平成26年9月


9月30日(火)

御嶽山は日本の三大霊山の一つで山岳信仰のメッカ。修験者のほか、一般民衆も登れるように普寛行者が王滝口ルートを開設。一本造りの円空も55歳のとき登拝、岩陰に寝泊まりして仏像を彫ったという▼ひのき笠に金剛杖の白装束の修験者で埋まった御嶽山が、先週末に噴火し火山灰一色となった。分厚い火山灰が山頂を埋め、岩石が山小屋の屋根を突き破り、逃げ込んだ登山者を直撃。下山を急ぐ足元をもすくった▼紅葉の盛りを迎えた穏やかな土曜の昼時。山頂や池のほとりで弁当を広げたとたん、美しい山が突然牙をむいた。「空が真っ暗になった」「息苦しいほど火山灰が降った」…▼迫る火山灰に、円空のように岩陰に隠れて両手で丸い空間をつくり、なんとか空気を吸って助かった人もいる。自衛隊や警察などが救助にあたっているが、有毒ガスの影響で難航。多くの犠牲者、負傷者を余儀なくされた▼14年前の有珠山噴火では噴火を予知し2日前に避難指示を出したが、御嶽山は水蒸気噴火とはいえ、どうして予知できなかったのか。しかも噴火警戒レベルが「平常」の1だった。円空が彫った観音菩薩に無事救出を願うばかり。噴火の予知と防災に挑むことが責務である。(M)


9月29日(月)

27日に起きた御嶽山の噴火は、時間を追うごとにその被害の深刻さが明らかになってきた。28日には山頂付近などで30人以上の登山者が心肺停止状態になっていることが分かった▼国内の火山被害としては、1991年に雲仙岳(長崎県)の火砕流によって、43人の犠牲者を出した以来の惨事となる可能性も出てきた▼雲仙岳の場合は、数度の噴火を繰り返し危険な状況になっているにも関わらず、避難勧告区域内に入り込んで、犠牲になったケースも少なくなかった。一方、御嶽山の場合は自由に入山できる状態で起きた噴火なので、登山者には予測が難しかったのかもしれない▼日本は世界有数の火山大国。道南地域に限っても、駒ヶ岳や恵山、渡島大島などの活火山が、活発に息づいている。このうち駒ヶ岳は1996年に54年ぶりに噴火して以来、現在も入山規制が続いている▼一時期は年に数回だけ、特別に入山が許される状態だったが、全国から登山者希望者が殺到し抽選するほどの人気だった。現在では夏期の昼間に限り入山届けをすれば登山が可能だが、常に危険と隣り合わせであることを胸に刻んで、万が一の時に犠牲者が出ないことを心から願いたい(U)


9月28日(日)

問答無用の処刑を繰り返す「イスラム国」。業を煮やしたフランシスコ・ローマ法王は、ついに「神の名を暴力のために使うことは誰もできない。神の名で人殺しをすることは重大な冒とくだ」と指弾、米国などの空爆に理解を示した▼イラクとシリアを拠点にしているイスラム国は、米英仏や中東5カ国の有志連合による空爆を受けて「空爆に参加している国の不信心な市民らをアラー(神)を信じて殺害せよ」と命令した▼今月2日には、イラクの人権活動家で弁護士の女性を5時間にわたって拷問した後、改宗などの背教行為の罪で公開処刑した。これまでも米国のジャナーリストらが処刑されている▼先月には、民間軍事会社を立ち上げた湯川遥菜さんがイスラム国に拘束され、行方不明のまま。イスラム国が空爆をめぐって日本の言動を“敵”とみなしたら、と思うと背筋が寒くなる。決して遠い国の出来事ではない▼実効支配地域で、歴史や哲学、芸術の授業を撤廃してコーランの授業を導入するなど教育カリキュラムも変更したが、空爆が激しくなると外国人部隊も含め3万人ともいわれる戦闘員は民家などに逃げ込み、民間人も巻き込む。子供たちの犠牲を出さない掃討作戦がほしい。(M)


9月27日(土)

朝晩は涼しくなり、そろそろ暖房も気になる季節。オール電化の我が家に備えられているのは旧式の蓄熱暖房機。北海道電力が電気料金の再値上げを申請している中、月々の料金はどうなるのか、気をもんでいる▼北電の川合克彦社長が25日に辞任し、後任に真弓明彦副社長が昇格した。2年前の3月に就任した川合氏は、在任中に異例ともいえる2度目の料金値上げを7月に申請し、政府の審査を受けている最中で突然の辞任だった▼再値上げに向けられる道民の視線は厳しい。北電が道南地区で行った説明会では、住民から批判の声が相次いだ。函館市議会も「再値上げ申請を認可しないことを求める意見書」を25日に採択したばかり▼川合氏は辞任の理由を持病の悪化としているが、再値上げに対する強い批判を受けて心労が重なっただろうことは容易に想像がつく。ただ、トップが代わったからといって道民の理解が得られるわけではない▼新社長の真弓氏は、道民の声を受け止め、説明責任を果たし、さらなるコストの削減を徹底してほしい。泊原発再稼働に力を注ぐだけではなく、将来に向けた電力供給のビジョンを示すことも必要。電力料金がかさむ冬は、もうすぐだ。(I)


