「新幹線開業に備える(10)まちづくり」
 開業に備えるべきは、新函館駅周辺のまちづくりだけではない。もちろん新函館駅は函館空港と並ぶ道南、北海道の新しい玄関口として、来函者の心に働きかけるような、北海道らしさ、趣を備えたものに整備する必要がある。

 しかしながら、駅及び周辺に必要な機能として明らかなものは、最終目的地への二次交通手段(アクセス鉄道等の公共交通機関、レンタカー、道路、駐車場)、観光案内所・土産物店等に限定される。こうしたものは需要に応じて着実に整備を進めるにしても、宿泊・商業施設、業務施設、住宅地等の周辺整備は、必要性を見極めながら、段階的に行うべきものと思われる。

 新函館駅は暫定とはいえターミナルであり、単なる乗り継ぎ駅ではないが、同時期開業予定地を見ても、それぞれ独自の周辺開発を行う予定ではあるものの、大規模な開発を考えているところは見受けられない。函館のみならず、所在地の北斗市や隣接する七飯町の中心部からも離れた新函館駅周辺での大規模開発は、一方で既存市街地の衰退を招き、地域全体のさらなる地盤沈下のきっかけになってしまう懸念もあるため、慎重に検討すべきであろう。

 これに対し、既存市街地で進めるまちづくりは、決定的に重要である。既存市街地はビジネス客、観光客とも他地域からの来函者の目的地であり、滞在時間は長く、消費の可能性も高い。来函者のニーズと期待に対応し、まちの魅力を開業までに充分に高めておけば、宿泊、飲食、物販等による消費支出を増大させ、開業効果を高めることができるとともに、リピーターの確保にもつながる。

 こうしたまちづくりはソフト重視、民間主導で進める必要がある。道路や商業・観光コンベンション施設は、住民の生活や訪れる人たちの中でどのように活かされているかがあって、初めてまちの魅力向上に資する要素になっていると認められるもので、施設そのものに持続的な吸引力があるわけではない。

 函館の場合は既存市街地にも周辺町村にも活用すべき未利用・低利用の資産はいくらでもあり、新しく個性のないものを整備するよりは、当地に遺された資産をリニューアルして、当地の人々が活用する『函館らしい』姿を創り出し、見せていくことが、地域の魅力を高めることになるのではないか。

 その姿、イメージを実現するために必要なインフラ整備は、需要が顕在化したところで行政が補助的に進めればよいし、民間の有志から資金を募って進めてもよい。

 これらまちの魅力づくりに向けた取り組みは、バル街や市民野外劇等の実際の取り組みを見ても分かる通り、基本的には住民が自分たちのために進めているもので、他地域からの来訪者のため、まして観光客向けのパフォーマンスとして進められているものではない。

 そうはいえ、市街地の魅力はこれら一つ一つの取り組みの、不断の積み重ねにより形成されるものであり、その結果浮かび上がってくる街並みは、個性化、特殊化したオンリーワンの『函館』として、人を引きつけることができよう。

 北海道新幹線については他地域と比較した時に、開業地域の当事者意識が未だ低く、開業後をにらんだ戦略づくりが進んでいないため、本来得られるべき開業効果を取り込めなくなる懸念がある。まずは開業後の自分たちの業務、生活がどのように便利になるのか、あるいは厳しい競争が起きるのかのイメージを個々の地域住民が認識することが重要である。

 その上で、全体として望ましい姿に向けてなにをなすべきかを考え、行動することが必要である。新幹線開業までに残された準備期間はそれほど長くない。目先の利害や過去の経緯を超えた連携、協力により、函館、道南での一体的な戦略の下、開業後のより厳しい地域間競争に備えるべきではないだろうか。

(協力:日本政策投資銀行)
(執筆:北海道支店企画調査課調査役 鶴田立一)

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