平成23年7月


7月31日(日)

●政治不安、経済不安、生活不安、将来不安…今の“日本丸”は不安のオンパレードである。民主党政権が誕生して間もなく2年。政治を変え、経済や雇用を何とかしてほしい…そんな政権交代の願いも失望に変わりかけている▼政権発足直後は新鮮さがあった。少しは変わるだろう、と期待も膨らませた。無駄を省いて財源の確保をうたった事業仕分けが象徴的だったが、それも束の間のこと。党内では内紛が続き、政治課題の処理にはつまずき、高らかに掲げたマニフェストは陳謝というありさま▼景気や雇用対策で実績があればまだしも、改善の感触はない。円高は進む一方で、企業の海外進出を誘導する環境のまま。これでは法人税の減収が懸念されるばかりか、雇用も改善しない。回りまわって、それは年金など社会保障にも影響しかねない▼確かに政権担当後、肝炎患者への補償、さらには東日本大震災の復旧・復興という懸案を抱えた。財源的に新たな方策が必要なことも理解できるが、それには前提がある。胸を張った埋蔵金を掘り起こし、大胆に予算を見直してもなお、ということだが▼聞こえてくるのは増税という国民への負担の押し付け。言葉を代えると国民への甘えだが、期限付きとはいえ所得税や法人税、さらには消費税に酒税、たばこ消費税もまな板に上がっている。これでは消費は伸びず、企業活動や雇用の好転は望めない。まさに悪循環というほかない。(A)


7月30日(土)

●事件を解明する科学的な捜査に、指紋や血液、声紋、毒物などの鑑定がある。科学的裏付けのある物証として積み上げ、有罪を立証する。その捜査に近年、DNA鑑定が加わった。現場に残された血痕などから、非常に高い精度で誰のものかが明らかになる▼1991年に起きた東京電力の女子社員殺人事件で、ネパール人男性受刑者の弁護団は、受刑者以外の第三者が殺害現場にいた可能性を示すDNA鑑定結果を東京高裁に提出した▼被害者の体から採取された精液のDNAが受刑者以外のもので、殺害現場に残された体毛と一致。弁護団は「受刑者に無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」とし、再審開始を求めている▼裁判で受刑者は、一貫して無罪を主張。一審は無罪だったが、二審は逆転有罪で、最高裁も二審の無期懲役判決を支持した。だが、有罪とするには説明が難しい事柄も多かった。仕事を終えた受刑者が、犯行時刻に殺害現場に到着できたか、現場のトイレに残されていた受刑者の精子は犯行時のものか、女性の定期券がなぜ、受刑者の土地勘のない場所に捨てられていたか—などだ▼一流企業のOLが、奇行を重ね殺人に巻き込まれた事件として、一部報道で女性のプライバシーの暴露合戦になり、彼女の心の闇の深さを浮き彫りにした。今回の新証拠で、女性の心と同様に、事件の真相はさらに深い闇の中に引きずり込まれるかもしれない。(P)


7月29日(金)

●「いやぁー暑い。今年は特に感じるね。昼も夜もだから辛いわ。北海道がうらやましいよ」「そうだな、連日30度を超えるレベルではな。クーラーは?」「時々使うけど、今年は仕方ないよ。(大変なのも)あと1カ月だろうけど」▼大阪の友人からかかってきた電話での会話である。政府は今月1日、東京電力管内に15%の電力使用制限を課したのに続き、25日から関西電力管内に10%以上の節電を要請した。電気の使用を控えなければと思うと、心理的によけい暑く感じるのかもしれない▼ただ、大規模停電を避けるためと言われれば、受けるしかない。とはいえ、じっと我慢、というわけにも。その代替の暑さ対策として見直されているのが、昔の生活の知恵。簾(すだれ)や打ち水などである。朝夕、家の前に水をまき、窓には簾と風鈴…▼この日本の夏の風物詩を彩る簾の売れ行きが、今年は例年の数倍という。節電意識の浸透をうかがわせる現象の一つだが、否が応にせよ、今夏の電力環境が節電意識を高めるきっかけになったとすれば、何とも皮肉な現実。大事なのは、無駄に使わないか、新たに生み出すことである▼先日、誘われて太陽光発電の展示会に顔を出した。昨今、新築家屋で導入が増えており、関心の高さを証明するかのように大盛況。話を聞きながら改めて実感した。節約は「昔の知恵」が教え、生み出す道は「現代の技術」が開いていることを。(A)


7月28日(木)

●こんな経験ありませんか。アナログならラジオ放送と同着なのに、デジタルテレビだと遅くなる。野球中継で快音を発したとして、ラジオでホームランと分かった後、デジタルテレビは2秒くらいして「入った、入った」と絶叫…▼この「2秒の差」は何なのか。損をしているのか、得をしているのか。『1秒の世界』(山本良一編集)を倍にすると、「日本の借金が94万円ずつ増えており、おにぎり1万7200個分の食品が食べ残され生ゴミになっている」ということか…▼「2秒」は、ものみな移りゆく諸行無常の最小単位「刹那」の速さには及ばないが、日々のニュースは1秒でも早く届くことに価値がある。消え去るものは懐かしいが、時代遅れのアナログ放送は伝達スピードの点ではデジタルに勝っている▼知人は仕事で1カ月ほど留守にし、帰ってテレビをつけると画面は砂嵐。「アナログ(時代錯誤)と笑われそうだが、アナログ回線のままだった」と苦笑。高齢者を中心に約10万世帯が地デジに移行していないとか▼2秒あったらスポーツなら新記録続出。なでしこジャパンの逆転PKもなかった。なでしこの快挙に国民栄誉賞を与えよ。それに魁皇関の偉業と潔い引き際にも。菅首相の「2秒の決断」で震災復興が遅れているという声も。今度こそ「即刻辞める」という声が聞きたい。砂嵐で千秋楽が見られないお年寄りもいた。“砂嵐の人生”にならないためにも。(M)


