平成26年6月


6月30日(月)

北海道生活の利点を聞かれれば、私は「〝梅雨〟〝ゴキブリ〟〝通勤ラッシュ〟が無いこと」と自信を持って答える。一度この快適さを経験すると、元の生活に戻ることは難しい。▼ところが今年の6月は、どう考えても梅雨としか思えない天候が北海道を襲った。函館周辺では以前から「蝦夷(えぞ)梅雨」と呼ばれる、梅雨もどきの現象が知られているのだが、今年の長雨はそんなまがい物とは明らかに質が違う▼函館では実に6月6日から同20日までの15日間、欠かさず雨が降り続けた。さらに札幌では18日間、釧路では20日間と言うから、青空の下にさわやかな風が吹き抜ける北海道の初夏のイメージは、完全に吹き飛んでしまった▼そういえば、今年の冬に関東甲信越地方を中心に未曾有の豪雪被害が発生したのは記憶に新しい。東京の知人にその時の写真を見せてもらったが、自宅の車庫の屋根が雪の重みで崩壊している様子にあ然とさせられた。▼北海道に梅雨があり関東で大雪が降る。最近このような異常気象が頻発しすぎて、なにが正常な状態か分からなくなってきた。今年の3カ月予報によると函館の夏はほぼ平年並みの気温らしい。そうあってほしい(U)


6月29日(日)

我慢の限界…またまたガソリンなど超高値が続く燃料の話。個人は自衛策に走り、結果として需要が減退し始めた。その一方で、節約の仕様のない業種の企業は経営を直撃されている▼なのに、政治の場からは何の反応もない。ガソリンを例にとっても、リッター150円でさえ高値感を拭えないのに、このところは160円台。「170円台も覚悟しなければ」という話も、冗談に聞こえてこない▼直接的な要因は、産油国の政情不安による原油高。それは分かる。だが、仕方ない、では無策のそしりは免れない。その対策は経済政策でもあるからだが、少なくともトリガー条項の部分解除などの議論はあって然るべき▼「ガソリンの平均価格が3カ月連続160円を超えた場合、揮発油税の特別税率分(リッター25・1円)を停止する」という条項だが、東日本大震災後は復興財源確保の観点から凍結されている▼言うまでもなく、復興は最優先施策であり、それを否定するものではない。ただ、一時的に全額でないまでも、例えば半額を解除するとか…それだけで150円レベルまで戻る。このまま高値状態が続くなら、物価への影響は必至。対策を求めずにはいられない。(A)


6月28日(土)

日本の少子高齢化は止まることなく、しかも人も仕事も関東に集中している。若い世代が仕事のない地方を離れて、出生率が全国一低いといわれる東京に吸い込まれていく▼東京で派遣会社を経営する本道出身の女性社長に久しぶりに会った。「安倍政権は『女性が輝く日本』を掲げ、就労促進や子育て支援をうたっているのに、女性議員を侮辱、セクハラするなんてとんでもない」と怒り心頭▼都議会で塩村文夏議員が妊娠や出産への支援策について一般質問した際に「自分が早く結婚すればいい」「産めないのか」などのヤジが飛んだ問題。5日後に男性議員が「結婚すればいい」のヤジだけ認め謝罪▼「日本の男女平等政策は少し遅れている。女性蔑視もはなはだしい」「女性への対応を考え直さないと、日本は悪い国だと勘違いされてしまう」「五輪で世界の目が集まっているのに大きな恥」などと、海外メディアも厳しい▼「不適切なヤジは1人ではない」の訴えにもかかわらず、都議会は「信頼回復、再発防止に努める」とする決議案であっさり幕引き。他のヤジを飛ばした議員も名乗り出てこそ、子育て支援の充実、女性が働きやすい社会が実現する。(M)


6月27日(金)

日本代表が目指した攻撃的なサッカーは、最終戦こそその片りんをみせたもの、結局は世界を相手に通用しなかった。サッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会で、2敗1分で予選敗退した日本に対し、そんな論調が大勢を占めている。ザッケローニ監督の退任も決まり、日本サッカーの一つのサイクルが終わった▼ヨーロッパの名門チームに在籍する選手が名を連ね、強豪国相手に好勝負を演じてきたことなどから、今大会の日本代表は、かつてない期待を集めていた。この結果は監督や選手だけの責任ではなく、日本サッカー協会の強化方針も抜本的に見直す必要があるだろう▼将来を見据えたジュニア世代の強化も必要だ。函館からは中学生のクラブチーム「スプレットイーグルFC函館」が昨年、一昨年と全国の舞台で活躍している。こうした選手たちが将来にも期待したい▼サッカーファンにとって、今回のW杯は面白い。得点数が多く、逆転劇も目白押し。世界のスーパースターたちが活躍するシーンも目立つ。決勝トーナメントが始まるこれからが真のW杯といえる。しばらくは世界最高峰の戦いを純粋に楽しみたい。日本代表の4年後の捲土重来を願いながら…。(I)


