平成25年10月


10月31日(木)

●国交省は高速道路の料金割引制度を来年度以降も継続する方針を固めたという。現在の割引制度は来年3月に終わるが、継続は消費増税の時期と重なるため。何とも便宜的な判断…▼というのも根本的な問題が解消されるわけでないから。休日割引、深夜割引、平日昼間割引、通勤割引…その適用も路線によって異なる。是正が求められているのは通常料金の見直しのはずだが、そこは目を瞑(つむ)ったまま▼我が国の高速料金は欧米に比べて高い。道央道の札幌南と大沼公園を利用する場合でも、普通車の通常料金は5850円(ETCで4750円)。それにガソリン代を含めると片道で1万円レベル▼かつて民主党がマニフェストで無料化を打ち出したことがある。頓挫したが、それは行き過ぎにしても、その後の政権で少しは変わるかと思いきや逆戻り。ガソリン代が高騰している今も国会で論議すらない▼高速道路の建設には多額の公費が投入されている。それは物流などの利便性を高めるという大義名分があるから。としたら、今の料金体系がその前提に立っているかどうか。答えるまでもなく疑問は点灯したまま。その疑問も割引制度の継続で消えるわけではない。(A)


10月30日(水)

●チョコ、チーズケーキ、煮込みハンバーク、グラタン…。「なんのためのお祭りか分からないけど、友だちもやるから」と言いながら、カボチャお化けや魔女に扮して、31日はハロウィーンを楽しむ▼古代ケルト人の1年の終わりは10月末日で、死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられ、身を守るために仮面を被って、魔除けに火を焚いた。日本のお盆というところか▼収穫を祝う催しでもあり、「万聖節」の旧称をハロウィーンと呼んだ。子どもたちは「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ」と一軒一軒回って歩く。最近は冒頭のような高級品が多くなったとか▼カボチャをくり抜き、顔を彫った提灯が「ジャック・ランタン」。ジャックは悪魔をだまして地獄に落とさないと約束させたが、悪事を重ねたため天国にも行けず、ランタンを持って天と地をさまよい続けた▼仮装して宝石店を襲撃したり、お菓子の代わりにコカインを渡したり、黒衣装の少女がスカンクと間違えられ銃撃されたり、外国では悪事が絶えない。先日、五稜郭商店街の「ハッピーハロウィーン」には長蛇の列。ちゃんとお菓子をあげてね。親孝行で“倍返し”してくれるかも。(M)


10月29日(火)

●「函館の中心部でもマンションや賃貸物件の需要が、高齢者を中心に堅調だ」。一週間ほど前の本紙はこう報じた。決断しないまでも、考えたことのある人は多いのではないだろうか▼確かに、子供たちが独立して離れ、夫婦だけになって年齢を重ねてくるにしたがって、さてどうしようか、と。まずは住処(すみか)だが、戸建てからマンションへ、「郊外から中心部へ」は十分に想定される現実▼苦しい家計の中からローンを組んで建てた家も、空き部屋の方が多くなる。築後の年数が経つと補修が必要になる個所が増えてくる。楽しみだった庭の花木の手入れは大変だし、冬の除雪も気持ちの上で重くのしかかる▼防犯上の安心感もほしい。病院や公共施設、スーパーなど生活にかかわる施設が近くにあるに越したことはない。今の家を売ることを前提にした住み替え需要は潜在的に少なくない、という見方の根拠はそこにある▼函館でも近年、中心部にマンションが続々建設され、売れ行きもいいと聞く。新築、中古の分譲物件もさることながら賃貸の需要も多い。老後の生活設計の中でどう考えていくか…こうした住処を巡る傾向も、高齢化時代の一つの断面を映し出している。(A)


10月28日(月)

●アルバイト先の冷蔵庫に入ったり、客に提供するパンの上に寝そべったり。果ては有名人がどこで何を買ったかなど、証拠写真や個人情報までインターネットに投稿する人たちの行動が問題となっている▼札幌では、購入した商品にクレームをつけ、店員に土下座を強要。その画像をネットに流した43歳の女性が、札幌簡裁から名誉棄損罪で罰金30万円の略式命令を受けた▼ネットは非常に便利なツールだ。画面の奥にある情報は、量だけでは図書館が束になってもかなわないし、その気になれば世界中の何億人ともつながる。だから情報の真贋(しんがん)を見極め、使い方を選ばなければしっぺ返しを食らう▼拡散力があるため、ちょっとした悪ふざけのつもりが、指一本の操作で収集のつかない事態を招く。悪意がなくても、掲示板の相談コーナーで匿名の人たちから血祭りに上げられる人もいる▼表情や声色が伝わらず、無機質な文章だけでやりとりされるメールや書き込み。手紙も同じように文字媒体だが、心を込めた手書きは一味違う。送信する内容には慎重さが不可欠。発信することの影響力をしっかり理解し、使いたい。「その内容でいいか、送る前に考えて」。(P)