7月27日(水)

●小学校の遠足には、必ずおにぎりを持参した。ある時、友人が誤って落としたおにぎりが、土手の坂をころころと転がった。いつも身近にあり、思い出のエピソードに事欠かない。おにぎりには、人を幸せな気持ちにさせる何かがある▼一口でおにぎりと言っても、その形や具の種類は千差万別だ。形は丸や三角、俵型が主流だろう。友人のおにぎりは、その見事な転がり方から、やや大きめの丸だったと確信している。具は梅干し、さけ、かつお節が不動の人気だが、一方で地域色の強い変わり種も多い▼農林水産省の「ふるさとおにぎり百選」(1986年選定)では、本道からバター焼きおにぎり、こんぶ巻きずしなどが選ばれた。ほかにも、クルミ入り柿の葉おにぎり(宮城県)、人参めし(山梨県)、お茶の葉おにぎり(山口県)、くじらの炊き込みご飯おにぎり(長崎県)など多彩な顔ぶれだ▼函館では新たに「塩ラーメンおにぎり」「たまごぶっかけすき焼き」の二つが登場した。コンビニエンスストアのサークルKサンクスが、市内の学生の発案で商品化し、発売した▼函館名物の塩ラーメンをおにぎりにしてしまおう、という自由な発想が面白い。通常の約2倍という大きさも、若者らしくていい。考案者が地元の学生たちということに大きな意義があるし、ヒット商品になる可能性だってある。おにぎりにまつわる思い出がまた一つ生まれた。(K)


7月26日(火)

●テレビのアナログ放送が終了し、地上デジタル放送(地デジ)に完全移行した。国は「強制的」「一方的」にアナログ電波を止めた。このことを指して「完全移行」と言うのなら、少し筋が違う。地デジへの未対応世帯を数多く積み残している。明らかな「見切り発車」である▼幸い道南では、地デジ「完全移行」当日の混乱はなかった。ただ、全国的には関係機関への相談や問い合わせが相次いでいる。数千円の専用チューナーが買えない世帯、地デジに未対応でありながら声を上げない「サイレント層」…。こうした“受信難民”の実態把握など、今後の課題は多い▼ひと足早く、アメリカでは1998年に地デジ放送が開始された。8年後の完全移行を目指すも高価格の受信機が普及せず、移行期限を2回にわたって延ばした。未対応世帯を解消するまでにかなりの月日を要したという▼自己責任の風土が根付くアメリカでさえ、ここまで気の長い普及活動を行った。日本も法整備から10年をかけたが、移行期間や周知は十分だったか。いささか疑問が残る▼インターネットやスマートフォン(多機能携帯電話)などの普及で、情報の入手手段が目まぐるしく変化している。地デジ化を契機に“脱テレビ”を宣言する若者も少なくない。ただ、高齢者層などにとってテレビは今も特別な存在だ。どこでも普通に映るようになって初めて、地デジの「完全移行」は完了する。(K)


7月25日(月)

●前代未聞の不祥事である八百長問題のため、初場所以来2場所ぶりの本場所として行われた名古屋場所。序盤こそ魁皇の史上最多勝利の更新という盛り上がる要素があったが、果たして十五日間を通して、不祥事によって失われた人気と信頼をどこまで取り戻すことができるか、疑心暗鬼の中の再出発だった▼その暗雲を振り払ってくれたのが、横綱の白鵬と大関の日馬富士の激しい優勝争いだった。史上最多の8連覇を狙う白鵬と2度目の優勝に燃える日馬富士との14日目の直接対決は、「八百長」とは無縁の火の出るような激闘だった▼2場所のペナルティーを経て相撲界の体質が本当の意味で生まれ変わったのか、正直まだ分からない部分が多いが、少なくともこの大一番からは伝わってきた真剣勝負の素晴らしさは、間違いなく本物だった▼日本の国技の伝統を絶やさないようにと必死の形相で先頭を走っている2力士はともにモンゴル出身。この2人が日本人以上に相撲の精神を誇りに戦っていることは、その言動からもひしひしと伝わってくる。数多くのトラブルの末、昨年角界を追われた同郷の横綱とは明らかに一線を画している▼そうは言っても、日本人からの横綱を望みたくなるのが心情。魁皇の引退によって大関以上の日本人力士が姿を消した今こそ、新しい力の奮起が本当の意味で大相撲の再興につながるのではないだろうか。(U)


7月24日(日)

●東日本大震災は、さまざまな教訓をもたらしている。あり得ないと思っていたことが起こりうるということ、だから災害を甘く考えてはならないこと、そして人や地域のつながりが大切なこと等々。その反省に立った動きが出始めている▼大都市での「コミュニティー」の見直しも一つ。かつて、わが国には隣近所付き合いという文化があった。「遠い親戚より近くの他人」ということわざがあるが、その根底に揺るぎなかったのは助け合う心。ところが、価値観や社会意識の変化はそれを薄める方向に▼函館・道南など地方はまだいい。町会などの活動が根強く残っているから。問題は「隣は何をする人ぞ」の大都市である。隣近所でも面識がない、という話も珍しくはない。「万が一の時に頼る術は…」。大災害のたびに問いかけられてきた▼助け合うにも名前や顔を覚えているといないだけでも大違い。そう気づいてきたか、改めてコミュニティーが大切との認識が広がり始めているという。テレビでも特集されていたが、まずは住民が気軽に集えるカフェの定期開設やイベントなど▼被災地では地域ぐるみの移転を希望する話がある。その一方、仮設住宅ではコミュニティーをどう築くかが課題と言われている。なぜなのか、答えは簡単である。日常的に培った人間関係ほど大事なものはないから。ようやくだが、大都市で生活する人たちも解ってきたのかもしれない。(A)


