平成28年3月


3月31日(木)

おととし埼玉で行方知れずとなった15歳の女子生徒が、公衆電話から弱弱しい声で「お母さん」とSOS。家での呼び名を問い直すと「うん、そう」。失われた2年の空白に胸が痛む▼23歳の男に、千葉と都内のアパートの部屋に監禁されていた。鍵がかかっていない日、男が外出した隙にアパートから逃げ出したという。保護された時、持っていたのは現金170円と、学校に行きたくて毎日繰り返し見ていた中学校の生徒手帳▼2年前、女子生徒に「弁護士だが、送ろうか」と声を掛け、連れ出し監禁。男は大学生で卒業後の就職先も決まっているため先月、都内に転居した。女子生徒に「迷惑かけてごめんなさい。しばらくは帰らない」という手紙まで書かせていた▼容疑者にも親がいるだろう。息子の暮らしを見に行く機会はなかったのか。少女を監禁している生活が2年も続いていたのに。「都会の落とし穴」に気づかなかった▼アパートから逃げ出して駆け込んだ駅の公衆電話が「命綱」に。2年も経つというのに家の固定番号を覚えていた。スマホに夢中な若者は固定番号を忘れ、高齢者は携帯番号を忘れる時代なのに。季節はふた巡り、女子生徒に「15の春」が戻ってきた。(M)


3月30日(水)

分が悪くなると動く。人間社会にはよくあることだが、こと国政に関わることとなると話は別。そう受け止められても仕方ないのが保育園などの待機児童の解消対策。政府の対応が急に加速し始めた▼発端は2月15日の匿名のブログ。あの「保育園落ちた日本死ね」である。入園がままならず、落胆した感情が表に出たのだろうが、それが国会の衆院予算委で公に取り上げられたのは2週間後だった▼「待機」の両翼は幼児の保育園とお年寄りの特養と言われるが、幼児の「待機」は女性の社会参加の足かせに。働くにも(子どもを)預ける所がなければ働けない。都会で不足が社会問題化して久しい。なのに…▼安倍首相の国会答弁が物議を醸した。「匿名である以上、実際本当かどうか確認のしようがない」。ネット上で批判の渦となり、慌てたのが政府与党。風当たりは強く、なんとも分が悪い。7月には参院選を控える。案の定、野党は争点にしようとしている▼急ぎ対策を迫られた安倍首相が指示したのが小規模施設の定員を増やすなどの規制緩和。これで待機状況がどれだけ改善されるか定かでないが、分が悪いと思わせ、対策へと動かした…いつの時代も国民の声は侮れない。(A)


3月29日(火)

「駅前にこんなに人がいるのを初めて見たよ」と、興奮気味に知人が話す。北海道新幹線の開業で26、27日の函館・道南はまさにお祭り騒ぎであった。嵐のような2日間がまたたく間に過ぎ去り、新幹線はこれから当たり前の日常になる▼ただ、光の裏には必ず影がある。今回のダイヤ改正で道内の無人駅8駅が廃止になった。道南では八雲町に1駅あるが、大半は道北や道東。新幹線の恩恵をほとんど受けられない地域だ▼その中の一つ、石北線の「旧白滝駅」は利用客が女子高校生1人のいわゆる秘境駅。彼女の卒業を待っていたかのように、25日で69年間の歴史に幕を閉じた。他の駅も利用客がいなくても、地域住民が駅を毎日掃除していたりと大切に扱われてきた▼道南でも、いさりび鉄道誕生の陰でJR直営の江差線が姿を消した。札幌に延伸する15年後には函館・道南から「JR」の在来線が消える運命が待っている▼「新幹線開業の裏で大切なものが失われている」。27日のテレビ番組で、秘境駅のノートにこんな文言が書かれているのを見た。何かが生まれれば何かを失う。新幹線開業は見知らぬ誰かの犠牲の上に成り立っていることをあらためて認識し、最大限に活用しよう。(C)


3月28日(月)

“銀幕の妖精”のオードリー・ヘップバーンの映画「ローマの休日」は何度も見た。ベルギー生まれで晩年、ユニセフ親善大使として内戦や飢饉に苦しむ国々を駆け巡った▼アンネ・フランクと同じ年。ナチス占領下で死の恐怖におののいた。22日の空港・地下鉄テロで31人が死亡し、邦人2人を含む200人以上が負傷。生まれた街の大惨事をいかに嘆いていることか▼ブリュッセルはEUやNATOが本部を置く「欧州の都市」で、観光立国。自爆犯は地元の兄弟らしく、パリのテロと関係しているようで、イスラム国(IS)を名乗るグループが「十字軍連合に暗黒の日々を」と犯行声明▼ベルギーといえば身長60センチの「小便小僧」。17世紀ごろ、街の破壊を企てた反政府軍の爆弾の導火線を小便で消した少年に由来する。小便小僧をテロに対抗する象徴として、団結を呼び掛けるツイッターも。難民への排斥機運も高まる▼日本も例外ではない。5月に開催される伊勢志摩サミットが標的になりかねない。テロの犠牲者は世界で年間3万人超。ヘップバーンは「大勢の子どもが死んでいるのに、誰も語ろうとしない。大人の最大の恥であり悲劇だ」と怒っているだろう。(M)


