平成26年3月


3月31日(月)

●イギリスロック界のスーパースター、エルトン・ジョン(67)が、同姓の恋人である映画監督のデイビッド・ファニッシュ(51)と結婚することを表明した。すでに20年以上にわたり、正式なパートナーを公言していて、代理母による2人の子どもまで設けているのに、なぜ今ごろ結婚に踏み切るのだろう▼実はイギリスでは昨年2月に同性婚法案が可決され、今年の3月29日に同姓婚容認法が施行さればかり。エルトンとデイビッドにとっては長年待ち望んだ夢がようやく実現したことになる▼今や同性愛を公言する有名人は少なくないが、このタブーを破る大きなきっかけになったのが、エルトンであることは間違いない▼欧米ではすでに多くの国と地域で同姓婚が合法化されているのに加え、パートナーシップ法などによって、同姓カップルの権利を保障している場合も少なくない▼一方、日本では連日のように、同性愛者のタレントがテレビに登場し、巧みな話術とコミカルなキャラクターで人気を得ているが、法律の上では同姓婚は認められていない。養子縁組という形で擬似的な結婚形態をとっているカップルもいる。国際的にみれば完全に後進国なのである。(U)


3月30日(日)

●「症候群」という言葉をよく耳にする。本来的にその意味は「根本となる一つの原因から生じる身体症状、精神症状」を指す病気の表現なのだが、ネットで調べると、あるわあるわ…▼あ行だけでも50症状ほどがある。巡り巡って病気ということになるが、最近は原因が身体内部からではなく、社会的な要因から派生する症状にも。それがだんだん増えて、現代が抱える社会現象も垣間見えてくる▼例えば、新築住居などで起きるシックハウス症候群、飛行機でのエコノミークラス症候群、仕事などで期待した成果や評価が得られずに感じる徒労感の燃え尽き症候群など。さらに最近はデジタル機器が要因の症状も▼その一つにスマホ症候群がある。スマートフォンの触れ過ぎによる症状だが、手元になければ困惑する、少しでも時間があれば手にする。それが過ぎると疲れ目はもとより身体的にいい訳がない▼肩こりや頭痛に加え首の痛みや首を後ろに倒せないなど。肩を縮め、猫背になって、小さな画面を見続けるのだから、長時間に及ぶと…答えは誰にでも分かる。ただ、忘れてならないのは、社会的な要因による症候群は自分の注意で回避できること。気をつけたい。(A)


3月29日(土)

●書かれた本人には決して快くない内容の記事…。必要に迫られ、そんな記事を書いたことがある。叱られることを気にしながら、朝を迎える。比較するのも失礼だが、1月に亡くなった元毎日新聞記者の岩見隆夫さんも同じような経験があったようだ▼岩見さんは1970年ごろ、自民党派閥を引き継いだ大平正芳さんについて「致命的とも言える記事」を書いた。翌日の大平邸。出入り禁止を覚悟していたら、大平さんは「あー、きみはまあ文の人だからなあ」と何も責めなかったという▼「下げた頭が上がらないまま、涙がポロポロ流れた」と岩見さんは回想する(毎日新聞「近聞遠見」)。のちに首相になる人が持つ度量や見識を感じる▼政治家と記者の関係は、距離を置けば情報が取りにくいし、親しすぎれば批判的な記事が書きづらくなる。適正な距離を保ち、信頼関係と緊張感を持って取材するのが望ましい▼大平さんの時代から40年。政治家と記者のせめぎ合いは続く。ただ最近は、考えが異なる人を「バカ」で片づける政治家もいる。マスコミの論調も、人気や支持率が高い時は丸くなったりする。いつの時代も、熱く、冷静な議論を戦わせる環境が必要だ。(P)


3月28日(金)

●ガソリンから電気に…ついにバスも実用化の時代へ。北九州市が一般電力による電気バスを導入した。路線バスとしては全国初で、さらに10月からは太陽光発電での運行を考えているという▼ガソリン車の排ガス対策は、地球の温暖化防止の観点からも世界的な課題。数々模索される中で、最大の救世主として期待されるのが電気で、我が国で実用販売が開始されたのは2009年というから5年前▼充電設備の設置遅れなどが普及の足かせになっている中、数は少ないとはいえ都会ではタクシーなどにも採用され始めている。時代の流れとしてバスの登場も時間の問題とは見られていたが…▼1回の充電による走行距離は最大80㌔で、1台当たり年間15〜25㌧の二酸化炭素削減効果があるという。技術革新のテンポは速い。電話が分かりいいが、20年で固定だけの時代から携帯、そして今やスマートフォン▼もちろん電気は良いことづくめ。環境にいい、原油問題もない。だから国も力を入れる。掲げている2020年のEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリット車)の普及目標は、販売台数の15〜20%。5、6台に1台…わずか6年後のことである。(A)