9月26日(金)

国の均衡ある発展に欠かせない要素に地方の活性化がある。そう言われて久しい。かつての時代、今から40年ほど前に生まれた「地方の時代」が記憶に新しく、その後の「ふるさと創生」も懐かしい▼だが、現実は能書き通りには進まず、逆に「地方試練の時代」とか「地方反乱の時代」などとも邪揄(やゆ)された。そして今、にわかに表舞台に出てきた表現が、作り出すという意味の「地方創生」▼看板を塗り替えた印象が無きにしもあらずだが、改造内閣では担当大臣が置かれ、有識者会議も立ち上がった。大都市の一極集中を是正し、地方の人口減少対策に取り組むとして。確かに、多くの市町村は減り続ける人口に悩んでいる▼一方で、大都市生活者の潜在的な地方志向は衰えておらず、政府の調査でも4割という結果が出ている。ただし、それには前提があって、その第一は仕事の有無。加えて住宅や子育て環境など▼求められるのは、それに応える具体的な誘導策。例えば、企業に中央の一括採用を見直してもらうとか、地方に工場などを新増設する際に中央から異動させると優遇措置を講じるとか。遅ればせながら「地方の時代」が現実の姿となるか…今後に無関心でいられない。(A)


9月25日(木)

鬼子母神はもとは鬼だった。自分の子供も鬼で、子供たちに食べさせるため人間の子供をさらっていた。あるときそれに怒った釈迦が、鬼子母神が最も愛している末子を隠した▼鬼子母神は半狂乱になって世界を7日間探し回ったが、末子は見つからず、釈迦に助けを求めた。釈迦は「わが子がいなくなったり、死んだら、母親の悲しみは大きい」と子を失う親の苦しみを悟らせた▼今月11日に下校途中に行方不明となった神戸市の小1年、生田美玲ちゃん(6)が、自宅近くの雑木林の草むらで遺体で発見された。遺体は切断され、ポリ袋に子供の小さな手や頭部が入っていた▼ポリ袋から美玲ちゃんが身に着けていたとみられるワンピースやサンダルも見つかった。袋に入っていた診察券から、警察は近くのアパートに住む47歳の男を死体遺棄容疑で逮捕した。動機は「黙秘します」としているという▼男は道ばたで会えばあいさつし、地元のごみ掃除活動にも参加していたという。なぜ何の罪もない美玲ちゃんを殺害したのか。近年、幼児や児童を連れ出し殺害する事件が相次いでいる。最愛の子がいなくなった鬼子母神は自分の行いの罪深さを悟り、母子の守護神となった。(M)


9月24日(水)

北海道と本州を結ぶ青函連絡船に初めて乗ったのは60年前の5月、京都へ行く時だった。乗船名簿に書き込んで、安い3等室(船底)へ。エンジンがうるさいので食堂でカレーライスを食べた▼連絡船の食堂には和定食、洋定食、ランチ、ビーフカレーなど17品目ほどあったが、安いカレーライスが大もて。ライスだけ頼んでソースや塩をかけて食べることも。船酔いしないようにウイスキーのポケット瓶を持ち込んだ▼初乗船から5カ月後の9月26日に台風15号(後に洞爺丸台風と命名)が函館港を襲い、洞爺丸をはじめ5隻の連絡船が沈没、1447人の犠牲者を出した。遺体を乗せたトラックが何台も何台も西別院の境内に来たという▼洞爺丸は激しい揺れで船室のドアが開くたびに海水が浸入、甲板では貨車が横転し大音響。配管からは蒸気が噴き出し、食堂の棚からは全食器が落下。救命胴衣をつけて逃げ惑い、阿鼻叫喚…▼最新鋭の洞爺丸は4時間遅れで出航。瞬間最大風速は58㍍。今なら欠航になるケース。北海道旅客船協会などは先ほど、旅客船の安全運航徹底を申し合わせた。26日は「大惨事の教訓を後世に」と七重浜の海難者慰霊碑の前で60回慰霊法要を行う。(M)


9月23日(火)