10月27日(日)

●薄い青緑色の模様の鮮やかなアサギマダラが紅葉の秋空を舞う姿が見てみたい。春には南から北へ、秋には北から南へと長距離を移動するチョウで、季節の移り変わりを運んでくれる▼アサギマダラは羽を広げた大きさが10㌢くらいで、重さは0・5㌘にも満たない。それが1000㌔も2000㌔も旅をするのだ。津軽海峡をまたぎ、太平洋も南下する▼6月下旬、桧山管内の上ノ国町で捕獲されたチョウが1カ月前に大分県で放されたものだった。羽に「ヒメ」などとマーキング。大分県のアサギマダラを守る会が5月21日に放った雄と判明した。約1160㌔も飛んだのだ▼また先日、8月に七飯町の横津岳から「ハコダテ」とマーキングし放した固体が北九州市で確認された。放した高校生たちは「道内から九州までの南下を確認したのは初。移動経路についても調査したい」と話している▼これまで松前町から愛知県、七飯町から山口県への南下は記録されているが、九州までは初めてで驚いている。間宮海峡を飛び越え、韓国や沖縄、台湾までも移動するという話もある。アサギマダラには気象や地形を感知する機能があるという。小さな生命の神秘さに脱帽する。(M)


10月26日(土)

●台風接近の影響で道南は雨模様。だが、この時期の晴れた夜空は澄んでいる。11月からは天文ファン期待の「アイソン彗星」の太陽接近が本格化する▼この彗星は2012年に見つかった。発見当時は地球から約10億キロ離れた木星軌道面近くにいたが、太陽にどんどん接近。国立天文台は23日、米ハワイ島にある「すばる望遠鏡」で、彗星を捉えたと発表した。地球から2・3億キロまで来た▼熱視線を集める理由は、太陽表面のわずか117万キロまで接近し、明るく輝くことが期待されるからだ。近日点通過の11月28日前後は視等級がマイナスの見込み。金星や満月よりも明るくなる可能性も▼大彗星といわれる1680年のキルヒ彗星と軌道が似ており、天文学者の期待は大きい。最も明るい時期、日本からは地平線の下に入るが、前後には肉眼でも大きな尾を引く姿が見えるかもしれない▼だが、彗星の見え方予測には外れも多い。今年3月のパンスターズ彗星も思ったほど輝かなかった。太陽に近づきすぎて破壊されるかもしれないという。どちらにせよ、夜空を眺めて宇宙の神秘を体感するのは楽しい。この彗星が太陽に接近するのは今回が最初で最後だ。(T)


10月25日(金)

●「ハローワークの担当者がわざわざ来社し、求人を出してほしいとお願いされた」。市内の経営者が語っていた。そうした努力もあり、函館職安の8月の有効求人倍率は0・72倍で、前年より0・17ポイント上昇した▼ただ、雇用統計を見ると、求人は増えているが、求職者が減っている。求人誌やネットなど、職安以外で求職活動をする人が増えているためで、求人倍率の改善を手放しで喜ぶまでにはいかないようだ▼求人と求職のニーズが合わない「雇用のミスマッチ」も課題だ。求人は多くても希望者が少なかったり、逆に人気職種に希望者が殺到したり、企業が求める有資格者が少なかったり…▼函館職安の8月の有効求人倍率で、型枠大工・とび工は3倍、看護師・保健師は2・59倍と売り手市場。逆に一般事務員は求人216人に求職者1354人で0・16倍、マンションや駐車場の管理人に至っては求人2人に求職者56人で0・04倍だ▼敬遠される仕事がきつい、汚い、危険の3Kから、いまや、暗い、帰れない、カッコ悪いなど、5K、6Kの時代。だが、やりがいや達成感など変わらぬ価値観もある。懸命の求人開拓と求職活動が、ひとつでもかみ合ってほしい。(P)


10月24日(木)

●お昼の長寿番組「笑っていいとも!」が来年3月末で終了する。22日の番組中に、司会者のタモリさんが表明した。32年にわたって昼のお茶の間を楽しませた番組の終焉(しゅうえん)は、時代の変化を映しているかもしれない▼「いいとも!」が始まったのは1982年10月。漫才ブームの中心にいたツービートやB&Bを日替わりで司会にあてた「笑ってる場合ですよ」の後継番組。お昼はニュースかワイドショーという概念をくつがえし、バラエティを展開したのは斬新だった▼新たな視聴者層も開拓した。放送開始当時は大学生だが、同年代も結構見ていたし、社会人になってからも「いいとも!」が話題になることがあった▼84年には看板コーナーの「テレホンショッキング」で黒柳徹子さんが43分話し続けたり、出演予定のゲストが事故で遅刻するなどなど生放送ならではのハプニングも話題に。最高視聴率は88年4月29日の27%▼2002年に放送5000回に到達。単独司会者による生放送世界記録としてギネスブックに掲載された。決して重厚な番組ではなかったが、時代や世相を映し続けたのは間違いない。寂しいと同時に、次の番組に興味が湧く。(T)


