平成23年4月


4月30日(土)

●自然現象というのは恐ろしいほど正直である。温暖化が進む中でも季節の到来は確実に教えてくれる。例年並みの歩みで桜前線は北上、木々は芽吹き、若葉が彩り始めている。日に日に夜明けは早くなり、日暮れが遅くなって北国も春本番▼その木々が我々に有形無形の恩恵を与えてくれていることは、誰もが理解するところ。保水機能や大気保全などの役割を果たす一方で、心を癒し、素晴らしい景観も。その森林が地球から減り続けている▼伐採など様々な要因があるが、一説では減少量は毎年約1100㌶規模と言われる。世界的に森林を維持する行動が求められ、国連も警鐘と啓蒙に乗り出した。あまり知られてはいないが、議論し、行動を起こすべく、今年を「国際森林年」と定めている▼森林が減っているという点では、わが国も例外でない。樹木が育ち、森林を形成するまでには手間と時間がかかるが、失うのは瞬時。東日本大震災でも民有林だけで推計810㌶(林野庁調べ)が被害に遭っている。だからこそ植樹の重要性が叫ばれるのだが、今年もその時期に▼既に「みどりの月間」(5月15日まで)が始まっている。間もなく各地から植樹の便りが伝わってくるが、東日本大震災の被災地はそれどころでない。まずは生活の、街の立て直しだが、緑の回復なくして復興はない。来年以降、被災地での全国植樹祭が考えられていい。(A)


4月29日(金)

●中国戦国時代の書物・韓非子にある「蕭牆の患」(しょうしょうのうれえ)は、一家の内部から起こる騒動を指す。要するに“内輪もめ”のことである。蕭牆には塀、垣根の意味があり、いったん生じた亀裂の修復には難儀することが多い▼民主党の議員約60人が勉強会を立ち上げた。「震災に対応できる連立政権に向けた総調和の会」。名前は長いが、その目的は「菅降ろし」の一点に尽きる。小沢一郎元代表に近い議員たちが、発会のタイミングを計っていたのだろう。それにしてもなぜこの時期なのか。国民不在の内輪もめは見苦しい▼確かに民主は先の統一地方選に敗れた。しかし、震災後の復旧活動は緒に就いたばかり。選挙の責任追及は復旧・復興のめどが付いた後でも遅くない。それが順序というものだ▼民主の騒動は「コップの中の嵐」にとどまらない。野党の自民党内にもまた、菅首相退陣の強硬意見が根強い。重大時局に首相が代わる。こんな政治の混迷は、避けた方がいいに決まっている。分かってはいるが、自民の一部に「政権奪還の好機」とする意見もあるというから、政治は一筋縄ではいかない▼国が一つになって震災対応に立ち向かわなければならないこの時期。各政党がバラバラなことを言っていること自体、国家レベルの“内輪もめ”である。義援金やボランティアなどの国民活動が政治の先を行く。そんな現実が正常であるはずがない。(K)


4月28日(木)

●〈今日もまた瓦礫山なす被災地に肉親探す郷の人影〉 津波から一度は逃げたが、隣人を助けようと引き返して波に呑まれた人、家族に看取られずに孤独死した人…。未曾有の大惨事は28日に節目の「四十九日」を迎えた▼四十九日は釈迦が諸行無常に真理を悟った余韻にひたる期間で、亡くなった人が四十九日目に新たな生へ旅立つといわれる。東北の各寺院は地震が起きた午後2時46分に合わせ「生き残った人は命を大切に、復興に全力を」と梵鐘を撞く▼色もなく、臭いもなく、音もなく襲う放射能だが、たとえ放射性物質が服などに付いたとしても洗い流せば除去できる。唯一の被爆国なのに“人への風評被害”も広がっている。政府は国民が非科学的な言動に走らないように、正確な情報を提供せよ▼福島ナンバーの車を駐車しようとしたら拒否された、避難先の旅館から宿泊を断られた、子どもが「放射線がうつる」とからかわれた…。身も心も疲れて、避難地にやっとたどり着いたのに、肩身の狭い思いにさせられるのは人権侵害ではないか▼海に散った人たちは浮かばれない。乳がんで苦しんだスーちゃんこと田中好子さんは「病気に負けてしまうかもしれません。その時は天国で被災された方のお役にたちたい」と、泣かせる言葉を残して旅だった。本紙に冒頭の句を寄せた楯石保さんは続ける。〈放射能汚染区域の広がりに父祖の地捨てる郷の人びと〉(M)


4月27日(水)

●技術の進歩、社会システムの合理化は、知らず知らずのうちに、好むと好まざるとにかかわらず生活スタイルを変えさせる。日々の買い物を例にとっても然り。かつての時代は店頭販売の一方で、重い物は店側が配達し、電話注文にも応じて届けてくれた▼それは店側にとってお得意様の確保という思いを持ったサービスでもあった。ところが、会計機器の登場や流通の合理化、大量仕入れのシステムなどが築かれてくるやスーパー方式が台頭。価格競争時代が幕を開けた▼既存の店は厳しい環境に置かれ、経費がもたなくなって配達も姿を消すことに。そこに車社会になった背景もあろうが、買い物は「消費者が足を運んで」というスタイルが一般的に。ただ、足を運べる範囲の都市部で生活しているならいい、元気なうちはいいが…▼今や高齢世帯が急増している。なのに、現実は高齢者が多い地域ほど店舗が消えている。道南でも販売車を見かけるが、時代が新たに要請してコンセプトの一つが「届けます」「出向きます」。それが買い物弱者への宅配であり、移動店舗(移動販売車)ということだろう▼宅配に加え「コープさっぽろ」が、この事業にも乗り出した。移動店舗の強みは燃料があり、道路がある所ならどこでも可能なこと。東日本大震災などのような万が一の災害時にも対応できる。もちろん商売だが、時代が求める社会的な意義も十分に伝わってくる。(A)


