平成25年4月


4月30日(火)

●<地図の上朝鮮国にくろぐろと墨を塗りつつ秋風を聴く>50年ほど前、国鉄の江差松前線を取材して、木古内から松前までの建設工事に強制連行された朝鮮人や中国人が駆り出されていたことを知った▼石川啄木が日韓併合の年に雑誌に寄稿した「九月の夜の不平」の中の一首。日本の地図と同じ赤色に塗り替えられた朝鮮を黒く塗りつぶした地図を見て、祖国を失った人々を思う啄木が日韓併合を批判した歌として有名▼啄木を研究している浅利政俊さんが、この歌碑を松前町の専念寺境内に建立。専念寺は松前家の保護を受けた道内最古の浄土真宗の古刹。境内には先の大戦で亡くなった朝鮮人、中国人の慰霊碑や過去帳もある▼松前線建設の過酷な労働に動員された人は1000人を超え、多くの犠牲者が出た。松前線は25年前に廃止された。啄木が「墨を塗りつつ…」と嘆いた歌碑建立は紅紫色の専念寺緋桜(ひざくら)のそばがふさわしい▼この桜は15枚ほどの花弁をつけ、花弁には不規則なしわがあり質感が厚い。45年前に浅利さんが命名した。松前の花見には必見。平和への願いを込めた歌碑の除幕式は専念寺緋桜が開花する来月3日。強制労働で亡くなった慰霊法要も行われる。(M)


4月29日(月)

●雪解けとともにヒグマの出没が増えてきた。今年はまだ雪深い3月中旬、厚沢部町に現れたほか、4月16日にはせたな町で山菜採りの女性が襲われ死亡した。道南でクマによる犠牲者が出たのは2年ぶり▼せたなの現場は、普段から目撃情報がなかったという。日常的に山菜を採りに行くような場所で、突如襲われたようだ。冬眠明けのクマは空腹で凶暴。エサとなるフキノトウなど山菜類を求めていた可能性がある▼道南のヒグマ生息数は、推定で200〜500頭。人間の生活圏に現れるのか、彼らのテリトリーに人が足を踏み入れるのか、海岸線や平野部からすぐ山間部となる渡島半島の地形を見ると、あつれきを生む要因が見えてくる▼クマの食害などに遭う農家が以前、語っていた。「クマと人間の共生なんてきれいごと。馬が襲われたこともあるし、本当に厄介だ」。ただ、クマが人里に下りてくるのは、山のエサが少なくなったことも原因。森林破壊や異常気象、人間の残飯に慣れた習性など、人為的なものもあろう▼共生は難しいが、彼らのエリアになるべく足を踏み入れないことが必要だ。連休の山菜採りは無理せず、複数で鳴り物を携行するなどの対策を。(P)


4月28日(日)

●地上29階、地下4階のオフィスビルを併設する「GINZA KABUKIZA」。正面のたたずまいは、3年前に見たのと同じ「歌舞伎座」である。「柿葺落(こけらおとし)四月大歌舞伎」に足を運んだ。変わらぬもの、新しいものが融合した地に集まる客層は変化していた▼以前は地下鉄から地上に出る階段は急だったが、今は駅と建物が直結してエスカレーターもある。バリアフリー化も進み高齢者は笑顔。屋上の日本庭園では外国人観光客が大喜び。売店ではバラエティーに富んだ和洋の菓子のほか、スヌーピーをあしらったグッズも並び若い女性で混雑▼歌舞伎役者・大谷桂三さんと話をする機会を頂いた。「外国人客はリュック姿からスーツ姿になり、2世代で足を運ぶ客が増えた」の言葉から、単に「ご祝儀人気」ではなく、時代と一つになって長年親しまれてきた歌舞伎座が、また新しい時代を迎えたことを感じた▼桂三さんは函館子ども歌舞伎の稽古を見守るなど、函館にもゆかりがある。5月は歌舞伎座第2部で上方和事の代表作「廓文章(くるわぶんしょう)吉田屋」に番頭清七役として出演する。芝居の堪能はもちろん、時代変化に合った集客を感じる機会としてもお運びを。(R)


4月27日(土)