10月23日(水)

●紅葉の便りが過ぎ去るや、時間をおかずに訪れるのが雪の便り。夜から早朝にかけての気温が急激に低くなってきた。さらに朝が明けるのは遅く、日が暮れるのは早くなって、車の運転は要注意時期▼函館方面本部管内では17日現在、発生件数こそ減少しているが、死者(12人)は昨年同期を上回っている。この15日には八雲町、17日には福島町の国道で歩行者がはねられる死亡事故が発生した▼2件に共通しているのが、いまの時期に警鐘が鳴らされる発生の時間帯。八雲町での事故は夕方の午後5時45分ごろ、福島町の事故は早朝の午前4時50分ごろ。この時期のいわゆる“魔の時間帯”だった。それに加えて…▼気象条件によって走行環境が変わる季節。道南とはいえ、いつ雪が降っておかしくないし、雨でも夜は路面が凍結してくる。実際に16日には上川や十勝などは突然の雪に見舞われたが、これも一つの警告▼運転に注意するのは言わずもがなだが、路面状況の確認とともに重要なのはタイヤ。事故は起こしてからでは遅い、できる準備を怠っての事故は悔やみ切れない。遠出もしない、まだ大丈夫、そう言わず…冬タイヤへの交換は早めに。季節がそう教えてくれている。(A)


10月22日(火)

●適度のアルコール(酒類)は、体にも、精神にもいい。だが、その適度というか、ほどほどに、が難しい。酒好きなら分かるが、呑(の)むほどについつい盃が進む。気づいた時は適度を超えている▼そのアルコール摂取の過多が続けば、呑むのが習慣化して酒に溺れるアルコール依存症に。呑まなければ気がすまない、呑むと自分を見失う。その結果として飲酒運転や暴力、虐待などの問題が起きがち▼依存症患者は厚労省の推計で81万人(全国)。社会として対策を講じなければ…国に求められる行政課題の一つだが、まずは法律が必要ということか、議員立法でアルコール健康障害対策基本法案を提出する動きがあるという▼その柱は政府やメーカー、販売業者への取り組みの要請。政府には患者を減らす計画を作るように、メーカーや販売業者には広告やラベルで注意を喚起する対応を、などだが、法律ってそんなもの▼依存症になる背景は人それぞれとはいえ、雇用や生活不安を抱える現実も見逃せない。そう考えると、急ぎ必要な一つが依存症患者を生む社会的な要因を排除する手だてで、もう一つが病院や社会復帰施設への支援と充実。最低限、それを促す条文は欠かせない。(A)


10月21日(月)

●プロ野球のクライマックスシリーズは、一足先にセ・リーグを巨人が制し、パ・リーグも楽天が今日にも初の日本シリーズ進出を決める勢いだ。一方、海の向こうの米大リーグのポストシーズンでも、元巨人の上原浩治投手の大活躍により、ボストン・レッドソックスが見事にワールドシリーズ進出を決めた▼上原と言えば、プロ入りした1999年に20勝を挙げ投手部門のタイトルを総なめ。制球力を武器に先発から抑えまで与えられた役割をこなし、日本を代表するエースとして揺るぎない地位を築いていった▼2009年には長年の夢だった大リーグ入りを実現。度重なるケガに悩まされチーム移籍を余儀なくされながらも、抑えの切り札として着実に信頼を勝ち取っていった▼そして今シーズンは新天地のレッドソックスで、連続無失点記録をつくるなどエンジン全開の大活躍。ポストシーズンでは、地区シリーズでいきなりサヨナラ本塁打を浴びたものの、優勝決定シリーズで1勝3セーブと見事にMVPを手にした、▼「雑草魂」を座右の銘に、あえて厳しい世界に飛び込んでいった勇気は心から尊敬に値する。このまま世界の頂点を目指し、突き進んでもらいたい(U)


10月20日(日)