6月26日(木)

規制されて当たり前に感じるのに、野放しに近い状態にある脱法ハーブ。乾燥させた植物の葉に化学物質を染み込ませたもので、麻薬に似た成分が含まれている。摂取すると健康被害のほか、意識障害や幻覚を引き起こす▼東京・池袋で暴走車が歩道に突っ込み、7人が死傷した。運転していた男は脱法ハーブを吸っていたと供述。警察は男を逮捕し、より罰則の重い危険運転致死傷容疑も視野に捜査している▼男は脱法ハーブを店で買い、車の中で吸ったという。なぜ手軽に入手できるのか。化学構造を少し変えることで、新しいタイプが次々とでき、規制をかいくぐるためだ。インターネットでも香やアロマなどと称して堂々と売られている▼対策として厚生労働省は、基本的な化学構造が同じ場合はまとめて規制した。薬事法も改正し取り締まりを強化しているが、それでもいたちごっこが続く▼快楽におぼれて自分1人が命を落とすのなら、まだいい。罪のない市民が巻き添えになる不条理を許してはならない。危険性を社会が受け止め、規制や対策を強化していくことが必要だろう。警察庁によると、全国で昨年1年間に似たような事故が38件も起きている。(P)


6月25日(水)

今の季節、国道を車で走っていると、楽しみがある。それは通過する市街地で目に飛び込んでくる街路の花壇…植え方にも工夫があり、赤や黄、オレンジなど色鮮やかに彩られている▼ハンドルを握りながら思わず見とれてしまう所が多々。その様から「花いっぱい運動」という言葉が浮かんでくる。提唱者は小松一三夢さん(長野県)という人で、戦後の復興期…昭和27(1952)年だった▼「花をまちに植えることで世の中をあかるくしよう」。それが全国に広がって今に。古くて新しい言葉であり、取り組みだが、この60年ほど変わっていないのは、植え込みや除草などで住民が関わっていること▼この運動の大きな意義はそこにある。行政は段取りを、企業は資金や機材の提供を、そして住民は管理を…英国で発祥したグランドワーク(行政、住民、企業による環境改善)の考え方がそっくり当てはまる▼道東のある都市で今年度から市、会議所、町会連合会、賛同企業による全市的な取り組みを始めた。函館でも新道の花いっぱい道づくりの会をはじめ町会、商店街など個々の活動はある。それが企業を含め全市を挙げてとなれば…さらなる広がりが期待される。(A)


6月24日(火)

痛恨ドロー、自力突破は厳しく、決勝Tにかすかな望み…サッカーW杯で日本がギリシャ戦で引き分けた新聞の見出し。決勝進出は相手の結果次第に▼「ノーマークのシュートを外すんじゃない」「どうしてそこでボールを取られるのだ」—テレビの前で絶叫するサポーター。山形県の水族館のクラゲ占いでも何度やってみても勝敗はドローだった▼しかし、日本は礼儀では多くの点数を得た。コートジボワール戦の後、数百人の日本のサポーターがスタンドのゴミ拾いを行った。応援に使ったサムライブルーのポリ袋に入れて持ち帰った。その姿に賞賛の声が相次いだ▼ケニアからの報道によると、武装集団がホテルなどでW杯を観戦していた市民を襲撃し、48人が死亡した。ナイジェリアでも観戦会場で爆破テロがあり、33人が死傷した。子どもも含まれているという。こんなテロによる“悲惨な試合”はご免だ▼決勝Tを決めるコロンビア戦は25日午前5時から。サムライブルーのシンボルのヤタガラス(八咫烏)は神武天皇を大和に導いた3本足の烏。必ずや勝利に導いてくれる。マナーだけではなく、試合も高得点だ。早起きして、テレビの前で声援を送ろう。(M)


6月23日(月)

