「新幹線開業に備える(8)ビジネスチャンス」
 函館、道南圏は本州、青森県とは津軽海峡で隔たれ、半島のため札幌を含む道内他地域とも地勢的に切り離されており、かなり独立した圏域を形成している。国内他地域との移動手段をほぼ航空に依存し、東北地域との経済交流もさほど活発でない現状において、新幹線開業により発生するビジネスチャンスはあまりないと思われがちである。

 しかし、大量・安定の高速移動手段が新たに加わることで、今まで他地域に流出する一方だった人材や一次産品を活用し、新たなビジネスチャンスが生じるのではないだろうか。

 道南への大型の工場等進出はこれまであまり実例はないが、工場、研究施設等の企業誘致はある程度実現可能ではないかと思われる。

 人口減少時代に入り、全国各地で労働力不足が顕在化しつつある中、今なお若年層を中心に他地域への人口流出が続く道南は、今後の進出先として充分な魅力を持つはずである。

 岩手県の北上市周辺に電機・自動車関連の企業が多数進出したことには、既存の機械産業集積の存在もあるが、東北新幹線、東北自動車道が開業、開通し、首都圏との移動が容易になったことが決定的に働いている。

 函館には、食料品、機械、化学等で、知名度は必ずしも高くなく、数も多くはないが、地域で産出する一次産品加工で確固たる地盤を築いている、あるいは特殊技術で全国・世界レベルに達している中堅・中小企業が見られる。

 こうした企業や北大水産学部、公立はこだて未来大、道立工業技術センター等の学術・研究機関の存在も、地域の魅力を裏付けする材料になろう。北海道縦貫自動車道も新幹線開業までには全面供用が期待されており、物流拠点の整備が進み、函館が改めて北海道の玄関口機能の一部を担う可能性もある。

 しかしながら、商業、飲食業などは厳しい状況が想定される。仙台など他地域の大都市に購買力が流出する可能性もあるが、中央・域外資本の大型店、専門店が進出し地域内での競争激化が予想される。ただ一方では、独自の商品開発や販売戦略により競争力をつけている一部のサービス業や飲食業の企業は、新幹線開業を契機に、業務拡大や他地域進出を図ることが以前より容易になる。

 また、札幌延伸が不透明な現状、函館にある域外企業の支店、事業所の撤退等、いわゆるストロー現象については、あまり議論に上っていない。確かに札幌−函館の時間短縮はないが、函館−仙台は2時間に短縮されるため、道南地域を東北の一部として支店等の統廃合が進む可能性は踏まえておくべきであろう。逆に函館に『北海道・北東北支店』機能を持たせるくらいの積極性を持った、受入体制整備の取り組みが必要である。

 これら開業後に想定されるプラス効果、マイナス効果は、富山の事例で紹介したアンケート調査結果にもあった通り、期待と懸念が表裏一体のものとなっており、受入体制整備、企業誘致活動次第で効果を上げられるものと思われる。

 新幹線を利用するビジネス客が新函館駅ターミナルに求める機能は、目的地への二次交通アクセスの利便性にほぼ集約されよう。函館、札幌方面とのJR乗り継ぎがいかにスムーズにできるか、駅からいかに市内外へのアクセス道路が確保されているか、が大事なのであって、駅のすぐ近くに工場やオフィス、ホテルが必要だと言うことにはならないだろう。

 地域トータルで工場・物流センター、ホテル、オフィス、住宅等が供給不足とは言えない現状では、新規に工場用地造成、都市機能整備を行うよりもまず、既存の低利用・未利用施設、インフラへの活用を図るべきであろう。

 企業誘致が有望とは言っても、大型の工場や研究機関がいくつも新規立地することは考えにくい。誘致活動など域外への働きかけを個々の自治体、団体がばらばらに行うのは能力的にも非効率なだけでなく、他地域との競争にも勝ち目は薄い。函館、道南圏全体でどのような機能分担を行うか諮った上で、一帯となった取り組みを進めることが、活動の効果を最大化できるのではないだろうか。

(協力:日本政策投資銀行)
(執筆:北海道支店企画調査課調査役 鶴田立一)

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