●台風26号による土石流に襲われた東京都大島町(伊豆大島)。25人を超す死者が確認され、なお20人以上が行方不明。ニュースをみて、自然災害の恐ろしさに改めて身がすくむ▼生存率が大きく低下する72時間が経過した。消防、警察、自衛隊などが1600人超を投入して、懸命の捜索作業を続けているが、台風27号の接近などで、現場には無情の雨…▼時間雨量が100ミリを超え、総雨量が800ミリに達した豪雨。それなのに避難指示は発令されなかった。気象庁は大島町に対して避難を勧告したとの報道もあるが…。なぜ避難を呼び掛けられなかったのか。「反省」の言葉だけでは足りない。原因の徹底究明が必要だ▼伊豆大島は海底からそびえる活火山が海上に顔を見せた島。伊豆半島から25キロの近距離にあり、観光客も多い。1986年には三原山が噴火し、全島民が避難した▼伊豆大島で亡くなった方々も、山があのような形で崩れるなんて夢にも思わなかっただろう。自然災害は突然やってきて、平穏な生活を根こそぎ奪う。大規模な災害への備えには「想像力」が求められる。「もしかして…」「万が一…」の想定をためらったら、悲劇はまた繰り返される。(T)


10月19日(土)

●近眼のためパイロットの道をあきらめ、飛行機の設計士の道へ。ゼロ戦の設計者堀越二郎と作家の堀辰雄がモデルの「風立ちぬ」は、関東大震災から満州事変へと、軍靴の音が高まる時代を描いたアニメ映画である▼主人公の堀越二郎は、実在の人物。韓国では「戦争映画」とみる動きもあったが、無事公開された。むしろ反戦のメッセージが込められていると思うが、受け止め方は国によって違うようだ▼映画の中で、堀越が特高警察に追われる一幕がある。この時代の物語には特高がつきもの。松江市教委で閲覧制限問題が起きた「はだしのゲン」では、反戦思想を持つゲンの父親が特高に捕えられ、拷問を受ける▼松江市教委は当初、旧日本軍が戦地で人々の首を切ったり、女性を乱暴する描写が「過激で、間違った歴史認識を植え付ける」と問題視した。ならば原爆投下はどうなのか。沖縄戦は…。戦争とは、そのもの自体が狂気だ▼良書でも悪書でも、閲覧の機会は平等にすることが大切。内容への賛否はあっていい。それが言論や表現の自由である。「風立ちぬ」のテーマの見方が割れても、世界中にファンがいる宮崎駿監督最後の作品を多くの人たちに見せたい。(P)


10月18日(金)

●時代は変わった。あらゆることに通じる感覚だが、社会と子供の関係も然り。少子化の流れもあるのだろう、子供に手をかけ過ぎ、世話をやき過ぎ…過保護という言葉にも違和感がなくなった▼百科事典をひも解くと、過保護とは「養育者が子どもに対し過度の配慮と干渉を与える養育関係の型」ということだが、幼児や小中学生ならともかく、手を差し伸べる相手が大学生となると…▼「授業を3日連続で休んだ1年生に電話をかけて欠席の理由を確認する」。読売新聞が先日、報じていたが、打ち出したのは山形大学。一部の私大でそれに近い取り組みを聞いたことはあるが、山形大学と言えば、昔風の表現ならば国立▼確かに5月病などの現実もあるが、自己管理ができる学生が集まっている大学のはず。なのに、なぜそこまで、素朴な疑問だが、理由があった。窃盗などで逮捕された学生が続いたことへの対策の一つだった▼批判は簡単だが、できればしたくない、苦渋の判断だろう。講義を受けるも受けないも学生の自由だが、問題が起きた時、社会が責任を問う傾向にあるのも現実。「昔の大学ではあり得ないが、時代が変わった」。そう理解するしかないのが何とも切ない。(A)


10月17日(木)

●崖の下に極度の空腹に耐えかねたトラの母親が今にも自分の子どもを食べようとしている。それを見た菩薩が衣を脱ぎ、崖から身を投じて母トラに与えた(「玉虫の厨子」の「捨身飼虎図」)▼正義の味方アンパンマンの生みの親、漫画家のやなせたかしさん。「捨身の自己犠牲」は、太平洋戦争で中国に兵役、飢えて野草まで食べたことが原点。何のために生まれてきて、何をして生きるのか…▼献身と愛。「正義の味方というなら、まず飢えている人を救わなくては」が口ぐせ。だからアンパンマンは、ひもじい人に自分の身をちぎって、一片のパンを分け与える。もちろん、自分も傷つく…▼いつもやっつけられる敵役のばいきんまんが憎めない。物語には“憎悪”は存在しないから。「愛と勇気だけがともだちさ」—大震災の被災地ではアニメの主題歌を大合唱。映画でも被災地復興へエールを送り続けた▼飢えた中国で、細い指をかざしたら透けて見えた。♪ぼくらはみんな生きている〜 ミミズだって、オケラだって〜。作詞した「手のひらに太陽を」は生命の賛歌。がんや心臓病など患いながらも「死ぬまで現役」を宣言したばかりだった。94年の“捨身の救済”に感謝。(M)


10月16日(水)