3月27日(日)

北海道新幹線が開業した。函館、北斗、木古内、知内では、朝早くから沿線に地域住民らが並び、車両に手を振って出迎えた。すべてが北海道新幹線の「H5系」でなかったのは残念▼どこもかも、笑顔であふれる一日だった。歓迎に出向いた人、乗客、イベントに参加した人…、子どもから大人まで、道民も観光客も、東北の沿線地域までも、新しい歴史が始まった一日を祝った▼その笑顔にあるのは「期待」。期待とは「何かが実現する『だろう』」「当てにして待つこと」の意味。「期待は実現に勝る」のことわざは、現実より期待の方が楽しいこと。その通りなら、新幹線は開業のお祝いだけで、人々の関心は終わってしまう▼きょうからは北海道新幹線が道南の経済活性化の起爆剤に「なるだろう」と当てにして待ってはいけない。財界関係者ばかりでなく「しなければならない」という強い気持ちを持つことが必要。まずは乗ってみて、快適な列車から始まる地元・道南の旅の良さを広めることも大切だ▼いうまでもないが、JR北海道が「だろう」はであってはならないのは、新幹線の安全運転の期待に応えること。道民の期待を背負って走る列車に事故があっては、夢も希望もなくなる。(R)


3月26日(土)

「いよいよ」「ようやく」-。「3・26開業あと〇日」を本紙1面にずっと掲載してきた。その数字が2桁に、そして1桁になり、きょう26日、「夢の瞬間」を迎えた▼1973年の整備計画決定から43年。新青森駅と新函館北斗駅約149キロ区間を結ぶルートが開通した。28年前に完成した青函トンネル(54キロ)を通り、東京と北海道が最短4時間2分で結ばれる▼地域住民にとって悲願の開業を、複雑な思いで迎える人も、正直いる。航空機に対抗する「4時間の壁」を破れず、通常料金は割高だとして、空路との競争力を懸念する。新駅と函館市中心街とは約16キロ離れている▼それでも、九州から北海道まで、高速鉄道でつながる意義は大きい。人口減少や水産業など経済の基盤が揺れる道南で、注目度は高まっている。地域の宝を見詰め直すとともに、道南全体が、青森をはじめとした東北と連携し、新たな価値を生み出していけるか。関係者が指摘するように「26日をスタートとして、開業をどう地域づくりに生かしていくか」が問われている▼住民が旗を振り、桜の花が出迎え、福島町ではのろしが上がるなど各地で歓迎の催しが行われる。新時代のスタートを胸に刻む日としたい。(Z)


3月25日(金)

北海道新幹線開業まで、いよいよあと1日。最近は一般記事はもちろん、本欄も開業に関する話題でもちきりとなっている。一般記事は道南各層の取り組みを主に伝えているが、本欄は「やや辛口」にまとめざるを得ない面がある▼と言わざるを得ないほど、今回は逆風下での開業となる。新函館北斗駅は函館市街地にほど遠く、航空機との競争の指標となる「4時間の壁」も切れず、開業当初の予約状況もふたを開けてみれば空席が目立つ▼それは致し方ないと、筆者自身が実感する出来事があった。札幌に住むめいを新幹線に乗せようと、日帰りながら青森への家族旅行を計画した。早速ネット予約を活用してみたが、割引が適用されても大人3人、子ども1人で往復4万円以上▼子どものためにと財布のひもを緩めてはみたが、なかなかの出費。在来線だと青森にプラスして弘前にも行けるフリー切符で往復8000円程度で往来できた▼時間距離は近くなれど、頻繁には新幹線を使えないというのが実感だ。むしろフェリーにとってはチャンスかもしれない。身一つで乗れば往復5000円でお釣りがくる。新幹線と組み合わせ、旅の幅を広げながら生活防衛術につなげるのが無難かも。(C)


3月24日(木)

