平成26年8月


8月31日(日)

初めて通しで見たNHK大河ドラマは、1976年に放送された「風と雲と虹と」だった。東国の武者・平将門と西国の貴族・藤原純友が都で出会い、東と西で反乱を起こしていく姿を描いた▼比叡山に将門岩という岩がある。将門と純友が立ち、京都の町を見下ろし、二人で日本を東西に分けて支配しようと誓ったと伝えられる。史実ではないが、学生時代に延暦寺を訪れた際に立ち寄り、感慨に浸った▼その大河ドラマで知った俳優・米倉斉加年(まさかね)さんが、80歳で亡くなった。どこか臆病な、高貴な人物の役で出ていた。捕らわれの身になった時の時のせりふを覚えている。「私も恥を知っている」。そして自害した▼小学生の筆者には意味がよく分からなかったが、米倉さんの演技同様、深みのある言葉だった。もうひとつ、将門を演じた加藤剛さんの会話もかすかに記憶している。何もない時に「仕事だ」と将門。「何を」と問われ、「働くのだ」。そして開墾か何かのシーンが流れた▼40年近く前の記憶の残像は、定かではない。しかし、脳裏に焼き付く何かがあった。厚顔になり、いつも楽をすることを考えているが、そんな時に繰り返してみる。「私も恥を知っている」「働くのだ」。(P)


8月30日(土)

災害救助犬、盲導犬、聴導犬、セラピードッグ、警察犬、麻薬探知犬…。身近な動物の中でも、犬ほど人の生活をサポートしているものはない。すぐれた臭覚などを生かして▼ぬかるんだ広島の土砂災害の地面を臭いをかぎながら探す雑種の「夢之丞」(雄、3歳)。捨て犬で殺処分寸前にNPOのスタッフに引き取られ、救助犬へ猛特訓。広島の現場は初出動だった▼奇跡的に命を助けられた夢之丞は人命救助に奔走。粘り強さを発揮し、倒木で押し潰された民家のそばに立ち止まると、捜索員に訴えかけるような表情。発見された住民は残念ながら亡くなっていた▼さいたま市で全盲の男性をサポートしている盲導犬のラブラドールレトリバー「オスカー」(雄、9歳)。先月、電車で職場に向かう途中、オスカーが何者かに腰付近を数カ所刺された。盲導犬はパートナーに危険が迫った時以外は声を出さないよう訓練されている▼オスカーは痛みをこらえて鳴き声を上げなかった。「器物損壊」ではなく「動物虐待」で犯人を処罰すべきだ。NHKの朝ドラで子どものパートナーの雑種「テル」は兵隊さんを手助けする軍用犬に徴用された。テルも捨て犬だが、戦場で「戦争は嫌いだ」と叫んでいる。(M)


8月29日(金)

科学の世界は日進月歩。とりわけ近年はそう実感する。日常生活に直結する分野でも感嘆することが多いが、医学の世界も然り。医薬もさることながら医療機器の進歩に伴って検査や治療技術も▼予防が第一だが、次に大事なのが早期の発見であり治療。がんなどの健康診断が奨励される理由もそこに。ただ、検査も大掛かりだと受診をためらいがちになるが、簡単に確認できるとなると、その懸念は消える▼それが現実になりそうな話が先日、飛び込んできた。国立がん研究センターと他の研究機関、民間企業が、共同して血液検査でがんの診断ができる手法の研究開発を進める、と。対象は13の/Users/mac6/Desktop/30のコラム00.txtがん▼胃、食道、肝臓、前立腺、膵臓、大腸、卵巣がんなど。難しい医学的な解説はともかく、着目点はがんにかかると体内のマイクロRNAという物質の種類や量が変化する点。その解析が研究開発の柱となる▼予定する血液は6万5000人分。まずは乳がんについて5年をめどに検査方法の開発を目指すという。発症場所は分からずとも、がんの有無が簡単に確認でき、精密検査までの時間短縮や体の負担軽減が可能になる。早期発見につながる研究として成果が待たれる。(A)


8月28日(木)

東日本大震災で避難生活を余儀なくされ、体調悪化や過労、自殺などが原因で亡くなるのを「震災関連死」と言い、福島県では5月までに1700人を超え、地震や津波による「直接死」1600人を上回る▼震災関連死は岩手県、宮城県などを含めると3000人余。自治体が認定した人数で、実際はもっと多いという。「落ち込みが激しく食欲が衰えた」「病院が閉鎖され、治療が受けられなかった」などの事例の報告も▼内閣府が公表した福島県の震災関連自殺者は7月までで56人。福島市内のアパートに避難した川俣町の渡辺はま子さん(当時58歳)もその1人。3年前の7月、一時帰宅した自宅の庭の柳の下でガソリンをかぶって火をつけ、死亡した▼避難後にうつ病の症状を示すようになり、遺族は「自殺は原発事故が原因。東電の責任を明らかにしたい」と提訴。福島地裁は判決で「自宅での家族との生活、地域住民とのつながりなど生活基盤を失った」と指摘▼その上で「東電は原発事故を起こせば住民が避難を余儀なくされ、ストレスを受けて自死する人が出ることも予見できた」と、4900万円の賠償を命じた。東電は真摯に受け止め、自死に限らず、災害弱者の救済に全力を。(M)


