平成23年8月


8月31日(水)

●「読書の勧め」に苦労しているのはわが国だけではないようだ。イギリスも然りで、先日の外電によると、慈善団体が行った8歳から17歳までの調査で、1カ月の読書量が1冊にも満たない割合が6人に1人だったという▼読書の効用は幾重にも論じられる。子どもにとっては読み書きの基本ばかりか、読解力や洞察力、さらには表現力が養われる、と。いわばすべての教科の原点となる国語の基本とも言える。絵本に始まり、読書が提唱されるのもそれ故。しかし、現実は、というと…▼「本との触れ合い」。遊び道具が少なかった時代には、まだあった。社会の多様化は次第に読書の領域を侵し、その中で育った世代が親になってきている現代、その根を深くしている。実際に、厚労省が毎年行っている調査がそんな現実を浮き彫りにしている▼「母親の読書量と子どもの読書量はほぼ比例する」という。幼年時代の動機づけが大事という話を聞いたことがあるが、この調査が教えているのも「鍵は親が握っている」ということ。だが、啓蒙にも限界がある、ということで近年、学校での読書重視は歓迎される動き▼イギリスは「11歳で年間50冊の読書」を提唱している。わが国に置き換えても大変な目標だが、月4冊、週1冊と考えると、そう高いハードルとは映らない。今年の読書週間(10月)標語「信じよう 本の力」は、読書の重みを改めて問いかけている。(A)


8月30日(火)

●掘った穴を草葉で覆う「落とし穴」はワナの一つ。獣や小動物を捕るために縄文時代から作られた。ゲリラ戦法ではワナにかかった敵兵を殺すため穴底に竹や木の枝を上にして備え付けたという▼子供のころ、森や畑で“戦争ごっこ”をする時は必ず落とし穴を作ったものだ。あぜ道などで両端に伸びた草を結び、通った人が足を引っ掛けて転倒。担いでいた肥やしを全身に浴びせさせ、「遠くから運んできたのに」とゲンコツを食らった▼大崎海岸(石川県)の砂浜に2・4メートル四方の大きな落とし穴。深さは2・5メートル。穴の底にマットを敷き、上をブルーシートで覆い砂をかぶせ、位置が分からないようにした。誕生日を迎える夫を驚かそうと、23歳の妻と友人数人が昼ごろから作った▼夜10時すぎ、夫を付近まで連れてきた妻が一緒に落とし穴に転落し、2人とも砂に埋まって死亡した。誕生日祝いにサプライズを贈ろうとしたのだろうが、皮肉にも自業自得の悲劇を招いた。自分が掘った落とし穴の位置を忘れて…▼最近、結婚祝いや誕生祝いなどの贈り物は“消えるもの”を欲しいという女性が増えているという。旅行、川下り、乗馬、熱気球体験など。「落とし穴体験」もこの部類だろうか。「スコップを用意、まず砂場に40センチほどの穴を掘ります」—インターネットに書き込まれた落とし穴の作り方。でも、大崎海岸の“死の落とし穴”はやり過ぎだ。(M)


8月29日(月)

●短い足で立ち上がり、愛らしい瞳でもみ手をして、餌のクッキーをねだる。そこを目がけて投げると、口で見事キャッチ。クマ牧場の光景である。自然の中では厄介なクマだが、牧場の中ではかわいい▼しかしかねてから各地のクマ牧場は過密・劣悪な飼育が問題視され、世界動物保護協会では環境改善を呼びかけていた。そうした中、保護団体からの指摘を受け、札幌市が旧定山渓クマ牧場の立ち入り検査に入った▼閉園して7年たつが、まだ残っていた。引き取り手を探したが見つからなかったためで、指摘では1日1回、コンビニの弁当やパンを与えて飼育しているという。人間の都合で牧場に入れられたから、勝手に自然に戻したり、処分することはできない。責任を持ってペットを飼うのと同じだ▼クマの受難は自然界でも続く。道南でも天候不順や緑の喪失で餌がなくなり、クマが人里へ。人間たちもレジャーや山菜採りで彼らのエリアに入り、あつれきが生じている。東大沼キャンプ場では目撃情報を受け、道などが電気牧柵を設置した▼「クマと人間の共生」が叫ばれ、国は「野生鳥獣は、長く後世に伝えていくべき国民の共有財産である」とする。だが、実際に農作物被害などに遭っている人たちにしてみれば、「共生なんて言葉で済まないほど、深刻な問題」。確かに共生は難しい。頭のいいクマに、人間に捕まらない芸でも覚えてもらおうか。(P)


8月28日(日)

●震災による放射性物質との闘いの中にも、転換点はある。宮城県産肉牛の出荷停止が解除されてから初めての競りが、県内の市場で行われた。食肉関係者や県幹部の姿がテレビ画面に映った。その表情には、トンネルの一つを抜けた安堵(あんど)感が満ちていた▼残る福島、岩手、栃木の3県産肉牛についても、出荷停止措置が解除された。政府が「検査態勢が整い、安全性を確保できる」と判断した。宮城と同様、肉牛の競りが再開する日は近い▼ただ、地元関係者の不安が一掃されたわけではない。中元シーズンと重なる夏の書き入れ時に収入が皆無だった畜産農家も多い。出荷が始まっても、損なわれたブランドイメージはすぐには戻らない▼日本フードサービス協会によると、7月の外食売上高は前年同月比0・4%増で、5カ月ぶりに前年超えとなった。ファストフード、居酒屋などが売り上げを伸ばす中、焼き肉店は苦戦が続いている。同じ肉でも牛丼は好調という。放射性セシウムの汚染牛肉の問題が、焼き肉店を直撃した格好だ▼放射性物質への対応は、目に見えない相手との持久戦でもある。克服への決め手はなく、できることも多くはない。地元水産団体は函館市前浜で捕れたスルメイカの放射性物質検査を継続的に実施している。取り組みは地味だが、避けては通れない。食を守ることは、地元民の命を守ることだから。(K)