●人生の目的意識は年齢とともに変わる。当たり前のことだが、生活にせよ、職業にせよ、目的意識があるならまだいいが、そうでもなく、加えて自らへの自信も揺らいできているとしたら▼そんな危惧を抱かせる調査結果を目にした。それは日本青少年研究所が昨年秋に行った4カ国の高校生の意識調査。日本と米国、韓国、中国の生徒を対象に、思いを比較したものだが、その答えは大きな問題提起▼日本の高校生の目的意識、自信が、総じて低いという姿が浮き彫りにされたから。いくつか例を挙げると「人生に目標がないと暮らしていけない」と考える割合は、3カ国の80%台に対して日本は64%▼「偉くなりたいか」では中国で90%、米国や韓国で70%レベルだが、日本は40%台。「自分の会社や店を作りたい」は、さらに差が広がって25%。「やりたいことは困難があっても挑戦したい」も6年前の調査より低下▼そこから浮かび上がる姿は、いわゆる安定志向。それも良しとして、気になるのは自信の揺らぎ。米国や中国は50%前後が「自分は価値ある人間」と答えているのに、日本では10%未満。大丈夫だ、自信を持って頑張れよ…そんな声をかけたくなってくる。(A)


4月26日(金)

●高齢化社会が進み、親が要介護になる家庭増に比例して、高齢者の刑法犯も急増。老老介護で疲れ果て首を絞めたり、金銭をめぐって裁判になったり…▼先日、80歳の妻が脳梗塞で倒れ車いす生活の85歳の夫の首をひもで絞め殺した容疑で逮捕された。「夫が体のかゆみを訴え、かいたり薬を塗ったりするうちに『楽にしてあげたい』と考えた」(北見市)▼73歳の夫が73歳の妻をバットで殴り殺した。妻は心臓手術を受け、寝たきりで夫が介護。「妻が死にたいと言ったのでやった」(藤沢市)。要介護の配偶者や親を持つ家庭は介護の負担を巡って精神的に追い詰められる▼スパイの世界では「ハニートラップ。色仕掛けの罠。美人に注意」という。79歳の男性が77歳の女性に約4億円を貸していた訴訟で、裁判官は「返済する意思もないのに一緒に風呂に入るなど色仕掛けで借りた」と女性に返還を命じた(静岡市)▼“老いらくの恋”は大いに結構だが、金銭を奪うのに色欲に訴えるのはいただけない。一方、忍耐を必要とする要介護は仲のいい夫婦に多いという。長時間介護は、介護うつ、介護虐待、介護殺人を招きかねない。何か良い歯止めの「仕掛け」はないものだろうか。(M)


4月25日(木)

●不動産市場にアベノミクス効果? 円安・株高の景気回復ムードに乗り、首都圏のマンション販売が好調だ。不動産経済研究所が発表した首都圏の3月のマンション販売数は5139戸で、前年同月の5割増という▼函館はどうか。ある不動産業者は「消費税増税前の駆け込み需要に期待しているが、今のところ大きな動きはない」とため息をついていた。投資用として中古マンションやアパートを探る動きがあるというが、富裕層などに限定されるようだ▼富裕層の消費が全体を引っ張り、一般庶民まで及ぶか。あるいは、先行している首都圏の消費の動きが地方に波及するか。その期待はあまりできないだろう。バブル崩壊後、これまで景気回復の局面はあったが、大都市圏限定で、道内への波及効果はほとんどなかった▼北海道の景気は、旅客機の後輪に例えられる。景気が落ち込む時は真っ先につき、回復する時は最後に離れる。中央の動向に影響されず、地域経済を上向きにしていく産業や雇用の創出が必要だ▼食や農、観光、自然…道内には優位性のある分野が多い。その特性を生かした産業を育て、アベノミクスの3本の矢という気流に乗り、乗客全員の上昇を図りたい。(P)


4月24日(水)

●アメリカ自動車レースのインディカー・シリーズで、佐藤琢磨選手が日本人初優勝を遂げた。インディは欧州中心のF1(フォーミュラ・ワン)と並ぶ、世界最高峰シリーズのひとつだ▼20年以上前になるが、アメリカで最も有名なレース「インディ500」を観戦したことがある。競輪場を巨大にしたような1周4㌔のオーバルコースを最高時速400㌔近い猛スピードで、500マイル(800㌔)走る。観衆は40万人。あれほど大勢の人間を一カ所で見たことは後にも先にもない▼インディカーはエタノールとガソリンの混合燃料を使う。エンジンや車体の供給者を規則で限定し、マシンよりドライバーの力量や運で勝負が左右される要素を強くしている▼日本国内では近年モータースポーツが低迷しているが、米国ではホンダがインディにエンジンを供給している。レース活動に必要な多大の費用は、技術開発や販売戦略に還元される▼ホンダをめぐってはF1に再参戦するとの観測も流れている。かつてアイルトン・セナやアラン・プロストを擁して、無敵を誇った時代の復活を願うファンや関係者は多いはず。やはり強い日本車を見るのは楽しい。(T)


4月23日(火)