8月27日(水)

息子や孫を装って助けを求める「オレオレ詐欺」が問題化してから10年。こんな高齢者をだます悪事がいつまでも続かないと思っていたが、巧妙な悪知恵はますますエスカレートするばかり▼架空の事実を口実に料金などを求める「架空請求詐欺」に、もうけ話を持ちかける「金融商品取引名目の詐欺」など多様な特殊詐欺が横行。架空の会社の人物や言いがかりを付ける人物など“役者”をそろえて▼札幌の80代女性宅にパンフレットが届き「事業に出資すれば(別の出資話の)被害金が取り戻せる」と強いられ、920万円を宅配便やレターパックで送ったが、相手と連絡はとれず…▼函館でも50代女性がロト6をめぐる特殊詐欺で582万円をだまし取られた。また「投資信託詐欺被害の被害回復ができるので、住所などを教えて」という、市消費生活センターの職員をかたったとみられる不審な予兆電話もあった▼ことし上半期の特殊詐欺の被害総額は全国で268億円を超え、昨年を上回るペース。離れて暮らす子や孫が心配、老後に募る言い知れぬ不安…。そんな高齢者の心情につけ込む「虎の子詐取」は卑劣だ。警察は金融機関や調剤薬局などと連携、特殊詐欺防止を呼び掛けている。(M)


8月26日(火)

最近はローマ字の短縮表記が増えて戸惑うことが多いが、AEDもその一つ。日本語では自動体外式除細動器と表現される。そう、電気ショックを与え、心臓の動きを戻すことを試みる医療機器▼心肺停止などは早期手当が大事だが、このAEDは専門家でなくても使用可能なのが特徴的。実用化されて10年になる。設置台数は公共や商業施設、学校、医療機関など全国で約20万台と言われる▼学校関係が多いが、函館市でも300台ほど置かれており、消防本部のホームページで設置場所を紹介している。この種の機器は使われないに越したことはないが、必要度が高いから設置が奨励される▼その効果ははっきりしている。読売新聞は先日、現状を報じていたが、いざという際に使わなかった場合の1カ月後生存率が10%なのに対し、使った場合は40%ほどという。ただ、残念なのは十分に生かされていないこと▼心肺停止状態で救急搬送された人(患者)に、一般の人が使用した率が低い現実が物語っている。機器の改善も進み、使いやすくなっている、消防など関係機関も周知と使い方の指導に努めている。「いざという時の備え」…AEDへの認識も例外でない。(A)


8月25日(月)

ふらりと立ち寄ったパチンコ店で勝ち、多額の現金を手に。「勝つことなんて簡単だ」…。初挑戦の競馬や競艇で大当たり。ビギナーズラックにも「自分は特別な才能があるんじゃないか」などと思う▼負ければ気が沈むが、勝てば快楽の記憶が刻まれ、再び勝つまで続ける。やがてギャンブルなしでは家事や仕事が手につかず、賭け事で頭がいっぱい。借金を重ね、気持ちが制御不能となり、賭け事に自分の人生が支配される▼厚生労働省研究班の調査で、わが国のギャンブル依存の人が成人の4・8%、536万人に上ることが分かった。諸外国の調査では、米国1・58%、韓国0・8%というから、日本は突出して高い▼カジノを備えた統合型リゾート施設で観光客を誘致する動きがある。道内でも小樽市や苫小牧市などが手を挙げており、観光立国を目指す安倍政権の成長戦略のひとつだ。ただ、こうした調査結果を前に、勝ち負けが桁違いに大きいカジノの解禁に不安も感じる▼ギャンブルに限らず、依存症は進行的な病気だ。行き過ぎると精神不安、借金、失業、家庭崩壊も。射幸心をあおる仕掛けや甘い誘惑が社会にあふれている中、危険性をしっかり理解したい。(P)


8月24日(日)