先日、道内の有名温泉地を訪れる機会があり、大型ホテルに宿泊した。夕食時には数百人収容できる大きなレストラン会場に案内され、バイキング形式で料理が提供された▼驚いたのはその客層。3分の2近くは中国及び台湾からの観光客のようで、聞き慣れない言葉による会話が周囲を飛び交っていた。函館でも中国系および東南アジア系の旅行客の姿は目立つが、ここまで割合が高い状況に遭遇したことはなかった▼「アジア系の観光客は食事の際のマナーが悪い」という話をしばしば耳にする。しかし、この日は特に気になる行儀の悪さは感じなかった。むしろ日本人の酔っぱらい集団の、話し声が大きく食べ残しを散らかしたりする様子が目に付いた▼かつては国内旅行の人気スポットであった北海道各地の観光地も、日本人の来客数は減少の一途をたどっている。そんな時代にアジア圏からの訪問客は大歓迎である▼もちろん文化の違いなどから、心ならず「マナー違反」するケースもあるだろう。でもそれは日本人が海外旅行した際にも起こりうること。慣れない異国の地でとまどう外国の方を見たら、さりげなくサポートできるような大らかな気持ちでいたい。(U)


9月22日(月)

「ニンゲンやめる覚悟あるってわけ。生きるも、死ぬも、さぁ、行きましょう。踊る彼岸花の手を取って。残酷だけど美しい世界へ」(漫画「彼岸花の咲く夜に」)—中2の孫娘から借りて読んでみた▼悲しい思い出、想うはあなた一人、あきらめ、独立、再生、情熱、恐怖…。秋の彼岸に欠かせぬヒガンバナの花言葉。別名、曼珠沙華(マンジュシャゲ)は、慶事が起きる兆しに天から降ってくる「天界に咲く花」▼日本の植物で最も別名が多く、呼び名は1090もある。「花が咲く時は葉はなく、葉がある時は花が咲かず」といい、根に毒があるため「死人花」とも。相次ぐ児童虐待は「捨子花」か。認知症で身元不明者は「幽霊花」なのか▼反面、リコリンという根の毒を水で除去して作った「饅頭華」は飢きん時の食用・薬用になったという。米英人を殺害した「イスラム国」に対し、仏軍も空爆を開始。この饅頭華を避難民に届けたい▼樹木葬、花壇葬、海への散骨…少子高齢化に伴って、お墓の形も変化してきた。でも、曼珠沙華の赤い色が流れる道の辺にも彼岸や浄土がある。太陽が真西に沈むこの季節こそ、西方に想いをはせ生かされていることに感謝したい。(M)


9月21日(日)

市町村にはさまざまな条例が存在する。行政を進める上で共通した条例もあれば、独自性のある条例まで多岐にわたる。罰則の有無はともかく、法の一部であるから、疎(おろそ)かにはできない▼数ある条例の中でここ数年、増えているのが地域産業の後押しを趣旨にした条例。住民の意識を喚起するのが目的の、言わば宣言みたいなものだが、それでもあるとないのでは違う。探してみると結構多い▼例えば…いずれも通称だが、酒造で知られる京都市の乾杯条例(日本酒で乾杯を)、新潟県南魚沼市のコシヒカリ普及条例、兵庫県香美町の魚食普及条例などなど。そして今月も新たな情報が伝わってきた▼梅の栽培が盛んな和歌山県のみなべ町から。「南高梅」という梅干の産地として知られるが、米の動向に比例するかのように消費は停滞気味という。このままでは、という危機感から議会が議論しているのが…▼仮称・梅干しでおにぎり条例。地域の産物を自分たちが消費せずに、どうして他の地域の人に勧められるか。かつて一村一品が奨励された時代に言われたことである。「まずは地域が率先して消費しよう」。こうした条例はその指摘と重なり合う。そこに意義もある。(A)


9月20日(土)

スコットランドは古くから民族意識、自治意識が強く、国名を知ったのは卒業式に歌う「蛍の光」や授業で習った「故郷の空」がスコットランド民謡だったから。それにスコッチウイスキーも…▼英国、正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。その一つ、ケルトの流れを継ぐスコットランドで、2年前から連合王国からの独立運動が高まり、イギリスと話し合いを続けてきた▼先日、独立の是非を問う住民投票を実施。1週間前の世論調査で「イエス独立」が「ノー独立」を上回ったが、16歳以上の住民が投票した結果、「ノー独立」が40万票の大差をつけて勝利。「思えば遠し故郷の空」を取り戻した▼ネックになったのは経済・財政・金融問題。スコットランドにある北海油田の税収だけでは運営困難で、将来に不安と戸惑いを感じたのだろう。また、原子力潜水艦の基地を巡って「核はいらない」という声もかき消された▼新朝ドラ「マッサン」は、ウイスキーの製造技術を学びにスコットランドへ渡った青年が現地の女性を愛し“外国人の嫁”を連れて帰国するところから始まる。世界が注目した住民投票。王国に残った“しこり”を、どう修復していくか、注目したい。(M)