●ミシシッピ川、コンゴ川、ナイル川、ガンジス川、マレー川、メコン川、揚子江、アマゾン川|。世界有数の大河をテーマにした動物園「リバー・サファリ」がシンガポール共和国にオープンした▼広さは12㌶。五稜郭公園の半分ぐらいの広さに、世界で絶滅の恐れのあるジャイアントパンダ、オオカワウソなど300種以上、約5000匹の水生、陸上動物がいるという。脆弱(ぜいじゃく)な淡水生態系への理解を促進し、生物保全へ関心を高めてもらうことが目的▼同国では世界的なテーマパークや巨大ホテル、新しいショッピングセンター、夜の自動車レースなど、施設やイベントが次々に登場し、日本でもテレビや旅行誌が「最新シンガポール情報」としたプログラムを制作。あっという間に話題が広まる▼ただ、それには国を挙げてPRする発信力があってこそだ。同国政府観光局は日本にも支局を持ち、全国の新聞社などにリリースを送付する。世界から観光客を誘致するために必死だ▼東京ディズニーランドも30周年のPRに懸命。画期的、魅力的なもの持っていても、共感してもらうには世に送り出す手立てに奥行きが必要と感じさせる。函館市も一層の発信力強化を願う。(R)


4月22日(月)

●東海道五十三次駅伝競走というのを聞いたことがあろうか。実際にあったのだが、ほとんどの人はノーだろう。というのも、それが行われたのが100年ほど前の1917(大正6)年だから▼コースは京都の三条大橋と東京・上野の不忍池間。総距離508㌔(23区間)を、東軍(東京高等師範など)と西軍(愛知第一中など)が競った。その年の4月27日午後2時に京都を出発し、勝者の東軍がゴールしたのが…▼29日の午前11時34分というから、実に45時間あまりを要した、最長のレースであろう。この駅伝を記念して設けられたのが「駅伝の日」。もちろん4月27日。そして3年後、あの箱根駅伝が始まった▼チームのために襷(●たすき)をつなぐ。日本人の精神文化に合っているのか、その後も大会の幅が広がり、今や「エキデン」は国際語。実業団(ニューイヤー)や大学(全日本)、高校(全国高校)…都道府県別や国別対抗なども▼メジャーでなくていい。楽しませる駅伝もある。実現の可能性はともかく、函館で言うなら函館山登山駅伝とか。観光道路の閉鎖直後か開通直前の時期に、緑の島からの往復で。一笑に付す話でもない。世には富士山登山駅伝というのもある。(A)


4月21日(日)

●村上春樹さんの3年ぶりの新作が全国の書店で驚異的な売れ行きを見せている。増刷を重ね、12日の発売から1週間で発行部数は100万部に達したという。「活字離れ」の中でも、村上さんの本だけは例外のよう▼休日を利用して一気に読む計画だったが、休日前夜にほとんど読了してしまった。タイトルは「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」。奇をてらったと思っていたが、実は小説の中味をストレートに反映した表題だと分かった。心象風景を独特の比喩(ひゆ)で表現する“村上ワールド”全開で、半ばを過ぎたあたりからはページを繰る手が止まらなかった▼虚構の世界観で異質な雰囲気を醸し出した前作「1Q84」よりは、「ノルウェイの森」に近い。好き嫌いはあるだろうが、村上ファンにとっては、たまらない一冊となるはず▼最近フェイスブックで30年ぶりに“再会”したカナダ在住の友人から「カナダでも人気。フランス語にも翻訳されている」と返信があった。主要な登場人物は日本人だが、国籍に関係なく物語には普遍性があるのだろう▼出版不況と言われて久しいが、売れる本はやっぱり売れる。電子書籍の普及も本格化してきたが、やはり肝心なのは中味だ。(T)


4月20日(土)

●政治批判の矛先は、野党より政府与党に厳しく向けられる。それだけ責任を負っているからだが、世論は甘くない、という証(あか)しでもある。その評価は支持率に表われ、選挙の結果へと結びついていく▼内閣の場合だと、支持率が50%を超えていると安泰状態。逆に20%を割ると危険水域と評される。政党では政権党なら30%ぐらいは当然と言われる。この点からすると、今の政権与党は合格点となる▼だからと言って、高い支持率がいつまでも続くという保証はない。突然、抜き差しならぬ課題を抱えないとも限らないから。その対処に手間取ったり、判断の時期を逸したりしたら、一気に下降線をたどる▼解りやすい例が、この3年あまりの民主党。2009年に政権をとった時、期待が大きく40%レベルだった。それが翌年6月には20%台に。その後も下がり続け、政権を明け渡した後は10%を割り込んだまま▼その裏返しが自民の回復ぶり。各世論調査は内閣で65%前後、政党で30%以上を示している。ただ、一方で支持政党なしが50%を超えている現実がある。与党と支持政党なしで80%強という姿をどう理解すればいいのか。問いかけている意味は大きく深い。(A)