8月27日(土)

●恋人と歩いた哀愁の柳小路〜 記者の駆け出し時代の5年間は函館だった。音羽通、高砂通、広小路、祇園小路…。中でも、よく柳小路あたりで飲み歩いた。柳の根元に小用し、電柱に上ったり、怒られたものだ▼北洋漁業がピークの頃、漁船員らでにぎわった。「杉の子」など居酒屋やバーのほか、柳の側には屋台も。深夜、キャバレーのダンサーやバンドマンが50円のラーメンをすすっていた。「白馬」という喫茶店もあった▼柳小路は「人間ドラマ」をも生む。辻仁成監督の「海峡の光」には元青函連絡船員が柳小路のバーで「俺たちみんなお払い箱さ」とつぶやくシーンがあった。細くてしなやかでも「柳に雪折れ無し」のように、困難に堪える力がある▼西部の十字街の銀座通の柳並木は、東京銀座のように柳の魅力で繁栄させようと植えられた。カフェが建ち並び、芸者見番も。飲み歩いた記者の高橋掬太郎は、好きな芸妓に即興で「酒は涙か溜息か こころのうさの〜」と扇子に書き込んで贈った▼どこの小路も演歌が流れていた。北洋漁業が衰退し、郊外に大型店が移るまでは。半世紀以上、大門の盛衰を見てきた柳小路の柳が先ほど、伐採された。150メートル小路のシンボルも、6本のうち3本の幹が空洞化、腐って、保存は難しいと判断。市などは「大門の繁栄は柳小路から」と、新しく柳を植樹する計画。新しい「人間ドラマ」を創出してね。(M)


8月26日(金)

●「しつこい三角関係」。メロドラマの話ではない。函館市内の飲食店で、メニューの中に見つけた。粘りのある3種の食材を混ぜ合わせた創作料理か。ネーミングの妙を楽しませてもらったが、注文するのは遠慮した▼函館産のガゴメコンブは、その粘りの強さが最大のセールスポイントだ。関連商品を扱うJR函館駅前の店は、その名もずばり「ねばねば本舗」。単独でも十分な粘りがある。強烈な存在感ゆえ、ほかの同種食材と混ぜることには抵抗もある。ガゴメには“三角関係”は成立しない▼「世界的にみても、ここまで粘りのある食材は珍しい」。ガゴメコンブ研究の第一人者、北大大学院水産科学研究部の安井肇教授は、その“ねばねば”に太鼓判を押す。講師を務めたセミナーの中で同教授は、ガゴメの優れた栄養面にも言及している▼食物繊維や鉄分・カルシウムはもとより、豊富なミネラルなどを含む。テレビ番組でも紹介され、健康食品としての「函館のガゴメ」の人気は全国的に定着しつつある。暑かった夏の疲れが徐々に出るこの時期、ガゴメで“粘り腰”を養ってほしい▼存命に脅威の粘りを見せた菅直人首相も、いよいよ退陣の時を迎える。次の首相、次の内閣には、震災復興をはじめとする野党対策などで強い粘り腰が求められる。しかも、国民には十分な“栄養”を提供しなければならない。ガゴメコンブに見習うことは多い。(K)


8月25日(木)

●被災地の子供たちの自由研究は原発事故を含む大震災をテーマにしたものが多いと聞く。住宅街や森に出掛けて放射線量を測定して、その違いを勉強、見えぬ敵に驚いたり、液状化で傾いた家を観察したり…▼見えず、臭いもなく、音もない放射線。どこで計測すればいいのか、どういう場所が危険なのか、どういう行動が危険なのか…に悩んだという。そんな中、来春から中学理科教科書に30年ぶりに「放射線」を復活させるという▼福島原発の事故を受けてのことだが、30年ぶりというと、今教壇に立っている大半の先生は子供のころ「放射線」について教わっていなかった。「生徒たちの質問に的確に答えられないのでは」という不安も渦巻く…▼新しい教科書には放射線が医療や体内部の検査に使われていることや原発の仕組みなどを盛り込むというが、放射性物質の汚染への対応を巡って学者レベルでも差があったり、そうかと思うと子供や保護者が放射線量を測定するなど身近な現象にもなっている▼「放射線が怖い。悪い夢を見て眠れない」と、不眠を訴える小学生も増えており、放射線量による“こころの健康被害”も少なくない。文科省は放射線の基礎知識を教える副読本を来月にも全国の小中高校に配布するが、教え方は学校に任せる方針。国は何でも旗は振るが、現場任せとは情けない。自由研究で放射線量に取り組んでいる子供たちが頼もしい。(M)


8月24日(水)