7月23日(土)

●国禁を破って函館から渡米した新島襄(同志社大学創始者)の「海外渡航の碑」を見上げた。大志を抱いて、船底に身を潜め、沖合いのベルリン号に乗り込む…。八重と結婚するなど、考えていなかった…▼八重も渡航の岸壁に立ったことがあっただろうか。会津藩生まれの八重。官軍に攻められた戊辰戦争で、夫と一緒に城に立て籠もったが、夫は行方不明に。八重は男装して戦いに加わり、自らもスペンサー銃を持って奮戦。後に「幕末のジャンヌ・ダルク」と呼ばれた▼新島襄が欧米から帰国したころ、兄の元に出入りしていた新島襄と知り合い、日本人初のキリスト教の結婚式を挙げた。欧米流のレディファーストが身に付いた襄と男勝りの八重は似合いの夫婦だったとか▼その幕末から昭和初期を生き抜いた波乱万丈の「新島八重」が、2013年のNHK大河ドラマの主人公に決まった。今年の大河ドラマ「江─姫たちの戦国」のテーマは『水』だという。どんな器にも無理なく収まりながら水は水。激動の時代に揺すられて耐えながらも江は江…▼「新島八重」のテーマは何だろう。悪妻や烈婦などと評されたり、雨に濡れた女学生に傘を差し出すなど次代を担う女性を大切にした…。地元市の担当者は「藩は敗北したが、八重はその後『復活』した。彼女の生き方を現在の困難な状況に重ねて、元気を出したい」という。2年後の震災地は復興しているだろうか。(M)


7月22日(金)

●プロスポーツの世界には、さまざまな“引退”の形がある。散り際をどこに置くか、当事者にしか知り得ない決断の瞬間である。極限を追い求める。可能性を残して舞台を去る。そのタイプはいろいろだ▼前者に当たるのは、大相撲の元横綱・千代の富士。土俵を去る際に「体力の限界」と言い切った。一方、後者の代表格は元プロサッカー選手の中田英寿さんだろう。「新たな自分探しの旅に出たい」とあっさり一線を退いた▼大関・魁皇が引退した。相撲歴は23年余り。初土俵が若貴兄弟や曙と同じと聞けば、その長さが分かる。「何度も引き際を逃してきた」と言うが、だからこそ通算1047勝という未踏の大記録も残せた。会見での晴れ晴れとした表情からは、やり残しはない、という自負が見て取れた▼引き際を逃している人は、ほかにもいる。魁皇と違うのは、目立った実績を残していないこと。さらに、引き際であることを自分が分かっていないこと。与野党の双方から早期退陣を突きつけられている菅直人首相がその人だ▼菅首相は衆院予算委で、サッカー女子ワールドカップで優勝した日本代表(なでしこジャパン)をたたえた。「私もやるべきことがある限りはあきらめないで頑張らなければ」。四面楚歌の自らの不遇と政権運営への意欲を引き合いに出されては、なでしこも戸惑うばかり。引き際のタイミングを失した悲哀がここにある。(K)


7月21日(木)

●高齢化と後継者不足は、農業や漁業の世界ばかりでないようだ。先日、解散した函館産業遺産研究会もそうだという。富岡由夫会長をはじめ会員諸氏の労苦に敬意を表しなければならないが、それにしても残念というほかない▼数々の学術的な実績を残してきた事実は、誰もが認めるところだから。木造船の研究では、図面や諸道具などを数多く集めて評価を得たほか、精密工作機械の収集にも当たった。このような地域経済を支えてきた産業遺産は、収集して終わりでない▼大事なのは、それをどう保管し、後世に伝えていくか、ということ。運搬する費用、保管する場所の確保など悩み多い中での活動だった。それでも、こつこつと…。函館要塞の調査にも時間をかけた。今や観光地化した函館山は、実は歴史の“証言者”でもある▼「今、改めて検証しておかなければ」。そんな思いからだったのだろう、航空写真と現存の遺構を照らし合わせるなどして、各施設の構造をはじめ全体像を明らかにした。大変な作業であり、そこから生み出された貴重な調査研究資料は、会報「函館の産業遺産」などに▼発足したのは1996(平成8)年。この年、開設された青森の漁船博物館に小型木造船を提供した際の活動がきっかけだったと聞く。15年ほどの活動歴だったが、地域に果たした功績は大きく、賞賛して余りある。「本当にご苦労さまでした」。贈る言葉はそれしかない。(A)


7月20日(水)