4月19日(菌)

●五月二十八日 土用 朝五つ迄曇る 晴天江戸出立後の上天気なり 併し山々白雲おぼし 箱館山に登て所々の方位を測 夜も晴測量…(伊能忠敬測量日誌)▼江戸時代に精密な「大日本沿海與地全図」を作り上げた伊能忠敬の蝦夷地の測量は函館から始まった。213年前、函館山山頂からの測量が日本地図作成の第一歩だった。当時の函館は現在の西部地区だけに民家が立ち並んでいた▼その後、願乗寺川という人工水路が作られ、現在の中の橋から分流、十字街まで続き、数本の水路となって巴港に注いでいた。現在の計測値と比較しても誤差わずか0・1%の伊能忠敬の測量を基に「水の都」が構築された▼函館を出発点として東海岸から根室まで蝦夷地を実測し、東北へ回った。この日本地図をシーボルトが外国に持ち出そうとしたことが発覚、関係した日本人蘭学者が処罰される事件もあった▼「夜も晴天で観測を続行した」偉い先人。隠居してから幕府天文方に師事し、天文観測にも尽力。函館市は56年前に冒頭の日誌を刻んだ記念碑を頂上付近に建立、偉業を讃えている。今日は伊能忠敬が蝦夷地へ出発した日で「地図の日」。また「最初の一歩の日」とも呼んでいる。(M)


4月18日(木)

●第二次大戦後、函館にも来た「進駐軍」。昭和20年10月4日、函館港からアメリカ軍約6000人が函館に上陸した。彼らはニューヨーク(NY)の第77師団正規兵だった▼当時の新聞によると、兵士はガムをかみ、タバコをふかせながら宿所への出発を待った。戦争で勝ったというおごりの態度はなく、軍服の右肩には「自由の女神」が刺しゅうされ、親しみさえ感じられたという▼住民に怖さを与えていた進駐軍もあったようだが、函館は犯罪の発生はなく平穏だった。軍服の自由の女神のような振る舞いをしていたようだ▼函館にNYの正規兵が来た理由を示すような品が18日から毎週木曜日に、ニチロビル(大手町)内「日魯倶楽部」で公開される。NYヤンキースなどで活躍したベーブ・ルースらのサインボールだ▼昭和9年11月、函館湯の川球場で日米野球が開かれ、ルースらが始球式のボールに書いたサインが残る。野球の神さまがプレーした街であることが、米国の敬意の表れではとニチロ関係者は推測する▼日米野球招致に尽力したのは主に久慈次郎捕手、ニチロ第8代社長の谷脩治氏。函館に対するニチロの功績が多岐にわたることを物語るボールと言えるだろう。(R)


4月17日(水)

●14日に亡くなった俳優、三國連太郎さんが出演した映画と言えば|の質問には多くの答えが出るに違いない。函館も舞台だった「飢餓海峡」の撮影に関わった市民も半世紀前の思い出話に声が弾んだだろう▼2002年、富山県でロケが行われた「釣りバカ日誌」を取材した。三國さんがタイを釣る場面のリハーサルでは、港に係留された船の上で、波を受けて船が揺れているように大きく動き、演技を確認していた姿が目に焼き付いている▼同シリーズは一般的に、ロケ誘致が地元に及ぼす経済効果が約30億円、ロケ支援への地元負担は約6000万円とされた。富山では商工会議所会頭を委員長に、観光、行政、民間団体で誘致委員会を立ち上げ、何年も掛けて松竹と交渉していた▼蜃気楼(しんきろう)の春にブリを釣るという、季節が合わない部分もあったが、ホタルイカ、井波彫刻、おわら風の盆など、県自慢の要素が盛り込まれ、経済効果はあった▼函館では市民組織により、函館出身の佐藤泰志原作の「海炭市叙景」が制作され、多くの賞を受賞。今度は「そこのみにて光輝く」が撮影される。観光地的に函館を描く映画ではないが、撮影における交流、わが町発信を応援したい。(R)


4月16日(火)