3月27日(木)

●JRグループと自治体が協力して実施する「ディスティネーションキャンペーン(DC)」の対象エリアに、青森県と道南地域(11市町)が決まった。時期は2016年7月から9月。北海道新幹線の開業効果を“倍増”させると期待は大きい▼DCのエリアになると、全国の主要駅にポスターが掲示される。実際に期待できるのは、青森・道南を対象にした旅行商品が開発、販売されること。交通機関自らが誘客の先導役を担うのだから、いろいろなアイデアが盛り込まれそう▼DCは1978年、「きらめく紀州路」をテーマに和歌山県で実施したのが始まり。年1〜4回にわたって、全国各方面で展開している。回数最多は京都の25回。近年は毎年冬に「京の冬の旅キャンペーン」を実施している▼道内のDCは2012年以来。前回は急行列車で道内を一周する企画やリゾート列車が人気を集めた。一部の出発駅は函館だった▼16年は北海道ではなく道南が対象。最大のポイントは青森と共同ということではないか。函館に来た観光客の満足度を高めるために、青森との連携は大きな“武器”。新幹線時代のモデルづくりにもなりうる。大いに知恵を働かせたい。(T)


3月26日(水)

●大間原発に対する道民の意思がそろった。道議会が国や電源開発に対する説明責任と、原子力規制委員会に厳正な審査を求める決議を可決。函館市議会も26日の本会議で、建設差し止め訴訟に関する議案を可決する▼道議会の決議は共産党が反対したが、これは「建設を前提にした決議である」ためで、建設中止を求める意思は明確。これだけ懸念や反対が地元から、党派を超えて示された以上、国は真摯(しんし)に耳を傾けるべきだろう▼震災後、国は防災対策を重点的に行う地域を原発建設地から30㌔圏とした。函館が入る。しかし、函館は立地自治体ではないので、建設の同意が必要とされない。「説明も同意もなしに防災計画を作れというのはばかげている」と言う工藤寿樹市長の主張はその通りだ▼函館市を逆なでするような行動は続く。電源開発は新基準に基づいた安全審査申請を今秋にもする考えを示した。今求められる基準をクリアしていないのに、古い基準で大間の建設が進んでいる。ならば今は凍結するのが筋だ▼事故が起きたら、函館の基幹産業である水産や観光は壊滅的な打撃を受ける。取り返しはつかない。子どもたちの未来のために、踏み出したい。(P)


3月25日(火)

●最近とかくニュースに登場する私立大学がある。大阪府東大阪市の近畿大学だ。今春の一般入試の志願者数が10万5890人で、初めて全国一になった▼志願者は前年より約7400人増えた。2位の明治大は前年比4400人減で、わずか300人ほどの差で4年連続だった1位を明け渡した。僅差で3位の早稲田大も同1300人減った。少子化が進む中、有名私大も学生獲得に苦労している▼その近大。テレビなどで有名になった「近大マグロ」などを大胆に使った新聞広告などで、他校との“差別化”に取り組んできた。目を引くキャッチコピーはプロではなく自前でつくっているというから、PRのコンセプトがしっかりしているのだろう▼13の学部を抱える総合大学。同窓会員約45万人は全国の大学で4番目。以前からスポーツでは関西の強豪で知られていた。野球や相撲、ボクシングは著名なプロを何人も輩出してきた▼今年の入学式は、ともに卒業生のつんく♂さんがプロデュース、競泳の寺川綾さんが司会を務めるという。話題には事欠かない。だが、大学にとって最も大事なのは教育・研究の質。そこのところがきちんと受験生に伝わってほしい。(T)


3月24日(月)

●サッカーJ1で史上初となる無観客試合が23日、埼玉スタジアムで行われた。浦和レッズ対清水エスパルスという人気チーム同士の対決で、普段なら3万人以上の動員が見込める黄金カードのはずが、見渡す限りの空席という異様な雰囲気の中でゲームが進められた▼今回の無観客試合は、浦和のサポーターが人種差別的な横断幕を掲げたことと、球団側がそれを放置したことに対する日本サッカー協会からのペナルティ。海外では何度か事例があるが、国内では前代未聞だ▼この特別な状況下においても両チームの選手は集中力を切らすことなく、白熱した激しいプレーを繰り広げた。前半に19分に清水が先制すると31分に浦和が追いつき、そのままドローで試合を終えた▼浦和のペトロヴィッチ監督は試合後のインタビューで「ホームゲームで観客のいない試合を戦うのは難しかった」とサポーターの重要性をあらためて指摘した▼問題の発端は、熱狂的な一部のサポーターの暴走ではあるが、球団側が有効な対応策を取っていれば、ここまで大きくならなかった。比較的おとなしいと言われるコンサドーレ札幌のサポーターに関しても、日ごろからの綿密な対応が求められる。(U)