「思いやり」「もてなし」…その精神を一言で表す言葉は、誰もが知っている「ホスピタリティ」。人間社会において最も大事な精神とされるが、現実的には「迎える心」として観光面などで言われる▼その善し悪しはリピーターになってくれるかどうかにつながり、気持ちを損なうと悪評価が口コミなどで広がりかねない。函館もそうだが、もてなしの思いを常に、と啓蒙や研修が行われてきているのもそれ故▼言うまでもなく函館・道南は北海道を代表する観光地域。訪れる観光客は多い。そこに北海道新幹線の開業が呼び水となって、今年は特に増加が期待される。そこで「ホスピタリティ」をおろそかにしては、取り返しがつかなくなる▼故に改めて問われてくるのが、さらなる意識の広がり。実は…「ホスピタリティの日」というのが設けられている。日本ホスピタリティ推進協会が1994(平成6)年に制定したもので、その日は3月24日▼ホテルや旅館をはじめ市場、商店など函館・道南の観光関連施設は、新幹線開業に向け迎える準備は万端だろうが、願うはその輪が地域を挙げての域までに…開業日2日前の24日は、地域で「ホスピタリティ」の精神を再確認する日としたい。(A)


3月23日(水)

函館駅前で北海道から九州まで「つながるニッポン祭り」を開催、上空ではブルーインパルスの飛行、松前藩が参勤交代の際に上げた「のろし」を再現。市電も無料運転。開幕戦と重なる日本ハムも「H5系」のユニホームに一新▼北海道新幹線開業の26日に函館、北斗両市をはじめ、沿線自治体が総力を挙げて展開する祝賀イベント。GLAYは言う。「人を運ぶだけではなく、新しい経済圏をつくり、各地の文化を伝える役割を持つ」と▼「あらしのなかに泣き叫ぶ 汽笛も絶えし 洞爺丸~」。青函トンネル建設の契機は、洞爺丸台風による大惨事だった。40年前の毎分85トンという最大の出水事故(3キロ水没)を乗り越え24年かけ完成▼工事従事者は延べ1370万人。出水や崩落などで34人が殉職。事故のたび、取材に駆けつけた。新幹線の開業で「スーパー白鳥」など在来線列車が廃止、秘境の無人駅もなくなるのが寂しい▼青函トンネルは新幹線用に設備切り替えのため、開業前日まで休業。もし事故が起きたら深い海底だけに大惨事につながる。銀河鉄道999には「不注意で停車駅以外の場所に停車した乗務員は分解処分」という厳しい規則がある。安全運転に徹してほしい。(M)


3月22日(火)

記者としてカメラを持たされたころは、ピントと露出はカメラ任せの時代になっていた。だが先輩記者はマニュアル(手動)でピントを合わせる世代。よく言われたのは「オートの方が大変だな」▼また、カメラのデジタル化が進む頃でもあった。フィルムなどの経費が削減されたことは大きい。しかし先輩記者は「撮った写真がすぐ分かると、丁寧に撮らなくなるな」と苦言。その通りになった▼カメラのデジタル、オート化による最大の利点はスピードだ。じっくりピントを合わせなくてよい、写真は1枚だけ必要でも、フィルムは36枚分の現像に時間が掛かっていた。取材から掲載処理にかかるまでの時間が大幅に短縮された▼機械が進歩する分だけ、記者は感性を求められた。早く撮影、確認できるなら、たくさん写真を撮ることができる。先輩が言った「大変さ」はここにある。これまで見られなかったような写真を一層求められた▼北海道新幹線の開業で、青函間が約1時間で結ばれる。作家の谷村志穂さんは、小学生の修学旅行で子どもたちに交流する機会を与えてみてはと提案。滞在時間が増えるスピード化の恩恵をどう生かすか。新しい交流スタイルが求められる。(R)


3月21日(月)

「悲しいことがあると 開く皮の表紙」―。函館市内のある高校の卒業式に出向いた際、卒業生を送り出すシーンでブラスバンドが演奏した、荒井由実の「卒業写真」の旋律がじんわりと心に染みた。不安を抱えて函館を去った18歳の春が懐かしくなった▼街中を車窓から見渡すと、引っ越しとおぼしきトラックの姿が目立つようになってきた。進学・就職で街を離れる人々の荷物を運ぶのだろう。新たに越してくる人々はもう少し後の時期になる▼函館市の人口が年間3000人ペースで減少する傾向がここ数年続いている。近年は死亡者が出生者を上回る「自然減」が顕著だが、新たな学校や仕事を求めていく「自然減」の多さも変わらぬ特徴だ▼本州にいる高校時代の同級生と話すと「戻ってきたいんだけどね…」。その後の会話がなかなか続かない。大卒者が街に戻ってこられる仕事の創出と確保が、函館・道南の大きな課題の一つ。定住しやすい公務員だけではおぼつかない▼この春、函館から羽ばたく若い君たちへ。新たな土地でたくさん人生経験を積んで、いつの日か帰ってきて経験を生かしてほしい。戻ったら戻ったで苦労はするけれど、古里はいつでも優しいから。(C)


3月20日(日)