江差線といえば、先月11日には木古内—江差間の廃線のニュースが全国的に取り上げられ、多くの人たちが別れを惜しむ姿が感動を呼んだ。ほとぼりが冷めないうちに、その江差線が再び注目されることになった▼といっても今回の舞台は廃線区間ではなく、本州と北海道をつなぐ大動脈である津軽海峡線としても知られる現役路線。それも脱線事故というから穏やかではない。2年前にもほぼ同じ場所で2件の脱線が起きており、地元住民からは「またか」というため息がこぼれる▼ここ数年頻発するJR北海道の事故だが、特に道南地域では短期間に脱線事故が集中。2012年以降だけでも、函館線での3件を含めて合わせて6件の事故が起きている▼また、これらの事故をきっかけにレール検査のデータ改ざんも発覚。現在、管理態勢を中心とした大幅な社内改革を断行しているJR北海道にとって、再び起きた事故は大きな痛手だ▼現場となった木古内—五稜郭間には、2年後の北海道新幹線が開通と同時に旅客列車は通らなくなるが、貨物列車は物流の要として走り続ける。2度とこのような事故を繰り返さないためにも、徹底的な事故原因の究明が望まれる(U)


6月22日(日)

人気タレントなどが街中で、一般人に写真を撮られたことの心境をブログなどで明かしている。「芸能人だから仕方ないとはいえ、お断りしているのに撮られた。残念」など悲しさをしたためている▼五稜郭築造150年記念イベント(15日)の一つ「ハコダテ幕末コスプレフェスティバル」では、参加したコスプレイヤーから「撮影前に一言かけることを呼び掛けてほしい」という要望が実行委にあった。取材記者も何組かの参加者に撮影を断られている▼函館のコンビニで「新聞のコピー禁止」と書かれているのに驚いた。「必要な部分だけあれば良い。コピーの方が安価だから」と言う客がいるという。別の店では「旅行誌のグルメ欄を携帯電話などで写真撮影する人もいる」という▼21日放送のテレビ番組で、「飲食店内で店主が客に対し、提供した料理の写真撮影を禁止することはできるか」の話題に、弁護士が「できる」と答えた。店のルールは店に決定権があるということである。禁煙も同じ▼写真撮影やコピーに関して「ちょっとぐらい」という考えからトラブルになることがある。コンビニでの例は、店の営業利益に損害を与え、著作権法違反になるだろう。買って読んでほしい。(R)


6月21日(土)

一本釣りのカツオをタタキにし、豪快に盛り付けた皿鉢(さわち)料理を本場の高知で食べた。カツオのほか、すしや山海の幸を惜しげもなく盛った大皿に、さあ食いねえという土佐人のきっぷの良さが見えた▼そのカツオの不漁が、西日本の各地で続いている。原因は諸説あるが、南太平洋の海水温低下による北上の遅れと、熱帯の産卵域での外国漁船による乱獲。黒潮にもまれて北上するカツオが、大きくなる前に一網打尽にされている恐れがある▼高タンパクで低カロリー、ヘルシーな魚食文化に世界が注目し始めた。世界各地で回転ずし店が続々とオープンし、人気の外食産業として成長している▼乱獲や混獲の反省から、世界はいま、水産資源をどう未来に持続させていくかが大きな課題となっている。クロマグロの漁獲制限など、わが国にとって厳しい現実はあるが、資源が枯渇しては元も子もない▼ウナギやマグロに続き、カツオも厳しい時代。「目には青葉 山ほととぎす 初鰹(がつお)」。江戸っ子が無理してでも食べた初ガツオの味は絶やしたくない。熱帯域での乱獲が原因ならば、国際的な機関による規制も必要だろう。このままでは秋の戻りガツオも期待薄か…。(P)


6月20日(金)

おかしな話だ。諫早湾干拓事業で海をせき止める巨大な門。国はハムレットのように「開けるべきか、開けざるべきか」と下手なサル芝居を演じているが、1日49万円の税金が消えている▼国が確定判決を守らず、開門しないことに対する制裁金の支払いが今月12日から始まった。開門を主張している佐賀県の漁業者ら49人に1日1万円(計49万円)を支払う義務が生じた▼一方、開門の差し止めを命じた地裁の決定に従わず開門した場合、開門反対派の営農者らにも1日49万円の制裁金を支払わなければならない。国は開門しても、しなくても、年に約1億8000万円の税金を使うことに▼「開けぬのなら制裁金を払え」「開けるのなら制裁金を払え」—。裁判所が出した真逆の命令。開門禁止を求められた裁判で国は「漁業被害があるから開門は必要」と主張すべきだった。3年前に高裁が干拓による漁業被害を認めている▼49万円は年金の平均額。公金で制裁金が支払われる前代未聞の話。漁民側は「これは税金。個人の懐には入れない。海の再生に使う」と話しているが…。漁業と農業の両立に向けて一歩も二歩も踏み出し、有明海のムツゴロウを安心させよう。(M)