9月19日(金)

15年ほど前、新しい日韓漁業協定の締結に向け、自民党の代表として交渉にあたっていた佐藤孝行さんが語っていた。「内政の失敗なら誰かが尻拭いすればいいが、外交の失敗はそうはいかない。後々まで残る」。その思いで外交交渉に臨んだのだろう▼慰安婦報道の一部と、福島第一原発事故での作業員撤退報道について、朝日新聞が記事を撤回し、謝罪した。政府は朝日に対し、国際社会で失われた日本の信頼を回復する努力を求めた▼「20万人を無理やり慰安婦にした」との国連報告にも影響し、慰安婦像が世界に建立されるきっかけになったとされる。国際社会に定着したイメージをどう拭うか、重い責任と試練だ▼中国や韓国にとって、反日は自国の政権安定につながる。慰安婦問題が政治的に利用され、国際社会に喧伝(けんでん)されたことは否めない。一方で痛烈な朝日批判は、韓国を嫌い、中国を憎むわが国保守層の風潮と表裏をなしている面もあり、冷静な受け止めが必要だ▼戦争や大事故は普通の状態ではない。だから通常の感覚では考えられないことが起きる。熱い時ほど冷静に、事実関係をしっかり確認し、虚飾なく伝える。みな心掛けていることだが、あらためて自覚したい。(P)


9月18日(木)

いつごろからなのだろうか、戸建てなのに庭が、土の部分がほとんどない住宅が増えたのは。新興の住宅地を歩いていて、ふと気づいたのだが、そう思って注意しながら見ていくと、本当に多い▼マイホームは戸建て派、マンション派に分かれる。戸建ての分譲は概ね郊外で、マンションのほとんどは市街地…それぞれに良さがあり、最終的には仕事や生活スタイル、環境などが決め手となる▼近年はマンション需要が高まっていて、函館市内でも増えているが、一方で戸建て人気にも根強さがある。その理由の一つに「庭」がある。芝生が象徴的だが、花木に野菜を植えて…。だが、そこに、かつての光景はなかった▼家の周りは土や植物ではなくアスファルト。考えてみると、それも仕方ない。郊外生活には車が欠かせない。共稼ぎの世帯も多く、一家に2台は珍しくない。その保管場所の確保を優先させなければならないから▼アスファルトの方が清掃は楽だし、家の周りの美観を維持できる。例え庭のスペースがとれたにしても、手入れが大変だし、ちょっと花木や花を楽しむミニ花壇などで十分。新たな戸建てスタイルと映るが、これも時代が求める現実の姿にほかなならい。(A)


9月17日(水)

ハマナスが咲き誇る大森浜。悲しみを背負った男と家族のため必死に働く女。傷ついた男女が漁火通りの啄木小公園の砂浜を踏みしめ、再生の光を見いだした(映画「そこのみにて光輝く」)▼砂浜は1万年かけて少しずつたまったもので、自然が共存する「里海」。湯の川温泉まで続く大森浜の砂は年々減り、かけ出し記者だった50数年前に「このまま侵食が続けば100年後になくなっているだろう」と根拠のない記事を書いた▼石川啄木が「北の浜辺の砂山の〜」と詠んだ頃は東西に1㌔、南北に300㍍、高さ最大30㍍の砂山だった。しかし、戦時中、砂山から砂鉄が採れると大量に持ち出され、ダムやビル建設、道路舗装にも利用された▼砂浜(海砂)の減少は全国的な傾向。天橋立では砂州の侵食が激しく消滅する危険性が出ている。鳥取砂丘もしかり。特に瀬戸内海の海砂採集は環境と生態系に深刻な影響をもたらしている▼関係自治体は採集された海底の現状や藻場の再生状況など近く調査するが、海砂採集の傷痕が元に戻るには数千年もかかるという。このため、環境省は「原則として海砂採集は行わない」との方針を打ち出した。大森浜は函館観光の大きな資源。侵食を食い止めよう。(M)


9月15日(月)