●50年以上も前、2台の車が崖っぷちへ向かって疾走するジェームス・ディーン主演の米映画「理由なき反抗」を観て“チキン・ラン”に衝撃を受けた。危険なチキンレースだ▼フルスピードで走らせ、先に降りたほうが負けだが、意地を張って退くのが遅れると命取り。負けたら臆病者(チキン)とする度胸試しのレース。今、北朝鮮の若き指導者が「長距離ミサイルを撃つぞ」と暴走している▼「敵が行動すれば正義の銃で無慈悲に撃滅する」「無慈悲な火力攻撃で憎きやつらの牙城を火の海に」「東京、大阪、横浜、名古屋、京都も一撃で壊滅させる」「アメリカの滅亡に終止符を打つ」と、連日「無慈悲な脅し」▼ムスダン、スカッド、ノドンなどで威嚇。米韓軍事演習で米国がB2ステルス戦闘機、B52戦略爆撃機を飛ばしたことがチキンレースに拍車をかけているのか。非核化へ対話の再開も呼びかけているが…▼もしミサイルが飛んできたら…テレビで秋田県の保育所で先生の笛を合図にした避難訓練を見た。過激なチキンレースは、どちらかが「臆病者」でない限り、双方に死を招く、何のメリットもない。疾走しているのは三代目だけで、暴走の先には、崖下あるのみ。(M)


4月14日(日)

●「同じ給料を上げるなら非正規社員を上げた方がいい。(ベースが低いから)ほとんどが消費に回るので経済政策にもなる」。自民党の高村副総裁が先日、千葉市での講演でこう語ったという▼昨年の労働力調査による我が国の労働人口(農林を除く雇用者ベース)は6000万人強。このうち常用雇用の正規は3300万人。一方、パート、アルバイト、派遣、契約や嘱託などの非正規は合わせて1780万人▼その割合は、ここ数年は大きな変動がなく、非正規は35%レベル。多いか少ないか、高いか低いかの判断は別として、劣る給与水準と雇用継続の不安を抱える非正規の人が3人に1人いるという姿は紛れもない現実▼かつては、働く人のほとんどが正規だった。それを変えたのは、規制緩和の流れ。雇用形態の多様化をうながし、非正規が増えた今の構造に。企業は給与が抑制でき、経済情勢がそれを是認してきた▼いまさら経済の原則ではないが、回復の原点は消費を伸ばすこと。年収増分を預貯金に回されたら経済面の効果はない。そう考えると、冒頭の高村発言はまさしく正論。そこで…。政権与党としてどう政策展開するのか、正論がゆえに具体策が問われる。(A)


4月13日(土)

●石川啄木の資料などを展示する函館市文学館。7日から始まった企画展で、ある変化が起きているという。「いつもと違い、地元の主婦が多く来ている。新しい来館者が増えることにつながれば」と藤井良江館長は期待する▼企画展は「石川啄木の遺児たち」。啄木と妻節子、長女京子の書簡や、京子の家族写真などが並ぶ。これまでもさまざまな啄木の直筆作品などを展示し、全国からファンらが来館していた▼啄木の遺児にスポットを当てた企画は初めて。これまでは啄木の研究家、専門家が多かったが、今回は、もっと啄木を知りたいと思う女性が初日から足を運んでいるようで「京子の写真、作品を見るといとおしく感じる」との声があるという▼母親の子に対する愛は誰でも同じ。京子が両親に、啄木と節子が子に対する心情をしたためた文は主婦の心をつかんだ。口コミで感動が広がれば、子供を焦点としたことで集客に成功する一つの例になるだろう▼4月13日は1912年に亡くなった啄木の102回忌で、市内で法要が開かれる。今年は後を追うように13年5月5日に節子が亡くなってから100年。2人も子の作品を見てほしいと願っているだろう。(R)


4月12日(金)

●日本人というのは選挙が好きなのかもしれない。昨年末に行われた衆院総選挙は投票率が今ひとつだったが、今、日本各地で繰り広げられている数多の「総選挙」はどれもにぎやかだ▼毎年の恒例は、アイドルグループAKBの選抜総選挙。新曲を歌うメンバーなどを選ぶファン投票。なぜだか分からないが、今年から立候補制になり、248人が名乗りを上げた▼CD1枚を買うと1票分の“選挙権”が得られる。熱心なファンはCDを100枚単位で購入し、意中の“候補者”に投票する。CDを買い込むことの是非は別として、本家の総選挙並みに熱い選挙戦が展開されそう▼日本百貨店協会はインターネット上で、「ご当地キャラ総選挙」を実施している。北海道地区には、われらが道南の「するめ〜」(福島町)と「おらいも君」(厚沢部町)が出馬。11日現在、「するめ〜」は道地区の4位につけ、健闘中だ。ホームページをみると、ご当地キャラの広がりが感じとれる▼巷(●ちまた)で盛んな「総選挙」は、「選挙で白黒つける」というより、活気のある選挙戦で世間の関心を喚起するのが目的に見える。夏の参院選まで3カ月—。こちらも強い関心を持って見つめたい。(T)


