、歯がほとんど磨り減っていないことから若い男女らしい。「愛している」というささやきが聞こえてきそう▼どんな事情で短い命を閉じたのか。悲劇の後始末だったのか。実らぬ恋に「来世で結ばれてほしい」という親や周囲の人の願いが込められていたのだろうか。さすが「ロミオとジュリエット」の舞台となったイタリア。想像が膨らむ…▼かたや、大震災の日本に目を転じれば、胸に幼子を抱いて亡くなった若い母親もいた。手を固く握り合って木にしがみついていた夫婦が、ひく津波に手が離れ、妻がのみ込まれた悲劇もあった。最愛の人に手をさしのべながら届かず、離れ離れになった無念さ…▼ある主婦は津波にさらわれ帰らぬ夫に手紙を書いた。「一緒にいてくれてありがとう。支えてくれてありがとう。伝えたいことが山ほどある」と。イタリアで発掘された古代の「手をつないだ男女」や「額をくっつけ抱き合った男女」のように、夫婦の深い愛と強い絆が伝わってきた。(M)


11月10日(木)

●SF小説「2001年宇宙の旅」を描いたアーサー・C・クラークは、その後も続編を発表し続けた。そのいくつかは映画にもなった。特に「2001年—」(スタンリー・キューブリック監督)は神秘的な映像美もあって、今も人気が高い▼「未知との遭遇」(スティーヴン・スピルバーグ監督)もSF映画の傑作だ。UFO(未確認飛行物体)との遭遇や、人類と宇宙人の接触を直接描いている分、難解な「2001年—」よりも幅広い年齢層に支持された。この映画を見て宇宙人の存在を信じるようになったという人も少なくないのでは▼ところが、こんな夢を一瞬で壊すような報道があった。よりによって、あのホワイトハウスが「異星人がいる証拠はない」と突然発表したという。「公式見解」と大上段に構えているあたりが、何とも仰々しい▼政府や軍が宇宙人の存在を隠している、との陰謀説を払しょくする。そんな意図が今回の発表にはあるようだが、それがなぜ今なのかよく分からない。おまけに地球外生命との接触の可能性を“科学的”な理由で否定したというから、なおのこと大人げない▼その言動から「宇宙人」のあだ名が付いた元首相、巨額損失隠しの有力企業、カジノ遊びの大企業役員…。われわれの惑星には、救い難い人種がいかに多いことか。「地球人との接触はこちらからお断り」。とうの昔に宇宙人の方が見切りをつけているかもしれない。(K)


11月9日(水)

●愛着を持たれている花は多いが、一般的に、老若男女多くの人から愛でられる木というか、花と言えば、まず頭に浮かんでくるのが「桜」だろう。鮮やかな色彩、可憐な花びらの一方で、幹を覆うばかりに咲き乱れる豪華さ…桜の表現には事欠かない▼古事記や日本書紀にも記述があり、和歌や短歌にも詠まれるように。長い年月を経て今なおこれほどまでに愛される花は、そうはない。日本三大桜の神代桜(山梨県・実相寺)は樹齢1800年とも言われるが、種類も多く固有種、交配種合わせて600種とも▼2月初旬には沖縄(カンヒザクラ)が開花のスタートを宣言し、河津桜(静岡)などを挟んで、3月中下旬からソメイヨシノが徐々に北上。4月末には北海道(函館・道南)に上陸して5月末に根室で終わりを告げる。東日本大震災の被災地にも名所は多い▼この晩秋の季節に、何で桜の話なのか、といぶかる向きもあろう。実はその被災地で津波到達地点に「桜」を植樹する計画がある(本紙既報)から。津波対策を兼ね「目に見える形で残したい」と。陸前高田市(岩手県)の有志が計画している▼植えるのは塩害に強いとされる大島桜で、1万7000本。来春から植樹を行うべく準備を本格化させているという。大津波の記憶を桜で後世に伝える…復興桜は10年も経てば見事な桜林となっているに違いない。応援の輪が広がってほしい、物心両面で。(A)