3月23日(日)

●昨年末に急逝したミュージシャンの大瀧詠一さん(享年65歳)のお別れ会が21日に東京都内で開かれた。大勢の音楽仲間とファンが別れを惜しんだ▼大瀧さんの作品で最も有名なのは1981年に発表された「A LONG VACATION」。親しみやすいメロディーに凝ったアレンジは斬新だったが、どこか懐かしい雰囲気も。ロック好き、ポップス好き、歌謡曲好き—ジャンルを問わず、多くの若者に受け入れられた▼当時はデジタルプレイヤーはおろか、MDさえ登場しておらず、大半はレコードを買ってカセットテープに録音して何度も何度も聴いた人が多いはず。筆者もそう。30年以上たつが、今でもたまに聴きたくなる▼ドライブのBGMとしても“定番”だった。「雨のウエンズディ」や「カナリア諸島にて」は実に運転に合っていた。松田聖子や薬師丸ひろ子、森進一、小林旭に提供した楽曲も大ヒットした。どの曲にも“大瀧節”が感じられた▼1曲1曲が凝っているのはもちろんだが、アルバム全体としてもストーリー性があった。1曲目を聴き始めたら、最後まで聴きたくなる。1曲単位で切り売りするデジタル時代にはないアナログ時代こその“巨人”だった。(T)


3月22日(土)

●第1位は平成7年から起きた「地下鉄サリン事件などのオウム真理教事件」、第2位が3年前の「東日本大震災」、第3位が昭和47年の「あさま山荘事件」、第4位が昭和43年の「3億円事件」…▼警視庁が創立140年を記念して職員アンケートで選んだ、この100年の間に起きた歴史的な出来事ランキング。対応に苦慮し、組織としても大変だったことばかりだが、いずれも昨日のように蘇ってくる▼それは個人的にも。地下鉄サリン事件発生時、入ってきた第一報は東京の地下鉄で異臭騒ぎだった。それがただ事ではないとなって、新しい情報を待って夕刊を何度も作り替えた記憶がある▼さらには戦後間もなく起きた帝銀事件や下山事件、60年安保(昭和34年ごろ)や学園紛争(昭和41年から)、よど号ハイジャック事件(昭和45年)、阪神淡路大震災(平成7年)、秋葉原無差別殺傷事件(同20年)など▼リストアップされた100件の写真や資料は、5月6日まで東京中央区の警察博物館で展示されている。治安がいいと評価されている我が国だが、こうして振り返ると、そう言ってもいられない。事実、凶悪事件や大事故、大災害が後を絶っていない。(A)


3月21日(金)

●1月1日現在の公示地価で、東京、大阪、名古屋の3大都市圏の平均地価が6年ぶりに上昇に転じた。リーマンショック前の2008年1月以来の上昇。札幌も住宅地と商業地で同様に上がり、地方都市にも波及している▼大都市圏の上昇の背景には、土地取引の活況や再開発などがある。20年の東京五輪で競技施設が建設される湾岸エリアでは、マンションの売れ行きが好調という▼函館や道南はどうか。上昇した地点はゼロだが、下げ幅は縮小し、函館では下げ止まりや底入れ感が見えてきた。ビル建て替えや菓子工場の建設などが進むJR函館駅前のWAKOビルは唯一、前年と同じで、再開発効果が見える▼2015年春に北陸新幹線が開業するJR金沢駅周辺は、10%以上上昇した。北海道新幹線の青函開業はその1年後だが、アクセス列車が到着する函館駅前の地価が横ばいとなったことは明るい材料だ▼投機マネーが流入し、狂乱の地価となったバブルの再来は困るが、土地取引がないと住宅建設や家具購入などの大きな消費に結びつかない。新幹線開業で人やモノを呼び、地域経済や市民の懐が温まり、少しでも土地が動くような効果を期待したい。(P)


3月20日(木)