JR北海道が今月9日、北海道新幹線の開業日(26日)から4月3日までに運行される列車の予約状況は25%にとどまっていると発表した。それから10日ほど過ぎたが、どれくらい伸びているだろう▼それにしても25%とは。年度末の開業で、ビジネスにとって多忙な時期であるため旅行ができない…、関東はサクラの時期なのに、あえて寒いと思われる北海道に行かない…、さまざまな理由が考えられる▼ましてや開業日の一番列車の切符があっという間に売れ切れたように、開業フィーバーによる「ご祝儀」的な数字も含まれるはずで、開業日以外は空席が目立つことが予想される▼もっとも、開業1カ月後の大型連休は道南でサクラの時期になり、連休を利用して訪れる人が多くなると思われる。だが、あくまで予想。この1年間の利用状況は本当に目が離せない▼乗車率アップには、道民も新幹線を利用する機会を増やすことが必要。北陸新幹線の新高岡駅(富山)では高岡商工会議所などが駅の利用促進、列車の増便を目指し「1人1客・1人1乗車」運動を展開し、行政や経済に協力を呼び掛けている。コラム子も「ひと月に東北1県訪問」を目指したい。「半年に…」かな。(R)


3月19日(土)

「暑さ寒さも彼岸まで」というように彼岸は季節の節目。お墓参りは太陽が真西に沈むことから西方浄土へ近づく。ところで、お墓参りのお坊さんにお布施はいくら包みますか▼法事や法要、通夜、葬儀があるたびに、お寺(お坊さん)に包むお布施の金額に迷う。そこでネット通販に「お坊さん便」なるものがお目見えした。僧侶を手配して自宅や墓地に派遣してくれるサービス▼通常の法事や法要は、お布施・車代を含めて、全国どこでも一律3万5000円。戒名の授与が加わると別コースの料金になる。「お坊さん便」を出品している葬儀関連会社は400人超の僧侶と個人契約、受注も3倍に急伸している▼僧侶の派遣サービスが始まったのは5年ほど前。僧侶の依頼の方法や費用がよく分からず、お寺に聞いても「お気持ちばかり」と言うだけで、しきたりにも不安を感じる人が多い。電話とメールで受け付けている▼仏教界は「宗教行事を商品化」と批判、お坊さん便の中止を強く申し込んだ。親鸞なら「ネットで坊さんを注文するなんて世も末」と嘆くかも。核家族化の影響か、都市部に限らず、お寺はなれが加速。今季は墓地の雪掘りは不要。彼岸参りに、お坊さんを呼びますか。(M)


3月18日(金)

「仕事、けり付くか」「もうちょっとで」「早く終わらせれよ、行くぞ」…臥牛子が駆け出しのころ、外が暗くなった時間の先輩や上司との会話だが、そのおごってもらう飲み会が勉強の場でもあった▼6畳一間の部屋にはテレビもない。真っすぐ帰ってもわびしいだけ。食事代はかからず、いろいろと教えてもらえるのだから「行くぞ」は一石二鳥の誘い。断る理由などどこにもない。そして自分が先輩となった時…▼誘いの頻度は少なくなったものの、後輩もまだついてきて、駆け出し時代の名残りはあった。管理職の立場になった時には…誘いを避けるように。気乗りしない雰囲気を肌で感じ始めたからだが、この間、40年余り▼時代は移り、生活感、社会的価値観も、仕事に対する意識、人間関係のあり方も変わった。当然と言えば当然、そこに善し悪しの判断を挟むのは妥当でないが、浮かび上がる現代像は、日本能率協会が行った調査が物語る▼一般社員の7割が「仕事以外で上司とは付き合いたくない」と。その内容のトップは食事や飲み会という。そこに一抹の寂しさを覚えるが、現実は現実。管理職などの上司にとって、この調査結果は頭に入れておく必要があるのかもしれない。(A)


3月17日(木)

例えばビジネスの場合。これから会社で大きなプロジェクトを始めて勝負に出るという時に、自分たちの仕事の成否に対して社員同士で現金をかける―なんてことはあり得るだろうか。他人事のようで考えられない▼プロ野球界が激震に見舞われている。巨人で野球賭博に関わった4人目の選手が先週現れ、球団の事情聴取の不備が浮き彫りになったばかりだが、今度は試合前の円陣で試合に勝った場合に声掛けを行った選手が他の選手から現金をもらい、負けると支払うなどの行為に及んでいたという▼日本野球機構は昨秋に把握し、敗退行為にはつながらないとの見方を示しているが、いざこれから戦いに出るという時に自チームの勝敗に金をかける。プロ野球選手という自分たちの仕事そのものを冒とくしてはいまいか▼巨人のみならず、阪神や埼玉西武、ソフトバンクでも選手間で金銭のやりとりがあったことが明るみに。どの球団も「験担ぎだった」と説明してはいるが、験担ぎに現金を結び付けるやり方は常識的とはいえまい▼開幕を前に、球団や選手たちの裏側ばかりがクローズアップされる。選手たちには懸命なプレーで、野球ファンのもやもやとした感情を振り払ってほしい。(C)