4月26日(火)

●♪雪がとけて川になって流れて行きます〜 タンポポだろうか、テレビは「春一番」を迎えた東北のリアス式海岸の被災地に咲いた黄色い花を映し出した。廃墟の様相の町々にも、草花が息吹いて被災者を癒してくれる▼マイクロは100万分の1。テラは1兆倍。日常の暮らしでは実感がわかない無縁の単位だが、微量でも立ち入り禁止となり、多くの量が流出しても慌てない政府。理解に苦しむが、土壌には目に見えない膨大な放射性物質がしみ込んでいるのだろう▼最悪の惨事から25年になるチェルノブイリ原発事故。「レベル7」の脅威。今後も数十万の死者が出るとも言われ、半径30キロが居住禁止のままだ。「石棺」に閉じ込められた放射能を完全に撤去するには100年は要するという▼そこで、日本の支援者らが原発で放射性物質が飛び散ったウクライナの小麦畑に「菜の花作戦」を展開。菜の花やヒマワリは根っこからセシウムを吸い取り、土壌をきれいにする作用があるからだ。阪神大震災の後、神戸の街にもヒマワリが植えられた。東北にもリレー植栽すると聞く▼福島原発1号機は圧力容器ごと冷却する「水棺」になりそう。避難生活が長引く中、太陽を仰ぎ目にも優しい黄色い花は、傷ついた大地と心に温かい命を吹き込んでくれる。リアス式海岸や瓦礫の街に「難を転じる」ナンテンも植えたい。夕張の「幸福の黄色いハンカチ」も、ぶら下げたい。(M)


4月25日(月)

●黙とうで始まった統一地方選が終了した。震災で選挙運動も自粛ムードとなり、盛り上がりを欠いた点は否めない。しかし、函館市長選では2氏が函館の将来像や自身の政策、市政にかける情熱を熱く語り、聞き比べて一票を投じた有権者も多かったろう▼函館を取り巻く情勢は厳しい。景気低迷のトンネルは出口が見えず、経済は疲弊。東北新幹線の全線開業で本州からの観光客呼び込みが期待されたところに、まさかの震災が襲った。宿泊客のキャンセルが相次ぎ、続く福島原発事故の影響でソウル便は当面運休。人口減による地域の活力低下など、負の連鎖が続く▼こうした時こそ、市長は時代を切り開くビジョンや地域再生に向けた青写真を示すことが欠かせない。当選した工藤寿樹氏は、財政再建と経済活性化を大きな公約に掲げた。震災で日本全体の経済が縮小している中、税収をどう確保し、必要な経済対策を打ち、財政を再建していくか、非常に難しいかじ取りが待っている▼4割強の票は西尾正範氏に入り、市政の継続を願う有権者も多かった。市民は新市長へ市政を託すが、全権を委任するわけではない。多様な市民の声を受け止めながら、説明し、時代の懸案に対処していく姿勢は不変だ▼函館市議30人の顔ぶれも決まった。戦いの後は市役所、議会、経済界、市民がひとつになって、未来の函館を築いていきたい。その推進役として、工藤氏の手腕に期待する。(P)


4月24日(日)

●ニジマスは和洋中、どんな料理にも合う。おいしい上に栄養価が高い。釣りの対象魚としても人気がある。この魚、実は外来種であり、もともと日本にはいなかった。姿かたちや呼称が日本然としている。在来種と勘違いされることが多いのも無理はない▼ニジマスの養殖は全国の一部地域で盛んに行われている。このように養殖エリアにとどまればいいが、放流などで河川に入ったニジマスが生態系に深刻な影響を与えるケースも。在来種のオショロコマやサクラマス(ヤマメ)の生息が脅かされ、実際に絶滅が取りざたされた地域もある▼困りものはニジマスばかりではない。外来魚ブルーギルの駆除調査が、函館市の五稜郭公園の水堀で行われた。関係機関の専門家が水中に電気を流し、感電して浮いてきたブルーギルを網ですくう。何年も前から続く効率的な方法という▼ブルーギルは北米原産。繁殖力が強く、在来種の稚魚を食べるなど場所によっては漁業資源にも影響を与えかねない。道内で確認されているのは五稜郭のみ、というのがせめてもの救いだ▼温泉の多い十勝管内では、高温を好む外来魚のティラピアが各所で繁殖している。一部では関係機関による駆除作業が大々的に行われているが、根絶には至っていない。広がってからでは遅い。五稜郭のケースに求められるのは外来種の拡散防止。ひいては水際で食い止めるという意識の堅持である。(K)


4月23日(土)