健全な政治のために鍵を握るのは与党と思われがちだが、実は野党と言われる。野党に勢いがあれば政治は活性化するという意味を含んでのこと。与党の独走をけん制する立場を担っているからである▼かつての二大政党時代の社会党を思い浮かべると分かりいいが、民主党政権が頓挫し多党化した現在、その野党に元気がない。再編の動きも期待を抱かせるまでに至らず、野党混迷の時代の様相▼それは政党支持率も物語っている。例えばNHKの今月調査…。自民40・4%、公明4・3%の与党に対し、野党で1%を超えているのは民主(5・4%)と共産(3・3%)だけで、野党全体で14・6%▼その新鮮さから一時期、脚光を浴びた日本維新の会、みんなの党も分裂して支持率は低下。そして今、日本維新の会は結いの党(元みんなの党)との合併に動き、さらに再編の輪を広げようとしている▼一方で、民主党やみんなの党からは党内不協和音が伝わってくる。野党に位置しながら与党よりと映る政党もある。いずれの姿も与党を利しているだけで、プラスに作用していない。内政、外交に重要な政治課題が山積している今こそ、存在感を示すチャンスなのだが。(A)


9月14日(日)

人は城、人は石垣、人は堀…。戦国時代の武将、武田信玄は城を持たなかったが、勝敗を決めるのは強固な城や石垣ではなく、信頼できる人の集団であると語った。企業経営の要諦にもたとえられるが、今も昔も「人」は大きな財産▼人口減少を大きな背景にした労働力不足が続く。今やあらゆる業界で人材の獲得競争が激化し、確保できなければ事業廃止すら現実となっている。一方で、経営者の側にも将来の人材が足りていないという問題がある▼帝国データバンクの調査によると、渡島・桧山管内の企業の中で、後継者が不在と答えた企業が66・7%に上ることがわかった。3社のうち2社が不在で、売り上げの低い企業ほど後継者が決まっていない傾向もわかった。全国調査でも同様の結果という▼後継者がいる企業でも、61・6%が「子ども」と答え、配偶者や親族を入れると8割が“同族頼み”。同族は同族の良さがあろうが、そうした後継者すらいない企業が多い▼企業の成長には、生産性の向上や業績拡大に向けた戦略が必要。だが、経営者の先が見えなければ、長期ビジョンの構築や10年、20年先の成長は難しい。21世紀に日本経済を襲った「人」の問題。早急な対策が求められる。(P)


9月13日(土)

「食べ歩き」という言葉は日常的に使われ、違和感はない。その土地の名物料理などを訪ね、食べて回るという意味として。誰もが理解できる表現だが、「歩き食べ」となると話は別▼読んで字のごとしで、道路など歩きながら食べること。函館でも見かけるように、観光地では一般的な光景。昔は行儀の悪い、とんでもない行い、と厳しく教えられたものだが、今の時代、社会も寛容になって…▼先日の読売新聞が報じていたが、その「歩き食べ」に一石を投じた観光地がある。江戸期の茶屋様式の建築物が軒を連ねる金沢市の「ひがし茶屋街」。自販機の設置や広告物も自主規制するなど美観の維持に努めていることで知られる▼ごみ問題などから、その延長線の取り組みとして観光客に求めたのが、アイス類や和菓子などの「歩き食べ」。3カ月になるそうだが、おおむね受け入れられ、一帯の景観にマッチした趣が維持されているという▼伊勢神宮の「おかげ横丁」などは、それがにぎわいを生み出す一つの要素となっている。そっちの方が多数派だが、観光地にはそれぞれ独自の歴史文化があり、風情も異なる。そう考えると「歩き食べ」に安易な論評はなじまない。どう守っていくか、の判断だから。(A)


9月12日(金)

奥尻島には明治の末期に「稲穂岬から、シカが一列になって海を渡って逃げていった」という言い伝えがある。上ノ国町の沖合を泳ぐシカを報じた本紙2日付の記事を読んで、奥尻町教育委員会の稲垣森太さんから情報が寄せられた▼奥尻町史などによると、将来の産業化を目指して開拓使函館支庁が1878(明治11)年と翌79年、島内に計6頭のエゾシカを放った。約20年でシカは数千頭に達し、農作物の食害など負の影響をもたらすようになったため、98年に捕獲を始め、3年間でシカの姿は島から消えた▼当時、追いつめられたシカは、島の北端の岬から海に飛び込んだ。十頭ぐらいの群れがきれいに並び、ときには前を泳ぐシカの体に顔を乗せて休んでいたという目撃談もある▼「島の多くの人が伝え聞いている。眉唾(まゆつば)だと思っていたが、泳ぐシカの記事を読み、本当だったのではと思うようになった」と稲垣さん。上ノ国のシカは、奥尻から対岸の本道まで約18㌔を泳ぎ、逃げのびたシカの末裔(まつえい)かもしれない▼現在の道内でもシカの食害が深刻だ。捕獲して資源化する試みも各地で行われている。明治期の奥尻で果たせなかったシカの資源化は、百年以上もすぎたいまも模索が続いている。(I)


9月11日(木)

