「新幹線開業に備える(4)九州新幹線・鹿児島」
 2004年3月、鹿児島にとっては30年来の宿願であった「九州新幹線」が開通した。鹿児島中央駅〜新八代駅間の部分開業とはいえ、新八代から特急リレーつばめに乗り換えることで、鹿児島中央駅と博多駅とを最短で2時間10分でつないでいる。

 従来の特急つばめと比べると、1時間30分もの短縮となっている。さらに2010年度末に予定されている博多駅までの全線が開通すると、所要時間は1時間20分に短縮され、福岡市が鹿児島市の2時間圏内、大阪市でも4時間圏内に入ることになる。
鹿児島は九州の南端に位置し、加えて交通ネットワークの水準も十分とは言い切れないことから、これまで九州においてもかなり独立した圏域であった。実際、大型小売店、特に地域外資本の大型小売店の出店はこれまで少なく、地場の企業を中心に経済活動が行われてきた。

 こういった、ある意味「鎖国」的な環境下にあった地域が、九州新幹線の開業により九州最大の求心力を持つ福岡市と直結することは、ヒト・モノ・カネの交流を活発化させるチャンスであるとともに、福岡市にヒト・モノ・カネが吸い寄せられる「ストロー効果」を呼び起こす契機でもあるとみられている。まさに「開国」のような大きなインパクトを鹿児島経済に与えるだろうと考えられている。

 こういった「危機的状況」を目前にして、2001年頃から、鹿児島市や鹿児島県、民間セクターがハード・ソフト両面にわたる事業を立て続けに実施していった。

 ハード面については、鹿児島中央駅(当時は西鹿児島駅)周辺において、地上7階建てで商業施設(アミュプラザ)をJR九州が中心となって新設したり、また、開発が遅れていたウォーターフロント地区でも、地元商業者らが食を中心とした商業施設(ドルフィンポート)を新設した。

 ソフト面に関しては、鹿児島県、鹿児島市が中心となって開業記念イベントを2003年7月から連続して行った。また、鹿児島市や地元経済界のイニシアティブで、新幹線開業に合わせて駅名を「西鹿児島駅」から「鹿児島中央駅」に変更した。その際に駅名改称コスト6千6百万円は、企業・団体・個人からの募金で調達された。

 これらのハード・ソフト両面にわたる整備は、鹿児島中央駅周辺を中心に鹿児島市の都市機能を高度化しようとする指向性を持っている。つまり、圏域内の消費者を鹿児島市内に引き留めつつ、圏域外からの集客を強化するためには、鹿児島市中心市街地の都市的な魅力を強めることが有効だという考え方である。

 それでは、九州新幹線が部分開通の影響はどのようなものだったのだろうか。

 まず、新幹線自体は交流人口の拡大に役立ったと評価し得る。九州新幹線自体の輸送人員は開業後1年間で323万人、かつての鹿児島本線の時代の利用者の2・5倍近くまで増加した。さらに開業後1年経った状況をみても、開業1年目並以上の輸送人員を確保している。

 観光客数も2005年9月に鹿児島市が発表した2004年の観光客数(宿泊者数+日帰客数)は869万人(前年比6・2%増)で、「翔ぶが如く」ブームの影響を受けた1991年の838万人を超え、過去最高を記録した。

 次に地域産業への影響であるが、日本銀行鹿児島支店が部分開業後1年目の2005年3月に調査した影響度DI(「プラス効果」回答社数構成比−「マイナス効果」回答社数構成比)をみると、開業前から2005年3月時点までの間、一部産業を除いて概ねプラス回答であった(図1)。

 このように、開業後1年の新幹線の開業効果は、未だ部分開業に止まっていることもあってか、深刻な「ストロー効果」よりも「開業効果」をプラスに受け止めている段階といえよう。しかし、もちろん業種や個店・企業レベルで考えた場合、個別の事情や、アミュプラザと天文館の競合もあって、必ずしもプラスと受け止めている事業者ばかりでないこともまた事実である。

 以上のように鹿児島経済は新幹線の部分開業という「黒船」を契機に動き始めた。そして、その動きは2010年度末の全線開通を睨んでいる。

 行政も、たとえば、鹿児島市は2006年に「鹿児島市観光未来戦略」を策定し、これからの新幹線全通へ向けての鹿児島市の観光のあり方をまとめ、それに基づいた施策を打ち出そうとしている。

 鹿児島経済同友会も2005年3月に、これからの鹿児島市のまちづくりの方向性をまとめた「鹿児島市コンパクトシティ構想」を提言した。また、中央駅周辺での再開発事業が動き始めた。

 このように鹿児島では全線開通によって起こるであろう「ストロー効果」などの危機感を共有し、一度方向性が示されると各主体が一丸となってことにあたる鹿児島人気質を発揮しつつ、「開国」後の世界に向けて一歩を踏み出したといえるだろう。

(協力:日本政策投資銀行)
(執筆:南九州支店企画調査課長 中村聡志)

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