●国民年金保険料の未納率が2年続けて40%台…制度の危機状態は少しも変わっていない。年金は老後の生活の一つの支え。40年納付して満額の場合で支給額は年間79万円ほどだが、あると無いでは大違い▼「必要」と誰しも分かっていることで、本来、保険料を納めることに躊躇(ちゅうちょ)はないはず。なのに未納が増え続けて、遂に5人に2人までの水準まできてしまった。確かに月額の納付料約1万5千円余は負担になる金額である。だが、要因はそれだけなのだろうか▼「未納率の低い50歳代後半の加入割合が減って、負担が難しい低年齢や非正規雇用者が増えているから」。厚生労働省の分析だが、現在の雇用、経済情勢などを考えると、将来のことより今の生活、となるのも頷ける。その裏に隠れている思いこそ政治の信頼欠如▼一連の杜撰(ずさん)管理、資金運用に対する不信は解かれていない。政治の責任をあいまいにしたまま、辻褄あわせの議論ばかりでは、なにをか言わんや。若い人に「自分たちが受給する年齢の時までもつのかどうか」と受け止められても仕方ない▼年金機構などが啓蒙しようと、この不信の壁は破れない。まず財源を明確にした上で国が制度の将来を保障することであり、もう一つは雇用の対策。政治の信頼と生活安定なくして未納を改善する道はないはずだが…。いつまでたっても国は、この二つの要件に応えてはいない。(A)


7月19日(火)

●「海の日」の早朝、日本中を興奮の渦に巻き込んでくれたサッカー女子W杯の「なでしこジャパン」。強敵アメリカに食らいつき、最後は劇的なPK戦によって悲願の女王の座を手にした▼最優秀選手と得点王に輝いたMF澤穂希選手をはじめ、スーパーセーブを連発したGK海堀あゆみ選手、準決勝で2ゴールを上げた川澄奈穂美選手など数多くのヒロインが華々しい活躍を見せてくれた今大会。しかし決勝戦に関しては、試合終了直前にピッチから去らざるを得なかった一選手の姿が強烈に印象に残っている▼日本が2—2に追いついた直後の延長後半15分。ロスタイムによる2分ほどしか残されていない場面で、この日の先制点を上げたアメリカのモーガン選手が一気にペナルティエリア付近までボールを持ち込んだ。ここでゴールを決められたら日本の勝利はほぼ絶望的になると思われた瞬間、DFの岩清水梓選手が果敢なスライディングタックルでモーガン選手を倒したのだ▼これにより岩清水選手はレッドカードで退場、アメリカにはフリーキックが与えられたが、日本はなんとかこのピンチをしのぎ歓喜のPK戦に持ち込むことができた▼反則行為は決してほめられたことではないが、彼女は自分の名誉を犠牲にしてまでチームの勝利を優先した。果たして日本の政治家にも自分の名誉を捨てて、国民のためにその身を投げ出してくれる人が存在するのだろうか(U)


7月18日(月)

●函館市は8月から、市役所本庁舎の喫煙所を地下1階に集約する。窓口や執務室があるのは1階から8階までだから、実質的に全面禁煙と言っていい。長年の懸案で、工藤寿樹市長が大きな判断をした。ここで賛否の声を想像する▼まずは禁煙派。吸う人の気持ちよりも、吸わない人への健康被害を真剣に考えて。禁煙化は予算を伴わないどころか、空気清浄機のリース料がなくなるなどいいことずくめ。席を立って吸う時間があったら、仕事をして!▼次いで愛煙家。灰皿を囲んで談笑しながら情報交換ができ、仕事のアイデアが生まれることもある。財政難の折に、地元にたばこ税も納めている。禁煙が時代の流れであることは承知しており、マナーも守るから目の敵にして排斥しないで…▼やはり、禁煙派の主張の方が通りいい。だが、かつてニコチン中毒だった筆者が言えるのは、喫煙者に全面禁煙を強いることは、ある種の拷問であるということ。だからと言って、所かまわず吸っていいわけではない。迷惑をかけていることは自覚しなければならず、公共の場では肩身を狭くして吸わなければならない▼学校や病院では敷地内で全面禁煙というが、愛煙家の苦しみは察して余りある。市役所は、地下1階に喫煙所が設けられて良かったと思う。追い詰められた喫煙者にだって配慮は必要だし、何であれ、舵をいきなり100対0で切ることも危険なのだ。(P)


7月17日(日)

●子どもを守ることが大人の責任。分かっていても、逆に子どもに励まされたり、背中を押されたり。こんな経験を持つ人も意外と多いのでは。子どもは語彙(ごい)が少ない。大人を突き動かすものがあるとすれば、それは天性の明るさであったり、たくましさであったりする▼東日本大震災の発生から1週間後の3月18日。宮城県気仙沼市の避難所で、一つの新聞が産声を上げた。「ファイト新聞」と名付けられた壁新聞は、ここで暮らす小中学生が手作りした。避難所でのその日の出来事や救援物資に関するお知らせなど、「役に立つ情報」が満載だ▼編集方針も光った。「本当の新聞は暗い話ばかり。ファイト新聞は明るい話だけを書く」。久しぶりに風呂に入った喜びが子どもらしく表現され、大人たちの気持ちを和ませた。活躍が紹介された自衛隊員は「うれしい。あしたもまた頑張ります」と声を弾ませた▼「ファイト新聞」は今月初め、ちょうど50号で幕を閉じた。学校が再開し、仮設住宅に移る人も増えたためだ。紙面の内容は、このほど発刊された本「宮城県気仙沼発! ファイト新聞」(河出書房新社)で紹介されている▼短い期間だったが、この新聞が地域の再興に果たす役割は大きい。うつむいていた大人に笑顔が戻り、子どもたちはそれをエネルギーに変えた。「ファイト!」。子どもから励まされた全国の大人たちが、次はしっかりと前を向く番だ。(K)


7月16日(土)

