「新幹線開業に備える(1)新幹線開業の光と影」
 昨年5月、北海道新幹線新青森・新函館間の建設が始まった。完成の目途は今のところ十年後とされているが、開業に寄せる地元の期待は高まっている。しかし、新幹線は「魔法の杖」ではなく、地域の課題全てを癒してくれる訳ではない。既に開業を迎えた先行事例を見ると、確かに開業直後はJRや旅行会社などのセールスプロモーションが強力に展開され観光客は増えるところが多い。しかし、その後は地元の真の実力が反映され宿泊客数などは開業前よりも減少し、むしろ開通によるストロー効果(鉄道や高速道路の開通により、経済力の強い地域が弱い地域の様々な機能を吸い寄せる効果)で消費など経済が疲弊する地域が多く見られている。新幹線とは「強い者を、より強くする装置」と考えておいたほうが良いだろう。また、建設に伴う経済効果も、民間投資へとうまくバトンタッチできなければ一過性のものに留まり、開業後は長野に見られたように大きな建設不況を招くおそれがある。

 しかし幸いに、と言うべきか、函館開業の場合は他の先行事例に比べて有利な点がある。それは、十年という開業までの準備期間が長く、地域に力を蓄える時間が残されていることである。多くの先行事例では、着工決定後開業までの期間が短く十分な準備が出来ないまま開業を迎えてしまったケースが多く、それを教訓に生かすことが可能である。

 そこで本連載では、新幹線の開業効果を一過性のものに留めることなく、函館や道南圏の、正に「起爆剤」とならしめるべく、地元が準備し取り組むべき課題について先行事例から学ぶとともに、函館同様これから開業しようとしている地域が何を準備しているのかを見ていきたい。

 その前に、現段階での北海道新幹線・新函館駅の主な特徴を見てみよう。
・新幹線の終点である
・新駅は郊外にあり、主要駅(函館駅)から離れている(一八キロ)
・主な都市との時間短縮効果は別表のとおり

 まず、新幹線の終点であることにより「ターミナル効果」が期待される。これは、新函館を経由する新幹線利用客が函館界隈を周遊あるいは滞在する効果であり、ビジネスホテルなどの宿泊施設やレンタカー、タクシーなどの交通、あるいはみやげ物などの商業施設に好影響を与える。しかしこれは、効果としてはあくまで副次的なものであり、また仮に札幌延伸となれば途端に効き目が薄れてしまう。

 次に、新駅が街外れに出来ることにより、いかにスムーズに主要駅まで利用者を運ぶか、そして新駅付近の開発をどう進めるかという問題が生じる。現在、新幹線と在来線をどう接続させるかについて協議が進められているところだが、利用者の視点に立った仕組みが求められる。また、新駅付近は土地区画整理事業により開発が進められる計画だが、新駅が新幹線利用者の事実上の北海道の玄関口となることから、北海道らしい駅舎及び駅前整備が望まれる。駅周辺には、ターミナル効果を期待した民間企業が進出するだろうが、経済基盤の無い場所での大規模開発は危険であり、段階的整備が望まれる。

 時間短縮効果から見ると、函館は青森と名実共にツインシティとなるだろう。生活機能の役割分担・連携をいっそう進める必要がある。仙台とは2時間で結ばれ札幌よりも近くなり、仙台経済圏に函館が組み込まれ「仙台支店函館営業所」となる動きも生じよう。東京とは、開業後も飛行機が主流のままと思われるが、「いつでも予約なしですぐ行ける」という心理的な距離が近くなり、企業立地には好影響を与えるだろう。 但し、時間短縮効果は函館にのみメリットがある訳ではなく、仙台や北東北も函館圏のマーケットを虎視眈々と狙っており、ストロー効果により購買力が流出する危険性をはらんでいる。

 こうした視点から、連載では先行事例として八戸、長野など(ターミナル効果)の実情を、今後開業を迎える地域の取組事例として青森、富山などを採り上げ、残された準備期間の中、函館や道南圏全体で何をなすべきかを提言していきたい。

(日本政策投資銀行北海道支店企画調査課長 亀森和博)

戻る