●道内の交通事故死者が100人を超した。統計を取り始めた1967(昭和42)年以降、最も遅く、昨年より26日遅いというから、一般的には明るい話。年間200人割れも現実視される経過だが、実現の鍵を握るのは一人ひとりの意識であり注意▼交通事故が社会問題化して久しく、深刻な状況が続いてきた。最悪だった1970(昭和45)年の死者は全国で1万6765人。1カ月1400人、1日50人近くが犠牲になった計算になる。放っておいて解決できる話ではない▼かと言って即効薬もない。あるのは根気強い取り組みだけ。それが徐々に実を結び始めたということだろう。道路環境の改善、シートベルトやエアバッグなど車の安全対策、関係機関の努力…。その結果は最近10年余りの統計に表れている▼ともかく年間5000人を割るまでになった。北海道も同じで、10年前は年間500人を超えていたのが、5年前には200人台になって、昨年は215人。今年は4カ月あまりを残した22日現在で101人(うち函館方面本部管内は5人)▼昨年同期に比べ20人ほど少なく、発生件数、負傷者数も大幅に減っている。40年ほどかかって半減の域まできたが、まだまだ多い。北海道では今なお年間2万2000人(全国では90万人レベル)もの死傷者が出ているのだから。次の目標はさらなる半減。その鍵はドライバーの手に委ねられている。(A)


8月23日(火)

●夏休みを利用して横浜まで足を延ばした。学生時代を含め約10年間首都圏で暮らしたが、横浜で遊んだ経験は数えるほどだったので、今回はたくさんの発見があった▼横浜は函館同様に開国の象徴的港町のひとつで、海外文化の窓口として発展を遂げてきた歴史がある。和洋折衷の歴史的建造物が現代の町並みにごく当たり前のように溶け込んでいる風景は、函館と共通する香りが漂う。港を見下ろす小高い丘に住宅が密集する様にも親近感を感じる▼一方、今の横浜にあって函館に足りないのは、街中にあふれる活気である。28万人を割り込んだ中核市と370万人の政令指定都市を比較するのは酷だが、昼間だけ観光客でにぎわう函館ベイエリアに対し、通勤客と観光客、地元住民によって一日中、人の流れが途切れることのない横浜の躍動には、150年の間に開いてしまった距離を感じずにいられない▼もちろん函館にも大自然や海の幸、ゆったりとした時間の流れなど、横浜にはない魅力が備わっている。道新幹線の開通が観光的にも経済的にも起爆剤となる期待も大きい。ただ、人を呼び寄せる道具がそろっても、それを利用してもらう新たな動機付けが不足しては意味がない▼古いものを残しながら、新しい町作りに積極的に取り組んできたことで発展を続けてきた横浜から、函館の再興のヒントを得ることはできないだろうか(U)


8月22日(月)

●暦の上では、立秋以降の今の季節を「秋」と呼ぶ。昔は盆を過ぎると肌寒い風が吹いた。気候変動の影響か、昨今は少し事情が違うようだ。例えば、昨年は9月に猛暑の日が続いた。夏からいきなり冬になったようで、これでは秋の風情を感じる余裕もない▼さて、今年はどうかと気にしていたところ、函館のまちなかでトンボの姿を見かけた。気温はまだ高め。気の早いトンボだったのかもしれない。それでも、こうした「小さい秋」を重ねながら、季節はゆっくりと、そして確実に移ろう▼ところが、この秋の展望は少し様子が違っている。国民生活に密着した政治の話である。一つは、菅直人首相が退陣した後の次期政権の行方。さらに、遅れが指摘される震災復興対策もその一つに入る。いずれも現場では、涼風が吹くどころか、ジメジメとした暑気がそのまま秋に持ち越される気配がある▼菅政権と野党の関係は、これ以上ないというところまで悪化した。さりとて新内閣発足後に何が期待できるのか。野党があれほど強く求めた菅首相の退陣が実現した後も、与野党の関係が劇的に好転するという要素は皆無だ▼国を挙げた復興対策が求められる中、各政党が自らの保身を優先してきた印象は否めない。ないものねだりはしないが、せめて風通しのよい国会運営を。復興は緒に就いたばかり。盛夏、そして秋風の後には、被災者にとって酷な冬が巡ってくる。(K)


8月21日(日)

●学生時代、よく保津峡の川下りに乗った。激流に突っ込む、水しぶき…涼風満点だった。それも、ベテラン船頭の激流や渦巻きなどを乗り切る舵取りの技術があったから▼浜松市の“暴れ天竜”の川下りで起きた遊覧船の転覆事故。中部山岳地帯の険しい地形や岩場の急流、時には水量豊かな大河…。3隻が連なって川下りしていた真ん中の1隻。渦巻きから脱出したとたん、岩壁に激突。23人が放り出された▼「渡しの船頭さんは今年六十のおじいさん〜」という歌があるが、天竜川で転覆事故を起した船頭は66歳。川下り経験3年、舵取りは3月に始めたばかりの「新人船頭」だったようだ。舵取りには練習時間や規定もなく、国家資格なども不要という▼今の60歳は、ひと昔のように「おじいさん」などと呼べないが、還暦をすぎてから転職しなければならない時代。だからこそ、渦巻きなど難所を乗り切る舵取り技術をもっと磨く必要がある。救命胴衣を義務付けている子供に「暑いから(着けずに)置いておいて」とも話していたという▼全国の有名な川下りは13カ所。船頭は多くの乗客の命を預かっている。ホームページに「舟はゆったりと下ります。安心してお楽しみ下さい」とあるが、相手は暴れ川、どこに落とし穴があるか分からない。積極的に救命胴衣を着け、自分の命は自分で守るしかないのか。もちろん、徹底的な船頭の教育・訓練は不可欠。(M)


8月20日(土)