3月16日(水)

昨年本で、次いで映画になった通称「ビリギャル」の話題を、ちょっとはすに眺めていた▼女子高生が塾講師と出会い、1年で偏差値を40上げて慶応大学に合格した実話を基にした。宣伝には「塾講師である著者がつづった奇跡の大逆転物語」とあったが、合格よりもその先どうするかが問題なのに、と▼道労働局によると、今年3月卒の高校生の道内求人は1月末現在、前年同期に比べ1457人増。求人倍率も1・83倍と、統計開始以来の最高値。背景には、次代を担う人材を、一般求人で十分に採用できない企業側の事情もあるとされる▼生徒はより多くの求人から進路を選べる状況にある。一方で職種によっては、高卒者の3、4割が3年以内で離職する状況が続いているという▼先日の新聞で、北海道新幹線の開業日、新函館北斗発の一番列車に乗る車掌さん(33)が入社試験で「10年後の私」という作文の課題に、「新幹線の一番列車の車掌になる」と書いていたことが紹介されていた。「夢が今かなおうとしている」とも。「10年後の私」が想像できるかどうか。進路選択のポイントになるかもしれない。筆者は考えたこともなかったことは、告白しておく。(Z)


3月15日(火)

卒業シーズン。校長や来賓は巣立つ生徒たちに激励の言葉をかけ送り出すが、 頭を下げ「生徒が自ら命を絶ったのは学校としても痛恨の極み。深く反省するとともに…」という式辞は怒りさえ覚える▼広島県府中町の中学3年の男子生徒(当時15歳)が誤った2年前の万引き記録に基づく進路指導を受けた後に自殺した。担任は昨秋の進路指導で生徒に「万引き記録があって高校への推薦はできない」と説明したという▼実際は学校側が別の生徒の行為と取り違え、電子データは修正されず残るという考えられないミス。帰宅した生徒は小さな声で「お母さん、非行歴があって、私立への推薦がもらえないと言われた」と涙…▼万引きなどがあった場合は生徒、保護者、担任、学生主任、生徒指導主事の5者面談や別室指導などが定められているのに、行われなかった。町教委も「誤った記録による進路指導があった」とずさんなテータ管理を認めた▼生徒は廊下で万引き行為を担任に問われ「えっ」と驚いて、ぬれぎぬを着せられたまま自死。重要な進路指導を教室前の廊下で立ち話程度でやるのは軽率。生徒の絶望を思うと胸がつまる。えん罪ではないか。「15の春」を泣かせるな。(M)


3月14日(月)

中学生時代の体育祭を思い出す。50年ほど前だが、男子の呼び物は「ピラミッド」や「タワー」といった組み体操だった。笛に合わせて一段、一段積み重ねていく…終わった後の達成感は格別だった▼四つんばいで積み重ねる「ピラミッド」は5段、肩の上に立つ「タワー」は3、4段だったと思うが、「タワー」の練習では足を滑らせて落ちたり、乗り方が悪くいびつな形になったり、骨折した生徒もいた▼なのに時代が変わっても続けられている。そこに何か理由があるのだろう。みんなの思いと力の結集を推し測れる教育材料というのも外れてはいないが、今、ここにきて是非が論じられている。というのも、けがをする生徒が多いから▼実際に、落下による骨折などの事故が全国で毎年8000件を数え、しかも頭部や体幹部のけがもあるという。この現実は判断に当たって重くのしかかる。千葉県柏市などが全面廃止を、大阪市は演目の制限を設けることを決めた▼文科省も安全指針を策定するという。教育的効果はある、かといって事故の多さも無視できない。何とも悩ましいが、組みの難度と生徒の体力がかみ合っているのかどうか。大事なのはその検証だが、見直しがあってもいい。(A)  


3月13日(日)

1988年3月13日、本州と北海道を結ぶ大動脈だった青函連絡船は80年の歴史を閉じた。それから28年、イベントや絵本出版など連絡船が脚光を浴びている。市青函連絡船記念館摩周丸にも国内外の観光客が詰め掛けている▼理由は2つ。まずはテレビ番組。昨年6月、NHKの「ブラタモリ」でタモリが訪れたことで話題になった。ただ、テレビに映った車両甲板は一般には非公開で、残念がる人もいるという▼そして北海道新幹線開業が近いこと。「海の新幹線」と呼ばれた摩周丸は、北海道から石炭など大量に本州へ輸送し、人の往来も多く、函館駅前はにぎわった。当時を懐かしむ人ばかりでなく、新幹線新時代が始まることで、これまでの歴史を学ぼうとする人もいるようだ▼摩周丸は2008年に経済産業省「近代化産業遺産」、11年に日本機械学会「機械遺産」に認定されている。せっかく当時の姿が残っているのに、一部は安全上の理由で見られないのは残念だ▼貨物列車がどのように連絡船に積み込まれていたのかを知ることで、青函間の貨物輸送について考えるきっかけになるはず。新幹線開業効果で来館者は増えるだろう。同館の改装が一考ではなかろうか。(R)