プロテニスのクルム伊達公子選手が、伊達公子として活躍していたのが今から20年ほど前。全豪、全仏、全英で最高位ベスト4、シングルスの世界ランク自己最高4位という輝かしい記録は未だに色あせることはない▼その後も杉山愛さんが全英、全豪でベスト8入りし、ダブルスの世界ランク最高位1位(シングルスは8位)になるなど、日本の女子選手の活躍ぶりには、目を見張るものがあった▼一方、男子に関しては、松岡修造さんが1995年の全英でベスト8に入る快挙を成し遂げているが、シングルスのランキングは46位止まりだった▼そんな女性上位の日本のテニス界に嵐を巻き起こしてきた錦織圭選手。2012年の全豪でベスト8入りを果たすとその後も活躍を続け、日本人男子初の世界ランクベスト10入りを成し遂げた▼その一方、自分より一回りも二回りも大きなライバルたちとの激戦に故障も多く、今回の全米オープンも親指の嚢胞手術明けというハンデを背負っての出場だった。逆境をはね除けての準優勝は賞賛以外の何物でもない。4大大会での優勝という夢の実現も楽しみだが、何よりも私たちを感動させてくれる熱い試合を届け続けてほしい。(U)


9月10日(水)

戦後の復興は昭和天皇の全国ご巡幸から始まったといわれる。終戦2年後の秋、石川県の巡幸で七尾市の和倉温泉に立ち寄られた。小6の時、能登半島の先端の学校から全校児童が発動汽船で駆けつけた▼白い紙に赤い丸を書いた手作りの日の丸を振って。遠方から姿を見るのが精いっぱい。国民を慰め励まし、一人一人に生活状況を聞くなど気を配われた様子。「国をおこす もとゐとみえてなりわひに いそしむ姿たのもし」と詠まれた▼生物学者としての顔も持つ天皇。幼い頃から生き物に興味を持ち、小5の授業でカエルを解剖して、御所でもトノサマガエルの解剖に挑戦されたことも。戦後の食料難で、子供たちはカエルやヘビを食べていたのに…▼A級戦犯を靖国神社に合祀することには強い不快感を示し「だから私は、あれ(合祀)以来、参拝していない。それが私の心だ」と話されたという。戦没者の慰霊は否定しないが、靖国神社に参拝する閣僚たちは、どう感じているか▼61巻、1万2000ページ余にわたる「昭和天皇実録」が公開された。平和を希求し苦楽を国民と共にした昭和天皇の姿が浮き彫りに。ただ、天皇が米軍の沖縄占領継続を容認し、基地化につながったことが心残り。(M)


9月9日(火)

人口減少、少子高齢化、産業の衰退…。地方の市町村ではこうした課題が指摘されてから久しい。国も地方も指をくわえて待っていたわけではないが、総務省人口動態調査によると、函館市の人口は昨年1年間で約3000人減り、道内全体でも約3万人が減った▼安倍内閣は目玉政策として「地方創生」を打ち出した。7日には首相と石破茂担当相が並んで「まち・ひと・しごと創生本部」事務局の看板を掲げた▼問題なのは政策の中身だ。来春の統一地方選をにらんで、各省庁からは公共事業の増額要求が強まっているというが、一過性の「ばらまき」に終わってしまえば意味がない。従来型の人口減少対策も、効果が表れているとは言い難い▼「函館で暮らしたいが、働く場がない」という声をよく聞く。地方を活性化させるには、若い世代が定着し、子どもを産み、育てていける環境でなければならない。まずは雇用の創出が必要だ▼十勝管内本別町など33道府県の93市町村は来月「人口減少に立ち向かう自治体連合」を発足させる。活性化のためには国と地方が足並みをそろえることも不可欠。地方の声を吸い上げ、「創生本部」がどういった長期的ビジョンを描くのかが問われている。(I)


9月8日(月)

記憶にあるだろうか、先月の本紙に「本通町会 役員は中高生」という見出しの記事が載ったことを。青少年育成部員に就いた2人の姉妹に、町会内の期待は大きいと伝えていた▼地域の安心…それは互いを知ることから始まり、助け合いの気持ちが広がって保たれる。町会はその原点とも言える自主的な住民活動であり、本紙が創刊時から町会欄を定期掲載しているのも「互いの参考に」という思いから▼親睦を柱に清掃などの環境整備、防犯や防災への取り組みなどに加え地域事情に合わせた事業も。ただ、特に都市部では、役員の高齢化などとともに、その町会への加入率の低下が課題と言われて久しい▼実際に町会が190ある函館市でも、役員は現役の仕事を離れた人たちが多い。加入率も核家族化の流れ、さらに少子化という時代背景もあって60%弱まで落ちている。こうした難しい現実があるから…▼若い人がそこに一石を投じてくれたのは明るい話題。紙面に取り上げたのも姉妹の活動が刺激を与え、第二、第三の若い役員が出てきてほしいという思いから。一般論ながら、組織活動の活性化に欠かせないのが若い人たちの参加…町会もその例外でない。 (A)