6月19日(木)

開幕したユネスコの世界遺産委員会で、群馬県富岡市にある富岡製糸場の登録が決まる見通し。正式には「富岡製糸場と絹産業遺産群」として。地元の熱意が登録へと導いた事例として注目される▼技術伝習工女が支えた産業としても知られるが、その創業は明治5(1872)年。フランスから技術を導入し、高品質の生糸を大量生産するシステムを生み出した。昭和62(1987)年まで操業が続いた▼この産業遺産的な要素に加え、建築遺産としての価値も。繭(まゆ)倉庫が木材の骨組みの間に煉瓦を積み上げる「木骨煉瓦造」、操糸場には「トラス工法」など、貴重な建築技法が採られている▼世界遺産への登録が勧告された後の5月末、訪れる機会を得た。豪雪で建物の一部が倒壊していたが、そっくりそのまま生きた歴史の教科書。修学旅行か小学生の団体やツアーなど見学者が次々と訪れていた▼市街地にありながら保存の道を選んで今日に。ボランティアガイドの熱心な説明が印象的だったが、1時間半ほどの滞在で伝わってきたのは、都市財産を誇りとする地元の熱い思い。それは登録の原動力であり、登録を目指す他地域へのヒント…。見習うに値する。(A)


6月18日(水)

人事を巡る理事間の対立が取りざたされていた北海道観光振興機構の新会長に、北海道経済連合会前会長の近藤龍夫・北海道電力相談役が16日、就任した。道内経済界のリーダーを務めてきた近藤氏が、今度は観光振興の旗振り役を担う▼同機構が発足し、近藤氏が道経連会長に就任した2008年、札幌で取材に当たっていた。近藤氏や、今年2月に急死した同機構の坂本真一元会長には何度か直接話を聞いた。近藤氏は食のクラスター推進、坂本氏は海外観光客の誘致を力説していた。それだけに今回の会長人事には、個人的にも関心があった▼いうまでもなく函館にとって観光は基幹産業の一つ。市と国際観光コンベンション協会がまとめた13年度の観光アンケートから推計した経済波及効果は1554億円。函館に限らず、道内全体でも観光産業の発展は主要命題だけに、振興を担う組織が内部でもめていては心もとない▼近藤氏は道経連会長時代から、観光に関する施策にも力を入れており、中央政財界とのパイプや行動力・発信力には定評がある。就任の記者会見では観光基盤の充実や組織の改革を打ち出した。近藤氏のかじ取りに注目したい。(I)


6月17日(火)

「研究者の仕事は世のため」と祖母から贈られた勝負服の「かっぽう着」が色あせた。「STAP細胞はあります。200回以上も作製しました」という理化学研究所の小保方晴子さんの言葉もむなしい▼日本の再生医療研究はiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥京都大教授の研究に象徴されるように世界のトップレベル。理研も再生医療に実績を積み上げてきたが、STAP細胞問題で国内外の信頼を失った▼まず他人の論文の一部をそっくり利用するコピペ問題。STAP細胞の論文では学術などの世界でコピペがまん延している実態を浮き彫りにした。その学者にしか書けないはずの論文が、たちまち他人名義に…▼iPS細胞を超える論文を急いだため、データなどのチェックがおろそかになった。科学誌などへ論文を発表する際には厳しいチェックが必要なのに、成果主義を重視するあまり、検証する自覚に欠けていた▼黄色い壁、ムーミングッズに囲まれた研究室で、STAP細胞に胸を張った小保方さんは犠牲者だ。改革委員会は「理研の組織に欠陥があった」と解体を求め、提言した。再生医療研究を土台から建て直し、若い科学者の芽を摘むな。(M)


6月16日(月)

日曜の朝から多くの人たちがテレビの前に張り付いて声援を送った、サッカーW杯の日本初戦。アフリカの強豪コートジボワールを相手に本田が先制ゴールを決めたが、痛恨の逆転負けにため息が広がった▼1次リーグは4チーム中、上位2チームしか決勝トーナメントに進めないため、残る2試合を最低でも1勝1分でなければ敗退の可能性は高い。その対戦相手が世界ランク8位のコロンビアと、同12位のギリシャでは(日本は46位)、悲観的な見方をされるのも仕方がない▼ところで、今や日本国中が熱狂するW杯も、1990年代の初めまではサッカーファン以外に親しみはなかった。しかし、93年の二つの出来事が存在価値を大きく高めた▼Jリーグの発足と、日本がW杯への初出場を逃した「ドーハの悲劇」だ。「ドーハ」についてはここでは詳しく触れないが、Jリーグブームが最高潮に盛り上がっていた時期だけに、その衝撃は図りしれなかった。▼しかし日本はこの屈辱をバネに、4年後に悲願のW杯キップを手にする。「ドーハ」と違い1次リーグは始まったばかり。先輩たちが逆境から立ち上がった精神を忘れず、前を向いて突き進んでほしい。(U)


