「新幹線開業に備える(3)東北新幹線・八戸」
 平成14年12月1日、東北新幹線「はやて」が八戸駅と東京駅を直結した。新たに開業した盛岡駅〜八戸駅間の97km(営業キロ)は、東北新幹線が昭和57年に開業してから20年の歳月を経て完成し、山形・秋田新幹線も加えると、ようやく東北全県で新幹線が走ることとなった。

 開業までの間、平成4年の山形新幹線と平成9年の秋田新幹線開業、さらには平成11年の山形新幹線新庄延伸を目の当たりにしてきた青森県民の悲願が成就されたのである。

 八戸駅開業により、新幹線利用客は在来線と比べ5割以上の増加を示し、また青森県全体の観光入り込み客数は十和田・八甲田を中心に平成14、15年で9・2%増加(表参照)した。

 観光の起点となった八戸市では様々な受入準備を実施した。平成14年11月には駅ビル「うみねこプラザ」がオープンし、プラザ内の「はちのへ総合観光プラザ」では市内の観光地案内と情報収集が可能になったほか、4階以上には「ホテルメッツ八戸」が併設され広域交流の拠点整備がなされた。

 また、八戸市の食文化創造の目玉で八戸観光の核ともいえる屋台村「みろく横町」も八戸市の中心商店街にオープンした。これらを契機として、食料品市場の「八食センター」がイベント等により市民及び観光客の利用者が増加しているほか、「種差海岸」、「むつ湊朝市」や「せんべい汁」など、今までは地元住民しか知らなかった観光資源が徐々に知名度を上げてきている。

 最近の取組では、「八戸せんべい汁研究所」が中心に、全国の“B級ご当地グルメ”の祭典「B−1グランプリ」を八食センターで開催した。来場者の気に入った料理に使用した割り箸で投票し、その割り箸の重量でNo.1を決めようというもの。「八戸せんべい汁」は第4位、「青森みそしょうがおでん」は6位となったが、今後は毎年全国持ち回りで開催され、他県でのPRが期待される。

 特筆すべきは、市民のホスピタリティー向上にも積極的に取り組んだことである。商工会議所等が中心となり市民向けの八戸ガイドブック「おんでやあんせ八戸」を作成、市民が観光客に八戸の魅力を伝えたり、案内ができるようになることを目指す取組が始まった。

 これまで工業都市並びに水産都市としての印象が強かった八戸市は、新幹線開業を機に市全体が観光を強く意識するように変化しており、現在は市を挙げて産業観光にも取り組もうとしている。

 新幹線開通までに、八戸駅周辺や県全体でハード・ソフトの整備事業やキャンペーンが多数実施されたが、その効果について、観光入込客数の増減を公式統計で見てみる。平成16年青森県観光統計概要によると、青森県全体の観光入込客数は八戸開業後1年間(平成14-15年対比)では、前年比9・2%と大きく伸びている(表参照)。

 市・郡別(注)の内訳では、八戸市が最も高く42%増、次いで周辺地域の三沢市が16%増、上北郡で11%増と大きく伸びている。しかし、開業2年目の平成16年においては、五所川原市、十和田市、三沢市、上北郡では引き続き増加となったものの、その他の地域はマイナスとなった。

 五所川原市は平成8年に80年振りに復活した立ねぶたの人気が近年高まっているほか、十和田市、三沢市などでも十和田湖や奥入瀬渓流、温泉地等の伝統的な青森県の主要観光地が観光客に支持されているとみられ、観光地の魅力度などにより開業効果の持続性に差違が生じたものと考えられる。

 八戸駅開業に続き、4年後には新青森駅の開業が控えている。青森県は、新幹線開業という100年に一度あるかないかの大イベントが10年内に2回あるという大きなチャンスの中で、八戸駅開業への取組と結果を今後の新青森駅開業に活かさなければならない。行政、観光、運輸、サービス業のみならず全ての青森県民は、好むと好まざるとに関わらず将来の青森県を左右する最大の転換点にいる。

(注:統計集計時の区分であり現在の市町村区分とは異なる)

(協力:日本政策投資銀行)
(執筆:青森事務所調査役 村上靖徳)

戻る