9月7日(日)

夜に大気が冷え込んで草花に宿る朝露。ススキ、コスモスなどが冷気を感じる候。7日は二十四節気の一つ「白露」。集中豪雨による土砂災害に見舞われた広島や、原発事故による汚染水問題が深刻な福島でも露の草花や名月が見たいもの▼今夏は異常気象で列島は「50年に1度」の豪雨。広島の土砂崩れでは、多くの住民が犠牲に。いまだ学校などでの避難が余儀なくされている。道内でも礼文島で2人が犠牲に▼住宅は破壊、流されて、田畑は泥で覆われた。稲穂や秋の七草なども全滅。全国的に危険箇所の土砂災害警戒区域の指定が問題となった。まさに「百ミリの大雨上がる白露かな(金川眞里子)」となった▼福島原発事故による放射能汚染水はたまるばかり。四つの原子炉建屋を凍土壁で囲む工事も難航し、汚染土を処理する中間貯蔵施設の建設も進んでいない。そんな汚染土の田畑や庭には朝露で光る草花などは見られないかも▼白露に次いで8日は「中秋の名月」。かぐや姫にススキと月見だんごを供えて豊作を感謝。安倍改造内閣に5人の「かぐや姫」が入閣した。優しく、心強い気配りで、広島を悲しみから救い、東北の故郷に帰れるようにしてほしい。お月見ができるように。(M)


9月6日(土)

「考えたくもないし、考えるにしてもまだ早い」。高齢者と呼ばれる歳になっても、そう思っている人は少なくない。だが、早かれ遅かれ、誰しも考えなければならない時はやってくる▼自活が難しく、介護が必要になる可能性を秘めているから。第一生命経済研究所が行った調査結果も、そんな現実を物語っている。65歳から79歳までの一人暮らしの人の約半数(48%)が、特に準備していない、という▼高齢者だけの世帯、独居世帯は年々、増加の一途。高齢社会白書(2011年度)によると、一人暮らし高齢者は全国で479万人。高齢人口に占める割合も男性で10%、女性で20%を超えている▼さらに国立社会保障・人口問題研究所は、ほぼ20年後は762万人とまで推定している。その人数に社会の体制が応じていけるか、不安が頭をよぎるが、予め考えておくことが大事、と言われるのもそれ故▼最も懸念されるのは一人暮らしの人だが、夫や妻、近くに子供がいる人でも問われることは同じ。だから、準備を、となるのだが、介護を受ける際の手順ぐらいは理解し、考えや思いなどはエンディングノートにまとめておく…これだけでも準備の要件は満たされる。(A)


9月5日(金)

「末は博士か大臣か」—。博士号を取得しても就職先がないポストドクターが世にあふれ、当選を重ねても入閣できない議員がぞろぞろ。今回の内閣改造で初入閣は8人。入閣適齢期の議員は自民党内に60人ほどいたというから、狭き門だ▼行政庁のトップに立ち、国政を指揮する。大臣のやりがいだが、歴史に名前が残ることも魅力。わが国の朝廷人事を記した「公卿補任(くぎょうぶにん)」は今で言う閣僚名簿のような史料で、太政大臣や左右大臣、大納言、中納言などが一目でわかる▼平安時代中期、栄耀(えいよう)栄華を極めた藤原道長は、左大臣や摂政を務めた。摂関家の五男だったが、兄たちが相次いで疫病に倒れ、政争にも勝って長期政権を築いた。満月を見ながら、この世を「わが世」とまで思った逸話は有名だ▼一昨年12月、再登板で政権をスタートさせた安倍首相も、周りには目立った政敵がいない。強い指導者像に何となく重なり、今回の人事では敵の芽を摘んだともいわれる▼ただ、入閣を逃した議員たちの不満は残っているだろう。満月には雲もかかるし、いずれは欠ける。新閣僚とともに国民の期待に応える政治を実践し、国家が再生し、結果として長期政権になるのであればいいのだが。(P)


9月4日(木)