●食料品をはじめ、商品を買う時に最も重きを置くのは何だろうか。幾つか要素がある中で、「質」が外れることはあるまい。最初こそ品名(名称)やパッケージ(デザイン)に目がいくにせよ、最終的には素材など品質(内容・中身)が決め手となる▼多くの人に異論のない見解と思うが、それは政治の世界にも通じること。政策で求められているのは「名称」ではなく「中身」。なのに、どうも今の政権与党は解っていないようで、未だ「名称」にこだわる体質を露呈した。結果として問題に▼「誤解しないで。子ども手当 存続します」。三党合意を受けて民主党が支持者向けに作成したビラの見出しだが、不適切だったようで。自民党から抗議されるや、幹事長らがあっさりと謝罪。発覚その日のうちに配布しないよう指示するお粗末ぶり▼政権獲得のため国民受けする政策が必要。2年前の総選挙で、子ども手当は高速道路の無料化とともに目玉公約として掲げた。狙いは当たった。しかし、政権を担ってみれば財源はない。高速道路は限定的な社会実験へと格落ちし、子ども手当も減額…▼最初に表示した商品の中身(マニフェスト)は劣化して、大きく商品価値が下がったが、認めたくない。せめて「名称」だけでも、ということだろうが、国民にこだわりはない。子ども手当でも児童手当でもいい、中身さえ充実していれば…この本音が伝わる日が早くきてほしい。(A)


8月19日(金)

●長万部町のキャラクター「まんべくん」が“時の人”になっている。発端は、短文投稿サイト「ツイッター」での戦争発言。苦情や抗議が町に相次ぎ、ツイッターを中止した後もそれは続いている▼まんべくんはこれまでも、毒舌と取れる自由奔放な発言で人気を集めた。公的なキャラクターとしては異例の存在であり、その適格性に首をかしげる向きもあった。それでもなおツイッターが盛況だったのは、毒舌を含めてまんべくんを売り出そうという、町の思惑と後ろ盾があったからだ▼ツイッターは札幌の企業が運営していた。今回の戦争発言に当たって長万部町長が発表した「お詫び」の内容に、町としての複雑な心境がにじむ。「町の公式な発言ではありません」としながらも、「町のキャラクターである『まんべくん』の発言」として、町の責任を明確にした▼自治体のキャラクターはそもそも、万人受けする設定であることが多い。だからこそ“ゆるキャラ”と称される。その中であえて“毒舌キャラ”をセールスポイントにしてきたのだから、今回の騒動に対する町の取るべき姿勢はおのずとみえてくる▼町の対応は早かった。ツイッター中止の判断に加え、運営企業の商標使用許諾中止、さらにお詫びの掲載など。残されているのは、まんべくんの処遇である。全国に広がるファンや地元町民を落胆させないための良案は—。論議の行方に注目したい。(K)


8月18日(木)

●死亡率の高い病気と聞かれれば、誰もが答える一つに「癌(がん)」がある。その治療の行方は「早期発見」が握る、と言われる。聞き慣れた話だが、そのための日常的な対処が十分か、と問われると、返答に窮してしまう人は少なくない▼それは健診・検診の受診率が教えているが、では受診していれば安心か、と言うと、必ずしも言い切れない。国立がん研究センターが公表した報告書によると、癌を発見する経路として最も多いのは「他の病気の治療中などに偶然見つかるケース」だという▼その割合は25・0%というから四分の一。次が健診・検診で15・7%。内訳は一般的な健診で8・0%、そして癌の検診で7・7%。意外な実態だが、これには裏があって、健診・検診での発見比率が低い理由の一つに受診率そのものが低い事情がある▼欧米先進国の受診率は70%レベルだが、ちなみにわが国は国民生活基礎調査によると、男性の場合は胃がん、肺がん、大腸がんで30%程度。女性の場合も子宮がん、乳がんで20%台。現在50%キャンペーンが展開されている▼治療中の検査と、健診・検診の密度はおのずと異なる。故に他の病気治療の過程で見つかる率が高い実態があるにせよ、健診・検診が否定されるものではない。健康か否か、治療が必要か否か、大事なのは客観的に自分を知っておくこと。大丈夫か…考えてみよう…健康づくりの秋がそこまで迫ってきている。(A)


8月17日(水)

●お盆の北海道の「送り火」は雨だった。大震災で初盆を迎えた東北の被災地では、家も墓も失った多くの霊が「震災や原発事故に負けるな」と子らを励まし彼岸に帰った。“セシウム汚染”に振り回されながら…▼「北海道のきれいな空気を吸わせたい」と、90人の園児らを引率してきた園長は「表土を削って深い穴に埋めましたが、外で遊ぶことは出来ません。北海道で思い切り深呼吸して、汚染物質に対する子供たちの細胞の免疫力が回復しました」と話している▼風評被害にも泣かされた。「皮を取ったカボチャなら食べていいのだろうか。表土と地中、表皮と中身…どこまで汚染物質なのか分りづらい。政府は全部地元まかせ」とも言う。夏休みに北海道に来た子供たちは2000人超▼「表皮と中身」といえば、景勝地・高田松原のマツで作った薪(まき)。犠牲者の名前や復興への願いを書き込んで京都の「五山送り火」に託す話は二転、三転。表皮からセシウムが検出され、日本を代表する「送り火」から見送られた▼悲しく気まずい想いを残したが、千葉県の成田山新勝寺が来月25日の「おたき上げ」で護摩木と一緒に燃やし、犠牲者の供養と復興を祈願することになった。汚染された表皮は削り、角材にして使うという。表皮と中身、外部被爆と内部被爆…。健康に影響する放射線量の基準が定かではないのでは。“被害マツ”の禍根を残さないように。(M)


8月16日(火)