6月15日(日)

登山、山菜採りなど、山での遭難が増えている。警察庁が統計を取り始めて50年余になるそうだが、昨年は遂に2千件を超えて2172件。全国のどこかで1日平均6件起きていることになる▼そんなに多いのか、と驚く人もいようが、現実の話。事故の犠牲者は発生件数に比例すると言われるが、山も同じ。昨年の遭難者は、前の年に比べ248人増の2713人(うち死者・行方不明者は320人)という▼件数とともに過去最多だった。その中で際立つのは60歳以上の遭難で、ほぼ半数の46%を占めている。昔は本格的な登山での遭難が多かったが、形態、年齢層も様変わりしている現実を物語っている▼背景にあるのは登山者の裾野の広がり。富士山などに象徴されるが、それに伴って抱える課題も増えている。踏みつけによる植生への影響、ゴミやし尿の処理など山の環境維持…そして、この遭難対策も▼山に親しむ人が増えるのは望ましいこと。山を身近に感じる近道は、そこに身を置くことだから。本欄でも触れたように、再来年から8月11日が「山の日」として、国民の祝日に加えられる。遭難を減らそう…それも多々ある制定趣旨の一つにほかならない。(A)


6月14日(土)

今では珍しくなくなった億ション。分譲価格が1億円を超すマンションだが、わが国では1965年に東京・表参道に完成したコープオリンピアが第一号と言われている。名前は前年開かれた東京五輪に由来。自動車や鉄鋼産業が国の成長を支えた時代だ▼2003年には、六本木の再開発で六本木ヒルズが完成。赤坂には07年、東京ミッドタウンが開業した。何百万円もの家賃をIT経営者や高級セレブがポンと払い、部屋から見える東京タワーの夜景が“勝ち組”の象徴にもなった▼その東京ミッドタウンと並ぶ、東京一の高層ビル「虎ノ門ヒルズ」が開業した。森ビルが手掛けた複合ビルで、今後10年間で1兆円規模の再開発を予定している▼初の億ションが登場した時代から、社会は大きく変わった。半世紀前はみな貧しかったが、将来に希望を持って働き、子どもを何人も育て上げた。そして高度成長期から狂乱バブルの時代を経て、華やかなヒルズ族の誕生へ…。だが、社会の階層化が進んだ▼ヒルズはよくバベルの塔になぞらえ〝バブルの塔〟と呼ばれることがある。そんな呼び名が単なる揶揄(やゆ)に終わることを祈りつつ、首都の大型開発の行方を見守りたい。(P)


6月13日(金)

ニホンウナギよお前もか。アリストテレスは「ウナギは泥や湿った土の中にいるミミズから生まれる」と言った。プリニウスは「ウナギが岩に身をこすりつけると、削り取られて生きてくる」とも言った▼謎多きウナギは古代ギリシャやローマでは最高級のご馳走だったようだ。そのニホンウナギを国際自然保護連合が絶滅の恐れがある野生生物を指定する最新版の「レッドリスト」に加えたと発表した▼「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」という絶滅危惧種の3区分のうち危険度で2番目に該当。生息地が急減したことや過剰な捕獲を挙げ、環境汚染、海流の変化も考慮して、保全の優先度アップを期待する▼水産総合研究センターが稚魚をシラスウナギまで成長させることに成功し、水産庁の調べでは「今年のシラスウナギは豊漁で取引価格も下がり傾向」といい、店頭でのウナギ値下がりへの期待はあるが…▼ニホンウナギがレッドリストに指定され、各国が提案すれば捕獲規制対象になり、輸入には輸出国の政府許可証が必要で、商業目的の国際取引も禁じられる。ウナギの多くを輸入に頼る消費大国の日本にとっては痛い。ミミズに産んでもらおうか。(M)


6月12日(木)