●今こそトップのメッセージが必要なのに、残念ながら響いてこない。安心感を与えるか否か、大きな問題が起きた時、陣頭指揮をとる人の一声一声が大事と言われる。状況を明らかにし、見通しや考えを伝える…その積み重ねが信頼につながるから▼東日本大震災の直接被災者や原発事故に伴う避難者は、それを欲している。塞ぎがちになる気持ちを鼓舞してもらいたい、そう願っているのに、生の声はいずこかへと行ったまま。何度か記者会見はしているが、型どおりの内容の域を出ていない▼余震が続く中、被災現地では瓦礫の処理から復興作業が動き出した。義援金にボランティア、全国的な支援の輪は過去にない規模で広がっている。だが、一方で放射性物質の汚染による不安は広がるばかり。風評や自粛による間接被害は全国に広がっている▼「どうなるのか」。これこそ近隣住民はもとより国民が最も知りたいことであり、それに応えるのはトップの使命であり役割。発生前に応じていた“ぶら下がり”取材、それすらも途絶えている。多忙だとしても、わずか数分のことなのに何故…▼補正予算を組んで、住宅の確保や生活保障、復興事業など必要な対策を講じるのは当たり前。同じぐらい大事なのが、国民の不安をどう解消するか、ということである。それにはトップの「顔が見える」「伝える」「鼓舞する」が不可欠。ぜひとも語りかけを。今からでも遅くはない。(A)


4月22日(金)

●彼女は誰に愛されていたでしょうか、誰を愛していたでしょうか、どんなことをして感謝されていたでしょうか…。彼は三つを問いかけながら、見知らぬ人の悼みの旅に出かけた(天童荒太「悼む人」)▼東日本大震災の死者・行方不明者は2万7000人を超えた。身元が確認されたのは1万1000人超。警視庁がまとめた死因と年代別状況によると、92%が水死だった。70代を中心に60歳以上が60%を占め、10歳未満は3・5%だった。年齢や性別が判明しない遺体も2000人超▼多くの高齢者が高台へと懸命に逃げたものの、津波に呑み込まれたのだ。津波さえ来なかったら、多くの人が助かっていたのに…。身元がはっきりしない人、身元が分かっても引き取りのない人…。被災地の遺体安置所には白い棺(ひつぎ)が並ぶ▼火葬が追いつかないためか、長く安置されている人もいる。土葬で埋めた遺体を掘り起こし、火葬する遺族も増えており、「これで気持ちの整理がつく」とも。瓦礫の中に悲しみや喜びを刻んだままの「動かない時計」がポツリ、切ない▼地震や疫病などが相次いだ世に、法然や親鸞は庶民の中に入って心の安定に尽くした。「手を取って一緒に泣いてあげるしかない」と避難所で悼む僧侶もいると聞く。こんな時こそ、宗教家は心に届くメッセージを発信し、救済を実践したい。「心から誰かを愛していた」「いいことをして感謝されていたのだ」と。(M)


4月21日(木)

●“辛抱”のシンボルは—と聞かれ、「おしん」と答える人は、年配に多いだろう。「おしん」は1983〜84年にNHKで放送された連続ドラマ。高人気から“おしんシンドローム”と呼ばれる社会現象にもなった▼主人公の少女が暮らす山形県の貧しい農村からドラマは始まる。少女はやがてスーパー経営者として成功するが、それまでの苦労が並大抵ではない。日本人が美徳としてきた辛抱が前面に出たドラマ作りが、多くの視聴者の琴線を刺激した▼青森県出身の第59代横綱・隆の里(現・鳴戸親方)は、「おしん横綱」と呼ばれた。糖尿病を患いながら、91場所をかけて横綱に昇進。その不屈の精神をドラマの主人公とだぶらせた「おしん」の呼称は、ある意味で東北全体に通じるものがある▼東日本大震災で家族や家を失った被災者を、世界のメディアは辛抱のシンボルとして伝えた。悲しさに耐えて困難に立ち向かう住民を好意的にとらえた報道が多いが、一方でその姿には痛々しさが付きまとう。国民から寄せられた義援金の配分すら決まらない、その現状においてはなおさらである▼第9代横綱・秀ノ山雷五郎の銅像は宮城県気仙沼市にある。大津波にのまれながらも、流されずに残った像に、「勇気をもらった」という住民は多い。勇気の裏には辛抱がある。その辛抱にも限界はある。前例にとらわれないスピーディーな対応が、いま政治に求められている。(K)


4月20日(水)

●♪もしもし噛めよ〜 ご飯もおかずもよく噛んで その日の指示量残さずに バランス考え〜♪ 国立病院機構函館病院が作った糖尿病の食事療法の歌。栄養バランスがとれカロリー量を管理したメニューで、健康な人にも適した食事という▼福島原発の収束工程表によると、原子炉が安定するには最短でも6〜9カ月かかるといい、住民の避難生活は年内まで続くことになる。避難生活も仮設住宅が行き渡るまで続く。長期化する中で、心配されるのが食事による健康状態▼今は「温かい食べ物は被災者の心を和ませる」とボランティア団体などが、けんちん汁、すきやき風どんぶりなども提供しているが、ここ1カ月はパン、おにぎりの炭水化物が中心で糖質に偏りすぎ、栄養バランスは最悪だった▼野菜や魚が不足しているのが実情。糖尿病、食物アレルギーを抱える被災者には特別の食事が必要。1カ月ずっと米と大根だけ食べている子どももいたという。小麦を使わない米パンやアレルギーの原因物質を含まない食品も届いている▼広範囲に1000カ所以上の避難所が散在。1日数十万食の弁当が必要。“温かい食事”にはほど遠い。♪野菜に海藻 キノコ類 食物繊維はたっぷりと〜♪ 糖尿病の歌が訴えるように、病気ではなくても適正な栄養バランスが大切。日本栄養士会は避難住民の食事調査を開始。ビタミン強化米などを導入、栄養状況の改善を急ぐ。(M)


4月19日(火)