●神社境内の土俵で町内対抗の相撲を取ったり、部厚い布でグローブやボールを作ったり…。食糧難の子供のころ、楽しみは大相撲と野球だった。鏡里だったと思うが、太鼓腹の横綱がいて、狸のような大きな腹で押し出すのが決まり手…▼昨年は野球賭博問題、今年は八百長事件で低迷した大相撲。緊急力士会で「場所をボイコットすべきだ」という過激な発言に、太鼓腹など鏡里に似た最年長の魁皇関は「俺たち力士が相撲を取らないでどうする」と一喝、大相撲の信頼回復へつながった▼迎えた猛暑の名古屋場所。「相撲ファンに応えたい」と大相撲への執念で土俵に上がった魁皇関は4日目に通算最多タイ記録を達成、5日目に元横綱・千代の富士を超える単独歴代最多の1046勝の大記録をマークした▼大の相撲ファンだった昭和天皇は戦後初めての観覧で「久しくも見ざりし相撲(すまい)ひとびとと手をたたきつつ見るがたのしさ」と詠まれた。名古屋場所は、この和歌のように拍手や歓声が戻ってきた。満身創痍の魁皇関が歯を食いしばって頑張っている▼初土俵から23年余り、今場所千秋楽には39歳を迎える。最近は故障に泣かされ、右上手の怪力にも陰りが…。“万年大関”といわれながらも人気は角界一。魁皇関が太鼓腹で立てた通算勝ち星更新の金字塔は、ドイツで活躍している「なでしこジャパン」のメダル獲得と共に、被災地の人たちにも勇気を与える。(M)


7月15日(金)

●撫子(なでしこ)は秋の七草の一つ。主に淡い紅色の花を付ける。ユニホームの胸元にその色を配した“大和撫子”たちが、季節を越えて開花した▼サッカーの女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会準決勝。「なでしこジャパン」は強敵スウェーデンを下し、決勝進出とメダル獲得を同時に決めた。「なでしこ」の代名詞である美しいパスサッカーを、最終日まで楽しめる。何よりも、日本の底力を世界に示すことができたことを喜びたい▼開催地であるドイツとの一戦が分岐点だった。試合前のミーティングで選手たちは、東日本大震災の被災地の様子を収めたビデオを見た。「本当に苦しい時は、被災者の方々のことを思って頑張れ」。佐々木則夫監督の一言が、日本代表の自覚と底力を呼び起こした▼大震災から4カ月。この惨事以外の明るい話題で、我が国が世界中の注目を集めることを誰が想像できただろう。震災直後、世界の国々はそろって被災者の冷静な対応と不屈の精神をたたえた。今度は「なでしこジャパン」の躍進に惜しみない拍手を送っている▼震災に伴う福島第一原発の事故を受け、東京電力女子サッカー部が活動を休止した。同部に所属していた丸山桂里奈、鮫島彩の両選手は大会前、「東電社員」という立場に苦しんだ。折れそうな心を他のメンバーが支え、2人の活躍につなげた。撫子の花は可憐だが、芯の強い凛とした美しさを併せ持つ。(K)


7月14日(木)

●このところ、生肉をめぐる騒動が続く。死者を出したユッケの集団食中毒から始まって、牛の生レバーに飛び火したかと思うと、今度は原発事故で放出された放射性セシウムによる汚染牛肉が10の都道府県に出回った▼福島第一原発から30キロ圏の緊急時避難区域にある農家が出荷した牛から高濃度のセシウムが検出された。県は約260戸の農家から出荷されている牛について、今後は県内で解体し放射線量の検査を終えてから出荷する方針を決めたが…▼千歳市の飲食店では同じ農家が飼育した牛肉を仕入れ、客に提供したという。余った煮込みから検出された放射性セシウムは暫定規制値を下回っていた。横浜市の小学校では1学期最後の日まで給食に福島産の牛肉の使用を自粛▼昔は農耕期の4月から半年、牛や馬、犬、猿、鶏の肉食を禁止し、違反したら罰せられたという。殺傷を戒め、農耕期は牛や馬を大切に扱って、貴重な動物の命を頂くという「感謝の気持ちで味わえ」と教わった。ユッケなど今は子供まで食べている▼続く食肉不安はエネルギー資源の浪費と飽食への警告か。ユッケやレバーに関しては罰則つきで規制する方針が決まったが、放射性物質に汚染された牛肉は子供や妊婦への影響が心配。専門家は「規制値を超えた牛肉を食べてもすぐ健康に影響はないだろう」と言っているが…。風評被害など広がらないように、全頭検査を実地せよ。(M)


7月13日(水)

●「ポスト団塊ジュニアの男性は、他世代に比べて非正規雇用から抜け出せない人の割合が高い」。先日、こんな分析を交えた労働経済白書が発表されたが、何か強い違和感が込み上げてくる。そう、大事な「じゃどうする」が傍観者的なのである▼アルバイトやパート、加えて派遣の増加は政治がもたらした現実。企業にとっては効率的で便利だが、その結果は予想された通り。としたら「…抜け出せない…」という表現が適切か。少なくとも、こんな悠長な、他人事のような表現は出来ないはず▼「職業訓練の拡充などを通じて、正規採用への転換を支援すべき」。対策の一つだが、技術を身につければ正規雇用が広がると思っているのだろうか。国がそれを保障するならまだしも、正規とするか否かの権限は企業が握っているのだから▼国や道などの自治体にも、非常勤という雇用形態がある。6カ月間と言えば、ようやく仕事にも慣れる時期だが、たとえ優秀な人材であっても常用の道は…。「多くの人に機会を」という大義名分のもと、自ら非正規を生み出している▼個人の生活の安定はもとより、年金や社会保障などの観点からも雇用は大きなテーマ。それが非正規増となって歪(ひずみ)が生じていると認識しているなら、法的にも踏み込んだ対策が提言されて然るべき。そう言わせるのも、雇用の現実は、ポスト団塊ジュニア世代だけの問題でないからである。(A)