●このほど函館市内で行われた日本語スピーチコンテスト。上級部門最優秀賞を受けた米国人留学生(21)は、お年寄りから学ぶ社会の大切さを説いた。留学生は、チェスをした祖母から「待つことの大切さ」を、ザクロの実を割って種を数えた祖父から「種によって個性がある」ことを学んだ▼チェスは勝負を急げば、間違った手を打つ。それは人生も同じ。ザクロの種は同じように見えても一つずつ違い、それは人間も同じ…。日常の何げない光景から、祖父母は孫に、どんな本や学校でも教えてくれない“人生の真実”を示してくれた。それが真の知恵というものだろう▼お盆で帰省し、久しぶりに三世代が集い、家族の絆を確かめた人も多かっただろう。仕事や子育てで悩みを抱え、祖父母から的確なアドバイスを受けたり、墓前に手を合わせ、生前の言葉を思い出し、困難に負けず歩んでいく決意を固めた人もいたのではないか▼お年寄りから学ぶ社会について、留学生は語る。「私たち若者がもっとお年寄りを大切にすれば、知恵を授かり、人生観さえ変えることができるのではないでしょうか」。先人が重ねた年輪は尊い▼自分が客だと思い、会談で待たせた県知事に「長幼の序をわきまえたほうがいい」と言って失脚した大臣がいた。救いの言葉はないが、年長者を敬い、礼をもって接する心は大切だ。年長者は、生きてきた分だけ人生の上級者なのだから。(P)


8月14日(日)

●「バイオマス」を一言で説明することは難しい。強いて言えば、「生物体をエネルギー源として利用すること」。その技術は日進月歩であり、無限の可能性を秘める。大震災による原発危機に直面する今、各方面から熱い視線が注がれている▼「首相を辞めたら、バイオマス(を使った発電の拡大)をやりたい」。同僚議員らとの会食の席で、菅直人首相がそう言ったそうだ。政治家としての余生の過ごし方を聞かされても、反応に困る。そもそも一議員としての力がどこまで及ぶのか。意欲の行く末を拝見したい▼コープさっぽろは、店舗から排出される生ごみと契約酪農家の牛ふんを使って、バイオガスと液肥を生み出す実験工場を建設する。場所は七飯町。今秋着工、来年3月の完成を目指す。引き続き、道内5地区で同様の工場を建設する考えという▼もともと牛ふんは、バイオエネルギーの有力な素材として古くから注目されてきた。七飯の工場で生み出されるガスは、函館周辺のグループ¥31¥店舗の燃料用途などとして使われる。身近で進む実用化の取り組みは、地域に住む者の誇りでもある▼「再生可能エネルギー特別措置法案」が近く成立する見通しだ。風力など自然エネルギーによる発電の全量買い取りを電力会社に義務づけるが、一方で新規の買い取りは難しいとの見方もある。混乱の火種を残したまま、菅首相の退陣の日は近づいている。(K)


8月13日(土)

●暑い日が続いている。それでもまだ北海道は、過ごしやすいという。東北から西日本の各地では、最高気温が連日35度以上になる。気象庁は「高温注意情報」を発表し、熱中症への注意を呼び掛けている▼熱中症対策には、こまめに水分や塩分を取ったり、適切に冷房を使うことが必要。まちの商店には、「脱水・熱中症対策」をうたった飲料水の新製品や、塩分を売りにしたあめなどが並ぶ。数年前には見られなかった品ぞろえだ▼北海道は過ごしやすいと書いたが、くれぐれも誤解のないように。あくまでも道外との比較であり、30度以上の真夏日がある函館・道南でも、もちろん熱中症対策は欠かせない。日中ばかりでなく、蒸し暑くて寝苦しい夜は要注意。寝る前にコップ1杯の水を飲むなどの対策を忘れずに▼夏になると起こる事故も多い。海やプールといった水の事故だけでなく、脱水症状が原因で自動車の中で亡くなる子どもが後を絶たない。事故現場の多くはパチンコ店の駐車場。親の不注意と言えば単純に聞こえるが、その病巣は根が深い。背景には、炎天下の車中で起こる状況に思いが至らない“想像力の欠如”がある▼「家族の一員」であるペットの熱中症にも注意が必要という。例えば犬は舌や肉球でしか体温を下げることができない。熱中症の基本的な情報を知り、子どもやペットを守る。暑さの続くこの時期は、大人の責任が少し重くなる。(K)


8月12日(金)

●お盆は、地獄で逆さまに吊るされ、激しい飢餓に苦しんでいる母親を目連が救ったことが始まりとか。お盆には仏になった故人が里帰りすると考えられ、迎え火や提灯などで故人の霊を迎え、親しかった人たちを招いて供養する▼東日本大震災で亡くなったのは1万5689人(10日現在)。この夏、この人たちの多くが初盆を迎えるが、家が津波にさらわれたり、お墓なども倒壊したり、里帰りする霊たちは「どこへ帰ったらいいのか」と、さ迷っているのでは▼山車は、鉾につけた竹カゴの編み残し竹の一部を垂れ下げた屋台を移動可能な車にしたもの。竹は故人を呼び寄せるとも。先ほど、テレビは被災地の瓦礫の道を練り歩く“垂れ下げ竹”で飾った「動く七夕」を映していた▼「あなたの家はここでした」と呼びかけながら。「動く七夕」から始まる東北地方の夏祭りは死者を迎えるガイド役。そんな中、犠牲者の名前や復興の願いを書き込んだ高田松原の薪(まき)が「京都五山送り火」(16日)から「放射能の灰が飛ぶ」と拒否された▼しかし、「原発から遠く離れており、検査でも放射性物質が検出されていないのに」という批判が高まり、一転、500本を取り寄せ、送り火で燃やすことに。避難生活を余儀なくされている約9万人は「遺骨なき葬儀」を行うなど、初盆の準備に追われている。悲しい風評被害はご免。心をひとつにして、鎮魂のお盆を迎えよう。(M)


