「新幹線開業に備える(6)北陸新幹線・富山」
 北陸新幹線は、東京〜高崎間(百五km)を東北・上越新幹線と供用し、長野から日本海側に抜け富山、金沢、福井を通り東海道新幹線新大阪駅に至る、全長約700キロのフル規格路線である。

 長野オリンピックに合わせて平成9年に開業した高崎〜長野間(117キロ)に加え、現在建設中の長野〜富山〜金沢間(238キロ)が、新函館開業目標の1年前、平成26年度末までに開業予定である(新函館同様、完成の前倒しに努めることになっている)。なお、金沢以西については、福井駅周辺で着工済みだが、ルートの一部、完成時期が現時点では定まっていない。

 新幹線富山駅は、県庁所在地である富山市(人口42万人、都市圏人口60万人)の中心部やや北側、既存駅と同じ場所に高架駅として建設中である。開業後、東京までの所要時間は従来の約3時間半から2時間7分へと大幅に短縮され利便性が飛躍的に高まるが、一方で、企業活動や観光・宿泊需要に関し、沿線各都市・地域間の競争激化がもたらす悪影響が懸念されている。

 (財)北陸経済研究所が県内に事業所を有する企業に対し行い、約600社から回答を得たアンケート調査結果からは、新幹線の開業後、県外企業の富山進出への期待が見られる一方、県内の支社・営業所の撤退が進むとの見方も出ている。また、観光、ビジネス客は開業後増加するとの見方が多いものの、宿泊需要は日帰り化により減少するとの見方が半数に達している。

 さらに、開業に際し富山県としてどのような取り組みが必要かとの設問に対しては、六割強から新たな観光資源の発掘・ルートの提案が必要との回答があり、次いで四割程度から新幹線駅周辺の整備、企業誘致等を求める回答がそれぞれ寄せられている。

 こうした声も取り込みながら、地元がどのような取り組みを進める必要があるか、県、経済界等が『未来とやま戦略アクションプラン(仮称)』として今夏策定を目途にとりまとめ中である。

 1月に出た同プランの骨子によれば、策定後の平成18年度から概ね5年間で、開業後の地域間競争を生き残り、他地域からの交流人口を拡大させて地域活性化を進められるよう『観光産業の振興と交流人口の拡大』『人が集まる魅力的なまちづくり』の二つの基本戦略に基づく観光資源・ルート開発、観光まちづくりを進める、とされている。

 富山県は、北アルプスの大自然や日本海の海の幸など、豊富な観光資源を持つが、金沢、能登、飛騨高山などの有力な観光地に近いため、観光地としてのイメージは弱い。また、産業構造上もアルミ関連の金属製品、医薬品等の化学など製造業のウェイトが大きく、観光産業への期待がこれまで必ずしも大きくなかったため、地域資源の発掘は充分進んでいるとは言い難い。

 しかしながら、近年では民間の取り組みの中にも、伝統産業である医薬品のメーカーが、中心市街地の店舗を観光ルート化し人気を博しているケースや、北前船で栄えた港町、岩瀬に残された伝統的建築物を保存、再生し、古い街並みを活かしたまちづくりを進めているケースが見られる。

 どちらも、新幹線開業を意識して進められている取り組みではないが、地域に残された財産を活かし、地域の魅力向上、競争力強化に資する試みと見られており、これから進めていくべき取り組みの先行事例として注目されている。

 また、他地域からの観光・ビジネス客を含め、増加する駅利用者がスムーズに市内外にアクセスできるようにするために、駅から市内各地への二次交通手段としての公共交通機関の役割が大きい。

 富山では、一時は廃線のおそれもあり、前述した岩瀬へのアクセスともなっているJR富山港線(富山〜岩瀬浜間 約8キロ)が、一部路線を変更した上で富山駅北口に乗り入れる超低床式路面電車(LRT)「富山ライトレール」(富山市等が出資する第三セクターが経営)として、この4月に再出発することに注目が集まっている。

 三セク、LRT化に伴い大幅増便(日中15分間隔)となり、現在工事中の駅高架化完成後は、駅南口から中心市街地方面に向かう富山地方鉄道の路面電車との相互乗り入れも検討されており、新幹線等、駅利用者のための市内交通の利便性が大いに向上することが期待されている。LRTの経営については決して楽観視されてはいないが、新幹線駅と中心市街地を結ぶ地域の公共交通として、一つの検討材料となろう。

 全国幹線旅客純流動調査[2000年:秋期一日あたり]で、北陸と首都圏の間で行われる旅客移動の目的をみると、地域住民を含むビジネス需要が過半(52%が仕事目的、20%が観光目的)であり、新幹線利用もベースはビジネスユーズ(航空路線からの転換を含む)になると見込まれる。

 
同調査で道南・函館を見ると観光目的が半数近くに達しており(43%が観光目的、32%が仕事目的)、両地域の事情は異なるが、新幹線を自らのためにどう活かしていくか、自立的なスタンスでの取り組みを進める富山の取り組みは、同時期の開業地域の中でも参考となるであろう。

(協力:日本政策投資銀行)
(執筆:北海道支店企画調査課調査役 鶴田立一)

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