7月12日(火)

●阿弥陀さまにすがって浄土に往くことを願う浄土思想。大地震や大飢餓で末法の世が迫るという不安が募った平安末期から広がり、浄土に近づこうと念仏を唱えた。世界遺産に登録された奥州・平泉の「地上の浄土」を見てきた▼中尊寺金色堂の阿弥陀三尊をのせる須弥壇(しゅみだん)の下に源頼朝に滅ぼされた藤原三代の遺体が納められている。平泉を知ったのは、非業の死を遂げた知名度抜群の源義経と「夏草やつわものどもが夢の跡」と詠んだ松尾芭蕉の「奥の細道」を読んでから▼マルコポーロの「島国ジパングの宮殿の屋根はすべて純金だ」という一節は金色堂を指すという。「極楽浄土の信仰に基づいて現世に浄土空間を表現した」という浄土現出のコンセプトで統一されたことが高く評価された。作家の瀬戸内寂聴さんは中尊寺で出家得度▼中尊寺の建立は末世の戦乱で絶命した東北人の慰霊も意図していたといわれる。今回の世界遺産登録には「3・11の大震災」が大きく影響したに違いない。悲運にも旅立った多くの人は、苦しみも争いもない平泉の浄土で安住している…▼平成の末法は、原発の再稼動を容認したかと思うと「ストレステスト(耐性試験)をしてから」と言い出し、ますます迷走。極楽浄土にいる被災者は「平泉の世界遺産は復旧・復興に大きな励みになる。避難所など苦難に耐えられるように寂光を照らしてほしい」と叫んでいる。(M)


7月10日(日)

●「私はお墓にひなんします ごめんなさい」。6月下旬、福島県南相馬市の93歳の女性が自殺した。毎日新聞ネット版で紹介された遺書は哀切を極め、読む者の心を揺さぶる▼警察庁の統計によると、4〜6月の福島県内での自殺者は160人で、昨年同期より約2割増えた。被災を苦にした高齢者が自ら命を絶つケースも少なくない。南相馬市の女性は「またひなんするやうになったら老人はあしでまといになるから」とも書き残した▼玄海原発(佐賀県玄海町)の運転再開を支持する「やらせメール」が、九州電力社員の手で住民説明会に送信された。副社長が「工作」を指示していたという。原発問題をめぐる常軌を逸した言動が、関係者の間で目立つ。原発事故に翻弄(ほんろう)される福島県民の心の叫びが耳に届いていない証拠だ▼政府内の混乱も続いている。全国の原発を対象に実施することになったストレステスト(耐性検査)の是非がその一つ。「なぜ今ごろ」という疑問の声は当然であり、国民不在の思いつき政策で国難を乗り切れるほど現状は甘くない▼ドイツの脱原発法が成立した。国内の17基を順次停止する。必要分の電力は今後、原子力国家であるフランスなどからの輸入で賄う。他国の原発政策を許容するという矛盾がないわけではない。ドイツに学ぶべきことがあるとすれば、我が国にはない、トップの一貫した政治哲学である。(K)


7月9日(土)

●昔は「庭造り」と言った。今は「ガーデニング」の方が通りいいが、その趣味としての園芸が広がりを見せている。道内では恵庭市の恵み野地区が知られるが、各地でオープンにする庭も増え、商業的施設は観光地化さえしている▼このガーデニング、なかなか奥が深い。まず、個々の植物を知らないことには始まらない。そしてデザイン感覚が求められる。生育に合わせた手入れや水遣りなども怠れない。その労力を苦労と感じさせないのは、それを帳消しにするほどに心を和ませてくれるから▼長年、放っておいた状態のわずかな庭を今年、見よう見まねで手を入れた。背丈の高いツツジやシャクナゲなどは塀際に、その手前には草花を。庭造りの域にまで達していないが、不思議なものでよそ様の庭に目がいってしまう。それが講じて先日は富良野へ▼テレビドラマの舞台で、気になっていた「風のガーデン」を観るために。旭川、富良野と十勝の7カ所を結ぶ観光ガーデン事業の中核的存在の庭園だが、評判に違わず、感嘆の一言。うまくは表現できないが、そこに身を置いているだけで心が和む、というか…▼何でもそうだが、手を加えると、それに比例して愛着が生まれるもの。東日本大震災の津波被災地域や原発事故に伴う避難地域でも、多くの家庭に庭や菜園があり、こうした潤いがあったはず。それが今は…。「早く元の生活に戻れるように」。この思いに勝る願いはない。(A)


7月8日(金)