11月8日(火)

●もうすぐ雪が降るというのに、まだキノコ狩り…。先日、札幌でキノコ採りに入山し、道に迷った79歳の女性が3日ぶりに救助された。野生のフキを食べ、沢の水を飲んだという。クマの生息域で捜索には自衛隊やハンターが出動した▼キノコ狩りに夢中になるのは古今東西を問わない。馬に乗ったまま峠道から谷に落ちた信濃守がヒラタケを抱いて上がってきたが、命拾いを喜ぶより採り残したヒラタケを悔やんだという逸話もある(今昔物語集)▼小林一茶は「うつくしやあら美しや毒きのこ」と詠んでおり、“毒キノコの旬”にもご注意。今は原発事故の被災地でキノコから基準値を超える放射性セシウムが検出され、出荷停止になり、店頭から野生キノコが消えた。マツタケもシメジも▼子どものころ、祖母に連れられて、裏山でマツタケを採った。松の木の根っこに大きなマツタケが並ぶ。採りたてを少し裂いて日本酒などの瓶に入れ、しばらくすると香りが広がる。大人たちは正月まで保存して、祝い酒として飲んでいた…▼キノコの魅力の奥深さにひかれ、最後のキノコ採りも結構だが、毒キノコは命取りになる。冒頭のように、キノコの秘密の場所はヒグマの生息域でもある。まして今シーズンはエサを求めて市街地にまで出没している。自治体は「クマやスズメバチにも注意。単独ではなく、知識のある人と一緒に入山して」と呼びかけている。(M)


11月7日(月)

●福岡市では数多くの屋台が、日常風景の中に溶け込んでいる。ただ、「○○名物」には往々にして表と裏の顔があるもの。福岡名物の屋台も例外ではなく、観光客が多く集まる一帯には地元住民の姿が少ない。真偽のほどは分からないが、この“法則”は当地で地元の酔客から聞いた▼福岡の屋台の7割以上が、市屋台指導要綱で定めた設営開始時間と屋台の大きさを守っていない。こんな実態調査の結果が、市の第三者委員会「屋台との共生のあり方研究会」で報告された。こうした悪習が続くと、観光客だけでなく地元住民からも見放されるのでは—と多少心配になる▼歴史ある福岡の屋台に対し、地域活性化をうたった最近の“屋台村”がある。2001年にオープンした帯広市の「北の屋台」が先鞭(せんべん)をつけ、瞬く間に全国に広がった▼その一つである函館市の「大門横丁」は、多彩で個性的な飲食店が軒を連ねることで人気がある。ここでは出店者のモラルにまつわるトラブル談は聞かない。ひいては福岡のようにルール違反が横行するという実態からも無縁のようだ▼そもそも「屋台との共生のあり方」を改めて研究しようという発想自体が、福岡における屋台の裏の顔を暗示している。低価格で安心して飲食を楽しむことができる。そんな屋台の魅力を地域活性化につなげるには、ルールに沿った屋台群の結束が不可欠。函館にはそれがある。(K)


11月6日(日)

●東日本大震災—福島原発事故は、改めて「電力」を考えさせている。原発の是非論が象徴的だが、その中で注目を集めているのが太陽光発電。二酸化炭素を排出しない自然エネルギーであり、国などの助成措置も誘導して住宅での設置が増加の傾向▼太陽光の利用は、にわかに生まれた発電システムではない。ただ、これまで必要とする認識が醸成されるような深刻な事態がなく、売電などの体制が必ずしも整っていなかっただけ。ところが、供給の柱を担っていた原発神話が崩れて…▼福島県は先日、復興策の一つとして大きな構想を打ち出した。電力は東北電力に買い取りを求め、来年度以降10年をかけて、希望する一般住宅10万戸に太陽光システムを設置し、売電で設置費用がまかなえた時点で無償譲渡する、と。それが住宅側のメリット▼形を変えた助成とも言えるが、この福島構想は別にして、各地で太陽光補助に希望が増えている。函館市も然り。申し込みは当初予算で組んだ30件を大きく超え、受け付けの期間を延長することにしたが、日照時間の長い帯広市はさらに件数が多い▼当初の140件で足りず、補正を2度組んで220件まで枠を拡大したという。太陽光にスポットが当たっている一つの証しだが、そこで問われるのが将来ビジョン。電力源としての地位をどう確固たるものにしていくか、国にはさらなる課題整理が求められている。(A)