●言うまでもなく、今はインターネット社会。ショッピング、バンキング、各種申請…インターネットでできることが急速に拡大している。だが、まさかベビーシッターまでがネットで手配できるとは想像もしていなかった。しかも、それが最悪の事件を招いた▼埼玉県内のマンションで東京都内の2歳の男児の遺体が発見された。この男児を含め、2人を預かっていた20代のベビーシッターの男が逮捕された。この子の母親はインターネットのサイトを通じて子どもを預けたという▼核家族化が進み、地域社会とのつながりが希薄になっている現代。身近な「顔見知り」が減り、保育所や託児所にも預けられず、ベビーシッターしか頼れない。そんな悩みを抱えている親が増えているとも受け取れる▼問題はそのベビーシッター。公的な資格はなく、国も実態を詳しく把握していなかった。需要に後押しされ、子育て界の「すき間産業」として、知らぬ間に“成長”していたのか▼もちろん今回の事件はレアケース。真面目に取り組んでいるベビーシッターが大半なのは分かるが、誰でも簡単にできるというのはある意味恐ろしい。信頼性を担保する仕組みが必要ではないか。(T)


3月19日(水)

●「映画史上最も有名な6分間」といわれているのが「戦艦ポチョムキン」のオデッサ階段の虐殺。泣き叫ぶ赤ちゃんを乗せた乳母車が母親の手を離れて階段を落ちていく…▼109年前、ロシア黒海艦隊の戦艦の反乱を描いた映画。一方、帝国時代に女帝の側近のポチョムキンがロシア・トルコ戦争で支配下におさめたクリミア半島をロシアに併合。しかし、60年前にウクライナの管轄下に▼大国の緩衝地帯であるウクライナは大国間の抗争に左右されてきた。そのウクライナに欧米寄りの新政権ができた今、プーチン大統領は6割超のロシア系住民を守るとロシア軍を動員した▼「国際法に違反する」という欧米にプーチン大統領は「合法」と主張し、ロシア編入の是非を問う住民投票で大半から編入同意を得た。「主権を持つ独立国」と宣言したものの、まさにロシアの1世紀前の再現▼ソチのパラリンピック閉会式に出現した「不可能は可能にできる」の巨大電光文字は、クリミアの領土併合にふさわしくない。タタール人は「民族衝突に発展する」と嘆く。米露の空母が地中海に展開し軍事的な威嚇合戦も。ポチョムキンの「オデッサの虐殺」はご免だ。(M)


3月18日(火)

●受かった人は喜びの雄叫びを挙げ、落ちた人はひっそりとその場を後にする。大学や高校の合格者発表の掲示板の前は、残酷なほどに明暗が交錯する。だが、その光景も消えるかもしれない▼合格者名は校内に掲示という形が一般的。高校の場合は、多くの人が自宅から近いこともあって親や友だちと直接見に行き、足を運べない大学の場合は、かつての時代、電報の「サクラサク」を待った▼その掲示板の発表も20年ほど前から、個人情報として名前から受験番号に。意味がないと新聞は名簿の掲載をしなくなったが、それでも掲示板は健在。大学などで定番の風物詩でもある、あの胴上げも途絶えていない▼それに代わる発表手段がなかったからだが、脅かす存在が出てきた。インターネットである。掲示板から取って代わっておかしくはない。既に現実。キャンパスの工事を理由に、今年の東大がそうだった▼そのしわ寄せを受けたのは胴上げ。主役がいないのだから仕方ない。学生有志が行動を起こした。「自分たちが体験させる」。ツイッターなどで合格者に呼びかけ、駆けつけた約200人に行ったという。胴上げは合格発表に付きもの…心情的には分かる気がする。(A)


3月17日(月)

●世の中はダウンサイジングの時代。車も家電も携帯電話も、機能を向上させながら小型化が進む。まちづくりはコンパクトに、企業や行政も、仕事の効率化で組織のスリム化を図る。社会の変化に合わせた対応は重要だ▼団塊世代が75歳以上となる「2025年問題」への備えが課題となっている。函館市の場合、現在27万4千人の人口が25年には22万8千人となり、30%の高齢化率は36・7%まで上がるという推計がある▼高齢化の進展で医療や介護の問題はさらに切実になるだろう。住み慣れた地域で安心して暮らしていくために、医療や福祉サービスを持続させ、地域全体で高齢者や弱者を支えていくことが求められる▼働き手(15〜64歳)もざっと3万8千人減って12万5千人に。労働力の減少は、産業の衰退や税収減につながりかねない。だから早急に、人口減に対応した社会システムを編み出さなくてはならない▼ダーウィンは「強いものや大きいものが生き残るのではない。変化できるものが生き残る」と言った。確かに恐竜は絶滅した。厳しい時代を生き抜くため、ダウンサイジングに適応できるような英知の結集と進化を、函館から遂げていきたい。(P)


3月16日(日)