●「ゼオライト」。聞いたことがあろう鉱石の名が、一週間ほど前からニュースに登場してきている。特に知られているのは土壌改良剤としてだが、他にも効用があり、近年、その評価が高まっている。実は北海道でも採掘されている▼十勝の上士幌町勢多地区で。今から30年ほど前に良質な鉱脈が発見され、帯広の企業(共成レンテム)が産出している。ギリシャ語で沸騰した石という意味だそうだが、多孔質構造で極微小な空洞があり、強力な吸収力も特性として数えられている▼北海道でいち早く目をつけたのが農業分野。帯広畜産大学などで使用実験が行われ、その結果から改良剤として注目を集め、広く知られるように。一方で、水質浄化剤としての効用も認められている。まさに出番、その場所は東電の福島第一原発事故現場である▼1キロ当たり放射性セシウムを6グラム吸収するといわれ、米国のスリーマイル島の原発事故の際に使用実例があるそう。東電は17日、放射線量の大幅抑制には6〜9カ月かかる見通しを発表したが、この間も高濃度の放射性汚染水の処理対策は重くのしかかったまま▼福島の現場では、16日までに100キロを詰めた大型の土のう3袋が取水口付近に投入された。少しでも可能性があるなら試みるべきであり、効果を期待するのも当然。決め手を欠く現状を考えると、産出地ならずとも「ゼオライト」に熱い視線を注ぎたくなってくる。(A)


4月18日(月)

●大震災の影響で半月遅れでようやく開幕したプロ野球。開幕時期を巡って議論が巻き起こったのは記憶に新しいが、やはり一流のアスリート同士の真剣勝負は、見る者に感動と勇気を与えてくれる素晴らしいエンターテインメントだと実感させられる▼残念なことに、北海道日本ハムファイターズにとっては万全なスタートとは言えなかった。絶対的エースとして5年連続で開幕投手を務めたダルビッシュが、まさかの自己ワースト7失点。続く2戦目もウルフが打ち込まれるなど、いきなり黒星が2つ続いた▼3戦目に武田勝の好投で今季初勝利を挙げたものの、4戦目は2回まで5—1とリードしながら、まさかの逆転負け。投打のかみ合わない日ハムのチーム状態に、道内のファンのフラストレーションはたまる一方だった▼そんな中、満を持して17日に先発マウンドに上がったのが、黄金ルーキーの斎藤佑樹。高校、大学と常にスポットライトを浴び続けてきた彼のスター性はだれもが認めるところだが、果たしてプロの舞台で本当に実力を発揮することができるのか、不安視する声も少なくなかった▼結果は5回6安打4失点ながら、見事にプロ初登板初勝利。日本中から注目を集める中で堂々と結果を出すところは、やはりなにか「持っている」ことの証しと言える。今後も活躍を続け、道内の日ハムファンだけでなく、被災者のみなさんにも明るい話題を届けていってほしい。(U)


4月17日(日)

●お母さんたちは米をとぐ時、1回目はミネラルウオーターで、2回目は水道水でとぎ、ミネラルウオーターで炊くという。野菜や魚介類なども出荷制限されていないものでも、買い控える。「放射能による汚染が怖いから」と▼確かに放射性物質が検出された食べ物は子どもによくない。子どもは大人より放射線の影響を受けやすく、原子力安全委員会は「子どもは10ミリシーベルト程度に抑えるのが望ましい」と、文部科学省に大人の半分の10ミリシーベルトを目安とするよう伝えた▼福島県から避難してきた小学生の兄弟が公園で地元の子どもに出身地を聞かれて、「福島から」というと、みんな「放射線がうつる」と叫んで逃げ、兄弟は泣きながら避難先に戻った。親は小学校への転入学を取りやめ、再び福島に帰ったという▼子どもは大人のコピー。親の背中を見て育つ。親が「放射能は怖いもの」と言えば、子どもも「怖いもの」と思い込むのは当然。官房長官が「ただちに人体に影響はない」としながら「避難せよ」と指示を出す。お母さんたちの不信感は増すばかり▼福島県の兄弟が避難した教育委員会は小中校に「避難児童に思いやりをもって接し、言動に注意する」よう異例の通達を出した。今、被災地から約8300人の児童生徒が他県に転入学・就学している。「放射線がうつる」。いじめとは言わないが、学校も親も心に傷をつける言動は取らぬよう指導してほしい。(M)


4月16日(土)

●電力は無限でない。人工的に生み出されているのに、使い放題といっては語弊があるが、いつの間にか慣れ切って、無尽蔵のエネルギーと錯覚してはいなかったか。原発の事故という非常に不幸な現実に直面する中で、気づかされている▼現代は電力なくして成り立たない。照明や家電製品はもとより北国では暖房も然り。生活水準の向上で使用量は増え、都会の夜はあでやかなネオンに彩られている。その充足手段として水力、火力だけでは持たず、原子力に依存した経緯がある▼原発の是非論はともかく、現実に目を移すと、今夏の首都圏(関東)や東北では、不足が懸念されている。試算による不足量は東京電力管内では昼間の需要ピーク時に1500万㌔㍗、東北電力管内では330万㌔㍗。これをクリアしなければ停電は避けられない▼唯一の対策は「節電」で、政府が東北・関東地域に求めようとしている原案は、大企業が25%、中小企業が20%、一般家庭が15%程度。湿度の高い本州の夏は過酷だが、クーラーや冷蔵庫の温度設定は昨夏並みとはいかない▼厳しいかもしれないが、停電よりはいい。他の地域でも同じことが求められないという保証はない。とすると、今こそ電力を考える格好の機会である。いっときの、一部地域の自粛で終わらせる手はない。この際、節電運動として全国的に展開してはどうだろうか。自分たちのためとして。(A)