3月12日(土)

3・11。あの大惨事から5年。まだ2500人超が行方不明。原発事故と地震津波被災への悲しみ、苦しみ、怒りが募る。先日、復興のシンボルとして宮城県石巻市に貸与された、旧国立競技場の聖火台に火がともった▼聖火台点火の演出は、五輪開会式の見せ場。バルセロナ五輪では夜空に放った火の矢による点火。アトランタ五輪では、元プロボクサーのモハメド・アリさんが病に震える手でトーチを受け取って点火した▼長野五輪でも伊藤みどりさんが和の装束で火をともしたシーンが感動的だった。石巻の運動公園に設置された東京五輪の聖火台は、アテネ五輪で金メダルの室伏広治さんと地元の少年団60人が一緒に、ごま油で磨き上げた▼東北大の研究チームも再生可能エネルギーのバイオメタンガスを使って初の検証実験を行い、赤い炎が5分間ともった。「東日本大震災を忘れず、鎮魂の思い」を込めて▼多くのランナーが平和を訴えてリレーする聖火。旧競技場の聖火台は戦後の復興を勇気づけた。4年後の東京五輪の願いは被災地の復興。先の本欄でも触れたが、新競技場の聖火台の設置場所はまだ決まっていない。国際五輪委員会は観客から見える舞台の設置を求めている。(M)


3月11日(金)

東日本大震災からきょうで丸5年を迎える。甚大な被害を受けた東北3県の中でも、福島は岩手、宮城に比べて「周回遅れ」といわれる。言うまでもなく福島第一原発事故が尾を引いている▼先日再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)に関し、大津地裁が9日、運転差し止めを関電に命じる仮処分を決定した。昨年4月に仮処分を決定した福井地裁は別の裁判長が差し止めを取り消したことで再稼働していたが、運転中の原発を停止する司法判断は初めてだ▼この決定は函館市が起こしている大間原発(青森県大間町)の差し止め訴訟に大きな追い風となるはずだ。なぜなら、今回訴えたのは滋賀県の住民たち。原発が立地する福井の隣県からの主張が認められた意味は大きい▼避難計画に対しても、決定では「自治体ではなく、国が主導し具体的計画を早急に策定する必要がある」と言及。住民らの人格権が侵害される恐れが高いと結論付けた。函館市の訴えともほぼ一致する▼事故以前は、立地地域以外は原発の当事者ではない―との認識が崩されることはなかったが、その建前が意味をなさないことはすでに明白。この5年で、司法がいい意味で変わったと思いたい。(C)


3月10日(木)

つい最近、東京と横浜へ行った時「都会の人って、こんなに丁寧で親切だったのか」と感じた。バス乗り場やホテルの場所を尋ねた時、またホテルのフロントで案内が分かりやすく、言葉遣いもきれいだった▼4年後の東京五輪・パラリンピックを見据え「おもてなし」を磨いているのだろう。ただ、飲食店で気になったのは外国人の店員が多いこと。あいさつは良いが、注文の確認などで戸惑うのが少し不安だった▼知り合いの新聞記者が「ある街の飲食店街で発生した火事現場で消防士が困っていた。出火の様子を聞ける人を見つける前に、日本語が分かる人を探すことに苦労したらしい」と話す。それほどまで人手不足の所も多いという▼高校の卒業旅行で東京へ行ってきたという函館の女子生徒が、楽しかった場所に浅草を挙げた。「外国人観光客に人気がある理由が気になっていた。建物、土産物、人が日本らしいところだと思った」と笑顔▼北海道新幹線開業まであと16日。受け入れ態勢は万全か。接客対応は大丈夫か、人手は足りているか、どういった所が売り込めるか、夜景を見て泊まらずに帰る人が出ないようにするには-。ふたを開けてから問題点が分かるようでは遅い。(R)


3月9日(水)