●サッカーJ1の浦和レッズに対し、ホームゲーム1試合を観客を入れずに行う「無観客試合」とする制裁処分が下された。先日の試合で、人種差別が疑われる「JAPANESE ONLY」という横断幕が掲げられたことが発端で、国内では前代未聞の処分となる▼浦和といえば、Jリーグの中でも最も熱いサポーターを有することで知られ、2006年以降は連続して年間の観客動員1位を記録している▼その一方でサポーターによるトラブルも数多く、スタジアム内外での暴力事件などによって、さまざまな処分を受けてきた。しかし、今回の人種差別問題はその意味合いが異なる▼今、世界のサッカー界が最も厳しく目を光らせている事柄で、選手や監督が差別的発言によって出場停止や解雇などの処分を受ける例も少なくない。W杯を直前に控えたピリピリしたこの時期だけに、厳罰を与えられるのは当然だ▼特に問題視されたのは、多くの人たちから横断幕の存在を指摘されながら、チーム側が速やかに撤去しなかったこと。「もし海外で奮闘する日本人が、同じような状況に置かれたら」と想像力を働かせれば、おのずと適切な対処ができたはずだ。(U)


3月15日(土)

●新たな万能細胞として理化学研究所の小保方晴子さんが発表した「STAP細胞」の論文が揺れ動いている。祖母からもらった勝負服の白い「かっぽう着」が色あせて…▼日米研究チームリーダーの小保方さんが英科学誌に発表した論文によると、マウスのリンパ球を弱酸性の溶液に浸すという簡単な手法で万能細胞の作製に成功、生物学の常識を覆す成果となった▼しかし、画像や表現に不自然な点が指摘された。STAP細胞が胎盤に変化した画像が別の実験の画像に似ており、DNA分析の画像に加工したような跡があり、実験方法の説明文も他の論文とほぼ同じなど▼小保方リーダーのチーム以外、STAP細胞を作製する再現実験は成功していないという。共著者の1人が「データを再検証して再投稿すべきだ」と論文の撤回を呼びかけていた▼理研は「データの取り扱いなど不適切な点があった」と謝罪したが、多くの共同研究者がいながら論文提出前にチェックできなかったのか。論文が撤回されたとしてもSTAP細胞の存在否定にはならない。小保方リケジョは真実を明らかにして、新しい勝負服かっぽう着で夢の万能細胞に挑戦してほしい。(M)


3月14日(金)

●1万年にわたり平和が続いた縄文時代。狩猟や採集など、自然の中で生活を完結した。必要な分だけ取るため貧富の差がなく、支配と被支配の関係が生まれなかった▼津軽海峡を挟んで北海道と北東北にも、特色ある縄文文化が生まれた。寒流と暖流が交差する海峡で生命を育む海藻が育ち、沿岸は漁業資源の宝庫に。両地域から出土する装飾品のヒスイからは、海峡を往来する活発な交流があったこともうかがえる▼先に開かれたシンポジウム「津軽海峡圏の縄文文化」では、こうした独自性が次々と紹介された。キーワードは「津軽海峡圏」▼「北海道と北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録は見送られたが、今一度、この地域の縄文の特色についてストーリー性を探ってみてはどうか。2008年、落選した平泉も「仏国土」「浄土思想」というテーマ性を持たせ、3年後に世界遺産登録を果たした▼西暦が始まって2千年。宗教や民族間の対立が続き、支配者は力で領土を広げてきた。産業革命を経て、現代は金融や経済が競い合う社会。こうした時代だからこそ、平和を維持し、自然と共存した縄文の精神は、新たな価値観として世界に発信できるだろう。(P)


3月13日(木)

●「海の日」があって「山の日」がないのはおかしい。そんな短絡的な発想ではなかろうが、現実に制定を進められている話。超党派の議員連盟が今国会に祝日法改正案の提出へと動いている▼あまり知られていないが、一部ながら独自に「山の日」を制定している府県がある。例えば、山梨県で8月8日を「やまなし山の日」としているほか、群馬県は10月第1月曜日、大阪府が11月第2土曜日など▼「山がもたらしてくれる恩恵を知り、親しみ、素晴らしさと楽しさを体感してもらう機会として…」。登山愛好家らの団体がかねて制定を求めていたもので、その日として選ばれたのは8月11日▼国民の祝日が現在、年間15あるが、6月と8月は国民の祝日がない。ということで、夏山開きの多い6月上旬を有力視する向きもあったが…。夏の帰省時期がよかろうと、お盆前のこの日に落ち着いたという▼いつが妥当か、そこに多々議論があっても、祝日が増えることに反対する人はいまい。「山の日」を設けることにも意義はある。大事なことはどう啓蒙(けいもう)していくかであり、制定の趣旨を形骸化させないための方策。再来年が想定される法律の施行前はもちろん施行後も。(A)


3月12日(水)