4月15日(金)

●「雀隠れ」は俳句の季語。「すずめがくれ」と読む。草が萌え出て、その丈がスズメの姿が隠れるほどに伸びた様子を表す。季節は晩春。北海道ではちょうど今時分かもう少し先が、この季語の醸す雰囲気に合っている▼身近だったスズメを見掛けることが少なくなった。意味合いは違うが、まるで「雀隠れ」の魔法にでもかかったかのようだ。特に数年前からの激減ぶりが顕著で、大量死や大移動といった原因のいくつかは推測の域を出ていない▼もっともスズメは絶滅したわけではない。函館を例に取ると、商業施設が建ち並ぶ中心街で出会うことが少なくなった代わりに、緑の環境が残る西部地区では今も比較的多く見掛ける。先日、住宅街のバードテーブルにスズメの姿があった。久しぶりに聞く「チュンチュン」という鳴き声には、人を安心させる効果があるように感じた▼スズメは稲などの害虫を食べてくれる“益鳥”と言われる。原発事故の影響が深刻な福島県は、おいしい果物の産地。地震と津波、その後の放射能漏れは、スズメをはじめとする鳥たちにとっても青天のへきれきに違いない▼政府は福島原発事故の深刻度を最高の「レベル7」に引き上げた。避難することになった同県内の102歳の男性が、自宅で自殺した。市民生活が困難の度を深める一方で、その復旧の行方に世界の目が注がれる。福島にたくさんのスズメが戻る日を待ちたい。(K)


4月14日(木)

●昔、広い領土に地震地帯を抱えたローマ帝国は震災が起きたら、まず皇帝公庫から被害者に義援金を配布する、近くの基地から軍団兵を出しインフラ復旧に当たる、元老院が調査団を出し属州税の免除期間を決める、と定めていたという▼東日本大震災が発生してから、全国の子どもから高齢者まで街頭に立ち「義援金お願いします」「ありがとうございました」と呼びかけ、この1カ月で日赤などに届いた義援金は1300億円近く。海外からも多く寄せられている▼義援金の配分方法を決める委員会は、死者・行方不明者1人当たり35万円、住宅の全壊・半壊1戸当たり35万円など、第一次分の配分基準をまとめ、市町村を通じて被害者に届ける。しかし、役所の機能が打撃を受けた市町村も多く、事務手続きに手間取っている▼危険度がレベル7に引き上げられた福島原発事故で、避難した住民や農家など対象の損害賠償については一時金100万円を軸に調整中。地震、津波、原発の被災者は着の身着のまま避難し、救いの手を待っている▼それにしても、最悪のレベル7とは。フランスは「チェルノブイリ級ではなく、将来もそうなることはない」と指摘。ロシアは「健康への影響から判断すればレベル4にも届かない。生き過ぎ」と疑問。続く余震、振り回される住民たち。いずれにしても、ローマ帝国を見習い、まず義援金を配布してほしい。(M)


4月13日(水)

●「なんで、そうなるの」。誰もが聞いたことがあろう、かつて流行したギャグである。社会にはそんな疑問が多々あるが、政治の世界にもよくある話。そう思うのは、俗に言う永田町の常識との間にずれを感じるから▼民主党政権に交代して1年半。沖縄の米軍基地問題や年金問題はじめ国内外に難問を抱え、政治情勢は厳しいまま。予算審議の通常国会は与野党激突の様相で進んでいたが、そのさ中に東日本大震災が発生、何はともあれ震災対策が政治の最優先課題に▼まさに国難とも言える未曽有の事態であり、被災者支援に加え復興事業は急務。与野党が駆け引きし、対立している場合ではないし、各党が異論を挟むはずもない。だからと言って大連立を求められているかどうか。国民向けなのか、政局視点なのか、意図が伝ってこない▼大連立は「議会の第一党と第二党による連立政権」で、戦争や経済危機など緊急事態時に対応する姿。とすると、確かにおかしくないのだが、政策というか、あくまで基本部分での考えの一致が前提。最終的には見送られるだろうが、少なくても熟してはいない▼敢えて大連立などしなくても、各党が知恵を出し合い、迅速に優れた対策を採用すればいいこと。復興への補正予算の財源をどう捻出するか、政策の見直しも、国債の発行も必要だろうが、協議の場はいくらでも作れるはず。大事なのは見せかけの体裁を整えることではない。(A)


4月12日(火)

●いくらか復旧したとみられる大震災のライフラインだが、震度6強の余震で電気や水道などがまたやられた。無慈悲な追い打ち。このためか、暗い避難所などでロウソクや電池に頼る被災者が増えた▼続く余震、続く原発危機…。ひどく心細い被災地。ロウソクはけっして明るいとはいえないが、マッチ1本で周りを照らしてくれる。スイッチひとつでこうこうとなる電灯は停電すると瞬時に真っ暗に。子どものころ、仏壇からロウソクを取ってくるのが役割だった▼かつては、よくヒューズが飛んだ。懐中電灯の明かりを頼りにヒューズを取り替えた。懐中電灯に欠かせないのが電池だ。電池も単3、単4と軽量化しているが、闇を照らす懐中電灯や情報を聞くラジオには容量たっぷりの単1が最適という▼夏場の電力不足対策で電力使用制限令の発動も検討されている。大企業は25%、スーパーなどは20%削減。エアコンの代わりに扇風機、すだれを利用して太陽熱を遮断…。でも、一瞬でも需要が供給を上回れば大停電が起きて、復旧には時間がかかる▼「いつも睨むラムプに飽きて三日ばかり蝋燭の火にしたしめるかな」。身を燃やして、身を削って周りを照らすロウソクは、薄幸を嘆く石川啄木の心に灯をともした。被災地や原発で、ロウソクのように身を削って、懸命に復旧作業に当たっている人たちがいる。「早く周りを照らそう」と。(M)