道南百年の大計—と言えば、いささか大げさか。開業を2年半後に控えた北海道新幹線の駅名がやっと決まった。「新函館北斗」。名称への評価はともかく、これは開業への大きな区切り▼駅名に関しては、一時、函館、北斗両市の主張を“対立”としてあおるような空気が地元でさえあった。昨年、両市議会が相次いで名称決議をしたころがピークだったと思う。弊紙は4月14日付で、1面全面を使って両市議会議長へのインタビューを掲載し、互いの主張を通じ、対立ではないと紹介した▼駅名は重要だ。どこも自分の地名を付けてもらいたい。これには利害だけでなく、感情もからむ。両市の主張が異なったのは経緯を踏まえると当然だし、両市長らの会談で統一案にならなかったのも当たり前だ▼新駅名は「三方一両損」かもしれない。主張の一部は取り入れられたが、誰にとっても完璧な答えではない▼両市の中には、納得がいかない人も多かろう。だが、正式決定した今、何より大事なのは、両市が開業準備を一段と加速させ、力合わせて「新函館北斗」の名を全国にアピールすることではないか。駅名問題は11日で「ノーサイド」。一丸となって前に進みたい。(T)


6月11日(水)

函館港に入港した客船で最大のダイヤモンド・プリンセス号を見学した。圧倒的な迫力の外観以上に、内部の豪華さに度肝を抜かれた。まさに「別世界」の趣(おもむき)▼総トン数11万6000トン。戦艦大和の6万4000トン、タイタニックの約4万6000トンと比べても、破格の大きさ。乗客定員は2670人で、客室数1337。これに対し乗組員が1100人というぜいたくぶり▼船内に足を踏み入れ、まず感じたのは「匂い」。外国のホテルか免税品店のような匂いで、一気にリゾート感が高まる。内装もきらびやかで高級感がある。旅への期待が盛り上がる▼最上部にはプールと大型ビジョン。ここで夜に映画会を催す。この時期、サッカーW杯も中継するという。シアターやカジノ、アートギャラリー…。日本ツアー用に大浴場も設けられた。船内で退屈することはなさそうだ▼北海道とサハリンを回る9泊10日のツアーは、海側バルコニー付きのスイートでも繁忙期にハワイに行く程度の料金。これを高いとみるかどうかは考え方によるが、ひとつの旅行形態として定着しつつあるのは確か。今年、函館にはこのようなクルーズ客船が38隻もやって来るのだから。(T)


6月10日(火)

6月に入って間もなかったというのに、十勝や上川、空知など道内の内陸部で、最高気温が35度を超す猛暑日を記録した。かと思えば、その数日後は20度にも満たない日々…そして道外では豪雨▼こうした現実が、だんだん異常と感じなくなりそうだという。もちろん、それには温室効果ガスの排出量の削減などが図られなければ、という前提があってだが。それができなければ今世紀末には…▼環境省は先日、地域別に気候の変動を予測した結果を公表した。それによると、80数年後、我が国の平均気温は最大で4・4度上昇し、雨が降らない日が増える一方で、雨量が1・5倍から2倍になるのだと▼具体的に真夏日の日数をみると、札幌では年間で今の8日程度が1〜2カ月、0・1日の釧路は1カ月程度を数えるほどに。逆に北日本で最高気温が真冬日(0度未満)となる日は約3割減るそう▼一気にそうなる訳ではない。確かにそうだが、人間の健康ばかりか、農業は日照や雨量などで、漁業は海水温で影響を受ける。こうなる種をまいた、なおまいているのは人間社会。反省の上に立った行動こそ急務だが、対策の遅れが気にかかる。世界的に、残念ながら。(A)


6月8日(日)

7月の大相撲名古屋場所で注目の力士がいる。急死した先代放駒親方(元大関魁傑)の弟子だった若乃島と、元大島親方(元大関旭国)が発掘した旭大星(きょくたいせい)。ともに新十両で、旭大星は13年ぶりの道産子関取の誕生となった▼29歳の若乃島は突き、押しが身上。放駒親方が口説き落として角界入りした。魁傑は2度大関から陥落しても取り続けるなど、真摯(しんし)な土俵を務めた。その姿勢は理事長時代、八百長問題で大量の処分を敢行したことからもうかがえる。若乃島は悲報を乗り越え、活躍してほしい▼旭大星は旭川市出身の24歳。柔道で鳴らした少年を、元大島親方が何度も勧誘した。元大関旭国は相撲巧者で、食らいついたら離さないため「ピラニア」の異名をとった。狙った逸材から離れない姿は、土俵を下りても健在だ▼故郷に錦を飾った旭大星は、身長183センチ、体重132キロ。足技が得意で、粘り腰。稽古がつらくて部屋を逃げ出したこともあったが「やめなくて良かった」と涼しい目元で笑った▼北海道は大鵬、北の湖、千代の富士、大乃国など8人の横綱を輩出した相撲王国。旭大星にはしこ名通り、旭川から王国復活を開く大星となってほしい。(P)