●例年のことだが、ヒグマの目撃例が増えている。14日には福島町でハンターが襲われ、けがをした。冬を目前にしたクマにとって、今は栄養を蓄える大事な時期。できることなら、鉢合わせは避けたい▼10年以上前のことだが、ある地方で勤務していたころのこと。地元の警察から突然電話が入った。「支局長、クマが町の中で暴れてる。すぐ行った方がいい」—。目撃されたのは、町営住宅から十数㍍の場所。すぐに現場に向かった▼その住宅街は、パトカーやハンターが大挙出動して物々しい緊張感。自分はカメラに望遠レンズを取り付け、クマがたどりそうな経路の先で待った。隣に郵便局の制服を着たハンターさんがいたので心強かった▼「来たっ」—。ハンターさんが唐突に叫んだ。見ると、ササ藪から飛び出したクマが、ビート畑をはさんで約100㍍先を四本足で走っていた。速い。私はカメラを構え、必死に追った。ハンターさんも銃で狙っている気配▼ところが、ハンターさん。銃に弾丸を込めていなかったので、私が聞いたのは発砲音ではなく、「カチャ」という音。クマが見えなくなった後、2人で冷や汗をかいた。100㍍先でも十分に怖かった。(T)


10月14日(月)

●近くて遠い存在と言えば、言葉が過ぎるが、函館・道南と青森県の関係も、当たらずも遠からず。歴史的にも人的、文化的、産業的にもかかわりが深いのだから、もっと密接であるべき▼そう考えた時、まず必要なのは互いを知ることと、足を運ぶこと。青森県には泉質のいい温泉がいくつもあり、青森、弘前、五所川原の夏の祭りは全国区。弘前をはじめ桜の名所、白神山地のブナ林や奥入瀬渓流…▼さらには八甲田、岩木山も。本紙が9月末に青森紹介シリーズ第1弾として弘前特集を発行した趣旨も、まずは情報の提供を、という思いからだが、函館市も新幹線時代を視野に初めての弘前ツアーを企画した▼19日に直行列車(一泊二日)で出発する。弘前城公園などで開催中の菊と紅葉まつりや津軽の食と産業まつり会場を訪れるほか、さらに足を延ばして奥入瀬渓流、十和田湖、白神山地などを回ってくる▼言うまでもなく、観光は広域で考える時代。新幹線の開業を待つまでもなく函館・道南と青森県は一つの広域と考えるべき。だとしたら、そこに住む人が互いの良さを共有することが大事。この弘前ツアーは、そのきっかけづくり。いまの時期は紅葉が迎えてくれる。(A)


10月13日(日)

●北海道の秋の味覚を代表するシシャモの漁が、11日に日高管内のむかわ町で解禁となった。不漁だった昨年初日の4倍を超える水揚げがあり、関係者の期待は、卵が詰まった雌シシャモのように膨らんでいる▼酒のさかなの定番となっているシシャモだが、一般的に流通しているのは、実は「カペリン(カラフトシシャモ)」という別の種類であることは、すっかり周知の事実になってしまった▼世界中でも北海道の一部でしか獲(と)れない本物のシシャモは、値段もカペリンの数倍する高級魚。新鮮な物は寿司ネタとしても珍重され、この時期には、多くの観光客が旬の味を求めてむかわ方面に足を運ぶ▼シシャモ以外にも別の種類で代用される魚は珍しくない。例えばコンビニ弁当などでおなじみの「白身魚のフライ」は、かつてはタラなどが主流だったが、今はホキやメルルーサなど、まったく聞き慣れない種類がよく利用されるという▼マイナスイメージがつきまとう代用魚だが、安価で本物に近い味を楽しめるならうれしい話。もちろん偽装表示は問題外だが、堂々と「ピンチヒッター」であることをうたい、なおかつ味も満足できるのであれば個人的に大歓迎だ。(U)


10月12日(土)

●「この軽うて小さな丈夫なネジが、日本を支えとんのや」−。最終回の視聴率42%をたたき出した人気ドラマ「半沢直樹」で、直樹の父が語った言葉。銀行融資がかなわず自殺するが、直樹は父を死に追い込んだその銀行に入る▼ものづくり日本を象徴するのが、最小部品のネジ。1本の技術が積み重なり、新製品が生まれる。道がこのほど発表した北海道新技術・新製品開発賞のものづくり部門に、道南から2社の製品が選ばれた▼北斗市のフジワラは、イカを素早く活締めする器具を開発。レジャーで釣ったイカをその場で締め、家庭でコリコリの味を楽しむことができそうだ。さまざまなニーズや市場が期待できる▼函館市のノース技研は、未利用海藻のアカモクから抽出したフコキサンチンを含有するサプリメントを開発した。フコキサンチンの肥満抑制作用という新しい視点からの商品で、新規性や独創性がある▼ネジ1本の大切さを説いた半沢直樹の父は「いつかおまえも分かる。大切なのは人と人とのつながりや」と言う。どんなに機械化が進んでも、技を生み、継承し、発展させていくのは人の手。多くの手が連携し、研究開発の成果を咲かせてほしい。(P)