3歳と1歳の子どもの写真を身につけて、保育園にも入れず、「祖父母に預けているの」と夜勤もこなす、輝く若い看護師。全国の待機児童は2万3000人を越え、子育てと仕事の両立は難しい▼30代の母親が「保育園落ちた日本死ね!!」と強烈なタイトルで怒りのブログ。「一億総活躍社会じゃねーのかよ。見事に保育園落ちたわ。子供を産んで働いて、税金を納めてやるって言うのに」▼安倍晋三首相の「匿名である以上、本当かどうかを確かめようがない」の発言に怒り爆発。当事者たちは「保育園落ちたのは私だ」と書かれたプラカードを掲げ、国会前で抗議集会。保育制度の充実を訴えた著名も2万件以上が集まった▼保育園に預けられないと仕事を辞めざるを得なくなり、先行きが不安。ブログは「オリンピックで無駄な金使うな。不倫したり賄賂を受け取ったり、そんな議員をクビにすれば保育園増やせるよ」と続く▼竹内まりやが歌う『輝く女性よ』。「本当の強さ身につけたなら笑って言える『生きるってすばらしい』と」。一億総活躍社会には首相提案の「すべての女性が輝く社会づくり」も含まれる。首相は目をそらさないで、切実な現実を直視せよ。(M)


3月8日(火)

4年に1回の五輪は開会式が見どころの一つだ。開催国の歴史や文化を盛り込んだ演出、各国選手の入場と続き、はるばるアテネから持ち込んだ聖火に火をともす。点灯シーンは見る者の想像力をかきたて、毎回興味深い▼2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる国立競技場。すったもんだの末にデザインが決定したと思いきや、今度は聖火台を最上部に設置できないことが判明した。スタンドは木材を使った屋根で覆われる構造で、消防法上問題となる懸念があるため▼夏季五輪では通常、聖火台は競技場内に設置されているが、JSC(日本スポーツ振興センター)は、大会組織委員会から事前に要望を受けていなかったとの報道も。なんともお粗末な展開▼担当相をトップとする検討チームを発足させ、5月上旬までに取りまとめるというが、それにしても気づくのが遅すぎる。当事者はもちろんだが、われわれマスコミも決定時に指摘できなかった意味では同罪かもしれない▼検討チームの立ち上げは結構だが、そうして貴重な財源を無駄に消費していく。国の財政支援を必要とする人が山ほどいるのに。五輪を開く意義がますます分からなくなってきた。(C)


3月6日(日)

北海道新幹線の開業は既に秒読み段階。連絡船時代から、青函トンネルの開通に伴う新鉄路の時代を経ての新幹線時代の到来…歴史的な出来事であり、交通網に厚みが増すことで覚える感慨は大▼同時に期待されるのが、特に観光面での効果。札幌や小樽などを除き、全道的な盛り上がりに欠けると言われるが、それは無関心と同一ではない。先月の本欄でも取り上げた道東北を周遊する寝台観光列車の提案からもうかがえる▼事業費や技術的な問題は今後の検討に委ねるとして、実現は函館・道南にとっても願うところ。メリットを自分たちの地域にも、という動きだが、一方で社業の視点から函館・道南に注目する動きも出始めている▼函館に支店や営業所を開設しようとする動きで、道東の住宅メーカーなどは決定済み。函館・道南と道東北は産業構造が異なることもあり、交通網の整備も遅れ、縁は薄かった。今も濃くはないが、改めて目を向けさせるのも新幹線効果▼こうした企業が函館・道南に注目する裏に描かれているのは東北とも言われるが、例えそうだとしても歓迎される動きに変わりはない。函館・道南が道東北などの地域からうらやましがられる理由の一つが、そこにある。(A)


3月5日(土)

公園に大きな木があると、ついそばに行ってみたくなる。太い幹に手を当てると、心が落ち着く▼上川管内美瑛町の農地に立つポプラが、所有者の手で倒されたことが話題になった。通称「哲学の木」。丘陵地に思索にふけるように立つ姿が人を引き付け、町内でも有数の撮影スポットになっていた▼老木でいつ倒れてもおかしくなかったこと、注意を喚起しても農地に踏み入る観光客が後を絶たず、農作業への支障が懸念されることなどが、決断の理由とされる。ただ、所有者の胸にそっと手を当てることができても、心の揺れ幅は分かるまい▼交流人口の増加。普段の生活に人が入り込む。特に海外観光客だった場合、生活習慣の違いに戸惑うこともある。美瑛の場合、畑に入ることによる病害の侵入も危ぐされた。「地域を知り、地元の産物を味わってほしい」。受け入れ側の思いは不変だが、互いの思いやりが必要になってくる▼哲学と聞くと、訳も分からずありがたがる一人である。「哲学の問いは基本的に『私はなにをしているのか』という形をとる」(哲学な日々、講談社)と、哲学者の野矢茂樹氏。「なぜ倒れることになったのか」。在りし日のポプラの写真は問い続ける。(Z)


3月4日(金)