8月11日(木)

●「なでしこジャパン」は、有形無形に“なでしこ効果”を生み出している。その最たるは大震災からの復興に光と勇気をもたらしたことだが、スポーツ界に目を移すと、待遇改善というか、国に選手強化の取り組みの必要性を教えたことだろう▼選手の育成には時間も金もかかる。施設も然り、指導者の待遇改善なども必要だが、わが国の実態は不十分。さまざま語られる中で、その恵まれていない環境の実態が明らかにされ、驚いた人は少なくないはず▼とりわけ女子は…。「なでしこジャパン」も例外でない。経済的な支援など具体的対応の必要性は長年、指摘されているが、政府自体に現実認識は欠けていた面は否めない。そんな中で、世界の大舞台で成し遂げられた夢のような快挙。急きょ、予算の増額方針が決まった▼女子選手に絞った予算は、来年度から現行の約2倍、5億円への拡充を目指すという。これで十分か否かは別として、選手が練習に、大会に打ち込める環境が多少なりとも改善される。一歩前進で、結構なことだが、目を政府に向けると、必ずしも素直にはなれない▼そこに「形で示されて初めて対応する」という姿がのぞくから。優勝しなければどうなっていたか、答えるまでもあるまい。それほどに“なでしこ効果”は大きかったということである。これが選手環境の充実の端緒となるなら…。政治的な背景には目を瞑っていいのかもしれない。(A)


8月10日(水)

●殺人など凶悪事件の時効が、昨年4月に廃止された。これに伴い、時効が目前に迫っていた「八王子スーパー強盗殺人事件」(1995年)のほか、「世田谷一家殺害事件」(2000年)などの時効がなくなった▼一方で、既に時効が成立した重大事件も多い。「三億円事件」(68年)や「グリコ・森永事件」(81年)などがそれだ。放送が始まったNHKスペシャル「未解決事件」は見応えがあり、取材力が際立つ秀逸な検証番組に仕上がっている▼その「file.01 グリコ・森永事件」が2夜にわたって放送された。「かい人21面相」を名乗る犯人グループと警察、メディアによる攻防がドラマで再現され、当時の担当新聞記者らによる座談会や、元捜査員が事件の核心をたどったドキュメンタリーなど、興味深い構成で番組は展開する▼今後は、時効がなくなった「八王子スーパー—」「世田谷一家—」などの凶悪事件も番組で取り上げられるようだ。時効廃止の後、全国各地の警察が未解決事件の担当部署を設置している。「未解決事件」への国民の関心を呼び戻す契機に—。NHKの番組はそんな期待感を抱かせる▼函館にも解決していない事件がある。06年12月にタクシー運転手が他殺体で見つかった強盗殺人事件がその一つ。目撃情報や物的証拠が少ないのが特徴という。事件を思い起こし、風化させないこと。それが解決への新たな一歩になる。(K)


8月9日(火)

●太陽の季節、真夏日の北海道に似合うのはエゾハルゼミか。エゾハルの蝉しぐれはカエルの大合唱に似ているという。カエルは絶滅危惧種だが、セミは逆に増えている。哀調を帯びた鳴き声は「鎮魂の8月」にふさわしい▼北海道にはエゾハル(本州ではヒグラシ…)のほか、エゾゼミ、コエゾゼミが生息。地中で4、5年、成虫になって数週間で役割を終えてしまう。森林性のため、市街地での生息は少ないようだが、最近は異常気象のせいか、都市でも鳴き声が聞かれるようになった▼米国では暑さに関係なく、地域ごとに大発生。特にミズーリ州では1万平方㍍になんと40万匹、6畳間に400匹が詰まっていることになる。羽を取って煮たセミ入りのアイスクリームを売る店も現れ、ピーナツのような味で結構売れたとか▼ジリジリと焼けるような暑さも意に介せず大合唱を続ける。オフにしたくなるほど、雄ゼミの音量はすざましい。かのアリストテレスは「セミの夫たちは幸せだ。なぜなら彼らの妻たちはしゃべらないから」と言った…▼数年も地中にもぐって忍の一字、やっと這い出して短命の大合唱。かの国会では、手のひらに「忍」の一字を書いて泣き崩れるカイエダゼミや、“退陣”と鳴きながら批判の声に耳をかさず“延命”にしがみつくカンカンゼミ…。夏を越えて生き延びたセミは聞いたことはない。絶滅危惧種の仲間に入れられるかもしれないぞ。(M)


8月8日(月)

●道央自動車道の落部(八雲)—森町間の開通日が11月26日と発表された。「ようやく森まできたか」。そんな思いが込み上げてくる。というのも、この区間の開通は道南にとって大きな意味があるから。「幹線道路網の不安解消」という…▼道南—道央間、特に森—長万部間は、国道5号頼みの時代が続いてきた。ひとたび災害で寸断されるやお手上げ。桧山回りを余儀なくされ、近年では1997年の8月、大雨洪水で起きた野田追橋(八雲町)の橋脚破損による通行止めが記憶に新しい▼仮橋の供用まで2カ月ほどを要し、大型車が担う観光や物流を直撃した。「5号の並行代替道路を」。道南地域にとって切実な願いだったが、逆に5号が代替ともなる形で整備されてきたのが高速道路。とりわけ森までの開通は、単に区間開通という喜びにとどまらない▼森—函館間はいざという時も対応できる。国道278号(砂原方面経由)などがあり、少なくとも桧山回りより負担が軽減される。故に「(森まで開通は)意味がある」のだが、何と言っても観光が大きなウエートを握っている地域である▼交通網のうち空路は空港機能の拡充を終えた。鉄路は新幹線の開業が3年余り先まで迫ってきている。陸路はさらに道央自動車道の森—大沼間が来年度中に開通する見通しという。ハードは整ってきた、まさにチャンス。それをタイミングよく生かせる時間は、そう長くはない。(A)