先日、北海道と青森県、岩手県が国交省とJR東日本に、寝台特急「北斗星」と「カシオペア」の存続を申し入れた。2015年度の北海道新幹線開業後に廃止される可能性が浮上しているとのことで、その行く末が注目される▼気になるのが、両特急が停車しない青森県が名を連ねていること。これは両特急とも第三セクター「青い森鉄道」を通過するため、年間の旅客収入の21%にもあたる、約3億円が分配されているからなのだ▼ただでさえ経営難に悩まされている三セク鉄道にとって、寝台特急廃止は死活問題。北海道に関しても、新幹線開通後はJR江差線の木古内〜五稜郭間が三セク化されるので、他人ごとではない▼一方で、昨年秋からJR九州が運行している寝台特急「ななつ星in九州」が絶大な人気を集めている。時間をたっぷりかけた優雅な旅行が、高齢者を中心にブームになっているという。▼さらに寝台特急以上にゆっくりとしたペースで旅行を楽しめる、豪華客船によるクルージングも人気で、函館にもたくさんの観光客を乗せ次々と寄港している。時間短縮も大事だが、余裕を持って旅の情緒を味わいたいという人たちへの贅沢な移動手段も残して欲しい(U)


8月23日(土)

跡形もなく押し流された家屋、屋根の上で救助を待つ人たち、土砂に埋もれた子の名を呼ぶ母親、幼児を救おうとした消防隊員も犠牲に…。日に日に増える広島土砂災害による死者・行方不明者の悲しい数字▼かつては「山の下に家を建てるな」「谷川で遊ぶな」など高齢者の体験から防災の知識を教わった。しかし、この教訓が役立たないのが現状。1時間の雨量が100ミリ超という異常豪雨が観測されるようになった▼細長い国土に急峻な山々が連なる列島は都市開発も進んで、土砂災害から逃れられない。土砂崩れは年に1000件も起きている。気象庁が「特別警戒」を出す「50年に1度」の災害が1年に何回も発生している▼土石流や地滑りの恐れがあり、土砂災害警戒区域に指定されているのは、道内では1416カ所。道南では函館の50カ所、松前40カ所、福島22カ所など。22日には上ノ国と松前で土砂崩れが起きた▼広島の大規模な土砂災害は未明に発生したため、避難勧告が遅れ、死者40人、行方不明者47人に上った。土砂崩れ、土石流の前兆現象として「山鳴り」「川が濁る」「土の匂い」が挙げられる。普段から自宅の危険度を認識して、兆候があったら避難することだ。(M)


8月22日(金)

若い人たちの間にも田舎志向がある…もちろんいくつかの前提があってだが、内閣府が行った農山漁村に関する世論調査の結果が、そんな現実があることを浮き彫りにしている▼限界集落という表現も違和感を覚えなくなっているが、人口は減り、しかも超高齢化している地域が全国的に多々。その一方で、大都会は仕事や生活環境こそ恵まれているものの、精神的な余裕となれば疑問符が▼だから、田舎での生活も考えてしまう。この調査結果からもそんな思いが読み取れる。田舎(地方)への定住を希望する都市部生活者が31・6%いたという。憧れのレベルとはいえ、それでも3人に1人である▼特筆されるのが、20歳代で希望する人が38・7%と平均を上回っていること。当然ながら前提がある。生活しなければならないから仕事があること、医療機関の存在も欠かせない、土地や住居という問題も▼近年、移住や二地域居住などの動きが活発で、地方自治体も力を入れている。来てほしい、行きたい…田舎と定住希望者の思いは一致している。ただ、自治体でこうした前提をクリアするのは難しい。でも、国ならば…。将来をにらんだ政治課題の一つがここにもある。(A)


8月21日(木)

名盤といわれるロックのアルバムには、印象的なジャケットも多い。ビートルズ「アビイ・ロード」のジャケットでメンバー4人が渡る横断歩道は、ロンドンの観光名所になり、2010年にはイギリス政府から文化的・歴史的遺産の指定を受けている▼その「アビイ・ロード」を含め、英国ロックの名盤のジャケットが函館蔦屋書店(石川町)で展示されている。懐かしさを感じたり、新たな発見をしたり、楽しく眺めてきた▼しかし、ジャケットは今後、なくなってしまうのかもしれない。音楽ソフトの主流はレコードからCDに変わった時代には、ジャケットが小さくなりインパクトは薄れたような気がした。さらに現在はインターネットによる音楽ソフトの配信が増えている▼日本はCDの比率が8割を占めているが、アメリカでは配信が7割を占めるそうだ。日本での本格的なサービスはまだだが、定額聞き放題のストリーミングというサービスも欧米で伸びている▼配信による音楽の流通経路には、ジャケットの入り込む余地はなさそうだ。安く気軽に音楽を楽しめる配信サービスは便利ではあるが、流通形態の変化に、古い音楽ファンとしては寂しさも感じる。(I)


8月20日(水)