●雇用と税収(所得税)、年金問題は密接不可分の関係にある。総体所得は雇用人口に比例し、税収は増えて年金財政もプラスに作用する。雇用が鍵を握ると言われる理由もそこにある▼我が国では正規雇用が当たり前の時代が長かった。その是非はともかく、今や契約や派遣などの形態が台頭し、さらに生産拠点を海外に持つ企業の増加などもあって、雇用を取り巻く環境が落ち着きを失って久しい▼経済はグローバル化している。販路を海外に、ならば現地で生産を、人件費も安い。円高が続いてきたこともある。企業にとっては当然の選択だが、現実はかなりの実態に。内閣府の調査がそれを教えている▼2012年度実績で、製造業のうち海外生産をしている企業の割合は、すでに7割レベルの69・8%という。もう一つ、生産額に占める海外比率をみると、20・6%。実に5分の1までになっている▼少子化が進み、将来的に労働人口は減る見通し。一方で年金財政は確保しなければならない。それを考えると不安がよぎるが、解決策は経済の持続的発展しなかい。アベノミクスが名実ともに道を切り拓いていけるのか、一つの関門である消費増税の4月が迫っている。(A)


3月11日(火)

●姥が開いた江差の草庵が鴎島からの虹のような光に照らされ、翁から小瓶をもらった。姥が瓶子の水を海に注ぐと、海水が白色にかわり、鯡(にしん)が群来(くき)、人々を飢えと寒さから救った…(姥神大神宮の由来)▼素人のくせに漁場の船頭になった江差の繁次郎。鯡が来て大あわて。沖から浜にかける手網を反対に沖へかけた。「しまった」と思ったが、なんとこの網に陸に押し寄せた鯡が突っ込んで大漁…(江差の昔話)▼北前船のニシン交易で栄えた桧山沿岸から群来が遠ざかって約100年。幻の魚と言いながら、70年ほど前の江差の食卓にニシンがあったのを覚えている。2、3年前から懐かしい群来の風景が見られるようになった▼先月、江差と上ノ国で64匹が網にかかった。魚卵が熟した雌を人工授精させて約60万の受精卵を確保。体長5センチほどに育ててから、早ければ5月にも放流する▼今年は桧山沿岸の漁協と自治体が連携して、10万匹を放流する計画。自然の稚魚も発見されている。姥神大神宮では体長2メートルの「ニシンのぼり」の販売が始まり、江差の空を元気に泳ぐ。姥の水が白色にかわり、繁次郎の網に突っ込んでくる「春告魚」が待ち遠しい。(M)


3月9日(土)

●ゴーストライター問題が大きな波紋を巻き起こしている作曲家の佐村河内守氏が7日、騒動発覚後に初めて記者会見し、自ら謝罪した。会見内容にいろいろな感想はあるが、気になるのは世に出た楽曲の行方▼会見場に現れた佐村河内氏の姿に驚いた。長髪にサングラスという芸術家然とした以前の風貌が一変。どちらが“大作曲家”にみえるか、と問われれば、誰もが騒動前と答えるはず。イメージは怖い▼耳が聞こえないという障害も、佐村河内氏の名声を高めるのに一役買った。「現代のベートーベン」と評されたのがそのためだからだ。その障害も3年前から回復していたとの釈明。本人に関する情報が次々と書き換わっていく▼昨年、佐村河内氏の曲を生で聞いてみたくて、函館市芸術ホールに足を運んだ。高嶋ちさ子さんのヴァイオリン演奏に感動したのを思い出す。裏切られた気分はするが、曲と演奏は悪くなかったと思う▼音楽は主観的な芸術だ。聴く側の好みや心理状況が楽曲の評価を左右する。以前の佐村河内氏のイメージが、曲の価値を必要以上に高めたのは確か。だからといって、うそがばれたら曲の存在価値はゼロなのか…芸術は難しい。(T)


3月8日(金)

●まもなく東日本大震災の「3・11」がやってくる。まだ約10万人が仮設住宅暮らしで、要介護認定を受ける高齢者や「震災関連死」が増えている。いつ家族団らんが戻ってくるのか▼震災後、狭い仮設住宅での生活や避難先での引きこもり、外出する機会も減って…。特に高齢者は心身とも機能が落ちて、歩行困難や寝たきりになるなど、生活不活発病が心配されている▼やっとなじんだ仮設から他の仮設に移動する高齢者も。このためか、岩手、宮城、福島3県の42市町村で要介護認定を受けた高齢者は4年で20%超の2万人も増えたという。特に福島原発周辺の町村は50%を超える増加率▼1664人。震災と原発事故後の避難生活で体調悪化し「震災関連死」した福島県民の数。震災が直接原因の死者数を超えた。同県だけでも13万人超が避難生活。放射能におびえ、不安とストレスを抱えながら…▼宮城県内の仮設住宅に家族を残し金沢市に単身赴任、高速バスの衝突で死亡した高校教諭も震災関連の悲劇。子供の卒業式と妻の退院のため帰省していた。福島原発では作業ミスによる超高濃度の汚染水漏れが続く。避難先で無念の死を遂げた被災者の思いを忘れてはならない。(M)