8月7日(日)

●詩人・峠三吉は「原爆詩集」の中で、「にんげんをかえせ」と訴えた。広島市での被爆から8年後、36歳で死去するまでの間、「死の恐怖、苦痛」と向き合った。「ちちをかえせ ははをかえせ としよりをかえせ こどもをかえせ」は三吉自らの心の叫びだ▼女優・吉永小百合さんは、原爆にまつわる詩の朗読を1986年から続けている。今年も広島での催しに参加し、三吉の詩など6編に平和への願いを託した。その吉永さんの代表作にドラマ「夢千代日記」がある。母親の胎内にいた時に広島で被爆する女性の役柄が、語り部としての吉永さんの背中を押している▼広島は6日、66回目の原爆の日を迎えた。松井一実広島市長は平和宣言の中で、福島第1原発事故による放射線の脅威が「今なお続いている」と言及した。原発問題に触れる宣言は異例という▼岩手、宮城、福島の被災3県では、震災に関連した6月の自殺者が13人に上った。また、今春の高校・大学卒業者のうち、震災の影響による就職内定の取り消しが427人を数えた。あまりに過酷な復興への試練である▼一方で、国民全体に課せられた試練もある。「今なお続く」という原発事故の影響がそれであり、放射線セシウムに汚染された疑いのある牛肉の流通もその一つ。収穫期を迎えたコメの問題もある。長期戦を覚悟し、「冷静な対応」をいま一度胸に刻むときかもしれない。(K)


8月6日(土)

●あるシンポで「チェルノブイリのような事故は日本では起こらない」という“やらせ発言”があったが、先ごろ福島第一原発で測定された毎時10シーベルト以上(被ばくすると死亡)の高い放射線量は、チェルノブイリ事故初日の放射線量に近い▼目に見えぬ放射性物質は気流に乗って、原発から20キロ圏内、30キロ圏内を問わず、どこへでも飛んでいき、あらゆる動植物に降り注ぐ。野菜から始まって、魚や牛肉などが相次いで出荷停止となり、ついに収穫期を迎えた主食のコメにも影響▼政府は14都県の稲作を対象に放射性セシウムを調査することを決めた。収穫前後の2段階で、暫定規制値(500ベクレル)を超えたコメは出荷停止とし、廃棄処分を義務づける。水田は日本の耕地面積の半分以上を占め、コメは最大の農産物▼特に今回被災した東北、北関東はコメどころで、県別収穫量では8県までが上位10位に入っている。太平洋岸6県で津波の浸水被害を受けた約2万㌶は、瓦礫を除き、海水の塩分を除去したのは1割にも満たない状況。水田の土壌からも基準を超える放射線量が検出されている▼局所的に放射線量の高いホットスポットがあり、どう検査個所や範囲を設定するか、汚染エリアの特定が難題。カレーライスなど学校の米飯給食は子供たちに大人気。検査の結果、汚染されていないことを祈るのみ。安心安全を確認し、日本のコメづくりを守らなければ。(M)


8月5日(金)

●「男泣き」は、「やたらには泣かないはずの男が、こらえ切れずに泣くこと」(岩波国語辞典)。だが、時代が移れば人の気質も変わる。人前で泣くことに抵抗を感じない男が、昨今増えている▼「最近は、人前で泣けるなんて感受性が豊かだ! 素直だ! 俳優みたいだ! と女性たちには大好評なのです」。目薬で知られる製薬会社のインターネット企画「ハウツー・男泣き」が面白い。ただし、ここでは男の涙を意図的に笑いの種にしている。真に受けるとけがをするのでご注意を▼海江田万里経済産業相の「男泣き」が話題になっている。7月の国会論議では、震災対応を巡る自らの進退問題で涙ぐんだ。「こらえ切れずに泣く」ことだって、男にはある。しかし、海江田氏の涙はこの1回にとどまらない。テレビの生出演などでたびたびこんな姿を見せられては興ざめだ。大臣を辞めてから存分に泣いてほしい▼そんな海江田氏が“反転攻勢”に出た。経産省人事について、事務次官ら3人の更迭を表明。その上で、自らの進退は「自分1人で決める」と述べた。一連の言動は、涙の主因でもある菅直人首相への開き直りとも取れる▼泣いた後の赤ん坊は、機嫌が直ったりぐっすり眠ったりする。泣くという行為がリフレッシュ効果を生むとすれば、海江田氏の次の一手が気になる。辞任時期や党代表選への対応など、波乱の新芽が早くも膨らみ始めている。(K)


8月4日(木)