10月11日(金)

●「もし人が他人に、彼の反発できない所から知らない言葉(悪口)を投げかける時、その言葉(の真意)を確めないで投げたならば、叩く罰を負う」—世界最古のハンムラビ法典(飯島紀著)のイシン法例集▼4000年前の拡声器などない時代の法例だから街宣活動ではないかも知れないが、今のヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる言動に該当するのではないか。相手を傷つける暴言は今昔問わず許されない▼街頭などで「朝鮮学校はぶっ壊せ」「ゴキブリ」、児童らには「スパイの子ども」などと長時間罵声を浴びせた。心ない言葉に1人で学校に行けない子や腹痛を起す子、大音量に怯える子などが続出▼「ヘイト」は英語で「憎悪」を意味する。差別意識や偏見を抱いて激しい言葉で憎しみを表す。朝鮮学校に対する言動の違法性を認める初の司法判断が示された。京都地裁は、この団体に街宣禁止と1226万円の賠償を命じた▼ハンムラビ法典は「人妻に陰口をするなら、裁判官の前に突き出し頬に烙印を押す」とも。米国ではヘイトクラム(憎悪犯罪)、欧州などでも「扇動罪」として厳罰化している。外国人への誹謗中傷はいけない。人として恥ずべき行為だ。(M)


10月10日(木)

●環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の首脳会合が8日、インドネシアで開かれた。年内妥結は確認したものの、調整が難航している分野での大筋合意には至らなかった。農畜産物の関税や知的財産などでの攻防は一層激しくなる▼日米など12カ国が利害を戦わせている。交渉の厳しさをうかがわせたのは、自民党のTPP対策委員長の発言。“聖域”とされてきた「重要5項目」の関税撤廃検討を示唆した▼重要5項目の関税率は、コメ(778%)、小麦(252%)、乳製品(バターで360%)、ビート(328%)、牛肉(38・5%)。この関税が撤廃されると、道内農業にとっては致命的な打撃になりかねない。農業界が危機感を強めるのは当然だ▼特に十勝、釧根、北見は輪作を支える複数の基幹作物が対象で、より差し迫っている。だが、道南も安閑とはできない。もし、道東地域で重要5項目がつくれなくなれば、野菜や園芸作物に転換せざるをえず、“産地変動”が起こるからだ▼いずれにせよ、国と国との交渉は政府の仕事。安倍首相は「国益」を強調するが、食糧を生産している地方を軽視した「国益」はあり得ない。推移をしっかり見守る必要がある。(T)


10月9日(水)

●「自炊」と聞いて、思い浮かぶのは炊飯器。単身赴任者や学生が自宅で一人、わびしく食事をとるイメージがある。だが、情報化が進んだ現代の「自炊」は少し違う。紙の本をスキャナで読み込み、スマホやタブレット端末で読めるようにすること▼小説家や漫画家ら作家7人が、本の「自炊」を代行する業者に対して「著作権を侵害された」として民事訴訟を起こした。判決は作家側の勝ち。「自炊」の代行業者に複製差し止めと損害賠償が命じられた▼パソコンとインターネットの普及で、世の中は猛烈な速さで変わった。本の「自炊」もパソコンやスキャナが高額だった時代やインターネットが普及していない頃には一般的ではなかった。実際、「自炊」を生業(なりわい)とすることに、司法が判断を下したのは、今回が初のケース▼書店に行くと、「雑誌の撮影は違法です」という張り紙を目にすることがある。今や携帯電話やスマホに高性能なカメラが搭載されているのは常識。技術の進歩が新たな“犯罪”を生んだ▼余りに手軽なので、ほとんどは触法意識を持たないだろう。だが、この事態を放置すれば、出版業はビジネスとして成立しづらくなり、やがて良質な著作は姿を消す。(T)


10月8日(火)

●来年4月からの3%消費増税が決まって1週間が経つ。景気の動向をみて最終判断する、と気を持たせられたが、蓋をあけてみると…代替の経済対策を打ち出しただけ。落胆の思いは拭えない▼経済指標から探る限り景気は上向いている。もちろん一般論だが、もしそうだったら法人税収が増えるはずで、あえて消費増税する必要はない。だが、消費増税にこだわる。理由は簡単、税収の桁が違うから▼もう一つ安定的に徴収できるという理由も。とはいえ消費税は物の動きすべてが対象。子育て世代、低所得者、年金生活者にも重くのしかかる。だから、さまざま懸念されるのだが、安倍総理は記者会見でこう語った▼企業収益が所得に回るようにし、雇用にもつなげる、と。これを額面通りに受け止めるかどうかは、それぞれの判断だが、どう説明されようと、増税感と財政赤字をここまでにした政治のつけ、という思いは残る▼一般的な家庭で年間3万円以上の負担増は重い。ただ、将来の社会保障への道筋を築いておくために、と言われれば…年金の現状などにも鑑み、仕方ないと思うだけ。もし何も変わらないとしたら、そのしっぺ返しは再来年の再増税時に返ってくる。(A)