11月5日(土)

●食べ物を探し求めたのか、何も入っていない冷蔵庫には無数の小さな手の跡。猛暑のマンションに置き去りにされ、餓死した3歳の女児と1歳の男児。23歳の母親は「ご飯をあげるのが嫌になった」と鬼畜に変身…▼全国の児童相談所が対応した児童虐待相談は5万5000件を超え、過去最高を更新(昨年度)。虐待の理由には望まない妊娠や出産、仕事と子育ての板ばさみによるストレスなどが挙げられ、精神的に追い込まれるケースが多い▼ご存知、人間界から幼児をさらっては食べ、投げ捨てては殺す悪行三昧の鬼子母神。前身は子煩悩の鬼女で数百人の子を産んだ。悪行を見かねた釈迦は鬼女が最もかわいがっていた末っ子を隠し「幼児を奪われた人間の母の悲しみが分かるか」と諭し、改心…▼冒頭の若い母親も子煩悩で、ブログに「最初のうちは子どもの誕生を喜び、慈しんだ」と書き込んでいる。離婚し、女手一つで育児を始めて心境が急変、非常な現実逃避へ。鬼子母神を悟らせた釈迦のように「人であれ、鬼であれ命の大切さは同じ」と諭す人がいたら…▼11月は児童虐待防止推進月間で、オレンジリボン運動が全国で展開される。オレンジカラーは虐待を受けた子らが大人に求める温もりの色とか。地球上に沢山の「70億人目の赤ちゃん」が生まれた。虐待されず成長するように、周囲の大人が「危険の兆候を芽のうちに摘む」ことが肝心。(M)


11月4日(金)

●映画「フラガール」の1シーン。「あっだふうに踊って人様に喜んでもらえる仕事があってもええんでねえが」「おらにはもう無理だけんど、あの娘(こ)らならみんな笑顔で働ける、そっだ新しい時代つくれるかもしれねえって」▼フラダンスのダンサーになるという娘に、初めは反対していた母親が理解を示し始める。そのせりふからは娘への愛情と、古里の将来に対する期待がにじむ。昭和40年代の福島県いわき市は、常磐炭鉱の規模縮小と温泉リゾート施設「常磐ハワイアンセンター」(現スパリゾートハワイアンズ)の開館との間で人心が揺れる、そんな時代だった▼今年3月、同施設は東日本大震災で大きな被害を受けた。10月に営業を再開するまでの間、フラガールたちは全国キャラバンを展開したが、多額の復旧費用は今後の施設運営に暗い影を落としていた▼そんな折、みずほフィナンシャルグループと日本政策投資銀行などが、同施設の運営会社に計100億円の支援を行う方針を固めた。その地の中核施設を立て直すことが地域経済の復興につながるという判断だ▼震災の復旧・復興支援にはほかにもいろいろな形がある。七飯町などが受け皿になった「ふくしまキッズ」もその一つ。原発事故の影響が続く福島県からは、この冬も子どもたちが同町を訪れるという。こうした支援の積み重ねが被災地再生を後押しする。そう信じたい。(K)


11月3日(木)