4月11日(木)

●土手にはフキノトウ、大沼にはミズバショウやザゼンソウ、クマゲラがつつき、アオサギが飛ぶ…。爆弾低気圧が去って、雪解けが進み春本番。ただ、ニリンソウとトリカブトを間違えないように▼ミズバショウの花言葉は「美しい思い出」「変わらぬ美しさ」。ザゼンソウは「沈黙の愛」「ひっそりと待つ」。仏像の光背に似た形の花弁の重なりを僧侶の座禅姿に見立てて座禅草、達磨草とも▼サトイモの仲間で、座禅草の花からは虫を寄せ付ける物質が出ており、でんぷん、たんぱく質、ビタミン、カルシウムを含み、栄養たっぷり。冬眠から覚めたクマの大好物といわれる▼昨春、函館の男性が近くの山林でトリカブトの野草を採って、おひたしにして家族と食べたところ、嘔吐(おうと)などの症状を訴え、男性と父親が死亡した。若葉の色、形状、草丈がニリンソウと酷似している。ご注意を▼大沼ではミスバショウの群生地を巡るツアーもある。函館公園や五稜郭公園、松前など桜の名所の開花まではミズバショウの「白い妖精」「黄色い妖精」を楽しもう。原発事故で立ち入り禁区域に入れるようになった被災者が3年ぶりに「桜のトンネル」を満喫する姿に感動した。(M)


4月10日(水)

●衆院小選挙区の「1票の格差」是正は、自民、公明両党が小選挙区の「0増5減」を先行して行う方向となった。野党との協議が不調に終わり、十分な対応とは決して言えないが、少しでも前進すべきだ▼民主党は、定数削減と選挙制度改革を合わせた抜本改革を主張した。しかし、選挙無効の判決も出た小選挙区の格差是正は、一刻の猶予もない。まずは選挙制度改革を切り離し、違憲状態からの脱却を図るべきだろう▼格差是正の基軸になるのは、人口比である。今回、自公が見直すのは2倍以上の格差がある選挙区だが、人口割りの是正が進むと、大都市圏に議席が集中し、地方の議員が減ってしまう▼北海道ではすでに、道議会の定数削減でこの問題が指摘されている。道議はおおむね、人口5万人に1人の割合で議席が配分されているが、札幌への一極集中がさらに進めば、地方の議席は減り、声が届きにくくなる▼このため、議席配分には人口要件だけでなく、面積要件を加味するべきだとする主張がある。人口は少なくても、広い選挙区には地域独自の課題がある。人口比だけでは割り切れない問題を、1票の平等を保ちながらどう折り合いをつけるか、難題だ。(P)


4月9日(火)

●メタボリックシンドローム(メタボ)という言葉に、新鮮感はない。それだけ該当する人が多いということだが、改めて説明すると、高血糖や脂質異常、高血圧のいわば赤信号状態▼放っておくと動脈硬化が進行し、心臓病や脳卒中などの引き金となる。だから、日常生活の注意と健診が必要なのだが、当然ながら症状が進むにつれ医療費も膨らんでいく。それがどの程度なのか、厚労省が調査した▼2009年度の特定健診結果と2010年度のレセプト(診療報酬説明書)を比較する手法で、対象269万人。その結果、メタボの人の年間医療費は、そうでない人と全年齢群平均で年間約9万円多かったという▼ちなみに最も差が大きかったのは45歳〜49歳女性の約18万円。国の医療費もさることながら、本人負担に照らしても無視できない。同省は新たなメタボ対策を検討する意向だが、鍵を握るのは個々人の意識▼メタボかどうか、日常的にチェックできることがある。腹囲の測定で、男性は85㌢以上、女性は90㌢以上ならメタボ水域。対策は食べ過ぎの注意と適度な運動…気をつけよう、医療費の問題でもない、健康な生活を維持するために。(A)


4月8日(月)