10月7日(月)

●名前とは裏腹に、飢餓や乱闘、疫病、天災に見舞われた平安京。ついには盗賊を、今でいう警察である検非違使に登用し、治安を守らせたという。どこかおかしな話だが、蛇の道は蛇である▼JR北海道で、自分の運転ミスの発覚を免れるため、ATS(自動列車停止装置)を壊した男性運転士が、今度は列車の検査や修理を担当する部署に異動となった。直す技量もある人なのだろう▼函館では「ダイヤが乱れれば仕事が休みになると思った」として、JR江差線の線路に針金を置いたJRの下請け会社の契約社員の男が逮捕された。函館駅などに相次いだ爆破予告についても、関与を認めている▼平安時代、藤原氏による政治の専制やほころびなどから人心が荒廃し、盗賊がはびこった。そして武士が台頭していく。JR北海道は民営化で生まれ変わったものの、殿様商売にあぐらをかいてきたのか、ひずみやほころびはもはや繕いきれず、崩壊寸前だ▼横浜では線路内に倒れていた74歳の男性を助けようと、40歳の女性が電車にひかれ、亡くなった。瞬時の判断で、命を投げ出した。そんな人も、この世にはいる。JR北海道も捨て身の気持ちで再建にあたってほしい。(P)


10月6日(日)

●桧(ヒノキアスナロ)は建材にして200年くらいたったころが一番強くなるといわれている。江戸時代から明治初期にかけて、江差地方のヒノキが北前船で本州に運ばれ、神社や寺院などの建材として使われた▼「江差の五月は江戸にもない」といわれるように、ヒノキとニシンは松前藩の財政を支え、本州との交易の主役だった。伐採や森林火災などで大半が焼失した▼伊勢神宮の20年ごとの式年遷宮で社殿の建て替えに、なんと1万本以上の新しいヒノキが使われた。今回で62回目を数え、1300年も前から立て替えが繰り返されたが、解体されたヒノキは廃棄されない▼大震災で失われた神社の再建や全国の神社の改修などに使われる。再利用先で、さらに数百年のいのちをいきる。飛鳥時代からの壮大なリサイクル劇。生命をつかさどる風と土と水と塩を背に▼ヒノキは生命力が強く、長寿で日本文化の根幹をはぐくむ「不思議な木」ともいわれる。北前船にも使われ、円空は仏像を彫った。江差の森づくり事業にヒノキアスナロが選ばれた。大木に育って“桧舞台”に立つ雄姿が待ち遠しい。ヒノキの健康長寿にあやかりたい。(M)


10月5日(土)

●東京の民間シンクタンクの地域ブランド調査で、函館市の魅力度が全国2位となった。「食」の高い評価がけん引し、昨年の3位からワンランクアップ。1位は京都市、3位は札幌市。100万都市と肩を並べたのは誇らしい結果▼「地元食材が豊富」「食事がおいしい」など食の項目では堂々の1位。魅力度は2位、「行ってみたい」という観光意欲度は3位。居住意欲度も8位と上位▼夜景や歴史情緒を核にした街のイメージが優位にあるのは明らかだ。しかし、「生活の便利さ・快適さ」は1000市区町村中の248位で、ぱっとしない▼1位の京都市は言わずと知れた歴史と観光のマチ。集客力は国内随一だが、10月から119番の5カ国語通訳サービスを始めたという。増加する外国人観光客に対応するためだ。さらに、大学が多いことを踏まえ、外国人留学生に永住権を付与する特区申請も準備中。これはほんの一例で、観光やマチづくりに関する将来への布石が次々…▼大都市のまねはできないが、座して動かずでは、上位との差は開き、下位に追い上げられるばかり。函館が今の地位を築いたのも先人の努力があったからこそ。知恵を結集して将来を切り開きたい。(T)


10月4日(金)