遠い国の出来事と思っていたシリアの内戦に日本人が巻き込まれ、拘束された。独立国家を主張している過激派組織「イスラム国」が動画サイトで「日本の写真家だ。兵士ではない」など尋問状況を流した▼日本初の民間軍事会社(千葉市)を設立したばかりの湯川遥菜さんとみられる。外国の治安不安定地域での情報収集や物資輸送、護衛などが主な業務。「実績を積むには現場を見なければ」とシリアに入ったという。イスラム国と対立する他の過激派組織に同行していた▼ジャーナリストなどの戦地に通じたプロではないが、会社のインターネットには自ら銃を構える写真があり、シリアで拘束された時もカメラや自動小銃を持っており、米国のスパイに間違えられた可能性もある▼また「イスラム国」は天使信仰を持つヤジディー教を「邪教」とみなし、男性は問答無用で殺害、女性も改宗者以外は殺し、300人以上を拉致。少なくとも500人の教徒を処刑した▼シリア北部は政権の軍部隊や反体勢派勢力、イスラム国が入り乱れた激戦地。対立構図も判然としないという。2年前には反体勢派に同行したジャーナリストの山本美香さんが銃撃戦に巻き込まれて死亡している。政府は全力で湯川さんを救出してほしい。(M)


8月19日(火)

人生の終わりを準備する「終活」ブームが続く。葬儀の規模や財産の相続など、自分の気持ちをしっかり伝えるエンディングノートも売れている。家族の負担軽減などから、葬儀の簡素化を望む人も多い▼函館でも家族葬や直葬が増えているが、決して経済的な理由だけではないようだ。葬儀社に話を聞くと、超高齢で亡くなった場合は存命の友人や親しい親類が少なく、おのずと子や孫など少人数の形態になる。子どもたちが函館を離れ、葬儀に時間や労力をかけられないケースも多いという▼家を継いだ人は、墓を守っていくことも一苦労だ。葬儀を簡素にしても、お寺との付き合いは欠かせない。だが、経済状況が厳しい中、志とはいえ十分なお布施を包めないこともあろう。信心だけではカバーできない問題…▼ある住職が語っていたが、函館でも無縁となる墓が増えているという。「この墓の関係者は連絡をください」との貼り紙を墓地で見たことがある。家が途絶えたケースのほか、継ぐ人はいても、さまざまな事情からお寺と疎遠になる家がある▼帰省で墓参りをする機会の多い8月。仏さまやお骨を粗末にしないで葬送し、心を込めた供養を続ける方法を考えたい。(P)


8月18日(月)

今年も甲子園球場を舞台に高校球児たちの熱い夏が始まった。北北海道代表の武修館は惜しくも強豪の八戸学院光星の前に涙を飲んだが、南北海道代表の東海大四は初戦を快勝し2回戦にコマを進めた▼東海大四の初戦突破の原動力となったのが、西嶋亮太投手の緩急を使い分けたピッチング。最高138㌔の速球と50㌔前後とも言われる超スローボールとの速度差は実に90㌔にも及ぶ▼超スローボールと言えば、日ハムの多田野投手などプロでもごく一部しか使いこなすことができない「魔球」。それを高校生が大舞台で堂々と投げ込むのだから厳しい練習のたまものであることは間違いない▼ところがこの投球を巡り「高校生らしくない」などと批判の声が。中でも元アナウンサー・岩佐徹さんの「少なくとも投球術とは呼びたくない」というツイッターでのつぶやきは大きな波紋を呼んだ▼これに対してダルビッシュ投手は「自分としては一番難しい球だと思ってます。言ってる人はピッチャーやったことないんだろうなと思います」とツイート。説得力充分のコメントに騒動は一気に収束した。西嶋投手には雑音を気にせず、自分らしい投球に専念してほしい(U)


8月17日(日)

先日に続き、北方領土問題について。旧ソ連が中立条約を破って対日参戦したのは、長崎に原爆が投下された1945年8月9日だった。終戦後の8月18日から千島列島に進軍し、列島南端のウルップ島まで占領。さらに北方領土四島を落とした▼2012年、国後島に上陸したロシアのメドベージェフ首相は言った。「クリルは誰にも渡さない」。クリルとはロシアで言う千島で、ロシア側は北方四島を含めて言う。しかし、戦後日本が放棄した千島列島はウルップ島以北であり、択捉島以南は歴史的にわが国の領土だ▼そのクリルで戦後69年目の夏、ロシアが軍事演習を開始した。しかも、不法に占拠している択捉島と国後島で。ロシアは「第二次世界大戦の結果だ」と反発するが、過去の経緯や条約を無視した一方的な威嚇である▼国際法では、武力による領土拡大は認められていない。だが、世界では領土を巡る戦禍が続いている。ウクライナ問題で窮地に立つプーチン大統領は、国際的な緊張を高める行為をやめるべきだ▼北方領土問題の進展が期待されていたが、こうした状況では秋の大統領来日は難しいだろう。平和を考える夏に立ちこめた暗雲に、日露外交の視界が遮られた。(P)