●東京電力福島第一原発の「地下貯水槽」から推定で約120㌧の汚染水が漏れていた。漏出した放射性物質の総量は7100億ベクレル。発生から2年が経過したが、事故はまだまだ進行中だ▼「地下貯水槽」は土に穴を掘り、底部をコンクリートで固めた上に3層の遮水シートを重ねた構造。「槽」と呼んでいるが、縦60㍍、横53㍍、深さ6㍍というから、ほとんどプールのよう。1カ所で1万4000㌧が収容できる▼原発内には1日400㌧もの地下水が流入し続け、それが日々汚染されているという。これらを貯留するための「槽」は7カ所もある▼漏れた汚染水は地中に浸透したので、作業員の被ばくなどの懸念は少ないらしいが、トラブルのポイントはそこではない。2年経ってもなお、汚染水の増加、広く言えば環境への汚染を止められないことこそが肝心だ▼水素爆発した建屋の処理、メルトダウンした原子炉の廃棄—これらは完了のめどが立っていない。汚染水は今後も増え続ける。一体いつになったら収束の道筋が見えるのか。人の手に負えないこんな施設をなぜ作ってしまったのだろう—。事故直後から抱いている疑問が改めて湧き上がってくる。(T)


4月7日(日)

●家族、健康、気力、注意力、お金…高齢者になると失い、衰えるものが多くなる。そんな高齢者を食い物にする詐欺や悪徳商法、容赦ないネット詐欺が後を絶たない▼札幌で金の高額買い取りを持ちかけられた68歳の女性が4000万円をだまし取られた。高額で引き取るので知っている会社から金を買ってと持ち掛けられ、タンス預金から工面、札幌駅で渡した▼70代男性がインターネット出会い系サイトで余生に蓄えた4500万円を吸い上げられた。多機能携帯などの普及で操作に疎い高齢者を出会い系に誘い、雇われサクラが知らぬ間に危険なサイトに。ついクリックしてしまう▼ワンクリック詐欺には無数の落とし穴。「クリックだけで登録済み」と、代金を払うまで画面が消えないものも。「おばあちゃん、相談したいことがあるんだ…」とだますオレオレ詐欺より深刻だ▼「祖父母にタンス預金を使ってもらおう」というのがアベノミクスの経済対策の一つ。孫への教育資金の贈与が1500万円まで非課税になる。それが悪徳商法やネット詐欺、クリック詐欺に先取られては、かわいい孫に申し訳ない。蓄財慾や好奇心で危ないサイトへのクリックは禁物。(M)


4月6日(土)

●鳥インフルエンザ(H7N9)の人への感染が中国で確認された。上海の日本総領事館は在留邦人に注意を呼び掛け、台湾も空港や港湾での防疫態勢のレベルを上げた▼騒動になるのは、ヒト新型インフルのパンデミック(世界的大流行)の可能性がちらつくからだ。新型には有効なワクチンが間に合わず、重症化しやすい。スペインかぜ(1918〜19年)は感染者6億人、死者4000万〜5000万人とも言われる。当時、抗生物質やワクチンはなかった。無策だと被害はこれほど甚大になるのだ▼その後、アジアインフル(1957〜58年)では200万人、香港インフル(1968〜69年)でも100万人が命を落とした。油断は大敵。警戒するに越したことはない▼インフルのウイルスは自ら変異する。トリからヒトへの感染はむしろまれで、最も警戒すべきは、ブタ(家畜)からヒト、ヒトからヒトへ感染するような変異▼函館は国際観光都市。パンデミックが海外から始まったら、早い段階で新型ウイルスが入ってくる可能性が高い。今の段階で必要以上に神経質になることはないが、医療・保健関係者だけでなく、地域全体で「心の警戒度」を上げた方が良い。(T)


4月5日(金)

●道路から雪が消え、車は走りやすくなった。同時に自転車も増え始め、4月は事故の心配が募る季節。ここ数年、事故は減ってきたものの、交通安全はまだまだ大きな社会課題▼今年に入って、2日までに道内で発生した事故は4037件。30人が亡くなり、4851人がけがをした。函館方面本部管内でも304件発生して5人(前年同期比3人増)が犠牲になった▼確かに道路環境は良くなった、指導や啓蒙などの成果も上がってきた。だが、十分というにはほど遠い。だからこそ交通安全運動は欠かせない。今年も6日から、10日の「交通事故死ゼロを目指す日」を挟んで、15日まで春の全国運動が展開される▼重点は自転車の安全利用の推進、飲酒運転の根絶など3点。その理由は明らか。道内で起きた自転車利用中の事故は昨年1年間で2155件(死者11人、傷者2144人)、飲酒も197件(死亡12人、傷者274人)を数える▼最も大事なのは「安全意識」。ハンドルを握る人でいうなら、速度を抑える、無理な追い越しをしない、交差点などでの安全確認を怠らないなど。「正しいルール教えてね」。春の全国運動のポスターで、男の子がこう語りかけている。(A)


4月4日(木)