6月7日(土)

わが目を疑うニュースがあった。文部科学省が、将来の宇宙計画として、国際協力による火星有人探査を掲げる案をまとめたという。日本が有人探査を標ぼうするのは初めて。しかもその先が火星というのだから…▼火星探査の歴史は意外に古い。アメリカのマリナーは1960年代から火星圏に到達し、写真などを撮影。71年にはソ連(当時)のマルス2号が墜落はしたものの着陸機を投下し、初めて人工物を火星表面に運んだ▼日本も1988年に「のぞみ」を打ち上げ、2003年に火星に接近したが、軌道投入はできず、1000キロ上空を通過しただけ。米、露だけでなく、ESA(欧州宇宙機関)や中国、インドも探査機を送り込んでいる▼だが、有人探査となると、話は別。何しろ火星は遠い。片道半年以上はかかる。その間の水や食料はどうする。宇宙放射線の影響も未知数。火星に無事着けたとして、現地滞在と帰還の方法も難題だ▼今年1月にアメリカで開かれた国際フォーラムでは、2030年代の火星有人探査が議論されたという。難しいミッションだが、クリアできれば科学技術の飛躍的な向上が期待できる。その舟に、日本も乗ろうとするのは心強い。(T)


6月6日(金)

1人の女性が一生に産む子どもの数を表す出生率が昨年度は1・43となり、前年度より上昇した。17年ぶりの水準というが、子どもを産む女性が都市部に流れており、地方自治体の「消滅危機」が迫っている▼地域が消滅する「消滅可能性都市」。人口の減少によって行政サービスが破綻する自治体だ。有識者らでつくる日本創成会議の試算によると「2040年までに896自治体が消滅する」という▼なんと全国の自治体の半数であることに驚く。根本的な原因は子どもを産む世代が都会へ流出してしまい、地方で子育てする人口が急減し、税収入も落ち込み、医療など社会保障が立ちゆかなくなる▼臥牛子の幼少時は「産めよ殖(ふや)やせよ」と子どもは一家に5、6人が普通。今、4人に1人が高齢者の時代を迎えて、国は「50年後に人口1億人の維持」を掲げて、政策に移すとしているが…▼北海道の「消滅危機」の恐れは200カ所超という。地元に魅力がなく、若者が出て、年寄りが残れば地域が消滅に追い込まれるのは当然。幸い、微増ながら出生率は上昇。子どもへの支援、男性の育児参加など環境整備しかないのだろうか。社会の老化は待ってくれない。(M)


6月5日(木)

JR西日本は先月末、大阪と札幌を結ぶ寝台特急「トワイライトエクスプレス」の運行を、来年3月で打ち切ることを発表した。函館・五稜郭での乗降が実現しないまま、その歴史を閉じることに▼さっそうとデビューしたのは1989(平成元)年の7月。運行時間22時間余…日本一の長距離旅客列車として君臨してきた。何事も速さが優先される時代に、提供してきたのは時間をかけることのぜいたくさ▼特に日本海に沈む夕陽を楽しむ可能性のある大阪発は人気を集め、個室は常に売り切れ状態。なのに、早々と廃止が決定した。北海道新幹線の開業まで1年を残して▼事情は分かる。車両の老朽化は更新すれば済むこと。豪華寝台ツアーが九州で評判にもなっている時でもある。だが、新幹線に絡む問題だけは避けて通れない。在来線(青函区間)を使用し、夜間は貨物があるから▼「北斗星」「カシオペア」(札幌—東京)「はまなす」(札幌—青森)も背景は同じ。廃止が検討されているとの情報が伝わってきている。残してほしいという動きもない。それよりも新幹線ということなのだろう。これも仕方のない現実か…残念ながら。(A)


6月4日(水)

