「新幹線開業に備える(2)山形新幹線・新庄」
 新庄駅は、奥羽本線と陸羽西線、陸羽東線が結節する交通要所で、山形新幹線の終着駅である。新庄市は人口約四万人、都市圏(通勤通学者の十パーセント以上が新庄市に向かう周辺市町村を加えたもの)全体で約九万人であり、函館圏の四分の一の規模に相当する。

 山形新幹線は平成四年に山形駅まで開業、平成九年五月に延伸(山形〜新庄)に着工し平成十一年十二月に開通した。山形開業後にわずか五年で延伸にこぎつけたのは、ミニ新幹線方式であるためコストが低く済んだほか、県が観光開発公社を通じてJR東日本に事業費を無利子貸付したこと、自治体が駅舎や駅前広場、駐車場などの施設整備を行ったことなど、地元の熱意に拠るところが大きく新幹線効果に対する期待の高さが窺われる。

 図一は延伸後の新庄の経済力の姿を都市圏単位で見たもので、開業年の平成十一年を一〇〇とした指数で比較してみた。開業効果がフルに寄与する平成十二〜十三年のデータでは、商業、飲食、宿泊などのサービス業従業者数が増加した以外は、全て開業前を下回っている。特に小売業と市町村内総生産の落ち込みは大きく、ストロー効果により地元購買力が域外流出し、また新幹線関連工事の終了に伴い建設業が落ち込むと共にサービス関連の雇用増が経済力の向上に結びついていない。ちなみに、都市圏ではなく新庄市単独でも同様の傾向にある。

 図二は、沿線の温泉地を含めた観光客の動きを示したものである。山形の観光統計には宿泊客数のデータがないので、これらは入込客数であることに注意が必要だが、山形を代表する温泉地である天童、東根温泉には、開業効果が見られないだけではなく低落傾向に歯止めがかかっていない。新庄都市圏全体は十二年度がピークであるものの高位を保っているが、これは新庄市に隣接する戸沢村の最上川ライン下りへの観光客増が大きく寄与している。また、テレビ「おしん」の舞台で、街並み整備に力を入れ人気の高まっている銀山温泉は施設整備などもあって客数を大きく増加させている。

 函館と新庄では、都市の規模も全国的な知名度も異なるが、類似点としては新幹線の終点であること、観光への期待が高いことが挙げられる。

 新幹線などの終点には「ターミナル効果」が期待される。ターミナル効果とは、明確な定義はないが一般に鉄道など地域を線で結ぶ交通機関の終点が、後背地の利用客や在来線の乗換客を誘引・滞在させ集積効果を高めることである。函館の場合も新庄と同様に、観光面ではこの効果を期待できようが、ビジネス面では都市圏の規模の制約や東京〜札幌間が依然空路中心と想定されることから大きな効果を期待することは難しい。また、新函館駅が郊外に計画されており既存集積を生かしにくいことも阻害要因となる。このため、ターミナル効果を当て込んだ施設整備は十分に検討すべきであろう。

 観光は、天童や東根の例から見ても新幹線開業が直ちに観光客増に結びつくというのは早計で、競争力の高い観光資源にのみ好影響がもたらされると考えた方が良いだろう。客足を伸ばしている銀山温泉では強力なプロモーションを展開したり巨額の投資を行っている訳ではなく、銀山温泉家並保存条例を制定し木造建築物を生かしつつ街並み整備に力を入れた結果、口コミを通じて東北一円からの誘客に成功している。函館も歴史を生かし、新築よりも保存・改修を、ハコものよりも街並み整備を継続的に行うとともに、外観は古くとも中身は常に変化し新たな発見を観光客に与える戦略が求められよう。こうした努力が民間投資を喚起するとともに、新幹線工事終了後の建設不況をカバーするものと期待される。

(日本政策投資銀行北海道支店企画調査課長 亀森和博)

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