8月16日(土)

69回目の終戦記念日だった15日、道南の各地でも戦没者追悼式典や平和を祈る催しが行われた。本紙ではきのうまで「夏の記憶」と題し、戦争体験者6人の声を紹介した▼古里・樺太を追われた女性、広島で原爆投下に遭遇した元軍人、人間魚雷「回転」の乗務員と酒を酌み交わした元軍医、職場を守るために奔走した女性、中学校での軍事訓練や空腹に耐えた少年時代…共通するのは「戦争を繰り返してはならない」という平和への願いだ▼8月になると終戦の特集を組む新聞やテレビに対し「8月ジャーナリズム」とやゆする声もある。しかし、戦後生まれが国民の8割を占める中で、戦争の体験を聞く機会は減っており、節目の時期に戦没者をしのび、戦争と平和について考えることは意義のあることだと思う▼戦争の記憶を継承していくことも重要だ。今回、本紙で体験をうかがった人たちは皆80歳を超えている。戦争体験者から話を聞いて、次世代に伝える記録を残していくために残された時間は少ない▼集団自衛権の行使容認が論議を呼ぶ中で迎えた今年の8月。悲しみや苦しみを乗り越えてきた先人の声に耳を傾けながら、「平和」について考えていきたい。(I)


8月15日(金)

終戦の翌年、樺太にいた親戚の老僧と3カ月ほど一緒に暮らした。寺の本堂は天気のよい日には、稚内からも見えたという。日本が降伏したのに旧ソ連兵が侵攻し、命からがら引き揚げてきた▼日本はポツダム宣言を受託し、8月15日、すべての戦線で戦闘を中止、連合軍も撤退。アメリカは降伏文章に正式に調印した9月2日を戦勝の日としている。ソ連は日ソ中立条約を破って南樺太や千島に侵攻▼容赦なく北方領土(四島)も占領。大戦が終結しているので、南樺太、千島列島を支配下においたのは戦時国際法違反で、戦争による領有ではない。しかも樺太からの引き揚げ船3隻を潜水艦で攻撃、5000人超の民間人も犠牲に▼ロシアになって、4年前に9月2日を「対日戦勝記念日」に制定した。全国的なものではなく、極東に限定しているようだが、ロシア軍は今週から択捉島、国後島で大規模な軍事演習を繰り広げ、北方四島の実効支配を誇示している▼今月は北方領土返還運動の強調月間。政府は「日本固有の領土での軍事演習は到底受け入れられない」と厳重抗議したが、ロシアは強行。元島民が帰れるまで「国民世論の喚起が不可欠」と、返還署名活動を続けよう。(M)


8月14日(木)

「文房具が買えない」「無保険なので医者にかかれない」「給食がごちそう」…豊かなはずの現代に痛々しい叫び。子どもの貧困が増えている▼平均的な所得の半分に満たない世帯が貧困とされる。厚生労働省が公表した2012年の調査によると、貧困線は年収122万円で、これ以下の家庭で暮らす子どもの割合は16・3%。ほぼ6人に1人、クラスに5人ほどいる計算となる▼シングルマザーの半分以上は貧困という調査もある。ただ、両親そろっての家庭でも多い。いくら働いても豊かになれず、貧しさから抜け出せない社会。安定した就労と収入増を図る対策が、まず必要だ▼だが、非正規雇用の拡大など現実は厳しい。社会を映した現象か、親の年収が高い子どもは学力が高いという調査結果もある。進学を断念し、職業選択の幅が広がらず、貧困の道へ。そうした連鎖があるのならば、断ち切らなければならない▼貧困は社会の責任か、自己責任か。議論は分かれるが、今は失業や離婚で誰もがなりえる。児童虐待や買春、ギャンブル依存、働いても生活保護より賃金が安い「逆転現象」など、社会を取り巻くさまざまな問題には、「貧しさ」という同根の病巣が見え隠れする。(P)


8月13日(水)

6年前の話になるが、札幌ドームで日本ハム対阪神の交流戦が記憶に残っている。延長10回裏、当時不動のストッパーだった藤川球児が四死球を連発しながらも何とか逃げ切り、阪神ファンとしては胸をなでおろして帰った▼北海道での日本ハム—阪神戦は来年から、2年に1度しか見られなくなる。プロ野球の12球団代表者会議は先日、交流戦を現行の24試合から18試合に削減することで合意した。各カードが3試合となり、隔年で本拠地と敵地で3連戦を行う形となる。日ハムの本拠地での交流戦は9試合に減る▼24試合制では2連戦で移動日を挟むため、試合日程が間延びし、シーズン終盤に過密日程を招くことが課題とされていた。今後、11月には日本代表の国際試合を組むために、日程に余裕を持たせた▼もともと交流戦は10年前の球界再編問題から、パ球団への救済策として生まれた。今回も現行維持を求めていたパを、セが押し切ったそうだ▼道内のセ球団ファンには寂しい思いがあるだろう。ファンあってこそのプロ野球。日程の課題が解消されることを前向きにとらえ、公式戦や交流戦から国際試合まで、さらに魅力のあるプロ野球になってほしい。ファンの一人としてそう願う。(I)