4月11日(月)

●作家の故・吉村昭さんが40年以上前に書いた「三陸海岸大津波」(文春文庫、原題「海の壁—三陸沿岸大津波」)は記録文学の傑作とされる。明治、昭和と繰り返し東北を襲った大津波被害の惨状を克明に再現。被災者の証言の数々は臨場感にあふれ、随所で息をのむ▼1933(昭和8)年3月3日の大津波では、3000人近い死者を出した。政府や民間による救援活動は迅速だった。国会開催中の衆議院・貴族院では、被災地救援の諸提案をすべて満場一致で可決した▼吉村さんの同書によると、決まったのは各種税金の減免・猶予等をはじめ、食料、衣類、寝具、住宅材料等の無料配布や、道路、港湾の復旧促進など。その配慮は被災直後とは思えないほど細やかだ。中央省庁も、被災県と緊密な連携を取り合ったという▼東日本大震災から11日で1カ月。前日の10日には、菅直人首相が3回目の被災地視察を行った。震災後の政府の対応については評価の分かれるところだが、この時期に首相自ら要望事項の聴取に奔走しているようでは先が思いやられる。言うまでもなく支援策の具体化、そして執行は待ったなしだ▼統一地方選の前半戦が終わり、道南でも道議の全議席が決まった。津波被害の復旧・復興や長引く不況への対応など、道政は課題が山積している。当選議員に求められるのは、実効性を伴った行動力である。17日には選挙の後半戦が始まる。(K)


4月10日(日)

●震災被災者への支援が道南でも本格化している。現地に向け生活用品や食料の発送、義援金のほか、医師や自治体職員の派遣などが続く。双方向で、公営住宅の提供やホテルの借り上げ、一時金の支給、授業料減免などの受け入れも進んでいる▼現地が求める物資は、日々変わる。道は個人からの提供物資を受け付けているが、当初足りなかったトイレットペーパーや紙おむつなどは充足してきたという。このため、生活用品の受け入れを一時停止し、食料と学用品に絞って呼び掛けている▼一方、全国からの善意が届く被災地では、物資の仕分けが滞り、うまく避難所に発送できない所も出ている。津波に流された町や、避難所生活を送る住民のために徹夜で業務する役場職員にとって、仕分けにあたる人員の確保は難しいだろう。また、送る側も人手が足りず、自治体職員が作業を担っている▼そうした所にこそ、ボランティアの力が欲しい。最前線での活動ももちろん重要だが、血液が体の末端まで行きわたるように、発送地や中継地で物事を整理し、円滑に送り出す機能も大切だ。だから、最前線に行かなくてもできる後方支援は、重要な意味を持つ▼被災地支援は長く続く。募金や被災者受け入れは、函館・道南でできる大きな後方支援だ。大事なことは、被災者の苦しみや悲しみを忘れないこと。一人一人ができる力を合わせ、心をひとつにしたい。(P)


4月9日(土)

●「自分の娘によく似た小さな遺体を目にしたとき、涙をこらえきれなかった。大切そうに抱えていた緊急持ち出し袋には大量のレトルト食品。持って走るには重すぎたのだろう」。検視した法医学者は悲嘆…▼福島原発事故による放射性物質の食べ物への汚染。ホウレンソウなどの農産物に続いて、コウナゴ、カタクチイワシなど魚介類にも広がった。茨城沿岸のコウナゴから暫定規制値を上回るセシウムが検出されたため、漁民は当面の出荷停止を決めた▼鉄骨むきだしの建屋、立ちのぼる煙…。2号機のタービン建屋の地下などにある推定6万トンの汚染水処理に、比較的低い濃度の汚染水を海へ放出する手段に出た。原子炉爆発という最悪のシナリオを食い止めるには、やむを得なかったのか▼漁民には何の説明もなかったという。当然、汚染水は海に広がる。フランスが公表した予測によれば、汚染水は必ずしも四方に拡散せず、沿岸から黒潮に沿うように移動するという。こんなデータは日本政府は発表していない。他の地域の海も汚されるかもしれないのだ▼漁民は「海はみんなのもの。変なものを流すな」とカンカン。小女子。コウナゴの佃煮の入った弁当が楽しみだった。早くアメリカの専門部隊やフランスの放射線防護機関などに頼んで、国内外の英知を結集して事態収束に臨むべきだ。これ以上、検視医が悲嘆する小さな犠牲者を出さないためにも。(M)


4月8日(金)