全国で「いるはずなのに、いない子ども」が700人を超えている。神奈川県厚木市のアパートで白骨化した遺体で発見された5歳の男児もその1人。今年中学に入学するはずだった▼7年ほど前、母親はアパートを出て行った。父親は食事や水を与える回数を減らし、週に1、2度しかアパートに帰らなくなった。「このままでは衰弱死すると思っていた」と供述。5歳児は育児放棄で餓死した▼大量のごみが散乱した部屋で、男児は生きている時も、生きていない時も“独りぼっち”。「お腹すいた」という声は誰にも届かなかった。父親は「遺体が見つからないように」とアパートを借り続けた▼4月入学予定の男児の所在が分からず、児童相談所から警察に通報があり、亡くなってから7年たって発覚。いつも児童虐待や高齢者の行方不明が発覚するたびに、行政機関に対策を求めているが…▼いま世界で毎日、約2万5000人が飢餓で死亡。うち4分の3は5歳未満で、5秒に1人が飢餓で亡くなっている。独居高齢者の見守り体制のように、学区ごとに“独りぼっち児童”の実態を把握して、見守ることが急務。小さな命を守れない地域社会は悲しく情けない。(M)


6月3日(火)

2016年の北海道新幹線開業を見据えて進められていたJR函館駅周辺の活性化。その大きな目玉であった地元の洋菓子工場を軸とした複合施設建設の中止の報は、関係者のみならず市民にも大きなショックを与えた▼これまでは黙っていても函館への観光客の多くはまずJR函館駅に降り立ち、駅周辺での買い物などを楽しんだ後に、それぞれの目的である観光スポットへ向かうのが定石だった▼しかし、現函館駅から約18㌔も離れた場所に新駅が出来れば、わざわざ現駅まで足を運ばずとも、新駅を起点にバスやレンタカーなどで直接観光スポットを楽しむパターンが増えることが十分予想される▼確かに現駅周辺にも函館朝市という魅力的なメジャー〝観光地〟が存在する。ただ、それ以外に家族連れや若者などが有意義に時間を過ごせる場所は決して多いとは言えない。今回の整備計画は、まさに救世主的存在であっただけに落胆は大きい▼とはいえ、新幹線開業までのカウントダウンは確実に進んでいく。現駅周辺の整備計画は観光都市函館にとっての死活問題。今こそ民間と行政とがしっかりタッグを組んで知恵を出し合い、速やかな対応を期待したい。(U)


6月2日(月)

地元の生産・加工品を育てる第一歩は、地元が消費すること。地元が消費しないで、他に勧められるわけがない、ということだが、この地産地消の精神も、現実はどうかというと疑問符が灯る▼これとダブる取り組みに消費拡大がある。地元から消費を伸ばすということだが、それは地域振興の原点。だから叫ばれるのだが、関係者が苦労するのは、地産地消も消費拡大も、理解を求める啓もうでしかないから▼それでも拡大傾向にあるうちはいい。逆に減少に転じてくると、呼びかけだけでは済まなくなってくる。ここ1年余の間に、酒(清酒・ワイン・焼酎等)を巡って各地で通称「乾杯条例」の制定が相次いでいる▼「一杯目は地元の酒で」。先陣を切ったのは日本酒どころ京都。2011年までの11年間で、清酒の消費が35%も減ったことによる危機感が条例制定へと走らせた。昨年の1月だった▼この動きに他の産地も触発されたよう。既に酒の消費に関し50とも60とも言われる自治体が同趣旨の条例を制定したという。もちろん罰則規定はなく、啓もうに重みが加わっただけだが、力を入れたという思いは伝わる。条例も種々あるが、こんな条例も悪くはない。(A)


6月1日(日)

函館市内で先日、見かけた光景。信号待ちで前にいた乗用車の男性が、火の付いたたばこをポイ捨てした。筆者も拾うことなく発車したのだから偉そうなことは言えないが、なんとも後味の悪い思いがした▼ポイ捨ては最近、条例で罰則を設けている自治体もあるが、犯罪と言うほどでもない。世の中にはもっと大きな怪しいものを山林に捨てる人もいる。だからといって、マナーの欠如で済ませるのも軽い気がする▼「一事が万事」という言葉が思い浮かんだ。人は一瞬の所作からその人の全身像が伝わることがあり、大きなマイナス印象、プラス印象につながる。火のついたたばこを、何のためらいもなく路上に捨てる行為があぶりだす姿は…▼次に浮かんだのが「人は意外に見られている」ということ。くだんの車は、分かりやすいナンバーや色だった。次に街で見かけたら、「ああ、あの時の人だ」とすぐわかるだろう▼今回のケースと含意が若干違うかもしれないが、作家の遠藤周作さんは「人間は人の前を横切らなければ生きていけない存在だ」と言った。自分は気付かなくても、知らないうちに人に迷惑をかけているのが人間だという意味である。自戒した。(P)