●大卒者の就職活動時期についてはなお議論のあるところ。かつて青田買いとまで表現された時代があったが、企業は競うように内定時期を早め、となれば学生も落ち落ちしていられない▼「いい人材を確保したい」。民間大手の企業論理が行き着いた先は、就職活動は3年次という異常な現実だった。その正当性をどう強弁しようと、説得力ある理由などなきに等しいし、批判の矛先は経済界に▼経団連も目を瞑(つむ)っているわけにいかなくなった。紳士協定とも言うべき倫理憲章を打ち出したのが2年前。資料請求などに応じる広報活動は3年次の12月から、選考活動は4年次の4月から、という申し合わせだった▼開始は遅く、活動期間は短いに越したことはない。勉強に集中できる時間を増やせるし、重複内定者も減らせるから。経団連の判断は、まだ早いという声があったが、その後の動きはないまま▼ついに政府が腰を上げるという。「さらに時期を遅らせるよう経済界に要請する方向で検討に入った」。先日の読売新聞はこう報じていたが、広報活動は4年次の4月から、選考活動は8月から、は妥当なところ。理由は簡単、学生第一の考え方が読みとれるから。(A)


4月3日(水)

●同じニュースでありながら、これだけのコントラストがあるものなのか。1日発表された日銀の短期経済観測調査(短観)。景況感は国全体だと3四半期ぶりに改善したが、函館支店だと昨年12月の前回調査より10ポイントも悪化した▼アベノミクスへの期待から円安、株高が進行中。全国の「大企業・製造業」は、DI(業況判断指数)が4ポイント改善し、収益好転を裏付ける。「自動車」に至っては19ポイントアップのプラス10に転じた▼輸出中心の大企業と逆の様相をみせているのが、中小企業の多い渡島・桧山。円安が原材料費上昇を招き、全産業で2期連続悪化。製造業は10ポイント、食料品は11ポイント、燃料高騰の直撃を受けた運輸は20ポイントも悪化した▼道内全体でも、7期(1年9カ月)ぶりに悪化。宿泊・飲食サービスで28ポイントも下がったのが足を引っ張ったが、これは記録的な大雪が影響したとみられる▼アベノミクスの「3本の矢」は、「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」。今のところ、「金融緩和」が景気回復への期待感を膨らませているが、地方の中小企業やそこで働く人たちへの恩恵は全く見えない。残る2本のうち、「成長戦略」が極めて重要になってくる。(T)


4月2日(火)

●ベストセラーとなった藻谷浩介さんの『デフレの正体』(角川書店)は、日本経済が縮小する原因を多様な角度から探っている。藻谷さんが明かしたその正体は、生産年齢人口(15〜64歳)の減少による消費の縮小だ▼働き、得た所得で毎日モノを買い、子どもを育て、車や家を購入する。そうした国民生活の積み上げが、世界有数の経済大国を築き上げた。消費あっての経済である▼先日に続いて、国立社会保障・人口問題研究所の人口推計の話題から。2040年には全都道府県の高齢化率が3割を超え、秋田や山形、北海道では4割超となる。高齢者人口は大都市圏で特に増加するという▼高度成長期から労働と消費の中枢を担った団塊世代が高齢者となり、次代を担う子どもたちは少子化世代で、格差や貧困社会の中にいる。その年齢構成は、今さら変えることはできない▼60歳や65歳で定年、隠居という考えは、変革が迫られている。支えられる側が少しでも支える側に回らなければ、国力や社会保障の維持は厳しい。しかしその環境づくりは容易ではない。企業と個人の描くライフプランの乖離(かいり)を政治はどこまで埋められるか。重い課題を突き付けられている。(P)


4月1日(月)

●インターネット通販の最大手アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾフ最高経営責任者が大西洋の水深約4300㍍の海底から、月探査船アポロの打ち上げロケットのエンジンを引き揚げたと発表した▼アポロは1962〜72年までの有人月面探査計画。11号は1969年7月16日に打ち上げ、4日後の20日、史上初めて月面に着陸した。ニール・アームストロング船長の言葉は余りにも有名だ。「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」▼1号の訓練中に火災で3人が死亡する悲劇を乗り越えた。栄光の11号のあと、13号は月への途上で酸素タンクが爆発したが、無事帰還を果たし、後に映画化された。その後、14〜17号も着陸に成功した▼コンピューターが一般化されていない時代。難解な軌道計算は計算尺でこなした。部品も今と比べてかなり旧式。それでも月に行けたのは、「行きたい」という意志の力が大きい▼あれから40年以上—。技術は大きく進歩したが、残念ながら壮大な挑戦は停滞したまま。人類に夢を与え、社会全体に恩恵をもたらす技術革新を達成できるような、開拓者精神に満ちた冒険をぜひ再開してほしい。(T)