8月12日(火)

1000兆円と言われても庶民には実感がない。途方もない、天文学的な金額…ゼロが幾つ付くのか紙にでも書いて数えなければ解らないほど。国とはいえ、それが借金だというのだから尋常でない▼財務省は8日、6月末時点での国の借金(国債、借入金、政府短期証券)を公表した。その残高は1039兆4132億円。国民一人当たりに換算すると、実に約818万円。これで驚くにはまだ早い▼見過ごせないのは、急激なペースで増え続けていること。15年ほど前は500兆円、10年ほど前は800兆円レベルだったのが、あっという間に1000兆円というのだから、尋常な姿とはほど遠い▼その8割余りは国債だが、確かに発行抑制という政府の方針も錆び付いたまま。それどころか、財務省はさらに暗い気持ちになる見通しも明らかに。今年度末には1143兆9000億円に膨らむというのだ▼そこまで公表する裏には意図がある、消費増税などへの布石ではないかという見方もその一つだが、まさか…。増税に頼って道が拓けていく水準でないのだから。実態は分かった、放っておいてはまずい、じゃあどうするか…この問答の終わりは見えてこない。(A)


8月10日(日)

8月に入り、各地で華やかに夏祭りが繰り広げられている。函館でも5日まで「函館港まつり」が開かれ、多くの市民や観光客が多彩なイベントを満喫していた▼夏祭りと言えば、海峡を挟んだ青森市の「ねぶた祭り」が有名だ。巨大で勇壮な山車(だし)が町中を練り歩く姿を楽しもうと、毎年300万人以上の観光客が訪れる、国内屈指の一大イベントとしてその名をとどろかせている▼同じ県内でも、弘前市の「弘前ねぷた」は、青森より山車のサイズが一回り小さいながら、繊細できらびやかなデザインが人気。実に、毎年160万人の観光客でにぎわいを見せている。その弘前ねぷたで5日、痛ましい事故が起きた。ねぷた内部の昇降機を操っていた男性が頭を挟まれて死亡したのだ▼これによって残りの2日間の日程はすべて中止となった。亡くなった男性と遺族はもちろん、祭りを楽しみにしていた市民や観光客ら、すべての人にとって不幸な出来事と言わざるをえない▼9日から江差町では、道内でもっとも歴史が古い「姥神(うばがみ)大神宮渡御祭」が始まった。こちらも多くの山車が練り歩く華やかさが最大の魅力。万が一にも悲しい事故が起きないことを祈りたい。(U)


8月9日(土)

安く、早く食事を済ませたいときなど、牛丼チェーン店をたまに利用する。一杯300円程度の価格は小遣いに優しい。ただ、その低価格が従業員の過酷な労働に支えられているといわれると、牛丼の味もなんだかほろ苦く感じてしまう▼牛丼チェーン最大手「すき家」を運営するゼンショーホールディングスは先日、税引き後利益が創業以来初の赤字に転落する見通しだと発表した。人手不足による休業が相次いだことなどが理由▼同社の第三者委員会は先に、長時間労働や賃金不払いが放置されていたとの報告書をまとめている。月500時間以上働いたり、2週間帰宅できなかったりした従業員もいたという。すき家は原材料の高騰に加え、人件費も増やすため、牛丼を値上げするそうだ▼低価格をアピールする外食チェーン店は、デフレを背景に売り上げを伸ばしてきた。そうした企業の中には、コストを下げるために人件費を抑制しているとして、「ブラック企業」と批判が上がるところもある▼安易に「ブラック」のレッテルを貼るようなネット上の風潮はどうかと思うが、従業員に対する意識改革を迫られる経営者が少なくないのも事実だろう。ふだんは何気なく食べている牛丼も、背景には複雑な事情を抱えている。(I)


8月8日(金)