●1974年9月、台風16号に伴う水害が東京を襲った。多摩川流域では堤防が決壊し、狛江市の民家19戸が流出した。これを題材にした山田太一さんの小説「岸辺のアルバム」(光文社)は、テレビドラマ化されたことでも話題を呼んだ▼住み慣れた我が家が濁流にのまれかけている。家族4人がそこに居合わせるという、小説後半のシーンだ。「あなたは駄目よ。私が行くわ」「いや俺が行く。何冊か持ってくる」「ぼくも行くよ」。危険を冒してまで取りに戻ったのは、家族の歴史であり、絆ともいえるアルバムだった▼東日本大震災では、どれだけの数のアルバムが流されたのだろう。泥だらけになった1冊を、がれきの中から探し出した被災者。行方不明の娘の写真をたった1枚見つけ、胸に抱く母親。ニュース映像が切り取る家族の形は、あまりに悲しい▼震災後には多数のボランティアが活動している。泥をかぶったり傷んだりした写真を無償で修復する活動もその一つだ。東北福祉大(仙台市)、工学院大(東京)、神戸学院大(神戸市)でつくる「社会貢献学会」が始めた▼山田さんが「岸辺のアルバム」を書くきっかけは、被災者の一言だったという。「ショックなのは家が流されたこと。そして家族のアルバムを失ったこと」。前出の3大学の宛先は「あなたの思い出守り隊」。きれいになった写真が、1枚でも多く被災者の手元に戻ることを願いたい。(K)


4月7日(木)

●函館市の繁華街。久しぶりに立ち寄った居酒屋は、空席が目立った。「震災後はずっとこの調子」。店主の声も湿りがちだ。歓送迎会の書き入れ時の活気は、自粛ムードの前にかき消された。予約のキャンセルが相次ぎ、大幅な売り上げ減にあえぐ店も少なくない▼日本酒を飲んだが、銘柄は指定しなかった。東北の酒がおいしいこと、その酒造会社の多くが被災したことは知っていた。注文時になぜこだわりを持てなかったのか。「経済活動を止めないで」と訴える蔵元の姿を見て、不明を恥じた▼岩手県の酒造3社が、インターネットサイト「ユーチューブ」に投稿した動画が話題になっている。このうち、閲覧が13万回を超えた「南部美人」(二戸市)の動画では、久慈浩介専務が「このままでは我々も経済的な2次被害を受ける」と強調。東北の地酒や農作物などの消費による経済的な支援を呼び掛けた▼背景には、花見の自粛ムードの広がりがある。満開の桜を愛でながら飲む日本酒の味は格別。この時期の消費の落ち込みは、東北に限らず全国の酒造会社にとって大きな不安材料である▼「被災地支援や復旧・復興を考えた場合に、力強い国民経済が不可欠」。岩手県の達増拓也知事の発言は正論であり、被災地ならではの実感が込められている。普段の生活に自粛を持ち込むことは、一定程度にとどめたい。今晩あたり、東北の酒で晩酌をすることも一興だ。(K)


4月6日(水)

●桜前線が北上し、各地の名所から開花情報が飛び込み始めた。梅とともに桜で春を感じる人は多かろうし、花見はいわばアウトドアシーズンの幕開け。北国は大型連休ごろが見頃で、桜の季節が過ぎると夏の観光が本番を迎える▼北海道観光は夏が稼ぎ時。近年は台湾、韓国や中国などからの冬人気が高まってきたとはいえ総じて厳しい状況。それ故に夏の入り込みに熱い期待を寄せることになるが、その矢先だった。悪夢の東日本大震災が東北を襲ったのは▼未曽有の大津波被害に加え、福島第一原発の事故が追い討ちをかけて復興機運の一方で、不安は拡大するばかり。「こんな時に…」。そんな思いが頭をもたげても不思議でない。影響は多方面に波及しているが、中でもレジャーは顕著。旅行の自粛が広がり、しかも数カ月先まで▼観光地からは人が消えたと言われる。外国人もさることながら、日本人も「時期を改めて」となって…。北海道観光が受けている打撃も半端でない。国際観光旅館連盟道支部によると、ホテル・旅館のキャンセルは、発生から6月までの間の調査結果で26万件という▼函館地区はその率53%。半減である。ホテルや旅館ばかりでない。ハイタク・バス事業者をはじめ朝市、土産店、飲食店など地域経済に及ぼす影響は計り知れない。とはいえ、気持ちの問題だから対応の答えが見つけづらい。早い回復を願う、それしかないのが辛い。(A)


4月5日(火)

●被災地から「ソメイヨシノ咲いた」の便り。新聞の避難所コーナーでは、小1女児が「生まれて8カ月の妹を抱っこしている。お姉ちゃんだから頑張る」とけなげな便り。東日本大震災では多くの児童生徒も大津波に呑み込まれた…▼2年前に学校保健安全法が施行されてから災害などの際、保護者に児童を引き渡すルールが定着した。今回も地震発生直後、一斉メールで学校に迎えに来た保護者と一緒に避難した児童が次々と津波に遭っている。児童引き渡しの仕組みが裏目に出た…▼東北3県で校舎が損壊するなど自校で入学式や授業再開の困難な学校は90校近くもで、約2万4000人の児童生徒の移転・就学先を確保する必要があるという。入学式ができる公共施設や近隣の学校の空き教室を探すなど、対応に追われている…▼自分を先に津波から逃してくれた夫が目の前で流された。「このやりきれない思いは表現しようがない」と81歳の女性。命からがら避難所や親類宅に逃れた人々。自然の怒りにはあらがえず、「明日ありと思う心のあだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかは」を痛感…▼これからの桜は一歩踏み出す桜。希望をこめて見上げる桜。すぐに笑顔は戻らないけれど、新たに咲いた桜はつらい思い出を乗り越えさせてくれる。がれきの中で芽生えた草花は復興へ勇気を与えてくれるに違いない。桜の下、母親に手を引かれて入学式に急ぐ新1年生が見たい。(M)


4月4日(月)