●カジノの是非をめぐる論議が再燃している。地域政党の「大阪維新の会」(代表=橋下徹前大阪府知事)が、府知事選で掲げるマニフェスト(公約)を発表した。「カジノ誘致」はその一項目に過ぎないが、仮にこれらの取り組みが財政改善のカンフル剤になるとすれば、部外者にも気になるところだ▼冒頭で「論議の再燃」と言ったのは、カジノ構想が石原慎太郎東京都知事の“専売特許”であるから。同知事は早くから、カジノの合法化について熱意を示してきた。橋下前大阪府知事とのコンビで、必要な法改正を政府に迫る場面だって今後はあり得る▼そもそもカジノとは何か。広辞苑には「ルーレット、カード、ダイスなどを備えた公認の賭博場」とある。当然のことだが、これが認められていないわが国では、国内での同様の行為が犯罪となる▼競馬、競輪、競艇などの公営ギャンブルはかつて「自治体のドル箱」とまで言われた。が、未曾有の不況下ではその神通力も届かない。仮にカジノが認められても、今の時代に運営が成り立つのか—。否定派の中にはそんな疑問も根強い▼大企業の御曹司が海外のカジノにうつつを抜かし、会社経営に多大な損害を与えた。カジノ誘致には逆風だが、人気の高いカジノを公営化しない手はないという見方も一方でできる。だからこそ誘致論は消えることがないし、延長線上にある論議の行方も予断を許さない。(K)


11月2日(水)

●成年後見制度が始まってから10年余。この言葉から連想されるのは、認知症の高齢者らの財産を管理する人というイメージだ。後見人による財産着服も問題になっており、最高裁の調査によると、昨年度判明した分だけで184件、18億円に上った▼しかし、制度の目的は財産管理だけでない。判断能力が十分でない方が不利益を被らないよう広く援助することである。振り込め詐欺や悪質商法など、高齢者を狙った犯罪は後を絶たない。これらから高齢者を守ることはもちろん、介護保険をはじめさまざまな契約代行もこなさなければならない▼これまでに制度を利用した高齢者は17万人ほどという。認知症患者だけで全国に200万人おり、利用すべき対象者はもっと多いはずだが、浸透はまだまだ。費用や手続きの煩雑さ、選挙権を失うなどデメリットもあるからだろう▼しかし超高齢化社会の中で、誰しもが尊厳を保持して生活していくために、この制度は欠かせない。介護保険の知識や財産管理のモラルを持った後見人を養成することが急務で、国は地域住民を「市民後見人」として育成していく方針だ▼ただ、後見人に財産を横取りされては、誰を信じていいのか分からない。利用しようと思っても疑心暗鬼にかられるだろう。疑いの心があると、暗闇の中にいるはずもない鬼の姿が見えたりするという。そんな鬼を高齢者に見せてはならない。(P)


11月1日(火)

●東日本大震災の後、とりわけ大都市部で問題になっているのが、自転車の危険防止対策だ。通勤の利用が増えたことなどが背景にあるようだが、欧州と違って自転車専用レーンはごくまれ。かといって事故の増加は放っておけない。警察庁が動いた▼交通ルール上、自転車は車道走行が原則。ただし、幅員が2メートル以上ある歩道では、歩行者の邪魔にならない前提で認められているケースがある。とはいえ、自転車に乗る人にその認識はない。大方の人が都合よく、時には車道、歩道と走り分けているのが実情▼最近、取りざたされるノーブレーキのピストバイクは論外だが、歩道にしても車道にしても常に付きまとうのが事故の危険。昨年1年間に発生した自転車が絡む事故は全国で約15万件。検挙数は約2500人と5年前の5倍。この実態は警察庁も看過できない▼打ち出した対策が、自転車は車両という意識の醸成や歩道通行許可基準の見直しなど。最終判断は各警察本部に委ねられるが、大都市部では幅員3㍍以下の歩道の走行は認めない方向。確かに歩道での危険は改善されようが、懸念されるのは車道の危険度▼効果的なのは走行レーンなどの整備だが、おいそれともいかない。せめて車道に何らかの線引きを…その声に応えて警視庁は車道左側の一定幅を青色カラー舗装する考えという。危険回避策として一歩前進。モデルケースとして注目に値する。(A)