被爆して亡くなった2歳くらいの弟をおんぶした10歳くらいの少年。その悲しみは、いかばかりか。「長崎原爆の日」になると、米国の報道写真家が撮った「焼き場に立つ少年」が脳裏を離れない▼写真家が長崎に入った時、おんぶひもをたすきにかけて、幼子を背負った少年が小高い丘へ歩いているのを見かけた。深さ60センチほど掘った“焼き場”があった。火葬の順番を待つ直立不動の少年▼背中の幼児の頭にはケロイドがあり、すでに息絶えていた。白いマスクの男たちが、おんぶひもを解き、ゆっくりと熱い灰の上に横たえた。炎が舞い上がり、食い入るように見ていた少年は、黙って立ち去ったという▼弟や妹をおんぶして、野原や山などで遊ぶ子どもの姿は当時の日本ではよく見られた。しかし、原爆で両親や家を焼かれ、おぶっていた最後の弟まで亡くした少年は硬い表情で立ち尽くすばかり。残酷な原爆を憎んだことだろう▼現代では街を歩けば「おんぶと抱っこ」のママたちの姿。向き合う抱っこは安心感を与え、おんぶは同じ方向で前を見つめ合う。どちらも体温を通じて赤ちゃんを守ることは確か。直立不動の少年の熱い背中は「弟よ生きていてくれ」と叫んでいたはず。(M)


8月7日(木)

道南の山間部や漁村部を車で走ると、こんな所に集落が…と思う場所に出くわすことがある。開拓や開墾など、移り住んだ理由はさまざまあろう。小さな集落でも人々が連帯して助け合い、地域の中で生活を完結してきた▼しかし過疎化や高齢化が進み、今ではちょっとした集落でさえ、生活を送ることが困難になってきている。医療や介護どころか、買い物にも不便し、除雪の担い手がいないという地も。将来的に自治体の半数が消滅するというショッキングな予測まで示された▼政府は、過疎地の集落を一つにまとめて活性化を図るモデル事業に着手する方針だ。中心となる「基幹集落」に商店やガソリンスタンドなどを集約し、周辺の集落との間にコミュニティーバスを走らせるという▼集落自体は残す取り組みだが、老朽化した水道や道路の修繕、ごみ収集や除雪など行政の仕事は残る。税収減でどの自治体も財政難だが、だからといって集落の行政サービスを切り捨てるわけにはいかない▼国土の均衡ある発展を目指してきたはずが、なぜ、急激な過疎化と一極集中が進む結果となったのか。二極化の原因や構造を残したまま集落を維持するだけでは、対症療法でしかない。(P)


8月6日(水)

一票の格差是正と議員定数の削減…選挙制度改革で国会が当事者能力を失って久しい。各党の主張はかけ離れたまま、有識者の判断を仰ぐことに。伊吹議長諮問の衆院選挙制度調査会が9月にも動き出す▼本欄でも何度か触れてきたが、最高裁は一昨年12月の衆院選小選挙区の最大格差2・43倍の現状を「違憲状態」と判断。厳しい目を向けられる定数問題とともに、国会として是正と削減は避けて通れない▼一部の政党を除き、大枠の考え方に差はないと言われるものの、各論になるとかみ合ない。ということで、今年3月に有識者会議の設置を確認したが、その後の動きは鈍く、半年も要して、ようやく▼それはともかく、今後の焦点は有識者会議の議論に移るが、これで問題が無くなったわけではない。というのも議決権はあくまで国会が握っており、有識者会議の答申内容で決まる保証はない▼実際に国会は尊重するとしか言っていない。ある政党は修正の可能性をほのめかしている。それならば有識者会議に託す意味はない。国会は無条件で受け入れることを確約すべき。有識者会議もその確認をした上で議論を開始した方がいい。尊重は何の担保でもないから。(A)


8月5日(火)

それは8時15分〜 いつもと変わらぬ時間 母はリトル・ボーイを誇りに思っているのか〜 いつの日か流す涙以上の結末となる〜 30年ほど前にヒットしたとされるポップ調の「エノラ・ゲイの悲劇」▼エノラ・ゲイは69年前の8月6日に広島に原爆を投下した米爆撃機B29。そのエノラ・ゲイ搭乗員の最後の生存者、セオドア・バンカーク氏が、93歳で亡くなった▼何度か来日。「多数の日本人とアメリカ人を救うために落とした」と原爆投下の意義を指摘。「戦争や原爆では何も決着しない。個人的には世界に原爆は存在すべきではない」とも話していた▼先の大戦では民間人、兵士ら300万人を超す犠牲者。非戦闘員を殺すのは戦時国際法では戦犯だが、現実は子どもたちも巻き込む。ガザ地区ではイスラエル軍がロケット砲が隠されていると学校や教会を攻撃した▼防衛省は有事の自衛隊員輸送に民間フェリーの船員を予備自衛官にすることを検討。事実上の召集(赤紙)ではないか。長崎の田上富久市長は平和祈念式典で読み上げる平和宣言で「平和への不安や懸念に耳を傾けよ」と集団的自衛権に言及する。「君は家にいるべきだったんだ」とエノラ・ゲイの悲劇は警告する。(M)


8月4日(月)