「逆もまた信なり」という言葉がある。読んで字のごとく「逆も然り」「逆であっても正しい」とも解釈できる。時として感じ得ることだが、先日の国会(衆院予算委)でも、この言葉が頭をよぎる質疑があった▼衆院の選挙制度改革をめぐって。本欄でも議長諮問の調査会答申を尊重すべきとして触れた経緯がある。結局、自民は定数の10減、小選挙区定数の新配分方式(アダムス方式)を是としたが、導入時期は先延ばしを模索している▼アダムス方式の説明は長くなるので省くが、人口比を反映しやすくなる利点があるとされる。民主や維新などは次期選挙から採用すべきとしているが、自民は難色。質疑であったのはその攻防で、安倍首相の答弁は…▼「2015年の簡易国勢調査で(入れるべきだと)答申は述べていない」。だから20年(大規模国勢調査)を踏まえてという論だが、だとすると「…(入れなくていい)と答申は述べていない」という論も成り立つ▼そう考えると「述べていない」は説得力に欠ける。揚げ足取りというお叱りを受けるかもしれないが、こう指摘したくなるのも選挙制度改革が一向に進まないから。そこに合理的な理由があるならまだしも、それもない。(A)


3月3日(木)

長く生きられる分だけ病気は増える。特に認知症になると、介護に家族の負担が重くのしかかる。「老老介護」の現実も。徘徊(はいかい)がひどくなり、誰かに迷惑をかける場合もある▼愛知県で91歳の重い認知症の男性が徘徊、線路に立ち入り、電車にはねられて死亡した。JR東海が起こした損害賠償請求の適否が争われた裁判で、最高裁は「家族の責任は問わない」と大逆転の判決を下した▼音が鳴るセンサーで見守っていた妻が疲れ「まどろんで目を閉じている」間に出掛けたという。「家族という関係にあるだけで無条件に認知症の人の監督義務を負うものではない」との指摘は重い。決着まで8年余り▼10年後には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると推計される。老老介護でけんか、殺人まで起きている。認知症の老母を独力で介護していた友人は施設に入れても暴れるので、殺しそうになったと話す▼施設の職員が言うことに従わない3人をベランダから突き落とす事件もあった。介護は疲れていても片時も気が休まらない。「まどろむ妻」を誰が責められようか。最高裁の大逆転判決は「介護の実態を総合的に考慮した抜本策が必要」と訴えている。長く生きられるためにも。(M)


3月2日(水)

札幌―上野間の寝台特急「カシオペア」は北海道新幹線開業に伴い定期列車としては姿を消すが、車両を開発したJR東日本は北海道ツアーの団体列車として活用する方向で検討に入っている▼青函トンネル内の電圧変更が廃止の理由だが、JR貨物から機関車を借りることで不定期ながら運行が可能となった模様。客車自体はそう古くはなっていないだけに、有効な活用事例と言える▼カシオペアこそ〝優雅な旅〟を演出する性格が強いが、夜行列車そのものは時間を効率的に使って移動しようという側面が強いもの。その意味で札幌―青森間の急行「はまなす」の廃止に、不便さを感じる函館市民は多いはずだ▼札幌を午後10時に出発し、函館着は午前2時52分。青森からは午後10時18分に出て、午前1時前には函館に着く。夜行バスの利用が体力的につらいという人にとっても便利な列車で、札幌や東北で時間を有効に使うためには欠かせなかった▼新幹線開業によって函館―札幌間の特急は本数が増えるが、札幌発の最終列車は午後8時で、滞在時間は単純に2時間減る。東北と近くなるにせよ、札幌でのレジャーやビジネス需要はまだまだ圧倒的。道都がさらに遠くなる思いがする。(C)


3月1日(火)

よく祖母から昔話「三年寝太郎」を聞かされた。3年間眠り続け、どうしようもない怠け者といわれた男が、村が干ばつになると、突然起き出して田畑に水を引いて村を救った▼勤勉な働きアリだけでなく、働かない怠けアリがいたほうがコロニー(集団)が長持ちするという研究成果を、北大の研究チームが英科学誌に発表。コロニーの中には必ず2~3割、働かないアリがいるという▼研究チームは全国にいるシワクシケアリを飼育し、1匹ずつ異なる識別色を付けて8コロニーの行動を観察。勤勉な働きアリが休むようになると、怠けアリが代わって働くことを確認▼アリが全て働かなくなるとコロニーは滅びてしまう。働きアリが疲れたら、怠けアリが出番到来とばかりに働き出し、一番大切な卵の管理に目を光らせる。怠けアリがいるからこそ、集団の長期存続が保てるという▼「はたらけどわがくらし楽にならざり~」。人間社会にも通じるアリの組織論か。怠け者の寝太郎でも、いざとなったら力を発揮した。1億総活躍社会を目指しているが、疲れたら助ける“怠け寝太郎”との共働は欠かせない。「ぢつと手を見る」だけでは、アリに申し訳ない。雪が解けたら観察しよう。(M)