●外から訪れる辛党の多くは、函館に地酒がないことに驚く。歴史のあるまちだから、蔵元の一つや二つは存在するはず。単なる先入観と言ってしまえばそれまでだが、海の幸に恵まれた土地柄のこと。さかなの味を引き立てる地酒の不在は寂しい▼函館に酒造の歴史がないわけではない。その移り変わりは函館市史に詳しい。地酒の醸造所は明治26年の23軒が29年には14軒に減ったが、そこで醸される酒の量は決して少なくなかった。原料米は主に越後・越中・佐渡米で、酒桶は秋田杉を使用。出来上がった酒は、比較的低廉で提供された▼昭和の初めごろからしょうゆ、みそなどの醸造業が衰退する。清酒も例外ではなく、函館の酒造業をリードしてきた「丸善菅谷商店」が昭和12年、札幌の日本清酒と合併。残念ながら、地元酒造業はやがて函館から完全に姿を消すことになる▼その地酒を復活させる取り組みが、函館市を中心に進んでいる。昨年度に試験栽培した酒米を、地酒としてどう結実させるか。関心の高い米粉の生産や、家畜飼料用としての活用も検討しているというから、将来が楽しみだ▼道内には現在、北の誉酒造(小樽)、國稀酒造(増毛)、男山(旭川)、福司酒造(釧路)などの蔵元がある。曲折を経ながら、それぞれに独自の足跡を残してきた。老舗の経験は宝の山であり、耳を澄ませて歴史の鼓動を聴く。地酒再興への近道である。(K)


7月7日(木)

●政権が末期になると、共通して表れる現象がある。首相の取材拒否で、今はその症状が悪化の一方に陥っている。形式はどうあれ、会見は生の声で国民に語りかけ、メッセージを発する機会であり、本来、厳しい環境の時ほど必要とされる▼ところが、過去の例も、現実を見るまでもなく、往々にして避ける方向へと加速する。菅首相も、応じたくない、という心理状態なのだろうが、ただ過去の首相と同列には論じられない。東日本大震災という国難に、国を挙げて立ち向かっている時だから、である▼発生直後は自ら会見に臨んでいた節がある。それが原発事故の事態が深刻になるにつれて…。6月以降はわずか2回、行っただけという。いわゆる「ぶら下がり取材」に応じているかと言えば、テレビに映っている通り▼それすらも避けている。直接的な相手は記者だが、その背後に国民がいることを知らないわけではないはずなのに…。問いかけにも無表情で、無言を貫いている。自らポストを作り、任命した松本龍復興担当相の辞任問題に当たっても、頬被りしたまま▼これでは伝わるものも伝わらない。今、最も求められているのは信頼の確保であり、それには首相の一言ひと言が持つ意味は大きい。復旧復興のための予算は編成し、国会答弁もしている…だから応じる必要はないと考えているとしたら、もはや何をか言わんや。被災者の心情は察して余りある。(A)


7月6日(水)

●24歳の母親。部屋は30度という猛暑なのに、わが子に何日も水や食べ物を与えず、部屋に閉じ込めた。熱中症と飢えで、1歳5カ月の男児は息をひきとった(千葉県)。少し前は『あいさつの魔法』を口ずさんでいた…▼猛暑が続けば電力需要量が上がる。そこで「でんき予報」が登場。予想気温や過去の実績を参考に翌日の最大需要量を予測し、供給量を顔マークで表示。赤の顔マークが出たら熱中症の危険性が高く、先週の猛暑日には死者が続出▼被災地の避難所などは“蒸しぶろ地獄”。梅雨の屋外では放射性物質を含んだ雨の恐怖。ある小3女児は周辺の瓦礫を見るだけで「おかしくなりそう」と登校拒否。夜になると「ママ、離れないで」と母親の胸に顔をうずめる…▼また、小6女児は「学校はハエが多く、給食の時間も飛び回っている。地震も多く怖いけど、学校で友達と会うと楽しいし、安心する」と話し、「♪あいさつするたび、友達ふえるね」と『あいさつの魔法』を口ずさむ。節電は大事だけど、節電で熱中症にならない対策も必要▼もうすぐ大震災から4カ月…。今月から『♪ささえあったら、人になる〜』という歌が口ずさまれており、復興へ子供たちもボランティアで汗を流す。それなのに「知恵を出さないところは助けない」と“上から目線”と映る暴言…。議員さん、おにぎり持参でボランティアに出掛け、瓦礫の一つでも片付けて来てください。(M)


7月5日(火)

●被災者が負った深い傷に、塩を塗りこむような暴言だった。「知恵を出さないやつは助けない」。どこをどうすれば、こんな無慈悲な言葉が飛び出すのか。信じたくないが、これが大震災の復興を託されたリーダーの実像である▼岩手県知事に先の一言を投げつけた松本龍復興相は、宮城県知事にもかみついた。「県でコンセンサスを得ろよ。そうしないと我々何もしらんぞ」。両発言ともに前後の文脈があるのだろうが、感情の向くままという印象は否めない。両知事は被災地の住民を代表する立場。それを忘れた失言・暴言は、同相としての資質の欠如を意味する▼野党は一斉に「常軌を逸した発言」などと松本氏を批判した。初めは「問題なし」としていた同氏も、分が悪いと悟ったのか、一転して「被災者の皆さんを傷つけたということがあれば、おわび申し上げたい」と陳謝した▼失言は繰り返す。東京消防庁の福島第一原発への放水作業をめぐり、担当大臣が「速やかにやらなければ処分する」と発言したとされる問題は記憶に新しい。そのことに抗議したある知事も「震災は天罰」などと発言、陳謝しているのだから人のことは言えない▼松本復興相が言う「知恵を出さないやつ」とは誰のことか。そもそも知恵の足りない国に指摘される筋合いのものではない。手本を示してこその“リーダーシップ”であり、天に唾するような発言からは何も生まれない。(K)


7月4日(月)