子どもの頃、蚊に血を吸わせるだけ吸わせて、手でバシッと叩きつぶした。夜になると、麻などでできた蚊帳を部屋の四隅の柱に吊るして、蚊より先に蚊帳の中にもぐり込んだものだ▼ヒトスジシマカ(一条縞蚊)はデング熱の運び屋。いわゆる縞模様のあるヤブ蚊。昔、米国で輸入した古タイヤの溜まり水にボウフラが発生したのが始まりとか。それが輸出され、タイヤに乗って世界へ飛び出したという▼デング熱は日本でも年に200例ほど報告されているが、今年は流行国で感染した人が国内にウイルスを持ち込み、日本の蚊が媒介したことが考えられる。舞台となったのは東京の代々木公園や周辺で、3日までに感染者は48人▼代々木公園を訪れた新潟県の人や公園でテレビ番組のロケをしたタレント、札幌市の女性も感染した。だいたい1週間で治るが、重症化すると命を失うことも。病院に来ない人もおり、実際の感染者はもっと多いという▼デング熱の世界の感染は、この30年で10倍近く増えている。流行国の一つ、ナイジェリアは日本企業が開発した未承認の治療薬を感染者に利用することを検討。温暖化による感染症の危険拡大が心配されている。近づく蚊の羽音にご注意。(M)


9月3日(水)

北海道日本ハムファイターズの稲葉篤紀選手が2日、今季限りでの引退を表明した。「胴上げ請負人」として20年間活躍したが、体力の限界を感じ、潔くユニホームを脱ぐ▼小林浩オーナーは「ファイターズがファン、道民にとって身近な存在になり得た最大の功労者の一人」とたたえる。函館でも老若男女のファンが多く、2011年にオーシャンスタジアムで本塁打を放った時は、禁止されていた「稲葉ジャンプ」ぐらい球場が揺れる歓声が起こった▼本当にいつも笑顔だった。テレビで会見を見た函館の女性は「あまりにも爽やかで涙が出なかった」と話す。これからは野球に恩返しするため、若い選手を育てたいという夢を語った時も輝いていた▼12年、八雲町で少年野球教室を開いた時「みんなが上達して、北海道の野球は強いことを全国に知らせよう。いつか自分が監督かコーチになった時、選手になっていてくれたらうれしい。野球道具を大切にしてね」と話し、子供たちを笑顔にさせた▼函館は6月のイースタンリーグが現役最後の雄姿となった。雨の中で素振りとキャッチボールだけだったのは残念だが、次は指揮官として、道南の選手を率いる姿を心から待ちたい(R)


9月2日(火)

8月、豪雨による土砂災害が相次いだ。広島では死者が70人以上になり、道内でも宗谷管内礼文町で2人が犠牲になった。2つの災害で避難勧告と警戒区域の課題が浮かび上がっている▼礼文の場合、町が避難勧告を出したのは土砂崩れが発生してから約4時間後。道から数回促されていたにもかかわらず、勧告を出していなかった。広島でも勧告発令が災害発生後だった▼一方、広島と宗谷の被災現場は、いずれも土砂災害防止法に基づく警戒区域に指定されていなかった。危険個所のうちの警戒区域指定率は、北海道は12%で全国ワースト1位。全国平均の68%に遠く及ばない▼道南でも8月は雨が多かった。22日の大雨の際、松前町が早い段階で避難勧告を発令。大きな被害はなかったが、町内会長らが速やかに対応していたという。ただ、渡島・桧山管内の危険個所約1800カ所に対し、警戒区域は223カ所にとどまる▼避難勧告には「空振り」の懸念や自治体の人手不足などの課題がある。警戒区域指定には住民の同意や、調査費用がネック。しかし、災害時には命を守ることが最優先。国や道も対策強化に乗り出す構えだ。「防災週間」に当たりまずは身近な地域のことから考えてみたい。(I)


9月1日(月)

最近、ニュースでよく「ふるさと納税」が取り上げられる。納税という名の自治体への寄付だが、個人的に出身地のため、応援したい市町村のために寄付する制度。税制面の措置も伴って7年前から始まった▼自治体にとっては、苦しい財政運営の一助になるばかりか、自分たちのまちを知ってもらう機会。その見返りに、地元の特産品を贈るなどの特典を設けて募る手法が、実績を後押ししている▼道南でも七飯などで取り組まれている。寄付件数は全国的に増え続け、道内でも昨年度で4万8000件、15億円を超える規模になっている。その中で注目されているのが、全国2位にランクされている十勝の上士幌町▼民放のテレビ番組でも紹介されたが、1万円以上から金額に応じて和牛やジェラードなど特産物のセットを用意、ネットでも積極的に告知してきた積み重ねの成果か、昨年度は実に約1万3000件あって2億4000万円▼特典は地元の企業や農業者らを潤し、その経費を差し引いても結構な額が残る。これを財源に今年度、ふるさと納税・子育て対策夢基金を創設したという。うまく制度を利用した例だが、特典を巡る市町村の判断はなお二極化の状態が続いている。(A)