3月7日(金)

●おいしそうなメニューがビジュアルに並び、希望の品を次々と注文できるタッチパネル。函館市内でも回転ずし店や居酒屋などで普及している。子どもだけでなく大人にも人気だ▼店員を探したり呼んだりせず、指先で注文できるのがメリット。会話なしの注文は味気ないとの声もあろうが、普及の背景には利用客の支持がある。パソコンで国内外から商品を買うのが当たり前になった今、テーブルと厨房(ちゅうぼう)の間でオーダーするシステムがあってもおかしくない▼函館朝市では、えきに市場内に外国語のタッチパネル設置を始めた。外国人観光客を案内する際に壁となるのが言葉の違い。台湾、中国、韓国、英語の4つの言語に対応し、利用者に基本的な案内ができる▼外国人観光客の姿は、今や日常の光景となった。えきに市場も「台湾などの外国人観光客が来なければ商売にならないほど」と語り、受け入れ環境の整備に力を入れる▼函館市は、近年増加しているタイなど東南アジアからの集客にターゲットを移す。経済発展が続く新たな市場から観光客誘致を図る狙いだ。市の誘致と朝市のような取り組みが進めば、官民の連動による観光振興のモデルケースになる。(P)


3月6日(木)

●世の中、善し悪しの判断が分かれることは多々ある。個々人の思いや考え方、価値観が違うからだが、どっちの判断も間違っていない、となれば、話はややこしくなる。親子関係も然り▼親離れ、子離れの時期が遅くなっていると言われるが、他人がとやかく言う筋でもなければ、言われる故(ゆえ)もない。勝手でしょう、と言われればその通り。だが、それも程度次第で、東北大学の入試で起きた問題の場合はどうか▼付き添う親が多過ぎて、受験生が開始時間までに大学へ向かうバスに乗り切れず、試験時間を30分繰り下げる事態になったというのだ。大学受験への親同伴が珍しいことでない現実が、こんな形で明らかに▼(親は)何のために、(子が)心配だから。そこに理屈はないが、ただ一つ言えるのは、かつての時代はなかった現象ということ。しかも入試ばかりの光景ではないようで、大学生の就職セミナーでもなんだとか▼紛れもない現代の社会現象であり、背景に見えるのは親子関係の密度が濃くなっている現実。善し悪しは別として、そう遠くなく、これが当たり前で疑問を感じなくなるであろうことは想像に難くない。時代は変わった…改めて実感させられる。(A)


3月5日(水)

●ナイチンゲールが従軍した19世紀の「クリミア戦争」。英仏露が激突した悲惨な戦争。ナイチンゲールは看護婦ら36人を率いて戦場へ。多くの傷病兵を元気づけた▼160年後、親欧米派が権力を掌握したウクライナの政変をきっかけに、ロシアはクリミア自治共和国に「ロシア系住民と黒海基地の権益を保護する」と数多くの兵士と装甲車を送り込み、事実上の占拠▼クリミア半島の人口200万人の6割はロシア系。政変後、共和国は領内の平和と平穏を守るためロシアに支援を求めた。欧米は「ウクライナの領土の一体性を尊重すべき」と強く反発▼新首相もロシア系の住民に対し「ロシア語を使う権利は憲法で保障されている」とウクライナ語の使用を強制しないと約束。国連で支援を訴えているが、常任理事国のロシアが拒否権を持っており難しい▼ソチで週末からパラリンピック。クリミアと直線で300㌔もない。一方で障害者のスポーツの祭典、片や装甲車が駆け回る。「クリミアの天使」と呼ばれたナイチンゲールは「天使とは美しい花をまく者ではなく、苦悩する者のため戦う者」という言葉を残している。悲惨な「クリミア戦争」を再現してはならない。(M)


3月4日(火)