●「自然を壊さずに後世へどうバトンタッチしていくか」。それは今に生きる者の務めだが、残念ながら理念と現実の壁は厚い。このままでは…。世界自然遺産が誕生した背景もそこにあるが、登録されたら、されたなりに悩みも生まれて痛しかゆし▼自然を守る上での最大の実効は、人が入り込まず、人の手を加えないこと。登録を求める背景には、制限したい、という思いがあるが、その一方で地元には経済効果を期待する思いもある。また、それほどいい所なら一度は、という思いから訪れる人は増える▼自然遺産として先輩格の登録地を見れば、その悩ましさは一目瞭然。地元が期待する動きとなって、結果的に規制を強いることに。そんな情報が知床、屋久島から届いている。知床では五湖への入域制限への不満であり、屋久島では規制への反対▼背景は「環境保全のため」に規制を避けられない姿があるからだが、その現実を広く理解してもらうのは容易でない。知床は立ち入りの事前申し込みを巡る混乱で、屋久島は立ち入り人数の制限(一日420人)に対する議論である▼いずれも登録されたことの原点を問われる話だが、当初から懸念された事態。言わずもがなだが、登録によって自然が守られるわけでない。逆のケースも起こりうる。こうした問題にどう向き合っていくか…自然遺産として新たに登録された小笠原諸島に突きつけられている課題でもある。(A)


7月3日(日)

●栗原小巻・ロシア文化フェスティバル日本組織委員会副委員長—。あの大女優とロシアにどんな関係があるのか。それとも単なる同姓同名か。取材記者に確認すると、確かにあの栗原さんだという。迷わず原稿に「女優」の肩書きを付け加えた▼吉永小百合ファンは「サユリスト」、これに対し栗原小巻ファンは「コマキスト」と呼ばれた。後者の「コマキスト」を自認する人であれば、栗原さんが旧ソ連時代から日ソ合作映画に主演していることも当然知っているはず。別人を疑った冒頭の無知を恥じた▼「同フェスティバル2011 IN JAPAN」の函館オープニング行事が10日まで開かれている。来函した栗原さんは、1日のセレモニーで「多彩なプログラムを楽しんでほしい」と呼び掛けた。「聖ニコライ渡来150周年記念」をうたうだけに、関係者の強い意気込みが伝わる▼ボリショイサーカス、ロシア人墓地慰霊文化祭、ロシア民族合唱団コンサート、アニメ映画上映、ロシア人収集・明治古写真展…。今後、全国で展開される同フェスの開幕を飾るのにふさわしい豪華な顔ぶれだ▼函館ハリストス正教会、ロシア極東大函館校、旧ロシア領事館など、函館にはロシアゆかりの施設が多い。しかし、国柄の違いもあり函館とロシアの交流には目立った進展がないのが実情だ。文化を通した人の触れ合いを潤滑油に—。同フェスをその契機としたい。(K)


7月2日(土)

●新しい高齢運転者標識を街角で見掛けることが多くなった。70歳以上のドライバー向けとはいえ、従来の「もみじマーク」は「枯れ葉のよう」と不評だった。新デザインの「四つ葉のクローバー」は明るい色調で、元気な高齢ドライバーを中心に支持を得ているという▼ただし、この元気も独り善がりでは少し困る。高齢マークが目に入ると運転に一層の注意を払う。それは当然としても、時として予測不能なハンドル操作でこちらがヒヤリとすることも。「失礼な」とおしかりを受けそうだが、高齢者の判断力低下はいかんともしがたく、それは運転時においても例外ではない▼65歳以上の高齢者が運転免許証を自主返納する。これを促すための改正道路交通法が、1998年4月に施行された。また、2009年6月には、75歳以上の免許保有者に認知症検査も義務付けられた▼当人が「大丈夫」と言っても、それをうのみにしない。高齢者にとって酷な振る舞いかもしれないが、危険を感じた家族が高齢者の運転を禁じる、あるいは免許証の自主返納を勧める—。これもまた、一つの愛情の形と言えよう▼千葉県木更津市などで路線バスを運行する会社が1日から、運転免許証を自主返納した高齢者のバス運賃を半額にした。返納者には2年間有効の優待証(更新可)を交付する。高齢ドライバーによる事故を減らし、バス利用の促進も期待できる。一石二鳥の妙案である。(K)


7月1日(金)

●「脱原発」を争点に、菅首相が衆院解散に踏み切るのではないかという観測が流れている。争点を一つにして勝負する「シングルイシュー」の選挙で、2005年に小泉首相が仕掛けて自民党が大勝した郵政選挙が記憶に新しい▼06年の滋賀県知事選では、新幹線駅建設が最大の争点となり、凍結を訴えた新人候補が、自民・民主・公明が推す現職候補を破った。しかし、シングルイシューに持ち込めば勝てるという思惑があるとしても、いま本当に選挙をしている時間があるのか、原発と一緒に頭を冷やして考えたい▼制御不能となった福島第一原発の事故を見て、国民の大半は原発に頼らないエネルギー政策への転換について考え始めた。だが、電力の安定供給を考えると、多くの国民はすぐに原発を止められないこともわかっている▼この流れを受け、菅首相は再生可能エネルギーの推進に意欲を示している。退陣の条件の中にも再生エネルギー法案の成立を挙げ、これを通さなければ自らの身も引かない構えだ。しかし法案を通さなければ解散も辞さないという姿勢を、すでに退陣を表明した首相が取るのはおかしい。それよりも与野党が合意した延長国会の中で、被災地復興に向けた二次補正予算や特例公債法の成立などに全力を上げるべきだ▼一国のエネルギー政策の行方は、原発反対、賛成という二者択一で選べるものではないし、委ねるべきものでもない。(P)