●函館港まつり(1〜5日)が盛り上がりをみせている。短い夏を満喫しようという市民のパワーが活況を支える。未曽有の大災害が東日本を襲った特別な年。2年ぶりの登場となる「青森ねぶた」が、被災地復興の息吹を伝えてくれる▼1934(昭和9)年3月21日夜、函館のまちが火炎に包まれた。人畜や家屋が甚大な被害を受ける一方、復旧・復興の進展を強く印象づけたのが、“祭り”の開催だった。翌35年7月1日からの「第1回函館港まつり」は、大火から見事に立ち直った市民の力を全国に知らしめた▼その様子は函館市史に詳しい。祭り当日は花電車や花自動車、1万人の万灯行列、2万人の旗行列などが繰り出した。さらに、飛行機や軍艦にも協力を得る派手な内容だったという。期間中の人出は30万人とも伝えられている▼その港まつりにも曲折があった。戦時下の43年には「『対米英決戦下においては誠に不名誉極まる行事である』として取り止めになった」(同市史)。3年間の中断を挟み戦後いち早く再開した港まつりは、函館の盛夏に欠かせない風物詩として回を重ねている▼祭りには、「平和のシンボル」としての一面がある。災害や戦争といった不幸な出来事を乗り越え、この先もずっと続くものであってほしい。ねぶたの跳人(はねと)と、いか踊りの乱舞が交わるエネルギーが、そう思わせた。港まつりは5日まで。ぜひ会場へ。(K)


8月3日(水)

●日本機械学会は「青函連絡船及び可動橋」を機械遺産に認定した。大動脈として80年にわたって北海道の発展を支え、その任を解かれて20年余。保存してきた思いが報われたと同時に、また一つ増えた歴史の勲章である▼船の科学館(東京)に「羊蹄丸」があるが、今なお現地保存されているのは青森の「八甲田丸」と函館の「摩周丸」。当時、船に貨車が出入りする光景は日常的で、大変な技術とともに、可動橋なくしては岸壁と揺れる船はつなげなかった▼「摩周丸」には、当時、建設されたクレーン部が残っているという。あわせて設計図、取扱説明書をはじめ、航路運航記録など多くの資料も認定対象となった。可動橋、そして数多くの資料…ともすると風化しがちだが、貴重な歴史遺産である▼廃止された後、函館港のシンボルは、造船所の「ゴライアスクレーン」と雄姿をとどめている「摩周丸」だった。一昨年、その一方が姿を消した。とはいえ大型の船の保存が容易ならざることは、NPO法人「語りつぐ青函連絡船の会」の努力と苦労が物語っている▼函館地域には他に機械遺産1件(北斗市・男爵資料館の国内最古の自家用乗用車)、土木遺産3件(元町配水場や笹流ダムの水道施設群など)が認定されている。函館山の要塞群もそうだが、こうした遺産をどう保存し、語り継いでいくか。今回の認定が、そう問いかけているようにも聞こえてくる。(A)


8月2日(火)

●久しぶりに宝くじを買った。「東日本大震災復興宝くじ」。収益金は被災地の復旧・復興財源に充てられる。自分のくじ運の悪さを知っているので、義援金の代わりになればという気持ちもある▼震災復興宝くじは、阪神大震災、新潟県中越地震に次いで3例目。賞金は1等3000万円が30本、1等前後賞1000万円が60本など。発売総額は300億円で、完売すれば当選金などを除く143億円が被災地に配分される。用途を復興財源に限定していることを考えると、決して少なくない金額だ▼日本赤十字社などは、震災発生直後から今に至るまで、継続して義援金を募っている。これまでに被災地に寄せられた善意は、金額にして一体どのくらいの規模に上るのだろう。実態がつかみにくいだけに、本当に被災者の手元に届いているのか—という疑心暗鬼にとらわれる▼集まった義援金は、被害状況に応じて該当する都道県に配分され、市区町村を通じて被災者に届けられる。ところが、甚大な被害を受けた地域では事務処理を行う自治体職員が不足。また、公平性を重視するあまり、配分の遅れを招いているとの指摘もある▼被災自治体の一部が、直接届いた義援金を独自の基準で配分し始めた。「国の支給対象者が地域の実情に合っていない」という。事実とすれば、配分の裁量は自治体に委ねるのが筋だ。「迅速」と「適正」の両立があって初めて、善意は生きる。(K)


8月1日(月)

●ほのかな苦みと辛さをもつ茗荷(みょうが)は今が旬。子供のころ、よく「食べすぎると物覚えが悪くなる」と注意された。独特の香りに好き嫌いは分かれるが、夏のソーメンの薬味にうってつけ▼釈迦は自分の名前を忘れる弟子の首に名札をかけさせたが、名札をかけたことさえも忘れてしまい、死ぬまで名前が覚えられなかった。弟子の墓に見慣れない草。「自分の名前を荷(にな)って苦労した」ことから「名」を「荷う」と茗荷と名づけたとか▼「鈍根草」という有難くない異称まで付いているが、「物忘れがひどくなる」という俗説には学術的な根拠は全くない。カルシウム、カリウムなどが豊富。熱を冷まし、解毒を促進し、口内炎ができたり、夏風邪でノドが痛く声が出ない時、はれ物などに効く▼民間薬として腎臓病や目のけが、凍傷にも利用されている。そればかりか、一番気にいったのはミョウガの花穂を食べると、脳が活性化し「頭がシャキッとする」こと。最近、ミョウガの香り成分に集中力を増す効果があることが明らかになった▼東アジアが原産。日本では3世紀ころから栽培。食欲を増進させたり、血行をよくしたり…。また、天ぷら、酢の物、味噌汁などに入れると、特有の涼しげな紅色が目を楽しませてくれる。国会の先生たちもミョウガを食べ、頭をシャキッとさせて、「約束したことは忘れず」に放射性物質を退治してほしい。ミョウガは夏バテに最適だ。(M)