●大震災から3週間が過ぎ、テレビの画面にも通常のバラエティーやドラマなどが戻り始めてきた。中止や延期が相次いだ各種のイベントも、ようやく開催の方向に向かいつつあるようだ▼例年この時期は、毎日のように桜前線の動きが伝えられ、各地から開花のニュースが届けられる。今年も東京では3月28日にソメイヨシノが開花し、4月8日ごろに満開を迎える予定。今週が花見のピークになるはずだった▼これに「待った」をかけたのが、石原慎太郎都知事。「大震災で大勢の人たちが苦しんでいる中、花見を楽しんでいる場合ではない」と、事実上の“花見禁止令”を通達したのだ。実際に上野公園では宴会の自粛を呼び掛ける看板を設置。花見そのものは禁止されていないが、閑散とした寂しい状況という▼一方、石原発言にかみついたのが、蓮舫節電啓発担当相。「権力によって自由な行動、社会活動を制限するのは最低限にとどめるべき」と、冷え込みから脱出しつつある国民の消費マインドに水を差すコメントを批判した▼もちろん石原都知事の気持ちもよく理解できる。しかし、今後被災地の復興を支えるためには、日本全体の経済活動の活発化は不可欠。節電や必需品の買い控えなど最低限のモラルを守った上で、過度の自粛ムードは払拭する時期ではないだろうか。5月には松前や五稜郭が、大勢の花見客でにぎわう光景を楽しみにしたい。(U)


4月3日(日)

●「(自分も)あれほど気持ちをしっかり持てるだろうか」。東日本大震災の被災地からのリポートを見聞きするたびに、自分と重ね合わせ考えてしまう。だが、どう頭をひねってもノーという答えしか出てこない▼「(復興の鍵は)気持ちをしっかり持つこと。後ろを見たら悲しみだけ、前に進むしかない」。テレビのインタビューに、こう話し唇をかんだ人がいた。そうなのだが、気持ちの切り替えは簡単でない。だから自信がないのであり、逆に感動を覚えるのだ▼国民の間には今、共通の思いが醸成されている。被災者を集団で受け入れる自治体の輪は広がり、義援金に加え、支援物資は全国各地から続々送り出されている。「たいしたことは出来ないけど、何か役に立ちたい」。大人から子どもまで同じ思いを抱いている▼原発事故の処理が重くのしかかり、復興までかなりの時間を要するかもしれない。ただ「みんなで…」という思いが共有され続ける限り、支える力が保ち続けられる限り、被災地の人たちは前を向いていけるはず。その先にはおのずと復興した姿が見えてくる▼もちろん家族を、家や財産を失った悲しみは、簡単に癒えるものでない。忘れようもないが、忘れてならないのは、それを乗り越え頑張ろうとしている人たちがいる、ということ。「気持ちが萎えないように」。発生から1カ月を迎えようとしているが、物心両面の支援は始まったばかりだ。(A)


4月2日(土)

●投票所がない。選挙ポスターの掲示板がない。有権者は期日前投票もできない。「前代未聞の異常事態」(総務省幹部)が、千葉県浦安市で起きている。東日本大震災が残した爪痕の一つである▼同市は、巨大地震の液状化被害を理由に、統一地方選の延期を求めた。これが認められなかったことが、混乱の端緒となった。市は県選管に対し「総務省に延期を求める措置を怠っている」と抗議。1日に県議選が告示されたものの、投開票事務は行わないという同市の方針は変わっていない▼選挙が先送りされるのは岩手、宮城、福島、茨城の4県。ただし、その全域で延期が認められたわけではない。沿岸部からの避難者受け入れに追われる自治体がある。ガソリン不足で掲示板を設置できないまちもある。「選挙をやる状況にはない」という訴えは、入り口で退けられた▼4年に一度の選挙イヤーを襲った未曾有の大災害。誰もが予想しなかった偶然の一致を嘆いても仕方がない。ただ、選挙の延期をという一部市町村の強い願いが、国に届かなかったのはなぜか。市町村の実情を正確に把握できないことを認めた上で、別の対処法もあったはずだ▼道南でも同日、道議選が告示された。「選挙の雰囲気ではない」との声も根強いが、選挙執行に支障がないことを幸いと考えたい。復旧・復興対策を含む政策を見比べ、投票所に足を運ぶ。有権者にできることは、その一点に尽きる。(K)


4月1日(金)

●元気だったはずの知人が寝込んだ。東日本大震災の発生から2日後のことだ。後で聞くと、津波被害を伝えるテレビ映像を見続けていたという。日を置かずに体の不調は治まった。今は普通の生活に戻っている▼ロックバンド・スピッツのボーカル、草野マサムネさんが突然倒れた。病名は「急性ストレス障害」。スピッツのウェブサイトによると、草野さんは約3週間の療養が必要で、全国ツアーの一部を延期した。病気の原因は、大震災による「急激な過度のストレス」。けがや避難生活の有無にかかわらず、それは起こる▼体験したことのない大きな揺れ、続く余震、連日報道される悲惨な被害状況、深刻な福島第1原発の問題。「(草野さんは)それらすべてを感じ、目の当たりにし続けた」(同サイトの関係者コメント)▼“震災ストレス”による健康被害は、全国に及んでいる。震災後のある調査では、高血圧やうつ、不眠症など持病のある患者の症状が悪化する傾向がみられた。成人に多く、特に女性や高齢者に目立つという。幼児の場合も注意が必要だ。映像を通して命の大切さを学ぶ前に、恐怖心だけを植え付けてしまうことにもなりかねない▼被災者の身になって自分のできることを真剣に考える。もちろん大切なことだが、それも健康な体があってのこと。不調を訴える人には気分転換も必要だろう。「できること」を始めるのは、それからでも遅くない。(K)