●線路に転落した男性を発見し、自らの危険を顧みず救助しようと線路に飛び降り、尊い命を落とされました。崇高な精神と勇敢な行為を永遠にたたえます(山手線新大久保駅の顕彰碑文)▼先日、JR横浜線の踏切で、線路上に倒れていた74歳の男性を助けようと踏切に入った40歳の女性が電車にひかれて死亡した。「助けなきゃ」と父親が運転する車から飛び降りて遮断機をくぐり、必死に男性を動かした▼父親によると、女性は「困った人を見ていると、見て見ぬふりができない優しい子」。「お前は死んだけど、おじいさんは助かったよ」と話しかけた。目の前で娘を失った父の無念さ、悲痛な叫び…▼7月にはJR南浦和駅で女性がホームと車両の間に落ちた。すき間を広げようと駅員が車体を押したが、びくとも動かない。乗客が1人、2人と駆け寄り、約40人で押し車体を傾けて、女性を救出▼海外メディアも「生死にかかわる状況で乗客らが冷静に協力した」と称賛。3人が死亡した新大久保の事故は泥酔した男性がホームから転落、韓国人留学生らが飛び降りた。横浜の女性も人を救おうとする正義感や勇気の代償に尊い命を落とした。やるせない胸がいたむ惨事。(M)


10月3日(木)

●ご存知だろうか、10月3日は「道民健康づくりの日」で、9日までの1週間が「道民健康づくり推進週間」であることを。健康を自覚し、認識を高めてほしいという趣旨だが、「目」も大事な一つ▼日本人は近視率が高く、40歳以上の40%強が0・5以下…白内障の患者数は130万人とも。痛くも痒くもないから軽く考えられがちだが、基本としてまず留意すべきは視力の維持▼さらに言うと、目の病気は幅広い。だから啓蒙が必要とされ、設けられているのが「目の愛護デー」。中央盲人福祉協会が失明予防運動として提唱した視力保存デーが最初とされ、その歴史は古く1931(昭和6)年に遡る▼戦後間もない1947(昭和22)年、改めて10月10日が愛護デーとされ、現在は厚労省も提唱。この日とした理由は「10」と「10」を倒すと眉と目の構図に見えるから。なんとも分かりいい▼平均寿命は伸びている。だが、もっと伸びてほしいのは健康寿命。老後を楽しく過ごすには内臓もさることながら、目が健康でなければ。「見えること その宝物を 大切に」「いたわろう 目は一生のパートナー」。愛護デーのかつての標語がすべてを語りかけている。(A)


10月2日(水)

●年金の減額、物価の高騰、消費税上げ宣言…。神無月の10月は「ため息の出る秋」でもある。特に高齢者が2カ月に1度、ささやかな“年金日”に銀行などへ行く足取りが重い▼物価スライドで、払い過ぎていた分を解消する年金減額。最初は1%、2年後の4月までにトータル2・5%。最終的に国民年金は約2万円、厚生年金は約7万円も下がる。逆に、医療費や介護負担増が控えている▼スーパーへ行ったら、小麦や牛乳、ごま油、清酒などの値札が気にかかる。円安や原料価格高騰のあおりで、牛乳が1〜4%、清酒2〜7%、ごま油10%以上、納豆2割と食品が軒並み値上がり。海外旅行費や光熱費も▼さらに消費増税が追い打ち。来年4月に5%から8%、2年後には10%。こちらから集めて、あちらへ渡す。増税の全額は社会保障費に回す方針というが、果たしてどうなるのか…▼庶民ばかりいじめないで、政治家もマンガ本を買ったり、霊感商法が問題となった団体にカンパしたり、好き放題に使っている「政務活動費」など返上すべきだ。庶民は家計を見直して自衛するしかないのか。1日は「日本酒の日」だった。減額、値上げ、増税〜酒は涙かため息か〜。(M)


10月1日(火)

●年齢の定義は難しい。社会的に何らかの位置づけが必要とはいえ、子供は何歳まで、青年は、成人は、高齢者は、となると…。成長も早い、平均寿命も伸びてきた、そう考えると、見直しておかしくない▼成人年齢もそうだが、いま議論のあるのが高齢者。誰もが知るように、現在は¥65¥歳以上。国連が国際比較できるように、こう高齢化率を定めたことに基づくが、定義されたのは今から¥50¥年以上前▼この間に平均寿命や社会環境は大きく変わった。今や¥70¥歳でも現役世代。「隠居生活はまだ先の話」。4人に一人を数える¥65¥歳以上の多くが働いている。雇用に課題はあるが、働きたがっている人も少なくない▼昨年2月、内閣府の高齢社会対策の在り方等に関する研究会は「¥65¥歳という年齢で一律に区切るのは実態にそぐわない」と提言した。そして今回、新たに日本老年学会、日本老年医学会が検討に入ったという▼妥当なのは¥70¥歳か、それとも¥75¥歳なのか…これまた難しい判断となる。ただ、普通に日常生活を送れる健康年齢が¥70¥歳を超えているという現実を踏まえると、¥65¥歳はどうか、という疑問は払拭できない。1年ほどかけて検討するということだが、報告が待たれる。(A)