●北海道のピッチはまだ雪の下だが、Jリーグが開幕した。コンサドーレ札幌は2日、アウエーで強豪のジュビロ磐田を撃破。白星スタートを切った▼磐田戦で思い出すのは、古い話だが岡田武史監督の下でJ1再昇格を果たした2001年。当時のJ1は2シーズン制だったが、その前期。アウエー戦の後半ロスタイムだった。ゴールキーパーのロングフィードを受けた高原直泰選手のゴールで追いつかれ、結局延長Vゴール負けを喫した▼この試合まで札幌は上位争いをしていたが、この負けで勢いが止まった。その年は何とか残留できたが、翌年は降格。上がったり、下がったりの波は今も続く▼あのとき勝ちきっていたら、スタートの勢いが続き、チームの歴史は変わったものになったかも…。スポーツに「たら・れば」はないが、そう夢想したくなるくらい悔しい負けとして記憶に残っている▼その札幌が今回は逆に磐田に一泡吹かせた。日本代表経験者4人を揃え、昇格レースの最右翼と前評判が高い磐田。そこに勝ちきったのはサポーターに何よりのプレゼント。長いシーズンがこのままいくとは考えづらいが、ぜひ今年こそはたくさんの夢を運んでほしい。(T)


3月3日(月)

●今さらこの話題を取り上げるのも気が引けるが、森喜朗元首相、いや、東京五輪・パラリンピック組織委員会会長による浅田真央選手への「大事な時に必ず転ぶ」発言は、あらためて文脈を読み返しても、悪口や陰口の域を出ていない▼これに対して「発言の一部を抜き出し、マスコミが意図的に悪い印象を与えるように文章を操作したねつ造だ」との声が少なくないのには驚かされる。むしろ発言の全容に目を通すと、五輪の責任者にあるまじき、さらなる失言が次々と浮かび上がってくるばかりだ▼これに対して浅田選手の対応は見事としか言いようがない。「もう終わったことなので、なんとも思っていない。ああいう発言をしたことを(森氏は)後悔しているのでは」▼仮にも首相経験者が、20代の女性に気遣われていること自体、情けないが、その返答が「孫にも怒られた」としながら、反省はするけど後悔していない」のだから、開いた口がふさがらない▼いずれにしても浅田選手が気にしていないというのだから、これ以上第三者が蒸し返す問題ではあるまい。ただ、彼の指揮の下で選手たちが気持ちよく参加できる東京五輪が実現できるのか、不安でならない。(U)


3月2日(日)

●弥生といえば「ひな祭り」の月。「姫君はもういつのまにやら雛を並べて、忙しそうにしていらっしゃるのでした。三尺の御厨子一具にさまざまの品をお飾りつけになり…遊んでいらっしゃるのです」▼源氏物語の一節で幼い姫君が無心に雛遊びをする様子。昔から親鳥に対して「ひな鳥」、実物を小さくして「ひな型」というように、小さいものを「ひな」と呼んだ。雛人形は人間のけがれを払うため川や海に流したのが起源▼古野柳太郎さんの企画展「地元紙で綴る函館の雛祭りの歴史」によると、箱館奉行所では桃の節句行事に雛見物の女児でにぎわったという。函館高等女学校(現函館西高)では大正11年から京雛を飾り、ひな祭りを楽しんでいる▼北海道の現代雛はジャンプ女子の小柄な高梨沙羅さん。「ソチ五輪で最初に浮かんだのは感謝という言葉。ベストをつくすことができず、申し割れない」と、けなげなスキー雛。道民が育てた「ひな」だ。W杯の雛壇でも羽ばたく▼十二単に身を包んだ雛人形は古今問わず美の象徴。開拓期の松前や江差では豪商らが北前船で京雛などを取り寄せた。江差のいにしえ街道でも「北前ひな祭り」を開催、100セットを展示し、女児の健やかな成長を願っている。(M)


3月1日(土)

●雪は楽しみも与えてくれる一方で、災害を引き起こし、除雪には労力、多額の費用がかかる。冬のお荷物とも映るが、その雪を逆に活用しよう、そんな試みが食品の貯蔵などの分野でも広まっている▼と言っても、新たな発想という訳でない。今の時代、食料の冷蔵冷凍などは機械保存が当たり前のようになっているが、かつては家庭でも越冬用野菜の土の中、雪の中保存は珍しいことでなかった▼企業サイドが改めて注目し始めたということ。酒造メーカーなどの実用販売は知られるところだが、品質保持の効果はこれまでも数々取り上げられている。つい最近も新潟県上越市からの報告があった▼日本酒、米、食肉、リンゴ、コーヒーについて3年間行った雪中貯蔵の実験結果だが、答えは「“雪中貯蔵庫”に効果あり」。日本酒、コーヒーは特に顕著だったそうだが、5品目とも保水性が増すなどの効果が…▼一時的な期間とはいえ、機械冷蔵より優位性が確認されたという。風の影響はなく、低温で、湿度も高い。しかも二酸化炭素も出ないときているのだから、文句のつけどころはない。残る課題はコストの解決。環境対策の視点もある、国の強い後押しがあっていい。(A)