7月13日、世界的指揮者ロリン・マゼールが84歳で亡くなった。80歳を超えても、まったく衰えることなく第一線でエネルギッシュな活動を続けていただけあり、突然の訃報に言葉を失った▼マゼールといえば、ベームやカラヤン、バーンスタインらの次の世代を担う指揮者として、1970年代からアッバードやムーティらとともにスター街道を突っ走ってきたイメージが強い▼ただ音楽的なこだわりの強さから様々な衝突を引き起こすことも少なくなかった。1984年にはウィーン国立歌劇場のポストを追われ、89年にはカラヤンの後任として就任確実とみられていたベルリンフィルの音楽監督の座を逃してしまう。どちらも、才能を高く評価しながらも、扱いずらいマゼールを運営側が敬遠したものと言われている▼しかし、その後も彼の元には世界各国の超一流団体から出演要請が後を絶たなかった。半世紀以上にわたってトップクラスの指揮者として君臨し続けたことは賞賛に値する▼実は札幌で行われているPMF音楽祭の今年の主席指揮者に、マゼールが予定されていた。まさにこの週末にマエストロの指揮姿が見られるはずだった。本当に残念でならない。(U)


8月3日(日)

都道府県など地方議員の不祥事が続いている。政務活動費疑惑(兵庫県議)に始まり、危険=脱法ドラックの所持吸引(前神奈川県議)、議員多数の公職選挙法違反(青森県平川市議)…▼兵庫県議の疑惑は厳しく指摘されている問題を、逆に証明した形で司法の手が入った。それも驚きだったが、ただただ唖然(あぜん)とするしかなかったのが危険ドラックに自ら手を出していた前神奈川県議の愚行▼2年前の厚生常任委員長時代、脱法ハーブの取り締まりの強化を求める意見書のとりまとめ役を担ったというのだから。二人とも言い訳すらできない論外な話で、選挙で投票した人は騙(だま)されたという思いに違いない▼さらに、酒にまつわる不祥事も相次いでいる。青森県のむつ市議は行政視察で訪れた稚内で深夜にタクシーを蹴っ飛ばして逮捕された。北海道議は海外調査で欧州に向かう飛行機内でトラブルを起こし、辞職するはめに▼選ばれ優れた人という意味の「選良」は、今や死語に近い。元々は国会議員に該当する言葉だったが、広義に解釈して地方議員にも敬意を表し使われてきた感がある。だが、それも言いづらくなってくる。続いた不祥事は「(選良に)あるまじき行為」だから。(A)


8月2日(土)

「安全で環境に優しく低コスト」といううたい文句に乗って4年前、自宅をオール電化に改築した。数カ月後に東日本大震災があり、その後泊原発が停止、昨年9月に電気料金が値上げされた。何だかだまされたような気分だった▼北海道電力は先日、家庭向けで平均17%の料金値上げを政府に申請した。特にオール電化では月額で3割近い値上げとなり、昨年9月の値上げ前と比べると6割の負担増になる▼泊原発の再稼働が見込めない中、火力発電の燃料費が高騰し、財務状況が悪化していることを値上げの理由としている。原発に発電量の約4割を依存してきたツケを道民が負担することになる▼役員報酬のカットについて明言を避けるなど、北電の経営努力が道民に伝わっているとは言い難い。家庭や産業界から「節電は限界」という悲鳴が聞こえてくるだけに、徹底した経費削減の姿勢を示さない限り、道民の理解は得られない▼諸般の事情があって、現在は函館市内のマンションに暮らしているが、実はここもオール電化。一軒家より電気代は安いと踏んでいたのだが、またしても目論見が外れた。スケールはものすごく違うが、北電と自分の見通しの甘さが重なる。(I)


8月1日(金)

飛行機で東京へ行く時、最近の羽田|函館便に大型機は少なく、客室や座席は狭く感じていた。函館|札幌間の特急列車の方が広く感じていた▼最近乗った「JAL SKY NEXT」には驚いた。シートは滑らかな本革でスリムになっている。前の席との間は5㌢広まったという。わずかだが、座り心地はずいぶん変わったと感じた▼居住性の向上ばかりでなく、Wi—Fi(無線によるネットワーク)の利用可能にも感心した。搭乗前、親せきから電話があり、週末に函館へ行くので宿の予約を頼まれた。早速、機内で予約をしてみた▼機内Wi—Fiは有料だが、通信速度は実用レベル。宿の予約が完了し、機内から親せきにメールを送ると、すぐに「空からメールできるの」と返信。仕事にとってWi—Fiの利用は心強い▼JALが「新国内線クオリティ」とうたうこの機種は、今年5月下旬に羽田|福岡線でデビューし、地方空港で初めて就航したのは函館で、7月18日から導入された▼地方初が函館と聞き、乗り心地の良さより嬉しくなった。会社に戻り「この夏は最新の機種を体験して函館の旅を」と全国の友人にメールした。観光客が増える一助になってくれれば。(R)