「新幹線開業に備える(9)観光」
 観光は道南、函館の基幹産業であり、新幹線開業により最もその経済効果を期待されている分野である。特に、時間距離が短縮される東北、北関東エリアからの誘客への期待が高まっており、また、道南各地や八甲田・十和田・奥入瀬などの観光地を抱える青森との相乗効果も期待されている。この期待は、函館市内で計画中のものも含め、複数のホテル建設が進んでいることにも現れている。

 函館観光を今の規模にまでもたらした要因は色々あろうが、青函トンネルの開通に連動した知名度のアップ、JAL就航による輸送力増強、函館山・ベイエリア等の観光施設整備、湯の川温泉等の宿泊施設整備、これらが当時の旅行需要にマッチしたと見るのが一般的なところではないだろうか。

 したがって、必ずしも時間短縮効果がなくても、きっかけとして開業効果で函館の知名度が一時的に高まり、手段としての輸送能力増強も実現するので、東北・北関東以外からの誘客も充分期待できるのである。

 それでは、地元では何もしなくても観光客は増えるのか、と言えばそうではなく、一時的に増えた観光客をしっかりリピーター化するか、常に新しい魅力を打ち出していくかしなければ、すぐに開業前の水準に逆戻りする。不断に観光地としての魅力向上を進めなければ、中期的には今よりも減少しよう。

 新幹線が行う大量・安定輸送により、函館に対する印象は『憧れの北の大地にあるレトロな異空間』から変化し、東北、関東、東海等の諸都市と同列に扱われる『いつでも行ける身近な地方都市』になっていくことは避けられない。

 新幹線で結ばれる青森県の浅虫・十和田・八甲田等や、縦貫自動車道で結ばれるニセコ・洞爺・登別等との地域間競争も厳しさを増す。現状、函館観光は『夜景』という他の観光地にない観光資源のため、宿泊拠点として優位に立っているが、競合地域に2時間以内で移動できるようになれば、函館が通過観光地化する懸念がないとは言えない。また、縦貫道の開通等により、函館観光の日帰り化が進むと考えておくべきであろう。

 既にこうした懸念を克服し、函館観光の競争力を強化するために、時代の流れ(観光の個人・グループ化)に則した対応(メニューの多様化、滞在の長期化等)が取り組まれている。

 では、新幹線開業の側面からは特にどのような対応が必要か。函館観光の起点の一つになる新函館駅の立地条件を踏まえれば、旧市街地の観光スポットを回るだけではない、広域的な観光コース、周辺市町村部における滞在スポットを充実し、「函館市の都市観光」から「道南、函館圏の滞在型、周遊観光」への脱皮を図ることが必要である。

 函館の都市景観・文化と大沼周辺の自然、周辺市町村・函館市旧4町村の一次産業、各地の温泉・宿泊施設を組み合わせた、「体験と癒し」(農漁村地区における一次産業体験・滞在)を新しく提供することで、通過観光化・日帰り観光化の懸念を超えることができる。

 ただし、広域的な取り組みを進めるには、周辺自治体等、関連当事者間の信頼・協力関係が欠かせない。一次産業の体験観光だけでは、顧客の居住地に近い東北や関東との競争が厳しい。都市函館と周辺農漁村地域を連携させることで、他の地域にない道南、函館圏オリジナルの観光を提供することができる。

 新幹線は100〜200キロ程度の近隣地域間の移動時間短縮に最大の効果を発揮する。地域内の連携を進めることができれば、次に隣接他地域とも同様の観光コースづくりを行うことができる。

 新幹線や縦貫道を使った青森〜函館〜登別、七戸〜奥入瀬・八甲田〜函館といった周遊観光や、テーマ性のある観光(花見の名所をつなぐ弘前〜松前〜五稜郭ルート、縄文遺跡を回る三内丸山〜南茅部大船C遺跡ルート等)が組め、バリエーションが広がる。

 今夏からは韓国からの観光客に対し、函館、青森空港を活用した青函観光の提供が可能になるが、新幹線開業によりその利便性は一層高まり、路線展開如何では台湾・中国観光客向けへの商品提供も考えられよう。

 近隣観光地をライバル視するだけでなく、沖縄等の強力なライバルに対抗するためのパートナーとして連携・協力していくことが、これからの函館観光に求められる取り組みではないだろうか。

 こうした観光客(他地域から来函する人だけでなく、通過客、当地から出迎える人、出かける人も含める)が新函館駅に求めるターミナル機能は何か。土産物屋・コンビニ・飲食店の類も必要なため、ビジネスと同じではないが、「目的地(函館市内、道内他地域)へのスムーズな移動のための交通アクセス(鉄道・バス・レンタカー)、駐車場及び情報入手手段(観光案内所)」が、最も重要な点では大きな違いはない。

 商業施設、アミューズメント施設など多くの機能を備えるよりも、真に必要とされる機能をしっかり備えることが求められよう。

(協力:日本政策投資銀行)
(執筆:北海道支店企画調査課調査役 鶴田立一)

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